悪人正機説  仁

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月10日〜12月15日

リプレイ公開日:2005年12月18日

●オープニング

 今日もギルドへは多くの依頼が舞い込んでいる。小鬼退治に護衛依頼。それもそんな依頼の一つだ。
 北のとある町へ、他所から鬼どもが流れて悪さをしているらしい。里へ降りたこの鬼らを狩る、手練の冒険者を求む。報酬は高額。経験や実績は不問。唯一つの条件は、依頼遂行という『目的』のためには一切の『躊躇のない』冒険者――。


「前回はご苦労だったな。俺も高見の見物で楽しませてもらったぜ」
 大火での火付けでは、多少危ぶまれる場面もあったが捕縛に至るような手掛かりは掴まれていない様子だ。報酬はそれらを加味して若干目減りした額が与えられることとなった。
 だが今は奉行所が躍起になって放火犯を探っているさなか。下手に動くのは危険と、数度に分けて小出しに支払われることになっている。
「今両替商から多額の金を下ろせば怪しまれる恐れがある。大火の件が完全にほとぼりがさめるまでの辛抱だな。それより次の依頼といこうか。今度は人間狩りだ」
 これまでも寺院を襲って信者を一網打尽にするような仕事は行ったが、次は舞台が違う。目的地は上州新田郡太田宿。そこへ赴き、宿内で暗躍する不穏分子を排除すること。
 いま新田領では冒険者の扇動で民草が反抗勢力を作り、打倒義貞に動いているらしい。特に義貞の本拠である金山の城下町・大田宿では新田の動向を嗅ぎ回って活発な動きを見せている。百姓や、戦で家を失った流民、地元の侠客、旅の僧侶、浪人、冒険者といった連中からなるこれらの連中を片端から狩るのが此度の依頼だ。
「近々、義貞は領内への冒険者の流入を禁ずるらしい。その前に、既に入り込んだ不穏分子を大掃除しようという腹だろう」
 義貞は源徳に弓引く上州の乱の叛主。とても表へ流れてくるようなまともな依頼ではない。ギルドや源徳側に知られる心配はいらぬだろう。
「念のため偽名を名乗っておくくらいはしておくべきかもな。今回は見せしめに民草連中を狩るため、向こうさんは腕の立つ浪人を御所望だ。ま、難しい話は置いておいて。怪しい奴は斬れ。少しくらい手違いがあっても上が揉み消してくれるとよ」
 報酬は現金ではないが金目の物を賜るとの話だ。何が貰えるかは仕事が終わってのお楽しみ。品は一つしかないので、今回は皆で競い合って一番の功をあげたものがそれにありつける。皆が皆腕の立つ者ばかりではないが、今度はただの殺しではなく『狩り』だ。潜んでいる連中を各自で探し出すところから始まるので、策次第では誰が報酬にありつけるかは蓋を開けてみるまで分からない。
「それと」
 と依頼人は思い出したように口にした。
「大事なことを言い忘れるところだったぜ。聞いたか?  何でも冒険者ギルドが復興基金を立てたらしい。どこも大火のお陰で金が要るらしいな。お前等もこういうときに善行を積んどかないとよ、地獄に堕ちるぜ?」

●今回の参加者

 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9555 アルティス・エレン(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1119 林 潤花(30歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1160 白 九龍(34歳・♂・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb1513 鷲落 大光(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1540 天山 万齢(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2001 クルディア・アジ・ダカーハ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 新田領で活発な動きを見せる反抗組織は、反上州連合などと大仰な名を名乗っているらしい。
「‥‥江戸の街を焼き、この次は上州を更に混沌とさせ兼ねない依頼か‥‥ふむ、冒険者達の力を分散させようとでも言うのかな? ‥‥となると、依頼主‥いや、その背後にいるであろうモノの狙いは‥‥」
 鳴神破邪斗(eb0641)はそこで思考を中断した。
(「詮索は止めておくか、死ぬのは怖くないがまだ消えるつもりは無いからな」)
「今度は上州ねえ。へぇ、意外な所で意外と繋がってるもんじゃん。これは楽しいかも♪」
 アルティス・エレン(ea9555)は相変わらず場違いな笑顔でケラケラと笑い声を洩らしている。林潤花(eb1119)も釣られて含み笑いを零す。
「くすくす、これも依頼だからね」
 何時もは狩る側の冒険者。これはそれを逆に狩り出す仕事。太田の宿は巨大な狩り場。悪鬼、羅刹、修羅。人の皮を被った鬼どもが遊ぶ巨大な遊戯場。
 追い詰められた獲物は、今際の刻になに思う‥‥?


●血の宴の参加者名簿
 神聖暦一千年、師走十三日。惨劇の幕開けを前に冒険者達は上野入りを果たしていた。
「そーそー、こーゆー仕事を待ってたんだよー♪ 今回は思い切り殺るぞー♪きゃはははは♪」
 彼岸ころり(ea5388)にとっては殺人そのものが快楽。肉を割く刃のぐにゃりとヌルい感触と、生き血のぬめる温かさ。それが彼岸の愉悦。
 クルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)はここでは梵天丸を名乗っている。
「俺らが雑魚を狩った所でしゃーねぇだろ。ちったぁ頭使えや」
 少数の冒険者が領内で暗躍しているなら、要はそれを逆手に取ればいいだけのこと。梵天丸はそう新田の者へ語った。
「ちょうどいい材料があんだろがよ。――九尾の狐だ、奴らをその手先に仕立て上げちまうってのはどうだ?」
 同じ頃。
「都におはします止ん事無き御方からの使いである」
 太田のとある宿には雨宮満蓮と名乗る男が連合側のヤクザと接触を持っている。
「謀反人、新田義貞追討の密命がでた。武具等下賜されたので誰か上の者に会いたい。俺は明日までしかこの街にはおらぬ。お主が上州の命運を左右させると思えよ」
「信用していいのか――?」
 男の風体は明らかに浪人風。だが密使と言われればそのようにも思える。雨宮は有無を言わせず約束を取り付けると早々に席を立った。振り返って最後に一言。
「この街に悪い卦が立ったと聞いた。気をつけておけ」
 太田宿近郊。
「へっへっ‥‥お手数をかけまして。ええっと‥はい、その村ぁってのはこの道を行った先で‥‥はい、お手数をおかけ致しやす」
 弥太郎と名乗る男は西国から流れてきた薬売りだという。こけた頬は卑しく笑う度に干からびた皺を刻む。眉はみすぼらしくまだらに抜け、半目に開いた瞼から濁った瞳が覗いている。
「ああ、ええもう大丈夫でごぜえやす、へっへっ‥はいはい、有難うございやす」
 男は何度も頭を下げた。肩を丸めた猫背でびっこを引きながら、弥太郎は連合のあるという村へと消えていく。
 その夕刻。
「何だか騒がしいけど何かあるの? お祭り‥‥って訳じゃなさそうだけどねぇ」
 酒場にエレンの姿。隣の若い男へ上目遣いで話しかけると、大きく開いた胸元へ男の視線が伸びる。
「とんでもねえ。何でもお上が妖怪の一味を狩ってるとか聞くぜ」
「なぁんだ。じゃあどっちみち一緒じゃん?」
 半開きにした唇へ指先を当てると、エレンは男の瞳を覗き込んだ。
「へぇ。じゃぁ少しここで商売が出来そうじゃん。ねぇ、あんたさぁ。あたし買わない?」

●楽しい楽しいはんてぃんぐ♪
 惨劇の幕を切って落としたのは若干十一歳の少女、ミネア・ウェルロッド(ea4591)。
(「ミネアは上州の反抗勢力の一員として行動してるから、敵になるワケだけど‥‥今回はそんなの抜きで仕事に取り組むよ♪ お金貰う以上、ミネアもプロだしね♪」)
 狩りだす筈の連合に幹部として名を連ねるミネア。他の誰よりも早く連中を見つけられるのも当然だ。ミネアはいとも容易く連合の隠れ家の一つである宿に入り込んだ。この夜、居合わせたのは村人ばかりが五人。誰もミネアに疑いを持つ者はいない。スカートに忍ばせたナックルを素早く握ると喉を一突き。男が苦悶の呻きを洩らして転がり、残った連中は余りのことに事態を把握できずに居る。
「‥‥な、な、な‥‥‥‥!‥」
「‥‥思い切って暴れた方が、反抗勢力のみんなが憤怒して士気が高まるだろうし♪ 今回はその為に来たんだ♪ だからミネアに協力してね?」
 ミネアがすらりと短剣を抜いた。
「あ!!他の依頼のみんなには、この事は内緒だよ?し〜っ‥‥って、皆死んじゃうんだし意味ないっか〜♪」
 てへ、と舌を出したミネアは瞬く間に返り血に包まれる。その幼い容姿から想像もつかぬ手練だとは、連合の仲間ならば誰しも知っている。咄嗟に逃げようとした一人の背を斜めにザクリ。もう一人は後頭部へ拳をめり込ませる。
「反抗勢力のみんなにバレたら大変だからね♪ ちょっと痛いかも知れないけど、口封じしなきゃだから我慢してねっ♪」
 最後の一人は時間をかけて撲殺し、頭蓋を粉砕する。瞬く間に五人。しかしこれはまだ先触れに過ぎない。
 白九龍(eb1160)は林と行動を共にしていた。
「民草も無駄に鳴かねば討たれぬものを‥‥」
 黒装束に黒頭巾、墨で塗り固めた髪。梵天丸ことクルディアと共に林の指示で太田中の宿を虱潰しにする。
「さあ、これから狩りの時間よ。狩られる側の気分はどうかしら。冒険者の皆さん」
 林が宿帳を改め、標的を確認する。疑わしきは全て狩る。冒険者風や浪人風は一人も生かさない。見敵必殺。白は踏み込み様に初撃で躊躇無く金的を狙い、組し難しと見れば膝を砕いてから料理する。座敷での戦いは小柄な白の独壇場だ。鞠が跳ね回るように小さな体躯の身軽さを遺憾なく発揮し、一人で数人からを翻弄する。白ほどの体術があれば素人には掠らせもしない。
 表へ逃亡した者へはクルディアが待ち受けている。物陰から飛び出すと擦れ違い様の一閃。千切れた胴が壁にあたって爆ぜる。
「なんだよ、おい。まるで手応えもねぇなあ?」
 クルディアは嘆息付くと、刀を肩で担いだ。
「おい、面倒だ。手前ぇら四、五人で一斉に突いて来いや。ほら、遠慮してんじゃねえよ」
 林も魔法で援護しつつ手分けして手早く片付けてしまうと、最後に主人へ釘を刺す。
「今後、反抗分子が来るようなら官吏に密告しなさい。あなたも、あのようにはなりたくないでしょう?」
 林の背には死兵が続く。総毛立つような微笑は黒い笑み。速さの白と、剛のクルディア。そして死兵の林。この三人に抗える者などこの街にはいなかった。彼等の行く先々で次々に死が振り撒かれる。その様は、まるで太田の町へ死神が鎌を振るっているかのようだ。
 他の仲間達も負けじと腕を振るう。鷲落大光(eb1513)は商人筋を回っている。
「言っておくが御主を斬ってから調べても構わんのだぞ?」
 武器や食料、生活必需品など。それらを多量に買い込んだ者は連合との関与が疑わしい。となれば売った商人も協力者と見做す。脅しを交えて帳簿を出させ、改める。中には鷲落を侍と見て誤魔化した帳簿を渡そうという不心得者もいるが、そんな小細工を見逃す鷲落ではない。
「侍に帳簿は読めぬと踏んだんだろうが、考えが甘い」
 言い終わらぬうちに鷲落の小太刀が男の耳を削いだ。
「おぬし、不穏分子と繋がっているな? 洗いざらい吐け」
「ひ、ひぃ〜〜」
 悲鳴を上げた男の胸を鷲落がざっくりと一突きにした。男を蹴倒して小太刀を抜くと、後ろで見ていた番頭へ視線を向ける。
「おい、次はおぬしだ」
「は、はい〜‥! 何でもしゃべらせて貰いますのでどうか命だけは!!」
「訪ねた者が夜逃げでもしてたらどうなるか分かってるだろうな? その時は御主の首が飛ぶことになる」
 殺戮は、止まらない。
「騙されたキミ達の負けなのさ♪ きゃはははは♪」
 流民に紛れた彼岸は連合の者と接触を持ち、彼等が太田で拠点としている宿の一つに潜り込んでいた。
「此度の戦乱で親兄弟を亡くした? 新田が憎くて仕方ない? 仇を取りたいから仲間が欲しい?? そーんな都合のいい人間が声掛けてくるなんてあるワケないのにね〜〜? きゃははは♪」
 皆が寝静まった頃にこっそりと床を抜けると足音を殺して端から順に。口を塞いで次々と寝首を掻く。汚した髪や体を洗うように返り血を被って5、6人程殺した所で、漸く血の匂いに数人が目を覚ましたが。もう遅い。仲間を殺されて動転した奴らはいいカモだ。
「っても、正攻法はやんないけどね♪」
 咄嗟に一人に飛び掛ると、後ろ手に捻り上げる。彼岸は喉元へ小太刀を押し当てた。
「これ引いちゃうとさあ、死んじゃうよね?」
「や、やめ‥‥」
「ねぇ? 怖い?怖い?怖‥‥」
 言葉半ばで唐突に一掻き。不意を突かれて男は悲鳴を上げる間もなく逝った。
「きゃははは♪」
 その瞬間に死体を投げつると同時に踵を返す。怯んだ連中を尻目に彼岸は宿を逃げ出した。

●これはまたおっきぃ仕事だねぇ。
 太田宿のとある侠客の一家。人払いをさせた奥の部屋で雨宮は親分と面会していた。
「アンタけぇ、朝廷の密使とやらぁ?」
 訪れた雨宮は礼服に身を包んで身なりを整えている。雨宮が旅荷を開くと、そこには百数十両の大金と見事な業物の剣や弓などの武具。目の当たりにした親分がごくりと唾を飲み下すと、雨宮は背筋を逸らした。
「これは新皇様よりの密勅である。謹んで拝領せよ」
 口を真横に結んで懐へ手を忍ばす。雨宮が書状を差し出すと親分がそこへと視線を落とす。
 その。瞬間に。
「悪ぃね。まったく」
 短刀が親分の喉を掻き斬った。男に先までの神妙な表情はもう見えず、あるのは天山万齢(eb1540)の張り付いた笑み。
「ごっそうさん。そいじゃそろそろお暇するぜ」
 惨劇は太田ばかりではない。連合の村では、夜中に弥太郎が床を抜け出している。その身のこなしは昼間の男のものではない。面を拭うとそこに現れたのは鳴神の顔。
「‥‥さて、この混乱に乗じて依頼者殿は如何動くやら?」
 旅荷から取り出した忍び装束に着替えると鳴神は闇へ溶け込む。
「‥‥上将自身は余り姿を見せず、見せたとしても大口を叩いた後に1人で行動。そして昔からの馴染みである冒険者としか接触しない、か」
「‥‥成る程、興味深いな。‥‥ならば、殺るより面白い手がある」
 その近くの村では夜半になって大きな火の手が上がっていた。出火したのは庄屋の納屋。
「兵糧を減らすっていうのも有りじゃん?」
 冬を越すための蓄えはエレンによって一夜で灰になった。連合へ協力者を出した村への見せしめだ。
「やっぱし冬は焚き火だよねぇ」
 用心のため村娘に扮してエレンは村を後にする。ついでにもう二、三の村へ火付けする時間くらいはあるだろう。
「悪いけど、これも仕事じゃん♪」
 太田宿でも終幕が近づいている。
 鷲落は商人から聞き出した情報を元に連合の協力者を借り出し、隠していた武器を押収した。白達も太田を平らげる勢いで次々と宿を襲っている。
(「‥‥悪く思うな‥俺と出会った不運を呪うんだな‥」)
 膝をついた相手の鼻柱に脛をぶつけると、続けて喉へ爪先をめり込ませる。クルディアはというとヤクザの用心棒などを二、三人試したがどれも彼を満足させるには至らなかったようだ。
「ちったあ歯応えのある奴もいるかと期待してたんだがねえ?」
「あらあら。我侭言わないの。クルディア君ほどの使い手じゃ仕方ないわよ」
 群を成した死兵はやがて町の中央へ行進を始める。その手には『この者、源徳の狗』『放火を企んだ大悪党』と記された立て札。死兵は自らそれを打ち立てると、その場で動かぬ躯へ戻った。
 今宵の惨劇、その終幕の場面であった。


 この晩だけで太田では流れ者を中心に四、五十近くの者が命を落とした。実際に反抗分子であった者は半数いるかいないかという数だったようだが、見せしめとしてはこれ以上ない結果となった。またこの時に流された虚報は後に連合へ深刻な影響を落とすことにもなるが、それはまた別の話。冒険者のあずかり知る所ではない。