【上州騒乱】  北へ

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:7〜11lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月27日〜11月04日

リプレイ公開日:2005年11月05日

●オープニング

 ギルドへ日々舞い込む依頼の数々。中には胡散臭い話も紛れ込んでくる。これもそんな話の一つだ。
「妙な依頼が来ているぞ」
 番頭はそういって、張り出したばかりの依頼を指した。
「上野国だ。遠い上にたいして金にもなる仕事でもなし。今の上州は不穏な情勢だからな。止めておいた方が利口だと思うがな」


 上野国は東国でも特に政情の定まらない危険な地域だ。
 今の群馬県に当たる上州20万石の国司は上杉家の憲政。だが同じ地には新田家も領地を構え、最近では両家の緊張状態が続いている。現在は源徳に臣従する上杉家の元で上野は源徳領となっているが、古くから上州領内は小領主同士の小競り合いの絶えぬ地域であった。今年の夏にも新田家の義貞の率いる兵との間に上杉との衝突があり、その報せは江戸にも伝わっている。
 今回の衝突も当初はすぐに沈静化すると思われていた。だが時を同じくして江戸での神剣発見の噂が上州にも広まり、家康への不信感が騒乱の追い風となった。家康もまた神剣争奪に手を焼いて是の対処までは手が回らず、結果として事態は最悪の展開を迎えた。
 義貞の起こした反乱の火はいまや上野を焼き尽くす炎へ変わろうかという、かなり危険な状態だ。上野国の地が元から小領主の林立する土地だったこともあり、新田の火の粉は全土に飛び火し、上州全域がいまや危険な騒乱の地域となっている。
 ギルドへ依頼があったのは、上野国の南。江戸からは北に当たる新田郡。戦火の渦中にある新田義貞の領内である。
「反上州連合?」
 その聞きなれない名が今回の依頼人だという。番頭は苦い顔で嘆息する。
「なんとも胡散臭い話だ。得体の知れぬ連中だが、ギルドは政治的には中立。金さえ払えば客であることに代わりはない」
 上杉と源徳へ無謀な戦を仕掛けた義貞の強引なやり方に、家臣団も揺れているという話もある。その動揺は民百姓にも伝わり領内はいま混乱のさなかにある。江戸まで流れてきた噂では、そんな不安な情勢を煽って動いている集団があるのだという。それが今回の依頼人という訳だ。
「又聞きに又聞きの話だ。一人の侍がそれらを纏めて、義勇の勢力を興したと専らの噂だな。眉唾モノの話だが」
 男の名も不明。その活動の規模なども知られていない。土地の民百姓や飢民に流民、それに侠客や僧侶などが集まっているらしい。所詮は民草の集まりなど上野国の騒乱に比すれば些事でしかない。だが後ろ盾に東国のどこかの商人が金を流しているというような噂も流れてきている。
「あっちは酷く情勢が混乱している。向こうに行くまでははっきりしたことは何も分からんな。ともかくも依頼料さえ払ってくれれば客であることには変わらん。尤も、お前たち冒険者がこんな怪しげな話に乗るかどうかは、――また別の話だが」
 依頼とは、彼らの集団の護衛を行うこと。
 上杉と新田の戦が始まったことで上州の治安は悪化している。一番煽りを受けているのは民草だ。民百姓は戦火や野盗の襲撃に怯えながら毎日を過ごしている。反上州連合とはその中に“革命”と呼ばれる理念を掲げて台頭し始めた集団らしい。
「革命とは天命を革めるという意味らしいな。それが何を意味するのかは分からんが、民草が天意への意思を示す以上は危険な思想だ。だが実際の詳しいことはよく分かっておらず、判断がつかない」
 依頼に来た連合の代理人は、当面の目的は自警団として彼ら民草を野盗から守るために動いているのだとそう説明しそうだ。
「これがギリギリの線だ」
 謀反人の義貞の領内で反抗を続ける勢力。それを支援する分には東国の雄である家康に弓引くことにはならない。だが連合は反上州という御旗を掲げている。下手に政治的な動きに反応しては何かと厄介なことにもなりかねない。あくまで彼らの自警活動のみを支援するというのが今回の依頼だ。
「どうしても行くというなら止めんが。一つだけ忠告しておく」
 そういうと番頭は声を顰めた。
「いいか? 政治的な臭いがしだしたら深追いするな。即刻帰って来い。分かったな?」


 上野国、新田郡。
 義貞の領内奥地。新田家の本拠を東にそれた、戦場からは離れた土地。林の外れにその集落はあった。庄屋の屋敷を改築した建物が反上州連合の本拠地である。街と呼ぶにはやや頼りないが、中規模の村といった規模の集落に彼らは身を寄せ合って暮らしていた。
 一際目を引くのは、村の裏手。林に面した土地に並ぶ無数の墓標。どこも土を新しく掘り起こして埋めた後が生々しい。その一帯を寂寥とした空気が覆っている。それとは対照的に村は人のざわめきの気配。
「時期に江戸からの冒険者がつくらしい。日暮れ前までには見えるだろう」
「助かるな。これで俺達も反撃の態勢が整う」
「ああ。こういうのに慣れた連中だと上将サマも仰っていた」
 村には大勢の多様な人々がひしめいている。風評が風評を呼び、それらに引き付けられるように流民が流れ着き、今やその数は膨れ上がろうとしていた。
 その集落を遠く見守る集団がある。
「よいな」
 先頭に立つ男が低い声で言った。
「今日こそは奴を討ち取る。これ以上、“裏切り者”をのさばらせて置く訳にはいかぬ」
 男の後ろには野盗のような風体をした4,50の男達の姿。それらがしわぶき一つなく木陰に潜んでいる。
「これより三方に分かれて奴らを囲み、襲撃の時を待つ」
 その号令に男達は無言で隊伍を三分した。淀みなきその動きは明らかに訓練されたそれ。野盗のような格好をして入るが、男達はいずれも皆帯刀していた。
「決行は今宵、月が尾根に掛かったとき。その時こそ、我ら墨党が奴を討ち取る!」

●今回の参加者

 ea0233 榊原 信也(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0541 風守 嵐(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0889 李 焔麗(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 江戸より一路北へ、上州は新田荘。義貞が拠点金山城のある大田宿より東に位置するその村へ。途中で幾度か関を抜け、冒険者達は反上州連合の本拠へと向かった。鼻歌まじりに先頭を行くのはミネア・ウェルロッド(ea4591)だ。
「えっと‥‥今回の依頼は、色々とややこしいなぁ」
 一度大きく伸びをすると、頭の後ろで手を組みながらミネアは天を仰いだ。
「ミネア達は最初っからスペシャリストみたいに見られてるみたいだけど、反上州連合のみんな‥‥だっけ? その人達からいかに信用と信頼を取れるか、だね♪ それだと防衛もやり易くなるし♪」
「さて‥‥どうにも裏の多そうな依頼です」
 後に続く李焔麗(ea0889)が視線を遠くへ向けた。その先には林の向こうに目的の村。焔麗は表情を険しくする。果たして。鬼が出るか、はたまた蛇が出るか。
(「どちらにせよ、自分の可能な限り最善を尽くすだけですが‥‥」)
 村では村民達が一行の到着を待っていた。思わぬ厚遇に、冒険者達は戸惑いながらも喜色ばむ。だがその中にあって榊原信也(ea0233)だけは表情を硬くしている。
「‥‥歓迎は有難いが、今はそうも言ってられないようだな‥」
 そう言うと流し目で背後の林を窺う。村人の代表者らしき男へ視線を合わせると信也は小声で続けた。
「さっき通ってきた林の中に武装した連中が潜んでいる。遠目に見た武装から察するにどうも野盗の類ではなさそうだな。おそらく村の裏手にも回っているだろう。数は四、五十といった所か‥‥」
 村民の間に静かに動揺が走った。それを制して西園寺更紗(ea4734)が告げた。
「物騒な土地やと聞いてましたが、えらい手荒な歓迎ですね」
 村人達へ目で合図を送ると、無言で頷いた村人達が一行を庄屋の屋敷へと案内する。極力、動きを悟られぬよう。塀に囲まれた屋敷へ入ると、冒険者達は到着早々に厳戒態勢を取る。
「クソ、また野盗どもが俺らを狙ってやがるのか」
「だが上将サマの呼んで下すった先生方のおかげで今日こそは反撃を食らわしてやれる」
 緊急の召集で屋敷には連合の全員が集められた。上将と呼ばれる連合の長は会合には姿を見せない。核となっているのは、連合の半数以上を占める農民達と、地元の侠客の一家だ。その他に若干の僧侶達と武芸者集団らしき侍達が集っている。
 山下剣清(ea6764)が切り出した。
「とりあえず、分担を決めて動けるようにしておくべきだな」
「素人の生兵法で向かっていっても敵わしまへん。ここは防御の構えに徹した方が良うおすな」
 屋敷中から戸板や床板が集められた。これを盾に要所を固めて出足を止め、そこを盾後方より長物の打突で反撃する。槍のような気の利いたものは殆ど用意できなかったが、扉のつっかえ棒から、鍬や鋤などの農具で代用する。これらを数人単位で隊伍を組んで行う案が撮られた。
「隊の指示は戦闘経験のあらはる方がしはるんが安心できるんやけど‥‥」
「それならば、某らが」
 名乗り出たのは侍達だ。一通りの武具を揃えてある彼らを各隊に配置できれば心強い。
「必ず二人以上で行動するのだよ〜。たとえば弓兵であれば、一人が撃っている間に一人が番える〜。これを繰り返すのだ〜」
 口を挟んだのはクレリックのトマス・ウェスト(ea8714)。
「けひゃひゃひゃ、我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜。それでは、襲撃までに迅速に準備を進めるのだよ〜」

 ――そして夜。
 周囲の林に潜んでいた賊は日没から間もなく村への襲撃を開始した。
「もぬけの殻‥‥! 奴ら、勘付いておったか」
 賊は正面と勝手口から屋敷へ侵入を図る。盾を構えて迎え撃つ連合の兵へ、侍達は抜刀して襲い掛かった。
「百姓どもが小賢しい、散れィ!」
「させないよっ!」
 斬りかかった賊の刀をミネアのレイピアが受け流した。そこへ一閃。カウンターの刺突が煌く。ミネアの幼い容姿に油断していた男は、胸を貫かれてそのままくずおれた。
「皆、敵に呑まれちゃだめだよ♪ ミネア達を信じてついて来てね♪」
「盾になる者は恐れてはあきまへんえ」
 味方を鼓舞すると更紗も門のへ飛び出た。
「巌流、西園寺更紗参ります」
 小さな体で長巻を脇溜めに低く構えると、そこからの瞬撃。賊の一人が重い一撃に倒れたのを目の当りにし、更紗を侮っていた賊達の表情が変わった。一斉に四方から襲い掛かる。だが更紗はそれを巧みに体術でかわすと、軽やかな立ち回りで瞬く間に数人へ深手を負わせる。裏口でも剣清が前衛として大立ち回りを演じ、敵の侵入を許さない。冒険者達は善戦を見せた。
 ――屋敷の奥。
「余り大きくない怪我のうちに来れば、確実に治してあげるよ〜」
 座敷へは怪我人が次々と運び込まれている。女子どもがトマスの指示で手当てに当たる。
「けひゃひゃひゃ、この程度で来るとはなかなかいい度胸をしているね〜。それに免じてこの薬を試してあげよう〜、けひゃひゃひゃ」
 軽傷者へは薬草による応急手当で済ませ、傷の重い者には薬瓶や神聖魔法を駆使して治療を施す。だが時を負うごとに負傷者の数は増加の兆しを見せている。組織立てて迎撃の態勢を取ったとは言え所詮は烏合の衆。長引けばボロが出る。正面では遂に門を固める盾役が破られ、賊が隙を突いて屋敷へ侵入した。混乱する味方へ焔麗の叱咤の声が飛ぶ。 
「うろたえてはなりません。何があっても陣形は崩さず、いまこの時を持ち応えることだけに専心して下さい!」
 屋敷の庭では進入した賊を相手に乱戦となっている。焔麗も応戦しながら、味方の士気を闘気で盛り立てる。ミネアもレイピアでの受け流しでそれを援護する。だがその全てを冒険者で迎え撃つのは難しい。彼らの守りを抜けた賊達は連合の兵を蹴散らしながら母屋へと切り込んだ。
「邪魔だ! 民草ごときが身の程を知れ!」
「――その言い草は聞き捨てならねぇな」
 剣撃を受け止めたのは天井から伸びた忍者刀。男が屋根を見上げたと同時に信也が飛び降りて味方を背に庇う。と同時に男の後ろに立っていた賊の一人が力なく倒れた。その首根には手裏剣が刺さっている。
「‥‥クソ! 忍びの者か!」
「‥民草といっても、共に武器を取って立つ以上は俺の仲間だ‥‥」
(「‥‥その仲間を、むざむざ殺らせるかよ‥」)
 屋敷の奥へと殺到する賊と、それを阻む冒険者。戦いが始まって半刻ほどでその均衡は徐々に崩れつつあった。裏口を守って戦う剣清にも疲れが見える。
「敵の頭を潰すのが手っ取り早いのだがな」
 戦場を見渡すと、指示を出している一人を見定めて対峙する。
「俺が、相手になろう」
「浪人風情が生意気な!」
 それを合図に二人が切り結んだ。先手を打ったのは剣清。その思い一太刀を賊は受け止めて見せた。それは明らかに武術の研鑽を積んだ動き。でなければ夢想流の使い手である剣清の必殺の初太刀を受けきるのは難しい。剣清は即座に切っ先を引き戻すと素早い二の太刀で男を切り伏せる。
「何か‥‥嫌な予感がする‥」

「奴はどこだ! どこに隠れておる!」
 守りを突破した賊は屋敷の奥へと踏み込んだ。やがて彼らは最奥の一室へ足を踏み入れる。そこは連合の長、上将と呼ばれる侍の部屋。部屋を守っていた数名の兵が賊の前に立ちはだかる。
「ここは通さねえ」
「革命の勇者様はオラ達が守るんだ!」
(「‥‥革命、ですか」)
 その屋根裏には、忍者の丙荊姫(ea2497)が息を潜めて両者のやり取りを窺っていた。
(「天に仇なす牙を隠しているのならば‥捨て置けません。‥‥郷を離れて幾年、教えが骨まで沁みているとは‥‥皮肉なものですね」)
「ですが――」
 踏み込もうとした賊の鼻先を炎が焼く。火遁で敵の出鼻を挫くと、荊姫は部屋へと飛び降り味方の横へ並ぶ。敵の力量は侮りがたい、間合いを取りつつ縄ひょうを構える。
「――今はただ任務を全うするまでです」
「娘、そこをどかぬと斬るぞ」
 それに縄ひょうでの牽制で荊姫が答えると、戦いが始まった。だがここまで辿りついた敵も手練。護衛の二人がやられ、賊はその奥に立つ上将へと切りかかった。
「じょ、上将サマ――!」
「死ねい!!」
 だが‥‥
「当たらなければどうとうことはないんだっぜ!」
 ひらりと身をかわしたのは、まだ年若い青年。青年は後退して刀を抜くが、その構えは傍目にも頼りなく、とてもこれだけの集団を統べる男には見えない。
「何だこの小童は!」
「どこだ、具滋はどこに居る!」
 同じ頃。
 母屋の隣の離れへも数人の賊が踏み込んでいた。
「来おったか」
 中には数名の侍が待ち構えている。そして、その後ろには護衛の侍に守られて静かに座す一人の侍の姿が。
「遂に見つけたぞ具滋よ! 裏切り者めが、この俺が引導を渡してくれる」
「やはり貴様か。成り上がりが五分に口を聞こうてか」
「ほざけ!」
 賊の棟梁らしき男が剣を振るった。恐るべき神速の剣。控えの侍達が瞬く間に切り伏せられる。
「雑魚は片付いた、後は貴様の番だ」
 切っ先を喉元へ突きつけ、男が具滋と呼ばれた侍へ切りかかる。刀を抜いて迎え撃つ具滋。だが男の切っ先が僅かに早い。そして次の瞬間。
「ぐぅぁぁァァああああァぁアァァァァ!!!!」
 男の長い絶叫が木霊する。男は右目を押さえて踏鞴を踏んだ。具滋へ襲い掛かった男の目に深々と手裏剣が突き刺さっている。
「ぐゥ‥‥姑息な、伏兵がまだ残って居ったか。この怨み、晴らさで置くべきか‥覚えておれ、具滋! 今日は退くが、次こそは必ずやその首を挙げてくれるわ!!」
 男は呪いの言葉を吐いて逃げ出した。それに呼応したのか、まだ戦っていた残りの賊も即座に撤退を始める。その連携の取れた動きはとても野盗のような連中のなせる技ではない。明らかに戦闘訓練を積んだ兵のそれだ。
(「野盗が集落を狙うと聞いた時、疑問が浮んだ‥‥何故と」)
 屋根の梁には風守嵐(ea0541)が身を潜めている。掌に残る手裏剣の手応えを味わいながらも、嵐は胸中で沸き起こる黒い疑念を止めきれずにいた。
 野盗が弱き者を狙うのであれば話は分かる。だが反上州連合の本拠地あると噂が流れているのに、その危険を犯してわざわざここを襲う理由などあるのだろうか――?
(「故に見極めなければ‥‥野盗の真の狙いと、この連合の実態を」)


 戦い終わって。
 冒険者達は連合の幹部を相手に、屋敷の一室で会談を行っている。一行を代弁して焔麗が口を開いた。
「きな臭い話だとは思っていましたが、こうなった以上は我々にも知る権利があります」
 先の戦いぶりで信用は示した。続けて連合の志を讃えて相手を立てた上で、最後にこう切り出す。
「賊がただの野盗でないことは明白。お聞かせ――願えますか?」
 だがこの話し合いにも連合の長は顔を見せず、部屋に篭ったままだ。
「上将サマは休まれておられる」
「その話はいずれまた日を改めて」
 受け応える幹部にも取り付く島もない。更紗が嘆息する。
「うちはあんたらの主義、主張に興味あらへんし関わるつもりもあらしまへん。だからといって手はぬかへんよってにその辺は信用しておくれやす」
 返答はない。気まずい沈黙が部屋を支配する。それを破ってトマスの笑声が寒々しく響いた。
「けひゃひゃひゃ、何やらきな臭いね〜」
 同じ頃。
 村の外れでは二人の忍びが密会を行っていた。
「風守殿、後ろ盾の商人について探ってみました」
 荊姫が道中に調べた所、連合に金を流しているのは奥多摩の商人達らしい。新田郡の商家筋も洗ってみたが、義貞の家臣お抱えの商人集団が幅を利かせており、その線はなさそうだ。
「なるほどな。お抱え商人の話は俺も道中で噂に聞いた。何でも、大田宿の開発に当たっている華西虎山という家臣の下についてかなりの額を新田に流しているようだな」
 それより、と嵐。
「やはり丙。お前も『北』の手がかりを‥‥」
 それに荊姫が小さく頷いた。去り際にぽつりと荊姫が漏らす。
「そういえば、過日の依頼で独眼竜殿とご一緒しましたが‥‥彼の御方は天をも喰らう竜。新田お抱えの商人はかなりの資金を抱えていると噂に聞きましたが、気に掛かりますね‥‥」
 冒険者達の周囲には政治臭が漂い始めている。この依頼、これ以上続けるべきかそれとも――。