《松竹料理対決!》 夏の潮騒

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2005年09月20日

●オープニング

 松竹の味勝負、再び。
 春の花見で好評を博した両店の味勝負が、今度は江戸の夏祭り会場で行われる。冒険者酒場として有名なあの松之屋と、対するは庶民の味を自負する居酒屋・竹之屋。後援には町教会のほかに大手の瓦版も名乗りを上げ、大々的に宣伝が展開されている。また夏祭り名物の浴衣美人選も行われ、巷でも話題を集めている。今年も賑わいが予想されるだろう。

 さて、肝心の勝負はというと。判定は、互いに趣向を凝らした一品料理の出来具合で決まる。審査員による判定でより多くの票を得たものが勝ちだ。新緑をイメージした夏を思わせる料理をテーマに、独創性や値段などまでを総合して判定がされる。もちろん今回も実演披露が予定されている。祭りの夜に会場中央に用意された特設ステージで両陣営がその料理の腕を披露するのだ。出品料理は両店ともに屋台で振る舞われることになっており、噂の料理を目当ての客で賑わいそうだ。

 夏の終わりの味勝負。勝利の栄冠はいずれの店に――?

●今回の参加者

 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6923 クリアラ・アルティメイア(30歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0240 月 陽姫(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb1505 海腹 雌山(66歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「いよいよ来たでぇ!この時が!!」
 祭りの夜。朱雲慧(ea7692)ら竹之屋勢はこれから特設ステージへ向かう所だ。
「前回は悔しくも涙を呑んだが・・・今回は勝ちに行かせて貰うで」
「ダメですよ、朱さん! 勝ちに行くことよりも、誠心誠意で美味しい物を作る事を心がけましょう! 孫子もこう仰いました! 勝つと思うな思えば負けよ、と!」
 香月八雲(ea8432)は店番のため今回はお留守番だ。八雲が笑顔で窘めるが、朱は勝負事となると燃える性格なのか、子どものようにはしゃいでいる。
「せやけどな八雲はん。皆楽しければ‥‥それもえぇけど、やっぱり勝って楽しむに越した事はないねん♪」
「今回はまた“らいばる”アルけどお互い頑張るアル」
 舞台袖には松之屋の月陽姫(eb0240)が控えている。竹之屋の皆に気づくと会釈をして微笑んだ。そろそろ時間だ。ミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)が呟いた。
「二度目の料理対決か‥‥有終の美を飾れる様に、頑張らないとね」
「気合入れて行くでっ!!」
 自ら両頬を叩いて朱が気合を入れ、竹之屋勢は袖から壇上へと足を踏み入れる。
「はわー。『《松竹料理対決!》 夏の潮騒』は、下町ジーザス教会とー、呉服問屋さんとー、その他ご覧の皆さんの提供でお送りするのですよー。はいー」
「という訳で、大衆居酒屋・竹之屋の皆さんだ。ほら皆、拍手ー!!」
 壇上のクリアラ・アルティメイア(ea6923)とリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が浴衣姿で観客を盛り上げる。沸き起こる拍手に迎えられて朱達が壇上に立った。続いてリーゼのアナウンスで陽姫ら松之屋勢も登場する。
「そして、対するは冒険者酒場、春の味勝負の勝者、松之屋の板前さん達ですよー。はいー」
 クリアラの着ている浴衣はスポンサーの呉服問屋の提供品。呉服屋を手配した山岡忠臣(ea9861)が届けてくれたものだ。松竹両店の料理人もそれぞれ浴衣に身を包み、祭りの雰囲気を盛り立てている。
「という訳で、さっそく行ってみようか。先行は竹之屋からだよ」
「今回、竹之屋が出品する料理は、遠い遠い欧州で生まれた料理や。それをジャパンの技法と、そして八百八町の江戸の食材で再現する。未だ、江戸で食された事のない料理‥‥」
 余韻を朱が持たせて言葉を区切ると会場がしんと静まり返る。観客の顔を一人ひとり覗きこむように朱。にかっと爽やかな笑顔を作る。
「みんな、出来たらしっかり味わったってな!」
 それを合図に壇上の調理台をドンと低い衝突音が震わした。フィヲが台へ叩き付けたのはうどん玉だ。
「ただのうどんやないで? 打ち粉の代わりに卵を繋ぎに使った特別製や」
「行くよっ! 新技っ♪」
 うどん玉を大きく掲げると、フィヲは体ごと台へ叩きつけるようにそれを叩き落した。小柄なフィヲの体のどこにそんな力が隠されているのか、力強い麺打ちを見せる。
 本当ならこの後で暫く生地を寝かすのだが、今日はしっかり寝かせた生地を別に用意してある。そちらを取り出したフィヲが、今度は演舞をするようにきびきびと力強い動きで生地を伸ばしていく。無駄を排した流れるような動作に時折メリハリを持たせ、観客を魅了する。フィヲが包丁を手に取った。リズミカルな包丁裁きで生地を等間隔に刻むと、西洋風手打ち麺の出来上がりだ。
「ほんまはこの後蒸してから乾燥させるんやけど、今日は時間もあるさかい完成品を使わせてえな。その間にタレの説明やな。フィヲ、頼んだで」
 コクリとフィヲが頷き、材料を手に取ると手馴れた手つきでそれらを混ぜ合わせる。
「ホンマは欧州の調味料を使うんやけどジャパンには無いさかい。みなの舌に馴染みのある醤油に昆布、鰹節で代用や」
 それに酒を加えて一煮立ちさせ、仕上げに流水にさらして冷ます。そうこうする内に麺が茹で上がったようだ。さっと取り上げて湯切りすると、フィヲそれを鍋にかけた。ジュゥと麺の表面の焼ける音。そこへ葱油を垂らすとたちまち香ばしい香りが漂い出す。
「この麺を軽く焼くのは伸びんようにする工夫なんや」
 軽く炒めた麺の上へフィヲがてきぱきと具を乗せていく。茹でてほぐしたササミに、千切りの胡瓜、刻んだシソの葉、わさび菜、錦糸卵。そこへ先ほどのタレを掛ける。
「具は夏の旬野菜をあしらったもんやで。具材同士の相性も考えてあるんや。タレは冷え冷えに冷ましてあるさかい、祭りで火照った体を冷やすにはもってこいやな」
 最後の仕上げは胡麻と刻み生姜。さらりと降り掛けると、フィヲが皿を高々と掲げて朱へ目配せする。
「これで和洋折衷料理『和風欧州蒸麺』の出来上がりやっ!」
 おおーと歓声。観衆の前で朱がフィヲとハイタッチ! 人好きのする朱の語りに中てられて会場の熱気も高まりを見せる。
「いやー、流石は大衆店だけあって庶民をくすぐるツボを心得てるね。それじゃあ、審査員の皆さんには和風欧州蒸麺の試食をしてもらうよ。今回は特別に浴衣美人選の乙女達にも試食をして貰うよ」
 リーゼの指示で壇上の審査員と美人選出場者へ料理が配られる。
「あら、うどんだと思ったのに。これ冷たいパスタだわ。地中海沿いの港町で何度か食べたけど。このソースは倭のテイストなのね。鳥のささ身の食感がいいわ」
「今までに食べたことのない蕎麦といった印象だな。不思議な味だが、意外とさっぱりしている。食欲のない夏場にはぴったりの料理だ」
「欧州・華国風と世界の調理法を楽しめる風で面白いの」
 意外な取り合わせが好評のようだ。リーゼが壇上の声を拾い、客商売で磨いた話術で観客を盛り上げる。
「以上、竹之屋の和風欧州蒸麺でした。竹之屋のみなさんにもう一度拍手ー!」
「はいー。それでは次は前回の勝者、松之屋さんの料理ですよー。皆さん拍手ですよー」
 クリアラの合図で陽姫が実演披露に入る。取り出したのは白玉団子。緑色をした生地が全部で三つ。
「それぞれ抹茶によもぎ、こっちの熊笹は漢方薬の一種アル」
 緑色のガワで餡を包むと、器用に木の葉型にまとめあげていく。それをゆでて冷やしたらできあがりだ。
「仕上げに特製のシロップで頂くネ」
 そう言って取り出したのは籠いっぱいの梨だ。それらをふんだんに使って摩り下ろした果汁を掛けるという何とも贅沢なシロップだ。つるんとした質感の白玉にサラサラとした梨の果汁が蜜を落とす。光沢に緑が一層際立つようだ。
「透明な梨の汁の中に目にも鮮やかな新緑の色ネ。見るだけで涼しそうな冷たい甘味アル。料理の口直しにどうアルか? 一口食べたら忘れられない『三昧翠玉(さんみすいぎょく)』アル」
「はわー。何とも美しい料理ですねー。けど松之屋さんの出品料理はこれだけじゃないですよねー?」
「左様。此度の松之屋の出品は二本立てじゃ」
 陽姫と入れ替わりに、今度は浴衣姿の海腹雌山(eb1505)が壇上に進み出た。
 水で溶いた葛を裏ごしし、砂糖を加えて火に掛ける。それを木杓子で丁寧に攪拌すると、乳白色の葛が次第に美しい半透明に姿を変えていく。一見して葛餅のように見えるが、次に海腹が取り出したのは枝豆だ。
「これは事前に塩もみしてある。たっぷりの湯で茹でるのが肝要じゃ」
 湯気上がった豆の薄皮を剥くと、今度はすり鉢にかけた。うっすらと粒が残る微妙な加減でペースト状にし、そこへ砂糖蜜を垂らす。ふと、海腹が両手を冷水に浸した。まだ熱い枝豆餡を手に取ると、手早く丸めていく。観客が固唾を呑んで見守る中、葛で包んだ餡を濡れ付近で手際よく絞り、冷水に浸した後に蒸し上げる。
「これには時間が掛かるゆえ、今宵は蒸しあがったものを用意した。こちらは再度冷やしてある」
 運ばれて来たそれを、仕上げにと笹の葉で包み込む。
「清涼感のある透明な葛生地、清々しい緑色の枝豆餡。名を若葉雨という」
「はわー。風流な名前ですねー。何か由来とかあるんでしょうかー?」
 クリアラの問いに海腹は深く頷いて見せた。
「新鮮でみずみずしい様を葛生地で、生茂る若葉を緑の餡で見立てておる。若葉雨は夏の季語。新鮮でみずみずしい初夏の若葉を表現しておる」
「ふむふむ、なるほどー。それでは試食に言って見たいと思いますよー」
「両方甘味アルが、どちらか好きな方を食べて欲しいアル」
 審査員と美人選参加者が思いおもいに感想を口にする。
「若葉雨か、これは涼しげだな。新緑を包んだ透明感が印象深い。笹も一役買っている」
「確かに風流ですね。手で持ち易くて助かります。甘みも控えめで、お茶が欲しくなりますね」
「それに枝豆の鼻に貫ける香りがなんとも心地良い。葛もそれを良く引き立てている」
「‥‥私は白玉団子の方が好みですね。上品な甘さが癖になりそうです」
「あら、こっちのお団子‥‥」
「はいアル。それぞれ杏に棗、こしあんの三種の餡で味が違うアル」
「面白い趣向ですね。色取り取りのお団子はとても綺麗です。それによく見ると三種で少しずつ形にも変化があるんですね」
「翡翠のような白玉が涼しげだわ。少し酸味がある餡と在ってるし」
 みずみずしい葛の若葉雨に、甘味と苦味の組み合わせが奥深い三昧翠玉。松之屋の繊細な料理は、見目の美しさもあってウケもいい。
「手の込んだ菓子だ。京でもこれだけの品はそうはお目にかかれぬだろう。色味も涼しげで、これなら幾つでも食べられそうな気がする」
 頃合を見計らってリーゼが次の段取りへ移る。
「さて、出揃った所で審査員による協議に移るよ。審査員の皆さん、こちらへどうぞー♪」
「発表まで皆さんもう暫くお待ち下さいー。はいー」
「つー訳で、その間にお待ち兼ねの浴衣美人選の時間だぜ!! 司会は遊び人の俺様、みんなの恋人、山岡忠臣だ!」
 入れ替わりに壇上に飛び出てきたのは忠臣だ。
「待ってる間は俺が退屈させねーぜ。んじゃトップバッターの子から料理の感想いってみよーか!!」


 その頃。竹之屋の屋台ではお千ちゃんが八雲と二人で見せ番している。
(「‥‥はぁ。何だか今日はどきどきしちゃったな」)
 忠臣に頼み込まれてお千は彼の母親の前で恋人役をすることになっていた。忠臣はコンテストの司会があるので先ほど母親とは別れたが、今日は何もかもが初めての経験ばかり。お芝居とはいえ、男の人から愛しているなどと言われたのもお千には生まれて初めてのことだった。
『明るくて器量よしで、何より俺がお千ちゃんの事を愛してるのさ』
 ちゃっかり手こそ握っていたが、今日の忠臣はいつもより紳士的だった。恋人役というからにはそれなりのことは覚悟していたが、お千はほっと胸を撫で下ろす。
「どうしました、お千ちゃん?」
 お千の顔を八雲が覗き込んでいる。
「あ、あ、ハイ!」
「今頃は結果発表でしょうか。朱さんの晴れ舞台を見られないのは残念ですけど」
 少しだけしょげて見せるが、すぐに明るい笑顔に戻る。
「でも皆で作った料理ですから、一人でも多くの人に食べて貰いたいですよね!」
 店員としても腕を上げて仕事をこなし、恋も覚えた八雲。そんな八雲の幸せな気持ちの篭った料理だ。屈託のない笑顔に釣られて、立ち寄る客もいつしか明るい顔になる。
「諺で言う、笑顔は最高の調味料ですね!」
 さて、会場ではいよいよ味勝負が最高潮を迎えていた。
「さて、いよいよ結果発表だよ!」
 リーゼの手には勝者の名が書かれた封書。静まり返った中でリーゼが厳かに開いた。
「勝者は、竹之屋、和風欧州蒸麺だね!」
 繊細さや季節感、料理の完成度では松之屋が上を行っていた。だが二本立てにしたことで割高になってしまったことが大きく響いた。一方、竹之屋は素朴な作品ながら屋台の料理という立脚点を貫いて工夫を凝らした点が評価されたようだ。それが技巧に頼りすぎた松之屋との差だ。
「これにて花見大会は無事に終了ですー。ではー。お約束の五本締めですよー。皆さん、お手を拝借ー」
 クリアラの音頭で閉会の挨拶が行われ、こうして三月近くの準備を経た味勝負は幕を閉じた。両店の料理人達も互いの健闘を讃え合い、会場を後にする。
 クリアラも街教会の宣伝をちゃっかりやって成果は上々。会場の神社ともうまくやれたようだ。ついでに浴衣の宣伝や客引きまで一人でこなしてしまい、久々の大仕事を終えて満足そうにクリアラは帰っていった。
 そしてここを去る者がもう一人。
「役目も終えたし、料理と槍の修行に旅にまた出たいな」
 フィヲは一人で竹之屋の厨房を綺麗に磨き上げ、人知れず竹之屋を去る。厨房の上には今まで作った料理のレシピ。その上には異国の言葉でこう書かれている。

 『Ich suche neues Kochen.Danke schon bis jetzt!
       (次の料理を探しに行くね。今までありがとっ♪)』



 究極vs嗜好 夏祭り料理対決
 勝者――竹之屋(和風欧州蒸麺)!