【傀儡の旋律】いざ向かう、幕引きの先へ。

■シリーズシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月31日〜01月05日

リプレイ公開日:2010年01月07日

●オープニング

 きっと、とマリンは呟いた。

「きっと妹さんがカオスの魔物に狙われたのは‥‥グウェインが私のお友達だから、です」

 カオスの魔物から逃れ、戻ったウィルの冒険者ギルドで、マリンはぎゅっと皓月を握り締めて言葉を紡ぐ。
 退屈凌ぎをするには程よい距離に居たのが、たまたまティファレナ・レギンスだった。きっとそう言う事だろう。グウェインでは近すぎて、マリンを手に入れる過程が楽しめない。イザヤ・ハルスタットの姉レイナでは遠すぎて、マリンに辿りつくには困難が付きまとう。
 だが、ティファレナはマリンと直接面識はないにせよ、友人グウェインの妹で、冒険者ギルドの受付嬢で、イザヤを失った悲しみと、恐らくはほんの僅かに過ぎない冒険者への不信や疑念や憎しみを胸の中に持っていた。それはきっと、時間さえかければ静かに消えて行ったに違いない程度の負の感情。
 『双角の傀儡師』はその、近すぎず遠すぎない距離と僅かな憎しみに目をつけたのだろう。種火の如きそれに力を与え、今や消えぬ炎と燃え上がらせて、冒険者と対立させる。ティファレナがその様な状態になればグウェインは必ず動き、上手くすればグウェインを友人と呼ぶマリンを引きずり出せる。
 多分、それは賭けという程もない遊戯だったのだろう。確実にマリンを得るには、余りにも回りくどすぎる。それでも、退屈を弄ぶ魔物にはそれなりの暇潰しとなったのに違いなく――そしてマリンは姿を現した。

「妹さんからカオスの魔物を引き剥がせるのか、私には判りません。でもカオスの魔物はお仕置きして、倒さないといけないから‥‥人間の世界を守る為に」

 それが、アルテイラであるマリンの『一番正しいやりたい事』。カオスの魔物を倒して、人間の世界に平安と安寧を。それを守る事がマリンの望みで――世界中を旅して回る理由の一つでも、ある。
 だが、強い瞳でそう言ったマリンは、すぐに子供のように頼りない眼差しになって、手の中の相棒を見下ろした。月のセブンフォースエレメンタラースタッフと呼ばれる、地獄の皇帝の封印の一つ。『いつでもどこでも』月道を繋ぐ事が出来る、強力なムーンロードの魔法を秘めた白亜の魔杖。
 ねぇ皓月、と呟いた。

「私達にも何か、出来る事があれば良いのに、ね」

 人間の世界を守るために動く事はできても、人間の生活は複雑すぎてマリンには判らない。そんな人間達を見つめるのが、彼女はとっても好きなのだけれど。
 こういう時は、ただ見ているだけしか出来ないのが、辛い。大好きなお友達のために、お友達が大切にしている妹のために、何かが出来れば良いのに。
 でも悲しいかな、彼女に出来ることはと言えば、月魔法を全種類超越級に使えちゃう以外は、皓月で月道を繋ぐ位なのだった。





 兄さん、と声がした。ん、と頷いた。

「どうした、ティー。怒ってんのか?」
「‥‥‥あの人達を殺すのに、躊躇いが在るんですか」
「ないよ」

 だから安心しろ、と嘘を吐く。でもそれは真実でもある。
 彼らは確かにグウェインの仲間だったし、グウェインもそうだと思っていた。今でも冒険者を同胞だと思っているし、マリンは『困ったお嬢さん』だ。そんな彼らを殺すのに、まったく躊躇いがないと言うのは嘘だ。
 それでも、ティファレナが彼らの死を望むなら、グウェインは剣を抜く。その事に躊躇いはない。すべてが終わって彼女がグウェインの死をも望むならそれすらも受け入れよう。ただその時、グウェインが居なくなったあと誰が彼女を守るのか、という不安は残るけれど。
 冒険者ギルド以外にも、グウェインが情報を得る伝手は幾らでもある。彼ら兄妹が指名手配を受けている事も知っているし、それが何を意味するのかも軍属だったグウェインは良く知っている。
 だから、自分が居なくなったあと誰がティファレナを守るのか、それだけが不安だ。この世界にもはや、グウェイン以外にティファレナを守れる者など存在しないのに。

「今度こそ、あの人達を殺して下さいね、兄さん。そして――お前の友人のアルテイラと杖を手に入れて我の元に持っておいで』
「ん、お兄ちゃんに任せとけ、ティー」

 後半に被った声には気付かなかった振りをして、グウェインは妹にしっかりと頷いた。ふと幼馴染の顔が頭を過ぎる。この森で殺した彼ではなく、グウェインを信じていないと言った姉の方。
 信じなくて正解だぜ、とあの時言わなかった答えを胸の中だけで返す。妹を守ると決めて以来、グウェインは妹以外の人間にきっと、本当の意味で興味を持った事がない。





 マリンは皓月から視線を上げて、静かな面持ちで冒険者を振り返った。

「‥‥どうしましょう、か」

 カオスの魔物は倒す。それはマリンの中で決まっている。
 それでも、マリンは敢えてその言葉を冒険者に投げかけた。どうしましょうか、と選択を委ねるように。
 その問いに、冒険者達はどんな答えを返すのだろうか‥‥?

●今回の参加者

 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb5814 アルジャン・クロウリィ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec6278 モディリヤーノ・アルシャス(41歳・♂・ウィザード・人間・アトランティス)

●サポート参加者

晃 塁郁(ec4371

●リプレイ本文

 何としてもレギンス兄妹を助けたい。ジュディ・フローライト(ea9494)はそう願い、思いを共にする仲間達と共にギルドを改めて訪れた。

「どうぞ、レギンス様たちに寛大な御処断を‥‥」

 用件を聞き、難しい顔をした担当に、つ、と頭を下げる。レギンス兄妹の故郷でもあるリハン領では、カオスの魔物に関わった者にはどんな理由があれ死罪を命じられる。だがウィルならば或いは。
 とは言え、ウィル中央でも旗色は良くない。むしろ場合によっては、申し出た者がカオスの魔物に関わっている嫌疑を掛けられる場合もある。
 もしその場合は自分が、とジュディはこの一団の代表は自分だと強調する。そして、この件で兄妹が魔物の討伐に大きく貢献する事や、必ずしも魔物に協力した訳ではない事を切々と訴える。
 それを踏まえ、何とか減刑を、と訴えるジュディと共に、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)やリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)も頭を下げる。共に訪れたオルステッド・ブライオン(ea2449)もまた重い口調で、セレ分国の方で似たような件があった、と告げた。死罪の判決を受けながら、罪を償い暮らす男の事を。
 あくまで分国の法にのっとった処断とは言え、一国が下した決断を参考にする訳にはいかないだろうか。そう訴えるもやはり、相手の顔は難しいままだ。
 オルステッドが自ら言っているように、分国の判例はあくまで分国のもの。まして問題の人物は、先にセレで起きた大きな戦の功績を鑑み、その戦で死んだものとみなされての事だ。
 対してティファレナ・レギンスは今だカオスの魔物に身も心も操られ、彼女の故郷ドムル村では数人の死者も出す惨事になっている。リハンと冒険者ギルドから指名手配が掛けられており、グウェインは加えてウィル中央軍からも先日、カオスの協力者として指名手配が出た。

「そもそも、ティファレナ・レギンスがカオスの魔物に操られなければ、この被害はなかったのだ」
「そこを何とか‥‥ッ」

 故に情状酌量の余地はどこにもない、と首を振る男に、ジュディが重ねて頭を下げる。仕方あるまい、とオルステッドはそんな彼女の肩を叩いた。
 情だけで法を歪めるのは本来、あってはならない事だ。規律を乱せば国は乱れる。まして、カオスの魔物に操られただけだという理由が通用するなら、ごく普通の犯罪ですらカオスの仕業と言い訳する者が現れ、ますます国は乱れる事だろう。
 まして、2人は冒険者ギルドの職員とウィル中央軍所属武人。そんな相手に情状酌量を与えては、身内に甘く外に厳しいと言うあらぬ噂が立つやも知れず。

「‥‥ならば2人は諸共に切るしかない、か‥‥せめてもの手向けだ、その場で葬って構わんな‥‥?」

 確認し、了承を得てオルステッドは、唇を噛み締めるジュディの肩を叩いた。それでも名残惜しそうな視線を向けながら、ジュディもそれに頷く。
 せめてと冒険者街でレギンス兄妹の助命嘆願の署名活動の結果を手渡し、モディリヤーノ・アルシャス(ec6278)も仲間の後に続いて外に出た。冒険者ギルド周辺でも署名活動を行おうと思ったのだが、それはギルドから禁止された。
 代わりに、と彼が振り返ったのは白亜の魔杖を抱えるアルテイラ。

「マリン殿。こっそり、遠方へ彼らを運んでもらう事は出来ないかな?」
「遠方へ‥‥?」
「それはまぁ、最終手段じゃが‥‥マリン殿、変な背中の押し方をしてはいかん」

 きょとん、と目を見張ったマリン・マリンに、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が苦言を呈した。そもそも彼女がグウェインに、自分が正しいと思うやりたい事をしに行け、なんて言わなければもうちょっとマシな事態だろうに。
 その言葉にマリンは小さく微笑む。微笑み「それがクドゥスさんの『一番正しい事』なんですね」と嬉しそうに言う。
 交渉の行方はともかく、『双角の傀儡師』なる魔物が討伐せねばならない対象である事は変わらない。別に所用があるとかで、晃塁郁に何やら言伝を預けたゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が、仲間と合流して交渉結果を聞き、そう頷いた。

「ならば作戦を夜として、月魔法ムーンシャドウによる影移動を利用したいと思いますが」

 月精霊の光で生み出された影から影へと移動するかの魔法ならば、相手に悟られる事なく接近する事も可能だろう。誰か魔物を引き剥がせる者と一緒にそれでティファレナに近付けば、かなりリスクを抑えられるのではないか。
 その提案に、ならばわたくしが共に、とジュディが手を上げる。他の冒険者にも異論はない。
 リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)は以前からと同様に、敵の最終目的であるマリンを守ると告げた。宜しくお願いしますね、とマリンが微笑む。それにも頷いて、ならそれで、と言ったゾーラクがふとどこかへ視線をやったのを見て、モディリヤーノが首を傾げた。

「ゾーラク殿? 何か気になる事が?」
「あ‥‥いえ‥‥」

 彼女には他にも、同時にやりたい事が幾つかあった。その一つは済ませたが、この依頼が終わった後も赴きたい場所がある。それを思ったのだった。





 打ち合わせ通り、月精霊の光を活かせる時間になるのを待って、彼らは水の森へ向かった。移動手段は以前と同じく、マリンの『いつでも何処でも』月道。それを持って、わざわざマリンと皓月を狙っているカオスの魔物の下に行く危険性は、考えないでもない。だが当の本人が行くと言い張っているし、護衛もつける。
 念のため、月道を繋ぐ前に導蛍石(eb9949)が全員にレジストデビルを付与した。無意識に魔物が居る場所を避けたものか、月道は水の森入り口に繋がって、冒険者達は再びそこから以前、ティファレナと対峙した場所まで移動する。道中ももちろん、デティクトアンデッドや石の中の蝶などで辺りを警戒する事は忘れない。
 やがて、その場所まで辿り着いた冒険者達は足を止めた。

「‥‥ここまでは迷わず来たが‥‥」

 オルステッドが辺りを見回しながら呟いた。どうせ同じ場所に居るだろうと思っていたが、生憎ティファレナの姿も、グウェインの姿もない。あちらも、大人しく同じ場所で留まっているほど馬鹿ではない、と言う事だろう。
 だがティファレナの行動原理がイザヤである限り、水の森を離れる事はあるまい。この森には大型の生物が多数生息していると聞くが、こちらを襲ってくる相手だけを倒せば良い。
 アルジャン・クロウリィ(eb5814)が息を吐き、携えてきた剣を撫でた。誓約の剣という、カオスの魔物退治に燃える鍛冶師が打ち、カオスの魔物に魅入られた義姉を持つ弟子が魔法を付与し、イザヤ故に村を追われた女性に託された魔物退治の為の剣。

(退屈しのぎに戯れているが良いさ、最期まで‥‥)

 『双角の傀儡師』とやらが退屈を弄ぶならば、それに戯れ続けているが良い。その間に、この剣に込められた祈りと願いの通り、魔物を切り裂いてみせる、と決意を固めるアルジャンだ。
 若干、空には雲が見え隠れしている。念のためにと魔法で雲を払っておいて、ユラヴィカは占い道具を取り出した。
 龍晶球にはまだ反応はない。サンワードは使えない。ならば占いでティファレナや魔物達の居場所を探り、少しでも指針にした方が良いだろう。無為に捜索を続けるには、水の森は広すぎる。
 空からペガサスや空飛ぶ絨毯で、と考えていた者も地上を歩き回る。ただでさえ夜間で視界が効かない上に、森の中ではそもそも空を飛ぶのに枝や下ばえが邪魔で、木々の上を飛んでも枝で地上が見透かせない。
 いつ魔物に出会うか解らない、と持ち寄ったアイテムはすでにそれぞれ、必要とする相手に渡している。念には念を入れ、ペットにもレジストメンタルを施して、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)はマリンの肩にふわりと舞い降りた。

「マリンさん。解ってると思いますが」
「‥‥はい」

 自分勝手な行動をしないように、と釘を刺され、そこは素直に頷くマリンである。勝手気ままな彼女とて、学習はするのだ。
 そうです、とリュドミラも頷いた。本当ならカオスの魔物が現れた瞬間にでも彼女を退避させたいところだが、チラ、とそんな話を向けるとマリンにしては珍しく、それは出来ません、ときっぱり言い切ったのだ。

「私が目的なら、私が居なくなればまた逃げちゃうかもしれません。それじゃあ解決しません、から」

 魔物の目的は冒険者の抹殺ではない。マリンを手に入れることすら、おそらくは退屈凌ぎの延長に過ぎないのだ。ただ、今は『マリンを手に入れる』という遊びを気に入っている、と言うだけだろう。だがそれ故に、気の向かない遊びならばふいとどこかに行ってしまう。お人形遊びに飽きた子供が、人形を放り出して外に遊びに行ってしまうように。
 故に妥協線は、ティファレナを無事に保護できたら一緒に逃げてくれませんか、という所。それすらちょっと渋ったものの、何とか了承は得た。
 水の森は暗く、夜闇に沈んでいる。この状況ではどこからクレイジェルが忍び寄ってくるやも知れず、ランタンの灯りで辺りを照らしながら慎重に足を進めた。ユラヴィカの占いでは、さらなる暗がりが捜し物を覆い隠す、見つけ難い場所にある、思わぬハプニングに要注意。最後に出たカードは水を示すもの。
 水の森の最奥には、辺りを潤す水源となる泉がある。そちらの方だろうかと、見当をつけてさらに足を進めて。

「‥‥魔物の反応がこの先に」
「こちらも察知したのじゃ」

 蛍石とユラヴィカが告げたのは同時だった。石の中の蝶はまだ、反応は全くない。
 はっ、とリュドミラがマリンを背に庇う。ルエラが前線に出て、オルステッドが難しい顔で目を細め。

「‥‥グウェイン殿」
「ん。お前ら、遅かったな」

 魔物と共に現れた顔見知りの名を、喘ぐように呼んだモディリヤーノの言葉に男はひょいと肩を竦めた。ま、しっかり準備するのは冒険者の基本だけどな、などと嘯く。
 だが彼の妹の姿はどこにもない。果たしてどこに、と警戒を強めた瞬間の、それは悲劇だった。





 ティファレナが現在も、魔物に憑依されているのか?
 冒険者達が考えていたのは、まずそれを確かめる事だ。どこか遠くから言霊か何かで操られている可能性も、まだ捨て切れてはいない。
 だがある意味、その疑いは真っ先に他ならぬティファレナによって否定された。一瞬の隙をついて水の森に鈍く響く、ドスッ、と肉を刺し貫く音。

『あまりに遅すぎる‥‥我は我以外のよそ事に目をくれる者が大嫌いなのだよ』

 魔法で魔物の気配を察知しているのを逆手に取り、多数の魔物に紛れて近付いてきたティファレナ。その姿をした魔物は、ニヤリと口の端を吊り上げ、渾身の力で刺した相手にそう囁いた。

『我はとてもとても退屈している。我と遊びたいなら、子猫程度でも全力でじゃれかかってくるのが礼儀というものだろう?』

 それならば多少は可愛がってやろう程に、と喉の奥でくつくつ笑ったティファレナは、深々と根本まで刺し貫いた剣をずるりと抜き去り、ふわり、と魔物の垣根の向こうに退いた。カハッ、呼気と共に血を吐く音。
 目を見開き、腹から血飛沫を上げて倒れたのはゾーラクだった。それに愉悦の笑みを漏らし、ティファレナの姿の魔物が手にした血塗れの剣をグウェインに渡す。
 はっ、と蛍石が動いた。この中で死者を蘇生しうる程の白魔法を納めたのは彼のみだ。だがもちろんそれは、グウェインも承知。そして魔物に憑依され、冒険者への憎しみに燃えるティファレナも判っている。
 す、とティファレナが手を挙げると同時に、魔物達が蛍石へと殺意を向けた。彼女にあるのはただ冒険者への憎しみであり、憑依する魔物にあるのはただ人の命を弄んで凌ぐ虚無の如き退屈だけ。
 避ける暇もなく、高速詠唱でホーリーを唱える。だがそれで十分だ。彼の動きを封じれば、後はただ冒険者達をなぶり殺せば良い。
 ユラヴィカがジュディから借りたレミエラで、サンレーザーを唱え援護に回った。それを冷たい眼差しでティファレナは見る。ただ、見ている。

「兄さん。今度こそ役に立って下さいね」
「ん、お兄ちゃんに任せとけ」

 無感動に言った愛する妹の手を恭しく取る様は、さながら姫君にかしずく騎士の如く。大きく妹に頷いたグウェインは、手にした剣を軽く振ってゾーラクの血を振り払った。
 魔物と共にグウェインは冒険者へと向かってきた。立ちふさがるのは、ルエラとオルステッド。今日はどちらも準備万端、全力で戦える準備は出来ている。
 ふ、とグウェインが笑った。

「なら俺には勝ち目がない、からなっ!」

 そちらには魔物達を当て、グウェインはクルリと身を翻した。わざわざ、勝てないと判っている相手に向かっていくほど愚かな事はない。
 チッ、とオルステッドが舌打ちした。目の前の魔物を切り伏せる。そうして全く別の方へと走り出した男に叫んだ。

「グウェインッ!」
「お前はそいつ等の相手しててくれ」

 頼むぜ、と言い捨てて走った先にはジュディ。悪ぃ、と口先だけで謝り振り上げた剣を、ガキッ、と受け止めたのはアルジャンの銀の剣だ。すでにジュディの結界は発動しているが、魔物ではないグウェインには効かない。
 お、とグウェインが目を見張った。アルジャンとはかつて、地の底へお嬢さんことマリンを救出した時ぐらいしか一緒に戦った事はない。つまり、手の内を余り知らない。そういう相手はまず出方を見るに限る。
 故に打ってかかる事無く、グウェインはあっさり身を引いた。代わりに狙うのはモディリヤーノ。

「‥‥グウェインッ! ティファレナは魔物に操られている! 我々と共に、元に戻す努力をするんだ‥‥常識的に考えて! それが判らん男ではあるまい‥‥」

 その動きと狙いを悟ったオルステッドが、半ば懇願するように叫んだ。彼にしては本当に珍しい懇願の響きに、ん? とグウェインが視線を向ける。だが足は止めない。向かう先は変わらない。
 常識的に考えて、と男の言葉を繰り返した。

「カオスの魔物を助けたいと思う馬鹿、お前らぐらいしかいねぇぜ。オルステッド、冒険者ボケしてんなよ」
「ティファレナさんは操られているだけです‥‥ッ」
「ッて言ったらルエラ、何て言われた? 情状酌量する、って、かッ!?」

 言いながら再び剣を、今度は脇に抱えるように小さく振る。モディリヤーノに体当たりするように。悪ぃなと、やはり口先だけの謝罪を唱えて。

「グ‥‥ッ」
「モディリヤーノ様ッ」

 ジュディが悲鳴を上げたのが聞こえた。震える手で荷物から取り出したポーションは、グウェインに蹴り飛ばされる。見下ろしてくる男の静かな、覚悟を決めた眼差し。
 そんなのは覚悟じゃないと、喘いだ言葉が耳に届いたか。チラ、と蛍石を振り返ったグウェインは彼に群がる魔物が幾らか減っているのを見て、チッ、と舌打ちした。だがソフルの実を口に運ぶ男の姿に、まぁちょっとは効いてるか、と肩を竦める。
 ホーリーの補助にと、ディアッカから渡されたアイテムは使い果たした。武器も幾つか用意されているが、そこにも至らない。まだ魔物はティファレナに憑依したままで――引き剥がすために近付く事も、出来ず。
 マリン嬢、とアルジャンが旅の魔法使いの少女を呼んだ。頷いた少女がふわり、銀光を纏う。『双角の傀儡師』が実際にこの場に居るのかどうか――あのティファレナの様子では確実と思われるが、確かめる為に事前に、一番威力の弱いムーンアローを件の魔物目掛けて放ってもらえるよう、頼んであった。
 果たしてマリンが放った月の矢は、まっすぐティファレナへと飛んでいく。つ、と見た魔物がニヤリ、とほくそ笑んだ。

「キャアァァァ‥‥ッ」

 悲鳴。ムーンアローが当たった瞬間、ティファレナの喉から迸ったのはそれまでの、魔物らしい不気味な声ではないティファレナのもの。はっとマリンが目を見開き、瞳を揺らしてグウェインを見た。

「ティーッ!?」
「ぁ、痛い、兄さん‥‥ッ、どうして‥‥ッ」

 ティファレナが泣きながらムーンアローの当たった箇所を押さえ、兄を呼ぶ。呼び、駆けて来た兄に苦痛を訴え、その苦痛を与えた人間達を睨みつける。

「どうして‥‥ッ!?」

 叫びに応えた魔物が、マリンに一斉に襲いかかった。護衛についていたリュドミラが、すかさず「私から視線を外して下さいッ!」と叫んでサンシールドの強烈な光を放つ。目眩ませに過ぎないが、夜の不意打ちとしては効果的だ。
 ルエラが剣を抜き、加勢に走り寄った。

「ルケーレ!」

 気合と共に剣を振り払い、魔物達を怯ませる。怯んだ魔物から順番に、何とかポーションを飲む事に成功して回復したモディリヤーノが魔法を仕掛ける。
 だが、決め手に繋ぐ為の一手が初めから失われた状態で、一体どうすれば良いのか。ヘキサグラムタリスマンや聖なる釘の結界も、あくまで行動妨害に過ぎない。聖水などもその場凌ぎの域を出ない。
 飛べないながら連れてきたペガサスにホーリーを頼む。入り乱れるカオスの魔物と戦いの空気に、リュドミラの精霊とユニコーンが恐怖に駆られて逃げ出した。サンレーザーの援護も魔力の限界がある。
 ディアッカが新たな結界を張った。鬼火も主の頼みに応え、精一杯頑張っている。それでも――

「ディアッカ。ハリセン貸して欲しいのじゃ」
「‥‥ホントにやるんですか?」
「当たり前じゃ! グウェン殿の後頭部をすぱーんとはっ倒したいのじゃ」

 ついにぶち切れたユラヴィカが、友人にずいと手を差し出した。言葉で動揺を誘うと言っていたが、目がマジだ。そもそもその為だけにハリセン持って来いというのが。
 ユラヴィカが無言で手渡したハリセンを、パシンッ、と手の中で鳴らしたディアッカは、それをそのままビシリと妹の肩を守るように抱くグウェインに突きつけた。

「グウェン殿、本気でティファレナ殿を助けたいならもっときちんと頭を使うのじゃ。グウェン殿のやり方ではティファレナ殿を余計後戻りのできないところに追い詰めているだけではないか。何が何でも助けたい、守りたいなら自己犠牲や自己憐憫に酔って投げやりになっておる場合ではなかろうに。犠牲は払えばよいというものではないのじゃ。適切でなければ意味はないのじゃ」
「そうだよ‥‥ッ、そんなのシスコンの風上にもおけない。少しでも可能性があるのなら、妹から魔物を引き剥がし、何としてでも生きて幸せにする事を考えろ! このへたれが!」

 ユラヴィカの叱責に、モディリヤーノが声を振り絞った。その言葉にグウェインが、ギュっ、とティファレナの肩を抱く。抱き、苛立たしげに叫ぶ。

「だったらどうしろってんだ! 可能性なんかねぇんだよ、もうとっくにティーは後戻りなんか出来ねぇんだ!」

 このアトランティスの中で、彼ら兄妹が生きていける場所など最早どこにも残っていない。生きて幸せに? 憎まれ、蔑まれ、迫害され、それでもただ生き永らえる事が? そんなのはただの生き地獄だ。
 カオスの魔物に魅入られるというのはそういう事だ。見逃される一握りの幸運な連中を己に重ねてはいけない。妹をカオスの魔物から救っても、死刑台に登らせるしか、ない。それよりは――この立場に在る方がよっぽど、可能性がある。
 だが。

(‥‥妹を護る為に動いている、ならば。こちらが魔物を引き剥がす事が出来たなら、『魔物』を討つ事に協力して貰わなければ、な)

 自身の減刑の為にも、ティファレナを護る為にも。そんな思いを噛み締め、アルジャンは銀の剣を握り直した。ジュディがテレパシーリングに祈りを込め、グウェインへと思いを伝える。
 減刑の嘆願は良い返事は貰えなかったけれど、ジュディは最後まで諦めていない。それで駄目ならばいっその事、本当にマリンに頼んで誰も知らないどこか遠い場所へと逃げてでも。ウィルの管理する月道を通る事は出来ないが、マリンが勝手気ままに繋ぐ月道は誰にも見咎められない。誰にも知られずアトランティスを出奔して、ジ・アースのどこかに逃げる事も可能なのだ。
 どうか、と祈る言葉は、グウェインに届いた。届き、だがそんな事が出来る訳がと首を振る彼の心に、ディアッカのメロディーが届く。本当にそれで良いのかと、間違っては居ないのかと心を揺さぶる。
 馬鹿が、と男がやがて呟いた。苦く、微笑んで。

『‥‥おや。妹を裏切るのかい? それも面白いね‥‥』
「るせぇ。俺はティーを裏切らねぇよ」

 揶揄する魔物の言葉に男は代わらず吐き捨てた。だが眼差しは冒険者の方へとまっすぐに向けられている。この期に及んでまだ自分達を助けようなんて馬鹿な綺麗事を唱える、泣きたい位にまっすぐで馬鹿な仲間達に。
 彼の行動は変わらない。彼の第一義はティファレナを守る事。だが冒険者の邪魔をしないなら一先ずはそれで、良い。

(わたくし、とっても往生際が悪いんですよ)

 微笑んだジュディはじっとティファレナに近付く隙を伺う。ディアッカが魔法で魔物の行動を引き止め、ルエラが声高に声を上げて剣を振るう。蛍石が飲み込んだソルフの実はもうあと僅かだ。
 それでも諦めない、とモディリヤーノはジュディから譲り受けた富士の名水を飲み干した。すでに魔力を温存するために武器で応戦、なんて言ってられない。オルステッドの獅子奮迅の働きを持ってようやく、蛍石の動きを止めようとした魔物達が殲滅された。
 近付くのに必要な隙は、すでに一瞬では足りないが。それでも可能性があるならば、その瞬間にでも駆け寄ってクリエイトハンドを、とジュディは心に決めている。

「イザヤ様は最期に貴女の事を案じておりました。戻ってきて、下さい‥‥『ファナ』様」

 呼びかける名前は、イザヤが最初に幼馴染に与えたあだ名。それをティファレナはとても気に入っていたという。

「そして改めて、貴女自身のご意思でわたくしをお責めになって下さい‥‥ッ」
「イ、ザヤ‥‥お兄ちゃ‥‥が‥‥ッ」

 ティファレナの身体が一瞬、動きを止めた。その一瞬。魔物がまだ周りに群がっているが、その一瞬を逃すわけには行かない。

「わたくしは‥‥ッ」

 今度こそ諦めないのだ、と。魔物の爪も牙も無視して飛び込んだ彼女の手が、ティファレナに届いた。蛍石のホーリーとユラヴィカのサンレーザーが、彼女に取りすがる魔物を撃った。ゲシッ、と蹴り飛ばした誰かの足は、グウェインのものだと信じている。
 グッ、と苦悶の声が上がった。だがティファレナから魔物が離れた様子はない。ジュディはそのまま彼女に縋り付く様に、再び呪文を詠唱した。振り払おうと無茶苦茶に暴れだすティファレナに振り回され、振り払われそうになりながら、何度も。

「コアギュレイト!」

 蛍石の唱えた魔法がティファレナの動きを縛った。流石にこの状況で、咄嗟に抵抗が出来なかったと見える。血塗れになりながら、ジュディが力を振り絞ってクリエイトハンドを唱えた。
 ビクリ、ティファレナの身体が大きく跳ねる。何かが、魔物が姿を現そうとしている。

「アアアアァァッ!」

 ティファレナが叫んだ。魔物の抜ける衝撃ゆえではない。それと同時に、用済みとなったヨリシロを始末しようと魔物が攻撃を命じたのだ。その、苦痛の叫び。
 そうして現れた、双角を額に持つ魔物の姿に、ある者は『やはり』と唇を噛み、ある者は『これが』と巨躯を見上げた。咄嗟にチャージングを放とうとしたアルジャンが、隙のなさに歯噛みした。リュドミラに守られたマリンが、濃厚になったカオスの気配にカタカタ震えながら魔物を睨み上げた。

『久しいね、月精霊。そろそろゲームを終わりにしようじゃないか?』
「‥‥皓月は渡しません」
『その為に数多の人間を犠牲にしても? 我に降伏すれば、この人間達は助けてやろうのに』

 クツクツと笑いながら、無邪気な子供のように振り返り、剣を構えるオルステッドとルエラを指差した。彼らもまた傷付けられている。流石は主と呼ばれる魔物と言うべきか、従える配下も一筋縄では行かない。
 回復アイテムは消費し尽くされ、または破壊された。後はこの身一つの勝負、と鋭い眼差しで睨んでくる冒険者に、クツクツとまた楽しそうに魔物は笑う。無邪気に。戯れるように。

『どうかな。そこの小娘も見逃してやろう? その娘の憎しみはとても面白かった。葛藤に喘ぐ人間を見るのはとても面白いよ――でも月精霊、お前が我のものになるならこれほど、面白い事はないだろうね』

 この世界を壊せば一体、どれ程に混沌が巻き起こると思う? とあくまで無邪気に告げる魔物の言葉を、メモリーオーディオでこっそり録音しているユラヴィカだ。再度の減刑交渉をする事があれば、何かの役に立つかもしれない。
 そのメモリーオーディオをディアッカに渡し、ユラヴィカはサンレーザーを唱えた。あわせてオルステッドとルエラが動く。もはや、傀儡師の戯言に付き合う義理はない。

「‥‥覚悟‥‥」
「ルケーレ!」

 それぞれに気合を込め、切り掛かった。それを受け止め、流し、或いは掠った痛みにニヤリと笑う魔物。援護の魔法も当たっている筈だが、そう見えないのは容貌のせいか。
 アルジャンは銀の剣を手に、静かに時を待つ。最初の一撃は逃してしまったが、まだ機は訪れるはずだ。
 ――やがて。

「斬り拓かせてもらうぞ、兄妹の未来を!」

 巡り来たその機を逃さず、アルジャンは銀の剣を魔物目掛けて振り下ろした。この剣は決して復讐の為に打たれた物ではない。清しいまでの銀の輝きは闇を払う為に、魔に堕とされる者を救う為に、祈りを込められた剣だから。なればこそ今この瞬間抜くのに相応しいのだと、信じて彼は剣を魔物に突き立てた。
 グゥッ、と流石に魔物が苦悶の声を上げた。

『やれやれ‥‥面白い退屈凌ぎ、だね。その剣、見逃して良かったよ。我がこうして傷付くなど何千年ぶりかな――実に楽しい。楽しい気分だ』

 クツクツクツと、魔物は無邪気に喉を鳴らした。面白い玩具を見つけた子供の様に双眸を輝かせた。

『我は今、とても気分が良いよ。先の非礼は許してやろう、人間ども。そしてまた楽しく遊ぼうじゃないか‥‥』
「待てッ!」
「逃がさんッ!?」

 魔物が去る気配を察し、冒険者達が声を荒げた。だが追いかけ、追い詰めるだけの気力は残っていない。何より配下の魔物はまだ残っている。
 双角の傀儡師が完全に去るのを唇を噛んで見つめながら、冒険者達は残った魔物へと向き直った。回復アイテムを消費しつくしたこの状況で、どこまでやれるか。だがやるしかないのだ――ここにはまだ、守るべき者が居るのだから。





 すべての魔物を屠りつくした水の森の中で、レギンス兄妹は互いを支え合うように寄り添い、冒険者達を見回した。減刑が叶うかも、という最後の望みに賭ける事を彼らは選ばなかった――何より、元凶の魔物が逃げたこの状況では厳しい。
 故に、彼らが選んだのは逃亡者となる道。

「準備は良い、ですか?」
「ん‥‥最後まで悪ぃな、お嬢さん。お前らも」
「あの、本当に何とお詫びすれば良いのか‥‥私‥‥」

 しっかりと妹の肩を抱いてひょいと肩を竦めるグウェインと、頭を下げるティファレナ。彼女は冒険者を殺そうとしたのだ――魔物に操られたと言え、根底にあったのは自分自身の押し殺した感情だ。
 まだ混乱してて、と小さく呟きまた頭を下げた彼女を促し、グウェインは「またな」といつもの調子で冒険者達に手を振った。そうして姿を消したグウェイン兄妹を見届けた冒険者達は、ギルドには口裏を合わせて「抵抗されたので已む無く殺害した。亡骸は葬り証拠として遺髪だけを持ち帰った」と報告し。それを受け取ったのはティファレナの同僚の受付係で、彼は何かを飲み込む顔でそれを受け取り、ご苦労様でした、と頷いて。
 様々な事が終わって、モディリヤーノは最後にレイナ・ハルスタットを訪れた。レギンス兄妹の事を伝えるためだ。

「落ち着いて、出来そうだったらどんなに時間がかかっても良いから連絡がもらえたら、って言ったらグウェイン殿が『任せとけ』って」
「どうせ来ないわよ、あいつは筆不精だもの」

 冒険者の言葉に辛辣な言葉を返しながら、レイナはハーブティーを淹れた。居候中の工房の面々にも配ったそれを、モディリヤーノと自分の手元にも置く。それを見て彼は考える。
 レギンス兄妹は、彼らの両親に彼らの存命を知らせる事を望まなかった。ならばその意思を尊重するべきだが――

(ご両親のティファレナ殿への態度は、いくら魔物に操られているとはいえ、悲しかったな)

 我が子、我が娘を関係ないと怯えて切って捨てた両親。彼らには知らせないで欲しい、という幼馴染達の伝言を聞いたレイナは、そうでしょうね、と頷いた。

「カオスの魔物に関わる血縁なんて、居なくなって欲しいものよ。死んだと聞いて少しはほっとしてるんじゃない?」

 生きていればいつまでも、カオスの魔物の身内と言われ続けるもの。そう告げたのが他の人間ならばただの中傷だが、現にそう扱われ元の村に居られなくなったレイナの言葉は、実感が篭っている。
 死んでも言われる事は変わらないが、それでも居なくなってくれさえすれば、それ以上煩わされる事はない。またお前の身内がと責め立てられる事がない。

「‥‥酷いと思ってくれて良いわ。でも貴方みたいに力を持ってる冒険者とは違って、私達はただの人間だもの。怯えて暮らすしか出来ないのよ」

 貴方は私と違って善い人ね、と自嘲しレイナはハーブティーを飲み干した。それ以外の何かの感情を飲み込むように。





 カオスの魔物の脅威は取り除けなかったものの、友人達の命は救われた。やがてジ・アースのいずこからか、書名のない謎の便りが冒険者街に届くのかも知れない。