【金山迷動】 上野に暮らせば 〜文月

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2006年08月01日

●オープニング

 上野国(こうづけのくに)の南端に位置する、金山。東国屈指の山城である金山城をいただく城下町は、南の登城口である大田口に栄えた大田宿だ。上州の乱の叛主・新田義貞を退けて新しくこの地を治めることとなった地頭の松本清は、次々と新しい政策を取り入れて金山の発展に乗り出した。そんな中、城の西に位置する金井口にかつて栄えた金井宿を復興する計画が持ち上がる。
 戦で荒れた田畑を耕し、家屋を再建する。新しい金山の代官、松本清は本気だ。腹心の由良具滋と共に次々と新しい金山の街作りに取り組み始めた清は、自らの名を取ってその村を「豪腕☆キヨシ村」と名づけた――。


 こうして金井宿は、キヨシ村として再スタートを切った。江戸大火で焼け出された難民を中心に、新しい街作りへ希望に胸を膨らませて多くの人が集い、村はいつになく活気に満ち満ちている。
 住人は大半が国抜けしてきた武蔵の民。そして1/3ほどが上州の乱で難民となった人々だ。だが今月始めに経済発展のため城が華僑系の商人たちを誘致すると、多くの華人がキヨシ村へと入植を始めた。
 金山へ進出してきたこの華人達の中心人物は、城が誘致した華僑資本のまとめ役的存在である景讃繁(ジン・ザンファン)という老人。新たに金山へ移って商売を始めたいという後進の華人へ、彼は大きな援助を与えることを約束している。それもこの活気を作り出している一因だろう。
 キヨシ村金井宿の街作りはまだまだこれから。多くの可能性と夢が、この村には眠っているのだ。


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G:豪腕☆キヨシ村へようこそ!

 金井宿の復興計画の開始から一月。
 徐々に町を去った人達も戻り始め、賑わいは僅かずつではあるが取り戻しつつあった。

 〜豪腕☆キヨシ村の主な施設〜

 診療所:
  貧しい人を対象に無料で診療を施している。山向こうの太田宿からも多くの人が通う。
  資金難と人材難に悩まされるが、薬草採取を行い、ゆくゆくは栽培による薬草の生産を目標としている。

 ジーザス教会:
  診療所の隣の大きなカエデの木の下にゴザを引いて活動している。

 お宿『歓楽街』:
  一軒でも歓楽街を合言葉に、煌びやかな灯りで金井宿の夜を彩るボロ宿。
  複合歓楽施設を目指しているらいしが、キヨシ城の受付と物販ブース、義侠塾広報課があるだけ。


 現在のところキヨシ村の主な施設はこのくらいであとは民家があるばかり。そしてもう一つ大切な施設がある。村の寄り合い所だ。これまでにバトラーカフェへ改築して名物とする計画が持ち上がったがそのまま放置され、村の話し合いの場として使われて来たものだ。
 その寄り合い所が、このたび城によって新たに立て直されることとなった。
 寄り合い所の作られるのは、街の外れの西端部、金山城への登城口に程近いところだ。その空き地に新たに平屋を建てるのだ。
「だが、申し訳ないのだが城からの援助はここまでだ。そこで、この建設作業はキヨシ村の住人たちへ任せたい。資材は全て出すので、村の住人で話し合って寄り合い所を作り上げてくれ」
 完成すれば、ここでキヨシ村の街作りの方針や、またこれまでにも挙がっているペットコンテストなどの各種催しの話し合いがもたれることになるだろう。村には大工はもちろん、様々な職業の人々が集っている。住人たちで力を合わせて、村の寄り合い所を完成させるのだ!


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H:竹之屋豪腕腕盛記♪ 〜文月の献立〜

 江戸の下町に軒を構える小さな居酒屋、竹之屋が、遂に金山は豪腕☆キヨシ村に新店舗を出す。庶民の味をモットーに昼はお食事処、夜は居酒屋として江戸の人々に親しまれた竹之屋。その味がこの上州の地でも受け入れられるか、竹之屋の挑戦が始まる。
 さて、そんな竹之屋で今日起こります事件とは‥‥。


 本店からの暖簾分けで上州進出が決まった竹之屋だが、まだ店を構える準備は始まったばかりだ。
「なんにせよ、まずは献立だな。上野の人々の口に合うように考えながら献立を考えねばならぬだろう」
「食材は海から離れすぎてるので海鮮が使えませんね」
「駅馬車の便が完成すれば少しは何とかなるかも‥‥?」
 採算も独立してやるからには、金勘定に長けた者も必要だろう。当然、店員も揃えなければならない。現地で雇える者は雇い、冒険者で手配できるものはそれで済ませなければならない。
 さて、最後の問題は土地なのだが‥‥。
「江戸の竹之屋――話は聞いてるっぜ。キヨシ村の一等地を確保しといたんだっぜ」
 地頭である松本清の独断で、豪腕☆キヨシの中心に位置するボロ小屋が貸し渡されることとなった。これまではキヨシ村の寄り合い所として使われていた平屋だ。
 清は、その手にはなぜだかキスマークつきの便箋を握り締めている。
(「へっへ。これでシェリルちゃんがデートしてくれるなら安いもんだっぜ」)
 こうして土地の目途は立ったが、この平屋も改築しないことには店舗として機能させるのは難しい。そのためには当然費用もいる。店員を雇ったり、食材の他に、器具や家具なども用意せねばならない。だが、資本金は最低限の資金すらも賄えそうにない、僅かに100両足らず。
 このどん底から、竹之屋の挑戦が始まる。

●今回の参加者

 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0240 月 陽姫(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1484 鷹見沢 桐(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1540 天山 万齢(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5055 アトゥイ(23歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

 豪腕☆キヨシ村の中央に立つ小屋へ『大衆居酒屋竹之屋』と刺繍された暖簾が掛けられた。江戸からやって来た朱雲慧(ea7692)が従業員達を振り返って笑顔を見せた。
「ほな、気張っていこか!」
「はい店長‥!」
 本店から応援に駆けつけたお千が小さく拳を握って見せる。月陽姫(eb0240)ら気心の知れた仲間と共に、まずは開店準備を済ませるのだ。
「金山店が立ち上がるまでは頑張るアルよ」
「おう、俺ってばお千ちゃんの‥‥いや、二人の未来の為に頑張るぜ」
「や、山岡さん‥そ、その‥‥‥手を‥」
 山岡忠臣(ea9861)もお千を追っかけてここまでやって来ていた。ちゃっかり手を取ったりして気持ちをアピールしているが、奥手のお千相手にはなかなか苦戦しているようだ。それでも、前と比べれば随分と距離が縮まった方ではあるのだが。
 まずはこの平屋を改築せねばならない。素人仕事だし資金も乏しく、余り大きな改築はできないだろう。江戸の二号店に倣ってカフェテラスを作り、屋内は厨房と客席部を仕切って長椅子と机を入れる。腕まくりした朱も工具を手に作業に取り掛かった。
 今日は懐かしい顔も駆けつけている。以前竹之屋でも腕を振るっていたこともある、流れ板のミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)だ。
「さ〜ぁ、久しぶりの竹之屋だね〜‥‥まだ出来てないけど。改築かぁ。『じゃまな壁壊して』とかのお願いだったら大得意なんだけど‥‥」
「‥あ、あんまし無茶はせんようにな」
「冗談だよ♪ そうだな、厨房はボクに任せて。流れ板として色んな厨房を見てきたからね、どこにも負けない立派なのにしてみせるよっ♪」
(「そろそろ腰を落ち着けて『竹之屋の板長になる』って野望があるからね、頑張らないと」)
 陽姫も新しい献立に使える食材がないか、周辺の農家を回りに出掛けていった。江戸からの仲間達は誰もが頼もしい仲間ばかりだ。鷹見沢桐(eb1484)はそんな店長や先輩達に負けてはいられないと、食器や座布団などの小物集めに走り回っている。幾分か江戸から持ってきたがそれでも相当切り詰めないと運転資金がストップしてしまう。
 そんな時だ。暖簾を潜って天山万齢(eb1540)が顔を出した。
「いよう。ここが噂の竹之屋かい?」
 出来上がったばかりの椅子へ天山はどかっと腰を下した。着物の裾を開いて手でぱたぱたと仰ぎながら、店員へ目を移す。
「すまない、開店の準備中でまだ営業は‥‥」
「何でも困ってるらしいじゃねえか。俺でよかったら器ぐらいは作ってやれなくもねえぜ」
 一瞬呆気に取られた桐だが、本当なら願ってもない申し出だ。
「それは助かる。是非お願いしたい」
 この太田宿は可能性を求めて多くの人々が集まり、活気に満ちみちている。その空気が何とも心地よく、桐の気持ちも心なしか弾む。
「それから、改築の人手ももう少し欲しい所か」
「キヨシ村は職人のるつぼって話だから、手すきな大工の二三人は居るかもしんねー」
「となると次は店員も集めねばな。料理人はよいとしても、給士は勿論、算盤に長けた者も必要か」
 思案げに俯いていた桐は、ふと視線を感じて忠臣を振り返った。
「ん? どうされた山岡殿」
「いや、だからここに候補がいねーこともねーぜ。‥‥用心棒の手助けは微妙だが、他ならぬお千ちゃんや八雲ちゃんや桐ちゃんや陽姫ちゃんやミリフィヲちゃんの為だからな」
(「俺様、上野で一旗上げる事にしたぜ!そしてお千ちゃんと一緒にビッグになるぜ!」)
 忠臣も勿論、胸に期するものをもって金山までやって来ている。
「せやけど、ぼん。店員になるっちゅうからには‥‥」
「げっ、しまった」
 罰が悪そうにしている忠臣へ、朱は冗談めかした意地悪笑いを浮かべてこう結んだ。
「ま、働き振りを見つつ採用は保留やな」

 新しい寄り合い所の建設は難航していた。アトゥイ(eb5055)も顔を見せているが、思うように進まなそうな気配だ。清の城が資金を賄うことになったはいいのだが。
「と申しましても、肝心の男手が足りませんわ。皆さんお忙しいのでしょうか」
 一方の村の宿屋は、ヴェルサント・ブランシュが私財を投じてボロ屋を買い受けて建てたお宿『歓楽街』で着々と準備を進めている。
「キヨシ城初回興行の参加及び観覧受付はこちらです」
「楽しみだな、ご近所最大の学者にして冒険家の血がうずくよ」
 城がキヨシ城の興行権を華僑に売り渡した為に儲けも少なくなり、暫く苦しい経営が続きそうだ。しかし華人入植者が大挙してやって来たことで、街の賑わいは増した。華人の白九龍も、そんな人々に紛れて街へやって来た一人だ。
(「元々、逃亡の身だ‥‥どこへ行こうが俺は構わん‥‥‥」)
 鋭い目つきと、何より左腕をすっぽり覆った異様な包帯姿は堅気のものではない。そんな彼をも、この村は何も言わず温かく迎え入れている。住人には脛に傷を持つ者も少なくないがこの村では誰も過去は問わない。ここにはただ未来だけがあるのだ。皆、ただそれだけを求めて新天地へやって来たのだから。江戸の武家屋敷を飛び出してきたという家出娘の真砂もそうだ。
「ここがキヨシ村かぁ〜、田舎だけど活気があっていいトコだね♪」
 抱えていた大きな荷物を降ろし、白髪の娘は気持ち良さそうに伸びをした。
「さてと。町外れでもいいから、綺麗なトコがいいな♪」
 そんな住人達が慌しく街作りに精を出す中、地頭である清はシェリル・オレアリス(eb4803)と腕を組んで鼻の下を伸ばしていた。
「ふふっ、清クンありがとうね♪ 約束どおりデートしましょうね♪」
「へへへっ照れるっぜ」
「安心して頂戴、お姉さんが優しくリードしてあげるわ♪」
 清は明らかにデレデレの様子だ。二人は山向こうの太田宿へと消えていった。
 さて、村の診療所でも動きがあった。ケイン・クロード(eb0062)が訪ねて来ている。
「人手が足りないのは大変ですね。齧った程度の知識しかないですけど、家事や料理で微力ながらお手伝いしますね。子守をやっているので、その経験を活かせたらと思っています」
 開拓中のキヨシ村では、子どもの世話がなかなかできない家も多い。そこで診療所を無料の託児所に出来ないかと考えたのだ。噂を聞きつけ、診療所には多くの子どもが集まってきている。
「意外と盛況になりましたね。せっかくですし、そのうち親の手伝いができるようになるように、簡単な手習いや家事仕事の勉強もさせてみましょう。将来的には託児所兼寺子屋のようにできたらいいんじゃないかな?」
 ケインの寄付で経営状態は少し上向いたが、もっとも肝心の医師がいないので診療所としての活動は殆ど出来ていない状態だ。もともとこの診療所は冒険者が開いたものだが、流れ者の彼らが次にいつまたこの村を訪れるかは分からない。
「ないものねだりしてもしょうがないですよ。それより、そうだ。朝顔の栽培なんてどうですか? 種が緩下剤になるんですよ」
「野草の採集も続けねえとな。やることばかりで大変だ」
 村作りは難航している。
 それでもこの賑わいがアトゥイには嬉しく思えた。
「散り散りになられた村人の皆様も少しは戻って来られたようですね。家屋の修繕なども進めたい所ですけれど‥‥」
 まずは寄り合い所を建てないことには。名物にと考えた『キヨシ饅頭』も大々的に売り出したいが、村に話し合いの場がないのでは村の方針や祭などの催しを決めるのにも不便しそうだ。
 再び竹之屋。
 暖簾をくぐって顔を出したのはシャーリー・ザイオン(eb1148)だ。
「こちらに伺うのは久々ですね。お久しぶりです、皆さんお元気そうで何よりですね」
 竹之屋には昨夏に浴衣美人姿選で世話になったことがある。今日はその恩返しのつもりで立ち寄ったのだ。
「シャーリーはんこそ元気そうで何よりや」
「キヨシ村の噂を聞いて私も金山へ来ていたのですが、竹之屋さんがこちらに店を出すと聞いて驚きました。それで何かお手伝いが出来ればと思いまして」
「シャーリーちゃんも手伝ってくれるってんならありがてーぜ。よろしく頼むな」
 さっそく忠臣が手を握ろうとするが、その襟首を太い腕がひょいと掴んで引き戻した。天山だ。
「元気が有り余ってンなら手伝ってもらおーかね。一人でやるのもホネなんでな」
 真っ先に作ったのが徳利とお猪口なのは何とも天山らしい。こねた土から生まれる美しい造形は無骨な掌からはとても想像もできない。忠臣も思わず舌を巻いた。
 厨房は、調理台や竈、水周りや井戸などはフィヲが朱と協力して何とか目途も立ってきた。
「こんなもんでええやろ。フィヲはん、おおきにや」
 包丁や鍋釜、桶などはせっかくだから竹之屋の特注にとフィヲが自腹で太田の職人に依頼することになったようだ。内装などのこまごまとした所はお千とシャーリーが相談しながら進めている。壁板や床など悪くなっている所は張り替えて補修する。最後に雨漏りの点検にとシャーリーは屋根へとのぼった。
「異常ナシ、と。これで微力ながらお手伝いもできたでしょうか」
 ふと町外れへ視線をやると、華人達の家の集まった辺りに人だかりが出来ている。
 輪の中に建つのは華人の道士、林潤花。
「聞きなさい、我が同胞たちよ。景大人は金山で華僑自警団員を募集しているわ。異国で信じられるのは華人の同胞のみよ。私達の財産と生命は自らの手で守らねばならないわよね。何より、治安が悪ければ商業もうまく運ばないわ」
 林が強い調子で宣言する度に拍手が上がり、いつしか人だかりは小さな集会程の規模になっている。それを脇目に桐が小走りに竹之屋へと駆けて行く。
(「景大人‥‥確か華僑の大物だという話だったな」)
 太田で宣伝をしながら有識者へ挨拶周りをしている時に噂に聞いたが、短い間に随分と伸してきているらしい。店長の朱とが華人ということもあり、巧く付き合えば大きな後ろ盾になってくれるかもしれない。
 そろそろ日も沈む頃合だ。
 店へ戻ると、竹之屋へちょうど歓楽街のヴェルサントが訪れている所だ。
「宿泊客向けの食事のサービスをお願いできる所を探しているのですが、竹之屋さんにお願いできないでしょうか」
「まだ開店の目途も立ってないよって答えられへんなあ。少し考えさせたってや。せやな、献立も現地の食材事情を見ながら追々組み上げて行かなな」
「調べたアルが、金山では良い大和芋が自生しているそうアル」
 以前はキヨシ村の名産として改良しようという話もあったくらいなのだそうだ。金山店の名物料理にはちょうどいい食材だ。
「滋養強壮にもばっちりアル。とりあえず大和芋を試して見たアル。金山のキヨシ村でしか食べられないと言うようなメニューを考えていきたいアルね。キヨシ城はもちろん、金山城や太田宿からも食べに来て欲しいアル」


 文月の献立〜街作り応援セット試作品

  とろろそば:
   大和芋をつなぎに打った蕎麦に、たっぷりのとろろをかけて竹之屋特製の出汁で召し上がれ。
   ハードな仕事の後の疲れも取れる大和芋レシピその1。

  揚げ大和芋の蜜絡め:
   一口大にしてカラっと揚げた大和芋を水飴で絡めた大和芋レシピその2。
   絡めた水あめは隠し味に生姜で風味付け。熱々でも、冷めても美味しい一品。

「油は高価アルから蜜絡めは価格設定が高くなるのが難アルな。後は農家から乳や卵を供給してもらえるように頼んどいたアルから、巧くいけばレシピも広がるアルな」
「とりあえず流れ板の頃からのレシピも見易くまとめておきたいアル」
「分かった、私が書き留めておこう」
 桐が早速筆を取ると、横からフィヲが覗き込んだ。
「華国風の味付けはこっちでも受け入れられやすそうだね♪ 華国融和政策って感じかな? ボクの料理は洋風ソースのアレンジで、気づいたら一緒に卓の上に乗ってるって感じのメニューにしたいなぁ」
「定番料理があるんなら、日替わり定食っちゅうもんがあっても面白そうやな。っちゅうことで、今日の仕事はもう仕舞いや。皆もお疲れさん、試作品やけどしっかり食べて精つけてってや!」
「いやー、今日は俺様よく働いたぜ。お千ちゃんと桐ちゃんと陽姫ちゃんのとびきり笑顔と愛情たっぷりのお茶を頼むぜー」
 横では天山が遠慮の欠片もなく料理を次々と平らげている。
「ついでにお酌とかしてくれると嬉しいんだがな〜。おっと、変に気を利かせたみたいで悪いねえ。カワイイコに注いでもらう酒は格別に旨いなあ。もう一杯もらえるかい?」
 賑わいは人を呼ぶ。楽しげな声に釣られてアトゥイや他の村人達も集まってきた。
「何だかいい匂いしてるね〜」
 今日は随分働いたのだろうか、手拭で汗を拭いながら真砂も暖簾を潜る。興行を終えたキヨシ城からも人が流れてきた。大役を追えた清も城へ戻る途中で竹之屋へ顔を見せた。
「あんはんが噂の地頭殿か。ワイの店のためにようしてもろて、おおきにや」
 清へはアトゥイが笑顔で肩揉みをして労う。
「あら?随分と痣や傷が多いのですね? あ、凶暴な魔物と死闘を繰り広げたのですね?勇ましいですわ♪」
「とととと当然だっぜ!」
 クリムゾン・コスタクルスも土地の川魚を使った料理に舌鼓を打ち、店内は早くも大きな賑わいとなる。そんな中、朱だけは少し寂しそうに店の隅にぽつんと座っていた。
「おや?どしたィ大将! 自分の城持ったってのに覇気がねェな。いい娘から袖にでもされたか?」
 ニヤニヤ笑いを浮かべて天山。そこへ陽姫が料理を差し出した。
「朱サンは八雲さんがいなくてちょっと寂しげアルな」
「な、なんや急に月はん。‥‥‥そ、そりゃ‥‥残念やけど‥」
 珍しく顔を赤らめて朱が俯いた。月が優しく微笑みを向ける。
「八雲さんのようにはいかないアルが、竹之屋の制服を着てみたアルよ。元気出すアル」
「その通りですよ。これ、少し早いですけど竹之屋さんへ開店祝いです」
 シャーリーが差し出したのは竹をあしらった「招き竹猫」だ。
「おおきにや。せやな! 開店準備が済んだら、土地の有識者にも挨拶周りをせないかんしな」
 竹之屋の看板を背負ったからには半端は許されない。いずれはその名を上州中に。
 桐が、貰った招き竹猫を店先に飾りつけた。
「ここが私達の新しい城、と言うわけだな。‥‥風情があってなかなか良いではないか」
 勢いのまま飛び出した新天地は、なかなかに人も温かく住み易そうな土地だ。
 覚束ない足取りながらも、竹之屋金山店はキヨシ村と共にその第一歩を踏み出したのだ。