【大掃除】 下水掃除
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■シリーズシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:1〜5lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月28日〜09月02日
リプレイ公開日:2006年09月05日
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●オープニング
それは、まだ夏の盛りの日のことであった。
ザマス家の使いが役所の門を叩き、
「下水道の掃除をしたらいかがでしょうか?」
という陳情をしにきたのである。
普段であるのならば、面倒くさがりやの役人はそんな話は鼻で笑って追い返していたであろう。
しかし、今回ばかりはそうはいかなかった。
ザマス家といえば現在でこそ政治の主流から離れているとはいえ、権門であることに代わりはない。いくら役人とはいえ彼ごとき身分のものなど、不評を買うようなことにでもなれば簡単に首を飛ばされるのは明白なのだ。
それに、目の前の男の自信に満ちた態度は、本当に執事ごとき身分のものなのか。
「つまり、パリの下水掃除をしてもらいたいのですよ――」
そういってザマスの家の執事は陳情書の山と手紙をカドルッスの前に差し出した。
「すくなくとも戦争中に下水掃除などという悠長なことをさせたなどという記憶はないですから、その以前から――どれほどの間、あそこの掃除をせずにいたのか‥‥おかげで、昨日もわが屋敷ではネズミに祟られましてね。調べてみたところ、原因は下水にあったそうなんですよ」
ネズミの大量発生の件らしい。
それについては、他の無視した嘆願で小耳に挟んでいる。
(「しかし、なぜ私なんだ!」)
顔には笑みこそ――固まったものだが――浮かべているが、心の中では不満たらたらである。
執事は、いやらしくも陳情書を読み上げている。
なんにしろ、問題はひとこと。
「ネズミが大量発生して困っている」
ということなのだ。
(「しかし、そんなのは俺の知ったことではない! そんな面倒な仕事は他人がやるべきなのだ!」)
口にこそださぬものの、それが彼の本音である。
代わり口では、こんな建前をいう。
「いや、そうは言われましては、私の一存では――」
得意の台詞で、ここは切り抜けよう。
「そうですか上司の採決さえ、さえあればよろしいのですな?」
「ええ‥‥」
これで、あとは私が話をつけるといって陳情をにぎりつぶせばいい。文句を言ってきても知らぬ存ぜぬだ。ただ、この穴のある考えしかできないのが彼の限界である。執事は、その言いににっこりと笑って、手紙の封を切った。
「それはよかった。すでに、あなたの上司から許可を得ているのですよ――」
「えッ!?」
見せられたのは、上司直筆の命令書である。カドルッスが、この件は責任をもって対処するようにとある。
「こ、こ、こ、これは‥‥」
「いや、うちの主人が王宮へでかけた折、たまたま王もいらっしゃいましてね――まあ、うちの主人の弁ですけれどね――今回の件で文句を言ったところ、わざわざ長官を紹介していただき、下水道の掃除をするようにとの命をしていただいたとのことでしてね――」
(「つまり、俺に責任をおっかぶせようというわけか‥‥!?」)
上司の無責任な顔が頭に浮かんだ。
「なんにしろ夏のあいだ、あちらこちらで騒ぎになったネズミどもをいいかげんに始末しなくては、あとあと面倒でしょうからね。それで、やってもらえるのでしょうかな?」
その時のザマス家の執事の言葉づかいは、決して物事を役人に頼む時の口調ではなかったろう。むしろ、将軍が配下の兵に要請――拒否することなど事実上できない――をする時の物言いであったかもしれない。
事実、この執事を前にしてパリの小役人であるカドルッスは緊張と興奮のあまり言葉もなかった。ただ、愚痴だけが心の中で漏れる。
(「なんで、俺が‥‥」)
「よろしいですね。さすがに役所だけでは人でも足りないようですし、邪魔でなければ、当家からもギルドに仕事を手伝うように依頼しておきますよ」
●リプレイ本文
「ただいま!」
はずんだ声がして、ギルドの扉が開いた。
カルル・ゲラー(eb3530)の髪が初秋の風に揺れ、背後からさしこんでくる光にそのほほえみが映える。その笑みは魅了の魔法である。彼のまなざしに見つめられてしまったのならば、ぎゅっと抱きしめてみたくなる女性や、あるいは男性も多いことであろう。
「いまロシアから帰ってきたばかりなんです」
カルルは仲間たちのいる机へと向かい椅子に腰掛けた。
背後で怒声があがる。
「何故、今回も子供と河童と女しかいないんだ。あたしに恨みがあるのか!」
こんな声もあがっていた。
「は〜い、うさ丹、お帰り〜! わたしのことを忘れてなかった? あの河童にヘンなことをされなかったよね?」
「ああズル〜イ! あたしにもうさ丹を抱かせてよ!」
「もう、離さないから!」
などというギルドの娘たちの小鳥のさえずりにも似た歓声にまじって、びしばしと鞭のうなる音がする。
「わしのうさ丹や!」
「きゃ〜」
「うさ丹、逃げようね!」
笑ったような悲鳴があがり、どたばたとギルド中を駆け回る足音がする。さすがに最後にはギルドの主人のやめなさいという声がホールの中に響き渡るのであった。
「こんな騒動を聞くと、ノルマンに帰ってきたんだなって思います」
クッキーを食べながら、カルルは満面の笑みを浮かべていた。
「できますかぁ?」
同じ机ではウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)がちょっと不安そうな、それでもなにかおもしろいものを見つけた子供のような好奇のまなざしをクンネソヤ(eb5005)の手元に向けていた。
「まかせておけ!」
ウィンクしてみせるとクンネソヤは器用な手つきでランタンになにごとか工作をはじめていた。
※
世の中を分類する方法はさまざまである。
種族で分ける方法、国々で分ける方法、あるいは神に尽くす者と悪魔に傾倒するものという分類もあるかもしれない。もっとも、こんな分類方法もあるようであるが‥‥
大宗院奈々(eb0916)が同性の仲間に真理を語った。
「世の中には十五から四十くらいまでの人間、エルフ、ハーフエルフしかいない。それ以外は子供と老人と女性と異種族だけだ!」
ぎゅっと拳を握り締め、今日もきょうとて恋愛の狩人である大宗院は獲物を求めるのであった。ちょうど目の前には有象無象のその他と、すこしばかりの獲物がいる。
とくに目についたのは、ローブ姿の長身の男だ。
ローブをかぶっていないので、黒い髪をした凛々しい顔がはっきりとわかる。やや神経質そうな顔立ちをしているし、魔法使いだろうか。まわりには同じようなローブ姿の者達がいる。
「あっちの班に行こうかな‥‥」
などと大宗院がつぶやいていると、
「みなさん!」
という声があがった。
大宗院にとっては、その他のなにかが叫んでいるのと同じことだ。豚が壇上で人間の言葉をしゃべっているとウソを教えても納得したであろう。つまり、彼女にとっては路傍の石にも等しい小役人が出てきたにすぎないのである。しかし、それにすこしだけ気をとられてしまったのも事実だ。
「しまった‥‥」
男を見失ってしまった。
殺意をこめて、まがいものの男をにらむ。
壇上の役人の声は、やや緊張しており、だいぶうわずり、早口となっている。
「ええっ‥‥本日はお日柄もよく――」
周囲から壮絶なブーイングが起こった。
あわてて、あいさつを打ち切り、役人は今回の説明をした。
班は大きく分けてふたつに分かれているのだという。ネズミ掃討班と大掃除班。まずネズミ掃討班が下水に入ってネズミを退治。その後、掃除班が後片付けと清掃をするのだという。そして、その担当区域は配られた地図に書かれている。
「もっとも、あてにならない地図ですが‥‥」
役人はそう言いかけて、あわてて、ごほごほと咳をした。当然、ブーイングが起こる。こうなると、もう自棄。
「決まった班で行動してください。これは、人員管理の為の処置ですので、よろしくお願いします。というか、他の班にいかれたりすると、仕事をしていなかったということで賃金の支払いはありませんからね、あ、もちろんそのお金は私の懐に入りますから」
と言い出す始末である。
さすがにここまでくると、ブーイングにも笑いがこめられたものとなっていた。
我らがパーティーは対ネズミ班ということで、先発隊となった。
「さあ、ネズミ退治に行くよ!」
カルルがはしゃぐようにして下水への階段を下りていく。他の仲間達も、その後につづく。もっとも、
「絶対、運命の出会いをしてやる!」
なにか目的が微妙に変わっている人もいるようだが‥‥
すぐにあたりは暗くなり、異臭が鼻につき、ブーツの裏をぬめぬめとした感覚が襲う。ウィルフレッドが鼻をしかめた。このような空気は気分のいいものではない。しかし、いつしかその感覚も麻痺してしまう。
ほら、もう彼女の表情が変わっている。
ランタンにとりつけた地図の使い勝手がきわめてよい。
「えへ、うまくいったよ」
お気に入りの一品を手にしたエルフは、ちょっと悦に入っている。クンネソヤの工作の妙技だといっていいだろう。
「君は、天才だね!」
「すっご〜ぃ!」
「えへへへ‥‥」
仲間たちにおだてられ、クンネソヤは恥ずかしそうに鼻をかいてみせる。
「な、なんや、あれ‥‥」
そんなとき、中丹(eb5231)が言葉を呑んだ。
ランタンの火がすさまじいまでの数の赤い輝きを照らし出した。憎悪の色をきらめかせたそれらはパーティーを見つけると、じっとにらみつけ、やがて押し寄せてきた。
攻撃してきたなどというものではない。いや、突っ込んでくるというものでさえもない。押し寄せてくるのだ。幾万ものねずみの群れが、津波のように冒険者たちにぶつかってくる。
「ちょっと、ネズミの数が多すぎる!」
「作戦なんてたてた意味がないじゃない!!」
カルルのクルスソードがふりはらうたびに、ねずみたちが血をあげながらふっとぶがつぎつぎに押し寄せてくる。クンネソヤのゴーレムや大宗院の猫も加勢するが、数が違いすぎる。
「もう、だめや!」
いかに相手が弱いといっても、これほど数がちがうとどうしようもない。こうなると作戦もなにもない。かれらは残された戦術を選択した。
「つまり、後方に前進するんや!」
「逃げるって言えよ!」
しかし、背後にもねずみたちが迫っている。
「こっち!」
横の道に入り込む。
パーティーの前に黒い水の流れが浮かび上がった。
足が止まる。
どうするべきか?
後ろからはネズミたちが迫ってくる。
「わ、わいは水泳達人だけど、さすがに下水で泳ぎたくないわ! 河童の誇りにかけ――」
「いいから、さっさと行け!」
クンネソヤに背中から蹴りとばされた河童は下水にもぐ‥‥らなかった。
中丹の体は下水のなかばまでしか沈まない。
「おや、浅いな!」
「こっち!」
「ああ、、もう、こうだ!」
仲間たちが中丹の背中を川の中の小石代わりにして、次々と対岸に渡る。
「ちょ、ちょっと、おまいらは!」
全員がわたり終え、ようやく中丹が立ち上がった。
しかし、返答は謝罪ではない。
「後ろ! 後ろ!」
「えッ?」
ねずみが中丹の顔に向かって飛び掛ってきた。
武器は間に合わない。
「や、えッ!?」
突然、熱風が彼の前を横切ったかと思うとねずみを炎のなかへ連れ去っていた。中丹の眼前は、熱風ふきすさむ地獄へと一変した。いまや、ねずみの群れ業火に消え、断末魔が燃えさかる炎にかき消される。何者かが火を放ったらしい。炎が周囲を焼いた。すさまじい高温と煙が狭い下水のなかでうずまく。狭い空間の中で火を放てばどうなるのか想像もつかないのだろうか。
「どこのバカや!」
焼きガッパになりそこねながら中丹は迷宮の奥へと誘われていくのであった。
※
「ここは、どこかな?」
すこしおびえたような顔をしたカルルがウィルフレッドを見上げる。子供が母親にすがりつくような表情で、思わずウィルフレッドは、カルルの頭をそっと抱いてた。まるで、演劇の一シーンである。
「雰囲気が、よかったらな!」
大宗院が吼えた。
ウィルフレッドが、気分をなごませるように、
「こんな場所で、いい男とふたりきりだったら、おもしろいでしょうね」
というバカ話したことに対しての返答である。
怒声をあげた大宗院の言はもっともで、その姿格好はすっかりぼろぼろになっている。せっかくの恋愛の達人も、こうなってしまってはぼろ雑巾を身にまとったかわいそうな灰被りである。
広けた場所に出た。
「地図にはない場所だな」
「みたいだな」
ウィルフレッドとクンネソヤは、なんとはなしに足を止めた。
さきほどまでとは雰囲気がちがう。空気の重さすらちがうといえばよいだろうか。
「あれ?」
大宗院の猫が床のほこりをはらいのけていくと、しだいに、ランタンの光が床に引かれた黒い線を浮かび上がらせていく。
「これは?」
「魔法陣‥‥――」
「なんやて!」
中丹は足元を見た。
黒い円が描かれ、ほこりにまみれてかすれているが、禍々しい文様が描かれている。
魔法陣とは悪魔を呼び出す異界への門である。
悪魔――
この世界を破滅させることを本能として持つとしか思えない万物の敵対者は、それゆえに神々の使者にすら比する力がある。そして、その時々に垣間見せる力は確かに、それを物語っていた。しかも、かれらはそれを望む者――むろん、思惑があってのことだが――にそれを分け与えることがある。その時に用いられる召還ゲートが魔法陣である。
悪魔とその信者は常に、この世界を狙っている。
思い出すがよい。
過去からノルマンを襲う、幾多の危機とその裏で暗躍したかれらと下僕のことを。そして、それを食い止めた冒険者たちのことを。
「この魔法陣は生きているのか?」
クンネソヤが鋭い質問を発した。
誰となく首を横にふる。
わかるわけがない。
それどころか、ここに来たことは、はたして偶然なのかという漠然とした不安さえつのる。沈黙が訪れた。突如、その静寂が破られる。
「おい!」
その声に、全員がふりかえった。
魔法使いであろうか。
漆黒のローブをかぶり、冒険者たちを見ている。
先手必勝!
クンネソヤは松明を投げ、相手の体勢を崩すと同時に駆けだし、男にぶつかったか思うと、馬なりとなって、首元にクナイを突き立てた。
「お前は!」
「わ、悪い、け、剣をひけ」
男が悲鳴をあげた。ローブを脱がせる。
「あんたは!」
それは、大宗院が下水に入る前に見かけた男であった。
「わいらに、なんの用や!」
「いやあ、悪かったよ」
そう言って、男はさきほどの件を陳謝した。
かれらの班がねずみを退治するために火を放ったのだが、予想外に火が広がってしまっての惨事だったのだという。しかし、運のいいことに被害にあった班はいままでのことろないのだという。それに、我らが班が確認されて全員の無事が確認されたのだとも言う。
「そうか」
大宗院は媚びたようなまなざしを向ける。
見れば、いい男である。年齢的にも十分に射程範囲内だ。舌なめずりをしながら、言葉をかけようとした。
「ね‥‥」
そのとき、背後から別の声がした。
「ねえ、あなた」
「あ゛?」
入り口からローブの人物がまたやってきた。ローブをとると、そこには若い女の顔がある。男が愛情の篭った声で応えていた。
「大丈夫だよ、おまえ」
「え゛!?」
※
カルルが、そのまぶたを細める。
外はやはりまぶしい。そして、地上の空気のなんと清涼なことであろうか。冒険者たちはいっせいに大きく息を吸った。
それにしても、これだけの災難にあったのは、この班だけであったそうである。他の班は、どれも簡単な仕事――ねずみなんていなかったという班すらある!――で、これだけの仕事で給料をもらえるなんて、悪いくらいだと笑いあっていたほどであった。
「この差はなんなだろうな?」
頭をかきながらクンネソヤがやれやれとため息をつく。
「ううぅんと日ごろの行い?」
ウィルフレッドが顔を傾ける。
そしてその横では、あいかわらずの行いである。
「男はいないのか! 男は!」
すっかり大宗院の中で女が燃えてしまったらしい。はあはあと肩で息をしながら、瞳はらんらんと輝き、いまにもあたりの男を突き倒してしまいそうな雰囲気である。
獲物がいた!
「めずらしいですな、このような場所にこられようとするのは?」
杖をついた執事が未来の主人に意外そうな顔つきで言っていた。
「ボクも冒険者のはしくれですから‥‥」
それは、今回の件でもパトロンとなったザマス家のショウタ少年であった。ただ、その瞳にはとまどい、あるいは不安にも似た輝きがあったかもしれない。
「そうですな。魔法使いの弟子でしたか」
「いえ、魔女の‥‥先生の弟子です‥‥あれ?」
ショウタは言葉を切った。
大宗院が、ずんずんと歩み寄ってくる。
そして、ふたりの前に立ったかと思うと、胸をはり、
「おい!」
と怒鳴った。
そして、執事の襟首をにぎったかと思うと――そんな状態になっても執事は平静だ――顔を赤らめながら叫んだ。
「どうだ、あたしと一晩付き合わないか!」
一瞬の間があき、やがて執事は、臭い女の、くさい台詞に苦笑すると、わたしごときでよければといって片手で抱きしめてくれるのであった。
※
かるるくんのにっき。
「内緒だけどね、なぜだか大喜びして帰ってきた大宗院のおねえちゃんは、きたなくなった体を洗うからといって入ったお風呂の中で眠っちゃって、執事さんに会いに行けなかったんだ!」