【星に願いを】とある国王の願い

■シリーズシナリオ


担当:まれのぞみ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:3人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月11日〜04月16日

リプレイ公開日:2009年04月20日

●オープニング

「覚えているだろ?」
 夜もふけたころ、国王は配下の騎士を呼び出した。
「はて、なんのことですか?」
 玉座のもとへ呼びだれた騎士はけげんな顔をする。
 難問の数々をかかえる身に覚えているかといわれたところで、どのことですかとしか応えようながない。
「例の指輪のことだ」
「指輪?」
 男は目を細めた。
「聖夜祭の夜に約束したではないか!」
「ああ、婚約指輪の件ならば商いをする者に知り合いがおりますから、こんど宮殿に呼ぶことにしましょう。――陛下が選ばれました幸運な女性とその一族が賢く、謙虚であることを歴代の王とノルマンの民のためにお祈りしましょう――それに、どの指輪が女性に喜ばれるかを知りたければ、わたしよりも詳しい隊長もおりましょうし、なんでしたら召使の娘たちにお聞きになられればよろしい‥‥いやいや、それこそ陛下が見込まれましたその方といっしょにお求めになられるのが一番かと思います――」
 その騎士にしては、めずらしく親切な言を、その王もまためずらしい怒声で遮った。
「そうではない!」
「そうでは‥‥ない?」 
「私が欲しいのは魔法の指輪だ!」
「魔法?」
「そう、あの魔法の指輪だ!」
 そして、王は臣下にそれがどのような指輪であるかとことこまかに説明をした。
「そのような指輪など‥‥――」
 それを聞き終えると騎士は大きく肩を落とすと、天井を見上げて天上にいる神と地の底にいる悪魔を等しく讃え、ののしって主の顔をじろりとにらんだ。だが、しばらくするとその口元に天使からの離縁状と悪魔からの婚姻届を受けるにちがいない、その笑顔を浮かべるのであった。
「よろしいでしょう。約束は守りましょう。しかし、そのような特別な指輪となると私にもどこにあるのかとんとわかりかねます。そこで、わたしはそれがどこにあるか――」
 そう言って、いったん言葉をきった。
 その沈黙に耐え切れないようにノルマンの若き王がつづけた。
「その場所さえわかれば、それを取りに行ってくれるのだな!」
「そうでございます」
「わかった調べよう!」
「調べよう‥‥と申しましたな」
 国王は、あっという顔をした。
 にんまりと臣下が笑っている。
「策士が策におぼれましたかな?」
 ツケ刃など、陰険な策士にかかれば、このざまだ。
「なんにしろ、綸言は汗の如しでございます。それでは、わたしは他にも仕事がありますので――ご婦人がたを悲しませない程度にがんばってくださいませ。それでは、今宵、よい夢が見られますように」
 まちがいなく悪夢を見そうなことをしておいて騎士が去っていく。
 王は頭をかかえた。
 罠にはまった相手に手を貸すほど、あの部下が甘い人間ではないのはわかっている。さきほどのやりとりが最後宣告なのだ。
「どうしろと?」
 ことん。
「なんだ?」
 玉座のそばに何かが転がる音がした。
 誰もいないはずなのに――
「これは?」
 そこで王が見つけたのは、一枚の手紙であった。
「‥‥指輪のありか?」
 へたくそな文字だが、なんとか判別できた。
「あの指輪だと!」
 王は感嘆をあげた。
「よし、奴を呼び戻せ!」
 王は大声で去っていった騎士を呼んでいた。

 ※
 
 てへ。
(「よしよし‥‥ツフール便は成功ですぅ」)
 闇の中から聞こえた小さな笑い声を王は聞くことはなかった。

 ※

「ねぇねぇ、こうかな?」
「ううとこういう風にやったほうがいいじゃないかな?」
 姿見の前に立って、奇抜なかっこうをしたふたりが、なにやらリハーサルをやっていた。
 キラ☆

●今回の参加者

 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

リスター・ストーム(ea6536

●リプレイ本文

 きらめく指輪を眺めながら男は、ずっと黙り込んだままであった。
 仕事熱心にも冒険者たちが、これを手にいれてきたのだ。
「‥‥――」
「なにかありますか?」
 女が、不満顔の申請者に問いかける。
 もしかしたら指輪に魔法がかかっていて、その指から外れたりしなくなったりした場合にと注意されながら、国王の騎士はこれを預かったのだ。
 どうやら、当人もまだ、それを依頼人に渡すべきかどうか迷っているらしい。
「不満? いや不安かな!」
「不安?」

 ※

「――そういったところかしら?」
 ギルドから紹介された女性と、そのことについて打ち合わせが終わると、彼女はあわてて立ち上がった。
 春という時もすでに流れ、夏という時の胎動は、すでに季節という時間の織物の中に織り込まれている。日が長くなったとはいえ、それでも一日の終わりは足早にやってくるものだ。
「じゃあ、つぎの冒険に行かなくちゃならないから」
「そうか、もうそんな時間なんだ」
 私服のリリー・ストーム(ea9927)が机の上で書類をとんとんとそろえると、立ち上がって手をふった。
「よい旅でありますように」
 頭をさげると、彼女もまた冒険の成功を――失敗のしようがないでしょと笑いながら――祈るわといって冒険者ギルドを出て行った。
「さて――」
 椅子に腰掛けて、彼女が以前かかわった冒険の記録を読み始めた。

 ※

「この門をくぐるものは全てを失う覚悟をせよ‥‥ですか」
 リディエール・アンティロープ(eb5977)は、城門そばの壁に書かれた文章を読んでいた。それを発見したライラ・マグニフィセント(eb9243)もまた、その文字を見つめながら苦笑している。
「こまったものですね」
「本当に、こまったものね。用心しなくちゃ」
 見知った癖のある文字を目にして、くすくすとライラは笑いながら応じるが、リディエールの表情はすぐに真剣なものになっていた。
「まったくです。それにしても、魔法の指輪を探して古城の探索‥‥ですか。何だか宝探しのようですね」
 くすりとリディエールが笑うと、それはちょっとした傾国である。
「指輪が手に入るかどうかはともかく、城の中はきちんと調べておきましょうか」
 そういって、城内へと誘う態度はまるで麗しい妖姫のあやうい誘いだ。
 男であったら、簡単に恋に落ちてしまってもおかしくはない、そんな態度である。
 もっとも、ともにいる仲間はふたりとも女性。
 人妻である騎士はもちろん、その凛々しい容姿の褐色の戦士もまた女性である。
 ライラは注意深く城内を見つめていた。
(「罠が仕掛けられていないか注意しながら移動して行くさね。罠は普通、行かせたくない所とかに仕掛けられているものだが‥‥もしかしたら、城それ自体に昔からある罠もあるかもしれないね」)
 といのがライラの偏見であり、冒険者としての見解というものであった。
 そういえば、この城のことを調べていたところ、意外なところで情報を得た。
 この城自体は、最近、とある貧乏貴族から港湾都市の領主という大貴族に転売されている。そのうえで、友人たちからおもしろい話を聞いた。
 前回、とある依頼で――ライラは別の用事があったために参加できなかったのだが――城の改装をしたということがあった。
「さて、古城の探索を一通りはこなしておくとしようかね」

 ※

 過日、冒険者たちは依頼の申請者と面会した。
「あら?」
 なかば予期していたことではあるが、最近ではすっかりノルマンでもっとも高貴な人物のお守りとなっている男が今回の申請者である。
「最近は大きな駄々っ子の子守を押し付けられてばかりだ。妬きがまわってきたかな」
「借金を押し付けられるよりはよろしいんじゃありませんか?」
 その男の好きそうな表現であいさつをする。
「押し付けられた借金か、いい表現だな。あの方にまともな結婚をしてもらわないことにはノルマンの者たちの未来に大きなツケを残すことになるからな。」
「美人局の代償は高いものだと古来からきまっていますよ」
 彼女とともにきた客たちの反応に騎士は苦笑した。
 リリーが来訪の理由を説明した。
 曰く――
『古城に魔法の指輪を隠す依頼が事前あった事』と『その時の依頼人と、古城の所有者』を話した。
 それを聞いて紫隊の男はしばらく黙り込んだ。
 やがて、
「ああ‥‥」
 と言って、
「イアンクール殿か、すっかり忘れていたな。どうも、あの方はその地位に比して印象が薄くてしかたない‥‥なるほど、あの方のところにあの指輪があるわけか」
「その指輪とは、どのよなうなものなのですか?」
「変身の指輪だよ。いわれは聞くな。子供にヘンなおもちゃを教えるものではないという教訓めいた話だからな」
「子供って誰の‥‥」
 といいかけてリリーは言葉を呑んだ。
 兄の冒険譚が頭をよぎった。
 シュバルツが消極的ながらも依頼を出す『依頼人』にふと思い当たったのだ。
「もしもの話ですけど、依頼主が‥‥」
 隊長の言う変身の指輪をノルマン王が使用したのはお墓参り時‥‥その変身を見たのはごく一部の人物と襲撃してきたデビル。
 そして、指輪の在り処の情報が依頼人に渡るルート少なさを考えれば――

 ※

「こちらでしょうか?」
 地図を描きながらリディエールがライラと頭をつけあわせている。
「罠は普通、行かせたくない所とかに仕掛けられているものだが‥‥もしかしたら、城それ自体に昔からある罠もあるかもしれないね」
 それが、罠というものに対するライラの見識であった。
 もっとも、今回のような、いたずらの延長――ご丁寧にケガをしないようにトゲの先をまるめてあったり、もしものときのために薬までもが罠のそばに置いてある念の置きようである――の罠もある。
「どこまで念が入っているのやら?」
 冒険者たちが仕掛けたという罠を、それでも用心しながら進んでゆくと、途中、ひとつだけ罠にかかった。
 どうやら罠を仕掛けているうち、ついつい熱が入ってしまったらしく、妙に手のこんだ罠となっていて、一つ目はもちろん、二つ目の仕掛けがあったうえに、性格の悪い罠だと思ったところで本命の罠が発動した。
 いじが悪くも三重にまで仕掛けられた陰険な罠であったのだ。
 こほこほと咳をしながら、すすけた互いの顔を見て、ふたりは笑い出した。
 たがいの美しい容姿が、まるで墨でぬりたぐったように真っ黒になっていて、そのそばには、
「これを使ってください」
 という看板とともに水のはいったバケツと拭いがあった。
「かわいい、いたずらね」
 事前に罠を知っていて、ひとり無事だったリリーが微笑んでいた。

 ※

「あらあら、こんなんじゃあ、ほんとうに罠じゃなくていたずらじゃ‥‥あ、これはおいしい!」
「ライラさんのお菓子がおいしかったので、それにヒントを得て作ってみたんです。もっとも、あそこまでおいしくできないし見た目もまだまだなんですけどね」
 冒険者ギルドの娘がお試しで作ったからタダでいいですといわれたスイーツに舌鼓を打ちつつ記録にさらに目を通す。
「それでは、お茶のお代わりを用意しますね」
 カップが空になっていることを目ざとく見つけると、少女はカップをさげてキッチンへと消えていった。
 リリーは、くすりと笑って書類を読み続けた。

 ※

「じゃ、じゃんー!?」
「まっていたぞ。お宝がほしかったら、わ‥‥ねぇねぇ、この単語ってなんて読むんだっけ?」
「わらわらじゃない?」
 なかばノリノリ、でもセリフ口調は慣れていないのでどこか棒読みで、なおかつ単語も読めないおばかさんぶりはご愛嬌。
 はいごでびーじーえむまでなっているのは、らすとのたたかいにふさわしいぞ。
「わーすごいな」
 と、思わずひらがな、棒読みで対応してしまった。
 なんにしろ、
「吟遊詩人の方々もご苦労さまです」
 リディエールは笑いをこらえるのに必死で、大切なことを見逃していた。
 かなり、はずかしい――幼女体型の少女たちにぴちぴちのスーツを着せて、黒い大きな帽子と同じ色のマントをつけてみた。まあ、どうみても誤ったイメージの魔女のコスプレにしか見えない格好のふたり組が――今回のボスだ。
 ライラは、早々と戦闘を放棄することにした。
 そして、用意していた包みをひらいた。
「どうかしら?」
 中に入っていたお菓子を見せると、少女たちの態度がいっぺん。
「ああ、あのお店のじゃない!」
「うそうそ!? ローズが持ってきてくれた、あのおいしいお菓子!?」
「うん、この服を用意するのに時間がかかりすぎてノワールって店にいけなかったんだよね」
「うんうん、ローズが連れて行ってくれるっていったじゃない」
「だって、リリィがこれが終わるまではダメっていったじゃない」
「ええぇ! だって、この服を受け取りにいったとき、わりとそばだったのに、こんどにしようっていったのはローズじゃない!」
「なによ!」
「なによ」
「ローズ殿! リリィ殿!?」
 ライラがぴしゃりといった。 
「はい!」
 ふたりの返事が思わずそろって、そのまま直立不動。
 なかなか厳しい教育を受けているらしい。
 ライラはひと息ついて、微笑んだ。。
「お茶がはいりましたよ。お茶菓子はいかがかしら?」
 えッ、という顔をしてふたりは顔を見合わせ、
「わーい!」
 お菓子につられて少女たちも、両手をあげて白旗をあげた。
「飼い慣らされやがって」
「あなたらしくないけれど、だれのセリフかしら?」
「どこかで誰かに言えといわれた気がしたのでね」
「まったく、なにをおっしゃっているんですか――」
 そんな風などうでもいい受け答えをしながら、リリーはふと、
(「無邪気な邪気――」)
 兄が感じたというデビルの感想を思い出していた。
 そしてリディエールもまた、そのときになってはじめて石の蝶が反応していたことに気がついたのであった
「この娘たちのそばに悪魔がいた?」
 
 ※

「――報告というより、日記かな?」
 報告書を一読して、シュバルツは正直な感想を口にすると、
「そういえば、その古城の主人となったこの貴族の娘さんの登録があったかな。もっとも若い‥‥というか幼い子供たちだから、陛下の結婚相手――精神年齢的には、遊び相手にはちょうどよいかもしれんが――」
 言いかけた言葉、突然、恫喝になった。
「おい!」
 誰かが、その背後にあらわれてシュバルツから指輪を奪ったのだ。 
 シュバルツがふりかえると、その影は男の背中であった。
「あの方は!?」
 リリーもふりかえって、あっという叫んだ。
 男の重かった足音がいつしか、踊るように軽やかな女の足取りになって、ぴったりだったサイズの服が、だぶだぶ男物になっていく。
 そして、短かった髪はいつしかのび、長く柔らかな後ろ髪が揺れていた。
 もはや城内に消えた、その女性の後姿――
「やっぱり、依頼人は、あの方だったんですね」
 リリーは知っている。
 それは、何年も前に亡くなった女であり、王が彼女の墓参りをした時にいた女でもあった。
「女は化ける‥‥女に化ける」
 騎士は、ぶつぶつとつぶやくとなかば本気な口調でつづけた。
「こんどは城内で頻繁に見かけられることとなる美女の幽霊退治でも事前に依頼した方がいいかな?」