【奥州戦国浪漫】  平泉高館の合戦

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月29日〜01月01日

リプレイ公開日:2006年01月07日

●オープニング

 夢の中で死んでしまうと、人は己が死を知ることなく逝くのだろうか。たとえば死の淵の老人が若き日の己を夢に見ながら死ねば、彼はきっと在りし日の青年として逝くのか。では、そこで誰かまったく別の人物になった夢を見ていたとしたら? その時一体、誰が死んでしまうんだ‥‥?
 さて、今宵冒険者達が見るのは悪夢。ところが只の悪夢じゃない。こいつはとても危険な代物だ。触れれば切れるし、押せば血が出る。目覚めまでの暫しの時、死に物狂いで地べたを這いずり回って貰おうか。夢だと思って気は抜かないことだ。忘れちゃいけない、こいつはとても危険な悪夢なのだ。
 さて、今宵の夢の筋書きは‥‥‥‥。


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 百年の昔。新皇を僭称した平将門と、朝廷の討伐軍との間に激しい戦いが繰り広げられた。
 東国を追われて北へ敗走した将門は、藤原家を頼って奥州を目指した。諸侯は是を追撃するも将門はこれを悉く撃破。だが奥州の地にてある時わずか一晩にて壊滅的な敗戦を喫し、討死したとされる。この事実を伝える軍記・将門記は神皇家によって焚書の憂き目にあい、乱の事実は百年の後の世には知られていない。将門の最期もただ壮絶な死に様であったといわれているが、その末期はいまだ謎に包まれている。
 果たして闇に消されたその真相とは。それを今から語ろうではないか。これはその三月に渡る乱を追い、将門の無念の死までの刻を暫しともに歩むものである。これは将門の乱、その誰も知らぬ真の姿を描き出す闇の軍記である――。


 神聖暦864年暮れ。
 東で新皇を僭称した将門は朝廷により逆賊の汚名を着せられた。朝廷軍は各地で将門軍の城を攻撃。総勢三万を誇った各地の手勢は散りぢりとなる。将門は残った一万の軍勢と共に神剣草薙の力を借りて北へと逃げ落ち、上州は金山城にて朝廷軍二万余を迎え撃ってこれを退けた。雪の訪れとともに朝廷軍が兵を退くと、一転して金山を捨てて将門は奥州を目指す。北への扉は開き、遂に将門は奥州平泉の地へと辿りついた。
「将門様、秀郷殿より使者が来ております。受け入れの支度が整うまで暫し留まる様にとのことに御座います」
 金山城の激戦では万の朝廷軍数を屠ったが将門軍も大きく疲弊している。無事に平泉へ辿り着けたのは6千余りであった。将門を迎え入れた藤原秀郷は、本拠の西にある高館(たかだち)へと陣を敷き受け入れの支度を待つようにと将門へ告げた。
 高館は、西におよそ7町30間(820m余)、南北に2町6間(230m)ほどの大きさをした小高い山である。東には北上川を臨み、南北には平泉の原野が広がっている。四天王の藤原玄明(はるあき)、腹心の興世王、そして神皇の宣託を行った巫女ミズクらも兵を雪の高館山中へと寄せて夜陣を敷いた。
「漸く平泉にたどり着いたな、将門の兄貴よ? こっから軍を建て直してよ、まずは東国を奪い返して次は朝廷だ。京へ攻め込むときはこの玄明に先陣を切らせてくれよな」
「ええ。この日ノ本の覇を成せるのはこの世にただ一人、神皇様だけ。このミズクもこの身尽きるまでお供させていただきます。ミズクは将門様お一人に身を捧ぐ巫女にございますゆえ」
 弟分である玄明が酒を注ぎ、将門の横へ侍るミズクの目尻にも感涙が滲む。いつもは仏頂面の興世王もこの日ばかりは頬を緩ませた。
「ここまでくればもう安心でございますな。秀郷殿との交渉はこの興世王にお任せあれ。見事、藤原公より助力を引き出してご覧にいれましょう。やがては捲土重来を図りて再び日ノ本に覇を唱えましょうぞ」
 江戸で別行動を取っていた四天王の将頼も一日遅れほどでこの平泉へやって来るという。後は秀郷の力を借りてこの地で再起を図るだけだ。
「緒将よ、これまで皆よく戦い抜いてくれた。礼をいうぞ。玄明、興世王、ミズク。そして多摩で散った遂高も‥‥」
「兄貴、湿っぽい話はナシだぜ。今夜は飲み明かそうぜ‥」
 ここまでの激戦を労って秀郷からは食料と酒とが送られ、その夜は遅くまで宴が行われた。度重なる激戦と厳しい雪中の行軍を経て漸く辿りついた安住の地。将門軍に張り詰めていた緊張はぷつりと糸が切れ、武者達は強かに酔い、泥のように眠った。
 ぽつり。深夜、雪の原野に灯りが浮かぶ。それは静まり返った高館の山をすっぽりと覆うように広がった。
「夜襲だ!!」
 高館を囲むのは数多の人馬。高館の雪原に血の飛沫が痕を落とす。
 飛び起きた興世王が計らず拳を握る。
「諮られたか! この興世王が‥不覚‥!!」
 間を置かず帷幕へ伝令が駆け行って来る。
「急報です! 敵は藤原秀郷の軍、およそ一千! 既にこの高館は包囲されております!」
「ご報告申し上げます!四方より火の手が!」
「急報!急報に御座る! 高館の南に新手の軍、源経基の旗印!その数一千、北にも平貞盛二千!!」
 既に将門軍の前哨は破られ、敵軍はこの本陣を落とさんと殺到する。もはや一刻の猶予もない。玄明は鎧を纏う間もなく太刀を掴むと馬へ跨った。
「畜生、野郎‥‥ハナから裏切るつもりでいやがったのかよ! 北は俺が守る!興世王、俺が時間稼ぐから何か策を考えやがれ!」
 蹄音を残して玄明は山道へ消えていった。三方から戦の音、怒号が山野に木霊する。天からは雪が降り頻り、事態は風雲急を告げる。
 同時刻、南に数里。
 四天王にして将門の実弟、野営中の平将頼はその報せを耳にし全軍を叩き起こした。
「おのれ秀郷! 神皇様、兄上は殺させはせぬぞ!!」
 秀郷の下には精鋭の侍と忍びが十数騎。将門の危機を救うべく馬を走らせた。
 敵は秀郷、経基、貞盛の三軍。対する将門軍は本陣を護衛軍千五百、北に玄明の千五百と黒崎直衛の一千、南にはミズク旗下の一千と興世王の一千の陣を敷いた。本陣の兵がすぐさま戦支度を整える中で、だが将門はただ一人呆然と立ち尽くしていた。
「まさかあの秀郷が‥‥馬鹿な‥裏切るとは‥‥!‥‥‥」
 将門が愛馬へ跨った。腰に刀を差すと馬へ鞭入れる。
「将門様、お待ちを! 今動かれては危険で御座います!!」
「秀郷の裏切りとは‥信じられぬ!! この目で確かめる! 興世王、貴様は兵を至急呼び寄せて陣を立て直せい!」
 興世王の制止も振り切って将門は駆けて行った。その背を追って呆然とミズクが呟いた。
「‥‥いけません‥将門様‥その道を行っては‥」
 ミズクの脳裏にまざまざと戦の光景が浮かぶ。彼女に備わる不思議な力がその先に待つ危機を告げている。将門の背を追ってミズクは馬へ跨った。
「‥その先は死地‥‥‥進めば最早帰っては来れぬ道‥‥‥行ってはなりません! 将門様っ!!」
 単騎で駆ける将門へミズクが追い縋る。
 いつしかミズクの白い頬に涙が伝う。
(「‥そして私も‥‥‥この道を行けばもう二度と帰っては来れぬ‥‥引き返せぬ道‥」)
 奥州の地に身を寄せた将門は、頼る秀郷に裏切られて寝首を掻かれた。
 将門の覇道へは多くの武者が夢を乗せる。新皇とその剣の下に集った諸将は紛れもなくこの日ノ本における至強の軍。だが歴史は、逆賊としての悲惨な末路をその先に用意している。 若き命を燃やし尽くすように、武者達はただ将門の剣の下へ。彼らの夢の舞台は遂にこの高館でその幕引きのときを迎えた。
 歴史の闇に埋もれた奥州平泉、高館の合戦。長い悪夢は始まりを告げ、終わらぬ悲鳴が高館山に木霊する――。

●今回の参加者

 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea5899 外橋 恒弥(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

楊 飛瓏(ea9913)/ 桐乃森 心(eb3897

●リプレイ本文

 冒険者達の長き夢の中の戦いは遂に終わりを迎えようとしている。限間灯一(ea1488)、天乃雷慎(ea2989)、鋼蒼牙(ea3167)、七瀬水穂(ea3744)、白羽与一(ea4536)、久方歳三(ea6381)、風斬乱(ea7394)、火乃瀬紅葉(ea8917)。神聖暦一千年の時に生きる彼らの命運は今やこの悪夢の中に。
 冒険者達の生死は、果たして――。



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 与十郎はその夜、遅くまで灯りをともして自室に篭っていた。
「姉上、まだ起きてらしたのですか」
 姫将紅葉が訪ねると、与十郎はこれまでの戦いの記録を認めているだ。その筆がミズクの名前で止まっているのを見ると、紅葉が筆を取って横から走らせる。
「ミズクという言葉は、『藻』と書くのですよ姉上」
 与十郎がそれににこりと微笑を返し。そして。
 不意に与十郎は耳をそばだてた。
「姉上‥‥?」
 そのすぐ後に。
「敵襲! 敵襲――!」
 突然の報せに本陣内は騒然となる。飛び起きた鋼蒼柳がすぐさま刀を取った。
「起きろ!!敵襲だ!! ぐずぐずするなよ!!すぐに戦支度を整えろ!」
 護衛軍の弓兵四百に召集をかけ、ただちに戦支度を整える。麓の部隊からは次々と報せが飛び込んでくる。事態が分かるにつれ陣内には緊張が走る。この狭い山中で挟撃されれば全滅もありえる。しかも本陣には将門は不在。兵達へ走る動揺を抑えようと限間灯一が全軍へ呼びかけた。
「将門公の覇道を夢見た者、それも直属の護衛軍が浮き足立ってなんとします」
 この混乱の渦中にあってその落ち着いた声音がどれだけ頼りになることか。限間の呼びかけに従い、兵達は落ち着きを取り戻す。
「将門公は皆も知っての通り強い御方。必ずお戻りすると信じておりますれば、その戻るべき場所を守る‥‥全力で生き抜くことこそ我らの使命ではありませんか、皆!」
 与十郎達も配下の兵達を叩き起こし、護衛軍は守りの陣を組む。与十郎が紅葉と同じ装束に着替えて馬へ跨ると、姫将はそれに並んで全軍へ向けて声を張り上げる。
「将門様の身は、ミズク様や先に向かった他の将がおりまするゆえ案ずることはありませぬ。ここで混乱することこそ敵の思うつぼ、策に乗ってやることはありませぬゆえ、安心して紅葉に力をお貸しくださいませ! 負けたと思うまで、人間は負けぬと申しまする、我らの気概を卑劣な奴らに見せてやりましょうぞ」
 姫将の号令で鬨の声が上がる。将門軍はこれまで何度も死地を潜ってきた。彼等が力を合わせれば、たとえ、どんな逆境であろうと。
「しかし、将門様にも困った物にございます。もう将門様一人の体ではござらぬと言うのに‥‥」
 将門は単騎で麓の部隊の元へ駆けたという。すぐさま興世王が護衛軍50を差し向けたが、未だ危険な状態だ。 すぐにその報せは南の風斬嵐の元へも放たれた。
「単騎で向かっただと!? 阿呆、将が先頭に立ってどうする‥‥早まるなよ‥」
 一刻も早く駆けつけたいが、嵐は兵を預かる身。ままならぬ我が身にギリリと奥歯を噛む。
「風斬殿、総員出陣の支度は整っております!」
 三百余の騎馬が雪を踏みしめて号令を待っている。脚を活かせぬ地形に加えてこの悪天。味方だったはずの雪が今では恨めしい。
「いいか、中央−南間の敵を駆逐・排除し味方の退路を作る。まずは朝までもてばいい、前線を崩すな!!」
 眼前には前哨を蹴散らして進軍する経基の兵。それを興世王の軍が盾となって食い止める構えを見せる。興世王自身はまだ本陣から戻っていないが、斉藤忠信ら主だった将が守りの構えを敷いて敵を待ち受ける。
(「‥‥兄貴の分までボクは戦うよ、だから見守ってて」)
 北の玄明軍も戦況は苦しい。久方士魂が盾兵の部隊三百余を展開するが、勢いづいた貞盛の兵は止め難い。
「戦況は極めて厳しいでござるよ‥‥」
 衣川まで敵を押し戻せれば強固な防衛線を張れるが敵の奇襲により既に前哨は悉く打ち滅ぼされている。今から巻き返すのは難しい。頼りの訃の矢の陣も情報の少ない貞盛相手には決めてたり得ない。
「それでも拙者等は主の為に身命を賭すだけにござるよ。ここで退くなどは士道不覚悟。拙者等は『動く盾』なのだから」

 同じ頃。高館の南へ半里。
「将頼様、彼らなら必ず南へ突破を計ります。我らと挟撃できればこの窮地を脱することも可能です」
 将頼のもとには火之迦具土神の戦巫女、不知火刹那の姿。急ぎ高館まで馬を走らせると、そこは既に戦場。友軍は完全に包囲されて朝廷軍の猛攻を受けている。もはや是までか。過ぎり掛けた暗い予感を将頼達は振り払う。戦の才覚にかけては味方の将兵達ほど信頼できる者はいない。
 同行していた一族の火使いへ刹那は呼びかけた。
「ここよりは死地。ですが仲間を救い新たなる日ノ本の未来のため、貴方達の命、私に預けて下さい。そして皆で生きて帰りましょう」
 彼ら火使いを中央に置き、二十足らずの将頼隊は鋒矢の陣を組む。まずは経基の軍を揺さぶり、活路を見出す。本陣から駆けつけた興世王も将頼らと同じ判断を下した。
「まずは脆弱な経基を蹴散らすべし! 然る後に全軍南より抜け、陣を立て直す!」
 その号令に従って忠信隊が先駆けとなり敵軍の只中へと斬り込む。忠信自身も先陣を駆けた。
 金山での義兄・継信との突然の離別以来、忠信はまるで魂が抜けたようであった。もはや何においても希望が持てず、抜け殻のような日々。そんな絶望の底に残ったのは、最後にまみえた義兄の眼差し。託された想いをそこに見て取り、忠信は再び剣を取った。
(「兄貴の抜けた穴はボクが埋めてみせる! それに‥‥今だってきっと。何処かで必ず生きているって信じてるよ。だから‥‥ボクも‥‥!」)
 生きるという意志。それを頼りに武者達は泥の中を這いずる。本陣から増援に来た鋼もその想いに強く突き動かされていた。
「生き延びる‥‥。会いたい人がいるから‥‥!」
 鋼がついた頃には既に激しい戦いが展開されていた。まずは興世王の下で戦線を立て直す。兵を散らすと鋼は各千曲の援護へと徹する。
「そんなバラバラに動いて死にたいのか! 己の役割を自覚して、他の者と共に戦え!!」
 奇襲で散り散りになっていた兵もこの増援と興世王の到着で次第に統率を取り戻し始めた。連携さえ取れれば経基など恐るるに足りず。
「‥‥くっ!まったく何度も何度も‥‥しつこいったらありゃしない‥‥!」
 鋼は口では悪態をつきながらも心中では冷静に計算を巡らせる。高館に陣取った将門軍の唯一の地の利は高低差。見晴らしのいい斜面に陣取ると敵陣を射程に捉える。矢嵐が敵陣へと降り注ぎ、反撃の血煙をあげる。
 北でも同様に転機が訪れつつある。
 玄明軍の陣頭に将門が現れ、敵軍を
「秀郷、己ェ‥‥裏切り追ったか‥!! つわもの達よ、心肝に刻んだ恨みを牙へ乗せ、奴らの肉へと突きたてよ!!  秀郷を、貞盛を、経基を!! その牙をもて引き裂き!喰らい!血祭りにあげよ!!」
 それは直衛の忍びが術を行使した影武者。だが突如として現れた鬼神将門の存在は敵軍へ動揺を走らせる。その機を突いて士魂の守りで態勢を立て直した玄明軍は、黒崎軍と共に攻勢へ転じた。法螺貝の合図で直衛の軍が貞盛の左翼へ突撃すると、その動きにすぐに玄明は呼応した。
「直衛‥‥なるほど、お前の考えは分かったぜ!!」
 騎馬兵を包囲せんと動けば、今度はその横腹を次の陣が待ち受けている。玄明の精鋭部隊龍騎兵の得意とする二段構えの攻撃だ。直衛の軍と波状攻撃で玄明が敵の先陣を切り崩しに掛かる。士魂隊も鉄弓兵四十でそれを援護する。
「大丈夫でござる、拙者らは日ノ本最強の軍。朝廷軍といえ人の身なれば我らが鬼神の敵にはござらぬ!!」
 早期に統率を取り戻した将門軍は一斉に反撃へと転じた。
 南でも経基の背を将頼の部隊が急襲し、経基軍は混乱の渦中へ叩き落される。
 刹那が秘薬を飲み干した。謳う様に詠唱が唇から洩れ、やがて彼女の掌中へ赤く炎が球の形とを取る。それは加速度的に膨らんでいく。炎に照らされながら刹那が呟いた。
「我、これより汝らに災いなす凶巫女となりましょう。神殺しの神炎、火之迦具土神の怒りを味わいなさい」
 刹那の懇身の火球が経基の陣で炸裂した。今こそ好機。忠信の軍も敵陣深くへと斬り込んでいく。
「ここが踏ん張りどころだよ! みんな、ボクに力を貸して!!」
 軽快な操馬術と巧みな体術は敵の刃を寄せ付けない。その目にも留まらぬ太刀捌きで雑兵を蹴散らしながら忠信は敵陣を斜めに切り裂いて駆ける。将門軍にいいように翻弄されながら経基はなす術もなく兵を失っていく。
「ええい!何をやっておるか! 突撃!突撃じゃ!!」
 だがもはや傾いた流れは止めようもない。敵の主力へ向けて鋼隊の矢嵐が一斉に降り注いだ。
「いいか、俺達は戦場の主役にはなり得ない。だが、俺達がいるからこそ主役が輝ける。いっその事、主役を押し付ける勢いでな! 総員、生きてここを突破するぞ!!」
 鋼自身も闘気で味方を援護して駄目押しにする。敵陣はずたずたとなり、そこを将頼隊が駆け抜けて興世王軍と合流する。
「将頼殿、よくぞご無事で!」
「話は後だ! 騎馬兵の指揮を借り受ける!!」
 将頼と刹那が騎兵三百余の指揮を貰い受け、すぐさま経基の陣の横合いへと兵を回りこませた。今や経基は総崩れとなっている。秀郷を相手取った中央の軍も一気に攻勢へと転じていた。姫将自ら紅葉衆とともに敵の包囲網を霍乱して抗戦の糸口を作る。限間も忍びを放って敵の守りの薄い所を容赦なく突いてみせる。弓での牽制の後、重装兵で押し込む。
「今です! 軽装兵、敵陣を切り崩しますよ!!」
 五人衆を意のままに動かす得意の流動的な用兵で着実に敵陣を押し返していく。その時だ。敵陣の中で紅葉衆によって煙幕が放たれた。それを合図に与十郎の弓兵が矢嵐を放つ。混乱した敵軍へ矢撃が容赦なく降り注ぐ。それにすぐさま呼応した限間隊が一気に敵の前線を押し返した。それを見届けると姫将は再び斜面へと駆け戻る。将門の報せは未だ来ぬまま。麓では乱戦となっているようだ。だがまずは全軍の統率を維持して陣を立て直すことが急務。
(「将門様ことが心配にございまするが、兵の命を守るのも紅葉の勤めにございますゆえ」)
 同じ頃、風斬隊。
「風斬殿!この場は我らだけでも十分にござる!」
「ここは戦場。剣はあるべき方の下へ!!」
「な、お前達‥‥阿呆、かっこつけても何も出ぬぞ?」
 いつもの不敵な笑みを返すが部下達の決意に揺るぎはない。
「まったく、誰に似たのだか。阿呆、‥‥強がりを言いやがって」
(「震えているのは武者震いか?」)
「命令だ、眼界の敵を全て駆逐しろ! この分なら朝までいらぬ。奴等に思い知らせてやれ、騎馬(牙)兵の戦い方って奴を‥‥」
 それだけ言い残すと風斬は馬首を返した。本陣まで引き返している暇はない。このまま北東へ。敵陣を突っ切り、将門の下まで。黒刀を握ると、風斬は振り返らずに戦場を駆ける。
(「俺達の戦い方って奴等を教えてやれ。くそったれの、くそったれによる、くそったれ達の戦い方をな」)
 それは、疾風が如く。
 それは、血を血で洗い。
 それは、獣が如く鋭く速い‥‥。
(「お前達が作ってくれたこの道は必ず突き進む。必ずだ。あいつは必ず生きて連れ帰る」)
 主君にして闇鳩の友、将門の下へ。決死の一騎駆けで風斬は馬尾を追う。しかし彼を待ち受けていたのは、あまりに過酷な運命。
 高館に長い悲鳴が木霊する――。