轟!義侠塾Z!! 〜辛窮死険〜
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■シリーズシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月10日〜11月15日
リプレイ公開日:2005年11月14日
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●オープニング
学問こそは国の礎。優秀な人材の育成は国家にとって不可欠時。だがこの日ノ本にはいまだ国を挙げての大規模な教育機関は実現していない。そんな、この国の現状に心を痛める一人の人物が居た。
「この日ノ本にも未来を担う若人を育む学府は不可欠である! 先の妖狐の事件や京の黄泉人騒動、さらには神剣争奪の騒動などは世を覆う乱世の兆し。国を治むるに足る人材の育成は不可欠事、早急に是に当たるべし!」
国がやらぬのならば、市井から声を発する他に道はなし。男の名は雄田島、彼こそは武蔵野国に私塾・義侠塾を構える塾長である。
江戸を離れ二日、山を分け入って道なき道を進んだ先の山野に、その巨大な門は口をあけている。両脇には阿吽の仁王像。その門の中では益荒男たちが日々真の義侠を目指して過酷な教練による研鑽を積んでいるという。
「仁義と侠気に溢れた日本男児を育てるこの事業、正に男の本懐である。若人よ、この日ノ本より熱き義侠の気炎を上げるべし! 来るべき大乱世を治める侠(おとこ)を、我がこの塾から! 我が義侠塾は新入生を募集中である!!」
去年の秋に義侠塾が開校して一年。こうしてまた今年も新入生を迎える時期がやってきた。
「義侠塾新入生はただちに校庭に集合せい!!」
鬼髷教官の怒声が飛ぶ。集った新入生が壱号生達とともに校庭に整列する。
「よいかぁ! 貴様らにはこれより義侠塾伝統の辛窮死険に挑んでもらう!!」
辛窮死険(しんきゅうしけん)とは、自らを瀕死の窮地に追い込み、辛酸を舐めあえて死の淵を潜るという荒行のことをいう。仮にこの行を完遂することがあれば、その時こそは眠れる潜在能力のすべては引き出されるとされる。かつて多くの拳法家がこの行の達成に挑んだが、その多くは志半ばで斃れたとされる。
「そして今回貴様らの辛窮死険を担当するのは、義侠塾専任医師の、王鍛錬(わん・たんれん)じゃあ!!」
現れたのは華国服に身を包んだ男。その正体は華国3000年のあらゆる武術医術を修めた謎の華国人医師。義侠塾の塾医として、過酷な教練で力尽きた数多の塾生を何度も死の淵から呼び戻したその人でもある。
『貴様らの今回の鍛錬はこれアル!』(←華国語)
そういうと王鍛錬は荒縄を取り出した。
『貴様らにはこの義侠塾生養成義不守(ぎぷす)を装着して貰うアル!』(←華国語)
真の義侠に超人的体術は必要不可欠。この義侠塾生養成義不守とは、身体能力を一時的に制限した状態で鍛錬を積み、飛躍的に能力を向上させる器具である。この使用者はまず褌一丁の格好となり、各々荒縄を全身に巻きつけ体を縛り付ける。その上で全身に水を被るのである。水分を吸収することで荒縄は強く締まり、使用者の肉体を強く拘束する。その締め付けとフィット感は褌以上とも言われる禁断の装束である。
『辛窮死険ではこの義不守を装着してある方角へ向けて行軍演習を行ってもらうアル!』
さて、その方角とは‥‥
『フフフ‥‥』(←華国語)
進軍方向はここより南! 山野に平野を突き進み、やがては江戸へ。八百八町を突き進み、最後には長屋の密集する冒険者街を直進して江戸前の海を目指す。
『障害物があろうとも関係ないアルネ。すべて打ち壊して直進するのことヨ!』(←華国語)
こうして義侠塾壱号生および新入生は江戸へ進軍を開始した。
その背を塾長室で見送りながら、雄田島が眼を細めた。
「果たして何人が無事にこの試練を突破できるか‥‥」
腕組みすると雄田島は憂えげに目を伏す。
(「この試練を成せぬようでは、来るべきその刻を止めることはできぬ。この試練を果たせなかったそのときこそは‥‥‥この日ノ本は滅ぶ‥‥!」)
●リプレイ本文
かくして義侠塾軍は江戸へ向けて行軍を開始した。先頭に立つのは壱号生筆頭の嵐真也(ea0561)だ。
「相も変わらず厳しい修練だな。だが、之を超えてこそ、義侠塾生」
その脇には伊珪小弥太(ea0452)が大団旗掲げて行進している。そんな中、新入生の阿武隈森(ea2657)はどこか冷めた表情だ。
「義不守など大したことねえな。噂に聞く義侠塾もこの程度のもんかよ」
こんな試練など熟練の冒険者である阿武隈にしてみれば拍子抜けもいいトコだ。先輩を見ても、この程度の生易しい試練に真剣になる様では高が知れる。虎杖薔薇雄(ea3865)は美しい巻き方の追求に余念がない様子で先から奇声を上げている。
「‥‥あぁ、この締まる感じ、なじむ、実になじむよぉぉぉ!!」
他にも何人が見える新入生は鬼切七十郎(eb3773)を始めとして随分と気合が入っているようだが。
「押忍!義侠塾新入生の七十郎じゃあ〜!! 今回は義侠塾魂をみせてやるんっじゃあ〜!!!!!!」
キビキビと行進しているその様を見て、風羽真(ea0270)が感慨深げに目を細めた。
「‥フッ、思い返せば義侠塾に入って早1年。当時の俺も、あの新入生達の様に怖い物知らずだったのかもな? だが、その1年で如何に自分が井の中の蛙だったかを思い知らされた。今度は俺達が連中の壁になる番だ。その為にも‥辛窮死険、決して失敗はできねぇな」
そう言って真が阿武隈に目を移す。そんな試すような真の視線を跳ね返すように阿武隈が鼻を鳴らす。
「はっ! 死険もただ真っ直ぐ進むだけなら、散歩と代わりねえ」
そうして行軍すること数日。異変があったのは漸く江戸の街が見えてこようかという頃合であった。
「な、なにがあったんじゃあァあーーーーーーーー!!!!!!」
新入生のテラー・アスモレス(eb3668)の叫び声が響き渡った。江戸の空が赤く染まっている。急ぎ街まで駆けつけると江戸はまさに火に包まれていた。雷山晃司朗(ea6402)が眉を動かした。
「何たることか‥‥身重の妻を田舎に向かわせておいたのが不幸中の幸いか」
義侠塾軍は一時大団旗を地面に押し立てて行軍の足を止めた。阿武隈が肩を竦める。
「さすがにこれじゃ死険も中止で決まりだな」
だがその言葉に頷く者は誰一人としていない。
「総代の職を抱いてから覚悟はとうに決まっている。火を恐れる者の何が義侠塾生か。心頭滅却すれば火もまた涼し、と火に入滅した高僧もいたと言うが、俺も坊主の端くれだ。その心意気、手本にさせて頂こう」
「おいおい、この火の海に飛び込むなんて正気の沙汰じゃ――」
「馬鹿ヤロー!!」
言いかけた阿武隈を伊珪が殴り飛ばした。
「気合が足りねーぜ!『義を見て為さざるは勇なきなり、勇なき男は侠に非ず!』、ここで退く様な奴は義侠じゃねー!!」
「伊珪の言う通りだな。こんな状況を見過ごそうものなら塾生失格。義侠塾精神に則り、やるこたぁ一つ」
ニヤリと笑う真。先輩達が顔を見合わせる。
「うむ。江戸の町は今まさに大火の前に灰燼と化そうとしている。BUT、だが、しかし。我らに迷いはない。我らの取るべき道は一つ。日ノ本を守ることすなわち、この大火に打ち勝ち、民を救うことなり!」
「義を見て為さざるはとはよく言ったもの‥‥美しく救ってみせるさ。勿論、信頼できる仲間たちと共にね」
先輩達の腹はとうに決まっている。陰陽術師の岩倉和蘭(eb3790)が小さく身震いした。
「江戸湾を目指し、全ての障害物を打ち壊して直進に行軍する! 噂に聞く直進行軍の辛窮死険、まさかこの大火にあっても道を曲げはせぬとは! 義侠塾はやはり恐ろしい処じゃ」
「新入生にゃしょっぱなから『ちと』キツイ試練だな。導いてやるのも先輩のツトメってやつだよな」
伊珪が褌を締め直し大団旗へ手を掛けた。阿武隈が乾いた笑みを浮かべる。
「へっ‥‥どうやら俺はとんでもない場所に来ちまったみてぇだぜ」
辛窮死険の試練とは、『全身に水を被って』『障害物を打ち壊しながら』まっすぐ道を曲げずに突き進むというもの。奇しくもそれは火消しの作業と同じものだ。曲げぬ道とは即ち義侠道。燃える下町へ進路を変えると、一行は侠の心意気へ真っ直ぐに突き進む!
真が武者震いに身を震わせる。
「俺達が行く先に騒乱が起きるのか‥‥それとも、騒乱が俺達を呼び寄せるのか‥あの雄々大魔転死の試練の最中、那須藩を加勢した時の事を思い出すぜ」
義不守による拘束で身体が悲鳴を上げるというならば、心が悲鳴を上げるまでやり抜けばいい。
「これまでにも、つらい日々は送ってきた。それを思えば、こんなもの‥‥」
嵐が後に続く同輩達、新入生達を振り返った。
「我らに後退など当然無く、ただ前進あるのみ」
嵐が勇ましく歩みだし、一行は続々と後に続く。その先輩達の背を追いかけながら、テラーは胸に芽生え始めたある想いに身を昂ぶらせている。
(「異人の身である拙者は義侠塾にとって些か適しえぬ者であるかとは承知してござる」)
彼を育んだ母なる祖国露西亜と、これから彼を鍛え上げる葉義侠塾そして雄田島塾長の父なるこの日ノ本。今や二つの母国を胸にテラーは夢を抱く。
(「拙者が望むは露西亜や日ノ本という国の枠を超えた全ての世の平和でござる! その夢を抱くに足る侠になりたく候。そして何より狂化という血の宿命に負けぬ、気高き克己心を磨きたく候」)
「大和魂、サムライの心を理解するべく粉骨砕身致すゆえ、よろしくお願い致すでござる」
「喰らいついてくる活きのいい奴は大歓迎だぜ!」
「押忍!ごっつぁんです!」
義侠塾が突撃した伝馬では長屋から牢屋敷へ引火し、事態は最悪の展開を迎えつつある。地元民により地の精霊魔法も投入された消火活動が続いているが、炎は大牢や百姓牢、二間牢を舐め、下級の罪人が次々に野に放たれていく。一帯は大混乱となった。役人長屋からは牢屋同心も駆けつけたが、肝心の牢屋奉行の姿が見えない。統率を欠いたまま炎は止めれず、火勢は時期に武士階級の罪人が囚われる揚がり座敷や揚がり屋へも延びようとしていた。
「押忍!義侠塾新入生、阿武隈森!!特攻かけるであります!!」
覚悟を決めた阿武隈は、水などまだるっこしいとばかりに剛毅にも油を被って炎に飛び込んだ。
「ぎゃばー!!」
壮絶な断末魔を残して火達磨になる阿武隈。その横を弾丸の様に影が駆け抜けた。
「全てを突き崩す弾丸となって、駆け抜けようぞ。これぞ、秘奥義『覇悪守屠・嵐(ばあすと・らん)』」
燃える牢屋敷へ嵐が突撃すると、今度は真が二刀を水平に構えて猛烈な勢いで回転しながら後を追う。
「「「な、なんじゃぁありゃあぁあーーーーーーーーっ!!!!」」」
テラーら新入生の目の前で、跳躍した真は回転しながら大黒柱を粉砕した。降りかかる炎は回転による突風によって弾かれ、真は更に奥へと突撃する。
「流石は真殿」
「何ぃっ!知っているのか雷山先輩!」
「あれこそは挑転自主彬。義侠塾生では知らぬ者はいない達人技だ」
そういうと雷山が頭から水を被る。
「我らは火の延焼を防ぎ、民の為にも罪人の逃亡を阻むのがよいであろう」
「オス!義侠塾新入生、岩倉和蘭! 命張らさしてもらいます!!」
これに負けてはおれぬと新入生も続く。
「見さらせ! これが岩倉式陰陽術じゃい!」
言うが早いか岩倉が肩に担いだハンマーをふりかぶった。
●岩倉式サンレーザー
使用条件:両手に持ったハンマーを全力で振り下ろす 1AP消費
欠点:すぐ名前を間違う 効果:当たると痛い
●岩倉式ムーンアロー:両手に持っ(以下省略)
●岩倉(略)
●(略
という訳で。
「遠からん者は音にも聞けぇい! 近くば寄って目にも見よぉ! 火事など岩倉式陰陽術の力で粉砕じゃい! サァァン!レェエェェェザァァアァァッ!!」
『肩に担いだハンマーを 両の掌でガッシと握り
力を込めたる腕にて そうれとばかりに振りたれば
雄々しく聳える岩山も アレよと言う間に砕くなり
人此れを 「散 嶺挫阿」と呼べるなり』
〔太公望書院『10日でマスター デキル男の陰陽術』より抜粋〕
「ガーッハッハッハ!これが陰陽術の力じゃい! 精霊魔法とは腰が違うんじゃよ!コシがぁ!」
両手持ちにした岩倉式陰陽術(ハンマー)を振り回して岩倉が暴れまわる。兎にも角にもこれで義侠塾は勢いづいた。
「良いか新入生、風向きを読むのだ。延焼しそうな建物を打ち壊して類焼を防ぐのが良かろう」
「押忍、雷山先輩!」
雷山が六尺棒を振るって建物を壊し、鬼切も槌を振り回して延焼を阻む。そんな塾友達へ伊珪も大団旗を振って渾身のエールを送る。
「大団旗は火消しの纏みたいなもんだ、火の元には気をつけて、はーとには火をつけて義侠の心意気を燃え上がらせるっきゃねーー!」
一度勢いづいた炎の勢いは凄まじく、牢屋敷のかなりの部分は燃え落ちんとしている。炎は女牢へも飛び火した。だがこの混乱の中、奉行の石出帯刀は所在不明。同心も統率を欠いたまま牢人は見殺しにされようとしている。たとえ罪人とはいえ、人の命。覚悟を決めた鬼切が水を被って果敢に救出へ向かった。
「見さらせ〜!これがサムライ七十郎のド根性じゃあ〜!!!!」
後を追った阿武隈も一緒になって壁を突き崩し、そこを脱出口に次々と女囚が炎を逃れる。だが無情にも二人の脱出を待たずに辺りは完全に炎に囲まれた。その後輩の窮地を薔薇雄先輩の技が救う。
「フッ、この天下の一大事の試練を乗り越えようとする私は間違いなく美しい‥‥」
両手に水桶を持った薔薇雄が凄まじい勢いで回転を始めた。これぞ、秘技・繻津流夢雲吐怒乱空(しゅつるむ・うんと・どらんく)!! 疾風怒濤の撒水が炎を消し止める!
「体が自由に動かないからこそそれを生かす‥‥それこそが下屡鰻(げるまん)体術の極意さ」
義不守による拘束を物ともせず薔薇雄が炎に舞う。テラーも負けてはいない。
「お見せ致すでござる! 露西亜奥義・誇削駆弾守(こさっくだんす)!!」
現場では奉行不在のまま消火が続けれらたが、この活躍により火勢はだいぶ弱まった。義侠塾は次なる活躍の場をを求めて更に南下する。
「辛窮死険の道を切り開きつつ、炎が燃え広がるのを防ぐんじゃあ〜」
鬼切が先頭を生き、殿の雷山の巨体の後には避難民が続く。阿武隈が驚愕して漏らした。
「見ろ。流石は先輩方、あれだけのことがあったにも関わらず涼しい顔してやがる」
「フッ、新入生に美しくないところは見せられないね」
「はっはっは、『心頭滅却すれば火もまた涼し』ってなー」
とか言いつつ真は水鳥の扇子でちゃっかり扇いでたりするが、一方では伊珪も全身を軋ませながらもまだ大団旗を掲げ続けている。
やがて一行は本町へ差し掛かる。南東の二つの橋が燃え落ちている。長屋を東西に分けるこの用水路を渡る橋は他になく、冒険者達は分断されていた。その間にも孤立した西の本石では火の手が上がっているそうだ。
「苦しむ人々を見捨てるわけにもいくまい。進む先に逃げ遅れる人あらば、助けずして何が義侠か」
「火照った体を鎮めるのにちょうどいい。水練としゃれこむか?」
嵐が言うと真が不敵に返す。すぐさま塾生達は野次馬を押しのけて川へ飛び込んだ。塾生達がガッシリと肩を組み、一本の橋と化す。鬼切が叫ぶ。
「守蔵武(すくらむ)じゃあ!! 俺らの上を渡るんじゃあ〜!」
立ち往生していた東の冒険者達はこれを渡って西へと駆けつける。大勢の仲間に踏み拉かれながら嵐筆頭以下塾生達は歯を食いしばって踏ん張りぬいた。
「どんなに苦しくとも前へ進む。それが俺達が目指す、義侠への道だ」
「フッ、仲間たちと一緒ならばきっとできるさ。そう、私たちは魂冥屠(そうるめいと)なのだから!」
義侠塾舎、塾長室。
「ご報告であります! 義侠塾軍、見事辛窮死険の行を完遂しました!」
長屋を覆った大火は明け方に鎮火したという。特に伝馬では塾生の活躍により牢屋敷全焼という最悪の展開は避けられた。敷地の半分近くが燃え落ちはしたが、特に武士階級の牢から逃れ出た罪人は数名のみだったという。
気になる報せも入っている。負傷した放火犯が捕まったとの情報だ。犯人は診療所へ運ばれたとの話だが、その後の足取りは途絶えている。目撃証言もはっきりしておらず、目下の所捕縛に至る可能性は薄いとのことだ。
「大儀であった!」
鬼髷が報告を終えて部屋を出ると塾長は目を細めた。
「ひよっこどもめ、遣り遂げおったか」
(「だが! これはまだ幕開けに過ぎん。『奴』が目覚めようとしておる。これを止められなくば、日ノ本の未来は――」)