【星に願いを】彼女を捜して・前編

■シリーズシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月08日〜03月13日

リプレイ公開日:2009年03月16日

●オープニング

「この城はおいくらかしら?」
「はい?」
「だから、このお城を気に入っちゃったから買いたいの!」
「解体費用でしたら‥‥はて、いかほどどうでしょうな? まあ、ほっとけばそのうち戦乱でも起こってなんやかんやで解体されそうな気がしますがな」
「だれが解体したいって言ったのよ!」
「いやいや、解体などとはいっておりませんよ。どうせ、誰も使っていないような――もちろん名義は我が家の持ち物でございますがな――城でございますし、気がつけば近隣の村々のものたちが石をもっていって家を作ったりするようになったりして、気がつけば城がなくなっておるやもしれませんからな」
「そんなことあるわけないでしょ!?」
「いやいや、そうでもございませんよ。これは異国にあるという某都市なのでございますが、そこはかつて何かの地下神殿でございましたが、いつしかそれを知った盗賊たち――現在でしたら自分たちは冒険者ギルドだと嘯いたかもしれませんが――が神殿荒らしをはじめ、最初はキャンプをはっていただけのものが、いつしか盗賊たちは地下から宝ばかりか、石の壁を切り出してきてちょっかり遺跡の上に家を建て始め、やがてそこは村となり町へと成長し、盗賊であった者たちの子孫は、その残った遺跡の管理と案内で生計をたてるというまっとうな職についていいるという土地もございますからな」
「へぇ‥‥世界って広いのね――」
 納得しかけて、
「‥‥って、だから解体じゃなくて買いたいのよ!」
「生き物じゃありませんよ?」
「それは飼いたい!」
「幼い娘さんが、なにをはしたないことをおっしゃるのですか! 城は赤ちゃんを産んだりはしませんよ!」
「ち、ち、ち、ちがうもん!? か、懐胎なんかじゃないもの!」
 顔をまっかにして否定。
「拐帯ですか‥‥? はて、どんな意味だったでしょうか?」
「拐帯って?」
「いまのお嬢さまのような状況ですわよ」
 背後の扉から、あきれたといわんばかりのため息がした。
「せ、先生!」
 その声を聞いたとたん、脱兎のごとく、少女が体をひるがせる。
 一陣の風にも似た、その行動はあまりにもすばやく、いっしょにいた老人には何事が起こったのか理解する瞬間もなかった‥‥のだが――逃げ出そうとした少女の襟元をみごとに捕まえ、家庭教師の先生は教え子ににっこりと微笑みかけていた。
「さて、なんで、このお城を欲しがるのかの説明をしていただけますわね?」

 ※

「それで、どうなったの?」
「どうなったって‥‥――!」
 姉のむくれた顔は、サリバン先生にたっぷりと、お小言を言われたことのなによりの証拠。人形をだいた同じ姿の女の子にも、どことなくつれない態度。
 それでも、
「せっかく、あのお宝が見付かったんだよ!」
「えッ‥‥!?」
 その言葉を聞いたとたん、おもしろいくらいに、その表情は一変。
 いまのいままでのむくれ顔がうそのような笑顔で、妹にもちろんと応えます。
「やったね!?」
 姉の返事に、こぶしをぎゅっとやって妹も大喜び。
「それにしても時間がかかったじゃない」
「だって、だって、あんなお宝を見つけにくかったんだもの」
 わざとだだをこねてみせて、ふたりは破顔一笑。
 すくすと笑い始め、
「ふふふ‥‥」
 いたずらを思いついた子供たちは本当にたのしそう。
 姉は腕をふりあげて叫んだ。
「あの美人さんに、また会えるのよ!」
「おおぅ!?」
 妹は、ぱちぱちと拍手をしてみせる。
 そして、姉が父親におねだりして手に入れた古い城の図面をしげしげとのぞきこみながら、いたずらの計画を練るのであった。
「まず、このお城に仕掛けをしなくっちゃ――」
「そうそう、入ってきた宝をさがしにきたひとたちが死なない程度、でも簡単には見つからないようにしないとわざとらしいし、だからといって見つからないといけない‥‥」
「それに、わたしたちの活躍の場面も作らないといけないし‥‥」
 ふたりは顔を見合わせて、しばらくだまりこんでしまった。
「どうしよう‥‥」
「どうしようか?」
 うんうんとうなりながら、やがて貴族の娘たちは、こんな結論に至った。」
「ふだん宝探しをしているひとたちに城の改造を頼もう!」
 と――

●今回の参加者

 ea0214 ミフティア・カレンズ(26歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2572 ガルガス・レイナルド(32歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ライラ・マグニフィセント(eb9243

●リプレイ本文

 昔から、遠足や運動会。あるいは学園祭でもいいが、そういうものがあると前日までははりきっていたのに――いや、はりきりすぎて当日にはダウンしているという間の悪いやつというものがいる。
 いや、もっと悪いのはせっかくデートの約束までとりつけたのに当日になったら熱をだして寝込んでしまうというどじっ娘属性をもったやつかもしれない。
 というか、そういうやつも世の中にはいるもので‥‥というのが今回のはじまり。

 ※

「ああ‥‥みごとに熱があるな!」
 自分の額と相手の額をくっつけて熱をはかっていた姉は妹に、そう診断をくだした。
「わかって――」
 言いかけたところで、くしょん、くしょんのクシャミばかり。
「だめだめ!」
 あわてて姉が手拭を妹に渡す。
「ああ‥‥せっかくの日なのに――」
 鼻水を拭きながらくやしがったところで病気には勝てない。
 そんな妹に姉がにっこりと微笑みかけた。
「それでね、わたしはあなたが心配なの。だからね、喜んでリリィ! サリバン先生にきょうは、ずぅーーーーーーっとついて看病をしてくれるように頼んだのよ!?」
 それを聞いたとたん、熱のせいか赤く色づいていたリリィと呼ばれた妹の顔がまっさおになった。
「ローズ! う、うらぎったのねぇ!」
「なんのことかな?」
「図ったわね! わたしに先生を押し付ける気なんだ!?」
 リリィの、そんな態度に、くすっと笑って、ローズは椅子から立ち上がって出口まで掛けていくと、そこでくるりとふりかえった。
「あなたはいい妹だけど、風邪をひくのが悪いのよ! 今日という日に病気になった自分の不幸を呪うがいいの!」
 高笑いをしてみせて姉は退場。
「ああ、もう!?」
 手に持っていた人形を投げると、ちょうど姉のしめかけた扉にヒット!
 にやりと笑って、同じ姿をした少女が扉を閉めた。
「じゃあ、行ってくるね!」
「逝ってこい!?」
 むくれた面になってみせると、彼女はお気に入りの人形をだいてベットにもぐりこむのであった。

 ※

「ローズ・イアンクールです。よろしく!」
「イアンクール?」
 はてと金髪の青年が首をひねった。
 いくらか貴族についての知識がある身には、なにかしらひっかかる苗字である。
 「天津風美沙樹(eb5363)よ、よろしくお願いしますわね。さて‥‥資材と道具は用意してもらえるのかしら? 楽しみたい&楽しませたいなら、それなりの資材と道具が必要ですわよ」
 彼女がそう言ったかと思うと、背後でがたごとという音がして、どこから黒い装束――天津風の故郷の忍にもどこか似ている――の一団があらわれたか思うと、事前に必要だと申告しておいた物品を置いて風のように去っていった。
 ひとりが残って、天津風に二枚の紙をさしだした。
「搬入資材の一覧です。あ、こちらの用紙には判子をお願いします」
「あ、あ、はい」
 サインじゃなくて‥‥といいかけて、故郷の地でつくり、ここにきてからはひさしく使っていなかった朱の印を押す。
「ありがとうございやした。いや‥‥東方の人間がいらして助かりましたよ。うちのクライアントはサインをいやがりましてね。判子の方がいいっていうんですわ。西方で商売をしたければ判子じゃなくてはってわしらはいうんですがね」
「あ、はぁ‥‥」
「それでは、ごひいきに」
 どろ〜んと、その男も消えた。
「な、な、なんなの‥‥」
 汗がたらり。
「準備ができたわ」
 自信満々なようすでローズが胸をはった。
 仲間たちがあいさつをはじめる。
「私、ミフティア・カレンズ(ea0214) ミフって呼んでね? あれ? 妹さんがいるって聞いていたんだけどな」
「風邪をひいちゃって、いまは屋敷でダウン中! もともと体が強いってわけじゃない娘だから‥‥」
「あら、しかたないわね。でも何を隠すのかな‥‥? ね お姉さんに教えてよっ」
 耳元にこそこそ。
「指輪?」
「ちょっとした魔法のかかった、ね!」
「魔法ねぇ‥‥どんな?」
「それは内緒!? そのほうが見つけたときに楽しいでしょ」
「それで誰に見つけて欲しいのかな? 対象次第で、どう隠すかも変わってきますからね」
 金髪の青年、デニム・シュタインバーグ(eb0346)がにっこりと笑ってたずねた。
「ううんと‥‥」
 しばらく天井を見上げながら、どうやって説明していいのかと迷っているようすで、やがて、こう言った。
「きれいなお姉さん!」
「お姉さんって‥‥」
 それだけじゃあ、わからないなと頭をかきながらデニムがこぼすと、ローズもすこし困り顔。
「わたしも名前は知らないんだ!」
 そして、話を詳しく聞けば昨年の聖夜祭の頃、王宮で見かけた女性に一目ぼれしたらしい。
(「ああ、それで――」)
 あそこに招待されるほどの貴族でイアンクール家となれば察しがつく。ルアーブルの領主だ。ならば金があるのもおかしくはない。
 そして、金にあかせてアイテムを探し出したというのだろう。
 そして、その謎の女性が指輪が欲しいと嘆いていたという。
「それで、知り合う機会が欲しいと?」
「うん!?」
「だから、わざわざ罠を仕掛ける?」
「しかも、怪我をしないような‥‥」
 だれとなくため息をもらす。」
「それじゃあ、この城のいわれとかは?」
 悪い予感がする。
「ないわよ‥‥っていうか知らない!?」
「はぁ‥‥」
 大当たり。
「見た目がよかったから買っただけだもの!」
「見た目ね‥‥」
 外見には、お化け屋敷かなにかですかといいたくなるような古城だったので幽霊がいるのではと仲間で話し合ってはいたが、城内は意外なまでにきれいに掃除がなされ、また清潔に保たれていた。
 以前の持ち主がよほど愛着があったのかもしれない。
「でも、そんな城がなんで買えたんだ?」
「戦争のせいだって」
「そうですか」
 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)が小さくうなずいた。
 平穏に見える――慣れてしまえば戦場のまっただなかにいてさえも日常というものを作り出してしまうのが人間というものではあるが――日常が流れていると、つい忘れがちなってしまうがノルマンという土地、世界は戦いのなかにある。
 うちつくづく戦乱は終わることはなく、そのツケは荒廃した田園であり、破壊された都市であり、故郷を失って大きな街へ街へと集まってくる流民たちという形であらわになっている。また、農民たちが土地を捨てれば、そのあがりに収入の大半を負っている貴族たちの収支も苦しいこととなる。さらに好む好まざるとにかかわらず軍役もまた貴族たちの家計事情を苦しいものにしている。そうなると日々の糧を得るために、貧乏な貴族は金のある貴族なり、商人に物を売るなり、借りるしか手はない。
「戦いが終わればすべてがもとに戻るなどというものはウソさ。戦いが終われば、戦いの続きとしてのなにかはじまるにしかすぎんのさ」
 ジュネの知り合いが、そんなことを言っていた。
 何事かを心の底で企んでいるらしい男は、その皮肉にどんな思いを込めたのか。
 しかし、未来を生きることができる者は、すくなくとも現在を生き残った者のことである。
 だから、見知らぬ明日のことはあした考えることとして、今日はきょうの業にいそしむこととしよう。
「本を危ないバランスで積み上げておくとか、どうかな?」
 戸棚の上や胡散臭げな通路奥部屋にわざとらしく木片や羊皮紙を隠していたミフが、そんな案を出した。
「お子さまじゃないんだから〜」
 羊皮紙になにか書いていたローズが口をとがらせる。
「‥‥え? お子ちゃまレベル? いいじゃない♪♪ しんぷるいずべすとだよ♪」
 ミフティアも羊皮紙に何か書きながら笑って応える。
「また、古い城との事ですので、床が抜けたり壁が壊れて倒れてきそうなところがないかをチェックします」
 デニムの持った地図を天津風ものぞきこむ。
「素直に考えれば、お宝の隠し場所は城主の居室かしら? なら、そこへ行くのに通る必要のある場所へ罠を仕掛けますわ」
 指先で地図をなぞると、彼女の頭の中に、三段構えの罠を仕掛けるポイントが浮かんでくる。
(「埒もない‥‥」)
 かつて生死をかけて挑んだ迷宮や城の罠の数々が昨日のことように思い出される。あのように仕掛ければいいのだと自然に想像がついてくる。思えば、自らも長い道を歩いてきたものだ。
 背後で会話がした。
「それで怪我する人が出てしまってはいけませんからね。危なそうな場所は、ここですから直さないといけませんね。あ、そうそう、古い城であれば秘密の地下室などもあるでしょうか?」
「わかりません。いまから、城の門の側の壁にに『この門をくぐる者は全てを失う覚悟をせよ』と思わせぶりなメッセージを掘り込んだり、行き止まりの通路の途中にメッセージを書いてきたりしますから、そのついでに探してみましょう」
 ジュヌヴィエーヴを見送ると、デニムは手のひらにつばをつけてつるはしを握った。
「でぇやぁぁっぁぁあ!?」
 そして、立ち入り禁止となっていた箇所に入り込んで壊れかかった壁や床を壊しはじめるのだった。

 ※

 各人が、それぞれたてた計画を終えたところで、休憩をとることにした。
 準備されていたお菓子が出てくる。
「どれから食べよう? 一遍に全部食べちゃうと楽しみがなくなっちゃうからそれこそ何処かに隠しておこうかな〜」
 お菓子に目がない娘が目をハートの形にしている。
「あ、おいしい!」
 ローズは一口食べて歓喜をあげると、自分の皿から半分だけお菓子を数えながら取り出してハンカチにくるんだ。
「どうしたの?」
「リリィへの、おみやげ! それで、このおいしいお菓子を作ったひとは誰なんですか?」
「残念だけどこの中にはいないわ。今回は別件が入ったとかで、お菓子だけを渡されたのよ。あのひと、街に店があるし、そちらの用事なのかしら?」
「別の冒険の依頼が入ったってきいたけど?」
「へぇ‥‥、それで、その方のお店の名前はなんていうんですか? あ、それと場所はどこにあるんんですか?」
「そうね‥‥」
 そういって、いまは別の地で任にあたる仲間の店の場所を、パリはあまり詳しくないというローズのために天津風が地図を描きながら説明をした。
「へぇ、あの小道ってこんなところにつづいていたんだ!」
「あらあら」
 すこしまちがえて、地元の人間しか知らないような小道を教えてしまったが、すぐに理解した。
「行ったことがあるのかしら?」
「一度、街を探検をしていて迷い込んだことがあるの!? わたしとっては、ちょっとした冒険だったな‥‥あ、そうだみんな冒険者なんだよね。いままで、どんな冒険をしてきたの?」
 とりとめのない話は、やがてかつてのなしえた冒険の数々へと移っていく。
 腕には覚えがある者たちが語る偉業であり、ささやかな旅の思い出である。それはローズにとっては憧憬すら覚えるほどのものであった。
 だが、それは同時に語る者たちには長い道のりをふりかえることであったし、それはまだつづいていく果てしない道のりの再確認でもあった。
 現に戦いはつづいているのだ。
 デニムが地獄へ従軍した際に垣間見たデビルの醜さ、悪辣さを語りはじめた。
 さすがに恐怖を感じるのだろう。いつしかローズはそばにいた司祭の腋にすがりつくと、その小さな手をふるわせていた。心づけるようにジュヌヴィエーヴが、その手をにぎってやるなか、デニムの真摯なまなざしが語りつづけていた。
「それが悪魔というものですよ――」

 ※

 はっくしょん!
 見事なくしゃみをすると、リリィは鼻をかんでいやそうな表情をすると、滋養にいいというキツイ匂いのするスープと格闘を再開した。
 家庭教師の謹製のスープは嗅ぐだけで大蒜が使われていることがわかる。
 なんでも水の入った鍋にたっぷりの大蒜と豚肉と岩塩。それに何種類かの香味野菜を放り込んで肉が繊維状なるまで煮込んだあとにハープで味を調えたものらしい。
 香料が入っていないのは、さほど豊かではないという先生の実家に昔から伝わる料理だからだろう。
 味は彼女の好みではないのだが、サリバン先生に、じろりとにらまれると、ごめんなさいって言いながら残りのスープを口につけては、うっとなりながらも食べ続けるしかなかった。
 もはや涙目。
「うう‥‥あの方さえいらっしゃれば、こんなことには‥‥ぶつぶつ」