【傀儡の旋律】狂言回しは混沌の夢を見る。

■シリーズシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月16日〜12月21日

リプレイ公開日:2009年12月23日

●オープニング

 そこは、近隣住民に『水の森』と呼ばれる森林地帯だった。一番奥の大きな湧き水を筆頭に、森のあちこちから湧き出す水が森の外へと流れ出し、辺り一体を潤している。交易都市サーフが交易都市たり得るのは、一つにはこの森からの水の恵みのおかげだった。
 だがしかし、近隣住民にも薄々気付いている者は居ながら、秘匿されている事実も、ある。秋頃、領主家が私兵を投入し、冒険者ギルドにも助力を願って解決した、カオスの魔物とその僕による交易都市サーフの殺戮事件。彼らを討ち取った最後の場所がまさにこの、水の森だ。
 領民には表向き、カオスの魔物とその僕が滅ぼされ、事件が解決した事しか知らされていない。近隣住民は私兵が向かった事を知ってはいるが、他言無用を領主家から徹底されている。
 だからきっと、今のリハンで此処が『彼』が殺された場所だと知っているのは、数少ない。その事実を思い、彼女は湧き上がってくる怒りを感じた。

(お兄ちゃん‥‥)

 苛められもしたけれど、それでも優しかったイザヤお兄ちゃん。生きていると判った時は本当に嬉しくて、だが彼が疑惑の中心に居ることが信じられなくもあって、確かめに行って。
 止めたいと、やめて欲しいと思っていたのは本当だ。でもどうしてあの時、イザヤが殺されると言う事実を受け入れられるなんて思ったのだろう。帰ってきてイザヤの死を告げた兄を、許さなければと考えたのだろう。
 だってこんなにも、ティファレナは怒っている。イザヤを殺した兄に、その手伝いをした冒険者に、イザヤの姉だからとレイナを追い出したドムル村の人々に。2人をカオスの魔物と言った母に。他の色々のたくさんの事に。

「イザヤお兄、ちゃん」

 カオスの魔物に染まった人間が、殺されるのは仕方ない。その傍にいた人間が周りに受け容れられないのは仕方ない。冒険者ギルドで働いていて、そんな事は幾らでも見てきたはずなのに、どうしてそれを仕方ないと思えたのだろう?
 ティファレナは怒っている。憎んでいる。どす黒い感情が常に胸の内を取り巻き、何としても彼らにイザヤが味わった以上の苦しみを、悲しみを、絶望を味わわせずには居られない。
 静かな水の森の奥で、ポロポロポロと涙を流した。この森で、たった一人で、追い詰められて。一体イザヤはどれ程苦しんだだろう、どれ程痛かっただろう、どれ程悲しかっただろう。それを思うとティファレナは涙が止まらない。
 そっと傍にあった木の幹を撫で、イザヤを思い、イザヤ故に迫害されるレイナを思い、イザヤを殺したグウェインを思った。つい先日も兄が追って来たのを見て、考えるよりも先に怒りが湧き上がり、気付けば兄を全力で殴りつけていた。
 あの時一緒に居た冒険者を思い出す。何か、言われた気がした。でも堪えきれない怒りがその感情を払拭した、気がする。良く覚えていない、この頃の彼女は怒りしか身の内にない。
 そして一緒に居たあの女性――マリン・マリン。会った事はないけれど、なぜか一目で判った。彼女こそがすべての元凶、ティファレナがもっとも復讐しなければならない相手だ、と。

(‥‥‥何故?)

 ふと、疑問に思う。だが疑問は胸の内から湧き上がってきた怒りに掻き消され、マリンへの憎しみに取って代わられる。
 彼女を殺さなければ。それからグウェインを、冒険者を、イザヤを悪く言うすべての人間を。そうしなければこの怒りは収まらない。

「だから待っててね、イザヤお兄ちゃん」

 必ず、イザヤの仇はとって見せるから。1人で寂しい思いなんて、もう絶対にさせないから。





 グウェイン・レギンスは沈んでいた。妹がカオスの魔物に操られていると、冒険者の魔法調査でもはっきり判ってしまってから。
 それが何を意味するかは判っている――幼馴染のイザヤ・ハルスタットを思い出せば良い。イザヤの件の報告を受けたリハン領主家は、彼に死刑以上に軽い処罰は与えない、と断言した。それを思い出せば良い。
 いずれ、グウェインにもその手は及ぶだろう。それは別に良い。別に良いけれど、愛する妹が殺されるのを看過する事は絶対に出来ない。
 出来ない、けれど、じゃあ何が出来る?
 カオスの魔物は倒さなければならない、それは絶対だ。カオスの魔物に染まった者が、更なるカオスの魔物を呼び込むことを恐れて処刑されるのもほぼ確実だ――ティファレナはその意味でも、その対応が決して間違っていないことを証明してしまった。
 カオスの魔物に染まった幼馴染を持つ娘が、カオスの魔物に操られた。ただそれだけで、はたから見れば十分な理由だろう。そんなのグウェインにだって判る話だ。
 関係者は処断されなければならないのだ――と。

「‥‥俺はどうすれば良い?」

 誰にともなく問いかけた言葉に、だが返る答があった。旅の魔法使いを名乗るアルテイラ。恐らくこの件の中心に居るはずの、カオスの魔物が欲しがる強力なマジックアイテムを所有する、特別なアルテイラ。
 いつの間にか、皓月を抱いてストンと隣に座り込んだ彼女は、グウェインの顔を覗き込んだ。

「レギンスさんが一番したいようにするのが良いと、思います」
「一番、したいように‥‥」
「はい。絶対にこうしなきゃいけない正しい事なんて、ホントは何処にもないんです」

 世界中を旅して回るマリン・マリンは、月精霊としては多分かなり言っちゃいけないことを、にっこりさらりと言い切った。

「人間の世界って、正しい事は良く変わります、から。私達は世界の為に動くけれど、レギンスさんは人間でしょう?」
「でも、ティーはカオスの魔物に‥‥」
「はい。だから私は、カオスの魔物を倒すために、冒険者さん達に協力して貰います。その過程で妹さんを殺す事になっても。でも‥‥グウェインは、妹さんの為に戦ったら良いと、思うな」

 だってそれが一番やりたいことでしょうと、微笑みかけられて小さく頷く。妹を守る。自ら疎んだ事もあったあの妹を、何があっても守ると誓ったのは、幼馴染の少女がたった一人で冷たくなったと知った時の事。
 確かなものなんてないのだと、変わらないものなんてないのだと思い知ったあの時、ならばこれからは妹を守ると決めた。単純だと言われても、そう決めた。
 だから、あの妹がカオスに染まったのだとしても、自分を憎んでいるのだとしても。グウェインがやるべきことはたった一つだけだ。
 何があっても、ティファレナを守る。
 キュッ、と険しい表情になった男に、固めた決意を察したマリンは微笑んだ。

「グウェインはグウェインの正しい事の為に戦って、私は私の正しい事の為に動きます。後は、どっちの『正しい』が勝つか、だけだから。‥‥次に会う時は敵同士、ですね」

 頑張りましょうね、といつもの調子で微笑みかけるから、お嬢さんもな、といつもの調子で言い返した。それに返って来る笑みは晴れ晴れとしている。
 だから後悔はしないでおこうと決めた。何があってもティファレナを守る。冒険者を殺し、マリンを殺し、他の誰かを殺す事になっても。ティファレナに殺される事になっても、絶対に。
 そう決意を固め、去っていった男の背中を見送って、寂しそうにマリンは微笑んだ。だが彼女は、やるべきことは迷わなかった。
 向かう先は冒険者ギルド。例え何を犠牲にしても、カオスの魔物を打ち滅ぼす。その為にはまず、相手の正体を探らなくては。

●今回の参加者

 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec6278 モディリヤーノ・アルシャス(41歳・♂・ウィザード・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ヴァラス・シャイア(ec5470

●リプレイ本文

 冒険者ギルドの入り口で、少女はいつもの様に相棒の白亜の魔杖を抱え、静かに彼らの訪れを待っていた。まっすぐに前を見つめる横顔。
 それを見て、彼女に会ったらかけようと思っていた言葉をオルステッド・ブライオン(ea2449)は飲み込んだ。代わりに出てきたのは彼にしては珍しく、労りの響きすら持つ言葉。

「‥‥マリンさん、何があった‥‥?」

 彼女からの依頼を見て真っ先に思った事は、今度はどこに連れていく気だ、と言う事だった。何しろ前科がありすぎる。ちょっと魔物にお仕置きに、なんてセリフと共に地獄まで連れ去られた事も少なくない。
 さて、今度は天上にでも行く気になったか。或いはついに天界に到る月道でも見つけたか。
 そう考えていたのだが、どうも彼女の様子は違う。思い悩むという様子でもなく、落ち込んでいるという様子でもなく、何かが違う。
 オルステッドの言葉に、マリンはふと視線を巡らせ、こんにちわ、と微笑んだ。

「どうやってカオスの魔物にお仕置きをしようかな、って考えてたんです」
「‥‥‥」

 言ってる事はいつもと全く違わない。なのに何が違うのかと、聞いていたモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)は何気なく視線を冒険者ギルドの中へと巡らせた。
 いつもと変わらない光景。だがそこにいつも居た女性の姿は消えて久しい。ティファレナ・レギンス、冒険者ギルドの受付嬢だった彼女は、兄と慕う幼なじみを殺した冒険者を恨み、いずこかへ姿を消した。
 どうやら魔物に操られているらしい事までは解っている。ウィルに戻ってからステインエアーワードで彼女の家を探った所、カオスの魔物の気配は確かにそこにあった。
 だが果たして、彼女は操られているのか、憑依されているのか。その事実を知った彼女の兄グウェインは、酷く落ち込んだ様子を見せていたが‥‥

「‥‥マリン殿。グウェイン殿は?」
「グウェインは妹さんの所に行きました」
「ティファレナ殿を探しに?」
「はい。妹さんを捜して、何があっても守る、って。それがグウェインの一番正しい、やりたい事、だから」

 例え仲間を殺し、マリンを殺し、他の誰を殺しても。妹に殺される事になっても、絶対に妹を守り抜くのだと。
 それは馬鹿がつくぐらい不器用で、考えなしで、強い願いだとマリンは笑う。
 そうですか、とジュディ・フローライト(ea9494)は彼の顔を思い浮かべた。一番正しい、やりたい事。大局から見てそれが正しいかどうかではなく、ただ自分の願いに忠実に動いた時、それをグウェインはそれを選んだ訳だ。
 彼女のそれが何かと言われれば、この世の幸せを全力で祝福し、不幸を全力で防ぐ事。そして今、ジュディが全力で防ぎたい不幸は何かと問われれば、間違いなくレギンス兄妹の事が上がるだろう。

(イザヤ様は魔物の手から救う事は叶いませんでしたが‥‥)

 ティファレナはまだ間に合う。そのはずだと、信じる。妹の死に価値を与えるのだと魔物に自ら従い続けた彼とは違い、ティファレナはきっと彼の死の悲しみにつけ込まれているだけ、だから。
 出来る限り助けたい、その気持ちはユラヴィカ・クドゥス(ea1704)も同じだ。ティファレナは話を聞く限り、身も心も魔物に捧げ、悪逆の限りを尽くしているのではない。『お兄ちゃん』とやらを失った悲しみを利用され、そして恐らくはカオスの魔物がマリンを手に入れる為の手駒にされている。
 だが、救う為にはまず、彼女の居場所を見つけ出さねばならない。サンワードや得意の占いなど、思いつく限りの手段を駆使して、何としても見つけたいものだ、と気合いを入れる。
 ふと、オルステッドは眉を潜めた。

(‥‥どうも、グウェインさんの精神状態も尋常じゃない‥‥もしや、すでに魔物の影響化に‥‥?)

 彼とて、グウェインのシスコンっぷりは嫌と言うほど知っている。愛する妹の為に側に寄る男にあらぬ疑いをかけること、数知れず。さらに一方的に決闘を申し込むこと、また数知れず。
 以前にティファレナが1人でイザヤに会いに行った時も冷静さを欠いていたし、先日とてなりふり構わず突進していって妹に重傷を負わされもした。だがそれでも、誰を殺しても、妹に殺されても、と言う覚悟は行き過ぎているように感じられる。
 念のため、とオルステッドはギルドのカウンターに近付き、声をかけた。

「‥‥すまない‥‥もしここにグウェインさんが来たら、監視と情報保護を怠らない方が良い‥‥」
「どういう事です?」

 不審そうに眉を潜めた受付係に、簡単に事情を説明する。グウェインが妹を追って姿を消したこと。冒険者に危害を加える危険もあり、その情報を求めて現れるかもしれないこと。
 聞いた受付係は細く息を吐き、そうですか、と呟いた。

「やはり、ご兄妹共に‥‥残念です。ティファレナ・レギンスはすでに、ギルドの指名手配対象ですが」

 グウェイン・レギンスさんも付け加えておきます、と受付係は頷いた。それはつまり、彼らが見つかれば確実に捕縛され、罪人として裁かれる、と言う事だ。





 冒険者達がまず向かったのは、今までに幾度もお世話になったウィル王宮図書館だった。この図書館には一般開放されている書架や、一部の人間にのみ閲覧を許可されている書架、さらに通常は職員しか出入り出来ない書架なども存在していて、単純に見えてちょっとだけ複雑だ。
 その王宮図書館に勤める馴染みの図書館司書を捕まえて、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)は書物調査をしたいと申し出た。ふむ、と話を聞いた図書館司書は首をひねり、しばし考えて応える。

「表の書架は、皆様方であれば帯禁出本などもご自由にご覧下さい。ですが裏の、原書や特別扱いの書物を収めた書架は許可が必要ですので、数日お待ち頂く事になりますが」

 原書書架には今までに2度ほど整理を兼ねて冒険者も出入りしているが、それはあくまで事前に許可を得た上で依頼を出したものだ。突然の申し出であれば後手に回るのも仕方ない話。
 それでも良いと頷くリュドミラ。数日ではティファレナ捜索に赴くまでには間に合わないが、基本的に原書書架の書物は翻訳中のものと特別扱いの書物を除き、すべてセトタ語に翻訳した写本が表にも並んでいる。その訳が時々信用出来ないと言う問題はあるにせよ。
 だがまずは、とディアッカ・ディアボロス(ea5597)は辺りをキョロキョロと眺めているマリンの前まで飛んでいき、マリンさん、と声をかけた。

「ファンタズムやイリュージョンで、マリンさんが見た『主様』のイメージを見せてもらえませんか?」

 この中で『主様』と呼ばれる魔物の姿を見た事があるのはマリンだけだ。以前、別の村で姿を現したらしい話もあり、その姿を見た冒険者もここには居るが、確かにそうだと決まった訳ではない。
 良いですよ、とマリンは頷いた。元々、カオスの魔物に関する資料というのはあまり多くない。それは高位の魔物であればあるほど、相見えて生き延びた者が少ないからだ。
 その事実はマリンも知っている。だから彼女は、かつて彼女を地獄で捉えた魔物を、そしてその魔物が『主様』と呼び従っていた魔物の姿を思い浮かべた。
 混沌の闇を纏う巨躯。ねじくれた2本の角。だがその印象は恐ろしさと共に、退屈を弄ぶ子供のようにも感じられて。
 もしかしたら思い出し難いこともあるかもしれない、とディアッカもリシーブメモリーでマリンの記憶を読みとる手伝いをする。リシーブメモリーは直接思考を読みとる魔法。幻を作る段階で迷って削除される情報も、読み取る事が出来るかもしれない。
 そうして作り上げられた幻に、どうやら以前に姿を現した魔物は『主様』に間違いはなさそうだ、と幾人かが頷いた。ああいう嗜好の魔物ならば、過去にもアトランティスで目撃されているかも知れない。
 生み出された幻を頭に刻み込み、さてあのような魔物の情報はあるだろうか、と冒険者達は書架の海をさまよい始めた。何かの役に立てばとジュディも、今までの調査の成果を導蛍石(eb9949)に手渡して行く。
 彼女はこれからマリンに頼んで月道を繋げて貰い、遙かセレ分国に滞在する天使に話を聞きに行くらしい。どうやら一部のカオスの魔物とデビルは、互いに影響しあっている様子。ならばデビルのことを調べれば、該当するカオスの魔物が判るかも知れない、というのだ。
 ジーザス教の人は何か知っているだろうか、とモディリヤーノも知り合いのシスターを思い出す。天界の精霊を奉る彼女なら、天界の魔物の事も判るかも知れない。
 念のため、顔馴染みの図書館司書エリスンに何か魔物関連の新しい本は入っていないかと尋ねたが、記憶にありませんな、という答えが返ってきた。自分が調べた中にも何かなかったかと思い返してみるが、何しろここの書物は膨大すぎる。よっぽど印象的なエピソードでない限り、右から左へ流れていきがちだ。
 だが、カオスの魔物よりはまだデビルの方が資料が多い。そちらも主眼に入れて探してみるか、と山のような書架を眺めて誰もが知らず、ため息を吐く。
 冒険者達があちら、こちらと資料を求めてさまようのを、エリスンも図書館業務の合間を縫って案内したり、或いは求められた資料を探して持ってきてくれたりする。ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)はそんな彼を呼び止め、これを、と皮袋を差し出した。

「今後も調査に協力をお願いすると思いますし、お礼も兼ねて」

 皮袋に入っているのは、100Gもの大金だ。それを渡されたエリスンは、ふむ、と一つ唸った後、そのままルエラに返してよこした。

「書物は皆様のお役に立ってこそです。お礼ならば今度、何か珍しい本が手に入ったら是非寄贈をお願いしたいものですな」

 否、この金でそういう書物を揃える足しに、っていう意味もあったんだけど。
 のほほんと去っていく図書館司書の後ろ姿に、ルエラは胸の中だけで呟いた。エリスン・グラッドリー、彼は基本的にマイペースで、破滅的朴念仁として図書館内ではちょっと有名である。





 図書館を抜け出して、モディリヤーノはウィルの教会を訪ねた。そこに暮らす押し掛け弟子ヴィア・カンティーナは今日も、懺悔室という名のお悩み相談室の中にいる。
 声をかけると、ちょっと待ってて下さい、という答え。頷いてヴィアを待つ間、見るともなく辺りを見回してみると、教会の中がいささか華やかに感じられる。
 ガタガタ、バタンッ! と音を立て小部屋から出てきたヴィアは、彼の視線に気づいてにっこり笑った。

「もうすぐジーザス教の聖夜祭なんです! 今年は師がお忙しいみたいですけど、こうして聖堂を聖なる母と御子の為に飾れるのはありがたいことです。ところで、今日はどんなご用事ですか?」
「実は、ヴィア殿に聞きたい事があって」

 モディリヤーノの言葉に、ひょい、と首を捻ったシスターに簡単に事態を説明する。とある依頼の絡みで、額に2本の角を持つカオスの魔物の事を調べていて、カオスの魔物とデビルは共通点があることが多いのでそういうデビルを知らないだろうか、と。
 んー、とヴィアは首を捻り、うろうろ歩き回って該当のデビルを思い出そうとした。だがやがて、すみません、と首を振る。彼女はシスターではあるが、デビル退治の専門家ではない。名のあるデビルなどはさすがに聞いた事はあるし、良く人前に姿を現すデビルも知識として知っているにせよ、それ以上の事は専門的に勉強していないのだと言う。
 がっくり肩を落としたシスターに、気にしないで、と声を掛ける。誰しも知っている事と知らない事はある。もしかしたら、という程度の望みだったのだし、他の仲間も調べているのだから。
 そう言うと、ヴィアはもう一度『すみません』と呟いた。だがすぐに、ぱっと顔を上げて心配そうに首を傾げる。

「‥‥大丈夫なんでしょうか? 以前、こちらの教会にもいらして下さった方、ですよね?」
「大丈夫にしたい。僕は大事な人を失いたくないから。イザヤ殿や、レイナ殿の為にも‥‥とても困難な事で、綺麗事かも知れないけれど」

 何もなくしたくない、と言うのは誰でもが思う事だ。だが実際には何もなくさずに居られる人など居ない。イザヤが妹を失ったように、レイナが妹と弟を失ったように。
 それでも思うだけなら、大事な人を失いたく、ない。実現するにはきっと、想像もつかない困難が待ち受けているに違いなくて、そんな事を口にするだけで愚かだと笑われそうな綺麗事に過ぎないと頭のどこかでは判っていて。
 そんなモディリヤーノに、聖なる母の僕は微笑む。

「大丈夫です。聖なる母はいつでも地上の子らを慈しんで下さいます。どんなに困難に見える事でも、どんなに険しい道のりであったとしても、聖なる母は必ず私達を慈しみ、助けて下さいますから」

 けれども、諦めればそこで終わりだから。たとえ指の一本すら動かせなくなったとしても、諦めなければきっと聖なる母は慈愛を垂れて下さるのだから。そう祈るように告げるヴィアに、そうだね、とモディリヤーノは頷いた。
 一方、ジュディはマリンが繋いだ月道を潜り抜け、セレの地へと降り立っていた。この国に滞在する天使レヴィシュナに、件の魔物に相当しそうなデビルを聞きたいと願ったのだ。
 天使レヴィシュナの元に、と事前に頼んでおいたものの、マリンには天使との面識がないせいか、まずはセレに同じく滞在中の月姫の元に月道は繋がった。そのまま、何やら月姫と話があるというマリンをその場に、月姫が招いてくれたレヴィシュナにジュディはそっと頭を下げる。

「レヴィシュナ様がご存じならば、お知恵をお借りしたいのです」

 この天使は博識で、おそらくはデビルの知識をもよく知っている。デビルとカオスの魔物が表裏一体の存在であることもあり、そうでなくとも似通った姿の魔物は弱点が共通している時もあるので、何か知っている事があれば是非教えてほしいところだ。
 レヴィシュナはジュディの告げる特徴を聞き、ほんの少し考える素振りを見せた。だがやがて、一つの名前を呟く。

「ガーブ、と呼ばれるデビルがその特徴に良く似ている」

 それは額にねじくれた2本の角を持つ、人よりも遙かに巨大な体躯を持つデビル。大きな耳と、コウモリのような羽を背に負っている、人型のデビルで‥‥人に憑依し、感情を意のままに操るという。

「余りに強烈な感情操作のせいで、憑依されたものはそれが自らの意志だと思い込む、と言われている」
「自らの意志‥‥」

 例えば。デビルに憑依され、被憑依者の中のわずかな感情を操られた者は、なぜか沸き上がってきた衝動に駆られて感情のままに行動を始める。その感情は確かに自らの中にあったものだから、操られているという自覚が薄い。
 激しすぎる冒険者への憎しみに身を焦がし、なぜイザヤを殺したと冒険者を責めたティファレナ・レギンスのように。
 それはある意味、もっとも質が悪い。自らの意志でそれを為していると本人が思い込んでいる以上、やがてそれは真実に成る。強い感情は精神を侵し、思考を歪める。
 弱点などは、と尋ねるとそれにはさすがに天使も首を振った。被憑依者からデビルを引き剥がせるだろうか、と言う問いにも「判らない」との答え。
 ジュディは丁寧にレヴィシュナに頭を下げ、礼を述べた。もし『主様』がガーブと同質の魔物であるならば、ティファレナは確かに憑依され、操られているのだろう。それが判っただけでも収穫だ。





 ユラヴィカの占いは、ティファレナは北に居るという結果を導いた。そして過去の縁が探し人を手繰り寄せるだろう、と。
 ウィルから北、ティファレナに縁のある場所と言えばどうしても思い起こされるのがリハン。レギンス兄妹とイザヤの故郷であり、そのイザヤの終焉の地でもある。そしてティファレナが姿を消したのもリハン領ユレグ村。
 だがユレグ村は除外して良いだろう、と冒険者達は話し合う。ティファレナの行動原理がイザヤにあるのなら、イザヤを否定したと怒ったユレグ村に戻るのはあり得ない。
 ならばどこに彼女は居る?

「イザヤ様と言えばサーフを巡る一連の事件が思い起こされますゆえ‥‥その足跡を追えば、ティファレナ様に辿り着けるやも知れません」
「そうですね‥‥私の知人の調査でもその辺りが怪しそうです」

 考え考えそう言ったジュディに、蛍石が同意して頷いた。ヴァラス・シャイア(ec5470)がギルドの報告書などを調べてきてくれた所でも、彼女が扱った依頼の中で彼女の現在に結び付きそうなのはその事件だ。
 図書館の方の調査結果は、ジュディが調べてきてくれた『ガーブ』という名前を元に再度調べてみても、デビルとしてはレヴィシュナの言葉以上の事は判らなかった。だが似たような姿を持つカオスの魔物は、その名だけが記されていて。

「『双角の傀儡師』‥‥ですか」
「あの魔物がそれだとしたらやっぱり‥‥ティファレナ殿が新しい玩具、か」

 自ら書き留めたスクロールに視線を落とし、その名をポツリと噛み締めたリュドミラにモディリヤーノが険しい顔になった。傀儡師。ティファレナを新たな玩具に、彼女を操り傀儡遊びと洒落込んでいるのか。
 他にティファレナの居場所に有力な情報が得られそうもなく、ひとまずマリンに頼んでそれらの場所に順番に移動し、手分けして彼女を捜索する。先ずは何と言っても交易都市サーフ。イザヤと彼が従った魔物が、永きに渡って住民を魅了し、一時は完全に手中に納めたリハン領有数の交易都市。
 もしかして、月道の先にいきなりティファレナが居て魔物とご対面、と言う事にも成りかねない。蛍石はそう告げて、月道をくぐる前に全員にレジストデビルを施した。気休めに過ぎないかも知れないが、マリンにも。
 そうして、冒険者達は順番に捜索を進めていく。魔法探査を使える者はデティクトアンデッドやサンワードで、そうでない者はひたすら足で。
 時折、石の中の蝶も確認して魔物が近付いていない事を確かめた。ふらっと気まぐれの虫に誘われやすいマリンには、ディアッカがちょこんと肩に乗って引っ付いていく。

「私は皓月も居ますし、1人でも‥‥」
「地獄での事を忘れましたか?」
「‥‥‥」

 そんなやり取りを繰り返しながら、こんな人を見ませんでしたか、とファンタズムでティファレナの姿を見せて人々に聞いて回る。何となく似た人を見たような、と言う証言があれば、ディアッカは都度詳しい話を聞いて、パーストで確認を繰り返した。
 モディリヤーノも町を歩き回り、ステインエアーワードを使いながらティファレナを探す。時折、上空から地上を見下ろすルエラの、ペガサスがよぎる影が地上に落ちて。
 サーフが空振りに終わり、次にドムル村。そこも同じように捜索するもやはり空振りに終わり、その辺りで日が暮れる。
 彼らが、付近の住人から水の森と呼ばれるその場所に辿りついたのは、ティファレナ捜索を開始して5日目のことだった。彼らが思いつく『過去の縁』はもはや、ここしか残っていない。
 今までと同じく、まずは蛍石がデティクトアンデッドで魔物の気配を探り、反応がない事を確認して森の中へと足を踏み入れる。入り口で反応がなかったからと言って、ここにティファレナが居ないとするのは間違いだ。付近の水源となっている森は広く、深い。さらに水の気配濃厚な森の中は、冬場に入ってシンシンと冷えている。
 同じくペガサスで上空から探そうとしたルエラが、諦めて地上に舞い降りた。冬とは言え、枝差し渡す水の森の木々は生い茂り、地上を透かし見る事は難しい。
 同じく、ブレスセンサーを風精に試して貰っているユラヴィカもため息を吐いた。水の森は生物体系も豊かで、魔法を使う度に数多の反応が返ってくる。中には人間とほぼ同じ大きさの獣も居て、そう言うものは都度確認するのだが、なかなか目的の相手には巡り会わない。
 それでも、幾度目かの探索で新たに引っかかった反応に、気力を振り絞ってテレスコープで確認する。生い茂る木々の隙間から、そちらの方を透かし見、拡大し。

「ん、久しぶりだな」

 彼はごく普通に、そんな言葉を吐いて冒険者達に軽く手を挙げた。グウェイン・レギンス。捜し求めるティファレナの兄、そしてマリンの言葉を借りるなら「一番正しいやりたい事の為に」カオスの魔物に操られる妹を守る為に姿を消した、王宮軍所属の元冒険者。
 あらグウェイン、とマリンもごく普通にパタパタと手を振った。そのまま駆け寄って世間話でもしそうな彼女の首根っこを、むんずとひっつかんだオルステッドが肩のディアッカ共々後方へと押し戻す。

「ブライオンさん」
「‥‥マリンさんは下がっていろ‥‥彼が居ると言うことは近くにティファレナさんもいる可能性がある‥‥」

 それはつまり、ティファレナに憑依する魔物も側にいる、と言う事だ。しゅん、と肩を落としたマリンの側にユラヴィカは風精を行かせ、タリスマンの結界を張るよう頼んだ。
 石の中の蝶が今や、ゆっくりと羽ばたいている。蛍石が息を飲み、魔物の気配が、と注意を促した。
 警戒を強める冒険者に、グウェインが苦笑する。苦笑し、静かな殺意で迷わず腰の剣を抜く。
 対峙するグウェインの背後から、ポツリ、声が湧いた。

「兄さん‥‥」
「ん、任せとけ、ティー。お兄ちゃんがお前の代わりに、こいつらと戦ってやるからな」

 言葉とは裏腹に、グウェインが背後に返した声の響きは酷く優しい。それに、ありがとうございます、と平坦な応えを返す女性の声は、感情は見えないが。
 ルエラが見えぬ女性に警戒を強め、仲間達を背に庇って一歩、グウェインの前に進み出た。それにも感情を揺らした様子もなく、剣の切っ先もぶれない。
 逆にリュドミラはタリスマンの結界の中のマリンの側に付き、やはり得物を抜いて他の魔物が寄ってこないよう周囲に視線を走らせる。ティファレナの目的は冒険者への復讐かもしれないが、魔物自身の目的はマリンと皓月。この騒ぎを目くらましに、そっと忍び寄って掠め取っていくかもしれない。
 今ならまだ、とジュディは目眩にも似た何かを覚え、祈るように手を組んだ。かつてこの森で、彼女はイザヤの最後を見届けた。その場所で、彼の仇を討つというティファレナを守るグウェインと対峙するのはまるで、あの時の繰り返しのようにも思える。
 だから思う‥‥イザヤとは違うのだ、と。ティファレナは操られているだけだ。まだ助けられるのだ、と。
 まるで祈りに応えるようなタイミングでグウェインが動いた。彼は剣技においては歴戦の冒険者と対等に渡り合えるほどには強くない。だが、彼はこちらの実力や弱点を知り尽くしている。
 だから、まず彼が狙ったのはルエラではない。動きに反応して動いた彼女をすり抜け、阻もうとするオルステッドに「悪ぃな」と律儀に断って切りつけた。普段ならば無謀の行動。だがグウェインは、オルステッドがこの寒空の下、防寒具もなく昨日、今日と野外の探索を行って動きが鈍っている事を見抜いている。
 それでも、止めには遙か及ばないのは躊躇いがあるからか。否、止めを刺すには彼の剣技が及ばない。その為に足を止めては不利になると、彼は長年の経験で知っている。
 ティファレナが木々の闇の間から姿を現し、抜き身の剣を手に掛ける兄を冷たい眼差しで見た。周囲にはかしずく魔物達。それにすら感情を揺らした様子は見えない女性は、だが冒険者を見るや憎しみの炎を瞳に燃え上がらせる。
 そんな彼女に、ユラヴィカが呼びかけた。

「ティファレナ殿。徒に周囲に恨みをぶつけては、ティファレナ殿だけでなく『お兄ちゃん』まで更に恨まれる事になるのではないか?」

 それが、彼女の本意だとは思えない。彼女はイザヤを悪くいう人々を恨み、魔物と貶める人々を憎む。それなのに彼女の行動がイザヤをますます貶めるのは、本末転倒ではないだろうか?
 ティファレナの瞳が微かに泳いだ。オニイチャン、と小さく呟く。以前、ユレグ村でモディリヤーノがレイナの事を告げた折りにも、彼女は一瞬だけ動きを止めた。
 だが、やはりそれは一瞬しか、彼女の意識を正気付かせはしない。

「お兄ちゃんを悪く言う人は許さないッ!」

 ティファレナは怒りに叫び、それを告げたユラヴィカを睨みつけた。感情の高ぶりに応え、魔物がキロリと視線を向け、ニタリと赤い口を吊り上げる。
 同じく、妹の声に応えて兄が再びターゲットを定めた。ホーリーを放とうとする蛍石に死角から肉薄し、素早く剣の柄を首筋に叩き込む。デティクトアンデッドで警戒はしていたが、それに反応しないグウェインを見落としたのだ。
 ガクッ、と膝を折る。だが意識を失うまでには至らない。チッ、と男が舌打ちし、蛍石から距離を取った。
 ルエラはグウェインに駆け寄り、鋭く切りつける。おっと、とさすがにこれは危うく剣を受けかけたグウェインを、庇ったのはティファレナを取り巻く魔物だった。
 はっ、と息を飲む。グウェインはやはり、完全に魔物の側についたのか。それ故に魔物は彼を庇ったのか。

(‥‥いいえ)

 ディアッカは冷静に首を振る。彼はマリンの肩の上で、ティファレナが魔物に手を振って行かせたのも、それを見た冒険者の反応にニヤリと醜悪に笑った顔も見ていた。
 ティファレナの真意は判らないが、ティファレナに憑依する魔物の真意はきっと、彼らに疑念を起こさせる事だ。もしかして、という疑念は育てばやがて確信へと変わり、確信は『魔物は倒さねばならぬ』という殺意を呼ぶ。
 それは負の感情を撒き散らす事だろう。負の感情は魔物を喜ばせ、混沌の力を増すとかつて地の底で倒れた王の1人は嘲笑った。
 あの魔物が狙っているのはきっと――そういう事だ。
 もはやこれ以上、この場にマリンを置く事は危険だ。オルステッドは痛みを堪えながらマリンに離脱を指示した。それを待つまでもなく、リュドミラは空飛ぶ絨毯にマリンを乗せている。
 ディアッカが怯え逃げまどうルームに手招きして、マリンと共に行くよう告げた。ユラヴィカの風精達も、カオスの魔物の側では危険だ。
 逃亡を促され、マリンは大人しくそれに従った。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ振り返ってグウェインを見て、それからティファレナを厳しい眼差しで見る。

(きっと‥‥魔物が妹さんを狙ったのは‥‥)

 だがその言葉を飲み込んで、マリンは月道を繋いだ。まずは、此処ではないどこかへ。そこから安全な場所へ。
 開いた月道にもどかしく飛び込んだリュドミラは、辺りを見回しほっと息をつく。どこか判らないが、魔物の気配はないようだ。さすがの魔物も、どこに逃げるかも判らない相手に待ち伏せは出来なかったのだろう。
 一方、残った冒険者達は一匹ずつ、だが確実に魔物に止めを刺す事に努めた。少しでも魔物の手勢を減らし、追っ手を減らすのが彼らの役目と心得ている。
 マリンはああ見えても『特別』と称されるアルテイラ。エクリプスドラゴンをして敬意を表すと言わしめる彼女を、魔物の手に再び奪われる事だけは避けなければ。
 だがあちらも、マリンが姿を消した事で退却準備に入っている。ティファレナが冒険者への復讐を唱えるのならそれは酷くおかしな事だが、その矛盾も魔物に操られるが故だろうか?
 またいずれ決着を、と呟いた女性が水の森の奥へと消えていく。その後を追おうとする冒険者の前にグウェインが立ちはだかり、さらにその前に魔物が割り込み。
 兄さん、とティファレナが呼んだ。それに頷き、踵を返して後を追うグウェインに、せめてこれだけは、とモディリヤーノが叫ぶ。

「グウェイン殿! まずはティファレナ殿を元に戻そう。それから先の事を一緒に考えて‥‥」
「俺達の先は決まってるぜ。死刑か、一生牢獄暮らしだ」

 俺だけならそれでも良いけどな、とグウェインは肩をすくめた。その先の言葉を飲み込み、去るグウェインに唇を噛む。
 ティファレナの行動原理がイザヤにあるように、グウェインの行動原理はティファレナにある。妹が救われない限り、彼が立ち止まる事はないだろう――だがティファレナは今や、グウェインと共に指名手配を受ける身。誰も知らない地へ逃げるのでもない限り、それは永遠にレギンス兄妹につきまとう。
 今確かなことはただ、ティファレナに憑依する魔物を取り除かない限り、彼らの前にはどんな未来に続く道も存在しない、と言う事だった。