【五龍伝承歌・肆】出現、帰らずの森
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月17日〜06月23日
リプレイ公開日:2007年06月20日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「ぴんぽんぱんぽーん。ここでお知らせです。私こと西山一海が担当した依頼で、『〜招』というあだ名を付けられた方々は、八卦招なら八卦衆、火龍招なら熱破さんと言った具合に、あだ名に対応した人(?)に援護要請をすることができます。必ず助けに来てくれるわけではありませんが、状況により有効活用してください。なお、『〜招』は私の担当する依頼でなければ、全然全くさっぱりこれっぽっちも効果を発揮しませんので悪しからず。ぴんぽんぱんぽーん」
「‥‥何か今、世界にそぐわない空間が発生していなかったかね?」
「気のせいでしょう。さ、お仕事お仕事♪」
「あぅぅ‥‥そ、そういえば、一海さんって、変な時空の使い手でしたっけ‥‥」
京都冒険者ギルドの一角。
ギルド職員の西山一海と、京都の情報屋である藁木屋錬術、その相棒であるアルトノワール・ブランシュタッドは、いつものようにギルドで駄弁っていた。
勿論遊んでいるわけではないのだが、他のギルド職員もこの光景にすっかり慣れっこであった。
「つまり、例の黄泉将軍はまだ芭陸さんにちょっかいかけてないわけですね?」
「そ、そういうことになります。あの近辺に隠れてるであろうことは、確かなんですけど‥‥」
水牙龍・氷雨から始まり、木鱗龍・森忌にもその魔の手を伸ばした黄泉将軍、十七夜(たちまち)。
屈強な冒険者たちの包囲網を突破し、行方を晦ませてからというもの、その所在は要として知れない。
確実に言える事は、十七夜が人間に害を成す為の計画を練っている‥‥あるいは実行に移していることである。
「とはいえ、十七夜は今は積極的に動いていないだろうな」
「根拠は?」
「あの近辺が平和だからさ。森忌の時のように、不審人物もうろついていなければ殺人事件も起きていない。まぁ逆に言えば、何かの企みのために力を蓄えている可能性もあるわけだが」
「で、でも、錬術‥‥あの辺りで、最近、行方不明者の捜索を、っていう依頼を、持ちかけられたんだけど‥‥」
「‥‥初耳だぞ」
「はぅっ!? ご、ごめんなさい! い、言ってなかったっけ‥‥!?」
「聞いていない。どういうことだね?」
「え、えっとね‥‥芭陸の住んでる辺りって、昔から遭難者っていうか、行方不明者が多いらしくて‥‥」
「なんか、熱破さんの時にも聞いたような設定ですね?」
「あ、あれは、作り話と、人身売買組織の所為、ですから。芭陸さんのところのは‥‥その、本物、らしいです‥‥」
「あのー‥‥私と話すときも身構えるんですか?(汗)」
「だ、だって‥‥錬術以外の、男の人‥‥恐くて‥‥(うるうる)」
「わかったわかった。つまり、人の手が介入しえないほど不可解なわけだ」
「う、うん‥‥。行方不明者が出るのは、不定期で‥‥被害者にも、共通点はないけど‥‥でも、『行方不明者は勿論、捜索隊も一人も戻ってこない』っていうことは、全部同じ、だって‥‥」
「ちなみに、前回事件が起こったのはいつなので?」
「た、確か‥‥5年前、らしい、です‥‥」
「ありゃま。そんなに間が空いちゃったら人身売買じゃ生活できませんねぇ。しかも大人ばかりの捜索隊までとなると‥‥」
「それで、今回も捜索隊ごと帰ってこないと。ふむ‥‥確かに妙だな」
その行方不明が起こるのは、決まって芭陸が住んでいるところの近くにある森だと言う。
普段は何のことはない、例え迷ってもちょっと歩けば抜けられるような場所のはずなのだが。
「よし、芭陸にも協力を願って調査に向おう。十七夜との関連性は薄いが、懸念材料は払拭しておいた方がいい」
「でも、捜索隊が帰ってこないということは、冒険者の方々も帰ってこられないのでは‥‥」
「そ、そのための、芭陸さん‥‥ということで‥‥」
こうして、冒険者と、土角龍・芭陸による第二次捜索隊が編成されることになったのである。
帰らずの森と呼ばれる魔の場所‥‥果たして、そこに待つ物とは―――?
●リプレイ本文
●迷いの森。‥‥迷いの森?
「だぁぁぁっ、なんだよこの森! どうやったらこんなとこで迷えんだよ!?」
「うーん‥‥困ったわねぇ。どう見たってハイキングコースだわ‥‥」
「‥‥これを迷えと言う方が無理な話だ。とはいえ、迷う要素が少ない分、返って不可解だが‥‥」
伊東登志樹(ea4301)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、琥龍蒼羅(ea1442)。
一行は慎重を規し、用心して問題の森にやって来たわけなのだが‥‥いざ現地に着いてみると、そこは非情にのどかな森としか言いようのない場所であった。
普段からそこそこ人の往来があるのか、踏み込まれてできた林道のようなものがあったし、小動物の類も見かける。
ヴァージニアの言ではないが、お弁当でも持ってくれば楽しい森林浴でも楽しめそうな感じさえするのだ。
「成程‥‥ゆっくりとはいえ、一刻(約二時間)ほど歩けば端から端まで抜けてしまうのですね」
「行方不明者さんがいたとして、のたれ死んでしまうとも思えませんが‥‥行方不明‥‥行方不明ですか‥‥」
「神隠し、っていったほうがしっくりくる感じ。不定期なのに一度起こると捜索隊まで行方不明なあたり、気まぐれな何かが明確な意図をもって起こしてるような感じはするわね」
島津影虎(ea3210)、神楽聖歌(ea5062)、ステラ・デュナミス(eb2099)。
森は規模そのものが小さく、木々の間から差し込む木漏れ日がとても暖かい。
くまなく調べたわけではないが、人が倒れていればすぐに発見できるだろうし、何がしかが潜んでいそうな小屋も洞窟もこの森には存在しないようだ。
とどのつまりは、ステラが言ったように神隠しと言うのが最もしっくり来る回答なのであった。
「‥‥待ち伏せして人攫いをするにも不向きな場所ですしね。‥‥と、芭陸様たちは何をなさっているので?」
「『ヒトに対して無関心で、無気力』。芭陸さんのそのお気持ち、よ〜く分かります。自分の興味のない物は、どうなってもどうでも良いことですわよね(笑)。私も、かわいい女の子は別として、その辺の完全に興味の範囲外の人(近くにいる男性陣をはっきり目で指しながら)が死のうが消えようが失せようが氷づけになろうが、関心は沸きませんものね〜♪」
『ふむ。小生、なんとなくあなたとは気が合いそうな気がしますね』
「う〜ん、そうですねー。芭陸さんの事は、『まだ今のところ』 ほんの少しは興味ありますよ、よかったですね(微笑)」
『小生もあなたにはほんの少し興味が湧いてきましたよ。まぁ、少しですがね』
山王牙(ea1774)、ユナ・クランティ(eb2898)、土角龍・芭陸。
山王まではきちんと事件について考えていたのだが、ユナと芭陸は他の7人を放っておいて何やら話していた。
興味のないものはどうでもいいという観念が共通しているらしく、芭陸にしては珍しくヒトに興味を持ったようだが。
今更であるが、五行龍が言う『ヒト』とは、人間、エルフ、ハーフエルフ、パラ、ジャイアントなどを全てひっくるめてた意味であるという。ただ単に区別が付かないだけなのかも知れないが。
「興味の範疇外の俺、参上っ! つーか手伝え! お前らだけ小旅行気分かよ!?」
「あらあら、男の嫉妬はみっともないですわ♪」
「誰がだっ!?」
「よせ、伊東。色んな意味でお前に勝ち目はない。というか時間の無駄だ」
「もう‥‥仕方ないわね。ステラさん、どうする? まだ日は高いけれど」
「‥‥虱潰しをする‥‥という雰囲気の場所でもありませんが、捜査は続行しますか?」
「そうしましょ。夜になればまた違うのかもしれないわ」
「暗くなるだけではないでしょうか? ‥‥っと、何事もやってみなければわかりませんよね」
「事態の流れが分からなければ後始末も何もありませんからね。考えうる可能性は全て潰していきましょう」
『あぁ、ちなみにグリーンワードでは特に有効な回答は得られませんでしたよ。悪しからず』
結局、一同はこのなんでもない森の捜索を再開した。
日が暮れていく中で、のんびりと‥‥一名と一匹がサボリながらも。
だが、やがて一行は恐怖することになる。そして、心底思うのだ。
『単独行動厳禁にしておいて大正解だった』と―――
●闇夜と共に
「だぁぁぁっ、なんだよこの森! 日が暮れた途端に別モンじゃねーか!?」
『‥‥これは‥‥』
伊東が叫ぶのも無理はなかった。
日が沈みきり、辺りが闇に染まった瞬間、森はその様相を一変させたのだ。
それは何も、木々が化物に変わったとか、妖怪が大挙して襲い掛かってきたというわけではない。
ただ‥‥こう、なんと説明すればいいのだろうか?
普通、木と木の間に手を渡すと、腕の部分の後ろの景色は腕に遮られて見る事はできない。それが当たり前だ。
しかし、現在のこの森では、遠近感と言う言葉をまるで無視するかのような視覚状況となっている。
木の手前にいる人間の身体半分がその後ろにあるはずの木で見えなくなっているなど、通常の歩行すらも危うい。
「まぁまぁ、世の中には不思議なことがいっぱいあるものですね。どういう原理なのでしょうか♪」
「芭陸さんは何か心当たりがあるみたいだけれど‥‥よかったら教えてもらえないかしら?」
ユナとヴァージニアの様子を見て、芭陸は仕方なくと言った具合に呟いた。
『確か、空間を歪ませて、ある区画を迷宮化する術ですね。精霊魔法のフォレストラビリンスと似ていますが、これは空間そのものを対象とするので、空間内の者は一切抵抗ができないのです』
「言い方が妙だな。つまりこれは、精霊魔法ではないということか?」
『そうなりますね。確か、遥か古代に滅びた陰陽道だか神道の術だったかと』
「そんな‥‥私は『普通の森と違う』箇所に注意していたのよ? 気候や地形的にありえない木が生育してるかとか、草木の群生し方が不自然じゃないかとか。単純に、木々なんかに痕跡が残っていないかも含めて、植不自然な点を探ったのに‥‥」
「‥‥しかし、結局は視覚が妙になっているだけのことでしょう? ひたすら真っ直ぐ進めば森を出られるのでは?」
『無駄でしょう。先も言いましたが、空間を歪める術だ。森を出た瞬間に森の中心に戻すくらいのことはやれたはず。それに、応用すれば無限に空間を広げることも出来たと聞いています。それこそ延々この森を彷徨いたいですか?』
「あの‥‥芭陸さんはその知識をどこで‥‥?」
『大蛇族に伝わる伝承です。確か‥‥『薄至異認の森(はくしいにんのもり)』だったかな。以上』
琥龍、ステラ、山王、神楽の順に質問するが、聞けば聞くほど状況が絶望的に思えてくる。
つまりは、過去に行方不明になった人々も、この薄異囲認の森という術で消えてしまったわけだろうか?
しかし、芭陸が言うにはこの術にヒトを消す力はないと言う。
あくまで迷わせたり、その場に留めることにしか使えない上、出現時間は夜だけ、しかも発動する期間がまちまちで確実性があまりにないというのが使われなくなった理由だとかなんとか。
「難しくてよくわかんねぇが、ヒトが消える理由は他にあるってこったろ? そんじゃあ歩いて調べるしかねぇってもんだろ。大人しく夜明けを待ってたんじゃそれこそ小旅行になっちまわぁ」
伊東なりの精一杯の嫌味だったのだが、ユナは全然堪えていない。というか、そもそも気にしていないのだ。
結局、一行ははぐれないよう細心の注意を払いながら森を探索することにした。
理解不能な視覚効果のせいで、木にぶつかったり躓いたりする者が続出したのだが‥‥そんなことは些細な事である。
一行の前には、更なる不気味な現象が待ち受けていたのだから―――
●怪奇、連続
まず、一行が出くわしたのは、謎の読経であった。
まるで頭の中に直接響くかのような幾人分もの読経が、ランタンの灯りの届かない漆黒の闇から、全方位で聞こえてくる。
呪うように‥‥無念を訴えるように‥‥はたまた誘うように、延々とそれは止まなかった。
「‥‥不気味ですね‥‥。人の気配が全く無い分、更に‥‥」
「他人に後始末をお願いするようで心苦しいのですが、ステラさんのペットに空から怪しい物を探していただくのはどうでしょうか? 空からのほうが効率がよいかと思われますが」
「‥‥止めた方がいいと思うわ。芭陸さんの説明を聞いた限りだと、上空の方が空間の歪みが強いと思うの。むしろ空間の捻れに近くなっていて、インペラトルが行方不明にされちゃうような気がするし‥‥」
「だーっ、辛気臭ぇぇぇ! ヴァージニアさんよう、お得意の歌でこの読経をぶっ飛ばしてやってくんな!」
「無茶言わないでよ! 向こうは大合唱よ!? 流石の私でも一人じゃ対抗できないわ!」
恐怖には慣れっこのはずの冒険者たちでも、戦闘の恐怖とは質の違うこの恐ろしさは拭いきれないらしい。
じわじわと染み入るようなこの感覚に精神をすり減らした神楽が、一本の木に手を付いて、息をついたときだ。
「ひっ‥‥!?」
そこには、目があった。
木の幹に、一つだけぽつんと‥‥しかしぎょろりと、神楽を睨みつけている!
「ちっ‥‥!」
いち早く気付いた琥龍がウインドスラッシュでその目を攻撃するが、目は一瞬で別の木に移動してしまった。
「まぁまぁ、目が乾かないのでしょうか」
「そんな場合かっての! 見ろよ!?」
気付けば、自分たちの周りの木全てに、ずらりと目が並んで一行を見下ろしていた。
いっそこれも空間の歪みで視覚がおかしくなったから見える幻影であってほしい。そう思わずにはいられないほど、夜の森で、周りの木に出現した何十何百という目玉に見下ろされるのは恐ろしい‥‥!
「う‥‥ぁ‥‥あ、嫌ぁぁぁっ!」
「‥‥駄目です、ヴァージニアさん! 迂闊に一人になると何が起こるかわかりませんよ!」
「そ、そうです。今あなたが消されてしまっては、後始末できるか自信がありません!」
「だ、だってだって、何よこれは!? おかしいわよ! 明らかに常軌を逸してるでしょ!? 自分の身体が一部消えて見えるような場所、絶対おかしいわよ! 在り得ないわよ! 一刻も早くこんな場所から逃げ出したいのよ‥‥!」
常識人であり、魔法に詳しいヴァージニアだからこそ、この森が理解できない。
恐怖に駆られて走り出した彼女を止めた山王と島津だったが、自分たちも内心はさっさとこんな森からはおさらばしたいと思っている。そんなものは全員一緒だ。
「あらあら‥‥可愛い女の子が恐がるのはちょっといただけないですね。芭陸さん、この森の抜け出し方はご存知ありませんか? ヴァージニアさんが壊れちゃったら大変ですもの♪」
『無理です。一度迷い込んでしまったら小生でも脱出は不可能。大人しく朝が来るのを待つしかないでしょう』
「そ、そんな‥‥こんな気味の悪い森で、あと何時間も‥‥!? 無理! 絶対無理よ、私!」
「もしくは、この目や読経の元凶を叩いてしまうか。そっちの方が事件の原因も潰せて一石二鳥かも知れないわね‥‥」
そう、ステラが呟いた時だ。
「あ、あの‥‥みなさん、あれは、なんでしょう‥‥?」
「何だよ、今度は耳でも見つけたかぁ?」
神楽が恐る恐る指差した方向には、仄かな灯り。
人? 家? 馬鹿な、この森には冒険者一行と芭陸しかいないはず。建物なども一切無かったのに。
「行くしかあるまい。おびき寄せられているとすれば逆にそれを利用するべきだ」
「仕方ないわね‥‥行きましょう」
神楽が見つけた灯りの方向へ向った一行が見たもの。
それは、巨大な木造建築であった。
寺と言うには、塔のようなものや2階があるので不適当。かと言って、誰かの別荘と言うにしても立地条件が悪すぎる。
こんなところに好んで家を建てるような人間がいたら、顔を拝んでみたい以上に殴り倒したい。
「どういう、こと‥‥? どういうこと!? こんな建物さっきまでなかった! 絶対無かった! ねぇ、無かったでしょ!? なのになんであんな物があるの!? おかしいわよ、絶対おかしいわよ! ねぇ! ねぇ‥‥!」
「落ち着いて、ヴァージニア。大丈夫だから‥‥ね?」
ステラがぎゅっとヴァージニアを抱きしめて、錯乱する彼女を必死で宥める。
空間を歪ませる薄至異認の森が発動したあとに出現したこの建物‥‥これこそが行方不明の元凶なのだろうか?
一行がこの建物に入るのを拒むかのように、辺りに響く読経はさらにおどろおどろしさを増す。
ざざざ、と風が木の葉を揺らし、何十何百と言う目玉も一行のあとを追ってきて見つめている。
「‥‥どうしますか、ステラさん。情報も乏しい今、迂闊に飛び込むのは私たち自身を行方不明者にしかねません。リーダーのあなたに従いますので、指示を」
「何で私がリーダーなの?」
「作戦の打ち合わせでも一番積極的に意見を出してくれたからだろう。俺も依存はない、お前の意見を尊重しよう」
「‥‥‥‥」
ステラはしばし悩んだ後、腕の中で震えるヴァージニアを見て、今日のところは建物への侵入を断念。
一行は芭陸に見張りを頼み、テントに篭って一夜を明かした。
響き渡る読経のせいで大半の者が眠れず、眠れたものも悪夢しか見なかったと言うが。
そして夜が明けてみると、森は穏やかなハイキングコースへと戻っており、読経も目も建物もなくなっていたのである。
まるであれら全てが、悪い夢であったかのように―――