【星に願いを】乳母の願い
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■シリーズシナリオ
担当:まれのぞみ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2008年12月30日
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●オープニング
「それでは、今年の厄を引き受け‥‥いや、この重要な役を引き受けていただけるのはシュバルツ隊長というわけですね」
ほっとしたため息をつきながら、
ノルマン有数の猛者であり、怖いものなどないはずの隊長たちの顔にも安堵の表情が浮かんでいるのは何事か。
そもそも、その隊長たちの視線が集まっている男もまたうらめしそうな顔で、さきっぽに黒い色のついた籤を眺めている。
「なんにしろ、公平なくじ引きの結果ですか万事、宜しくお願いしますね」
一人が場の解散を宣言すると、お疲れさまとか、ご苦労さま、あるいはご愁傷さまといって同僚達が、つぎつぎと部屋を出て行く。
あとには紫衣の騎士たちが残された。
「それで、どんな方なのです?」
脇にひかえていた騎士が声をかけてくる。
「うん? ああ、そうか。お前は、あの方に会ったことはなかったのだな」
シュバルツ・カッツは、気を取り直すように顔をあげてまだ若い女に応えた。
「はい。噂はかねがね聞いていますが‥‥」
「すでにいい年齢だからな。城の近くに小さな屋敷をかまえていて、そこに隠居されているんだ」
させているのだがねと言いかけて、言葉をのむとシュバルツは、彼女とともに城の外へと向かった。
聖夜祭も近い。
城内は活気にあふれ、女官たちがたのしそうな声をあげ、担当の文官たちがせわしげに、宮殿の中を駆け回っている。
舞踏会の準備も進んでいるようだ。
「ご苦労なことだ――」
ふだんならば皮肉めいた口調で語られるであろうセリフが、きょうは妙に重いものとなっている。
門を抜けると音がした。
冬の風に、体をふるわせ、ふたりはマントに体をつつむ。
もとより騎士のマントというものは、戦場における防寒具であり、夜は毛布代わりのものなのだから見栄さえ気にしなければこれが本来の使い方である。
ちょうど、城門からマントもしていない従者たちが数人でてきて、まるで押し競饅頭でもするかのように身を寄せあって、道の端の壁沿いを足早に駆けて行った。
白い息を吐きながら空を見上げる。
曇った空に北の風が吹きつづけている。
あたりの木々にはすでに葉もなく、木陰には白い雪がひっそりとつもってもいる。パリですら、こうなのだ。ドレスタットは、すでに雪の中にあるのであろう。
セーヌの河はどうか。
あるいは、各地の戦場となった土地へ派遣された兵たちは、どのような目で、この空を見上げているのだろうか。
「あるいは、その余裕すらなく――」
心にとりとめもない不安がわきあがってくる。
やがて、一軒の家へとつく。
ノック、ノック。
「はい」
声がして、扉が開いた。
背の高い少女が出てきて、ふたりの顔を見た。
そして、ぺこりと頭をさげ、騎士たちを家の中へと迎え入れ、暖炉へと導く。
途中、仲間を見かけると少女はその耳元になにかささやく。
彼もまたお辞儀をして、足早にどこかの部屋と向かった。
「なぜ、隊長がたがなんですか?」
暖炉前に座り、手をかざしながら副隊長の娘がたずねた。
「行かねばならな者がいかないならば誰かが代わりに行くしかあるまい」
口許に、多分の不平をたたえながら騎士は応じた。
「でも、陛下の乳母さまなのでしょ?」
「まぁな‥‥」
シュバルツはため息めいた声で応じた。
結局のところ、かれらが行った籤引は、その乳母さまに陛下が会おうとしないために誰が会うかを決めるものであったのだ。
「なぜ陛下がいらっしゃられないのですか?」
「それは――」
何かを言いかけたところで声がした。
「あらあら、いらっしゃい!」
長い夜がはじまる――
※
「それで‥‥」
玉座で頬杖をつきながらノルマンでもっとも高位にある男は部下をうろんな目で見た。
「わたしに彼女はどうしろと?」
あからさまにいやそうな顔をするのは、何を言われたのかをだいたい察しているからであろう。
そして、それに応じる男もそれはすでに計算の内である。
「別にたいしたことではありませんよ。聖夜祭の舞踏会に出ていただきたいと。貴族の子弟たちが多数参加する会に陛下も参加していただくことに、なんの不思議がございましょうか?」
「どうせ、お前も噛んでいて、なにか企んでおるんだろ?」
「企むなど、なにも。そもそも、三日三晩ものあいだ陛下が結婚されないことに対する愚痴を延々と聞かされた者に、そのような余裕はございませんよ。わたしとしては、結婚はともかく舞踏会への参加の確証だけいただければ十分でございますからな」
「ひどいことを言うんだな」
「だから、その報告を乳母さまにしてひと眠りしたいのですよ。なんなら、陛下が直接、お会いに行かれて参加すると言っていただければ――」
「ば、バカをいうな!」
王の叫び声が部下の声をさえぎった。
隊長クラスで三日三晩なのだ、自分がいったら、それこそ聖夜祭の晩まで説教と愚痴を延々に聞かされてしまう!
子供の時代のトラウマとは、かくも重い。
「なんにしろ、あの方は、多くの貴族の若者たちがしているように舞踏会で、陛下によいご縁があるように動いてもらいたい――そう、思っておられるのですよ。言っておられましたよ。齢短い者の願いをかなえてほしいと――」
「おまえ! 脅す気か!?」
「どうしました?」
相手の動揺を知らぬ顔で受ける。
「事実を言ったまで、だだをこねても、なにもでてきませんよ」
「わ、わかった‥‥」
両手でまあまあとジェスチャをして、王はこのような提案をした。
「参加することにしよう。しかしだ、せっかくの聖夜祭なんだ。舞踏会のあとでよいから、がんばったご褒美に何かもらうというのはどうだ? 少々、気になっている指輪があるんだ」
「子供じゃないんですから‥‥指輪ですか? わかりました。じゃあ、こうしましょう。舞踏会に出ていただければ――もちろん練習もしてもらいますよ。どうせ、一年前にならったステップなど、ほとんど忘れているでしょうからね――陛下の欲しがっている指輪を手にいれるべく善処はしましょう」
もちろん、言葉に仕込みをしこんだことに相手は気がついていない。
「よし、約束だからな!」
※
「だれにあげるんでしょうね?」
まだ、あどけない少女のまなざしは好奇心でかがやいている。
あの独身の男が指輪をほしがったのだ。
いよいよ、ノルマンの民の望む、その時が近づいているのか――その思いに胸をこがすのもおかしくない。どこの幸せな娘に、かの王の愛情が注がれるのか――
しかし、それに対する上司の返事はつれない。
「さあな。まあ、なんにしろ、今回は舞踏会の練習をがんばってもらおうではないか。たしか、今回は練習だけで数日がかりの大掛かりなものだったかな?」
「はい。パリにいる貴族の子弟も集められるそうですね」
「ならば人員をいろいろと手配しなくてはならんか――」
●リプレイ本文
星の瞬き、風の息吹。
聖なる夜のしじまは祈りに満ちみちて、新雪を踏み分けながら、月光に浮かぶ教会へと少女は足早に足を進める。
さきほどまで森の中で村の若者たちのダンスを見ていたら、すっかり遅くなってしまった。
(「いいな――」)
まだ、幼い少女の目には、年上の娘たちが、じぶんの王子さまと呼んだ彼氏とともに、吟遊詩人の奏でる音楽に合わせて焚き火のまわりをまわりながら踊っていた姿がなんとまぶしく見えたことであろうか。
(「王子さまか‥‥」)
幼心にあわい思い。
教会から鐘の音が響いてくる。
もうすぐ聖夜祭のミサが始まる。
急がないと司祭さまに怒られて――‥‥足が止まった。
「あッ!」
幼き日の少女の目に、それが映る。
天から落ちてくる白い光。
それは短いあいだに広い夜空のあちらこちらからふりそそぐように見えて、リーディア・カンツォーネ(ea1225)は祈るようにまぶたをとじた。
誰かの声がした。
「さあ、お星さまにお願いをなさい――」
※
小槌の音が響き、会場の模様替えをする召使たちの楽しげな声があちらこちらから聞こえてくる。きのうまでの剣は手放して、きょうはのこぎり片手にデニム・シュタインバーグ(eb0346)は会場を駆け回る。
「お、デニムじゃないか!」
騎士なれば、昔のなじみの顔も見える。
「あ、こんにちは。あなたもですか?」
もっとも相手は舞踏会の稽古。
明後日の晩には、この会場は聖夜祭の大舞踏会場になる。
まだ若い知人は、舞踏会を機会にいい相手に出会うことを期待しての参加だとのことである。
「もっとも、オレなんかよりもいい身分の方がくるからな‥‥」
そうくさす相方は、それでも国に十数人しかいない爵位をもっている。
「って、いきなり上物発見! じゃあ、オレは練習に行くから」
「なんだかな‥‥」
デニムがあきれながら見れば、早くも練習が始まっている。
「はいはい、そうそう」
見目麗しい女教師が手をたたきながらステップを教えている。
「なるほどね‥‥」
デニムは納得して仕事へと戻った。
リリー・ストーム(ea9927)もまた、きょうは鎧を脱ぎ、ふだん着でこの場にいる。
カールのかかった髪をきょうは頭の後ろ側で結び、動きやすいようにかズボン姿。男装めいた格好に、異性はもちろん、高鳴る胸の鼓動を覚えた貴族の若い娘たちも多い。
リリーが、手をあげ楽団員に曲のストップを指示する。
そして、思ったことをふたこと、みこと伝えると、英国の貴族は指を鳴らして音楽を要求した。
練習がつづいている。
会場の準備も進む。
書類に目を通し、通りかかった人にそれぞれに指示を与えながら、ふだんとはちがった仕事ながらも、それはそれで充実した時間をおくっている男がいる。
「シュバルツ・カッツ卿、ジュネ・バープル卿、お久しぶりさね」
そんな時、褐色の肌に朱をさしたような赤い唇の女が姿をあらわした。
「お前は――」
シュバルツはしばらく間をおいた。
胸元の薔薇が記憶ある。
「ライラ・マグニフィセント(eb9243)‥‥だったかな?」
「おひさしぶりです」
「こんな陛下の私事がらみの仕事によく来てくれたな」
「興味がありましてね」
ちらりとシュバルツの影によりそう少女の姿を見た。
紫色のジュネ。
はたして、それが本当の名前であるのかどうかさえもあやしい。かつての陛下の思い人――そういえば、昨日の墓参りのとき、なんとかという男が化けた女をどことなく幼くしたような雰囲気がある――に似ているとされているが、なぜ腹に何かを持っていそうな男が身近に置くのかも興味深いところである。
「さて、わたしは国王陛下の護衛と警戒も兼ねて給仕に回るとするかね。ジュネ殿も一緒にどうかね?」
「はい!」
素直なもので、国王守備隊の副長ともあろうものが快諾して、そのあとを追っていく。シュバルツは参加者を集めた。
一通りのあいさつと説明のあとで、こんなことを付け加える。
「約一名、行き遅れのうえに遅刻をしでかしている男がいるが気にしないでくれ。そのうち、部下たちが草の根をはってでも探し出してくるからな」
「陛下か‥‥」
会場つくりの手伝いをしていたリーディアがはぁとため息をついた。
「どうしたん?」
「な、なんでもない」
顔をほんのりと染めたリーディアは仲間の顔を両手でふさぐようにしながら、あわててみせたりする。
それでは、なにごとかはバレバレ。
「はぁはーん!」
っと、そのようすが、あまりにかわいらしくて、ついついまわりの女の子たちのおもちゃになってしまっている。
「ち、ちがうもん!」
顔を赤くしながら大きな声で否定をしたりするから、余計にまわりにからかわれる。
(「あらあら」)
ちらりと横目で、その姿を見てリリーもおかしかった。
なんにしろ計画開始まで、あとすこしか――
さすが毎年、同じようなダンスをやっているだけで早くも多くの若者たちがコツを思い出している。もちろん、何人かはできの悪い生徒もいるが、そのような者は残す手はずになっていたから好都合だ。
ならば、あとは計画どうり――
街のお菓子屋がエプロン姿のジュネとともに戻ってきた。
(「頃合ね」)
手をたたき教え子たちに休憩の指示をだした。
そして、生徒たちにアフタヌーンティーだと伝え、自分も休憩。
と、その前に。
「リーディア、ちょっとこっちにいらっしゃい」
リーディアを手招きをする。
「なんです?」
にっこりと笑って、手を取り、
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
そのまま退場。
「はい、ちょっと待って!」
リリーに声をかけようとしていた男の肩を知人がつかむ。
「デニム、なんだよ?」
「ちょっとね‥‥それに、あそこの女の子たちとお茶をどうだい? 僕たちを呼んでいるみたいだですよ」
「ったく‥‥まあ、いいか。じゃあ、行こうぜ!」
※
「味はどうかね?」
背後に薔薇をしょっている。
そのときのライラの姿を見つめる少女たちの目には、たしかに彼女は、そう見えていたはずである。若い娘たちの淡い恋心。世間慣れしてない貴族の子女は、顔をまっかにしながら、ライラの話し振りに耳を傾けていた。
「おいしぃです!」
「このような、めずらしいお菓子は、うちのシェフも作ったことはないものですわ」
「なんなんのですか?」
少女たちの好奇心あふれた視線を一身に受ける。
「アーモンドの粉と、砂糖、卵白で作るお菓子なんだがね、ふわっとサクサクしていて不思議な食感かな?」
わかっているくせに疑問調。
それなのに少女たちはうんうんと首を縦に振る。
「トゥーレーヌ地方にある修道院で珍しいお菓子を作っているようなのでね――」
そう言って、ふだんのそれと――本物の悪魔などと戦うこと――に比べればたいしたことはない。しかし、世間知らずの娘たちにとっては驚異的な冒険を語ってみせた。
「――かくして、わたしはそのレシピを知ったわけさね」
「それで、このお菓子はなんという名前なのです?」
「わたしなりのアレンジを加えたものだし、そうだね――」
いたずらっぽく、目元を細め、
「パリのお嬢さまたち――パリジャンヌ――のお菓子とでも名づけようかしら?」
少女たちがきゃあといって笑い出し、パティシエもまた笑いながら、ありがとうと応じた。
そのとき、どっという声が入り口からあがった。
「あら、誰かがいらっしゃったのかしら?」
※
「陛下がお見えになりました!」
その左右の腕をふたりの美女につかまれての入室。
傍目にはうらやましくもみえるが、見る者が見れば、
(「連行じゃないのか!?」)
というのがわかる。
入室後に、その女たちはシュバルツのもとへいき、なにごとか耳元にささやいいていた。部下の騎士たちなのであろう。
(「やるね‥‥」)
それを観察していたデニムは、さきほどの女の子たちからのダンスのお誘いはことわって、いまは壁の花。
デニムは、その自然な、しかし意地が悪い入場を見つめた。
しばらく、固まっていた表情をすぐにあらため――さすが政治家である陛下はまず俳優であられる――ウィリアムは笑顔をあたりにふりまいた。
あたりから黄色い歓声があがった。
と、ふたたび、どっと歓声があがった。
「なにごとですか?」
なにかがきたという胸の鼓動。あわててデニムが人垣を掻き分けて最前列へ行くと、王の前にひとりの姫がいた。連れの騎士が――もちろん、さきほどのズボン姿でだが――肩膝をつき、騎士の礼にのっとって望みを述べている。
「この子と一曲お願い出来ませんかしら? 冒険者の中には、ダンスが不慣れな子も居ますし、良い予行演習にもなりますわ」
「えぇっ! えぇつ! ええええっぇええ」
「さあ、女は度胸よ!」
もじもじするリーディアの背を押し、ウィリアムの前に押し出した。
「だ、だめですぅぅ」
白のドレスを身に着けた少女の体が男の胸の中におさまり、しばらくして恐る恐ると顔をあげる。
困ったような、そうでもないような表情のウィリアム。
「わ、わぁぁぁっぁっぁ、ご、ご、ごめんなさ〜いぃぃぃ」
リーディアは顔をまっかにして、ひたすら頭をぺこぺこ。
「穴があったら入りたいですぅ〜」
「踊るのは、かまわないが‥‥」
あまり乗り気ではないウィリアムではあったが、音楽が聞こえてきたのではどうしようもない。少女の手をとり、足を動かし――
(「うわぁ――」)
リリーの目の前が真っ暗になった。
リーディアがうまく踊れないのわかっている――あとで補講組といっしょに教えるつもりだったのだ――が、別の理由でぜんぜん踊りになっていない。まさかウィリアム陛下までもがステップがぜんぜんできていないというのは予定外のできごとであった。
「陛下は、ああ見えても自分が興味のないことに関しては、本当に忘れっぽいからな」
シュバルツがさらりと言ってのける。
「おや、なにか言いたそうだね。そうさ、だからわざわざダンスパーティーの練習などというものを用意して、さらに公務を中断して――それで、逃げ出そうとしたが、まあそれはいい――までこういう時間を用意しているんだからな」
しばらくして、ウィリアムは音楽を止めるようにと命じた。
「大丈夫ですか‥‥」
心配げなリーディアに向かって男はにっこりと笑った。
そして、曲の名を叫んで、指を鳴らす。
「こういうのは、どうだい!」
「あッ!?」
軽やかな音楽が聞こえてくる。
「知らないかい?」
「いいえ!?」
ふたりは踊った。
宮廷の優雅なステップではない、粗野な、だが軽やかなリズム。
焚き火をまわるように踊る、それは、遠き昔に見知った、あの踊りであった。
※
「ところで、今回どうして舞踏会の練習という話になったのでしょうか?」
会場の設置が終わり、夕食という名前の飲み会となった。
デニムが酒を飲みながら、なんとなく抱いていた疑問を口にした。
「なぜかって?」
すでにできあがっている友人はデニムの顔をまじまじとのぞきこんで破顔一笑。
笑いは酒気にのって、あたりにも広がっていった。
「運のない隊長殿が宝くじに当たってしまったからさ!」
「宝くじですか?」
「隊長たちは歳末助け合いとかいっていたかな?」
おのおのが勝手な説明をする。
「あれは年末宝くじって言うのかな‥‥」
「当りがハズレっていってなかったかしら?」
「当りがハズレ?」
意味がよくわからない。
「つまり、当番になった者は、聖夜祭前後の休暇は返上、しかも手当てなしで舞踏会の裏方と、その期間の陛下のお守、それに、ある意味でノルマン最強であられる陛下の乳母さまのお相手をしなくてはいけない――という、隊長がたにとっては感涙のあまり心から謀反をくわだてたくなるほどのお宝をもらえるのだそうだ」
「妬い‥‥ですね――」
※
リーディアが廊下でウィリアムにクッキーを渡している姿を横目に会場に戻ると、そこにはまだ、ひとりの男が残っていた。すでに飾りつけと一夜漬けに近い練習も終わり、明日はリハーサルを残すのみとなっている。
「ひと仕事は終わりましたか?」
「まだまださ。最後の一瞬まで‥‥すべては終わったわけではないからな。そうだ、卿にも今年はいろいろと世話になったな。来年もいろいろと世話になることがあるかもしれんな。そのときはよろしく頼む」
女は男に杯を渡した。
そして、思い出したように言葉を告げる。
「ああ、そうだ。準備が整ったら、例の賊を討って禍根を断ちたいところだな。そのときにはまた呼んでくれ。それと、何かを探しているとか、陛下が欲しがっているものとかあるかね? あたしで用意できるものだったら、探してみようと思うが‥‥」
「誰に聞いたかな? まあいい。別に急ぐ話ではないからな。なんにしろ、すぎゆく年に幸いあれ! きたるべき年が、よき一年であらんことを!」
ふたりは杯をあげた。
●舞台裏
「ねぇねぇ、あたしの登場は?」
「なにをおっしゃってるのですか、お嬢さま?」
「だから、あたしの登場!」
「舞踏会の練習にも出てもいないではないですから、あるわけございません。だから、あれほど舞踏会の練習に参加なされるようにと言ったのでございます。それに、突然、記録係を浚ってきて次回の予告など、これを読まれている、みなさまが目をまん丸にされますよ」
「あたしの登場!」
「そもそも、お嬢さまに今回は登場の予定はございませんよ。お嬢さまは、次回からの登場でございます! さて、次回予告でございますが――」
「次回! 【星にねがいを】第二回、あたし登場!」
「ちがいます! 【星にねがいを】第二回、陛下の願い 期待しないで、待っていてくださいねぇ〜♪」