【上州争乱】 金山城攻略戦

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月10日〜01月15日

リプレイ公開日:2006年01月23日

●オープニング

において最強の兵器が何かご存知だろうか。投石器? 破城槌? 戦車? 答えは全てノーだ。その答えとは、城である。
 石造りの堅牢な城壁と数々の防御施設によって生み出される防御力。大部隊の駐屯を可能とする基地能力。そしてそれを支える大量の物資の保有を可能にする兵站能力。この城という兵器は、それまで存在していた砦と呼ばれる前哨基地とは一線を画する能力を有している。それは単なる防御施設という括りには収まりきらない。中世世界においては巨大なる兵器であった。
 これから冒険者達が攻める金山城は、その中世最強の兵器である城の中でも、東国随一の堅牢さを誇る山城。百五十年の昔に建てたられた城ながら、その築城技術水準は神聖暦一千年の現代のものと比しても高水準に達している。事実、この稀代の名城金山城はジ・アースの歴史においても一度たりとも陥落したことはない。太田に伝わる伝説では、150年の昔には逆賊・平将門がこの地に逃げ延び、2万の朝廷軍が攻めるが金山城において退けたとも言われている。先の義貞の乱では新田軍によって義貞の手に奪い返されたが、それも城攻めによる落城ではなく領主の降伏によるものであった。
 そして今この城を守るは、新田軍中でも随一の荒武者、四天王筆頭の篠塚伊賀守。そして外様ながら夏の反乱以降に頭角を現した武将、華西虎山。新田勢で考えられ得る中で最悪の布陣。この至強へ挑むは至弱の軍。多摩の薬売りから身を立てた奇跡の冒険者・松本清と、彼に率いられた農民や侠客を始めとする民草達――。


 連合による金山攻めは秒読みの段階へ入っていた。
 協力者を絶たれた上州では装備品を手に入れるのは難しい為、江戸で買い付けて輸送する必要がある。必要な装備は農民兵に短槍、旅装束、法衣、鉢金を40揃え。弓兵に長弓、中弓をそれぞれ10と20張。矢を一人当たり20本で合計600本。これら総計680両の物資が江戸から冒険者の輸送隊によって運び込まれる手筈だ。現在の軍資金は仲間や道志郎の援助を加えて680両。更に隠密血風衆の陰山黒子が奥多摩の薬売り松本清十郎から調達した300両を足して約一千両余。
 これで重歩兵が十数名、槍兵からなる軽歩兵が30名強、弓兵30人に、スリング持ち軽歩兵が30人の編成となる。槍兵は農民兵を充て、弓兵には侠客と野盗から適正のある者を選抜。それらの指揮に冒険者と由良の侍衆とを選抜する。残った塀は槍と弓へ均等に配分して訓練を行う。なお、製作した盾は五十。この配分も考えねばならない。侠客の殆どはサラシにドスという装備のため、余力があれば彼等にも武具を支給するべきだろう。
 残った資金は300両。これを活用して残りの戦力を仕立て上げねば成らない。江戸では協力者達が浪人や侠客、僧侶などに呼びかけを行っている。功名、義憤、金、様々な理由で様々な者達が集るだろう。
 上野では道志郎の冒険者カイ・ローンの提案で壮行会が行われている。
「みんな〜 松本清じゃーん!頑張るんだっぜ!」
 桃色の神輿に乗った清が味方の士気を鼓舞し、これまでの戦果の数々を謳い上げる。度重なる墨党の攻撃の撃退、そして道志郎救出の成功。清は声高に宣言する。
「新田に兵なし! 勝つのは俺たちじゃっぜ!!」


 そして決戦前夜。
 一通の文の存在によって、金山を巡る状況は大きく動いた。それは松本清の側近である隠密血風衆の一人である紅閃花のしたためたもの。そこには松本清がただの神輿であり風聞が先行しただけで実の伴わぬこと、また連合側に多くの冒険者が与していることが記されていた。この情報を流す目的は金である、とも。そして文には次のような情報が続く。
 曰く、由良と松本の側近だけしか知らぬ、金山攻めの真の目的がある。
 曰く、その目的とは、篠塚、華西、妖華堂を金山に足止めすること。
 曰く、それは平井城攻めに出兵した新田義貞の暗殺を成さんがため。
 曰く、故に金山攻めの兵力は少なく、足止めだけを目的とした陽動である。
 それを裏付けるように連合内の組織図や重要人物の情報、更に新田側でもつかめていなかった隠密血風衆の組織情報までもが文には連記されていた。俄かには信じられぬ情報ではあるが、しかしそれだけでは篠塚は兵を動かさなかったであろう。
 状況を動かしたのはもう一通の文だ。それは華西の募兵に応じた浪人・不破斬によってもたらされた文書。先日の太田での不穏分子狩りで死んだ流れ者が懐に忍ばせていたのを斬が偶然手にしたものだという。そこには簡潔にこう書かれていた。
『由良・篠塚の排除恙無く。道志郎めも獄死間近。義貞の命脈もあと僅か。全ては血染めの合戦で成就しましょうや。九つ様にはよしなにと』
 紅の文と斬の文。二つを目にした篠塚の脳裏に浮かぶのは華西の顔。今や篠塚は疑念の虜となっていた。兵を差し向けるべきか、留まるべきか。その決断への伏線は既に打たれていた。冒険者ウェス・コラドによって篠塚へ宛てられた文にあった報せ。新田七党十一郎に狐が紛れ込んでいる――。
「ええい! 今は我が脳漿からこの迷いを振り払うべし」
 篠塚は拳を自らの頭に打ちつけた。
「兵五十を御殿の護衛へ差し向ける。この金山の守りは篠塚一人でも十分! 民百姓なぞ我が武が呑みこんでくれる!」
 篠塚の精兵百から半数と、墨党が急遽金山を出兵する。残った守りは、篠塚五十と、華西の百。そして妖華堂配下の妖術使いに、僅かばかり残された墨党忍び。総勢で二百に満たぬ数となった。
 連合側の攻め手は大田口から由良具滋率いる主攻の軍。そして西城からは搦め手の松本清と冒険者の軍。対する新田兵の配置は、由良を待ち受けるように華西が本丸を守り、西城へは篠塚がついた。西城の搦め手の部隊へは篠塚自らが金棒を振るって陣頭に立ち、連合兵を待ちうけている。
「我が武に死角なし。民草といえ、武器を手に取ったからには武士よ。容赦はせぬ!」

●今回の参加者

 ea0233 榊原 信也(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0541 風守 嵐(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ビン・シャウンツェ(ea3932)/ イリス・ファングオール(ea4889)/ 佐竹 康利(ea6142)/ デルスウ・コユコン(eb1758)/ 桐乃森 心(eb3897

●リプレイ本文

 神聖暦一千一年、睦月十一日朝。日ノ本の歴史の一端に名を刻む金山城攻略戦の物資を積んだ輸送隊が江戸を発った。連合が工面した資金は冒険者や道志郎、奥多摩の商人らから調達した金二千七百余。
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)率いる輸送隊の馬には、デルスウ・コユコンの手配した大量の武具などが積み込まれた。短槍75本、長弓・短弓合わせて86張り、矢600弱本。スリング30余組及びスリング用石100弱、旅装束と法衣75余着、鉢金75余頭、盾24帖。治療薬400包、防寒具200着その他野営具、兵糧。その他にも大薙刀や剣、鎧、兜などの武具甲冑。これらが締めて一千七百余両。
「こんな大きな買い物したんは生まれて初めてやわ」
 資金運用を任された西園寺更紗(ea4734)は出発の間際まで計上に追われて忙しくしていたようだ。大役を終えて安心した顔で愛馬に跨っている。
「条件より下がりましたけど兵も揃えられましたし、これで何とか戦になりますな」
 江戸では欧州に見られるような所謂傭兵はいない。難航するかに見えた人材探しだが江戸の仲間による勧誘活動で浪人や町人らが集り、篩いにかけて残った百が傭兵隊として組み込まれた。指揮を執った更紗は幾つか条件を出していたようだが、装備がかなりまちまちになった為に兵装を揃え直す必要が出てしまったようだ。
「ま、数だけでも集っただけで良しとしまひょ」
「戦争の準備をしてるんだと思うとやっぱりちょっと複雑ですけど‥‥」
 イリス・ファングオールが物憂げに呟いた。傍らには江戸へ療養に戻っていた道志郎の姿。彼に雇われた冒険者の手を借りて輸送隊百数十名らは幾つかの小隊に分かれて上野入りを果たす。
 グラス・ラインが道志郎の腕の怪我を摩りながら呟いた。
「水路を通る時のうちの配慮が足りんかったんやな。うちの力やと治すのは無理みたいやごめん」
「傷が酷くなったら早めにいってね」
 医師でもあるカイ・ローンが心配そうに視線を向けると、道志郎は動かぬ右腕を摩りながら苦笑を返した。
「傷の具合は落ち着いてはいるから心配は無用だ。グラスも俺のせいで心配かけてすまなかったな。だがとにかく今は金山攻めに集中だ」

 出陣を前にトマス・ウェスト(ea8714)が兵達を送り出している。
「いいかね〜、生きて帰ってくれば我が輩が全力を持って治療しよう〜。『死んでも守る』といっても死んでしまったら、そこで終わり、だ〜れも守れなくなるからね〜」
 そこでふと眉を寄せるとトマスは宙へ視線を泳がせる。
「‥‥ふむ、最近同じことを言ったような〜‥‥」
 太田の関を破った連合は大手口より城へ兵を差し向ける。東の大手に由良、西の搦め手に上将。各員が持ち場へと動く中、グラスは最後にもう一度由良を訪ねている。
「あのな、うちは皆が無事でいて欲しいんや。できるなら篠塚さんと和平も考えて欲しいし、民が平和に暮らせるんが一番や。侍やないのにこんなこと言ってごめんなさい。ほな、うちも行くな」
 微笑を残して去っていくグラスの背を由良が無言で追う。すぐに険しい顔で兵達を振り返った。
「これより金山城を攻略する。全軍、合図があるまで待て」
 聳え立つ金山の城は連合の動きを察知して厳戒態勢を取っている。あの堅い城で守りを固められると厄介だ。城が人に与える印象は大きい。難関不落の佇まい、その巨大さ、そして、何より強大な威圧感。空には重苦しい雲が立ち込め、兵達にも少なからず動揺が走っている。搦め手に詰めた風斬乱(ea7394)が苦笑交じりに肩を竦める。
「お前達、あのでかさに呑まれるなよ?」
 とはいえあの城を相手に連合が打てる策など幾つもない。攻めるならば、時間。敵がこちらの手の内を看破する前に雷光が如く城を落とすのみ。
 ふとシフールのレダ・シリウス(ea5930)が兵の中へ歩み出た。
「まあそう難しい顔をするものではない」
 と同時にレダの従えた兵の一人がが笛を吹く。
「どれ。一差し舞って見せようかの。勝利の舞じゃ」
 それに合わせてレダが神楽舞を披露する。薄羽を揺らし、しなやかな四肢の動きが兵達を魅了する。やがて音曲は最高潮を迎える。レダがその手を天に伸ばした。
 すると。
「おお、あれは‥‥!」
 雲間から青空が覗き、兵達にどよめきが走る。
「天もこの戦を称える様じゃな、陽が射しておるの。なに、私は天に愛された舞師を目指しておるのでの」
 その時だ。太鼓の音が金山を揺るがした。
 黒崎流(eb0833)が部隊を振り返る。
「合図だね。如何に堅城とて200足らずの兵、綻びはある。正攻法での攻略は難しいだろうが、焦らずに行こう」
 搦め手は新兵を中心に歩兵30、弓兵45が配置されている。更紗も傭兵隊に混じって戦列へ並ぶ。
「お互い仲良くやりまひょ」
 太陽が日差しの盛りを過ぎた頃、金山攻めは始まった。楯を持った傭兵隊が矢面になって進み、その間にアイーダ率いる長弓兵が西城の出丸を牽制する。
「西城がある限り、大手は二方向から攻撃され、苦戦が予想されるわ。ここさえ落とせれば、敵主力を挟撃することも可能‥‥そうすれば勝てるはず」
 戦は矢戦から始まる。長弓兵が出丸へ矢を射掛け、敵も高所よりの矢嵐を降り注がせた。その矢の雨を掻い潜りながら短弓部隊がアイーダの指示で斜面を登っていく。
「上に向かって射ると矢がすぐに失速するし、逆に上から射られた矢は予想以上に伸びるわ。矢を無駄遣いするより、まずは遮蔽に隠れながら山を登り近づくことを優先して」
 数ならばこちらが上。牽制しあいながらじりじりと距離を詰め、遂に搦め手部隊は短弓の射程に西城を捉えた。風斬が歩兵へ号令する。
「よし、今だ!急げ!!」
 斜面を引き摺って運んでいた大木を兵士が抱え、歩兵隊は城門へと突撃した。弓兵が一斉に出丸へ矢を射掛けてそれを援護する。
「怯えるな、相手はただの石の塊だ。門を抉じ開けてしまえばこちらが有利だ‥‥怯むな、勝機を見逃すな」
 城攻の勝敗は門の攻防に掛かっている。西城ので熾烈な攻防の火蓋が切って落とされた。
 同時刻、実城周辺。
 由良の率いる連合の主力部隊が大手口より攻撃を開始し、華西は城門を固めて堅い守りを敷いていた。今も斥候の足軽が金山の斜面を見回りに歩いて連合の増援を警戒している。不意に木立の影から小柄な影が姿を現す。それは音もなく足軽の背後へ忍び寄った。無言で手裏剣を振りかぶったのは甲斐さくや(ea2482)。柄を握りこんだ拳は見張りの首根を打ち据え、意識を刈り取った。見張りを木陰に引きずり込むと、次に姿を現したのは新田の兵装をした甲斐の姿。甲斐は何食わぬ顔で城門へと向かう。
 既に城内には音無藤丸が同様に潜入を果たしている。藤丸は敵の目を掻い潜りながら北城方面へと消えた。同じく忍びの丙荊姫(ea2497)も実城へ潜り込んだ。荊姫の任務は隠によってもたらされた情報の一つ、宮下の文書と呼ばれる秘密文書の奪取。
「宮下文書は今後の命運を左右するであろう重要な物、そして‥‥隠殿が命辛々に掴んだ情報。何としても手に入れねば私の拙い約束は果たせません」
 前作戦以来、金山城内の警備は更に厳重になっていた。加えて戦による厳戒態勢。それでも彼等忍びがことをなしえたのは内部の協力者の存在だ。華西の兵士として城へ潜入していた不破斬の手引きで荊姫は文書のあるという妖華堂の室を目指す。斬は華西の兵の中で巧く立ち回り、動きやすい地位を手に入れいている。頃合を見計らうと斬は警邏についていた仲間の兵へ切り出した。
「他の場所に妖怪が侵入していないか調べてくる。ここの持ち場は任せたぞ」
 本丸へと向かうと、物陰へ隠れていた荊姫へ合図を送る。荊姫もそれに無言で頷き返した。斬の背を見送ると、荊姫もまた一定の距離を保ちながら梁を伝って彼の後に続く。
(「仄暗く続く影の先にやっと一筋、光が差し込んだような気が致します。‥‥今は未だ儚く霞む一条の光でも、その先に光明が射す為に私達は戦うのですから」)

 陽が傾き始める頃になっても西城は搦め手の猛攻にも西びくともしなかった。門の前に陣取った荒武者の存在ゆえだ。敵将、篠塚伊賀守。大金棒を振り回した篠塚が城門を堅く守り、歩兵隊は一時退却を余儀なくされた。
 連合側はあの手この手で開門を試みるが悉く失敗に終わる。ヴェルサント・ブランシュや戸来朱香佑花ら隠密血風衆も知恵を絞って策を打ち出すも篠塚とその兵の守りは堅い。隠密行動に長けたマハラ・フィーは単独で西城内に潜入を果たすも、城門の警戒は特に強く引き返してきている。
 こうして攻略の糸口を見つけられぬまま何時しか日は暮れようとしていた。
 同時刻、西城上空。
「‥‥む、こりゃ‥」
 空から偵察してたレダは城内の敵兵の動きを察知して味方の元へ急行する。
「‥いかん、すぐに連絡じゃ」
 流れを掴んだ篠塚は連合の一時撤退を見るや門を開けて追撃に移った。遂に攻撃に転じた篠塚の逆襲。それを心待ちにしていた男がいた。
(「来たか‥」)
 流が狙っていたのはこの場面。敵兵を誘い出して返り討てば流れは一気に連合側へ傾く。
「自分達が勝てるとするなら、ここを凌いでの一気攻勢しかない。死中に活あり、皆の力を貸してくれ」
 時を同じくして流れた上将松本清、前線に現るの報が傾きかけた友軍の士気を奮い立たせた。
「俺が来たからにはもう大丈夫なんだっぜ!」
 赤霧連の明るい声援が飛ぶ。
「今です、そこです、チャンスです!」
 陽が暮れる前の最後の猛攻。連合は勝負へと打って出る。風斬は視界の端に連の白髪を捉えてふと口許を緩めた。
「今、阿呆の姿が見えたのは気のせいだろうか‥‥まいったな、負けられなくなってしまったじゃないか。――篠塚は俺がひきつける。お前達はその間に門を破れ」
 刀を掴むと風斬が駆ける。その斬撃を金棒で受けて篠塚は目を見開いた。
「その太刀筋、ただの雑兵ではないな。名を名乗れ」
「ただのゴロツキだ、名乗る名などとうに捨てた」
 それを合図に二人が間合いを開ける。
「名もなき者など士にあらず。
「ならば、散ってゆけ‥お前の死はこの俺だ」
 だが篠塚の膂力は風斬の遥か上を行く。あの大金棒相手には危ういと見て更紗が助太刀へ入った。
「巌流、西園寺更紗参ります」
 篠塚といえど手練二人を相手取っては流石に梃子摺る。二人が時間を稼ぐ間に歩兵が門へ殺到する。その先頭に立つのはサウティ・マウンド。
「どいときな、ここは俺達の出番だな!」
 江戸で新調した戦槌には『100t』の文字。
「とりあえずハンマーで城門を叩く叩く叩く! 叩いて叩いて引き伸ばす! いや違うな」
『カチコミじゃぁぁぁぁぁぁあっ!』(←フキダシ)
 陰山黒子も侠タックルで門へ挑み、隠密血風衆やデルスウも加わっての総攻撃となる。させじと西城からは弓兵が、そこをアイーダの正確無比な矢が次々と射倒していく。敵の歩兵へは弓兵隊がありったけの矢を降り注がせる。土壇場の攻防が続き、遂に門は破られた。
「放て!」
 香佑花の命で西城内へ火の手があがり、混乱に乗じて連合兵が西城を制圧せんと雪崩れ込む。日暮れを前に勝敗は決しようとしている。
 同じ頃。
 甲斐は藤丸と共に本丸牢の隠の元へ到達していた。
「天華の忍び、救出に参上でござるよ、もう腕の傷は支障ないでござるか?」
「警戒せずともいい。偽者ではない。月華の忍び――見事な手際だな」
 牢番は甲斐と藤丸の連携技・突破斬りで仕留めた。隠の体力が著しく落ちているため、甲斐が手早く牢番に変装して外の戦いが落ち着くまでここで時を待つ。やがて宮下文書を入手した荊姫も斬と別れてこちらへ合流した。
「‥‥長らくお待たせしました。城を出る迄、今暫くのご辛抱を」
 これまでの苦しい道程が思い出されて、荊姫の表情が僅かに緩む。
 そこから先はそうは掛からなかった。連合兵の猛攻で西城が落ち、加えて華西の逃亡によって金山城は落ちた。風守嵐(ea0541)が榊原信也(ea0233)と共にその報せを携えて牢へ顔を出した。
「‥‥迎えに来たぞ」
 肩を貸そうとするが、激戦の疲労か嵐はその場で足を踏み外した。咄嗟に信也が肩を貸して嵐を支える。
「‥‥ご苦労‥だったな。
 隠は藤丸が背負い、忍び達は城を後にする。その時には、一時の安息は過ぎて既に忍び達は険しい表情に戻っていた。
 ――隠が掴んだという白面の情報。
 それが持つ意味の大きさをこの場の誰もが皆理解している。嵐が微苦笑を浮かべる。
「聞ける時に聞いて置かねば、隠という奴は直に消えるからな」


 こうして松本清率いる反上州連合のもと、新田の居城金山城は落ちた。民草と冒険者達が新田の正規兵を相手に城を落とした――。これは快挙が上州騒乱の情勢にどう影響を与えるのか。それはまた別の物語で語られることになるだろう。