【酔いどれ騎士と朽ちた武士】再会
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■シリーズシナリオ
担当:坂上誠史郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2005年10月19日
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●オープニング
数年前、騎士ビリー・クルスは相棒と二人でとある犯罪者を捕まえた。
「許しませんよ! 貴方達の様な人間が、私をこんな目にあわせるなんて!」
その女は、騎士団に連れて行かれる時まで高慢で、騒がしかった。
二十歳前後の大変な美女で、クレリックという職業を隠れ蓑に沢山の男達から金を騙し取っていた詐欺師である。
「必ず! 必ず復讐しますよ! 貴方達に最高の屈辱と不幸と悲しみを! ハハハハハハハハ!」
狂った様にわめき散らし、美女クレリックは囚人となった。
多数の『面倒事』に囲まれたビリーにとって、それは小さな事件の一つに過ぎなかった。
そう‥‥『相棒』の死を耳にした、その時までは。
◆
サアァァァァ‥‥
冷たくなり始めた秋の雨が、男の体を叩いてゆく。
歳の頃は二十代半ば。長身で体格も良く、短く刈り込まれた茶色の髪と同色の瞳からは、精悍な印象を受ける。
まだ昼過ぎだというのに薄暗く、キャメロット郊外の墓地に彼以外の姿は無かった。
「‥‥よぅ、静馬。久しぶりだな」
一つの墓の前で足を止め、男‥‥騎士ビリー・クルスは、墓の下で眠る友人に再会の挨拶をした。
いつもは余裕の笑みを絶やさないビリーだが、この日は沈痛な面持である。
「すまない、挨拶に来るのが遅れちまって。お前さんが死んだなんて‥‥信じたくなかった」
ワインの瓶を墓前に供え、ビリーは寂しそうに呟いた。
兵藤静馬‥‥それが、ここに眠る友人の名前だった。
ジャパン出身の武士であり、十代の頃から同じ師匠の下で剣を磨いた仲間。最高の『相棒』であり、ライバルだった。
ビリーがケンブリッジからキャメロットに戻って、もう半年近くになる。その間ずっと‥‥今日まで、相棒の墓参りに来られずにいたのだ。
「俺みたいなロクデナシがのうのうと生きてて、お前さんみたいな善人が死んじまう‥‥神様ってヤツは、とことんクソッタレだな」
「そんな事言ったらだめよ、ビリー」
ビリーが天に向かって毒づくと、呼応する様に背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
驚いて振り返ると、そこには二十歳前後の美しい女性が立っている。
やや小柄のほっそりした体。明るい茶の髪は背中までのび、ビリーに向けられた笑顔は柔らかく暖かだった。
「カミーオ‥‥来てたのか」
「ええ。自分を悪く言う癖、変わらないのね」
名を呼ばれ、女性‥‥カミーオ・シェルトンはビリーに歩み寄り、手にしていた傘を彼の頭上にかざした。
「貴方の噂、よく聞こえてきたわ。なのに全然顔を見せないんだもの」
「ああ‥‥悪い。しばらくケンブリッジで落ちぶれてたからな‥‥正直、会い辛かった」
笑顔のカミーオに、ビリーも苦笑を返す。
カミーオは、静馬の恋人だった。元々は借金のカタに娼婦として働かされていたのだが、静馬と知り合って恋に落ち、静馬が借金を肩代わりしてカミーオを娼館から連れ出した。
その後二人でパン屋を営んでいたが、静馬の死後はカミーオ一人で店を切り盛りしているのだという。
「でも、静馬のお参りに来てくれたのね‥‥何か、あったの?」
優しげな表情を曇らせ、カミーオは問いかけた。
ビリーはしばし考える様に再び天を見上げる。
「‥‥カミーオ、一つ嫌な事を聞いてもいいか?」
「嫌な事‥‥?」
「静馬が死んだ後‥‥ズゥンビになっちまったってのは本当か?」
視線をカミーオに向け、ビリーは重い口調で問いかけた。
カミーオの表情が一瞬凍る。
「‥‥ええ。私は見てないけれど‥‥何体かのズゥンビと一緒に、この辺りに現れたそうなの。プラム君と冒険者の人達が‥‥彼を、眠らせてくれたわ」
「そうか‥‥」
辛そうに話すカミーオを見て、ビリーも胸が苦しかった。
だが、カミーオの言葉でビリーの中にある一つの『考え』が固まろうとしていた。
「カミーオ‥‥もしかしたら、静馬は‥‥」
「おねーちゃんからはなれるのれすっ!」
ビリーが言葉を継ごうとした瞬間、カミーオの背後から高い声が飛んできた。
反射的にビリーは一歩後退する。次の瞬間、ビリーの眼前を素早い蹴りが通り過ぎた。カミーオとビリーの間へ割って入る様に、小さな人影が立ちはだかっている。
パラらしい小柄な体格、幼く愛らしい顔一杯に『怒り』の表情を浮かべている。ビリーの知っている顔だったが、少年のこんな表情を見るのは初めてだった。
「プラム‥‥久しぶりだな」
ビリーは悲しげに微笑み、少年の名を呼んだ。
プラム・ハーディー‥‥カミーオを『おねーちゃん』と慕う、十歳の少年だった。
「『ひさしぶり』じゃないれす! いまさら何しに来たれすか! 静馬おにーちゃんがいなくなって、おねーちゃんがいちばん辛いときに何もしないで!」
「やめてプラム君! いいの‥‥いいのよ、もう‥‥」
飛びかからんばかりの少年を、カミーオは背後から抱き締めた。プラムの表情が、怒りから困惑へと変わる。
「そうだな‥‥確かに、今さら顔出すなんて都合のいい話だ」
自嘲的に呟き、ビリーはカミーオとプラムに背を向けた。
「どこいくのれすか!」
「騒がせて悪かった。すぐに消えるよ」
プラムの声に答え、ビリーは歩き出した。
「ビリー!」
カミーオの声が聞こえる。ビリーは振り返らずに小さく手を挙げ、その場から立ち去った。
確信に変わったある『考え』を、胸に秘めたまま。
◆
「半年と少し前に、俺のダチが病死したんだ」
キャメロットの冒険者ギルドで、ビリーは話を始めた。
「ダチ‥‥静馬っていうんだが、死んだ一ヶ月後ズゥンビになっちまった。結局ここの冒険者達のお陰で、眠る事ができたらしいんだが‥‥」
ビリーはそこで口を止め、難しい顔をした。
「‥‥何でそんな事になったのか? そう考えて、以前捕まえた一人の犯罪者を思い出した。そいつは、俺と静馬に恨みがある。捕まえて、牢屋にぶち込んだ張本人だからな。奴は高レベルのクレリックだった。奴なら‥‥静馬の死体を操る事ができる」
言って、ビリーは憎々しげに表情を歪める。
「調べてみたら、奴は一年程前に牢から脱走していたんだ。どうやったんだか知らないが‥‥今はこの辺りのチンピラだの盗賊だのを束ねて、親分に収まってるらしい。ここしばらく、俺の周りでチンピラだの盗賊だのに関する揉め事が妙に多いんだ。知人や友人がチンピラにからまれたり‥‥俺が護衛していた家族が、盗賊の一団に襲われたりとかな」
説明を続けながら、ビリーは自分の『考え』に確信を深めていった。
「全部推測でしかない。だがもし事実なら‥‥静馬の死体を玩び、俺と俺の周りにちょっかいだしてるのがそいつなら‥‥俺が叩き潰してやる」
拳を強く握り締め、強い怒りと憎しみを込めてそう言った。
「奴の名前はラモン・ルードレイク。奴の居所を突き止めて欲しいってのが依頼だ。ヤバい仕事かもしれんが‥‥どうか頼む」
●リプレイ本文
「はい、こちらご注文の品です。ありがとうございました」
注文されたパンを客に差し出し、エルフの女性バード、ラシェル・カルセドニー(eb1248)は微笑んだ。
カミーオが経営するパン屋は、キャメロット冒険者街の近くに立っている。
ラシェルは警護のため、カミーオに頼んで住み込みで働いているのだ。もちろん依頼の内容は伏せている。
客足が途切れて一息つき‥‥ラシェルは息を呑んだ。
通行人に混じって、ガラの悪そうな男が数人、路地に散らばり店の様子を伺っている。
ラモンという者の手下だろうか‥‥
「ラシェルさん、お疲れさま。後は私がやるから、少し休んで」
背後からカミーオに声をかけられ、ラシェルはハッと我に返った。
「あ、はい、それではお言葉に甘えますね」
カミーオを不安にさせぬ様、笑顔で振り返る。
店の奥を見ると、パン焼きを手伝っていたはずの女性浪人、橘木香(eb3173)がテーブルに突っ伏して眠っていた。
「‥‥木香さん、まだ寝る時間じゃありませんよ?」
「ふぁ‥‥ねむぃです」
ラシェルに肩を揺すられ、木香は眠そうに薄目を開けた。
「木香さん、一応私達は護衛なんですから‥‥」
木香の耳元に口を寄せ、ラシェルは小声で注意する。
だが木香は眠そうなまま、
「うーみー‥‥がんばりますー‥‥」
それだけ言って再び目を閉じた。ラシェルは溜め息をつく。
「ラシェルさん‥‥貴女には、静馬の時もお世話になったわね」
そんなラシェルに、カミーオが声をかけた。
そう、ラシェルは以前依頼でカミーオに会っている。静馬がズゥンビになった時、彼を再び眠らせたメンバーの一人なのだ。
「ね、もしかして‥‥ビリーに何か頼まれた?」
「あ、いえ‥‥」
カミーオの鋭い質問に、ラシェルは言葉を詰まらせた。
が‥‥
「‥‥おなか減ってきたかも」
絶妙のタイミングで、木香がむくりと起きあがる。
カミーオとラシェルは顔を見合わせ、小さく吹き出した。
◆
「ふん‥‥口ほどにもない奴らね」
人気の無い路地裏に倒れ伏す三人のチンピラを一瞥し、ナイトの少女トリスティア・リム・ライオネス(eb2200)は吐き捨てた。
端正な顔立ちに不機嫌そうな表情を浮かべ、掌で小銭を玩んでいる。チンピラ達からいただいた『善意の寄付』である。
「お嬢、そいつら倒したのは俺とロドニーじゃん。つーかほとんど俺じゃん」
妙な口調で横槍を入れたのは、筋骨隆々の騎士シャー・クレー(eb2638)である。
その言葉を聞き、トリスティアがギロリと睨み付けた。
「あ、ん、た、は! 余計な事言うんじゃないの!」
シャーのしゃくれたアゴを、ゴンゴンと小突きながら言う。
彼女は続いてもう一人に視線を向ける。
「ロドニー! あんたも何か文句ある!?」
「いいえ。全てはトリス様の御威徳のたまものです」
にっこりと微笑むのは、端正な顔立ちの騎士ロドニー・ロードレック(eb2681)だ。
この対照的な二人の騎士は、トリスティアの従者である。ワガママなお嬢様に振り回されながら、いつもぴったりと付き従っている忠臣だ。
三人はラモンの部下と思しきチンピラに目をつけ、路地裏に誘い込み有無を言わさず殴り倒したのである。
「フフフ、しかし哀れですね。まさか自分達が、ラモンさんの命令でやられたなんて思いもしないでしょう‥‥」
皮肉っぽい薄笑いを浮かべ、ロドニーが言った。
これは演技である。わざとこんな台詞をチンピラ達に聞かせ、そのままアジトに帰らせれば‥‥内部に不穏な空気が流れるだろう。
「なっ‥‥なんだと!?」
案の定、チンピラの一人が食いついてきた。
「おいロドニー、余計な事を聞かれちまったじゃん」
「おっと、これはいけない。トリス様、口を封じておきますか」
「そうね‥‥死人に口無しってとこかしら」
三人の演技に、チンピラ達の顔が青ざめる。
「くっ‥‥くそっ!」
短く叫び、チンピラ達は足を引きずりながら逃げ去って行った。
その後ろ姿を眺めながら、お嬢様と部下二人はニヤリと笑みを浮かべた。
◆
「なあプラム君、何も君がこんな事をしなくてもいいだろう」
日も落ち、月明かりだけが足下を照らしている。
暗くなった路地を歩きながら、長身の女騎士ロイエンブラウ・メーベルナッハ(eb1903)は言った。
「ダメなのれす! わるい人をやっつけるのれす! カミーオおねーちゃんは、ぼくが守るのれす!」
彼女の隣を歩きながら、プラムは首を横に振る。ロイエンブラウは溜め息をついた。
パン屋の周りに不審者がいる‥‥その話を聞きつけ、プラムは『わるい人をやっつける』と言い出したのだ。
それがカミーオのためであると知り、この小さく愛らしい少年が大のお気に入りであるロイエンブラウは不愉快だった。
しかし一人で行かせるわけにはいかない。
「仕方ないな。なら、プラム君の事は私が守ろう」
嫉妬心を押し隠し、笑顔でそう言った。
プラムはロイエンブラウの顔を見上げ、愛らしい笑みを返す。
「ロイおねーさん、ありがとうなのれす。すごく心強いのれす」
言って、プラムは小さな手でロイエンブラウの手を握った。
一気に女騎士の体温が上がる。
「‥‥? ロイおねーさん、熱あるれすか?」
「い、いや、何ともないぞ! 私は至って冷静だぞ!」
小さな手を握り返すと、邪な妄想が頭の中に次々と浮かんでくる。
いやそこまではいかなくとも、抱き締めるくらいはアリではないのか。日も落ち、人通りも無い。そうだ、きっとアリだ。
そんな風に思考が完結しかけていた時。
ガキンッ!
二人のすぐ背後から、金属同士の打ち合う音が響いた。
慌てて手を放し、振り返ると‥‥一人の騎士が、盗賊らしき男の剣を盾で受け止めていた。
「貴殿の性癖に口を出すつもりはないが‥‥警護中の妄想は程々にな」
盗賊を後方へ押し返し、青年騎士ユステル・フレイム(ea7094)が言った。
どうやら背後から迫って来た盗賊の攻撃を、彼が防いでくれたらしい。ナイフを抜いた三人の男が、こちらを睨み付けていた。
「べっ、別に妄想などしていないぞ! そ、それより、ずっと見ていたのか!?」
「自分は怪しい盗賊をつけていただけだ。その先に貴殿らが見えていた事は否定しないが」
顔を赤らめ、必死に否定するロイエンブラウ。それに対し、笑顔で言い返すユステル。
女騎士は更に顔を赤くし‥‥ギロリと盗賊達を睨み付けた。
「かっ‥‥かような卑劣漢共、私がこらしめてやるっ!」
赤面したまま剣を抜き放ち、凄まじい迫力で盗賊達と向かい合う女騎士。
三人の盗賊達が己の不運を呪うまで、そう時間はかからなかった。
◆
「いつも世話になるな、じいさん」
歓楽街の一角にある酒場で、ビリー・クルスは目の前の老エルフに礼を言った。
「なに、じじいの気まぐれじゃよ」
ビリーと向かい合わせの席に座り、オルロック・サンズヒート(eb2020)は優しげな笑みを見せた。
ビリーは、もう何度か依頼で彼に会っている。ビリーがケンブリッジで飲んだくれていた時も、立ち直らせるのにこの老人が一役買っていた。
「ところでな、若いの‥‥そのラモンとか言う嬢ちゃんの尻は、安産型かぃのぅ?」
‥‥このとぼけた言動にも、ビリーは既に慣れっこだった。
その時。
「ラモン様が? そりゃマジか?」
「ああ。妙な三人組に襲われて、そう言いやがったんだ」
ビリー達の近くに、ガラの悪そうな男達が六人座った。
ビリーとオルロックは話を中断し、男達の会話に耳を傾ける。
「そういえば‥‥俺もさっき、ガキを狙ってたら変な騎士共にやられた。まさか‥‥」
「あれも関係あるってのか? だが、確かに‥‥」
会話の内容を聞き、ビリーはニヤリと笑みを浮かべた。
「どうやら、ロドニー達の仕掛けた嘘情報が上手くいってるみたいだな。もう少し泳がせとけば、意外と楽に情報が手に入りそうだ」
声をひそめ、ビリーが言う。
しかしオルロックは難しい顔をした。
「さて、泳がせている時間があるかのう」
「‥‥どういう意味だじいさん。騎士団に顔が割れてるラモンは、アジトも街から離れた所に置いてるだろう。この話が奴の所に行くまで、もう少し時間が‥‥」
「黒の神聖魔法には、ミミクリーという魔法があるじゃろ。アジトの場所などどうとでもなる」
老エルフの言葉を聞き、ビリーはハッとした。
そう‥‥神聖魔法(黒)の使い手であるラモンは、ミミクリーが使える。顔を変える事が出来るなら‥‥
「キャメロットに潜んでる可能性もある‥‥って事か?」
「お主の周囲に事件が集中しとるなら‥‥指示を出せる者は、お主からそう離れてはおらんじゃろ」
普段はとぼけているが、この老人は頭脳派である。
ビリーは顔色を変え、席を立った。
◆
「うー‥‥夜更かしすると眠いです‥‥」
「木香さん、お昼も寝てたじゃないですか」
「まったく‥‥あともう少しでプラム君と‥‥ブツブツ」
「‥‥貴殿の妄想は、その剣技以上にたくましいな」
「あーもう、ラモンとかいう女はどこにいんのよ!」
「お嬢、せっかちはダメじゃん」
「果報は寝て待ちましょう、トリス様」
月は既に中天へとかかっている。
パン屋から少し離れた路地裏に集まり、冒険者達は情報交換を行っていた。
カミーオとプラムに依頼の内容は隠しているため、二人はパン屋に残っている。
後はビリーとオルロックを待つだけだが‥‥
「フフフフ‥‥なかなかやり手の冒険者じゃないですか」
路地の向こうから、聞き覚えの無い女性の声がした。
冒険者達の表情が凍り付く。
月明かりの下、一人の女性が佇んでいる。艶やかな黒髪は背中まで届き、抜ける様に白い手足が漆黒の衣服から漏れ出している様だ。切れ長の目に大きな黒い瞳‥‥まるで絵画の様に美しい女性だが、どこか背筋が寒くなる様な雰囲気を持っていた。
誰も顔を見た事は無い。しかし‥‥冒険者達全員が肌で感じていた。『これが、ラモン・ルードレイクなのだ』と。
「偽情報を流して、こちらを混乱させるとは‥‥なかなか頭が切れますね」
よく響く高い声。その声と同時に、路地の前後からガラの悪い男達が多数姿を現した。三十人はいるだろうか、冒険者達は敵に挟まれた形になってしまった。
「今のうちに‥‥刈り取っておいた方がいいかもしれませんね」
美しい笑顔を浮かべそう言うと、男達が一斉に武器を構えた。
冒険者達も背中を合わせ、武器を構える。
が‥‥
「ぐはあぁぁぁっ!?」
突如として、女と反対側の男達が苦悶の声を上げた。炎に包まれ、ちりぢりに逃げて行く。
「退路は確保したぞ! 安心するのじゃ!」
男達の姿が消えると、そこにはオルロックの姿があった。先刻の炎は彼の魔法だった。
そして‥‥路地の壁を越え、冒険者と女達の間にビリーが現れた。
「やれやれ‥‥危なく出し抜かれる所だったぜ‥‥ラモン」
彼の鋭い視線を受け止め、女‥‥ラモンは満面の笑みを浮かべた。
「来てくれて嬉しいですよ、ビリー。貴女に免じて、この人達を殺すのは先延ばしてあげます」
そう言うと、ラモンは一枚の丸めた羊皮紙をビリーに投げ渡した。
「貴女達のお陰で、少々この街のアジトは使い辛くなってしまいました。だからお引っ越しです。場所はそこに描いてありますから、いつでもどうぞ」
「何だと‥‥?」
ビリーが羊皮紙を開くと、そこには詳細な地図が描かれていた。
「どういうつもりだ?」
「私は貴方ともっと楽しみたいんです。もっともっと‥‥貴女の悲しむ顔が見たい」
鋭い視線のビリーに、ラモンは恍惚とした表情を返す。
それは、何とも美しく‥‥ゾッとする様な表情だった。
「それでは、また会いましょう。貴方達に最高の屈辱と不幸と悲しみを」
不吉な言葉を残し、ラモンは部下の男達と供にゆったりと去って行った。
ビリーを始め、冒険者達の誰も後を追おうとはしなかった。
ただ、全身に震える様な不快感が残っていた。