●リプレイ本文
●包囲殲滅
『ぃよっしゃぁぁぁっ! 黄泉将軍だかなんだか知らんが、ケツの穴に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたらぁぁぁっ! おまえら、抜かるなよぉぉぉっ!』
丹波藩東部、某山間部。
冒険者たちは、2班に別れて黄泉人を追いたて、その索敵範囲を狭めていった。
丹波藩主、山名豪斬が援軍として送った八卦衆・風の旋風と八輝将・琥珀の井茶冶の協力もあって、思いの他スムーズに作戦は進行したのである。
そして、ついに黄泉将軍を追い詰め、一行はかの者を包囲し、今まさに撃破せんとしていたのであった。
琥龍蒼羅(ea1442)。
山王牙(ea1774)。
ヴァージニア・レヴィン(ea2765)。
島津影虎(ea3210)。
伊東登志樹(ea4301)。
草薙北斗(ea5414)。
御神楽澄華(ea6526)。
ベアータ・レジーネス(eb1422)。
ぱふりあしゃりーあ(eb1992)。
南雲紫(eb2483)。
それぞれの想いを胸に、因縁の黄泉将軍と対する面々。
特に、水牙龍・氷雨のところから追い続けるメンバーには、感慨深いものがあるだろう。
『登志樹!』
「おうよ、ダンナぁ!」
『蒼羅!』
「ああ」
『パフリア!』
「お任せですわ!」
『紫!』
「ふふ‥‥わかってるわ」
『ベアータ!』
「心得ています」
『その他大勢!』
ずっしゃぁぁぁ、と、名前を呼ばれなかった5人が盛大にコケる。
「いくらなんでもその他大勢っていうのは酷くない!? ねぇ!?」
『名前憶えられんかったんじゃからしょうがなかろぉが! ツラとお前が忍者だってこたぁ憶えたがな!』
「‥‥私は? 最初から最後まで参加していたのですが」
『印象が薄い。あれじゃい、登志樹と戦っとったやつっちゅー印象しかないわ』
「もしかして私は、お会いする機会が少なかったから憶えられていない‥‥とか?」
『あー? あぁ、もしかして後始末がどうとかいうやつか。色々動いてくれたと聞いとるから、影虎っちゅー名前だけは覚えとるわい。顔はわからん』
「御神楽です。き、聞くのが恐いのですが‥‥私は、もしかして‥‥」
『黄泉人にやられた女じゃろ?』
「やっぱりそういう印象ですかぁぁぁ!?」
「あらら‥‥それじゃあ私は? 山王さん同様、私も最初から最後までいたのに‥‥」
『ヴァージニアか。お前は顔も名前も憶えとるぞ』
「じゃあなんでその他大勢扱い(称号がつかない)なの?」
『風精龍の事情じゃ! それにお前は、氷雨の坊主のお気に入りだと聞いたぞ。ガキに嫉妬なんぞされとうないわ!』
コミカルな寸劇が展開されているかのような現状ではあるが、それは見た目だけである。
名前を憶えられていた5人は勿論、森忌を問い詰める5人も黄泉将軍の一挙動にしっかりと気を払っていた。
黄泉将軍相手に油断をすれば、一気に形勢不利になることがあるということは、全員学習済みなのだ。
だから―――
「そーぉはいくかよ!」
「‥‥逃がしません‥‥!」
「その驕りもここまでだよっ!」
「ほ〜ほっほっほっ! 遠慮する事なく蹴り飛ばして差し上げますことよ!」
だっ、と駆け出した黄泉将軍に対し、伊東、山王、草薙、パフリアが即座に反応し、追撃をかける。
黄泉将軍の足はお世辞にも速いとは言えず、4人はすぐに追いつき‥‥強烈な一撃を加えた!
しかし、それを見ていた南雲が4人を制止する。
「待て。おかしい‥‥何か変だと思わないか」
「確かにそうね‥‥あの黄泉将軍にしては脆過ぎるわね。いくら魔法の武器で攻撃したとはいえ‥‥」
「それにしては伊東さんの木刀でのダメージが低いようですが」
「‥‥それだ。黄泉人は桃を苦手とするはず。つまり、それが意味するのは‥‥」
南雲、ヴァージニア、ベアータ、琥龍。
そもそも、あの黄泉将軍が先ほどから終始無言なのがおかしいのだ。
ずるずると南東のほうへ這って移動しようとするその姿には、明確な自由意志と言うものが感じられない。
即ち―――
「影武者、ということですか‥‥!?」
「なるほど‥‥確かに、カラカラにした死体を不死者にして操れば、良い隠れ蓑になります」
御神楽、島津の懸念は、あっさり肯定された。
慌てて一行の前にやってきた、旋風の言葉によって。
「大変よ! 北西の方向から、黄泉将軍らしき不死者が何体も! これぞ複製美!」
『!?』
それぞればらばらに動きながらも、南東の方角を目指すという不死者軍団。
その中に、本命の黄泉将軍が交じっているのは間違いあるまい。
『どこまでも舐めた真似を! 虱潰しにしたるわぁぁぁっ!』
森忌の言葉に一行が頷き‥‥予想外の強行軍の幕があけたのだった―――
●虱潰し
「ちっ、こいつもハズレか。島津、そちらはどうだ?」
「駄目ですね‥‥こちらもハズレです。こう言っては個人に失礼かもしれませんが」
「だーっ、こっちもハズレだチクショー! あとどんだけいるんだよ、影武者は!?」
琥龍、島津、伊東。
分散すると危険度が増すのは周知の事実。一行は全員で移動し、移動してくる不死者を手当たり次第に撃墜する作戦に出た。
最初の一匹は実験台だったようで、後続には何十匹という影武者が移動してきている。
しかし、あちこち移動して戦っていては横をすり抜けられてしまう可能性があるので、防衛ラインを決め、そこを通過した不死者の下に急行、撃破するという具合だ。
「‥‥きりがないですね。それに、移動するだけでも大分神経を使います」
「弱音を吐いている場合ではありませんわ! 森忌さん、他にも不死者の姿は見えまして!?」
『パフリアのほうに向って来とるのが一匹と、忍者の坊主の方にも一匹向っとるぞ! その場で待機せぇ!』
「うぅ‥‥忍者の坊主‥‥。まぁいいや、いくらでも相手するよ!」
山王、パフリア、草薙。
上空から森忌が索敵しているのだが、この一帯はわりと木が多く、全ての不死者の発見は出来ない。
地上からも、離れすぎないようにしながらも散開して索敵しなければいけないのだ。
そして、現在位置から離れた場所で防衛ラインを抜けた不死者がいた場合、旋風と井茶冶が撃破してくれる場合もあるが、基本的に急いで移動しなければならないので、消耗が激しいのだ。
「みんな、大丈夫? ちょっと元気が出る歌でも歌いましょうか。『サンライトロンド』」
「助かります、ヴァージニア様。やはり、インビジブルを警戒しながらでは先に心の方が参ってしまいますから‥‥」
「上空は森忌が押さえている。あとは私たちが地上を抜けさせなければいいだけのことだ」
「そうですね。みなさん、できれば普通の武器で攻撃してください。普通の武器でダメージが与えられなければ当たりです」
ヴァージニア、御神楽、南雲、ベアータ。
セブンリーグブーツなどの移動手段を持たないメンバーは、移動だけでも体力を消耗する。加えてインビジブルを使われていないかと神経を張り詰めさせていれば、長い事保つはずがない。
あとどれくらい影武者がいるのか知らないが、そろそろ本命を叩きたいところだが‥‥!
「駄目ですね。迷いのしゃれこうべは他の不死者に反応して役に立ちません」
「むむ‥‥良い後始末の助けになると思ったのですが‥‥これは困りました‥‥」
「引魂旛は結構役に立つぜ? この旗見てむざむざ近づいてくんのはハズレだ!」
「でもそれは結構精神力使うはずよ? そう何回も使えないと思うんだけれど‥‥」
冒険者たちが用意したアイテムたちは、役には立っている。立っているのだが、思ったほどの効果が出ない。
そもそも、黄泉将軍が影武者軍団を用意していたと察知できなかった丹波藩にも問題はあるのだが。
「‥‥蒼羅、お前ならこの策をどう読む? いや、お前ならこの後どうやって私たちを抜く?」
「そうだな‥‥木を隠すなら森の中というくらいだ、黄泉将軍の作戦は有効な一手だろう。しかし、ツメが足りない。今俺たちがやっているように虱潰しをされれば、いずれは自分も危険になる」
「じゃあどうするの? 例のリトルフライで空を飛ぼうにも、森忌さんが警戒してるよ」
「‥‥インビジブルは効果時間が短いのでしたね。延々使用し続けて地上を進むのも無理でしょう」
「あら、姿を消しながら空を飛ぶ可能性はありませんの?」
「無くはない。が、万が一発見されれば即刻森忌に追いつかれて撃墜されるだけだ。あの狡猾な黄泉将軍が、そんな危険を冒すとは思えん。俺はむしろ、御神楽に意見を聞きたいんだがな」
「は、はい? 私‥‥ですか?」
「お前は一度、やつに手酷くやられている。そこから、やつの思考や行動を予測できないか?」
御神楽は口元に手を当てて、思考をめぐらす。
自分がやられた時、やつは姿を消し、木の上から魔法を撃ち込んで弱らせてから地上に降り、精気を吸い取った。
つまり、姿を消した後の保険として負傷させた。それだけ慎重な性格なのだ。
なら、今は? 空を見上げれば、上空は使えないと一目瞭然。
影武者軍団という一手の保険に、何を用意する? インビジブルという線は薄いが、無くはないのだが‥‥。
「あの‥‥インビジブルという魔法は、勘のいい人間ならば察知することが出来るのでしたよね?」
「おう。俺も金兵衛叩きのめした時に実践してるが、『出来ることもある』って程度だぜ?」
「では‥‥あの黄泉将軍なら、この場合、察知されることがある魔法には頼らないと思います。他に何かありませんか? 空を飛ばず、かつ目立たずに移動できるような魔法が‥‥」
一同は頭を捻る。そんな御都合主義な魔法があるだろうか?
そこへ森忌が降りて来る。
『何やっとんじゃい! まだ敵はおるんじゃけぇのぉ!』
「ねぇ森忌さん、考えて欲しいの。空も駄目、陸も駄目となったら、森忌さんはどこを進むかしら?」
『あぁ? 何の話じゃい?』
「黄泉将軍の移動経路だよ! 海って言うのは無しね、この辺海無いから!」
『んだったら簡単じゃろぉが。それは‥‥』
「それは‥‥?」
『地下! パフリア、右後方の地面にダーツじゃ! どうにも黄泉人臭いぞ!』
「! そこですの!?」
何も無い地面に向って、森忌がソニックブームを放ち、パフリアがダーツを数本投げつける!
すると‥‥!
「ちぃっ! 相変わらず鼻の効く風精龍だ‥‥!」
なんと地面の中から黄泉将軍が顔を出したではないか!
「アースダイブ‥‥! 成程‥‥呼吸をしなくても死なない黄泉人にはうってつけの魔法だな!」
「‥‥あれもスクロールですか。厄介な‥‥」
「黄泉将軍! あの時の屈辱‥‥今、この時を以って晴らさせていただきます!」
南雲、山王、御神楽が一斉に黄泉将軍に向うが、黙って接近を許す黄泉将軍ではない。
再び地面の中に潜り、姿を消す!
「なんじゃこりゃあ!? 気配も何もあったもんじゃねぇ!?」
「完全に遮断された地面の中ですからねぇ。効果時間は同じでも、隠密性はインビジブルより更に高いわけですか」
「風が読めん‥‥か。森忌、わかるか?」
『土の臭いに混じって黄泉人臭がするからのぉ! 忍者の坊主、お前の後ろを抜けて移動しとる! ヴァージニア、ムーンアローで援護したれや!』
「お任せっ!」
「燻り出せって言うことね。ムーンアロー!」
地面の中だろうと関係なく直撃するムーンアローを受け、黄泉将軍が地面から上半身を出す。
あまり深く潜りすぎると、地上の音で状況判断することが出来なくなるため、黄泉将軍は浅いところを移動しているのだ!
そこに草薙が微塵隠れで一気に肉薄し、陰陽小太刀で攻撃する!
「おのれ! しかし!」
完全に逃げの一手を決め込んでいる黄泉将軍は、なおも地面に潜る。
「くどい! 森忌様、やつの居場所を! 私がやってみます!」
『おう! 今度はやられるなよぉぉぉっ!』
森忌がソニックブームで燻りだした所を、御神楽がアンデッドスレイヤーで攻撃!
これには流石の黄泉人も大ダメージだが‥‥!
「く‥‥くはははは! 馬鹿め、深く刺しすぎだ! 捕まえたぞ! 以前の二の舞だ!」
「ぐっ‥‥つ、捕まえたのはこちらです! 私がいては、潜れないでしょう‥‥!」
「なっ!?」
「み、皆様、速く! あまり、保ちそうに、ありません‥‥!」
御神楽の言葉に、一斉に冒険者たちが駆け出してくる。
地面から出ているのは方ぐらいまでの上、御神楽がすぐ傍にいるので少人数しか攻撃できないが‥‥!
「逃がさん‥‥澄華のためにもな‥‥!」
「このドサンピンがぁ! 俺の漢気、見たらんかぃー!」
「‥‥八つ当たりでもさせていただきましょうか」
南雲、伊東、山王が連続して攻撃し、黄泉将軍にかなりのダメージを与える!
が、御神楽から精気を吸収している上、再生能力があるのか傷の回復が早い!
「ほ〜ほっほっほっ! いつまでレディの腕を引っつかんでいるんですの!? お放しなさい‥‥なっ!」
ダメージはないものの、パフリアの蹴りで御神楽を掴んでいた手を弾かれてしまう黄泉将軍。
「お‥‥のれ‥‥! この恨み、必ず晴らす! 我が名は十七夜(たちまち)! 黄泉将軍‥‥十七夜よ!」
アースダイブを維持する魔力が惜しいのか、再生もそこそこに再び潜った!
「おやおや。森忌さん、お願いします」
『‥‥‥‥? すまん、分からん。どうやらかなり深く潜ったようじゃのぉ』
「やつめ‥‥術の残り時間が少なくなったな。方向を省みず、一先ず俺たちから距離を取る気なのだろう」
「いけませんね。それでは逃げられる可能性がまた上がります」
『いや‥‥もうええわい。お前らのおかげで大分気が済んだ』
「いいのかよ、森忌のダンナ。落とし前つけなくてよ」
『よかぁないわい! じゃがこれ以上進むと芭陸の領域に入る。あいつも微妙な立場なんじゃろぉが。どうせあの十七夜とか言うのは芭陸にちょっかいかける‥‥芭陸にもそれを利用して、ヒトと仲良うやっていくことを学んでもらうのも悪ぅないじゃろ』
「ふふ。森忌‥‥あなた、変わったわね」
『素に戻ったか。ふん、意地の張りどころを知っただけじゃい!』
南雲に微笑まれ、森忌はそっぽを向いた。
森忌を信じ、森忌と共に紡がれてきた伝承歌は、ここで幕を閉じる。
誰か一人でも欠けていたり、違う行動をとっていれば結果は大きく変わっていただろう。
運命がたどり着いた先。何者にも縛られない風は、共存の道へ向って吹いていく。
願わくば‥‥風を受け継ぐ大地の龍が、十七夜との決着をつけてくれることを祈って―――
●十七夜
「おのれ‥‥まだまだ手はある! 丹波には古より伝わる我等の拠点が多々あるのだ! しかし‥‥次からはもう少し目立たぬよう行動するか。人間どもめ、いつの間にか力をつけたものよ。この十七夜‥‥少々認識を改める必要があるな―――」