【吸血婦人】 魔法陣発動
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■シリーズシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2006年01月14日
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●オープニング
日はかげり、冬の夕暮れは、まるで急かす時の流れのように早い。
机を拭いていたシールケルの手が、ふと止まった。
「どうし‥‥――!?」
その瞬間、シールケルは息を呑んだ。
「さすがにわかるか‥‥」
口元に微笑をたたえ、その人間の男――の姿をした邪悪な存在は椅子に腰をかけた。
なにもしていない、されてもいないにもかかわらず、シールケルの背中はすでに冷や汗でぬれてしまっている。
「お前達に依頼があるのでな」
「依頼?」
剛毅なシールケルすらも、そう応えるだけで精一杯であった。
「破滅の魔法陣の発動を止めてもらいたいのだ」
「破滅の魔法陣!?」
「話は聞いているだろ? パリの近郊にあり、イングラッドにもあったかな? あれと同じものが、このドレスタットにもあるんだよ。とてつもない威力をもった魔法を発生する仕掛けだと思ってもらえればいい。それが発動したのだ」
「発動した? どこだ?」
「いぶかしげな物言いだな。まあ、それも正解か、確かにいまのところは被害は出ていない。当然だ、他の魔法陣とはちがって、俺の依頼のものは古い型でな、発動までにかなり時間が必要なのだよ。まあ、かわりに威力は――不明だがな」
「不明だと?」
「それがそる村の周囲だけですむか、それともドレスタット全域か、あるいはノルマン全体か――」
その表情が夕闇に沈んだ。
「それで、どうしろというんだ!」
「策もなく、お前たちに頼もうというほど、俺も愚かではないさ」
魔の者は、手のひらに青白い焔をあげ、蝋燭を燈した。そして、指の動作だけで主に葡萄酒を要求する。
「その前に、すこし、昔話につきあってもらおうかな」
「昔話だと?」
「なに、たいした話ではない。破滅の魔法陣を作り、それを発動させようとしたが、それを阻止された悪魔と、老いの恐怖に負けた女がいたというだけの話だ」
「よくわからんな!」
シールケルは、自分を奮い立たせるかのように、強いて声をあげる。
「話せば長い話だからな。まあ、その様子では長話はよしたほうがいいな。まあ、かつて魔法陣を作った悪魔がいた。しかし、それは人間どもによって阻止された――むかし、そうこのギルドすらも存在しなかったほど昔の話だよ――そして、その悪魔は冒険者たちの知恵によって石にされた、なぜか? それは、その魔法陣の発動の条件が純粋なる生贄の血だったからだよ。笑うな、卑小なる人間よ! 悪魔とて純粋な者がおる。純粋なエゴをもったものがな」
「純粋なエゴ‥‥」
「そうさ、そして、ひとりの女がいた‥‥老いるということに恐怖を覚え、その為に悪魔と契約した純粋なエゴをもった女がな。そして、その女は永遠の若さと美貌を求め――本当は、愛に飢えておっただけなのだがな、その耳元に二言、三言ささやけば、これだ――その結果として――人間の価値でのだがな――悪行を重ね、冒険者たちの刃によって血を流し、命を落とした。しかし、その流れた血は、その対価として魔法陣を発動させることとなったのだ」
「悪辣な罠だな」
「悪辣か、いい褒め言葉だ。魔法陣を作った悪魔も、その言葉を聴いたら本望だろう。奴は冒険者たちが自分を屠ったとしても、その血で魔法陣が発動すると踏んでいたのさ。まあ、石化されるとまでは考え付かなかったようだがな」
「それで、その悪辣ないたずらには、どんな穴があるんだ?」
「言うのは簡単だ。ふたつの宝玉を壊せばいい。ひとつは女の住んでいた城の地下の湖の底に眠る宝玉。水をどうにかしないといけないという問題があるがな、あるいは水門をどうにかするか――そして、もうひとつは石になった悪魔の胸に眠る宝玉を壊すことだ。もちろん、それが可能かどうかかは別問題だがな‥‥」
そう言って、悪魔は肩をすくめた。
そして、懐から袋を取り出すと机の上に宝石がこぼれる。
「これが報酬だ、葡萄酒の代金はこの中からとっておいてくれ、あと一緒に入っている紙に今回の件の詳細を記してある」
そう言って立ち上がろうとすると、最後にシールケルが当然の問いかけをした。
「なぜ、そんなことを教えるのかだと?」
悪魔は、鼻で笑う。
「愚問だが、こういっておけば理解してもらえるかな? 俺にも悪魔の世界での世間体があるのだとな」
そういうと、一陣の風が吹き、その姿は夜帳の中へと消え、孤独な闇の中にシールケルはただひとり、取り残されていた。
●リプレイ本文
「金目のモノは、な・い・か・なー?」
きらきらと茶色い瞳を輝かせてミヤ・ラスカリア(ea8111)は戸棚を開いてみたが、残念。そこはすっかり空になっていた。ちゃめっけたっぷりな表情でミヤは笑って見せた。
「なぁーんちゃってー!」
その日、ミアは、かつて悪魔に魂を売り、結局は非業の死をとげた女の居城を調べていた。魔法陣の発動にかかわった女のかつての居場所ならば、なにか役に立つものが見つかるかもと思ったのである。
そして、そこは、その女のかつての書斎である。
背後でがたりと音がした。
びくりとして、おそるおそると、ふりかえるとなにもなかった。
「なんだったのかな?」
ちょっと不安そうにあたりを見まわす。
「あれ?」
床に紋章の入った鍵が転がっていた。
「これか!」
そう叫び、ミアは部屋を後にした。
「急いで戻るよトロンペ・キッド!」
ミアは駆け足で愛驢馬のもとに戻ると、跳び乗ると、逃げるように屋敷を去っていった。どうしようもない恐怖を覚えたのである。たしかに、彼女を見送るように、誰もいないはずの屋敷に影が動いていた――
※
「これで、よかったのかしら?」
自分でも大人げない態度だと思いながらも、ロヴィアーネ・シャルトルーズ(eb2678)はどうしても言わずにはおられなかった。
「僕にもわかりません‥‥」
そう言って、かつての依頼主は首をふった。
実際、自分のうらみ――思い人をかつて生贄とし殺された――を果たし終えたとき、男の心に残ったものはなんなのでろうか――そして、そのせいでこのざまだ。魔女と呼ばれた女の血が流れ、それが引き金となって破滅の魔法陣が発動しようとしている。
「なんにしろ、いまひとたびの働きを期待させてもらいますよ」
そんな声がしたかと思うと、宿の扉が開き、ひとりの男が入ってきた。ダンテスの友人だという。そして、外をふりかえりため息をついた。
「ひどい荒れようです。魔法の暴走でも始まったんでしょうかね?」
強風吹きすさぶ空は暗雲に閉ざされ、雲間を雷が走っている。
すでに近隣の村人たちの非難は完了しているという。
「私たちで最後ですな。それでは、ご武運を――」
楊朱鳳(eb2411)がうなずく。
ダンテスの目には、楊の左手の指先の光るものが映ってた――そして、チェムザ・オルムガ(ea8568)の剣の刃がにぶい光を照らしている。
「オレ、アクマ、倒す‥‥犠牲者、無念、晴らす‥‥」
そして、チェムザは己の言葉にはっとした。
「アクマとは、なに?」
「あとで教えてあげる‥‥けど、こいつ?」
遺跡のなかでアルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)は壁を背にして十字の刻まれた拳を握りながら、かまえた。目の前にゆらめくものは、悪魔というよりもむしろ悪霊であった。青白く輝く鎌を振り上げて襲ってくる。それは、彼女たちの知識の中にある悪魔とは幾分か違っていた。
「むしろレイス?」
ふりおろされた鎌を大剣ではじき、ウェンディ・ナイツ(eb1133)はうなった。
なんにしろ、想像していた展開とは異なったものとなった。
遺跡全体が輝いている。
魔力が暴走しかけているのである。
「うぉー!」
叫び声をあげながらチェムザが剣をふるった。
魔剣がうなり声をあげる。
一閃、悪魔が消滅した。
「やった!」
しかし、それもつかの間の歓声だった。
「なんだって!」
悪魔の姿がゆらめきながら、ふたたびあらわれてきたのである。
「命のある限り、希望はあります」
ウェンディは仲間達をはげました。
しかし、そういった彼女の剣先もまた小さくゆれていた。
※
「お茶が入りましたよ」
紫藤要(eb1040)は仲間たちを呼んだ。
「やれやれ、だな」
すっかり、ずぶぬれになった毛翡翠(eb3076)が、ため息をつきながら紫藤の煎れた紅茶をすすった。
ずぶぬれになっているのは水門と格闘をしていたからだ。
「あの左側の台座になにかあると踏んでいるのだがな‥‥」
たしかにあっちこっちを触っているうちに、水が噴出してきたところを見ると、無関係ということではないのだろう。
「しかも、例の紋章があるな」
「魔法がらみなのでしょうか?」
紫藤が首をひねる。
「そう思っておったのだがな、どうもそれだけではないらしい‥‥紋章に手をかざすと水門は確かに反応するのだが、完全に開いたというわけではないしな‥‥」
「壊しちゃいます?」
紫藤が冗談ぽく言う。
「あら、おいしい紅茶‥‥そういえば、右側の台座にもなにかありましたは」
ベルティアナ・シェフィールド(eb1878)もお茶を紫藤から受け取った。
「なんじゃと?」
「なにか錠みたいな形をしていましたよ」
アリアドル・レイ(ea4943)が、紫藤の用意したクッキーを手にしながら応じた。甘すぎず、品のいい味と、そのこうばしい香りに食欲を刺激されて、つい二枚目に手がいく。そして、それを口の前にもってきたとたん、背後から手が伸びてきて、それを奪ってしまった。驚いて、ふりかえったアリアドルに向かってミヤがクッキーを食べながら、笑っていた。
「こんなのを見つけたよ!」
※
「消耗戦ね‥‥――」
アルクトゥルスは、血つばを吐き、にやりと笑った。
彼女の目の前に、ふたたび、それが姿をあらわした。
「またか!」
男の舌打ちが聞こえる。
倒しても、倒しても復活してくる悪魔の姿をした異形との戦いに自分はもちろん、仲間たちもしだいに疲労がたまってきている。しかし、後退しようとする者はいない。もちろん、アルクトゥルスもまだ、そう言うつもりはなかった。
父に仕える者としては、道に迷った者を誑かした輩を許しておくことはできないのだ。この一戦にこの地の命運が掛かっているともなれば、なおさらである。
(「再現神よ、願わくは我らに道を示されんことを‥‥」)
心の中で印を切り、アルクトゥルスをソルフの実を飲み込んだ。
戦いは、まだつづく――
「なにが問題なのよ?」
肩で息をしながら、ウェンディーは壁を背中にし、それでも間合いだけはとりながら、考えていた。
あまりにも、おかしいのだ。
それが、悪魔でないことはなんとなくわかっている。
しかし、魔剣使いたちの攻撃は、確かにそれを消散している。
(「幻影?」)
そうも思えてくる。
(「まずい!」)
仲間たちを蹴散らし、悪魔が突っ込んできた。
突き飛ばされたチェムザが悪魔の石像にぶつかるほどの突進だ。
よける暇はない。ふりおろされた鎌がウェンディーを襲った。しかし、同時に、それが悪魔に隙を生んだ。悪魔の腹に剣を突き立てる。
悪魔が消散する。
しかし、
(「この痛みはまやかし‥‥ではないか――」)
いまの一撃で受けた痛みにウェンディーは顔をゆがめた。剣を持つ腕から、鮮血がしたたり落ちている。
「大丈夫か?」
アルクトゥルスが心配そうな顔をした。
「軽傷よ‥‥」
ロヴィアーネは強いて笑みを見せた。
すぐに悪魔が復活するのだ。ここで気を抜くわけにはいかない。彼女も、それをわかってくれたらしい。癒しの魔法を唱え終えると、無言のまま、しかし笑顔でうなずいて、振り返った。
「あら?」
振り返った、アルクトゥルスが声をあげていた。
チェムザがぶつかった、その石像の胸はえぐれ、赤い宝石が禍々しい光を発していたのだ。
※
「よし、いいぞ!」
左の台座では紋章が光り、左の台座では鍵がまわる。
水門が開いた。
水路を濁流のごとく水が流れだすと、冒険者たちは湖へと向かった。
ロヴィアーネからもらった地図が役に立つ。
「これは?」
たどりついた湖は、一面の白骨の野となっていた。
「これが――」
魔女の悪行なのであろう。
ベルティアナは目を大きく見開き、声を一度のみこむと胸元で両手を組んだ。みずからが、この仲間にならずにすんだという幸福と、この骨にかつて宿っていたであろう魂の平安を神に祈らずにはおられなかったのである。
「まさに悪魔の所業ですね」
吟遊詩人は、ため息をついた。
そんな中、紫藤は、あたりを注意深く観察していた。悪魔が死者を操るということを聞いていたからである。そして、その勘働きは鋭いものであった。
骨が転がる音がした。
「えッ?」
やがて骨が転がる音は、骨がぶつかりあう音になり、しだい、しだいにその音は数を増やし、けたたましい音ともに、やがて周囲の骨が立ち上がりはじめた。
「スケルトン!」
それはドレスタットに名だたる冒険者たちにとっては、あまりにも戦いなれたモンスターであった。しかし、その数はあまりにも多すぎた。すくなくとも、一回の冒険でこれほどのスケルトンに囲まれた者は、この場にはいない。
あたり一面がスケルトンに埋め尽くされた。
死者の大群に囲まれ、武器を手にした冒険者たちは円陣を組む。
敵はしょせんスケルトンである。力量で冒険者たちが負けることとはない。しかし、あまりにも絶望的な数のちがいが、しだいに冒険者たちを追い詰めていった。
「どこに勝機が?」
円陣の中にいるアドリアルが、周囲を見回して、それを捜していた。
この状況を脱するには、根本的な問題を解決させるしかない。
「あった!」
手にしたランタンを足元に置く。
アドリアルの体が銀色にかがやくと、その影が死者をしばり、からめとると、その骸骨は転がった。知恵のない、その仲間たちがそれにつまずき転がり、一筋の道が宝玉へと向かって開かれた。
「さあ!」
アドリアルの掛け声に、ロヴィアーネが応える。スケルトンの肩を踏み台にして、跳躍すると、スケルトンたちを蹴り倒しながら、できた道を駆けていく。
声がする。
悪魔――なのだろう。心の中に直接語りかけてくる、それは、ぞっとするほど甘美で愛しい誘惑の言葉だ。かつて幾多の人々が、その言葉によって神の御心から外れた道へと進んでいったのも理解できる。気持ちのいい言葉なのだ――
ロヴィアーネの足が止まり、色のない瞳で仲間たちをふりかえった。
剣を持ち直し、仲間に向かい、それをふりあげ――
「私の‥‥私の心に、それ以上、ふみこまないで! 邪悪な者よ、魔界へ戻りなさい!」
その誘惑を拒絶するように、ロヴィアーネは叫んだ。
その隙を狙って、スケルトンがロヴィアーネに向かって手をふりあげた。ハンマーが、そのスケルトンを吹き飛ばす。ロヴィアーネは力尽きたように、肩ひざをついた。
「此処は私が引き受けますわ!」
藤紫が盾になり、こんどは毛がその脇を駆けていった。
※
周囲にまがまがしい光があふれてきている。
いよいよ、魔法陣が発動しようとしているのだ。
楊は、左手を開いた。
血によごれた、その指先には、しかしそれでもなお輝く指輪があった。
(「あなた‥‥――」)
まだ、口にしたことはない、その言葉が胸に去来し、楊は再び、こぶしをにぎると胸にあてていた。閉じたまぶたの裏に、あの人の顔が浮かぶ――。
「私がおとりになります! だから――」
そう叫ぶと、楊はかっと目を見開き、木刀を手に駆け出した。
悪魔が、それと対峙する。
そして、その背後にチェムザがまわる
その巨躯が、剣をふりかぶった。
「魔力、開放! 泣き叫べ、トデス・スクリー」
一刀両断。
悪魔はふたたび消散する。
そして、その隙に楊の叔母はハンマーをふりかぶった。
「まさか日本刀を使っていた私がね‥‥」
ロヴィアーネのハンマーが赤玉を石像ごと砕き――毛の拳が青玉を砕いた――少女は祈る――安らなかる眠りと父の導きのあらんことを――
※
思念があたりを包んだ。
憎悪と絶望に満ちたそれは彼にとって、なんと心地よいものであったろうか。
(「きさま――」)
(「いいざまだな。古の悪魔よ。いや、いまではたんなる逝けずの怨霊だったかな?」)
(「図ったか!」)
(「らしくもない言葉‥‥いや、あなたのような古参に、この若造が最高の賛美をいただけると恐悦至極。かつて悪魔であった死者よ! 時代は変わるものなのだよ――じゃあ、安らかな眠りと父の導きのあらんことを――」)
悪魔はくくくと笑った。
「どうしたんだ?」
ダンテスが、不思議そうな顔をしていた。
「なに、お前の依頼の数々と、その報告を思い出していたのさ。おもしろい連中であったな」
「あいかわらず、悪魔のように意地の悪い奴だな‥‥」
さきほどまで、ずっと黙り込んでいたダンテスに笑顔がすこしだけ戻る。
「そういえば、どうなったんでしょうか?」
「さあな、惨事は起こっていないようだが――」
悪魔は、来た道をふりかえった。
あたりは、静まり返っている。
「なんにしろ、我々は我々の道をゆくまでだ。月道から、どこへ行く気だ?」
※
歌が聞こえる。
旅を終えた吟遊詩人が歌う。
この冒険のありようを。
そして、その歌を聴くものがいる。
酒がとびかい、仲間たちの談笑がする。
ギルドの長がうれしそうにかれらを眺めていた。
ギルドの夜は更けていく。
いましばらくの休息と、そして新たなる旅への誘いが待っているであろう。
かれらに末永き幸あらんことを――