【求めしもの】占拠された村、解放を求む。

■シリーズシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2009年03月10日

●オープニング

 その村の近辺でこの頃、旅の者を始めとして、近付いた者が姿を消すと言う。
 この時期いつもやって来るはずの旅回りの商人が来ないとか、孫の顔を見せに来るはずだった娘夫婦が消息を絶ったとか。それらの報告をつき合わせて、浮かび上がってきたのが、とある、街道沿いにある小さな村。
 まだ旅には厳しいこの季節、それほど件数は多かった訳ではないが、調査に向かったその地を治める領主家の私兵も戻らなかったと言う事で、王宮にも知らせが届いた。その知らせを受けて王宮は、まずは一人の男が現地に調査に向かい。

「あ〜‥‥どう見ても魔物だな、ありゃ」

 向かった男グウェイン・レギンスは、森の中から慎重に、回り込むようにして登った崖下にある村を見下ろし、顔をしかめた。
 村の中を我が物顔で動き回っているのは、見るからに異形の魔物たち。長い爪を持ち、全身が毛むくじゃらで、コウモリのような羽を持っている。
 村人達はどうやら、彼らに捕まっている様だった。しばらくジッと観察していると、怯えた様子の村人が魔物の監視下の元、キョロキョロと辺りを見回したり、藪を漁ったり、この寒空の下で溜め池の底を漁る様子が、あちらこちらで見られた。

「‥‥何か探してる、か?」

 ふと、やつれた顔の壮年の男が魔物に連れられ、村の中でも一際大きな家の中へ消えたのが目に入った。しばらく息を殺していると、遠くに居るグウェインの耳にも確かに、苦痛に呻く男の悲鳴が聞こえる。
 自然、顔が険しくなった。

「‥‥チッ、拷問か」

 趣味の悪い事で、と唾と共に吐き捨てたグウェインは、身体を低くしたままジリジリと後ずさった。崖下に居る魔物達に気付かれない様に。
 そうして辺りの様子を簡単に確認した男は、増援を求めて来た道を戻っていったのだった。





 受付嬢はその日、この上ない不幸を噛み締めていた。
 目の前には赤毛の、翠の瞳をした男。当年とって32歳。王宮勤めをしており、何かあればフットワークも軽く現地に出かけていって一次調査をするのが仕事だ。
 そして忌々しい事に、受付嬢の血の繋がった兄。

「よぅ、ティー! お兄ちゃんが居なくて寂しかったか♪」

 冒険者ギルドに現れた瞬間、シスコン丸出しの第一声を発したグウェインに、受付嬢ティファレナ・レギンスは深々とため息を吐いた。胸の中に色々と言いたい事が渦巻き、だがそのすべてがこの兄に何を言っても無駄だ、という長年の経験則によって打ち消される。
 そんな妹の反応はきっぱり無視して、グウェインは上機嫌にステップなど踏みながらティファレナの担当するカウンターを陣取る。陣取り、意味不明に周りにガンを飛ばしている。
 はああぁぁぁー、と今度はこれ見よがしに大きな、大きなため息。

「兄さん、すごく仕事の邪魔なんですけど」
「何を!? この世にお兄ちゃんよりティーを愛してるヤツなんて居ねぇぞ!?」
「意味不明ですから! 用がないなら出てってくれます?」

 本気ですよ、と気迫を込めて睨みつけると、ふむ、とグウェインが首を傾げる。その瞳が面白がるように歪んでいるのに、ティファレナは唇をへの字に曲げた。途端に浮かぶ、ニヤニヤと人の悪い笑み。
 そんな風に笑んだまま、だが声色は真剣にグウェインは言った。

「もちろん依頼だぜ? ティー、ウィルから北に登る街道があるだろ。馬で1日半ばかり行った辺りにある村、判るか?」
「‥‥ッ、馬鹿にしないで下さいッ。それ位判ります」

 試すような口調にむっとしてその村の名を口にすると、良く出来ました、と言わんばかりに目を細める兄。その態度にまた、ムッと額に青筋を浮かべたティファレナを、あやす様にグウェインは言葉を続ける。

「その村が魔物に占拠されて、村人が扱き使われたり拷問されたりしてんだよ。だから、俺と一緒に村に行って魔物を追っ払ってくれる冒険者を募集する」

 言われた言葉に、流石に受付嬢を名乗るティファレナはたちまち真剣な顔付きになり、依頼書を取り出した。兄の言葉を書き記し、補足を求める。

「具体的にどんな魔物が居たんです?」
「ん〜、遠目に見ただけだけど、ありゃカオスの魔物だな。それも15体位。もしかしたらもっと居るかもな」
「カオスの魔物‥‥それが村を占拠して村人を拷問しているんですか? それ、兄さんが調査に行ったんですよね、王宮は何してるんです?」
「動けるなら動いてるって。ティー、こっからが重要なトコなんだけどな、奴らは見張りを立てて近付いた人間も全部捕まえて、秘密裏に何かやってんだ。旅人も承認もお構いなしにな。だから出来れば少数精鋭で、こっそり近付いてパパッと片を付けたい」

 グウェインの言葉に、成る程、とティファレナも納得する。確かに王宮の騎士団なりなんなりが動けば、大掛かりになって向こうに気付かれ、下手をすれば囚われている村人の身に危険が及ぶ。それよりはそれぞれが多彩なスキルを持ち、戦闘力にも優れた冒険者に、となるのは理解できた。
 それに、こう見えてグウェインは、元々冒険者だった。今でこそ王宮勤めなぞしているが、若かりし頃にはそれなりに活躍もした、と聞いている。
 そんな彼にとっては未だ、冒険者は頼りになる仲間なのだろう。
 判りました、と頷いてティファレナは依頼書の残りの部分を書き上げ、ふと首を傾げた。

「‥‥カオスの魔物はその村で、人々を拷問にかけたりして、一体何を聞きだそうとしてるんでしょう?」
「そりゃ助け出してから聞いてみんと判らんだろ」

 ひょい、と肩をすくめた兄の言葉は、まぁ当然の事だった。





 同じ頃、件の村で。

「あーもう、デビルのヤツラってばほんっとムカツクッ! この私が! なんであんな訳わかんない奴らの為に! 探し物なんかしなきゃいけない訳!?」

 何かぶち切れて周囲の魔物に当り散らしている、妙齢の女性が居た。

「そりゃ主様の命令だし、私も魂集められるから良いけど! この辺りにあるかもって話を最後に音沙汰無しだし、人間どもは役に立つ事吐かないし! ああムカツク!!」
「では主様により詳しいお話を伺ってみてはどうです?」
「‥‥ッ、わ、判ってるわよ、そうしようと思ってた所よ! 良いアンタ、私が居ない間もサボらず人間共を働かせて鍵とやらを探すのよ!」
「は、畏まりました」

 そうして、女性の姿をした魔物は姿を消し。深々とお辞儀をした、火を纏う魔物は大きなため息を吐いた。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 インビジブルで姿を消して、アシュレー・ウォルサム(ea0244)は行動を開始した。
 テレスコープのスクロールによって、すでに村の配置は頭の中に叩き込んである。魔物は村の周囲をぐるりと取り囲む様に7体が配置され、5体が村人を容赦なく引っ立てては何かを探させるように、或いは何かを探り出すようにあちらこちらと引きずり回す。
 それらのルートを加味した上で、まずは一番手薄の西の崖から、フェアリーダストでゆっくり音を立てずに飛び降りた。崖を監視する魔物達の目と鼻の先に着地し、すかさず気配を殺して魔物の横をすり抜け、村への侵入を果たす。

(あっちが村人が閉じ込められている家、向こうに見えるのが多分、魔物が村人を拷問してる家、か)

 崖の上からの観察でも大体の見当はつけていたが、実際に村の中を隠密に動き回り、エックスレイビジョンで目ぼしい建物の中を確認して回る。多くは空き家で、中心辺りにある一際大きな家と、その周囲の3〜4軒のみが、使用されている気配があった。
 人口は60人程度と聞いていたが、実際に確認出来た人数は凡そ40人程度。残りの者は別の場所に囚われている、と思いたい所だが。
 可能な限り情報を集め終え、再び崖の上に仲間の元に戻ると、今は遅しと仲間達が待っていた。アシュレーが戻るまでの間、もどかしい想いで眼下の光景を見つめていたのである。
 真っ先に口を開いたのはシャルロット・プラン(eb4219)。当初は彼女がインビジビリティリングで潜入調査を、と思っていたのだが、ギリギリの所で隠密行動を得意とする者が作戦に参加した為、今回は待機に回った。

「どうでした?」
「大体はグウェインの情報通り、かな」

 万が一を用心して崖から少し距離を取り、辺りを十分に警戒した上で、簡単な見取り図を地に描きながらアシュレーが説明する。魔物の配置されている場所。村人の囚われている場所。村の様子。 
 残念ながら問題の屋敷の中や、その中に居ると思われる首魁の姿は確認する事が出来なかった。と言うのも件の屋敷はアシュレーがギリギリ通れる程度の大きさの窓しかなく、魔物が見張っている入り口から忍び込もうにも、姿を消してはいても扉をすり抜けられる訳ではないので、そのきっかけが掴めなかったのだ。
 だがこれだけでも十分な情報だ。待ってる間に周辺を調査したリオン・ラーディナス(ea1458)やオルステッド・ブライオン(ea2449)、シン・ウィンドフェザー(ea1819)によって、魔物達が村の外を警戒してはいても、村の外に出て来ない事も判っている。
 シンが地に描かれた見取り図を険しい眼差しで睨みつけた。

「それにしても‥‥連中がそこまでして何か探させてるって事は、例の『冠』関係なのかもな?」

 その言葉に、ふと眉を寄せる冒険者達。今現在をもってなお進行中の地獄での戦い、その行く末を握る1つが世界のどこかにあると言う『冠』なる品。かつてシンが見えた月の巨竜も、魔物達は彼らの王の為に『鍵』或いは『冠』と呼ばれる『何か』を探している、と言った。
 今、この時点でそれは見えない。ただ、魔物が村を占拠し、何かを探している、という不審な行動があるだけ。

「とにかく、今回は村人の救出が最優先ですね」
「何があるにしてもまずは囚われの人達を救わなきゃ、だよね」

 気持ちを切り替えるように言った晃塁郁(ec4371)の言葉に、リオンが同意の言葉を返した。冒険者達も、グウェインも強く頷く。
 今ここに、魔物に虐げられている人々が居る。魔物の目的がなんなのかとか、そういう事を考えるのは、まずは囚われの人々を無事に助け出してからだ。
 その為に、まずは綿密な計画を。そして行動を。
 真剣な顔で話し合い始めた冒険者達に、ここまで乗ってきた馬がブルル、と体を震わせた。





 作戦は至ってシンプルだった。即ち、まずは村人の救出。その上で魔物の殲滅。
 決行は夜陰に紛れて、侵入は南の森から。このルートが村人の囚われる家々までに、一番身を隠す場所が多かった。
 森の茂みの中に身を潜め、じっとその時を待つ。そして。

「‥‥ぃよしッ! 行くか!」

 掛け声だけは勇ましいグウェインの合図で、それぞれが役割を果たすべく行動を開始した。シンとオルステッドが目の前の魔物に切りかかり、アシュレーがクイックシューティングで魔物を狙い。塁郁がデティクトアンデッドで周囲の魔物の動向を探り、素早く仲間へと知らせる。

「気を付けて下さい、そちらから回り込んできます!」
「よしきた!」

 答えたリオンが塁郁の言葉に従い、現れた魔物を一閃。ギィィ、と魔物が呻いて怯んだ隙に、駆けつけたシンが止めを刺す、その隙にアシュレーとシャルロットが念の為に姿を消して村人の元へ。
 その場で監視に当たっていた魔物は計3体。戦っているうちに騒ぎを聞きつけ、村の中からさらに2体が応援に駆けつける。それらとぶつかりそうになった先行2人は慌てて避け、後ろの仲間に後を頼んだ。幾ら姿を消しているとは言え、流石に接触してしまっては隠密行動も何もない。
 目的の家は4軒。辿り着いた2人は慎重に辺りの気配を探り、インビジブルの効果が切れた互いに視線を走らせる。この近辺の魔物はあらかた応援に走っていってしまったようだが、問題の一際大きな家にはまだ、見張りの魔物が張り付いている。決行前に酒に浸る者の、毛むくじゃらの大きな邪気振りまく者に似た姿を見て、魔物に詳しいオルステッドは「麦酒があれば良かったか‥‥」と少し顔をしかめていた。
 問題の家を見張る魔物の様子を、再度確認したアシュレーとシャルロットは、打ち合わせ通り村人が閉じ込められた家へ忍び込む。疲れきった様子で肩を寄せ合い、外の騒ぎに怯えた表情をしていた村人達は、突然の乱入者にびくりと体を震わせたが、それが魔物ではないと判ると安堵の表情を見せた。

「あぁ‥‥あんた達は‥‥?」
「助けに来たよ。自力で歩けない人は居るかな」
「何人か‥‥」
「ならばまずは動ける者だけでも村の外へ!」

 冒険者達の言葉に、打ちひしがれた表情で蹲っていた者もさっと希望に顔を輝かせ、気力を振り絞ってよろよろと立ち上がる。家から出る前にアシュレーが、こうしてる間にも魔物の第一陣を打ち破った仲間達が2手に分かれ、街道への脱出ルートの確保とこちらの応援とに向かっている事を確認した。
 駆けつけたのはリオンとオルステッド。塁郁とシンはグウェインと共に、街道側の確保に向かっている。同じ手順で、見張りの魔物の目を盗んで残る2つの家から村人を連れ出し、一所に集めた。痛めつけられ、動けない者には順次ポーション類を与える。
 村人の護衛にはアシュレーが付き、シャルロットが提供した食料を持たせて、街道側へ向かった。幾つもの黒々とした空き家を通り過ぎると、村人達の中から啜り泣きが漏れ聞こえる。何故こんな目に合うのか、再び戻って来れるのか。大人達はそれを憂い、子供達はただ己が身に降りかかった恐怖に泣きべそをかく。
 幸い街道側に配置されていた魔物は1体のみで、シンによって撃破された後だった。塁郁がデティクトアンデッドで、辺りにもう魔物が潜んでいないか確認している。
 アシュレーに励まされながらやって来た村人達の、拭い去れない不安の表情にシンは先頭に居た、ぐっと唇をかみ締めて肩を怒らせた少年の頭をぐしゃりとかき混ぜた。

「‥‥男なら泣くなよ?」
「泣かねぇよ!」

 強気で言い切った少年の目は潤んでいたのだが、それには気付かなかったフリをする。「後は頼むね」とバトンタッチしたアシュレーに任せておけと頷き、グウェインの先導の元、シンはしんがりを勤めて村人達を誘導し始めた。ここから3Km程の所に救助用のチャリオットが待機している。
 一方、村人をあらかた避難させた村の中では、本命の大きな家の前で冒険者達が突入のタイミングを図っていた。見張りの魔物は2体。この騒ぎに落ち着かない様子だが、持ち場を離れようとはしない。
 ちら、と目線を交わした冒険者達は、頷き合って。

「行きます!」

 合図と同時にオルステッドがダガーofリターンを右の魔物目掛けて投げつけた。ひるんだ隙に彼我の差を一気に縮めたリオンが小太刀を一閃。合わせて爪を閃かせた左の魔物にシャルロットが襲い掛かり、戻ってきたダガーを受け止めたオルステッドのローズホイップに後を任せ、リオンが身を翻してシャルロットに助太刀する。
 止めを刺され、崩れ落ちた魔物は瞬くうちに塵に還った。それを見届ける間もなく、北や東の防衛に当たっていた魔物も駆けつける。
 他方、冒険者の側もアシュレーと塁郁が駆けつけ、圧倒的な力量差で残る魔物も塵に還された。その様子に塁郁がほんの少し眉を潜める。可能ならデッドコマンドで魔物の目的を探り出したかったのだが、その暇もなかった。
 だが気を取り直し、デティクトアンデッドで魔物の気配を確認する。

「探れる範囲では、家の中以外に魔物は居ないようです」

 数は酒に浸る者と思われるものが2体に、それとはまた別の魔物が1体。首魁だろうか。
 この家の中にも囚われた村人が居る事は、事前調査で判明している。ならば突撃あるのみ、とシャルロットは入り口に聖なる釘を突き刺し、魔物を逃さぬよう結界を構築した。





 家の中に囚われていたのは、この村の村長だという30代位の男と、彼の両親である老夫婦だった。村長はかなり痛めつけられた様子でぐったりしており、老夫婦も心労が重なって衰弱していた。
 彼らの応急処置を受け持った塁郁を残し、冒険者達が向かったのは別室。そこには首魁と思しき魔物が捕えられていた。見た目は酒に浸る者と同じく、邪気振りまくものを大きくしたような姿。一旦は姿を消して逃げようとしたのだが、その前に冒険者に捕まった。
 見張りに付き、同時に尋問も行っていたシャルロットが、仲間の姿に微笑んだ。まだ何も有用な情報は得られていない、と報告する。直前、踵でぐりぐり踏み躙っている様に見えたのは、きっと触れてはいけないお約束だ。
 もちろん礼儀を弁えた冒険者達は、誰一人その事実には触れる事無く、魔物の尋問に加わった。

「いい加減、目的を吐いたらどうです?」
「‥‥‥」
「頑固だなぁ。まぁ聞かなくても大体は判るけどねぇ」

 あくまでだんまりを決め込もうという魔物に、すでに情報は掴んでいる、とはったりをかます。だが魔物はジロリ、と恨めしそうに睨みつけた。

「私は密偵の呼称を持つ魔物。主様が良いと仰らぬ限り、この火を放つ者の口を割らせる事は出来ませんよ‥‥まったく、何でデビルなんかの為にこの私がこんな目に‥‥」
(‥‥言ってるな)
(言ってるよな)

 密偵、口が堅いのか軽いのか良く判らなかった。
 無言で尋問の方針を変更する。

「‥‥この村の近辺、或いは村内に目的があるのかも言わないんだろうな‥‥」
「当たり前です‥‥まったく、主様のご命令でなくて、誰がこんな所でちまちま探し物なんか‥‥」
「ふむ、たいした忠義。ではもちろん、探し物が何なのかも」
「言いませんよ‥‥まったく、誇り高きカオスの魔物を捕まえて『鍵』だかなんだか、デビルというのはまったくいけ好かないというか‥‥」

 『密偵』、情報が駄々漏れである。別の意味でカオスの魔物が心配になる瞬間だった。
 そんな調子で案外スムーズに情報は聞き取れたのだが、生憎、それ以上の事は魔物も知らない様だった。魔物から聞き出せたのは、デビルが彼らの主を通じて『鍵』なる品の探索を依頼し、力ある品らしいので上手く使えば混沌を招けそうだ、と面白がった主がそれを受けた事。だがデビルも具体的にそれが何なのかは判っておらず、最後にそれが確認されたこの村を取り合えず探して来い、と火を放つ者ともう1体の、古い品々の知識の豊富な魔物に命じた事。
 それ以上は同じ愚痴がエンドレスに続くので、5周目位でこれ以上の情報は得られなさそうだと判断し、火を放つ者を始末した。後は、救出した村人から話を聞くしかなさそうだ。
 塁郁の手当てを受け、どうにか話せるほどまで回復した村長家族は、冒険者に尋ねられると悲痛な顔になって訴えた。

「私共は詳しくは存じませんが、あの魔物は別の魔物に従っていました。それは『死屍人形遣い』と呼ばれていて、人の死体を操るのです。今は妻の死体を‥‥どうか妻を取り戻してください‥‥ッ!」

 だがその、妻の死体を操る魔物がどこに行ったのかは知らない、と彼らは揃って首を振る。彼らの衰弱を考えれば、一旦ここは引き上げて、改めて調査に訪れるしかなさそうだった。





 ひとまず、救出した村人は近隣の町に保護を求める事になり、チャリオットで輸送された。中には行方不明となっていた旅人や商人も居た。
 その一方で、20人近くの村人が魔物の手にかかって亡くなった事も明らかになった。村長の妻にとりついた魔物はそれまでにも、時に退屈を紛らす様に、時に衣装を変える様に次々と村人を殺し、死体にとりついては意のままに操ったと言う。
 それらの事実を、グウェインは忌々しそうな顔で聞き。

「‥‥解った。ありがとうな」

 冒険者に頭を下げてそう言った。
 こうして依頼は終了し、ウィルに戻った後、グウェインの妹ティファレナを礼服で訪ねるリオンの姿が見られたのは、完全な余談である。

「グウェイン氏の獅子奮迅の働きが手伝い、村の人達は無事救われました。彼の助力には大変感謝しています。また機会があればその時も宜しくお願いしたい、と彼に伝えて下さい」
「‥‥もしかして、兄が何か馬鹿な事を申しました? 先ほどもオルステッドさんが見えられて、兄が大活躍だった、と仰いましたけど‥‥」

 唇をへの字に曲げ、渋面を作ったティファレナに、うっ、とリオンは言葉に詰まって全力で目を逸らす。まさかティファレナにグウェインの活躍をアピールする条件で、村での保存食をグウェインに奢ってもらった、とは言えない――オルステッドは単に、兄は大活躍だったと言ってくれ、と頼まれたのを義理堅く護っただけだが。
 しかしその反応だけで何かを察した彼女が、その夜、帰宅した兄を怒り倒した事も、完全な余談である。