●リプレイ本文
水戸までの旅路。
其れはとても楽なものではなかった。
しかし、これも贖罪と考えれば、彼らにとっては困難な事ではないだろう。
水戸は今、黒い渦の中心にいるかも知れないのだから。
○水戸の猛将
「やれやれ、またこの水戸に来ることになっちまうとは、思わなかったぜ」
「其れに今度は肩書きありだぜ!きっと大事な仕事に違いないっ!」
古神双真(eb0813)と狼蒼華(ea2034)が騒いでいると、その隣でエレオノール・ブラキリア(ea0221)が苦笑を浮かべていた。
「皆さん、そんなに騒がないでください。仮にもここは藩主に縁ある場所で‥‥!」
「よい。この場所には他の者はおらぬ故、堅苦しい事はなしだ」
男の声がした。
振り向くと其処にはまるで竜のような鎧を纏った長身のごつい男の姿があった。
どうやら彼が本田忠勝なのだろう。
「よく来てくれた、冒険者達。後藤からは話は聞いている。江戸では大変だったそうだな?」
「そっ、そんなことないよっ!ボッ、ボクこういうのって慣れてるし!」
「綺螺さんっ!」
慌てて話しまくる綺螺を瓜生勇(eb0406)が静止する。
仮にも志士として、礼儀、忠義を重んじての言葉だろう。
そんな冒険者達の様子を見て、忠勝は少しだけ笑みを浮かべて見せた。
「さて‥‥そろそろ本題に移ろうか。今回主等に頼みたいのは他でもない、城の内情だ」
「以前ここへ来た時に得た情報‥‥商人達の事ではないという事は聞きましたが‥‥」
「調べて欲しいのは藩士達の方だ。内通者がいると思って間違いはないのだが‥‥」
「手がかりがねぇから、その手がかりをみっけてこいってか?」
双真が尋ねると、「如何にも」と忠勝は頷いた。
「手数ばかりかけてしまうな。しかし、此方も妖怪等の件もある。それだけは察して欲しい」
「分かってます。何とか頑張ってみますね」
「其処のエルフの女人二人にはジャパンの着物を用意しておいた。城の中では窮屈であろうが其れを着用して欲しい」
そう言うと、忠勝は立ち上がり大きく一礼し、その場を後にしたのだった。
○狐の物の怪の話
かたまって動くのも目立ってしまうという事で、冒険者達は一度バラバラになって情報を集める事となった。
エレオノールは、用意された着物に身を包み、女中と楽しそうに話をしていた。
他愛もない話。まずは親しくなろうと考えたのだろう。
話術の効果もあってか、女中は既にエレオノールに不信感を抱いていないようだ。
「其れはそうと、少し聞きたい事があったんだけれど‥‥いいかしら?」
「あら、何かしら?」
「この前ね、水戸の町で二股の尾の狐の尻尾を見たの。それで、其れに詳しい人はいないかしら?って」
「どうして?」
「そうね、凄く興味があるの。私、どう見てもジャパン人には見えないでしょう?だから、そういったお話を聞いて、出来る限りジャパン人に近づこうって思って」
エレオノールの話術も大したものである。
女中達も、疑いもなくちょっと笑って言葉を紡ぐ。
「そういえば、一人お詳しい藩士がいらっしゃったわね?」
「名は何と言ったかしら?」
「確か、豪‥‥とかいったかしら?」
女中がゆっくりと発音出来るようにその男の名を教えてくれた。
エレオノールは、「ありがとう」と頭を下げて、その場を後にした。
「‥‥これだけじゃ確かに確証は持てないわね。那須でも何かあったみたいだけど‥‥こっちと繋がりがあるのかしら?」
不穏な空気に背筋を震わせながら、エレオノールは情報を纏めていくのであった。
○忠勝の心中
蒼華と綺螺は二人でペアとなって調べる事になったのだが、蒼華は何かを聞き忘れてしまったのか、二人は忠勝を追いかけた。
「本田様!」
「ん‥‥?主等、ついてきたのか?」
「はい、聞きたい事とかあって!」
「主等の聞きたいことはある程度察しはついている。この文を後で読むといい。‥‥私はあまりこういった手段は好まない。しかし、自分の主の危機であるというのならば仕方がなかろう。綺螺と蒼華とかいったな? 黒牙衆‥‥期待している」
そう言うと、忠勝は武将しか入れないそんな部屋へと去っていってしまった。
残された二人は、少し呆然としていた。
其れもそのはず。あの勇猛だと名高い武将、本田忠勝に期待されているのだと知ったのだから。
「綺螺姉ちゃん」
「蒼華くん‥‥」
『今の、聞いたよねっ!?』
二人にとってはとてもうれしいことだったのだろう。
もう目が輝いている状態である。
「手前等!何喚いてんだ!遊びにきたんじゃねぇんだぞっ!?」
双真の厳しい鉄拳が。げんこつともいう。
どうやら二人が心配で後をつければ案の定だったらしい。
「と、とにかく!ここは本田様に恥をかかせちゃダメだから!」
「そだね!急いで調査に入ろうっ!」
本当に子供みたいな二人である。
とりあえず三人は、黒奇堂の事を調べることにした。
「そういえば、本田様の文には何て書いてあったの?」
「どうやら怪しい藩士は豪っていう人らしいけど‥‥商人の仲介役は八郎っていう人みたいだよ」
「やっぱりその人達が怪しいのかなぁ?」
綺螺がそう呟くと、蒼華は苦笑しながら綺螺を連れて監視へと赴く。
書物の間に豪という人物がいるらしく、まずは其処に向かうことになった。
「うわぁ、大きい書物の間だねぇ‥‥」
「これだけの本、何日かかって読むんだろうねー‥‥」
「私には少なく思えるのだが、君たちは多いと思うのかい?」
後ろからの声に、ビクゥ!と背筋を震わせる三人。
其処には優しい笑みを浮かべた一人の藩士が立っていた。
「あ、驚かせてしまったかな?僕は豪。君たちは確か、忠勝様の家来の黒牙衆の人かな?」
「は、はい!そうなんです!」
「あはは、元気のいい子供だね。しかし、何で書物の間なんかに?」
「あ、実は迷子になっちゃって‥‥あはは‥‥」
苦笑する綺螺。ふむ‥‥としばらく考えると、豪はゆっくりと歩き出す。
「いいよ、案内してあげるから。こっちにおいでよ」
「綺螺、蒼華。あいつから目ェ絶対放すなよ?」
‥‥どうやら、監視出来る位置にこじつけれてたようだった。
○駄洒落は笑いのいい薬
前もって忠勝に信頼出来るような人を教えて貰った九竜鋼斗(ea2127)はその人物の所へと向かうことにした。
「わざわざ左遷されたんだ…奴らの好き勝手には左遷(させん)‥‥ってな」
「おや、面白い駄洒落ですねー。誰かに教わったんですかー?」
一人の藩士が話しかけてきた。
どうやら、呟いた駄洒落が面白かったらしく、話しかけてきたようだ。
「いや、これは俺が考えて‥‥」
「わ、そうなんですかー!?じゃあ、ボクの師匠様ですねー!」
「ちょ‥‥勝手に師匠って‥‥!そうだ、この城に絽勇っていう藩士が‥‥」
「あ、それボクのことですよー♪」
一瞬場がかたまった。っていうか凍りました。
忠勝が信頼を寄せているという藩士がこんなボケボケした青年だとは‥‥。
「忠勝様から教えられてここに来たんですよね?ボクも迎えに行こうとか思ってたんですー。ボクの事を探してるって事は、あなたが黒牙衆の人なんですねー?」
「あ、あぁ。ここに来たばかりで良く分からないんで色々と教えてくれないか?」
「はい、いいですよー?どんなことが知りたいですかー?」
「城の中って結構広いですよね。藩士の人達も覚えるの大変じゃないですか?」
「確かに広いかもー」
にこにこと笑って絽勇はそう言う。
しかし、次の瞬間、笑っていた顔は真顔になる。
「でも、最近この城の内部の空気、悪いんですよね。何か、黒いっていうか、不気味っていうか。内部でグループがそれぞれ出来ているみたい」
「派閥‥‥って事か?」
「そうともいうかも知れませんねー」
と、またけらっと笑ってそう告げる。
そして、踵を返すと笑顔でまた言葉を紡ぐ。
「商人に詳しい人なら知ってますよー。でも用心した方がいいですよー‥‥あの男、絶対何か企んでるですー‥‥」
「あ、ちょっと‥‥!」
呼び止めたが、鋼斗の言葉が聞こえなかったのか、絽勇は仕事へと戻ってしまった。
絽勇も何かを知っているに違いない。そう思うのだが、声はかけられなかった‥‥。
○本田への憧れ
マハラ・フィー(ea9028)も情報集めという事で門の近くへと来ていた。
門番を見つけると、早速近づいて情報を集める為の言葉をかけようとする。
ちゃんと耳は隠れているか、確認して‥‥。
「【黒牙衆】に配属されましたマハラと言います、よろしくお願いしますね」
「お?お前さんは確か‥‥?」
「はい、本田様の家来です」
「ここに何のようだ?ここは何もないぞ?」
「あなたとお話がしたくて。本田様の事、どう思います?」
マハラが尋ねると、門番の目が少し輝いたように見えた。
そんな話声が聞こえたのか、勇もその場の話に加わっていた。
「私は本田様ってすばらしいと思うのですけど、近くからみたあなたはどうなんですか?」
「俺か?俺は本田様に憧れている。大半の者は御庭番憧れているようだが、前線に立ってもあの揺るぐ事のない忠誠心!あれこそまさに男の中の男だ!」
門番は嬉しそうに話す。
どうやら、快く思っていない者はいないようなのだが‥‥。
とにかく、今回の聞き込みはこれ以上すれば疑われるだろう。
今回は集合する事にした。
○報告
「ふむ‥‥そうか。怪しいのは豪と八郎か‥‥」
「それに、絽勇も何か知ってるように見えました」
「‥‥そうか。やはりあいつも悟っていたか」
「これから私達はどうすれば?」
「‥‥出来れば水戸に残ってもらいたい。御庭番と私だけでは戦力としては乏しい。今度頼房様にも自由出来るように進言しておこう」
『かっこいいーーーーーー!』
後に叫んだのは綺螺と蒼華だった。
どうやら完全に忠勝の虜のようだ。
「やれやれ、こりゃここに残らなきゃならなくなっちまったな」
「まあ、元々そういう依頼でしたし」
「嫌な予感ばかりするわ。この水戸で‥‥何が起こるというの‥‥?」
水戸に渦巻く黒い渦。
其れは、これから始まる出来事を引き起こさせるかのように‥‥。