●リプレイ本文
水戸藩入り口前。
冒険者達は綺螺と一緒に藩を眺める。
其処は活気があふれていて、いかにも商売繁盛というイメージが強く見える。
しかしその商売も一部の者だけ。
そんな事を知るのは、水戸に宿をとってからの事だった。
「とりあえず綺螺。相手の事を知ってたら教えてくれると助かるんだが」
「其れがボクにもよくわからないんだ・・・・後藤さんもいってたけど、これすごい裏がありそうなんだよ」
「どういう事なの?」
エレオノール・ブラキリア(ea0221)が聞き返した。
綺螺はく小を浮かべると言葉を続けた。
「まず、情報がこうも簡単に露呈するなんてどうしても思えないんだよ」
「罠かも知れないって事か?」
「其れはまだわからないけど。でも、何か裏があるのは確かなんだと思う」
「其れにこの国の藩士達も動いていませんしね」
結局話し合いの結果、綺螺達は旅人に成りすまし藩を偵察する事にした。
○陰謀は・・・・
瓜生勇(eb0406)は、酒場にいる浪人から話を聞いていた。
しかし、手に入れられた情報は二つだけ。
そして、とても些細なことだった・・・・。
「集めているのは、浪人達ではない、ですか」
呟かれる言葉。どこか悔しそうだが・・・・。
「集めてる何かは知らねぇが、姉ちゃん深入りだけはやめた方がいいぜ」
「え?」
「確かに気になるもんではあるがよ。あいつらにかかわって死んだ人間が大勢いるからな」
「死んだ・・・・?」
勇は眉をピクリと動かす。
情報はどうやらこれで全部のようで、浪人も手を振って去っていく。
○団体の統一?
「何だか団体といってはまとまりがないように見えちゃいますよ」
マハラ・フィー(ea9028)が茶屋の親父にそんなことを愚痴る。
どうやらそうやって情報を集めようというのだが、少し難関だ。
「とりあえず、そういう商人がいるっていうのは事実なんですね?」
「あぁ、事実だな。寧ろいっぱいいる。今お前さんが通ってきたあの道筋にある怪しい店もそれだ」
「・・・・何だかあの悪趣味なところですか?」
「そうだ。お嬢さん、何者かはあえては聞かないが、とりあえず耳は隠した方がいいぜ」
と、親父さんに忠告されてしまう。
ハーフエルフである事を隠し忘れているぞ?と。
マハラの方の情報も、然程重要な事は聞かれなかった。
○呑ませ屋は偉大でした。
「応、其処の兄ちゃん!ちょい話聞かせてくれや!酒は奢るぜ?」
古神双真(eb0813)が酒場で浪人を捕まえ、そう告げる。
酒がタダで飲めるとあれば、浪人も喜んでついてくることだろう。
「いや何、水戸に有名な商人がいると聞いてな?、どんなのか聞いて回ってるんだが」
「あぁ・・・・黒奇党の事ですかい?」
「黒奇堂?」
「あいつ等の名前ですさ。あいつ等、表では敵を装ってるが、中身は味方。とんだ古狸だ」
浪人が、貰った酒をグイグイのみながらそう告げる。
どうやら団体の名前までは分かってきた。
後はその中身だ。
「一体どんな党なのか知ってるか?」
「にーちゃん、興味あるんだな?あいつ等、かなりあくどい商売しててな?貧乏人から金巻き上げる事だって平気ですっぜ。其れに・・・・」
「それに?」
「あいつ等、妖怪と手を組もうとしてるって噂だ」
妖怪・・・・?やはり水戸藩は危険な状態だということか?
後藤の読みはあたってしまっているのか?
双真は浪人に礼を言うと、その浪人に酒を飲ませ続け、酔い潰す。
「こりゃあ、裏があるな」
○団体に接触を
其処は黒奇堂の一味である店、【黒撰堂】の中。
九竜鋼斗(ea2127)は己の道具を持ち、其処にいた。
売るつもりはない。ただ、この店の中を探る為だけにここにいた。
「はい、これでお客さんの鑑定は終わりましたよ。品をどうぞ」
「どうも。そういえば商売敵って言葉があるけど、実際同業者とは仲良いんですか?」
「え?」
「だって水戸、見たところ店多いですし?」
鋼斗が尋ねると、嗚呼・・・・と番頭は大きく頷く。
「そうですね。相手様達には悪いですが、私達も負けてはいられませんので・・・・いい好敵手だとは思っていますよ」
(「なるほど。どうやら、表向きではこんな感じか」)
そして、怪しまれないように鋼斗は店の中を珍しそうに見渡す。
まるで初めて見るかのように。実際には何度も見た武器やら防具、道具が置いてあるのだが。
其処で目に入ったのは一つの置物。二股の狐の尻尾。商売人が持つようなものではないのだが。
「あれ?アレ、どうしたんですか?」
「おや、お客様も目に入りましたか。其れは狐の奴の尻尾ですよ。私が退治した狐の」
「退治、したんですか?」
「えぇ、えぇ。珍しい狐でしたから」
おかしい。普通、妖怪の狐の尻尾であるのならお払いの札はあるはず。
其れに、こんな人が見るような所には出さないはずだが・・・・。
(「この男、絶対何か企んでるな・・・・まさかこんなところにこんなものがあるなんてな」)
そして、道具を纏めて持つと、踵を返す。
「ありがとう、また来るよ」
○姉弟に扮装して・・・・
「あっちこっち旅してると物騒な話をよく聞くんだ、けど水戸は平和そうで良かったな、姉ちゃん♪」
そう笑顔で話すのは狼蒼華(ea2034)だ。綺螺と一緒に茶屋で情報集めの為、演技をしていた。
其れは仲のいい姉弟をという事だ。
「そだねぇ。他のとこってみんな物騒だったしねぇー」
「何言ってるんだい!この水戸も何れそうなるかも知れないんだよっ!?」
と、近所のおば様。噂好きなおば様を捕まえたとあれば、情報は幾らでも聞き出すものだろう。
「え?なんでっ!?」
「なんでって・・・・知らないのかい?どうやら水戸に向かって妖怪達が動いているらしいんだよ!」
「妖怪!?そんなのがこの水戸藩にも!?」
「そうさ!噂だけどね、大きな群れが近日この水戸に接触するらしいんだよ!其れを手引きしてるのが人間だって噂だよっ」
そう言うとおば様は「気をつけなよ?」と言って去っていく。
その瞬間、二人の顔は真剣なものになる。
「どうやら、妖怪の狙いはこの水戸藩みたいだな!」
「其れもそうだよ。水戸が落ちれば江戸に攻めやすくなる。其れにここを他人が納めれば、確実に江戸への商売を握れるわけだし」
「と、いう事は藩転覆の目論見って・・・・!」
「何れ江戸まで手に入れるつもりだね。尻尾がつかみやすい・・・・。いくよ、此処にいててももう仕方ないから」
綺螺は真剣なまなざしで、その茶屋を後にするのであった。
○確実な証拠を
エレオノールは自慢の話術で情報を集めていた。
エルフでありながらも丁寧な物腰に、人間も気分をよくしてしまうだろう。
「そういや、こんな話を知ってるか?妖怪は商人達を利用して、内乱させようと目論んでいるらしい」
「内乱を?でも、妖怪がそんなことして意味があるの?」
「・・・・あるさ。江戸を攻める為の一つの足場となるからな。頼房様さえ倒してしまえばな?」
「つまり、その商人達は妖怪と手を組んで、水戸藩を落とそうとしているのは確実なんですね?」
「嗚呼、確かな筋からの情報だ」
親父がそう言うと、エレンは小さく首をかしげる。転覆を狙うのであれば自分達でも出来たはず。
なら何故妖怪の手を?
「それに、妖怪達に取り入ることで、自分達がその幹部にのし上がろうって魂胆だ。つまり、妖怪が江戸を攻めて滅ぼせれば・・・・」
「その商人達だけ生き残れるという事、ですか?」
「そのとおりだ。とんでもねぇ野郎たちだ」
エレンがつかんだ情報は、全て他の者たちが手に入れたような情報ではあったが、確証が持てるものになった。
妖怪は狙っているのだ。
このジャパンという土地の占拠を。
妖怪達の足音。
妖怪達の声。
冒険者達は走った。
この事実、江戸に伝えるまで。
しかし、帰った冒険者達に
過酷な依頼が出ることを、だれも知らない・・・・。
【次回へ・・・・】