【金山迷動】 上野に暮らせば 〜葉月

■シリーズシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月20日〜08月30日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

 上野国(こうづけのくに)の南端に位置する、金山。東国屈指の山城である金山城をいただく城下町は、南の登城口である大田口に栄えた大田宿だ。上州の乱の叛主・新田義貞を退けて新しくこの地を治めることとなった地頭の松本清は、次々と新しい政策を取り入れて金山の発展に乗り出した。そんな中、城の西に位置する金井口にかつて栄えた金井宿を復興する計画が持ち上がる。

 戦で荒れた田畑を耕し、家屋を再建する。新しい金山の代官、松本清は本気だ。腹心の由良具滋と共に次々と新しい金山の街作りに取り組み始めた清は、自らの名を取ってその村を「豪腕☆キヨシ村」と名づけた――。

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G:豪腕☆キヨシ村へようこそ!

 〜主な施設〜

 診療所:
  貧しい人を対象に無料で診療を施しているが、現在、医師が一人もいないため託児所として活動中。
  資金難と人材難に悩まされるが、薬草採集を行い、ゆくゆくは栽培による薬草の生産を目標としている。
  
 お宿『歓楽街』:
  一軒でも歓楽街を合言葉に、煌びやかな灯りで金井宿の夜を彩る宿。
  キヨシ城の受付と物販ブース、義侠塾広報課もある。

 景大人邸宅:
  華僑のボスである景讃繁(ジン・ザンファン)という老人の住む屋敷。
  新たに金山へ移って商売を始めたいという後進の華国人へ、彼は大きな援助を与えることを約束している。
  また、屋敷の離れは華僑自警団の詰め所になっており、多くの華人が集う。

 寄り合い所(未完成):
  西の村外れ、登城口に程近い空き地に資材が積まれたまま放置中。
  完成を見れば、ここで街作り方針や、各種催しの話し合いを持つことが出来るようになるだろう。


 街作りが始まって以来、キヨシ村には様々な施設が出来上がってきたが。
 いま一番必要なのは寄り合い所だ。
 城が資金を出し、村人たちの手で作られることとなっていたが、人が集まらず計画は一向に進んでいない。村人たちからは村おこしのアイディアが幾つか寄せられているが、それも村の寄り合いが開かれないのではいつまでも実現しない。村では幾つか催しの企画もあったのだが、おかげで今年は残念ながら夏祭りも見送りとなってしまった。
 このままではダメだ。
 村には大工はもちろん、様々な職業の人々が集っている。住人たちで力を合わせて、村の寄り合い所を完成させるのだ!


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H:竹之屋豪腕腕盛記♪ 〜文月の献立〜

 江戸の下町に軒を構える小さな居酒屋、竹之屋が、遂に金山は豪腕☆キヨシ村に新店舗を出す。庶民の味をモットーに昼はお食事処、夜は居酒屋として江戸の人々に親しまれた竹之屋。その味がこの上州の地でも受け入れられるか、竹之屋の挑戦が始まる。
 さて、そんな竹之屋で今日起こります事件とは‥‥。


 本店からの暖簾分けで上州進出が決まった竹之屋は急ピッチで開店準備が進んでいる。
 食器や家具の調達や、家屋の改築と厨房の準備に、仕入先の手配に献立の試作。仲間達で手分けして作業にあたり、金山店も少しずつ形が見えてきた。
 ‥‥のだが。
「あかん、‥‥資金が尽きてもうた‥」
 元手の100両足らずは、仲間から多額の援助も加えられたもののすぐに溶けてしまった。改装や厨房の増築は目途まで立ったものの資金がなくてストップ。まだまだ多額の予算が必要だ。その上、仕入れや現地スタッフの雇い入れなど店の運転資金も残しておかねばならない。
「って、結局いくら予算が足りてねーんだ?」
「金勘定に長けた者がいないのでなんとも言えないが、ざっと見積もっても5、6百両は下るまい」
「‥‥店が軌道に乗るまでは経営も楽できそうにないアルからな。元手は幾ら用意しても多過ぎるということはないアルな」
 差し当たってやるべきは。
 数百両の金策、有権者への挨拶周り、引き続きの開店準備。
 そしてもう一つ。江戸からのスタッフが金山へ滞在する時の宿も何とか用意しなければ。
「まーやることは多いけど、皆で一緒にって思うとなんかワクワクしてくるねっ♪」

●今回の参加者

 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0240 月 陽姫(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb1484 鷹見沢 桐(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1540 天山 万齢(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5055 アトゥイ(23歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

陸 潤信(ea1170)/ 琳 思兼(ea8634)/ 結城 夕貴(ea9916

●リプレイ本文

 これまでキヨシ村では村人達の手で村を作り上げて来た。当初は寄合所建設に日当を出すという話も出ていたが、冒険者らに発奮される形で寄り合い所には多くの村人有志が集って来ている。ケイン・クロード(eb0062)も託児所の子どもたちを連れて手伝いにやってきていた。
「よし、今日はここの掃除をしよう。皆でゴミ一つない綺麗な広場にしようね」
「そうよ、私たち村人の為の施設ですもの。皆さんで協力して頑張りましょう!」
 サラン・ヘリオドール(eb2357)もそんな村人達へ混じってお手伝いに駆けつけている。
「その代わり、賄いはちゃんと用意させて頂いたわ。江戸でも評判の美味しいお店よ」
「賄いは任せて欲しいアル。竹之屋は開店休業中アルからな。ご近所付き合いということでこっちの方もお手伝いするアル」
 月陽姫(eb0240)は好意で大量の食材を賄いにと持ち寄って来ている。
「寄合所が出来れば村が動き始めるアル。そうすれば竹之屋も本格的に開店できると思うアル。持ちつ持たれつアルよ」
 後は村人で力を合わせて完成まで漕ぎ着けるだけ。集まった顔ぶれを見ながらアトゥイ(eb5055)がポンと手を打つ。
「せっかくですから華僑の方々に協力を頂きたいですわね。これから景大人さんへお願いしに行って参りますわ」


 村外れに建つ景讃繁の邸宅。この華僑のボスの下を今日も多くの人が訪ねている。
『押忍!! 拙者は義侠塾壱号生、寺亜・明日猛嶺守でござる!』
 太田の自警団からやって来たという寺亜は、例の家出人探しの件で華僑にも協力を願い出た。通された一階の一室では景の代理だという賈(ジャー)という男が、客人を出迎えている。
『太田でも捜索が続いてござるが、いまだミキという少女は見つかっておらぬでござる。街を騒がせるやもしれぬがご容赦頂きたい』
(「王鍛錬殿直伝の華国語‥、学んでて良かった‥‥ごっつあんです!」)
 寺亜が華国語で話し終えると、賈は微笑を浮かべて小さく頷いた。
「分かりました。ちょうどここにいる林が我々の自警団の書記をやっています」
 賈が視線を向けると、脇に立っていた林潤花が恭しく礼を取る。
「仰せのままに」
「ごっつぁんです!」
 華僑自警団の協力を取り付けると寺亜は屋敷を去っていった。次に部屋へ通されたのはアトゥイだ。
 穏やかな物腰で事情を説明すると、賈は、ふむと小さく考え込んだ。
「分かりました。故郷は違えど、我々は同じ村の民。今後とも何かありましたら最大限の助力を約束しましょう」
「助かりますわ。キヨシ村の方々と一緒に労働すれば、少しは打ち解けて仲良くなれるかもしれませんね? 私たちの村ですもの、手を取り合って一緒に作っていきたいですわね」
「私からも一つお願いがあります」
 同行していたケインが口を開いた。
「ご存知かもしれませんが、村の診療所では医師が不在となっています」
 華僑の伝を辿って医師を探せないか。その申し出に賈は快く応じて見せた。
「それは由々しき事態ですな。分かりました。我々の方でも手配しましょう」
「ありがとうございます」
 こうして訪問者達はそれぞれの結果を手に屋敷から帰っていった。
 そんな中、件の景大人は二階の一室で客人を迎えていた。
「朱君といったね。金井宿の飯店の主人だそうだね」
 知人から助言を受けて朱雲慧(ea7692)は出資を願い出にこの老人を訪ねて来ていた。
「せや。こっちに来てまだ一月やけど、活気のある街やな。ぎょうさん人が集まって、誰もが仕事に精を出しとる。となりゃあ、美味い飯が売れん筈はないっちゅう訳やな」
 それに景は小さく笑みを浮かべただけだった。物腰は落ち着いていて、朱のどんな言動にも心を動かしはしないのではないかのようにも見える。その余裕に呑まれてしまわぬよう、朱は小さく息を呑んだ。
(「華僑との交渉は互いに胆の座り方次第。ワイについて来てくれた店のモンのためにも、ここでビビっとる訳にはいかへんのや」)
「竹之屋の後援者になって欲しいんや」
「よいだろう」
 意外な即答へ、拍子抜けしたように朱が肩を竦める。
「てっきり見返りを求められるかと思うとったで」
「我々は後進へ助力を惜しまぬよ。もっとも、全ては君たちの腕次第だがね」
 苦笑交じりの朱へ景は眉一つ動かさずにそう返した。
「せやな。ワイら料理人が舌を使うんは、交渉事やない。最高の皿を用意したるで」
「来月にも時間を作って店を訪ねよう。どんな味に出会えるか楽しみにしているよ」
「来て見て、触れてもらえれば分かる筈や、ワイらが目指すもの、望むものが何なんか」
 挑戦的に笑うと、一礼して朱は部屋を後にした。
 その背が扉の向こうへ消えると、隣室へ控えていた白九龍がそっと部屋へ足を踏み入れた。
「待たせて済まなかったね白君。確か、例の家出人の件だと聞いていたが」
「どうかお構いなく大人。そうです、この娘は鬼哭の重鎮である重一老が孫の様に可愛がっている娘です。しかも的屋の先代親分の隠し子‥‥」
 何かあっては駅伝制そのものが水泡に帰す。ましてその罪を華人へ濡れ衣として着せられればどうなるか。
「どうか景大人の速やかなる御英断を‥‥」
「なるほど。となれば自警団だけに任せておくのは不足のようだね」
 景が脇へ目を遣ると、暗がりから男が姿を取った。
「――すぐにでも」
「沈、期待しているよ」
 景の言葉を聞き男はそのまま部屋を後にした。すれ違い様に白と視線が重なるが、男は無言で部屋を去っていった。
「安心したまえ、白君。少なくとも私の手の及ぶ内では娘に一切の危険はなくなった」
 景が小さく手を組み、白へ向き直る。一瞬だけ眉を顰めた白だったが、その思いを飲み込むと深々と頭を下げた。
「お心遣い痛み入ります。では、私はこれで」


 寄合所では駆けつけた幾人かの華人達と協力して建設が進んでいた。サランの案で数人ごとに組を作って、各藩で協力して作業が行われた。
「今はまだ蟠りがあるようだけれど、今日の事がいいきっかけになるといいわね」
 手を取り合って作業に精を出す村人達を眺めてサランは目を細めた。
「いつかはこうして、金山の方も華僑の方も一緒になって金山という一つの街を作っていければ素敵ね」
 その日一番の成果をあげた組へはサランの懐からボーナスが出ることとなり、村人たちの仕事にも張り合いが出る。朝から始まった仕事も昼時を迎えると一段落し、陽姫の賄いも出来上がって美味しそうな湯気を立てている。
「午後の仕事も頑張れるように腕を振るったアル。お口に合えば嬉しいアルな」


 葉月の献立〜寄り合い所応援賄い飯

  賄いお好み焼き:
   うどん粉の生地にたっぷりの野菜を入れて焼き上げました。
   繋ぎに入った大和芋は栄養満天。香ばしいタレは子どもにも好評かも?

  特製握り飯:
   高菜漬け入りの握り飯。しっかり火の通った青菜が疲れた体に活力を取り戻します。
   塩分大目のおにぎりは汗をかいた後にもぴったり。熱々のお茶と一緒にどうぞ。

「お好み焼きが毎日だと飽きそうアルから、明日からは握り飯とかわりばんこアル」
 村人達が仕事の手を止めて一列に並び始めると、周辺の掃除をしていた子どもたちも作業を切り上げてそれに続く。
「みんなお掃除はこれくらいにして、お昼ご飯にしようね」
「はーい、ちゃんと一列に並んで下さいね。割り込んじゃだめですよー」
 ケインがお手伝いの保母さんと協力して子どもたちを誘導すると、アトゥイもお茶と饅頭を持ってやって来た。
「子どもたちには名物キヨシ饅頭を用意しましたわ。勿論、村の皆さんもどうぞ。疲れた後の甘いものは格別ですものね」
 竹之屋からは鷹見沢桐(eb1484)も応援に駆けつけている。おにぎりは、お好み焼きに掛かりきりの陽姫にかわって桐が握ったものだ。竹之屋の味は村人にも好評のようだ。
「やっぱし仕事の後は握り飯がうめえなあ。塩味が効いててすきっ腹に染み入るぜ。にしても、このお好み焼きってのもなかなかだな」
「ありがとうアル。次はぜひ店にも顔を出して欲しいアルね」
「ボクも竹之屋の試作品もってきたから、良かったらこっちも食べてね♪」
 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)も、厨房で試作した新メニューを持ち寄っている。
「お団子スープだよ。大和芋を摩り下ろして、鶏肉と豆腐を混ぜてみたんだけど、どうかな?」
 鶏ガラベースの旨みたっぷりのスープにはお団子が二つ仲良く浮かんでいる。山芋は疲労回復にもぴったり。後は地元の味付けに合わせて塩加減を調整するだけだ。
 評判は上々。馴染みの客も少ない金山での成功を分けるのは、常連をどれだけ獲得できるかだ。手応えを感じて、桐は人知れず口許を緩めた。サランが危惧していた衝突もなく、和気藹々とした雰囲気。この分なら特に問題もなく予定通りに作業は運ぶだろう。
 そこへ山向こうの太田自警団から菊川響がやって来た。
「押忍! 武蔵国からミキという少女が迷子になって皆で探しているのだが、こっちで見かけなかったかな」
 村人達が顔を見合わせ、アトゥイも首を振る。サランが困り顔で微笑を返す。
「いいえ、こちらでは見ていないわ。でも見かけたらすぐお知らせするわね」
「みんな、いいかな? 迷子になっちゃった子がいるから見かけたら先生に知らせてね」
「はーい、ケインせんせー」
「お、皆元気がいいんだな。ご褒美にお兄さんがいいもの聞かせてあげような」
 響がオカリナを取り出して奏で出すと子ども達が輪を作る。響の飼い猫のぜんとはくしゅうも子ども達に人気のようだ。
 その頃竹之屋では。
「え? ミキが迷い込んだ?はっはっは。腹が減ったら飯の匂いに惹かれて姿を表すだろうよ」
 いまだ開店準備中だが、なぜか天山万齢(eb1540)が入り浸っている。そこへ香月八雲が風斬乱の描いた迷子のミキの似顔絵を抱えてやって来た。
「よ、ようやく上野に来られました! ちょっと出遅れてしまいましたけれど、これから頑張りますね!」
「おうその意気だ。俺も竹之屋が困っているんなら手を貸さなきゃいかんよな。これだけキレイドコロがいるんだ。‥‥そういや、店長を見かけねぇみたいだけど」
「朱さんは華橋の偉い人とお話をしに行ってますよ! 何事も無ければ良いのですけれど‥‥前にはやの字さんとも仲良くなれましたし、孫子も『人類皆兄弟』と仰いました!きっと大丈夫です!」
「華僑のボスともなれば一筋縄ではいかない筈。だが店長なら大丈夫だ、きっと」
 寄合所から桐も戻ってきた。
 竹之屋への援助をどうするにせよ、店のチェックは当然あるだろう。いつ誰が来ても温かくもてなせるように。机を磨き、店内の掃除に精を出している。
「目先の利益に拘らず、ずっと先を見据えた店舗作りを。つまり、いつも通りの竹之屋をアピールするだけだな」
 誰もが皆、オープンに向けて頑張っている。
 江戸では山岡忠臣(ea9861)も金策に走り回っているそうだ。
「何せ将来性のある市場だ。今の内に手をつけるに越したこたーねーぜ。俺達と一緒に、上野でビッグになろうぜ!」
 やっさんや、梅之屋や大手の酒造所などを回って上野進出で口説きまわるが、まだ楽市楽座の成果が何ともいえない段階とあってどこも慎重だ。返事は竹之屋の開店後の様子を見てという所ばかりでなかなか良い返事は貰えない。
 やはり資金面の問題は大きい。焦げ付いている改装費もそうだが、従業員の宿泊場所も問題だ。
「店の近くで休めの借家か、下宿できる所がないでしょうか‥‥宿では高くついてしまいますね! それに‥‥朱さんは店長なのですから、新居はここに構えた方が都合が良いかもです」
 少し顔を赤らめながら八雲。竹之屋の資金にも、貧乏生活でやりくりした貯金から幾らかを出している。
「七十両程だと焼け石に水かもですけど‥‥残りは朱さんとの結婚資金にと思っているので出せませんけれど」
「いや〜‥‥前回みんな結構自腹切ってたと思ったけど、アレでも全然足りなかったんだねぇ。開店資金百両でどうやって運営してくつもりだったんだろ」
 赤くなった顔を更に真っ赤にしながら八雲が言うと、厨房から顔を出したミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)が小さく肩を竦める。
「ま、ボクは料理人としてベストを尽くすだけだけどねっ♪ 西洋風のこってりしたソースと大和芋を組み合わせる方法とか考えたいし。後は季節のものを使って何か作るとかかな??」
「そうそう。そろそろ茄子が美味い季節だよな。茄子田楽なんかいいよな。夕暮れ時によ、外で炙るのもなかなか乙なもんだぜ」
 天山がよだれを拭う仕草を士ながら笑みを零した。
「香ばし〜い味噌の匂いがたまんねェぜ。これを肴に飲む酒の美味いことと言ったら!」
 まだ開店の目途は立たないが、今日も竹之屋からはいつもと変わらぬ楽しげな笑声が絶えることはなかった。


 そうして数日が過ぎ、遂に寄合所は完成を見た。
 途中で怪我人なども出たがケインが託児所の子どもたちも交えて応急手当を行い、大事に至ってはいない。いま、寄合所では早速アトゥイの呼びかけで寄り合いが開かれている。
「夏祭りが流れてしまった代わりに、稲の収穫後に秋祭りを致しませんか?」
 キヨシ村にとっては、初めての収穫。街作りの苦労が報われる時だ。話は満場一致で可決された。
「初の試みで何かと大変ですけれど、清さんならあっと言う間に解決されるのに違いありませんわ♪」
 その清はシェリル・オレアリス(eb4803)達と黒夜叉事件に掛かりきりのようでここへは姿を見せなかった。噂では、事件は地頭に駆逐した野盗の仕業だということになっているようだが、まだ犯人は挙がっていないようだ。
 ひとまずこうして寄り合いは終わった。寄合所を竹之屋店員の宿として暫く貸して欲しいとの陽姫の願い出にも、賄いに有り付いた者達を中心にして許可が下り、寄合所を通して漸くキヨシ村は一つに纏ろうとしている。
 次は秋の収穫と、そしてその後の秋祭りに向け。倭人も華人も、これから一丸となって村の発展を目指して。