●リプレイ本文
弐号生筆頭の嵐真也(ea0561)を先頭に義侠塾軍は富士の頂きに手を掛けんと進軍を開始する。
「決死行、いやそんな言葉すら生ぬるいか。だが、死さえ乗り越えてこそ、我ら義侠塾生」
飢えというのはやはり恐ろしい。富士を前に義侠塾軍は疲弊の極みにあった。僧としての心得のある嵐は断食などものともしないが、他の塾生達にはかなり厳しい試練となったようだ。そんな中、岩倉和蘭(eb3790)は相も変わらず初回から義侠塾生養成義不守を装着しての褌一丁と緊縛ソロプレイ。
「わしは富士の山に登るのは初めてなんじゃよ。飢末死険とはいえ心が躍るのう」
ふと聞きとめた風羽真(ea0270)も同じく首を捻る。
「‥‥確かに俺も何か凄ェ見た憶えのある行程の様な気がするんだが‥はっ! まさか、これが噂に聞く出蛇尾誘(でじゃびゅう)かっ!?」
古の華国、姜の国の拳法家・飛葉が修行の身にあった時のことである。飛葉が烈怒脛逝苛悶という掛け声と共に藪へ貫手を見舞うと、そこから毒々しい真っ赤な蛇が飛び出してきた。飛葉が身構える前で、蛇は自分の尾をメスの蛇のものと勘違いしてグルグルと追いかけて回りだし、飛葉は辛くも危機を脱したとされる。どんなネタにしたいのか書いてる俺も何かよく分かんなくなってきたけど、なんかこういうのを出蛇尾誘と呼ぶらしい。あと、今日でもよく使われる藪蛇を突付くという言い回しがこの故事に由来するのは言うまでもないとか書いときゃいいんじゃろ?
微妙に手抜き臭い解説になってしまったがそんなことはさて置き、テラー・アスモレス(eb3668)壱号生の絶叫が樹海に響き渡る。
「な、なんじゃありゃあぁぁぁああああーーーーーーーー!!!!!!」
いつしか樹海で一行を取り巻く化け狐の群れ。伊珪小弥太(ea0452)がゴクリと喉を鳴らす。
「肉‥目の前に肉がいる‥‥食って、いいんだよな?」
「――見敵必殺。狐よ、お前達の肉は我らの肉となりて、この国に為の力となろう。だから、成仏しろよ」
嵐が腕まくりすると、虎杖薔薇雄(ea3865)たち他の弐号生も既に臨戦態勢。
「ふっ‥‥まさかこんなことになるとはね。皆で楽しくわいわいと『狐を食べる』‥‥実に美しいことじゃないか!」
数日絶食の状態で登山前に樹海で狐狩りとか正気を疑いそうな教練メニューに、転入生の山岡忠臣(ea9861)を早くも猛烈な後悔の念が襲う。
(「お千ちゃん、俺はとんでもないとに来ちまったみてーだぜ」)
その名を心中で呼んでお守りを握り締めると瞼に浮かぶのは思い人の顔。
「‥‥はっ! 何かお千ちゃんが遠くで俺のことを応援してる光景が脳裏にっ! こ、これが愛の力!」
何か早くも幻覚とか見え初めて危ない感じなのだがそこはハイテンションでカバーだ。
「入学早々飢末死険たぁやってくれるな! しかしここで逃げちゃあ江戸っ子の名がすたるってもんだ! 時期はずれにやってきた、いかにも意味ありげな転入生、山岡忠臣様が見事やり遂げて見せるぜ!」
「その意気や良しだ壱号坊!」
伊珪は知人の口添えで忠臣の面倒を見るように頼まれているらしい。いじり甲斐のある後背が出来たと、墨で書いた八の字髭も勇ましく何やら張り切っている様子。
「この俺が塾生としての心構えをみっちり叩き込んでやっかんな! 覚悟しとけ!」
「お、お手柔らかにお願いシマス」
緊張した面持ちの忠臣。不意に真が振り返って不敵に笑う。
「『武士は喰わねど高楊枝』とは言え、やはり空きっ腹は堪えるよなあ? ま、狐狩りとしゃれこもうか」
薔薇雄も残してきたペット達を思い出しながらサラリと髪を掻き上げる。
「邊流彩癒(ベルサイユ)、楼頭(ローズ)、お前たちの分までしっかりと私は食して見せよう、どこぞの美食苦裸武の海のような山のようなオジサマの如く!」
薔薇雄の腹から、あたかも古代ギリシャのアポロンの竪琴の如くに美しき腹の音の旋律が響き渡る。遂に戦いの火蓋は切って落とされた。
「やあやあ我こそは雄田島塾長を頭に頂き天に聞こし召す義侠塾弐号生・伊珪小弥太十九才独身!天にかわっておしおきだぜー!」
樹上の伊珪が六角棒ぶん回しながら今まさにトウっとかっこよく着地。
「暗黒流奥義・魔畏武痲威鵡・富士樹海バージョン発動! 大人しく食われやがれ!」
富士の樹海により狂った変幻自在の方向感覚と絶食のフラフラの足つきは思わぬ体勢とタイミングからの攻撃を生む。一打ごとに義侠塾魂を込め、食欲に任せて片端から齧りつく。
「義を見て為さざるは―――勇なきなり!!」
それを見たテラーも先輩に負けてられぬと新兵器・示威派仁遮阿(Gパニッシャー)を肩に構えて、今晩のメニューはミンチ肉にたった今大決定っ!
「■■●■■▲■■●■▲▼■■■■■■―――――――――――!!!!」
なんか言葉にならない叫び声をあげながら真っ赤な瞳で狐に突進する。右回りに狐の囲みををぶち抜いたかと思うとそのまま叫びながらどっか遠くへ大突進。ドップラー効果で悲鳴が遠くなる。と思うと今度は真が挑転自護魔で狐の群れへと突入した。飢餓状態により重心のふらつく護魔はコントロールを失って樹海の木々でスピンボール、凄まじい勢いの挑転自主彬となって木々をなぎ倒しながら山頂へと上っていった。
凪里麟太朗(ea2406)がニヤリと笑う。
「やるな風羽君。だが私も聖戦・琥魅卦(こみけ)では、途入(といれ)対策で闘いの当日の飲食を断っているのだ」
ええとその、よい子はまねしないように。特に夏の陣では水分補給が不可欠らしいぞ。
「餓末死験でその成果が出せるとはな。行くぞ、黒皇」
愛馬が後ろ蹴りで卓袱台を蹴ると、セットしてあった仏像が宙を舞って狐に飛来。その隙に凪里が刀を抜いて斬りかかる。
「さあ壱号生諸君も緒先輩方を見習って励むのだ」
「押忍!! 拙者は稲神恵太郎(eb3866)と申す者でござる! 今回はよろしくお頼み申す!!」
転入生の稲神も両手に構えた得物で狐を滅多打ち。久方歳三(ea6381)もヒラリヒラリと身をかわしながら蹴りや組打ちで巧みに狐を狩り殺していく。不意に久方の口から祝詞が流れ出す。
「‥‥体は盾で出来ている」
血潮には義侠 心には士魂
幾度の戦場を越え 敗北は唯一度
唯の一度も敗走はなく
唯の一度も褒め称えられる事もない
彼の者は常に他者を守り 魂と想いを繋ぎ続ける
故にその生涯に安らぎは無く
体はきっと盾で出来ていた‥‥
「これぞ究極奥義『暗離魅鉄怒死琉怒倭悪苦棲(あんりみてっどしーるどわーくす)』」
祝詞の効果で無数の盾が浮かんだかは定かではないが。鬼気迫る形相の久方が狐と対峙したかと思うと、薔薇雄もまた日頃から「性聖星(せいせいせい)!」と鍛えた腰の力によって繰り出される超回転必殺技、『楼是凄針犬』(ろうぜすはりけーん)を繰り出した。
「このように回転しながら麗しき薔薇を舞い散らせれば、きっとこの世は覇裸廼棲(ぱらだいす)! ふっ、お腹を空かせる私は美しい‥‥」
そんなこんなをしてる内にテラーがまた変な叫び声を上げながら戻ってきて狐の背を突き、稲神も狐肉へ齧り付く。伊珪も塾歌を熱唱しながら得物を振り回して化け狐達を霍乱する。
「いいか山岡! 俺の後について来い!!」
「くれぐれもお手柔らかにお願いするでアリマス! てーか顔は止めて!商売道具だから!」
「甘ったれたこと言ってんじゃねー!」
こうして塾生達が入り乱れ、樹海はさながら阿鼻叫喚の地獄絵図となる。嵐もその乱戦の最中で、鍛え上げた体術で巧みに後の先を取りながら立ち回る。
「恨みのままに刃を振るうのではなく、この国の為に振るう――これぞ『轟!華運断悪(とどろき!かうんたあ)』。己が手で悪を断ち、華やかなりし未来を掴むのみ」
「よく言った嵐君!」
凪里が手を止めて呪文を詠唱するとその身を熱く炎の精霊力が覆った。
「戦友達に我が焔の志士の奥義『旭日昇(=フレイムエリベイション)』を与えるぞ。死闘を潜り、侠よ進化せよ! 但し進化し損ねると精神崩壊する副作用があるぞ(コラ)」
次々に塾友達に旭日昇を付与して戦力アップ。忠臣たち壱号生へも付与して狐の殲滅を図る。
「せっかくの肉を逃がすものかよ! 行くぜ、テラー!俺達の真空中技だ!」
「霊峰富士‥‥この美しい山を噴火などさせぬでござるっ!」
テラーが素早く武器を日本刀に持ち替えたかと思うと、忠臣が彼を普段?の三倍の力で狐へ向かって投げつけた。錐揉み状態のテラーが頭から日本刀を振り回しながら敵へ飛び込む! 二人の力で2倍!回転を加えて4倍!!これぞ剥苦竜弩雷刃亞(スクリュードライバー)! 討ち洩らした敵は忠臣の重力波が片端から掃討する。
「ふっ‥‥合体技なら私達も負けて入られない。行こう、嵐筆頭。『棲快裸武針犬』(すかいらぶはりけーん)!」
などと薔薇雄も対抗意識を燃やしたりして何か必殺技の応酬というかバカの見本市みたいな様相になってきたが、ここで岩倉も俄然大張り切り。
「見さらせ! これが岩倉式陰陽術じゃい!」
言うが早いか岩倉がナイフを抜いた。
●岩倉式クリエイトハンド
使用条件:片手持ちのナイフを全力で突き刺して切り裂く 1AP消費
欠点:すぐ名前を間違う
効果:やっぱり当たると痛ぇ
という訳で。
「わしらは残念ながら4つ足の生き物は食してはならんという戒律がある。つまり!4がだめなら3枚に卸してしまえば何の問題も無いということじゃよ〜。何も無いところから腕一本で食物を生み出す。これぞクリエイトハンドの極意よ」
ガハハと豪快な笑い声を上げながら解体作業。
「食べ物は採れたてが一番美味いんじゃ〜。要するに齧り付きが美味いんじゃ齧り付きがぁァ。肉ぅ〜喰わせろ〜」
余った肉や毛皮は凪里が驢馬の亜施流主(あせるす)に運ばせてきっちり処理。空腹でフラフラな状態で一時はどうなるかと思ったが、塾生達にとってただの化け狐など敵ではない。瞬く間に敵の包囲を突き崩し、勢いに任せて各個包囲して逃げ道を塞ぎ、掃討完了。次々と狐肉に貪りつく。稲神も生肉を齧りながら口の端の血を拭う。
「食べる際は火で調理‥‥のつもりでござったが、消す水も無く樹海で火はまずいでござろうからな。生で食べるのも今回ばかりはしょうがないでござろう」
「それには及ばないぞ稲神君」
とそこへ凪里がそっと火種を差し出す。
「我が炎の精霊術を行使すれば延焼など起こしはしないのだ。この炎で焼肉と行こうではないか」
「ふっ‥‥ならば今宵は狐の肉を使って、皆で茄部覇蛙諦(なべぱあてい)といこうではないか。茄部ならやはり野菜が必須だが‥‥そのあたりの雑草で大丈夫だろうね」
大丈夫じゃねえ。
「みんなで囲む茄部、あぁ私たちは確実に美しい‥‥」
そんなこんなで集団食中毒になり掛けたり寄生虫とか霊峰富士の滂沱の涙(=雪崩)でお約束の闘死とかまあいろいろアレだったりしたが、塾舎からの大衝音のエールにて励まされたりしてドジャンと大復活。伊珪がどこからともなく大団旗を取り出して掲げ、塾生達は遂に富士の頂きに手を掛ける。
月が傾きかけた頃。
戦いは終わり、風の止んだ山頂部では冒険者達が体を休めている。塾生達も彼等に並んで遠く下界を見下ろした。ふとテラーが呟く。
「ここまで先輩方と共に戦えて漸くわかったでござる。拙者が間違っていたでござる‥‥狂化も拙者の一面、まぎれもない己自身‥‥否定するのではなくさらに猛くあっても良かったのでござるな‥」
強化を受け入れ、更に高みを目指す。それがテラーの見つけ出した答え。
「押忍!ごっつあんです!これからも真の義侠になるべくご指導をお願いするでござる!(ニカ)」
「さぁて。それじゃ例のアレ、ここらで高みから気持ちよく大声で言っとくか?」
真が音頭を取り、富士山頂に塾歌の大合唱が響き渡る。
日本男児の生き様は 勇あり 義あり 情けあり
色恋金子に背を向けて
進めや義侠の本道を
嗚呼 我ら義侠塾 日ノ本支える礎とならん
「終わった‥‥今までの試練の数々が走馬灯のように」(←初参加)
「義侠塾の絆は永遠に美しく不滅さ!」
忠臣や薔薇雄が感慨深げに口にすると嵐筆頭が静かに頷いてみせる。
「未だ我らの道程は半ばだ。たゆまず歩み続ける、否、駆け抜ける。それこそが義侠の道なり」
義侠の道は未だ道半ば。
そういえば宿敵がどうのというとこはすっかり忘れてた気もするがそこは勢いで置いといて。
轟!義侠塾Z!! 富士陰謀編、これにて堂々完結――!