竹之屋敏腕繁盛記♪  神無月の献立

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2005年10月17日

●オープニング

 江戸の下町に軒を構える小さな居酒屋、竹之屋。地域住民から愛されるこの店は昼はお食事処、夜は居酒屋として営業している。店にはお手伝いのお千ちゃんや多くの仲間達が集い、常連も多くいつも和気藹々とした雰囲気だ先の花見大会や夏祭りではあの冒険者酒場・松之屋との料理対決も実現し、近頃はとみに順風満帆。主人の“やっさん”も敏腕のなかなかのやり手として評判高い。
 さて、そんな竹之屋で今日起こります事件とは‥‥。


《急募 竹之屋“二号”店、店員募集!!》

 職種  給仕、調理
 給与  応相談
 雇用形態  店員、またはお手伝いさん
 勤務先  人形町
 条件  特にナシ。初心者大歓迎。


 竹之屋の軒先にそんな張り紙が出されている。店へ顔を出したお千ちゃんが驚いた顔で厨房へ駆け込んだ。
「やっさん、これ、ホントですか!?」
「おうお千ちゃん。お疲れー。春夏と屋台でがっぽり稼いだからな、ここらでウチも一発勝負だ」
 この勢いに乗ってということでやっさん、早速二号店立ち上げの準備を進めていた。そうして場所と予算の目処も立ち、このたび店員を新規に募集することになったのだ。 
「お千ちゃんちは確か浜町の辺りだったな。つー訳でよ、明日からは二号店の方に出てくれっかい?」
「ええっ!? あの、もうお店できあがってるんですか‥‥‥‥?」
 おずおずと口にしたお千に、やっさんはなぜか苦笑い。
「いやぁ。それがな‥‥」
 勢いで計画を持ち上げたはいいが、やっぱり資金面で問題があったようで建設がストップ。材木や工具などは用意したので、後は店員達で力を合わせて建てて欲しいという話。
「‥や、やっさーん‥‥!」
「悪ぃわりい。ま、そういう事だから、早速宜しく頼むわ。な?」
 という訳で竹之屋二号店の最初の仕事は大工仕事だ。素人仕事なので完成までどのくらいかかるのかは謎だったりするが。とりあえず早く町の人にお披露目するためにも、仮営業できる所まで作業を進めなければ。
 何だか前途多難な竹之屋二号店、いよいよ今秋スタート!

●今回の参加者

 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9491 拝峰 巫女乃(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0240 月 陽姫(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1484 鷹見沢 桐(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

氷川 玲(ea2988

●リプレイ本文

 さて、こちらは竹之屋本店。
 竹之屋を訪ねて来たのは流れの厨師、月陽姫(eb0240)。見た目は幼いが、先の味勝負では松之屋の刺客として腕を振るった華国の料理人である。
「お、アンタは松之屋の。そうかそうか、漸くウチに来る気になってくれたか!」
「店長サン、決心したアルよ。こちらにお世話になる‥‥‥‥って何アルかコレ」
 陽姫がお辞儀をして顔をあげた拍子に、二号店の張り紙が視界に飛び込んでくる。そこへお盆片手に香月八雲(ea8432)が顔を出した。
「遂に2号店が出来るんですよ! なんだか順風満帆という感じです!」
「ちょうどいい、陽姫ちゃんは二号店の料理人で決まりだな」
「やっさーん‥‥いろいろ考えなしにやるの止めといたほうがいいよ〜」
 前掛け姿のリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が横目で睨むと、やっさんもたじたじ。
「そうですよ、おやっさん、こんな時こそ慎重にやらないとです! 躓いた時に大失敗になるかもです! 諺で言う、好事魔多しですよ!」
「全く‥‥今回で、皆で協力して立ち上げなきゃいけないじゃない‥‥」
 ぶつくさ言いながらリーゼが店の奥へ消えていく。気を取り直して、やっさん。
「まあそう言うなって。軌道に乗るまではこっちからも朱やんを助っ人に出すしよ。な?」
 そう言って店の奥を振り返ると、厨房へ顔を出した朱雲慧(ea7692)は苦い顔。
「一号店と往復はワイかてしんどいんやで?」
「そういや、例の入店希望の子はどうだった」
 お手伝いさん募集の張り紙を出した所、早速応募があった。先の浴衣美人選でも入賞した鷹見沢桐(eb1484)だ。朱の後ろからそっと顔を出す。
「足手纏いにならぬ様、精一杯やらせてもらう。宜しく頼む」
「そうかそうか。朱やん、ちゃんと面倒見てやってな」
「それじゃ」
 と割って入ったのはリーゼ。
「二号店用に使えそうな物を頂いてこうか。桐、そこの戸棚の食器運び出して」
「承知した」
 リーゼがテキパキと指示を出し、食器や照明用具、装飾品などの小物を運び出していく。こうして二号店開店に向けて一行は動き出した。

 2号店建設予定地へはもう店員が集まっていた。拝峰巫女乃(ea9491)は家計を支える為にお手伝いさんに応募してきた娘さんだ。
「まさか働き先を作ることになるとは思いませんでしたが‥‥これも修行のひとつと考えて、頑張らせていただきましょう」
 ちょうど馬で材木を引いて来た所だ。その後ろから聰暁竜(eb2413)も材木を抱えてやって来た。人足として日払いで雇われた華国人の冒険者だ。
「‥‥では始めるとしようか」
(「――――飲食店、か」)
 ふと聰が目を細めた。鬼と戦うのにも躊躇は無いが、初めての店に入るのには覚悟を要するのは何故なのか。
 ところで、つい先日の話だ。
 初めて入った寿司屋には品書きしかなかった。値段がないのを不思議に思いながらも、適当につまんでいざ会計となった段で、提示された金額に仰天。「ちょっと待て、計算間違えてないか?」。‥‥ジャパンの料理屋ほど恐ろしいものはない、とつくづく身に沁みた次第である。(――『おそるべしジャパン』 聰暁竜・著)
 聰が渋い顔で一人目を細めた。不思議そうに見守る八雲。
 とまあそれはさて置き。
「まずは屋台風の調理場と、オープンカフェ風の座席があれば良いですよね! ええと、こっちの方は男性陣にお任せします!」
「了解した。こちら側は任せてくれ」
 とはいえ、殆ど一から始めるのでは流石の冒険者達も途方に暮れる。そこへ現れたのはリーゼだ。
「まったく、素人仕事ばかりには任せちゃおけないからね」
 ギルドの依頼で冒険者仲間の一人が大工の棟梁と知り合ったというリーゼが。その友人に口を聞いてもらって棟梁へ依頼を持ちかけたのだ。予算が何かと厳しいので話は難しいがそこは口達者のリーゼ姉さん。
「っていう訳だから、何とか若い職人さんを修行がてらに貸して貰えることになったから。これで巧く運ぶかな?」
 建物の相談などは既に話をつけているので、後は皆の話を盛り込んで最終的な図面を引くだけだ。
「流石はリゼ姉はんやな。せやけど、こうして若衆引き連れた姉さん見てると何やどこぞの組の姉御っちゅう気が‥‥」
「無駄口叩いてんじゃないよ、朱。ほら、職人さんと打ち合わせ打ち合わせ」
「せやな、本店の造りは‥‥」
 若い職人達と頭を突き合わせて内装などの詳細を詰め始めた。聰も工程を教わりながら黙々と大工仕事に励む。リーゼも作業に打ち込み、朱も余った時間で椅子や机を作ったりと忙しい。
 さてその頃女性陣はというと。
 買出しにいっていた桐が戻ってくると、一足先に完成した屋台組の厨房は何やら賑やかなことになっている。
「宣伝用に月見団子を作ってみたアルよ。竹之屋さんらしく庶民的に行ってみたアル」
 厨房は朱の案でカウンター席を通じて繋がっている。そこへ座って待つ女性陣へ、陽姫が仮営業中の献立にと考えた団子を差し出した。八雲に手招きされて桐もそこへ腰を下ろす。
「‥‥ふむ、この団子は実に美味いな。‥‥どれ、もう一つ」
「夜営業には暖かい物も作ってみたアル。月見にちなんで黄色い茶碗蒸しにしてみたアルね。暖かくて、つまみにも食事にもなって手頃アル」
 手渡された椀を巫女乃が開けると、ふわっと湯気の花が立つ。思わず顔を綻ばせた巫女乃へ陽姫も笑顔を返す。
「材料を用意しておけば後は蒸すだけアル。簡単に作れるアルよ」
「そういえば、お千ちゃんもそろそろ厨房のお仕事を覚えないとですね!」
「はい、八雲さん!」
 八雲の手伝いがてらに簡単な献立からということで、桐と巫女乃も前掛けをして厨房へと入る。神妙な顔の三人へ八雲と陽姫が手を取って優しく教えていく。
「そうですね、秋の夜は体が冷えるかも知れないです! 体の芯から温まる豚汁と甘酒なんかも仕込んでおきましょう! 出来上がったのは男性陣に味見をお願いしましょうか!」
 表では男手に混じってリーゼも大工仕事に精を出している。お千と桐が職人へ団子の皿を運んでいく。巫女乃も聰へ団子を差し出した。
「初めてなのでお口に合うかは分かりませんが。宜しかったら」
「―――頂こう」
 こうして店作りは着々と進んでいった。数日もすると仮営業の屋台組みが出来上がり、今度は内装に取り掛かる。筆を手にした桐が看板へ文字を書き入れる。満足そうに額の汗を拭うと、今度はお品書きへ筆を入れた。巫女乃も余った木材を貰って立て看を作る。朱も趣味の木工を活かして灯篭をこしらえたりと、次第に居酒屋らしく出来上がってきた。
「なんや、こうして形になってくるとワクワクしてくるもんやな」
「朱さん、その灯篭はどこにおきましょうか? あ、桐ちゃんはそっちののぼりをお願いしますよ!」
 こくりと頷いた桐がのぼりを抱えて通りへと立てかけていく。
 急ピッチでの作業が進められ、そして。
「いやー、何とかなるもんだね」
「ほんま、リゼ姉はん様様やな。これで仮営業はできるみたいやし、明日からはまたしんどいで。鷹見沢はんも明日から気合入れて頑張ってや」
 ひとまずの完成を見て、一同は新店舗で陽姫の作った賄いを囲んでいる。真新しい二号店に楽しげな声が漏れる。
 聰はその輪からは離れて奥の席で一息ついている。ふと思い出したように聰が視線を伏せた。懐から素焼きの埴輪を取り出すと、奥の卓へちょこんと乗っけた。相変わらず表情の読めない顰め面だが、聰はその顔で満足そうに一度頷いた。
 八雲がにこりと微笑む。
「いよいよ明日からは開店イベント『秋のお月見』ですよ! 誠心誠意、頑張りましょう!!」

 翌日。
「お客様のご愛顧をうけまして、このたび竹之屋二号店、人形町に開店いたします。お月見など皆様の楽しめる企画をご用意しておりますので、足を運んでいただければ幸いです」
 昼下がりの人形町に巫女乃の呼び込みの声が響く。屋台でも通りを行く人へお千が声をかけていく。
「庶民の味です。是非一度お立ち寄り下さい!」
「お、やってるな? 入店一号げっとだぜ!」
「山岡さん!」
 ふらりと現れたのは本店の常連である山岡忠臣(ea9861)だ。その手には両腕いっぱいの花束。驚いた顔のお千にニコリと微笑むと、そっと差し出した。
「開店祝いだぜ、お千ちゃん」
 そこへ声を聞きつけて八雲もひょこりと顔を出した。 
「山岡さん、お久しぶりですよ! すごい花束ですね!」
「けど、そ、そんな‥‥こんな高そうなもの‥‥!」
「お千ちゃんにはこの前助けてもらったこったし、恩返しも兼ねて、って所さ」
「――ぼん、まぁた来よったな‥」
「ん、その声は用心棒」
 厨房から顔を覗かせた朱に思わず忠臣が身構える。二人の視線がぶつかり、次に忠臣が肩を竦めてみせた。
「折角のめでてぇ日だ。純粋に開店を祝いに来たんだぜ。つー訳で、早速何か頼むぜ」
 そう言うとカウンター席へ腰を下ろす。やれやれと嘆息して朱が調理に取り掛かる。
 そこへ陽姫がお盆に載せた料理を忠臣へ差し出した。
「アイヤー、お久しぶりアルな山岡さん。コレ、あたしの考えた新作、お待ちどおアル」


 神無月の献立〜秋のお月見団子セット

  月見団子:
   みたらし団子。タレは竹之屋秘伝の出汁と醤油を煮詰めた甘塩っぱさが濃厚な一品。
   団子は仕上げに香ばしく焦げ目をつけ、タレを一潜りさせて出来上がり。

  茶碗蒸し
   茹で鳥、煮椎茸、銀杏の三種の具をたっぷり溶き卵で蒸し上げた品。
   三葉のアクセントに、勿論味付けは秘伝の出汁。お好みで御餅入りも。 

 それぞれ2文4文。
 しめて6文(餅入り茶碗蒸しは追加で2文)也。
「昼時アルからな、腹持ちがいいようにサービスでお餅入りにしといたアル。旬の銀杏もおいしいアルよ」
 そうこうする内に方々の宣伝の成果か、徐々に客も入ってきた。
 離れた大通りでは桐と巫女乃が二人で宣伝に精を出している。
「まずはこちらのお月見団子を、お試しにお召し上がりくださいませ」
「口に合うようなら是非、竹之屋へ食べに来てほしい」
 前掛け姿の初々しい二人が道行く人へと団子を振舞ってアピールする。桐も今日は髪を結っておめかししている。初日にしては客足は上々。夜になると宣伝のおかげか、月見酒目当ての客も訪れ始めた。本店の看板娘でもある八雲も大忙しで接客する。
「十五夜にはちょっと遅いですけど、虫の声は聞けますし、まだまだ秋の夜長を楽しめますよ!」
 夜営業では月見酒や甘酒に豚汁が振舞われ、厨房の朱も休む暇もない。
「豚汁2丁お待ち! おかわり?ちょっと待ってぇや、大至急やるさかいな!!」
 団子の売れ行きも好調で、桐と巫女乃は串に刺す作業で大忙し。お千やリーゼも慌しく配膳に勤しむ。そんな中で忠臣はカウンターの隅で団子を齧っている。
「まだおったんかい、ぼん」
「いちゃあ悪いかよ用心棒。俺は客だぜ? しっかし、新人さん。‥‥美人揃いだな」
 ポソリと呟いた忠臣へ朱がじと目で睨みつける。
 忠臣は地回りへは顔もきくとあって忠こっそりと話をつけてみたりと、陰ながら店のために動いている。この分なら店も時期に軌道に乗るだろう。
「まあ変な客が来ても、用心棒が居りゃあ大丈夫だろうとは思うけどな。イマイチ頼りねーが、曲がりなりにも八雲ちゃんの彼氏だしな――」
 少し前まで八雲に横恋慕していた忠臣。自分で言ってダメージを受けたらしくがっくりと肩を落とした。
「大丈夫ですか、山岡さん? これ、甘酒です。温まりますよ」
「ありがとな、お千ちゃん」
 猪口を空けると忠臣は立ち上がった。
「それじゃ、俺はそろそろお暇すっかな。何か困った事があったら、いつでも呼んでくれ。ジ・アースのどっからだって飛んでくるぜ」
 斜め45度の決め顔で言うと、踵を返す。後ろ手に掌を振りながら忠臣は店を後にした。

 閉店後。
「なかなかの滑り出しやったな。後は二号店の献立も追々考えてかなな」
「私は団子や饅頭、それにカステイラなどが良いと思うのだが‥‥なんだその目は」
 真面目な顔でいう桐、巫女乃がクスリと笑みをこぼした。
「そういえば2号店の店長も決めなくてはですね! 私は朱さんを推薦します! 最近張り切ってるみたいですし、頼りがいもありますし‥‥何となく若旦那っていう感じがしますね」
 そういう八雲の頬が緩んでいる。桐も神妙な顔で頷いた。朱だけは驚いた様子で素っ頓狂な声を上げた。
「わ、ワイがァ?」
「大丈夫です!孫子もこう仰いました! 少年よ、大志を抱けと!」
「八雲はんがそない言うんなら‥‥よっしゃ! 一丁やったるか!」
 両頬をピシャリと叩いて朱が気合を入れる。
「ほな、やっさんに報告せなな。皆はもう今日はあがってええで」
「朱さん、私も一緒にいっていいですか?」
 そうして帰り道。
 皆と別れて二人になったのを見計らって、朱が八雲の手をそっと掌で包んだ。
「先月は忙しゅうて一緒に居られる時間が少なかったさかいな」
 八雲が顔を起こすと、そっぽを向いた朱の頬は少しだけ赤らんでいる。ぎゅっとその手を握り返し、八雲はほんの少しだけ歩みを緩めた。本店までの短い時間を噛み締める様に朱もまた歩調を落とす。
 見上げるとまん丸のお月様。それに照らされながら二人は人形町を後にする。神聖暦一千年、神無月。こうして2号店はその第一歩を踏み出した。