【金山迷動】 悪鬼は骨に集まれり 悩

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月26日〜06月02日

リプレイ公開日:2007年06月05日

●オープニング

 悪鬼達はひそかにこの街へと入り込んでいる。目立たぬようにひっそりと時を過ごす者。生活の場を築いて土地に溶け込む者。金山へ別に仕事を持つ者。それぞれだ
「金山の過ごし具合はどうだ? なかなか活気があっていい町だろう」
 江戸で騒がせたヤクザどものほとぼりが冷めるまでの辛抱。
 これは暫しの休暇だ。
 金山の街で、ひとときの時間を過ごし鳴りを潜める。
「機が熟したら声をかける。それまで、ゆっくり眠ってることだな」

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E:太田宿自警団、発足

 太田宿自警団の詰め所は、街の中央部近くに位置する。
 野盗征伐で十名の志願兵を出した自警団へは、黒夜叉事件が収まったこともあって新たに十名の志願者が加わった。現在の団員は30名強。街の若者とチンピラ崩れが半々の割合だ。城の執政である由良具滋の指導で創設された自警団は、町人たちで独自の運営が行われている。
 さて、そんな自警団が目下抱えている事件は‥‥

 源徳による上州征伐の失敗で、再び上野全体の政情は不安定となった。ここ金山は主戦場から離れていたことと堅牢な要塞に守られていたことが幸いしてまだ義貞の攻略の手は伸びていないが、それも時間の問題だろう。住民達の間には不安が漣のように広がっている。
 源徳が江戸を追われたことで、ここ金山の頼る後詰はなくなった。もしも責められれば孤立無援の戦いを強いられることになる。東国一の山城とも称される名城金山城なら或いは源徳の再起まで戦いうるかも知れない。全ては城の上層部の決断次第だ。
「――――――最悪、金山城の主がまた変わるやも知れん、か」
 金山城の実力者・由良具滋の主導で設立された太田自警団であるが、事の成り行きでは自警団もどういう処遇を受けるか分からない。現在は城の管理を離れて独自に民営がなされている自警団であるが、実質的なリーダーである副長の下で、今後の城の動きを見据えて自警団としての身の振り方を今のうちに決める必要があろう。
「由良の下につくか。あくまで官の首縄は撥ねつけるか。或いは、早々に義貞に擦り寄るか。自警団の力を確保するために、事は慎重に進める必要があるな」


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F:悪鬼は骨に集れり

 金井宿キヨシ村のナワバリを確保しようと動き出した太巌組だったが、華僑自警団の抵抗のためになかなか手を出せないままでいた。これを発端とした太巌と華僑の対立は、昨年冬に起こった太巌親分の一人娘の殺害によって緊張は極限にまで高まっている。
「薄汚ねぇ華人どもめ。奴ら全員、この金山から無一文で叩き出してやらあ。無論、犯人は必ず突き止めて殺す。三族も縁故の者も、残さず根絶やしだ」
 行方不明になった娘の捜索は血眼で行われたが、その亡骸がようやく発見されたのは、この春になってからのことだ。太田と金井を隔てる八王子山中で現場には華国人の使う『八仙の面』が残されていたという。
 やり手と噂される華僑自警団の新団長の牽制で金井宿には手が出せぬままだが、親分の怒りがこのまま収まるはずはない。
「待ってろよ。いまは手が出せねぇが、必ず落とし前はつけてやる」

 さて。
 上州征伐の煽りで、ここ金山の情勢も大きく動きつつある。

 清とのコネクションで太田を仕切るに至った太巌組だが、当の清が失脚すればその後どうなるか分からない。
 新田義貞はかつてこの金山を治めていた際には苛烈な侠客狩りを行った領主でもある。事実、昨年冬には多くの組が壊滅の憂き目に遭い、太巌組みは早々に清に従って地下にもぐったことで難を逃れた経緯がある。
 この城の主が誰になるのか、太巌組にとっては最大の懸念だ。
「今回ばかり清の旦那も苦しかろうよ。俺らも身の振り方を考えにゃあなんねえようだな」
 清につくか、義貞に取り入るか。
 それには華僑の連中も動き出すだろう。
 今は太巌組も華僑もほぼ対等の立場でやり合っているが、それも一月の後にはどうなっていることか分からない。華僑とやり合うにはまず、これから起こるかもしれない政変を乗り切らねばならないのだ。
 清につくにも、失脚すればもろともだ。
 義貞に取り入るにも、向こうが応じる保障は一つもない。
 或いは覚悟の上で再び地下にもぐるか。
 身の振り方を間違えれば華僑と矛を交えるどころか、この太田の縄張りですら危うい。太巌組の若い連中には太田自警団に所属する者も多く、組の決断は太田宿に大きな影響を与えるであろう。
「‥‥難儀なこったぜ」

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1119 林 潤花(30歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1160 白 九龍(34歳・♂・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb1540 天山 万齢(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

七瀬 水穂(ea3744)/ フェイマス・グラウス(eb1999)/ ヴェルサント・ブランシュ(eb2743

●リプレイ本文

「泊まる宿を無くしてしまった、暫く厄介になりたいのだが、構わぬだろうか」
 太巌組の門を叩く音がある。訪ねて来たのは風斬乱(ea7394)だ。
「俺の腕を買って貰えぬかな。それとも、俺の黒刀では不足かな?」
「――冗談いっちゃあいけねえぜ」
 太巌組に草鞋を脱ぎたいと申し出た乱に、親分は苦い顔で笑って見せた。
「‥‥金山城攻略戦、傭兵を率いて戦ったあんたの戦いぶり、俺もウチの子分どももまだ忘れた訳じゃねえんだぜ。自警団に面出してる若ぇのも懐いてやがる。草鞋を脱ぐといわず、アンタさえよけりゃあウチの盃受けてくれても構わねえんだぜ」
 それに、乱は小さく笑っただけだった。
 手土産の酒を出すと、真剣な面持ちで切り出す。
「実は話がある。太田と金井の両自警団のことだ」
 城の政策によって華人が大挙して金山に入植したことで、特に太田宿を中心に反華感情が高まっている。それを背景に太田と金井それぞれの自警団が対立していることは、城にとって頭痛の種の一つだ
 当の華僑の実質的指導者は、華僑の景大人の片腕とされる賈という男。
 その彼を、踊子のサラン・ヘリオドールが訪ねて来ている。
「お城からの言伝をお届けに伺ったわ。近々、金山の将来に関わる大事な会議が開かれるわ。華僑の皆さんからもぜひ出席してほしいの」
「これはご足労忝い。金山の大事とあっては我々としても捨て置けません。こちらこそ、城との仲介の労、痛み入りますよ」
 サランは市井の身でありながら城中・華僑ともに有力者とも親交を持っている。キヨシ城問題の際には契約の裏書人を務めた彼女に、今回も仲介役として白羽の矢が立ったのだ。
「賈さんはこの町が好きかしら?」
 私は大好きよ。そう口にしてサランは微笑んだ。
 この町も、此処に住む人々も。どんな時も笑顔を忘れずに、協力して困難に立ち向かっていくその姿に動かされて、サランはこうして両勢力の橋渡しの為に尽力しているのだ。
「今回もきっと乗り越えられるわね」
 今度ばかりは倭人も華人も利害を超えて動かねばなるまい。その考えは華僑も同じだ。
 自警団の書記を務める林潤花(eb1119)は、太田自警団との協力体制を取れないかと既に動き始めている。
「‥‥ということなのだけれど、白君の考えを聞かせて欲しいわ」
「異論は無い」
 団長の白九龍(eb1160)も異を挟む余地はない。
「向こうの団長は不在らしいが副団長はあの聰だ問題はあるまい‥‥こちらの団員は俺が抑える」
 先頃この華僑自警団の団長に就任した白は更に団の規律を正し、統制を強めている。彼が是というなら、後は相手の出方次第だろう。
「それは良かったわ。所で、折り入って白君に一つ頼みがあるのよ」
 そういって林が辺りを窺うと、白へそっと耳打ちした。
 黙って聞いていた白が僅かに眉を動かした。
「一枚噛ませてもらおう、ちょうど退屈していたところだ‥‥」


 一方の太田自警団は。
「集まって貰ったのは他でもない。新田の手がすぐそこに迫っている」
 聰暁竜(eb2413)副長の緊急の召集で、詰め所には団員が勢揃いしている。
 自警団として身の振り方を決めねばならない。とはいえど。町人にチンピラ、太巌組の若い衆。血の気は多いが頭は今ひとつという連中にややこしい政治の話をした所でピンとは来るまい。
 その点、荒事に身を起き続けて来た聰は彼らの扱いを心得ている。
「問おう。太田に害を為す連中がいる。戦う覚悟があるのか否か」
 聰の表情はいつも以上に厳しい。
 戦になり攻め手が街へも押し寄せれば、ここ太田宿の民も略奪の被害からは避け得まい。
 そうなれば、相手は新田兵。
 武者達を前にして、それでも戦えるのか‥‥?
「やってやろうぜ!」
「侍どもがなんだってんだ、俺たちの町を余所者に荒らされてたまるかよ」
 太田の民を護る。たとえ相手が何者であろうと。ただそれだけの理由にこそ、彼ら自身の居場所が此処にあるのだから。これまでを通して自警団の意志は固い結束で結ばれている。
 杞憂だったかと、聰はニヤリと笑みを漏らす。
 そうして、話を切り出した。
「俺から一つ提案がある」
 華僑自警団と手を組む。聰の言に座がざわついた。
 これまでの聰の働き振りを目にしてきた仲間達に、彼が華人であることを理由に提案を訝る者はもういない。だが華人とはこれまでの軋轢もある。反華感情は理屈だけで拭えるものではない。
 見兼ねてロックハート・トキワ(ea2389)が助け舟を出す。
「情勢は混沌としている。詰まらん縄張り争いで意地を張ってる間に、金山城自体が落とされて共倒れじゃ、俺たちも華人達も目も当てられんさ」
 トキワの言も尤もだ。クリス・ウェルロッド(ea5708)も異論はない。
「‥‥私は只の平故、上の決めた事に従うよ」
 トキワはぐるりと座を見回すと、最後に聰の肩をぽんと叩いて肩を竦めた。
 この期に及んで、聰についてこない者など団には居ない。
 仲間達の意思を見届けると、聰が口を開いた。
「仲良くやれとは言わん。精々奴らを利用してやれ」
 こうして団の方針は決まった。
「そうと決まりゃあ、後は手前の技と体を鍛えて供えるだけってな」
 義侠塾からの出向の風羽真が、非番の連中を金井宿診療所の手伝いにと呼びかけた。
「華僑との歩み寄りの第一歩ってことで、一丁、人助けと行こうや。お前等だって、いつか世話になるかもしれねぇんだからな。その時になってまだ完成してませんでしたじゃ困るだろうがよ‥‥鳴神、お前も一つどうだ? 確か今日は非番だったろ?」
「‥‥悪いな。野望用だ」
 鳴神破邪斗(eb0641)が小さく首を振る。
「ついでだ、折角こうして詰め所に寄ったのだから、見回りの予定でも確認してから行くか」
「‥熱心なことだねェ? ま、そっちもしっかりな」


 こうして太田・華僑両自警団の緊張は解決へと向かおうとしている。その中で懸念されるのは、太田宿を縄張りとして自警団へも若い衆を出向させている太巌組の動きだ。
 彼らの動向は金山に集う人士の注目を集めている。
「城からの使者として参った空間と申す。主はおられるや」
 政治顧問補佐役の肩書きを持って組を訪ねてきたのは、医師の空間明衣だ。
 下足番へ得物を預けると、奥へと通される。
 空間は親分へ深々と頭を垂れてから切り出した。
「若輩者が偉そうで申し訳ないが、先日の事件の事は聞いておるが、あまりにもあからさまでないかい?」
「いきなり随分な物言いじゃねえか、嬢ちゃん。話を聞こうか」
「御息女を亡くされた貴殿が憤慨するのも分かるが、少し落ち着いて欲しい。あの事件が素人の仕業ならまだしも、華僑ならばわざわざ手掛かりなんぞ残さんだろう? それもあからさまにな」
 親分にも物怖じすることなく、空間は思う所を語って見せた。
 だが、当の親分は渋面を崩さぬままだ。
「簡単に言ってくれるが、山に埋められた亡骸を見つけるまでには俺らも相当苦労したんだぜ? 華人の面はやっとの思いで見つけた唯一の手掛かりなのよ。華僑が一等怪しいのは当然だろうがよ」
 現場で見つかった面にしろ、そこまで易々と辿り付いたのではないのだ。組の言い分を見当外れというには、空間の言はまだ弱い。
「俺らも侠売る稼業で食ってる手前な、やられたままで済ます訳にはいかねえのさ。舐められちゃあお仕舞ぇなのよ。理屈じゃねえんだ。きっちり落とし前はつけなきゃあならねえ」
「だが親分。今は金山の行く末がかかっているのだ。――本題だ。城で行われる会議に出席願いたい。この会議はこの地に住まう者達の行く末を担う会議だ。親分には是非出席して頂きたい」
 同行してきたサウティ・マウンドも頭を下げる。
「俺とあんたの仲じゃねえか親分。非常事態故、華僑との件は一時矛を収めて貰えねえかな。んで、事が解決するまでは揉め事も起こさないでいて貰いてえんだ」
 サウティとは、清と共に金山城攻めを戦った頃以来の付き合いになる。サウティをちらりと端に見ると、バツが悪そうに親分は顔を顰める。空間がここぞと詰め寄る。
「今は華僑と争う時か? 今やる事はこの地に住まう者達が協力し、外敵に呑まれない様にするべきでは?」
 視線がぶつかり合い、張り詰めた空気が場を満たす。
 と、そこへ。
「あーあ、せっかく火遊びが面白くなってきたところなのによォ」
 襖向こうの部屋から不意に掛かった声は、客分として出入りしている天山万齢(eb1540)だ。
「ここから盛り上がるってェのに敵わねェぜ。まー、なっちまたモンは仕様がねェや。一時休戦ってのは、受け入れるしかないだろうよ」
 大勢の子分を抱える親として、娘を亡くした父親として。太巌親分の心中は複雑なのだろう。一度は見限ったとはいえ、かつて共に金山の為に戦った城の連中との義理もある。
 親分は振り絞ったような声でこう告げた。
「今日の所は帰ってくんな」
「だが親分」
「返答は後で城に使いを寄越させる。とにかく今日はそれまでだ。おう、客人がお帰りだ。そこまで送って差し上げろ」
 丁重に辞すと、空間とサウティは屋敷を後にした。
 残された客間には厚い沈黙が立ち込める。天山は所在なさげに頬を掻いて見せる。
(「マトモに市が動かねェのに華僑とケンカする理由は無ぇ。なんで銭にもならねェのに痛い思いをしなきゃならん」)
 ちらりと、親分を横目に盗み見る。
(「こうなっちまったら、これ以上肩入れする義理もねェ。さてどうしたものかね。新しいコネでも探すか?」)
 算段しながら天山が無言で盃を煽る。親分は重苦しい表情で俯いたままだ。乱が親分の盃へ酒を注ぐ。
「親分、気持ちは分かるが、御前会議への出席を考えて見てははどうだろうか。城は金も人も不足している。表に裏に、足並みを揃えた方がゆくゆく組の利益にもなろう。なに、小物の戯言だと思って聞き流してくれて構わんよ」
「損得を勘定すりゃあそれが次善だとは俺も分かってる。分かっちゃあいるが‥‥」
 再び重い沈黙。
 そこへ。
 子分の一人が申し訳なさそうに部屋へ顔を見せた。
「親分、お客人が」
「断れ」
「それが、‥嬢さん絡みの用件だってことで‥‥」
 土産を手に訪ねてきたのは、冒険者風の二人連れだった。
「件の娘殺しの件に関して、華僑からの使いとして来た」
 一人は、華僑に世話になっているという若い男。そしてもう一人は小面を被り外套を羽織った永峰時雨と名乗る女。
「驚きました。黒夜叉が幼子すらも手にかけていたとは、と‥‥倭人ならば誰でも良かったのでしょうか」
 一方の男が、風呂敷包みを無造作に転がした。
 中から出てきたのは、男の生首。
「娘殺しの下手人を華僑が独自に捕らえた。この首級はその証の品として持参した次第」
 華僑の情報網に黒夜叉が掛かり、自警団の手で捕縛に成功した。
 連日に渡る拷問で一連の凶行を自供させていた所、偶然に今回の娘殺しの件を吐いたというのだ。
 だが連日の責め苦に耐えられなかったのか、男は舌を噛み切って自害したという。 
 二人の話に、親分はじっと耳を傾けていたが、やがて重い口を開いた。
「‥‥年を取ると何ともいけねえや。どうも話が出来すぎちまってる気がしてなあ? その話にしろ、証言してんのは華人のあんた達しかいねえんだぜ」
 と、脇の天山と乱を振り返る。
「イイんじゃないの? 娘殺しの件が片付いたなら親分の面子も何とか立つし、丸儲けってな。ただ、華僑に借りを作るカタチになったってのはちと頂けねーケドモな」
 天山の鋭い視線に射竦められて、男が上ずった声で返す。
「下手人を自害させてしまったのはこちらの手落ち。この首を太巌組へ納めることで、こちらの落ち度はご容赦願えぬだろうか」
「まあいい。華僑の。今日のトコはこれで矛は収めてやるとあんたンとこの親玉に伝えな。だが、俺達ぁまだ華人どもを信用した訳じゃあねえんだぜ。それだけは忘れんなよ」
 互いに含むものを残しながらも、この件は一応の決着を見た。
 男は早々に屋敷を後にする。
 去り際に、永峰が親分へ改まってこう説いた。
「此度の件は華僑の仕業ではなかったといえ、このまま華人どもがこの土地に根付くとあらば、いずれは奴らも卑しい性根を現しましょう」
「‥‥何が言いてェ?」
「城が優遇する以上は表立って華僑に抗する手立ては失われたも同然。奴らに裁きを下すのは、裏の世界の力というのが道理となりましょう。奴らを実質的に纏め上げているのは景讃繁の片腕、賈――」
「嬢ちゃん。物騒なことはお言いでねえぜ。俺達を人殺しの集団か何かと思ってんのかい? 俺らはただ、この土地と民草を守りてえだけよ。お上に守りきれねえ分は俺らが面倒を見る。ま、事によりゃあ力を使わなきゃならねえ時もあらあな」
 その返答に、永峰の気配が、薄く笑ったようだった。
「是にて失礼仕る」
 こうして、太巌組を訪ねた二組の客人は屋敷を後にした。
 彼らに齎された情報により、組を取り巻く情勢は変わったのだ。
「‥‥仕方あるめえか。分かったよ、俺も胎をくくらあ」
 どうにか問題の落着を見て、天山はやれやれとばかりに肩を竦めて見せた。
(「まったく、手のかかることだぜ」)
「太巌の親分よ、チョイと頼み事があるんだが」


 こうして金山での日々は過ぎた。
 金井の駅ではちょうどトキワはこの地を去ろうという所だ。
「‥‥さて、俺は巴里に戻るが、他の悪鬼達はぼろを出さんよう、しっかりやってくれ」
 沈みかかった船。行く末を見届けられないのは少々心苦しいが。
「‥‥さて、持ち直せるかな?」
 氷雨雹刃(ea7901)や彼岸ころり(ea5388)ら他の仲間達はまだここで悪謀を巡らす胎のようだ。自警団にしろ、聰が裏から手を回している。彼らならこの先も巧く凌いでいくことだろう。同じく自警団の鳴神も、江戸への帰路に付きながらふと金山を振り返った。
「‥金山を襲う嵐‥‥それに飲まれるか、それともその勢いを利用してもっと高みに昇るか‥‥これからは、ふとした見逃しが命取りになりかねんが‥‥」
 鳴神はふと口許を吊り上げ、浮かんだ笑みを深くする。
「‥‥だからこそ面白い」