決着は誰の手が?

■シリーズシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2008年09月29日

●オープニング

「これで終わりかしら?」
 女騎士が机上の地図を確認した。
 手書きで描かれた地図に、さらにあとで書き加えられた文字や絵が書き加えられつづけられている。
 ノルマンの辺境で起きたゴブリンたちの発起は、早々に精鋭である国王親衛隊を投入した人間側の勝利で終わろうとしていた。
 誰もが越冬すら覚悟をした戦いはしかし、秋にすらならぬまま終わろうとしている。
「しかし、あれが騎士のすることか!」
 もし、ゴブリンが人間の言葉をしゃべることができたとしたら、そう口悪しくののしったにちがいない。実際、紫隊の騎士たちが用いた戦い方は騎士道などという言葉からはまるでかけ離れた戦い方であった。
「朝駆け、夜襲は当然、ゴブリンを挑発するさまも、あたかもやつらがごとし。まるで騎士の戦いには見えず」
 国王に送られる文官の戦況報告には、そんな一文がある。
 実際、そこまで戦況が有利になったのは、とある冒険者たちの活躍により手にいれた、ゴブリンたちの陣形の地図があったからである。もとより紫隊には、騎士であるからかく戦うべきであるという思想はない。あるとするならば、それはいかに効率よく勝つかということであり、それはその長に個性によるものであったろう。
 蝋燭に浮かぶその笑みは血なめずりする猛禽類――それも狐の狡猾さをあわせもった――のそれに似た横顔が、蝋燭の炎に浮かび上がっている。
 指を顎にあてながらまぶたを閉じ、長いことなにごとかに思いをはせていた。
「気に入らんな‥‥」
 やがて、ぶぜんとした表情で目を開けると、女がのぞきこんでいた地図を同じようににらんだ。
「なにがですか?」
 戦いの後半より、この男から参謀の任を与えられた女が問う。
「なに、この戦いの初期の頃、ゴブリンたちにしては賢い動きをすると聞いていたので、いくつか試すように奇襲を試みたことがあったな」
「そういえば――」
 自分もその作戦のひとつに連なっていた女は、うらむような目をしてみせた。
 それだけ部下を危険な目にあわせたということなのだろう。その作戦は失敗に終わっている。被害こそ最小限であったが、まるで人間が人間の策を読むようにゴブリンたちが行動したのだ。
「さて、そんなときお前ならばどうする?」
「パターンが読まれているのならばパターンをかえるまでのことです」
「あるいは策を練る者をかえるという手もあるさ」
 ひととひとの戦いであるのならば、相手の人となりを知る者は有利である。ならば、それとはなく人柄を変えてみたらどうだろうか。
「だから、わたしに任を?」
「そのあたりから敵の裏をかけるようになっただろ? どうも俺を知っている者が、ゴブリンの裏にいるのかもしれん。だから、わたしはこの戦いを利用して、こんな作戦を練ってみようかと思う――」
 男はそういって、ひとつの策を口にした。
 話を聞き終え、女は肩をすくめる。
「そのような任務は、わたしたちでもよいでしょうに」
 この隊長の下にいて行儀のいい騎士のふりをしつづけるのは不可能なのだ。
「別に今回は暗殺ではないからな」
 今晩の食事のメニューでも言ってのけるように紫隊がおこなう仕事の一端をさらりと言ってのけ男はパリの友へと手紙をつづった。
 いわく、こんど紫隊はゴブリンの本隊と正面からぶつかる。そこで、その隙をついて、敵の本陣を強襲してもらう。ただし、目的は捜査と奪取である。
「なんといったか‥‥餅は餅屋だったかな?」
「餅とはなんですか?」
 かつての戦争で東洋にも渡ったことがある騎士は、一瞬、驚いた顔をしたが、彼女が戦後になってから騎士になったことを思い出して苦笑した。
 時代は変わっているのだ。
「東の国にある食べ物だ。機会があったら、かの地から来たものたちが集っている村にでもいってみるのだな。そして、その諺の意味を聞いてみるのもいいかもしれんな」
「そうですわね。機会がありましたら‥‥そのためにも、早く終わらせましょう。ひさしぶりに見慣れた河を見たくなってきました」
「パリからではないのが残念だろうがな」
 そういってふたりは笑うと、これからはじまる戦いの策を練り始めた。

●今回の参加者

 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea8078 羽鳥 助(24歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3416 アルフレドゥス・シギスムンドゥス(36歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「これより戦いがはじまる」
 軍隊を前にして、紫のマントをひるがえしたノルマン王の代理が語りだした。
 戦いの前の激励である。
「諸君らにとっては、くだらん戦いかもしれん。ゴブリンなどが相手では、名誉のある戦いなどできぬと思う者もいるかもしれない。しかし、思い返してもらいたい! 復興戦争からはじまる戦いの数々を。諸君らが、あるいはその親族の者が加わっていたかもしれない数々の争いを! 我が国は狙われているということを!」
 谷間にこだまする声は、それだけではない。
「ならば諸君、これより戦争をはじめよう!」
 どっとときの声をあがったかと思うと、それをまっていたかのように山間にある狭隘な場所からドラムの音がしてきた。
 一列にならんだゴブリンたちたちが手にもった槍で地面をたたきはじめた。
 大柄なゴブリンが、これまた大きな声で怒鳴り、地が鳴り、ときの声が山にこだまする。
 いま最後の戦いがはじまろうとしている。
「はじまるのかな?」
 アルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)は顎鬚をなでながら、眼下にあるふたつの軍勢を見つめていた。ふだんであるのならば、その中にあって勇を鼓すのだが、今回の任務はやや特異だ。ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)が確認するように言う。
「潜入任務ですね。数は少ないですが、その分被発見率も少なくなるはず。頑張りましょう!」
「そうかな? あの男のことだから、俺たちをおとりに使うくらい考えていそうだがな」
 打ち合わせのとき、
「また危険な依頼だな。報酬はたんまりと弾んで貰うぜ? つーか、捜査と奪取と言いつつ、俺達の強襲が敵に与える混乱も勘定にいれてるだろ。紫の隊長さん」
 と言って、相手に苦笑をかった男が応じる。
 背後に角笛を聴きながら、かれらは歩き始めた。
 すでに何度目かの任務だ。
 地理はわかっている。
(「あれから‥‥」)
 この戦いがはじまってから、どれくらいの時間が流れたのだろうか。
 あの頃は青かった木々の枝葉が、いまでは赤く染まろうとしている。
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)は、秋の葉にも似たその羽で、同じ色に染まろうとしている木々の枝葉のあいだを飛び回っては、デルホイホイに騎乗しては休憩をとる。
 これが重要な潜入の任務であるのはわかっているが、緊張ばかりしていては仕事はこなせない。必要なときには力を抜くことも必要だ。
 山の向こうのどこか遠くから祭囃子が聞こえた気がした。
(「ひさしぶりに餅が食べたくなったな」)
 仲間がぽつりとつぶやいている。
 打ち合わせのときに、すこし話題にでた料理が彼の望郷の念を抱いたのかもしれない。
「なんか雲行きが怪しいな」
 そして、東洋においては潜入の達人だと噂される職業の男は、まだ青い空を見上げて、そんなことを口にしていた。
「雨ですか?」
 アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)は不思議な顔をして空を見上げた。
 夏の去った空は高く澄み、すいこまれてしまいそうなほどに青い。こんな空だというに、羽鳥助(ea8078)は鼻先をかきながら天気の予報をする。
 うーんとうなりながら、気分屋の娘は、すぐに別のことを考え出していた。
「ニナは大丈夫かな?」
 陣においてきたペットのことを思い出していた。
 すこし考え込むようなしぐさをしてみせながら、、お尻の尻尾をぶらぶらとさせた猫耳娘がゆく。とうぜんの話だが、森の小道をゆくにしては、ちょっと不思議なかっこうだ。
 あるいは、ちらりとだけその姿を見たのならば、未知妖精だと勘違いをしたかもしれない。なんにしても猫の心は女の心。女心は秋の空。
「雨の匂いがした気がしたんだよな――」
 羽鳥の予報はあたった。
 ゴブリンたちの陣営へ近づくころになると、空は曇りはじめ、ぱらぱらとふりだした雨が雷鳴をともなった豪雨へと変わるのにほんの数分とかからなかった。
「まずいですね」
 ヴィーヴィルは気がついた。
 この天候を利用すれば身を隠しながら潜入することは簡単かもしれないが、同時に戦いの方もどうなったかはわからなくなった。
 通常、こうした戦い――人間同士だという前提はつくが――このような天候になると、自然と両軍が兵をひくことになることも多い。むろん、復興戦争という修羅場をくぐってきたノルマンに、そのようなロマンを語る騎士など少数派になってしまったし、主流派であるリアリティストたちなどからは、
「やつらがやっているのは戦争というスポーツさ」
 などと嘲笑されるわけだが、だからといってこれほどの豪雨になると――
「まずいな」
 歴戦の冒険者たちも肝を冷やしはじめた。
 近くで雷が落ちた。
 道が川のようになって水が走る。
 敵の陣地までは近いが、白いカーテンに閉ざされてしまっている。
 こうなると――
「目立たない場所に隠れて、紫隊の攻撃と同時に五人で一斉に突撃します。陣形の形や魔法などで手薄な場所を読み取り、そこから本陣を強襲‥‥」
 ヴィーヴィルは実行が困難になりつつ初期の作戦を口の中で何度かつぶやいてみせた。
 機に臨んで変じ応ずる。
 それができるか否かで、かれらのレベルがわかるといっていい。
「どうする?」
 背後に立っていた、びしょぬれの戦士がにやりと笑ってみせた。
「わたしは――」
 戦場ではなく、この地に戦いを求めた騎士は言葉をいちど呑んだ。
 そして、運命に向かって賽を投げた。

 ※

(「どうした?」)
 もし、ゴブリンの言葉をわかる者がいたのならば、かれがそう仲間に問いかけて絶命したことがわかったであろう。
 水に血の川が浮かぶ。
 ひとつの大きな流れは上流部でふたつに分かれ、ふたつの死体という源泉へと突き当たる。ふたつの哨兵はすでに物となって、横たわり、その場には侵入を許してはならない者たちの姿があった。
「どこかな?」
 侵入に成功した猫が魔法を唱えている。
「あら、残念。隠し扉はなし。ゴブリンじゃあ、そんな頭を使う物はないか」
「どうだ?」
 二手に分かれてテントをめぐる。
 そして、手にはいった書類や本の類は手当たりしだい羽鳥の飼い犬の背に乗せていると、犬がうなり声をあげた。
「あのテント!」
「だれだ!」
 入り口を開ける。
「困りましたね‥‥」
 その場にいたのはローブ姿の男であった。
 やれやれと言いながら、そのローブの人間は頭をかいた。
「あなたは!?」
 きらめく剣先をつきつけられ、挙動不審者が両手を挙げながら、まいったまいったといったジェスチャーをしてみせる。
「名前は?」
「名無しの権兵衛です」
 肩をすくめながら、いかにもあきらめましたという態度でさらりと言ってのけた。
「いや、それはどう聞いても偽名だから」
 ちがうちがうと羽鳥は顔を横にふり、飼い犬が吼える。
 なんにしろ怪しい男だ。
「まあ、わたしたちだって大概ですけど」
 空に浮かんだパール、目の前の男を見る。
 どこぞの濡れねずみたち――いや、一匹だけ猫がまじっているが――とちがって、この灰色のローブ男は、それほど濡れてはいない。
 雨がふりだす前からゴブリンどもの陣営にいたということだろうか。
「そういえば魔法使いがいたな?」
「職業差別ですか?」
「区別さ。ゴブリンに捕まった哀れな農民だったら助けてやろうとも考えるがな」
「だから職業差別じゃないですか! わたしがゴブリンに捕まった哀れな魔法使いでないという証拠はあるんでしょうか?」
「あなたがゴブリンに捕まった哀れな魔法使いであるという証拠でもあるのですか?」
 男の首下にヴィーヴィルが剣先をあてる。
「これは見目麗しい貴婦人に、このような仕打ち。そちらの趣味はありませんが、これほど美しい方に、このような冷たくも鋭利なものを首元にあてられますと、首元の冷たさよりも背筋を走るぞくぞく感が堪りませんね。なんとなくそちらの方面の趣味の方が喜ぶ気持ちもわかるというものですな」
「よくもこの状況で舌が回る」
「舌が回らなければ、死が分かつときまでと誓い合った首と体が永遠の離別となりそうな雰囲気なので、わたしも必死なのですよ」
「それでは、なぜこんな場所にいるのか説明を願おうかな?」
 男はいやねと恥ずかしそうに頭をかく。
「証拠を残してしまいましたね。抹消しないと、いろいろとまずいのですよ。それで、捜しているうちに――ゴブリンたちに整理というものを求めた私達がバカでしたよ――あなたたちとかちあってしまった。そこで、まあ、こういう機会を待っていたといったらどうですか!?」
 ぱちんと男が指を鳴らした。
 テントの幕が落ち、あたりにはゴブリンたちの剣、剣、剣。
「さぁ、やってくだ‥‥ちょ、ちょっと待ってください!」
 突然あらわれた敵の増援が、そのまま男を攻撃しはじめた。
 唖然呆然。
「あ、そうか!」
 パールは閃いた。
「紫隊が戦いに勝ったんだ!」
「だから、味方であった人間でもうらむ?」
「なんという自業自得なんでしょうか!?」
 男は、ひとり防戦をつづけていた。
 水を操りながらゴブリンを屠りつづけている。
 なかなかの腕前だ。
「なにやっているんですか! 助けてくださいよ!」
「なんで助けにゃならんのだ?」
「わかりました。わかりましたよ! わたしも譲歩しますよ。あなたたちが捜しているであろう物を提供する。それで、どうです?」
「自暴自棄ね」
「生きてりゃあ‥‥ってことも人生にはたくさんあります。それに、わたしが協力した方があなたたちも生き残る可能性が高くなるでしょ?」
「脅迫ね。でも、きらいじゃない!」
 騎士は、一刀でゴブリンを斬って捨てた。
 もとより戦意を喪失している敵である。
 数さえどうにかなれば、どうとにでもなる。
「前方へ撤退!」
 騎士が、高らかに宣言し、その奇妙な軍隊は進軍をはじめた。
 すでに、雨があがろうとしている。
「魔法がきれたみたいですね」
 男がつぶやいていてみせる。
 しかし、それを問い詰める余裕はない。
 斬って、斬って、切り捨てて、どれほどのゴブリンを悪魔の住むかれらの天国へと誘うことができたであろうか。
 やがて、背後から迫ってくる敵の姿は消え、目の前にかつての戦場がひろがった。
「終わっていますね‥‥」
「こちらも終わりかな?」
 傭兵が、そういって協力者であった男にふりかえった。
 しかし、これほど奇妙な戦いもめずらしかったろう。
 敵であった者がさらにその敵に裏切られてともに戦う。
 敵の敵は味方とはいっても、ここまでなし崩し的に協力することとなるのは、彼の戦歴の中にあっても稀有なケースであったろう。
「じゃあ、これが約束の品ですよ」
 にっこりと笑って男は、同じ職業の女にそれを手渡した。
「あ、ありがとう」
「それでは、みなさんに神の祝福のあらんことを」
 そういい終えると、男はゆっくりと背中むきに歩き始め、やがて弓矢が届くかとどかないかという距離にきたところで全力で駆け出していた。
「‥‥逃げられた!」
 パールがデルホイホイに追うように言って騎乗すると、アルフレドゥスがそれを止めた。
「いや、欲しい物は手に入ったようだ」
 アナスタシアがぬれた書類の中身を確認した。
 雨のせいで、なかば字が溶け出しているが、時間をかければなにかわかるかもしれない。というのが彼女の所見である。
 ならば、無理をする必要はない。
「でも、ずぶぬれじゃない!?」
「わたしたちもね」
 騎士がぬれた長い髪をかきあげると雲間からさしこんできた陽光にきらきらと輝いた。
 そして、その横では書類を読み終えた魔法使いが猫がやるように、ぶるっと体をふるわせていてた。
「終わりよければすべてよしかな?」