【金山迷動】 上野に暮らせば 〜皐月
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■シリーズシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月26日〜06月02日
リプレイ公開日:2007年06月05日
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●オープニング
上野国(こうづけのくに)の南端に位置する、金山。東国屈指の山城である金山城をいただく城下町は、南の登城口である大田口に栄えた大田宿だ。上州の乱の叛主・新田義貞を退けて新しくこの地を治めることとなった地頭の松本清は、次々と新しい政策を取り入れて金山の発展に乗り出した。そんな中、城の西に位置する金井口にかつて栄えた金井宿を復興する計画が持ち上がる。
戦で荒れた田畑を耕し、家屋を再建する。新しい金山の代官、松本清は本気だ。腹心の由良具滋と共に次々と新しい金山の街作りに取り組み始めた清は、自らの名を取ってその村を「豪腕☆キヨシ村」と名づけた――。
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G:豪腕☆キヨシ村へようこそ!
季節は巡り、キヨシ村は始めての夏を迎えようとしている。
江戸大火や上州の乱で住み家を失った民や華僑たちが手を取り合いながら、キヨシ村は無事に年を越し、村は賑わいを増した。大半が移民というキヨシ村だが、暫定村長の下で初の秋祭りを成功させ村の結束は高まっている。
上州は戦でまた荒れているといえ、キヨシ村の噂を聞いた流民が戦火を逃れてやってくるかもしれない。人が増えればまた問題も増える。夏を前にしての懸念は病気の流行だ。昨年度より組織が進められている診療所の運営体制の確立は急務である。
貧しい人を対象とした無料診療所を目指して開設されたものの人材不足で育児所として同所だが、昨年冬から待望の医師が着任し、漸く本格的な活動が始まろうとしている。だがそれも住民たちの協力なくしては成り立たない。更なる村の発展のため、医師と村人、皆で手を取り合ってキヨシ村診療所を軌道に乗せるのだ!
〜そのほかの施設〜
寄合所:
西の村外れ、登城口に程近い所に立つ平屋。
街作り方針や、各種催しの話し合いはここでもたれる。
景大人邸宅:
華僑のボスである老人、景讃繁の住む屋敷。屋敷の離れは華僑自警団の詰め所となっている。
新たに金山へ移って商売を始めたいという後進の華国人へ、彼は大きな援助を与えることを約束している。
お宿『歓楽街』
ボロ屋を改築して作られた金井宿唯一の旅籠。
キヨシ城の受付と物販ブース、義侠塾広報課もある。
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H:竹之屋豪腕腕盛記♪ 〜皐月の献立〜
江戸の下町に軒を構える小さな居酒屋、竹之屋が、遂に金山は豪腕☆キヨシ村に新店舗を出した。庶民の味をモットーに昼はお食事処、夜は居酒屋として江戸の人々に親しまれた竹之屋。その味がこの上州の地でも受け入れられるか、竹之屋の挑戦が始まる。
さて、そんな竹之屋で今日起こります事件とは‥‥。
昨年に金山店が正式オープンしてからはや数ヶ月。金井宿キヨシ村の住人達にも親しまれ、竹之屋金山店は軌道に乗りつつある。当初は上州で竹之屋の味が受け入れられるかが心配されたが、華僑の重鎮である景大人の覚えもよく、今では華僑を初めとした金井宿の移民達にも親しまれている。金山店は、江戸の竹之屋とは一味違う華国の風を取り入れた独自の味を作り上げようとしていた。
そして、抱えていたもう一つの『問題』も、無事に解決を見せたようだ。
「実家にも筋通してきたようやし、熱意は買うたる。採用や。まずは見習いとしてきっちり仕事を覚えてもらうで」
「おーっし! そうと決まったら俺様、がんがん働いてやんぜ。それでお千ちゃんにイイトコ見せてゆくゆくは‥‥」
昨年からお手伝いとして出入りしていた江戸以来の常連客が、遂に店長の許可を得て見習い店員として採用されることが決まった。そのやり取りを心配そうに見守っていたお千ちゃんがほっと胸を撫で下ろす。
「良かったですね。これで一緒に竹之屋で働けますね」
「ああ、お千ちゃん。俺も嬉しいぜ。これからはもっと一緒にいられるんだからな」
「調子づいとる場合やないでボン。採用は『条件付き』や。見習いとしては認めたるけど、但し店内外にてナンパ行為を行わない事! これからビシビシ厳しく仕込んだるから、覚悟しときや!」
ぴしゃりとそう口にすると、店長が新入りの目を盗んでお千に目配せを送る。
それににこりと笑顔を返すと、お千は思い出したようにぽんとてのひらを打った。
「そうでした。店長、お城からの使いの人から出前の注文です」
城では何やら関係者を集めて重要な会議が行われているらしい。その出席者への膳を竹之屋へ手配したい。竹之屋は以前から金山地頭である清の覚えもよく、今回も地頭直々のご指名だそうだ。
「献立はすべてお任せだそうです。どうしましょう‥‥お城の偉い人のお口に合うものって、何を作ればいいんでしょう」
不安そうに眉根を寄せたお千。店長が力強く笑う。
「任しとき。直々の御指名や。竹之屋の味、しっかり味あわせたる!」
●リプレイ本文
今月もまた、金山が賑わいを増す市の日がやって来た。戦時故に物流も人の出入りもめっきり見劣りしたが、今月も金井宿駅には江戸からの売り品が商人達によって次々と運ばれてくる。その行商の賑わいに混じって七神斗織(ea3225)もキヨシ村へとやって来ていた。
「そんなに私が心配ですか? ここへ来るのも3度目ですし、道はそろそろ覚え始めていますのに」
「えぇ心配なんです」
お供の火射半十郎に案内されて向かうのは村の診療所。過保護ぶりへ斗織が苦笑交じりに小首を傾げる。ふと、通りを見ると村娘の真砂がちょうど馬を引いてやって来る所だ。
「あら、真砂さん。お久しぶりですわ。そのお馬さんはどうされたのですか?」
「えへへ、買っちゃった♪」
道すがら世間話をしながら、三人はやがて診療所のすぐ傍までやって来た。
すると、火射が斗織の袖を引く。
「斗織殿」
目線の先には、畦にうつ伏せに倒れる旅姿の女。
行き倒れのようだ。
「いけませんわ、急いで診療所に運び込みませんと」
「任せて、ボクの馬に乗せて連れてこう」
運び込まれた旅人は介抱を受けると時期に目を覚ました。
温かい食事を与えると、食べ終えた女は深々と頭を下げた。
「武州浪人、水上銀(eb7679)。一宿一飯の恩義を蒙ったからには、ただじゃ済まさないよ」
聞けば那須に向かう旅の途中。戦を避けて街道を回り道している内に往生してしまい、行き倒れてしまったのだという。事情を聞いて斗織がくすりと笑みを零す。
「前にもミキちゃんという娘さんが迷子になった時は診療所でお世話をしたそうです。でも、こんなに大きな迷子さんは初めてですわ」
「そいつは手厳しいね」
庭先ではミキが天堂朔耶(eb5534)に遊んで貰って、機嫌のよさそうな声を上げている。
「ミキちゃん、一緒に鞠つきしよー♪」
「ぅぁぁーぁぅー」
「ワン!」
母国へ里帰り中の所長に留守を任された朔耶は、子供達を自分が守るのだと、愛犬の総司朗と一緒に張り切っている。どうやらここは託児所も兼ねているようだ。銀は診療所の様子を見て取ると、一息をつく。
「なるほどね。さて‥‥渡世人のあたしに何ができるかね」
さて、診療所が目下の所抱えている問題は、中断したままの薬草園の件。
責任者の所所楽林檎は一足先に造成地を訪れている。
「機微に疎い現実‥‥まだあたしは未熟であると‥」
以前は村人の協力を得られず、中断を余儀なくされた。理で割るのでなく情を汲み取る。それが自分に欠けたものだと知れたのは一つの教訓だった。今回の計画再開にかける想いは並々ならぬものがある。
後には退けぬ思いからか、今回は予算をやりくりして人足を雇用し、短期に済ませる算段だ。城も計画のことを心配しているようで、政治顧問の配慮で衛兵が派遣されている。集まった人では数十人の規模。中には加賀美祐基のような冒険者の姿も混じっている。
「素人で悪いが、額に汗してしっかり働くからさ。井戸掘りも水路作りも、力仕事は任せてくれよな」
野良着に着替えて、朝から元気そのもの。林檎の不安も吹き飛ばすような、明るい笑顔を見せている。一方で、祐基に無理やり駆り出された天堂蒼紫は気乗りせぬ顔。
「お前の巻き添えで俺まで肉体労働か‥‥勘弁してもらいたいものだな」
「‥‥て、文句言ってないでお前も働け!」
「まったく‥‥相変わらずお人好しな奴だな、お前は」
蒼紫の責めるような視線に、祐基はふと手を止めて視線を遠くした。
「診療所の所長さんには借りがあるからな。こいつで少しでも恩返しになれば、な。で、俺たちは何から始めればいいんだい?」
「まずは井戸掘りを完遂させます。足場の組み立てを見直し、掘削、水呼びまでを完了させる見込みです」
水路図などの下準備は万全。道具も運び入れた。幸い、買い付けた苗などの栽培は、村の者が暇を見てやってくれている。後はここが完成すれば診療所は動き出すのだ。
祐基が腕まくりして、ツルハシを手に取った。
「キヨシ村の薬草園の早期完成だ! よし、それじゃー張り切って、掘って掘って掘りまくるぞ!」
上州金山を取り巻く情勢は混迷としているが、そこに住まう民の生活はいつも通りだ。ここ竹之屋では、若女将の香月八雲が城の御前会議の件で張り切っているようだ。
「何だか難しい事になってますね!でも大丈夫!皆で頑張ればきっと道は開けるですよ! 孫子曰く『四月の雨は五月の花を咲かせる』です!」
「大事な会議らしいアル。粗相のないようにしないとアルネ」
最近とみに順調な仕事振りの月陽姫(eb0240)は普段通りのていだが、茶の取り仕切りを一手に任された鷹見沢桐(eb1484)は初めての大役に緊張した面持ちだ。これまでに桐の仕入れで管理してきた茶葉の数々を眺めながら考えを練っている。
(「今は金山がひとつにならなければならない時。一介の街酒場の給士に過ぎぬ市井の自分にも、何か‥‥」)
その胸には何か期するものがあるようだ。その真剣な様子を他所に、見習いの山岡忠臣(ea9861)は随分浮かれた様子だ。
「遂に定職持ちかよ。しかーし、これもお千ちゃんとの幸せの為! お千ちゃん、俺様頑張るぜ」
と、ちゃっかり手を取ろうとした所へ、店長の朱雲慧(ea7692)が割って入る。
忠臣を横目に少しだけ意地悪な笑み。
「ま、ボンは留守番やな。まだ早いで」
「言い返せない所が悔しいぜ‥‥つか見てろよ用心棒。今に俺様も自分の店を構えてやんぜ。‥‥そうだ、お千ちゃんと一緒になって、でっけー店を構えてビッグになる!」
「山岡は変わんないねぇ‥‥」
江戸から様子を見に来たリーゼ・ヴォルケイトスが久々に制服に袖を通す。変わらぬ竹之屋の様子に笑みが零れる。店も軌道に乗り、八雲と朱も巧くいっているようだ。
「‥‥ま、ボンに一人で任せるのも不安やさかい、お千ちゃん、悪いけど今回は居残りで頼むで」
「私もお城にいってくるので、留守の間はお千ちゃんに付きっきりでお仕事を覚えて下さいね!」
(「お千ちゃんと山岡さんを二人きりにさせてあげたいというのもありますけれど、朱さんの晴れ姿を見たいと思うのです‥‥」)
自分の考えに八雲が思わず赤面し、お盆で顔を隠した。つられてお千も頬を朱に染める。思い出したようにお千が口を開いた。
「そうだ、店長。診療所から大口のご予約が入ってました」
大勢の人足の賄いにと竹之屋が頼まれたのだ。野良仕事に疲れた男衆への賄いとあって、献立も考えねばならない。
「この時期筍は欠かせないアル」
「大火の時みたいに大勢寄れるように店先に飯台でも出すのはどないやろ。さぁて、忙しなるでーー!」
再び診療所。
「所長さんの代わりにやって来た朔耶だよー♪ 保母さんの代わりを頑張るからね、みなさんよろしくお願いしますね!いっぱい勉強して、いっぱい遊びましょー♪」
集まってきた子供達を前に朔耶が挨拶をすると、子供たちはまだ緊張もあるのか落ち着かない様子でそわそわしている。
子供達の視線の先には、なぜか総司朗。
「‥‥お姉ちゃん」
「総司朗くん触ってもいい‥‥?」
恐る恐る子供たち。
「勿論だよ。ね、総司朗?」
「やった!」
「僕が一番に触るんだ!」
「ずるい、あたしも!」
「わん!」
秋祭りのペットコンテストで優勝した総司朗は村の人気者だ。あっという間に子供たちにもみくちゃにされてしまう。
「順番だよー。総司朗も今日はみんなといっぱい遊ぶんだっていってるからね。そうだ、みんなで鬼ごっこやろう!」
そろそろ昼時を向かえ、診療所も賑わってきた。
「押忍!義侠塾惨号生、伊珪小弥太! 禍涯呪業の一環として、そして弱きを助ける義侠として助力申し出るぜ!」
「あらあら、元気のいいことですね」
応対に出た斗織がにこやかな笑顔を見せる。現在の責任者は林檎だと聞くと、伊珪は奥の間で彼女へと早速詰め寄った。
「そうですね。では、水呼びに使う工具を薬草園まで運び込むのをお願いできますか?」
「ンなのは朝飯前だぜ。まっかせとけって!」
薬草園もそうだが、診療所が抱えている仕事は山ほどある。
林檎も暇を見つけてはこちらへ戻って報告書作成に励んでいる。
斗織も負けてはいられないと仕事に取り掛かる。
「では、座学の続きと参りましょう。天堂さん、子供達も一緒に読み書きの勉強を始めますよ」
「はーい♪」
そんな子供達の様子を眺めながら、縁側では銀が、寄合所を棋会所代わりにできないかと、将棋板と駒を作っている。
と、そこへ。
用事を終えた伊珪があっと言う間に戻ってきた。
「ただいま戻ったぜ! 次は何やりゃあいい? ‥‥おっと、ただ仕事を待ってるだけじゃあいけねえぜ。今日はキヨシ城の日だったな。怪我人続出はあったりまえのコンコンチキだろ。すぐ行ってくる!」
返事も待たずに嵐のようにとんぼ返り。随分と慌しいことだ。
だがこの日は特に忙しいこともなく、のんびり時間が過ぎていった。仕事らしいことといったら、紅谷浅葱がハーブを土産に薬草の手入れのために訪ねてきたり、キヨシ城の怪我人が運び込まれたりくらい。庭先では読み書きを終えた子供達が、今度は斗織の次郎丸も一緒になってかくれんぼを楽しんでいる。朔耶が分身や声真似を疲労すると、子供たちからきゃっきゃと楽しげな声があがる。
そこへ林檎がお昼を告げに顔を見せた。
「今日のお昼は竹之屋さんで頂くことになりましたので、これから出かけましょう」
「わーい」
込み合わないように薬草園の人夫とは時間をずらし一足先の昼食だ。
「そうだ! みんなで簡単なおやつを作って薬草園へ差し入れに行こう♪」
人足に出ている兄の蒼紫を思い、朔耶が無邪気な笑顔を覗かせる。
(「お兄ちゃん喜んでくれるかなー?」)
飼い主の考えてることが分かったのか、総司朗が朔耶を見上げて舌を出す。
「わふ♪」
「その前に手を洗って下さいね。これからの季節は特に気をつけませんと」
さて、薬草園は昼飯前にあともう一仕事だ。
祐基の頑張りもあり、進み具合は順調だ。一方の蒼紫は気のない顔で作業にも身が入らない様子。
「何だよ頼りないなあ。頼むぜ相棒」
「だから加賀美、俺は元々乗り気じゃなかっ――」
その時だ。
「お兄ちゃーん、応援に来たよー!」
子供達を連れて朔耶が差し入れにやって来た。可愛い妹が視界に入った途端、蒼紫が顔を綻ばせる。
「心配して来てくれたのか‥‥流石は俺の妹だな、優しくて気遣いの出来る良い子だ」
「えへへへ」
「わふん♪」
「心配するな、お兄ちゃんが手伝っているんだ。この程度の仕事、すぐに片付けてみせるさ」
言うが早いか、印を結ぶと忍法疾走の術。さっきまでが嘘のように働き出した。
「やっとやる気出してくれたか。朔耶ちゃん、よく来てくれたな」
朔耶に薬草園のことを教えたのは他でもない祐基。蒼紫のやる気を引き出すための作戦は見事に的中したようだ。
馬の力も借りて、こうして午前中の作業は一気に捗った。
そうして、お待ちかねの昼御飯だ。
「いらっしゃいませ!」
竹之屋の店先からは食欲をそそる匂いが漂っている。
「今日の献立は筍御飯の御握りアル。たんと召し上がってほしいアル」
素材の味を生かして醤油でさっと香り付けしただけの採れたての筍は風味も抜群。茹で加減もバッチリだ。早速、忠臣が見よう見真似で何とか配膳をこなしてみせる。
「一応ずっとお千ちゃんや八雲ちゃんの事を見つめてたから、仕事はあらかた判ってるつもりだけどな」
林檎も手伝おうとするが、そこは忠臣がすかさずが止めに入った。
「可愛い林檎ちゃんにそんなことはさせられねえぜ」
「山岡さんー‥‥‥!」
「も、勿論お千ちゃんが一番可愛いぜ?」
ちゃっかり林檎の手を取ろうとした忠臣にお千が小さく横睨み。客からも思わず笑い声があがる。祐基も人足達に混じりながら御握りに手を付けた。
「いやー、一仕事終えた後の飯は美味いな! これで午後もバリバリ働けるってもんだ」
御握りを頬張ると満面の笑みを見せる。蒼紫も口をつけると、感心したように頷いた。
「これは驚いた。こんなトコでこんな美味いものが食べれるとはな。味付けはどうやってるんだろうな」
「ふふふ。企業秘密アルよ」
夕飯には、林檎の要望で持ち帰れるように竹皮で包んだものを。造園作業は連日続けられ、祐基は翌日からもつきっきりで仕事に精を出した。蒼紫も時々寝坊しつつも、熱心な働きを見せている。
二人の活躍もあり、井戸掘りも後一押し。
最後には太田自警団からは風羽真が非番団員を連れて応援に駆けつけた。
「よーし、一気に片付けちまうか。秘奥義・挑転自主彬(ちょうでじんじすぴん)!」
こうして、工期通りに完成の目処は何とか立った。
診療所でも、不在時の責任者を決めたりと諸事万端。銀はというと。
「剣を振ると無心になれるからね‥‥不調法者のあたしに何が出来るか散々悩んだんだけど、正直さっぱりさ。でも、あたしでも子供たちに剣を教えるくらいはできると思ってね」
将棋板を造り終え、今度は何やら木刀作りに精を出している。
「皐月晴れの下、木剣を振る子供たちの姿を想像すると、何か楽しくなってこないかい?」
それなら、ちょうどサウティ・マウンドの太田道場が城の認可も受けて昨年から活動している。道具も揃っているので声をかけてみるのもいいかもしれない。レジー・エスペランサ(eb3556)やカーラ・オレアリス(eb4802)のように城の為に動いている冒険者らも多く出入りしているし、山向こうではあるが通えない距離ではないし、協力を仰いでみるのもいいかもしれない。
そしてこちら竹之屋では、これから城の御前会議への出張だ。
身嗜みのチェックもばっちり。最低限失礼のないように気は使った。最後に、八雲が火打石を打ち鳴らして切り火する。
「一緒に行くのだから不要かもですけど、縁起担ぎです!」
会議にはサラン・ヘリオドール(eb2357)ら見知った顔も出席することだし、然程の緊張はない。
「そうだ、朱さん」
と、呼び止めると、物陰でぎゅっと朱へ抱きついた。
「今回も大成功するおまじないなのです」
照れ笑いを浮かべた八雲に、朱も俄然気合が入る。
「八雲はん、城からも認められれば竹之屋も安泰や。頑張ろうな‥‥その、二人のためにもな」
「‥‥はい!」