【喧嘩屋】最終の陣・贖罪への道

■シリーズシナリオ


担当:相楽蒼華

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月16日〜06月21日

リプレイ公開日:2005年06月21日

●オープニング

 奉行所前。左之と後藤が話し合いをしていた。
 この前の依頼で捕まった綺螺の事だ。

「どうしても助けられねェのか?」
「このままだと百叩きは免れないな‥‥」
「そんなのってねェだろ!?」
「大体な。助けたいとは言うが、彼女は本当にそれを望んでるのか?」
「望む、望まないじゃねェ!必要とするかしないかだ!」
「やれやれ。だいぶお熱だな?」
「るっ、るせぇ!」
 左之が少しぶっきらぼうに言い放つ。
 どうしても助けたいと願う気持ち。
 後藤には少し分かる気がしていた。多分自分が同じ立場なら同じ行動をとっただろう。

「一つだけ方法があるぜ。贖罪だ」
「贖罪?」
「そうだ。今の彼女は、町人、役人からの信頼を失っている。犯罪人として見られている為、偏見で見られる部分が多い」
「‥‥」
「それを回復させながら保釈金を溜める。それが贖罪だ。どうだ、やってみるか?」
 後藤がそう持ちかける。無論、左之は受けるとばかり頷く。
 ‥‥本当はそんな制度はない。ただ、自分が信頼を取り戻して欲しいと願っているだけで。
 しかし、ここで一つ問題があった。
 このままの状態で左之を行かせては、暴走しかねない。
「よし、決まりだ。贖罪だからな、ペナルティを与えなけりゃならん」
「ペナルティ?」
「そうだ。喧嘩屋の命でもあるその拳を封じさせて貰う」
 そう言うと、後藤は左之の手首に手枷をつける。
 これで暴走してもあまり暴れられないだろう。それと同時に、危険に陥る事も多くなる。
「後、保釈金は40Gだ。寄付は絶対に受けるなよ?贖罪にならん」
「贖罪?それならばいい仕事が今ある。近くに山鬼戦士が出ていてね。それを退治してもらえんかね?」
「! 待て、いきなりそれは危険だぞ!?」
「やらなくてもいいんだぞ?綺螺という女を助けたくなければな?」
 いきなり出てきた役人にそう告げられる。ここまで言われたら左之も引き下がれない。
「おっしゃ!受けてたってやる!何時か綺螺を迎えに来るからなっ!?」
「‥‥どうしてあんな仕事を押し付けた?」
「フン。気に入らんのだよ。あんなケダモノ、死んでも誰も悲しまんわ。綺螺という娘もな」

 その日の夕刻。冒険者ギルド。
「すまん、依頼だ」
「後藤さん?依頼って、なんです?」
「左之が役人の挑発に乗って、山鬼戦士退治に向かわされた。しかも両腕を手枷で封じられている。まともに戦える状態ではないだろうから、手伝ってやってくれんか?」
「贖罪?それでは、綺螺さんの?」
「そういう事だ。報酬は全て保釈金に当てられるが悪く想うなよ?」
「それは仕方ありませんからね。それで納得する冒険者がいればですけれど」
 ギルド員が苦笑する。まぁ‥‥保釈金制度なんてジャパンにはない‥‥。
 どちらにしても、綺螺の処罰は決まっているのだから。それを捻じ曲げれる者がいればと誰もが願う。
「あいつを手伝ってやろうという奴にだけ伝えてくれ。それと‥‥不本意だろうが、監視はつくぜ?」

 守りたい人がいる。
 信じたい人がいる。
 助けたい人がいる。
 それぞれの想いが交差して、今ひとつになる。

●今回の参加者

 ea2034 狼 蒼華(21歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3200 アキラ・ミカガミ(34歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea6717 風月 陽炎(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0813 古神 双真(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1420 プリュイ・ネージュ・ヤン(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 守りたい人がいるんだ。
 だからこんな無謀な頼みごとも引き受けた。
 助けたい人がいるんだ。
 だから魔物に向かっていく。
 信じてもらいたい人がいるんだ。
 だから‥‥頑なに立てたい、誓いがある。

 左之の周りに集まる冒険者達。
 各々がその左之の姿を見て、思うだろう。
 『合わす顔がない』と。しかし、引き受けた以上、左之の手伝いをしなければならない。
「‥‥手前等。何しに来たんだよ」
「左之兄ちゃん‥‥」
「っは。怒ってるとでも思ったかよ?呆れてるぜ‥‥俺はよ」
 いいのける左之。前回、半ば冒険者の所為で綺螺は牢獄に入れられたのだ。
 よく思うはずがない。しかし、怒りはない‥‥通り越して呆れているようだ。
「っま、お前がそう思うのも仕方ねぇ。けどな、俺達だって自分の尻拭いはしに来たつもりなんだぜ?」
 左之にくっついてる狼蒼華(ea2034)を他所に、古神双真(eb0813)が衣服を裂いて繋ぎあわし、血判を押したものを放り投げる。
 一種の誓いを立てたのだろう、冒険者全員で。
「‥‥謝りてぇ事が大量にあんだよ,何より俺達は綺螺から多くのもんを奪った、だから‥‥俺達自身の贖罪のためにも、手伝わせてくれ」
「助けたいんです。貴方も、綺螺さんも。だから私達も誓いを立てたんです」
「その気持ちは、汲んでほしいネ」
 ケイン・クロード(eb0062)と羽鈴(ea8531)の言葉で少し落ち着いた左之は小さく頬を掻く。
 その手枷が、どんな思いでされているのか‥‥。
 そして小さく頷くと、背を向ける。
「とっとと行くぜ。綺螺を迎えにいかねぇとだからよ」
 ‥‥本当は照れくさかったのかも知れない。
 だから冷たく言っているのかも知れない。
 今は深く探らない方がいいだろう。

●思いの強さ
 街道の近くには魔物がうろついているポイントがある。
 どうも其処にいるらしいのだと左之はいう。
 しかし数は聞いていない。現状では怖いものだ。手枷でまともに戦えない者が一人いるのだから。
「‥‥雨‥‥降るかなぁ‥‥」
 プリュイ・ネージュ・ヤン(eb1420)がポツリと呟く。
 確かに今日は曇り。降るかも知れない。降れば彼女にとって大いに助けになるのだが。
「さて、ここからそれぞれ別れる事になるみたいですね。山鬼は僕達でやりましょう」
 そう言って立ち上がったのはアキラ・ミカガミ(ea3200)と天風誠志郎(ea8191)、ケイン、プリュイだ。
「私達で山鬼達を引き付けます。‥‥山鬼戦士は頼みましたよ?」
「あぁ、分かった。くれぐれも無茶すんじゃねぇぞ?」
「無茶しなくちゃ‥‥やってられない事もありますから」
 プリュイが小声で言った言葉は、双真にしか届いていないようで。
 双真は少し複雑な顔を浮かべる。異国に残した恋人を思い出して。

 魔物がうろついているポイントにケイン達は足を踏み入れる。
 大きな咆哮。その先には山鬼が沢山うろついている。
 ケイン達を見つけるとその半端ない数は一斉にケイン達目掛けて走り、攻撃をしかけてくる。
「‥‥可能な限りひきつけます。援護の方、お願いしますね。」
「無理だけは禁物だよ?」
「大丈夫ですよ。僕達が守ればいいだけの話でしょう?」
 アキラがケインに向かって笑みをこぼす。
 そして、プリュイの前に双璧を成す。ファイターとナイトという双璧。
 ケインが走ってくる一部の山鬼にソニックブームを放ち、牽制。
 プリュイはまだ詠唱を続けている。
 誠志郎が群れに突貫し、一匹ずつ確実に潰していく。
「皆さん、退いてください!当たっちゃいますよ!」
 どうやら詠唱が完成したらしい。プリュイの言葉に、各々がその場を引く。
「我が手に集いし雷帝の吐息 破壊の煌きとなりて 解き放たん‥‥ッ!」
 稲妻が一直線に走る。ライトニングサンダーボルト。
 その一撃のお陰で半分の山鬼は退治する事が出来た。しかし残りは半分。
 一匹の取り巻きにしては多い気がした。
「まさか‥‥二匹、いる‥‥?」
 ケインの胸で胸騒ぎが始まった。

●罪は全て拳に。
「どうやら始まったみてぇだな。俺達もそろそろ行くか?」
「そうですね。左之さん、出来るだけ私達から離れないようにお願いしますよ?」
 風月陽炎(ea6717)が苦笑しながらもそう伝える。彼は山鬼戦士にとっていい思い出はない。
 今回も噛ませ犬で走るそうだが、それも上手くいくか不安であるらしい。
「左之兄貴!」
「んあ?」
「絶対助けような‥‥」
 蒼華の言葉に、少し溜息をついて頷く。自信がないわけではない。されど不安がないわけではない。
 やるしかない。役人を見返すために。

 先発隊より少し反れた道を通りながら、双真達はポイントより更に奥へと進む。
 そこにいたのは、山鬼戦士。しかも二匹。
 予想外とも言えるだろう。
「な‥‥二匹ですって?こんな話聞いていませんよ!?」
「そりゃ俺だって同じだ!でもやるしかねぇだろうが!」
「そうだっ!左之兄貴や綺螺姉ちゃんを助ける為にはっ!」
 双真達の思いはどうやら一つのようだ。
 これなら上手く連携もとっていけるだろう。
「まずは私が行きます。皆さんは左之さんを頼みましたよ?」
「陽炎!‥‥死ぬんじゃねぇぞ?」
「やっと名前、覚えて頂けましたね。貴方との勝負、決着つけるまでは死んでも死にきれませんから」
 陽炎の笑顔。それを見て余計に不安になる。
 しかし、ここで左之が冒険者達の足を引っ張ってしまえば、それこそ努力が水の泡だ。
 堪える事。これしかなかった。

「さてさて‥‥吉と出るか、凶と出るか‥‥ですか」
 山鬼戦士は二匹。しかし、やれるのは一匹まで。
 そう自分の力を理解している彼は、近くにいた一匹に挑む。
 一撃目。ダブルアタックを山鬼戦士に放つ。同時にその攻撃はストライクEXとなる。
 山鬼戦士もいきなりの攻撃で少し戸惑い、ダメージを受ける。しかしよろめく事はない。
 が‥‥そこに付け加えられたバースト‥‥その狙いは、山鬼戦士の鎧にあった。
 しかしその鎧も流石で、鈍い音しか聞こえない。
「くっ‥‥やはり一度では無理ですか‥‥!」
 舌打ちをしながらも次の攻撃を放とうとする陽炎。その隙を狙っての山鬼戦士からの一撃が繰り出される。
「それを待っていましたよ、私はッ!」
 カウンターアタックにバーストアタックを乗せ、鎧に一撃を入れる。
 ピキリとヒビが入り、鎧は崩れ落ちる。まずは成功である。
 しかし、ここで予想外にも陽炎の胸にドスリと鈍い音がした。
 相手にしていなかったもう一匹からの槍の攻撃。ズルリと抜いた後に、血が勢いよく流れ始める。
「ククッ‥‥抜かりましたね‥‥‥。せめて、土産くらいは頂いていきましょうかぁ!」
 最後の気力を振り絞ってのカウンター+ストライクEX+ダブルアタックEX。二撃目までにバーストを乗せて。
 狙いは槍。それさえ崩してしまえば、一匹はただの山鬼と同じになるのだから。
 ガキリと音がして、槍は脆くも崩れ去る。しかし、その代償は大きく、陽炎は地面へと落ちる。
「これで、素手でも有効打が入るはず‥‥後は‥‥御願いします」
 ‥‥もう動く事はなかった。

「陽炎さん!」
「鈴、行くぜ。アイツは立派に役目果たしたんだ、後で寺にでも連れてってやりゃあいい」
「‥‥あぁ、その分の金は俺も出してやるよ」
「左之?」
「お前達、やっぱ俺は好きだってこった!」
 ニィと笑う左之。やっと笑ってくれた。
 が、ここでのんどりしているワケにもいかない。あの二匹を早く倒さなくては。
「さぁ、行くぜッ!」
 双真の気合が入った声と同時に鈴、左之も動く。
 一撃目。双真のブラインドアタックが丸裸の山鬼に打ち込まれる。
 流石に鎧がない時点で有効。更に武器もないのだからそれ相当の反撃は出来ないだろう。
「双真、一気にケリつけっぞ!鈴、援護頼む!」
「分かったネ!‥‥何だか左之さん、イキイキしてるネ」
 そしてまた双真達の攻撃は始まる。
 一撃目。鈴の龍飛翔。二撃目。左之の小回りを活かしての蹴り。事前に蒼華のオーラパワーのお陰で助かっているようだ。
 そしてトドメは双真のポイントアタックを使ってのブラインドアタック。狙いは首。
 ‥‥丸裸の山鬼戦士は崩れ落ちる。が、安心する間もなく、もう一匹の山鬼戦士の槍が蒼華を襲う。
「うわっとと!あっぶねー‥‥!」
「蒼華!‥‥アイツはちっと厄介だな‥‥薄いとこ狙えるかどうかか‥‥」
「なら、俺援護するぜ!そんで、その間に薄いとこ狙ってくれよ!」
「頑張って欲しいネ、双真さん!私も援護するネ!」
「お、お前等‥‥」
「なんだってら俺も援護してもかまわねぇんだぜ?」
「お前は大人しく後方にいやがれ」
 左之とそんな会話を軽く交わし、いざ思いを一つにしてのラストバトル。

 一撃目。蒼華のオーラショット。これで気を反らすという戦略。
「っし!目がこっちに向いた!鈴、頼む!」
 二撃目。鈴の龍飛翔。よろめく山鬼戦士。その時に見つけた、薄い部分。
「双真さん、首横ネ!」
「応ッ!」
 トドメ。再度飛び出す双真。相手は攻撃しようにも鈴と蒼華が抑えている。
 再度のポイントアタックとブラインドアタック。崩れ落ちきった山鬼戦士を見て、一同はやっと安堵を得る。

●贖罪
「お前等、よくやったな」
 聞き覚えのある声。振り向けば其処には後藤が立っている。
「何でお前がここにいるんだよ!?」
「丁度いいネ。聞きたい事があるネ!」
「何だ?」
「本当に綺螺さんを返してくれるネ?両手を封じて上司のこの話、そして監視信用しない訳はないけど信頼を無くした私達に後はないネ、償いになるかは不安ネ!」
「その事についてはボクから説明するよ。その方がいいでしょ?」
 更に聞き覚えのある声。そこには綺螺と陽動班に向かっていたケイン達の姿があった。
「綺螺!お前、何で‥‥!」
「実はなァ‥‥保釈金ってーのは嘘だ。時間稼ぎの為に言っただけだ。あん時、俺は綺螺にとある条件を持ちかけていたんでな?」
「その返答を出すまでのね?後藤さんってば人が悪いんだからー」
「じゃあ、綺螺の身はどーなるんだ!?」
「奉行所が預かる事になった。‥‥と、いうか、奉行所の密偵となってもらうことで一致したぜ」
「でも、ボクの疑いはこれで晴れたわけじゃないんだよ。やっぱり、よく思わない人がいるみたい」
「んだから、今後綺螺は役人の警戒を解す為に贖罪を選ぶそーだ」
 後藤と綺螺がそう説明する。つまり、彼女は生きながらえた。奉行所の密偵として。
 確かに彼女の身のこなしならばそれも勤まらないわけではないだろう。
「とりあえず、今後また協力して貰うことが出来るかも知れん。しかしそれは全て贖罪だからな?」
「綺螺‥‥おかえり」
「左之‥‥♪」
 そんな二人をがるると見ている蒼華。でも内心はよかったと思っている。彼の思いは、成されたのだ。
「あー‥‥その、ピンク空間はいいんですけど、陽炎さんを寺に‥‥」
『あ゛っ!』

 こうして依頼は無事成功を収めた。約一名の死人を出して。
 しかし、その本人は寺で生き返らせて貰い、平然としていたという。
 次の穴は何処に開けるやらという話で盛り上がりながら帰路につく冒険者達であった。