反体制勢力。をプロデュース
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■シリーズシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月02日〜12月09日
リプレイ公開日:2005年12月10日
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●オープニング
上州は古くから小領主の林立する地域であった。それが上野国として今のかたちに落ち着いたのは源徳家康による関東平定以後のことである。源徳に臣従する上杉家の憲政が国司に就任し、上州20万石は源徳の支配下となる。
これに反発したのは新田荘に広く領地を構えていた新田家である。古くから新田家によって開発されて栄えた新田荘の半分ほどは、源徳の台頭と上杉家の国司就任により他の領主に奪われた。これに端を発する上杉と新田の確執は、この夏に起きた新田義貞による反乱によって弾けることとなる。義貞のまいた騒乱の火種は、江戸の神剣争奪の騒ぎによる源徳不審を追い風に瞬く間に上野中に広まった。
上野では古くより小領主同士の小競り合いが絶えず、今回の衝突も当初はすぐに沈静化すると思われていた。だが義貞の挙兵に呼応して無名の猛将・華西虎山を始めとした三人の武将が馳せ参じ、また真田家の参戦によって義貞は破竹の攻勢を見せる。源徳が神剣問題に掛かりきりになっている間に、義貞は近隣領主を平らげて瞬く間に失われていた旧新田荘の多くを奪い返した。現在は本拠を新田館から金山城へと移し、さらに上杉の領地を奪い取って上州を平らげようという勢いである。
義貞の起こした反乱の火はいまや上野を焼き尽くす炎へ変わろうかという、かなり危険な状態だ。この度重なる戦に、民は不満を募らせている。その中に一人の青年が打倒義貞の大義に立ち上がった。青年は民草たちを纏め上げて反上州連合という自警団を作り、義貞領内のとある村を拠点に活動を始めた。彼の呼びかけにいつしか多くの仲間が集い、遂には新田領内に百人からの大集団を形成するに至った。
男は、依頼解決率100%を誇る奥多摩の生んだ奇跡の大冒険者。若い頃には一人で百人からの盗賊団を討伐し、海の向こうで龍をも屠ったという。民衆からは上将と慕われ、絶大な支持を誇る上野のカリスマ。
――だが、その彼には、絶対に知られてならない秘密があった。
「お、俺‥‥ホントはめっちゃ弱いんだっぜ‥‥!」
彼の名は松本清くん。奥多摩で薬売をやっていた冴えない青年だった彼は、ある日「もっとモテる仕事をしたい」と一念発起し冒険者に転進。マグレで冒険者試験を突破したまではよかったが後が続かず、清は内緒でギルドへ依頼して先輩冒険者から温かい狂育を受けた。
その甲斐もあってか夏あたりには幾つかの依頼を成功させ、いよいよ冒険者として一人立ちしようと選んだ舞台が上州であった。しかしここにきて、冒険者試験で使い切った思っていた運が大爆発。小さな偶然がいくつも積み重なり、いつしか清は反上州連合の長として持ち上げられてしまった。
「これから義貞と戦わなきゃならないんだっぜ。けど俺が率いたらきっと全滅するんだっぜ。だから、俺の代わりに連合を動かしてほしいんだっぜ」
今回の依頼とはつまり。清の代わりに反上州連合を導き、義貞を打倒すること。冒険者達には清の側近中の側近として連合に加わって貰い、影から密かに清を支えるのだ。
「後生だっぜ、先輩方、どうかよろしく頼むっぜ」
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江戸、冒険者ギルド。
「ギルドでは江戸復興基金として、大火の救災・復興活動への利用を目的とした募金を行っている」
ギルドが主導して江戸近郊で募金活動を行い、集った金を江戸の早期復興の費用として使う計画が立てられている。まだ明確な基金の運用計画などは決まっていないが、これからそれらも含めた話し合いが行われ、必要と思われる復興・救災事業のために寄付される見込みだ。
「これから復興基金に関する依頼をギルドから行うかも知れぬ。その時は宜しく頼む」
冒険者には、基金の運用案の作成や、募金活動支援といった依頼が行われる見込みであるという。果たしてどれだけの額が集るかは分からぬが、冬を前にして焼け出された民十万への支援は急務。江戸の街も3割が焦土に帰し、如何にこの未曾有の大被害を乗り越えるか、今江戸の民はその力を試されている。
●リプレイ本文
冒険者達は連合の村の庄屋屋敷奥にある一室へ招かれた。ここへ立ち入りを許されるのは一行と、少数の使用人のみ。そこで清はこっそりひっそり暮らしている。水戸藩本田忠勝の家来の一人でもあるマハラ・フィー(ea9028)は清を一目見るなり盛大な溜息をついた。
「色々と有名な武将達にも会ってきましたが、此処まで噂と違う人物もそうはお目にかかれませんね」
とまあ逆に感心する始末。そこへ赤霧連(ea3619)がぴょこんと飛び出す。
「一世一代の大芝居、嘘が真となるように、それでいいではないですか」
「マジで宜しく頼むっぜ。海千山千の先輩方だけが頼りなんだっぜ」
「えっへん、何を隠そう私もめちゃくちゃ弱いのです!(がび〜ん)」
連は清に負けず劣らずのダメっ子ながら運の良さで世間を渡る器用な子。手伝いに来たというより一緒に足を引っ張りに来た気がしないでもないが気持ちだけは心強い。
「清さん、あなたが逃げないと決めるなら‥‥私達も一世一代の大芝居を致しましょう♪ ‥‥いたた」
何だか何もない所ですっ転ぶものだから幸先悪い予感。ともあれ清を大舞台に押し上げるため冒険者達はそれぞれに知恵を絞り始める。第一の案は通称っぽい反上州連合のカッコイイ正式名称を決めること。ヴェルサント・ブランシュ(eb2743)は仲間達から出たアイディアを纏めて試案を作ってみた所だ。
「題して、真月夜(仮)の清モテモテ解放軍連合(怒)でどうでしょう」
何だか嬉々としてアイディアを盛り込んで決まった瞬間は最高に良かったのに後から反省してしょんぼりしそうな名前に決定。後悔先に立たずです。
「合言葉はモテモテだそうです。良かったですね、清さん。新田家の横暴に対する義憤と民草を思う優しい心が良く現れている、素晴らしい名称だと思いますよ」
「連合の名前案として『マツキヨ騎兵隊』を提案しておくぜ!」
サウティ・マウンド(eb0576)の案の方がシンプルでわかりやすいが、問題は馬がないことである。いつの間にいたのか陰山黒子(eb0568)もめくりを開いて献策する。
『それより、あっしは清殿の訓練の継続が問題でやすね』
何はともあれ作戦はスタートする。小道具(eb0569)が音頭を取り揃って拳を突き上げた。
「野郎ども、カチコミじゃー!」
さて、清本人のサポートと共に、連合を義貞と渡り合える組織にせねばならぬ。加藤武政(ea0914)が画策するのは新田侍の切り崩し工作。
「じゃんじゃん手紙を送ってくれよ」
不遇を囲っている穏健派寄りの家来の名を、内情を知る由良から聞きだし、片端から親書を送って揺さぶりを掛ける。まずは新田側の穏健派を一掃させ、来るべき決戦の兵隊を集める。
「目指せ! 俺が楽しい、西国派支持!! ‥‥いかん、ちょろっと本音が」
「武政サンよ、俺らの支度はできましたぜ」
加藤はこれから腕っ節のいい侠客を引き連れ、日和見連中の説得に向かう所だ。
「おいおい、あんま殺気立つなよー? 分かってると思うけど、侠客筋に傘下へ入って貰う打ち合わせ、な?」
「へぇ。存分に拳で打ち合わせるってことで」
加藤が腕まくりをし、連中も続く。侠客衆を味方につけるならこれが一等分かり易い。一行は揃って村を発った。
そして翌日。連合は新田七党十一郎の一角である墨党の侍と忍びによる攻撃を受けるが、これを見事退けた。義勇兵を率いる清の声望はいよいよ高まりを見せる。いつしか、清の存在は義貞が恐れるほどであるといった噂が新田郡へ広まり始めた。
曰く、大陸では龍を殺し、大精霊を従えた最後の英雄。
曰く、上杉家が三顧の礼を持って迎え入れようとした地上最強の侍。
曰く、新田家ゆかりの高貴なお方で、元四天王の由良具滋が身を寄せているのもその為。
曰く、七党十一郎の中にはすでにその男に屈した者も居る程のカリスマ。
様々な場所、様々な人の間に様々な風評が飛び交う。それはいずれ上野全土へと流れるだろう。この風説を裏から操るのは策士、紅閃花(ea9884)。
「さあ、お祭りの始まりです。上州と言う素敵な舞台で繰り広げられる、権謀と闘争の宴。せいぜい、楽しませてもらいましょう♪」
さて。この日、連合の村では清による決起集会の準備が進められていた。
清控え室。
「いいですか清さん」
ヴェルサントが横に侍って心構えを説いている。ヴェルサントの熱い吐息が清の前髪をくすぐり、色っぽい唇に清デレデレ。細い肩が触れそうになると思わず鼻息も荒くなる。
「いいですか、演説をするときはそのアタマの悪そうな・・・、ごめんなさいね、気にしないで。特徴的な口調は止めて、『〜だ、〜である』みたいな断定的に喋ると説得力が出ますよ」
「ええと‥‥‥〜だ〜である、だな。分かったぜ」
ヴェルサントも指を絡めたりしながら熱い眼差しを清へ向ける。一見すると若く美しい娘さん、しかし実はヴェルサントは三十路のエルフ。ついでにいうと男だったりするからショックでかいよー。
そうこうする内にそろそろ時間が来るようだ。清が立ち上がると小がすかさず着物を羽織らせ、身なりを整えていく。腰の物は加藤が造天国を貸し出した。造天国は朝廷の蔵にしかないという業物。清なんかには触れさせたくもないがアピール効果を秤に載せて渋々ながらの決断だ。
「絶ぇっっっっ対に、手垢つけたりとかするなよ」
「よし、分かったっぜ」
とか言ってる傍から柱にぶつけたりとかして怒られる清。まあまあと風花誠心(eb3859)が割って入る。
「ところで松本さん、少し手伝って欲しいことがあるので耳をお貸ください」
何やらごにょごにょと誠心が耳打ちする。簡単な打ち合わせの後、いよいよ清は庭先の特設ステージへと送られた。庄屋の庭には連合の仲間や噂を聞いてやってきた者達が大勢集っている。清が舞台中央へ進み出ると舞台袖の誠心が大声でナレーションを入れる。
「本日は松本清先生による大演説集会、題して『ひとりのビッグショー』にお越し下さり大変有難う御座います」
「俺が松本清じゃん?」
「皆様御存知の通り、松本先生は若き日の数々の冒険では海外で円卓の騎士を率いて欧州に平和を齎し〜(中略)〜というジアース最後の大英雄なのです。耳を澄ませば聞こえてきませんか? 『マツキヨさま〜!!』と叫ぶ女の子達の黄色い声援が」
「きゃー!格好いいあれが清上将さまよ〜♪」
何やらサクラ臭さ抜群の黄色い声援が飛び交い、さながらSF商法な感じ。
「風の噂で水戸の何とかそうそう、本田だったかの配下が極秘に清様の下に使わされたらしいってよ。公には手伝えないとかの理由らしいよ」
「なるほど、水戸公とも繋がりが。流石は大器だぜ」
「しかしよ、噂がご大層だがホントに強いんかね、とてもそうは見えねえがよ」
と、ここで予定通りハプニング発生。
「うわー、狼が出たぞー」
「あ、あれは! 少し前からこの村をたびたび襲って、しかも村の手練の侍やヤクザでも歯が立たないという大狼ではないか!」
すごい説明的な台詞がシチュエーションを的確に実況し、それが終わると狼は真っ直ぐ清に向かって走りだす。
「上将様、危ない!!」
「ここは俺に任せるじゃん!!」
配下を押し退けて清が迎え撃つ。狼の牙が触れるや否やの紙一重でかわし、そのままダブルアクセル! 一回転捻りを入れつつ着地すると狼はすれ違い様に派手に、しかも数m程も勝手に吹っ飛んだ!
「え?何??」
「何があった‥‥??」
ざわつく会場。そこへサウティが進みでる。
「見えなかったのか。まあ素人には見えなくてもしょうかねえか!」
ざわ‥
ざわ‥
「今のすれ違いざまに、狼の正中線に向けて少なくとも20発は拳打が入ってるな。江戸の武闘会の常連で優勝経験もあるこの俺が言うんだ、間違いないぜ」
「二十発も!!」
「まったく、清にはこの俺でもとても敵わないな!! 思い出しただけでも寒気がするぜ!」
そこへ今度は黒子がめくりを持って現れた。
『ご覧になりやしたか? これが上将サマの実力でやす』
めくりをペラリと先へ続けると。
『来たれ若人! 上州の乱を治めるのは皆さんの力が必要なんでやす。この故郷の為に、皆で立ち上がって欲しいんでやす』
ででん!
『我ら連合は新たな仲間を随時募集中でやす。我こそはと思われる方は奮って会場横の入隊受け付けブースまで。それでは最後に、上将様からの有難いお言葉をお願いしやす』
「俺が松本清じゃん!」
それはもう言いました。
「まずは上州の乱で荒れたこの国を復興させねばならないじゃん? そのために皆にも立ち上がって欲しいんじゃぜ! そう、皆の故郷上野の為にだっぜ! 」
ちょっと口調がおかしくなってきたのでフィーがキッと睨むと、清は大きく深呼吸した。さあ、ここで一発『〜だ、〜である』をカッコよく決めれば大成功だ。清が腹の底から大声を張り上げる。
「俺はここに宣言する! この俺の下に集うことこそが郷土を愛する証明! 俺達の目的は一つ。それは、上州の解放と、謀反人である新田義貞を倒すことだ〜である!」
こ、こいつ‥分かってねーーー!
その後、集会は無理やりなモテモテコールに包まれて何とか有耶無耶に終了を見た。村ではその夜、宴会が開かれた。その喧騒を遠ざけるように由良は一人自室に篭っている。そこを小が訪ねてきた。
「夜分に失礼するっすよ。由良さんとは話しておきたいことがあるっす」
これだけ大きな組織、今の連合は僅かなきっかけで瓦解する恐れがある。
「清君の為にも、それだけは防ぎたいっす。由良さんは元新田四天王、清君の下にいるのが不思議なくらいの大物っすよね。清君のことをどう思ってるのか、率直な意見が聞きたいっす」
「おや。上将殿は私など及びもつかぬ日ノ本の大人物‥‥ではなかったか?」
図るような鋭い眼差し。小は強張った顔で唾を飲む。
「流石は由良さんっすね。清君の正体にはもう‥‥」
「それ以上は口にされぬが賢明であろう。私は客分、家の事情に口を挟む身分ではない。だが。――連合が舵取りを誤るようならその時は無能な将の下でみすみす家来を死なすつもりはない」
「清君は、清君は‥‥」
小はキッと鋭い眼差しを由良へ向けた。
「今は頼りないしかっこ悪いし取り柄もないっすけど、‥‥でもきっと、由良さんなんかよりずっと大物になる人物っす!」
「ほう」
不意に由良の顔に笑みが覗く。
「今はお手並み拝見と行こうか。だが、分かっているな?」
「望むところっす」
そんなことになってるとは露知らず、清は連達に囲まれて浮かれていた。連とはすっかり仲良しになったらしく、二人で食後のおしゃべりの最中だ。
「英雄には何が必要だと思いますか、清君?」
「‥‥かっこよさ?」
「ブー!不正解です、答えは簡単、『信じられる仲間』です♪」
「仲間‥」
「例え、見栄でも!嘘でも!成り行きでも‥!! 虚勢を張って前に出た清君は尊敬の値に達します。だから、私はあなたの信じられる仲間となりましょう」
微笑みかけられて清も何だか照れ笑い。そんな様子を戸来朱香佑花(eb0579)は不安そうな顔で遠巻きに窺っている。清を人目のない所にでも呼び出して一言言いたかったらしいが、今や清は連合を率いる上将だ。結局その機会もないままだ。
(「僕‥‥アイツの事、誤解してた」)
ぷい、と目を背けると香佑花は小さくため息をつく。
(「今まで僕達に頼ってはいたけど、他人を巻き込んではこなかった。其の点だけは褒められたモノだったのに‥‥とうとう他人を、しかもただの農民を戦場に駆りだして、これからアンタの言葉一つで味方が死んで逝くの‥‥覚悟してる?」)
つかつかと清の下へ歩み寄り、浮かれた様子の彼へこう投げかけた。
「今後、甘えもヘタレも許さないから、ちゃんとして‥‥お願い」
「え、な、何なんだっぜ?」
清は香佑花の後姿を見送るだけしかできない。連が心配そうに清の横顔を見詰めている。
(「清君、女の子に守られていてはモテモテの道は遠いですよ?」)
香佑花が部屋を後にすると、ちょうど小が由良の部屋から出て来た所だ。これまで裏方組として共に清を支えてきた小へ、香佑花はぽつりと洩らした。
「ただの薬売りだった清が新田軍と戦争‥‥僕達は、取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない」
「まぁでも、清君の運は並大抵じゃないっすから」
由良と話をつけてきたばかりの小は明るい声音でそう答えた。
「皆は気付いてないかもしれないっすけど、こうなったのは紛れもなく清君の力でもあるっすよ。どのみち乱が長引けば大勢が犠牲になるっす。走り出した以上は、ここが踏ん張りどころっすよ」
大演説を終え、連合はいよいよ本格稼動した。決起のための準備を終えてどうなる連合、どうなる松本清。諸々の期待と不安を孕みつつ、次号へ続く。
追記
連ちゃんによる野盗を襲っちゃおう計画により治安がよくなりました。お金と兵と武器が手に入って一石三鳥。
追記の追記
黒子による『三十路を過ぎてようやく春一番が吹いた小・道具。をプロデュース』計画により、小がマツキヨ騎兵隊副官に就任。清との距離急接近。問題は他に隊員がいないこと。
もういっちょ。
香佑花とサウティが真面目に農民の戦闘訓練を行って何だか兵士もレベルアップ。鎌や鋤や竹槍の農民兵が出来上がりました。しかも割りと本格的。加藤が言うには、後は如何に金を集めるかである。