【大掃除】 ネズミ退治!

■シリーズシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月11日〜07月16日

リプレイ公開日:2006年07月19日

●オープニング

「さあ、お掃除とお掃除と‥‥」
 パリの冒険者ギルド近くの店の厨房から鼻歌が聞こえてきた。
 窓の外は青く、風も心地よい。
 きょうはテーブルのいくつかが、オープンテラス風に路地にならべられ、冒険者が集まる場所というよりも、パリの人たちも含めた社交の場となっている。
 そんな中、厨房の中から悲鳴があがったかと思うと、その厨房を小さな影が走り去り、テーブルの足元を駆けていく。
「ネズミ!」
 という声とともに箒をもった女たちが厨房から駆け出していく。
「いざ、戦いははじまらん!」
 酒気を帯びた詩人が笑いながら楽器の弦をはじいた。
 まさに、いざ、戦いははじまらんである。
 モンスターに向かってゆく勇者でも、ここまで勇猛果敢ではないだろう。
 慣れたもので、それまでテーブルについて談笑したり、お茶を呑んだり、あるいはまだ昼間なのに酒をあおっていた者たちは、さっとネズミと勇者たちに席と場をゆずり、店の隅へと机を移動した。
 あとに残ったのはネズミという強大なモンスターを相手に戦おうとする可憐な乙女たちである。いや、少女たちという、この世でもっとも純粋で、それゆえにもっとも残酷な天使に狙われた、あわれな子ネズミといった方が正しいのかもしれない。
 なんにしろ、湯気のたつ茶を前に、その騒動をぼ〜と聞いて、見ている分には、いい時間つぶしになる。
 これでも、以前よりは騒動はおとなしくなったのだという。ウソかまことか、以前は厨房でネズミを退治するために強力な攻撃魔法が使われ、そのせいで現在でも
「厨房内での魔法の使用は禁止!」
 というポスターが貼られていると古参たちがもっともらしく新参者に語っている。
 そんなところへ、きょうもきょうとてひとりの婦人がやってきた。
 赤いドレスを身にまとった白髪の老婆だ。
 背中もいくぶん曲がった老婆にフリルのついた服飾もどうかと思うが、それは個人の趣味の問題だろう。
 冒険者ギルド奥の部屋で事務をしていたギルドマスターにその来訪が告げられると、一瞬、彼女の頬がぴくついた。しかし、すぐに私室に戻ると、化粧をなおし、衣装の裾を整え、鏡の前で笑顔の練習。そして、お気に入りの香水をして、深呼吸ひとつ。優雅な足取りで貴賓室へと向かった。
 にっこりと笑って、客人にあいさつをする。
 客の名前はザマス・ザマス。
 ギルドの有力パトロンでもあるザマス家の現在の当主である。
 女の当主ということで、いぶしがる者もいるかもしれない。
 もともとザマス家は尚武の家であり、その婦人も夫と息子、そしてその息子の嫁さえも先の戦争で亡くしている。その為、臨時の処置として彼女が当主の座にあるのだという。その地位はやがて孫へと継がれることになっているが、それは将来の話である。
「あいかわらず、きれいなお肌をしているざますね。いったい、どんな化粧を使っているざますか?」
 なんにしろ、怖いものなどないばあさまは、いつものようにギルドの主人の美貌にため息をつきにきているのである。
 部屋の外から騒々しい音がする。
「なにをやっていたざますか?」
「ええ‥‥」
 ほほほと笑い、ギルドの長は、たぶんギルド内部でも執り行われているであろう見世物のことを思い浮かべながら、
「なんでしょうね?」
 と言った。
 なんにしろ最近はとみにこんなことが増えたような気がする。
 そんなことを考えていたせいで、ネズミのことがついつい話題に出てしまう。
「そういえば、うちも最近、ネズミがよく出て困っているざます。何でも屋のみなさんにネズミ退治は頼めないものざますか?」
「ネズミ退治?」
「そうざます。屋敷のあっちこっちに出て困っているざますよ。それに、どこから出ているかはわかっているざますの」
「わかっている?」
「ええ、うちの地下ざます!」
「地下? たしか、ザマスさまのお屋敷には抜け道があると言っていませんでした?」
「戦を習いとする者の屋敷とは、そういうものざます。でも、たぶん、その迷宮の中にいるざますのよ‥‥我ら女性にとっての最大の敵が‥‥」

●今回の参加者

 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2235 小 丹(40歳・♂・ファイター・パラ・華仙教大国)
 eb3327 ガンバートル・ノムホンモリ(40歳・♀・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb5005 クンネソヤ(35歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ネム・シルファ(eb4900

●リプレイ本文

「ふんふんふん〜」
 鼻歌を歌いながら、小丹(eb2235)が姿見の前でいろいろな髭を付け替えていた。
 そんなところへ、
「かっぱっぱ〜るんぱっぱ〜」
 鼻歌が聞こえたかと思うと、扉が足で開き、両手一杯にきゅうりを持った河童が入ってくる。
「ど〜も、ここもそうやけど、あっちこっちでネズミの話を聴きますわ」
 パリの市場できゅうりを買いあさってきたついでに情報集めをしてきたのか、中丹(eb5231)が義兄弟に向かって、そんなことを言っていた。
 ふ〜んという態度で、小丹は鏡の前から離れようとはしない。
 まだ、付け髭が決まりきらないらしいのだ。
 そんなパラと河童の漫才を見ると、女は大きく頭をふった。
「なんで、こうも男がいないんだ‥‥」
 人間とエルフの男のみを男として認識する彼女にとって、今回の冒険は初めから不作の予感がするものであったようだ。
 万感の思いを込めて、大宗院奈々(eb0916)は叫ぶ。
「かっこいい男は何処だ!」
 ざっぱ〜ん。
 大宗院が雪の舞い散る崖の上で叫ぶと、足元では荒れた波が岩に砕かれ、白い泡が飛び散っていた。
 ‥‥ちなみにパリは内陸である。そして、現在の季節は夏――
 お前はどこにいるんだ?
 冗談はともかく、ザマス家である。
 パリの一等地に立つザマス家の屋敷は、遥か昔からある建物である。一説にはパリが王都とされ、王が入城したその年の終わりには早くも縄張りが行われたという。実際、その屋敷に入ってみると大きな石を組んで作られた古風な作りであることがわかる。屋敷というよりも砦を思い出させる作りだ。
 通された部屋は、客間だろうか。
 丸い食卓があり、ザマスと何人かの男たちが待っていた。
「ぼっ僕は神聖騎士のカルルっていいます。宜しくお願いします」
 カルル・ゲラー(eb3530)が天使のような笑みを浮かべて、ぺこりとあいさつをする。天使の笑みが美男、美女あるいは美少年、美少女のものと誰が決めたのかは知らないが、まあ、いい。カルルの、その笑みと甘い甘い砂糖菓子のようで、女性ならば心ときめくものを覚えたものも多いであろう。
「はいはい、こちらこそ、よろしく。かわいらしい子ざます」
 ザマスも微笑んでいた。
 そんな中、
「孫は何歳なんだ?」
 目をぎらつかせながら、大宗院が獲物を探していた。
 ザマスの脇にいた!
(「パラの神聖騎士くんと同じじゃないか!?」)
 まだ十歳くらいの、黒い髪をした目の大きな少年である。その能面めいた凹凸の少ない顔立ちは大宗院の母国の血が流れていることを物語っていた。反面、その素肌のすけるような白さや長さは、西洋の血が流れていることも物語っている。
 短いズボンをはき、その白い太股が見え‥‥――
(「私には、そんな趣味はない!」)
 頭をふって、大宗院は、自分に、そう言い聞かせた。
「執事は!」
 すでに血眼である。
「私から説明させてもらいましょう」
 背の高い男であった。
 くすんだ灰色の髪をオールバックにしている。
「地下に鼠以外の生物が潜んでいた場合も掃除の対象になるのか?」
 クンネソヤ(eb5005)が質問する。
「考えすぎだとは思いますが、それでかまわいません。ご連絡をいただければ、当家としても報酬にプラスアルファさせてもらうことに異存はありません」
 その姿にすこし、ときめきかけて――
(「すこし年上過ぎるか‥‥」)
 という打算が心に走る。
 男の髪には、すでに白いものが見えるし、長い足も片足をどこかひきずるような歩き方になっている。にこやかに笑って冒険者たちに対応しているが、時々みせるその眼光は鋭い。執事服をきているが、ひょっとしたら鎧の方が似合うかもしれない。
 戦場の臭いがするのだ――と思った。
「それで、入り口は?」
 仲間の誰かが言った。ひじを机につき、にぎった両手で口元を隠すと、ザマスが執事に向かって無言でうなずいた。執事が柱を三度たたき、床を二蹴る。壁の一部が開き、入り口があらわれた。
「この秘密は、ご内密に――」
 そう執事にささやかれる。
「さて、狩りに行こうじゃないか!」
 仲間たちにはモリと呼ばれる、ガンバートル・ノムホンモリ(eb3327)が仲間たちを促し、地下へと降りていった。

 ※

 今回の冒険には同行していないネム・シルファが用意してくれたランタンに油を容れ、火をともす。
 ぱっと燈った白いかがやきとは対照的に、目の前が、一瞬、暗くなる。
 そのとたん、あたりから鳴き声が聞こえたかと思うと、ネズミたちが影へと向かって走っていった。
「いるわね‥‥」
 レンジャーであるパトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)の鋭い目は、それを見逃さなかった。そして、彼女の指差す先にも――
「あ、ここにも――」
「うさ丹は子ウサギやー! ネズミやあらへ〜ん!」
 そいって中丹は、暗い中で、それを抱いた。
 それが鳴く。
「ちゅう?」
「えッ!?」
 河童の頬に汗。
「だから、うさ丹は、こっちだって!」
 パトゥーシャここんどは横にいるウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)の腕の中を指差す。そこには見慣れた子うさぎのつぶらな瞳があって、中丹を見つめていた。
「龍飛翔!」
 中丹は、腕の中の生物放り投げると、問答無用の攻撃を加えるのであった。
「まあ、いいネズミというのはだな‥‥」
 そんな中丹を無視して、ガンバートルが仲間たちに敵についてのレクチャーをはじめていた。しばらく講義がつづき、突然、その腕が動いた。
 その手から、何かが放たれる。
「いちど射程に捕らえて逃がしたら次はない!」
 見れば、ダーツに射られたネズミが息絶えていた。
 さて――
 ウィルフレッドが語る。
「地図を描くのだね」
 執事にもらった紙の上にペンで地図を書き出す。
「罠があったら書き記しておくのだね」
「いや、罠は僕が作るんだよ!」
 カルルがうれしそうな表情で言う。
「機会があれば、ライトニングサンダーボルトで蹴散らすなり――」
 どっか〜ん。
「ストームで蹴散らすなりしたいところだけど――」
 びゅ〜ん。
「その機会はなさそうだね」
 おっとりとした調子で、ウィルフレッドは独り言を語り終えた。
「使っているだろ!」
 仲間たちから悲鳴があがる。
 見れば、仲間たちの姿はぼろぼろ。
 幾多の戦いを生き残ってきたのかといわんばかりの様相である。その薄汚れた原因は、たぶん、ネズミに受けた被害だけではないだろう。実際、用意した罠や毒程度ではネズミを退治するにはいたらなかったのである。
 効果がなかったというのではない。
 それらは期待以上の働きをした。
 働きはしたが‥‥あまりにも敵の数が多すぎたのだ。
 まさに戦争の本質を悟る軍人がのたまわるごとく、
「戦いは数だよ! 数!」
 というところなのだろう。
 あたりに敵を殲滅したところで、一息をつくことになった。
 ちょうど柱があるあたり――そういえば、この迷宮にはいって初めて柱を見る――で休憩をとることになった。それぞれに体をのばす。小丹が、高級葉巻を吸おうかとバックからとりだし、火をつける。
 一服をしようか。
 ふ〜。
 あがった煙が、風にたなびくようにして、ゆらめき、足元あたりに穴の開いた壁の中へと消えていく。
「どういうことだ?」
 葉巻の火を消し、あわててバックパックに戻す。
(「もったいないからな」)
「どうした?」
 クンソネヤが興味深そうに顔を向けた。小丹は傍にあったランプに手をのばし、それをかざした。ランプから立ち上る煙が、ゆらめきながら、やはり壁の中ほどのところへと吸い込まれていく。よくよく見れば、
「どこかへ繋がっている?」
「出口かな?」
 仲間たちの声に活気が戻ってきた。
 しかし、どうやったら壁が開くのか?
 しばらく、ああだこうだと議論になり、いろいろやってみてもダメ。
 とりあえず地図はあるのだし、これを持って執事の所へでも相談をしに行こうかな‥‥と話がまとまりかけた。
「あッ!」
 と執事をじっくりと見つめていた大宗院が声をあげると、この迷宮に入ってきたときに執事がしていたのと同じように柱を三度たたき、床を二蹴る。
「やっぱり!」
 壁が開いた。
 そのとたん、
「なに!?」
「くさっい!?」
 鼻をつきさす異臭がただよってきた。
 眼前に川の流れがある。
「いかにわしかて、こんな水では泳ぎたくはあらへんわ」
 河童が水を覗き込みながら、鼻をつまんだ。
 そこはパリの下を流れる下水道である。
 石組みのみごとな天井が半円を描きながら延々とつづき、その下をとうとうと水が流れている。もっとも下水である以上、日常のごみや汚物、あるいは腐敗した動物の死体すら浮かび、小さな虫が飛ぶ。そしてなによりも、冒険者たちのランタンの光を反射し、闇の中にらんらんと燃える幾多ものかがやき――
 それらが、一斉に飛び掛ってくる。
 詠唱するヒマはない。
 そして、戦っても勝てる数ではない。
 カルルがえいっと網を投げると、ネズミたちを文字どうり一網打尽になった。
 そのあいだに、壁をバタン。
 あわてて穴を、そこらへんに転がっていた石でふさぐ。
 とりあえずネズミの群れは見なかったことにしよう。
「どうする? おいらは、この穴を補修するなり、隠すなりしたいんだが‥‥」
 クンネソヤが、そう提案した。
 皆が顔を見合わせる。
(「あんな数とはやりあいたくはない――」)
 その思いはひとつ。
「さて、ここの修理を終えたら、この迷宮の掃除を終えて帰るか!?」

  ※

「お風呂! お風呂!」
 かぼそい裸体を布で隠しながら、パトゥーシャが歓喜をあげる。
 まさかノルマンで、こんなオリエンタルなバスに出会うとは思いもよらなかった。眼前には、さきほどのくさった水とはまるでちがったきれいな水。
 和風の大きなお風呂に湯気が立つ。
「すこし熱いんだわ」
 足をちょこっとつけながら、ウィルフレッドがちゅうちょしている。
「いい湯だぞ!」
 すでに長湯して、すっかり顔が真っ赤になった大宗院は言った。
 そして、唐突に拳をにぎったかと思うと、
「ギルドの受付に、今度はかっこいい男が関係する依頼をい受けてくれとお願いしてやる!」
 白い湯気の中で、大宗院はそう誓うのであった。