【酔いどれ騎士と朽ちた武士2】追憶
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■シリーズシナリオ
担当:坂上誠史郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月24日〜10月29日
リプレイ公開日:2005年11月02日
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●オープニング
「なあ静馬、パラの子供を面倒見てるってのは本当か」
静馬がカミーオと付き合い始めてからしばらくして、ビリーは街で聞きかじった噂を本人に確かめた。
人の良い青年武士は、端正な顔一杯に笑みを浮かべ大きく頷いた。
「おお、お主の耳にも聞こえたか。近所に住んでいる子なのだが、何でも賊に両親を殺されたらしくてなぁ‥‥放っておけなかった。だがなぁ友よ、子供とはいいものだぞ。カミーオにも拙者にもよくなついてくれてなぁ‥‥これが何とも可愛いのだ!」
まるで自分の子供を自慢する様に、静馬は少年の事を話し始めた。
肩まではあるだろう黒髪を後ろで一つに結い、背丈や体つきはビリーによく似ている。
だがこの優しく真っ直ぐな性格は、スレた所のあるビリーとは反対だった。友人を『友よ』と呼べる真っ直ぐさをビリーは持ち合わせていない。
「俺は遠慮しとくよ。大体お前さん、子供が欲しけりゃ恋人と作りゃいいだろ」
手をパタパタと振り、面倒そうに答えるビリー。子供の相手は苦手だった。
しかし静馬は笑顔を崩さぬまま、親友の背中を叩いた。
「もちろんカミーオとの子供も欲しい。だがなぁ、子供は何人いてもいいものだ。守るべき家族が多ければ多い程、守るための力が沸く。仕事への取り組み方も違ってくるというものだ。友よ、お主にはわからんか」
「悪いが、俺には同意しかねるね。自分の事で手一杯さ」
熱い静馬の言葉を、苦笑混じりに聞き流すビリー。
時折居心地が悪くなる程、静馬は性根の綺麗な人間だった。
自分とは余りにも違う。だからこそ、その『違い』を好ましく思っていた。
何故そんな友人が死に、こんな自分が生き残っているのか。
時折ひどく空しい気持ちになる事がある。
だからせめて、友人が愛した者達を守ろう
傷つける者がいるなら戦おう。
それが、残された自分にできるせめてもの弔いだった。
◆
『場所はそこに描いてありますから、いつでもどうぞ』
「‥‥なめられたもんだな、俺も」
冒険者酒場の一角、目立たない奥の席に陣取り、ビリーは小さく舌打ちした。
テーブルの上に広げられているのは、去り際にラモンが残していった地図である。
羊皮紙には、迷いようが無い程精細な地図が描かれていた。ラモンの言葉を信じるなら、中央につけられた星印が奴の新しいアジトという事になる。
先日まで奴等が使っていたアジトは既にもぬけの空だったし、ラモンが去ったあの日以来、街でチンピラを見かける事も少なくなった。
どうやら、奴がキャメロットの街から姿を消したのは本当らしい。
「さて‥‥どんな仕掛けが待っているやら」
「そこに行くのれすか」
地図を丸め、席を立とうとした瞬間、舌っ足らずな愛らしい声が飛んできた。
声のした方へ視線を向けると‥‥見慣れた、愛らしいパラの少年が立っている。
「‥‥どうした、プラム。お子様にはちと早い場所だろう」
浮かせかけた腰を再び椅子へ戻し、ビリーは少年の名を呼んだ。
少年‥‥プラムはじっとビリーを見つめ、いや睨み付けている。
「静馬おにーちゃんにひどいことした『わるい人』が、そこにいるのれすね」
少年の口調は、いつもよりずっと真剣だった。胸に頑なな決意を秘めた声だ。
ビリーは溜め息をついた。
「何か聞いたのか」
「カミーオおねーちゃんから聞いたのれす。ビリーさんは、『わるい人』と戦ってるんだって。静馬おにーちゃんが、『あんなふう』になっちゃったのは‥‥その人のせいなのれすか?」
ビリーの問いに答え、再び問い返すプラム。彼は決してビリーを『おにーさん』とは呼ばない。少年なりに距離を置いているつもりなのだろう。
ビリーは顔をしかめた。カミーオから聞いた‥‥とすると、カミーオはどこからこの話を知ったのか。先日の依頼中、冒険者達の会話を聞いたのか、それとも冒険者達の行動から推測したのか。
二人には知られたくなかったが、ここまで気づいているなら知らんふりもできないだろう。ビリーは再び溜め息をついた。
「確証は無いが、その可能性は高いと思っている」
「なら、ぼくも戦うのれす!」
即座に返って来る真っ直ぐな言葉。静馬を敬愛するプラムらしい言葉だった。
普通に考えれば、こんな子供を連れて行くなど自殺行為だ。しかしプラムが静馬を想う気持ちは、決して自分に劣らないだろう。
ビリーは目を閉じ、親友の姿を脳裏に描いた。彼が守ろうとした幼子が、彼のために戦おうとしている。
ならば‥‥少年は自分の『同志』なのではないか。
「‥‥俺の言う事を、ちゃんと聞けるか」
目を開き、ビリーはプラムを正面から見つめた。
その視線をしっかりと受け止め‥‥少年は大きく頷いた。
◆
「悪いな、また世話になる」
冒険者ギルドの受付を訪れ、ビリーはギルド職員に苦笑を向けた。
「前に依頼したラモンって奴の居所はわかった。だが‥‥カンの鋭い奴の事だ、騎士団を引き連れて行っても、すぐに姿をくらましちまうだろう。今またあいつを見失う訳にはいかないんでね」
言って、ビリーは今日何度目かの溜め息をついた。
「かといって、師匠や道場の奴らに迷惑をかけたくない。だからまた、冒険者の力を借りたいんだ。ラモンは手ぐすね引いて待ってるだろう。正直、どんなワナがあるか予測もつかない。ヤバい依頼だが‥‥よろしく頼む」
●リプレイ本文
「ごめんなさいね、ユステルさん。仕込みまで手伝わせてしまって」
「気にする事は無い。自分にできる事なら何でも言ってくれ」
申し訳無さそうに言うカミーオへ、ユステル・フレイム(ea7094)はパン生地をこねながら笑顔を返した。
昼食時まで後二時間程。カミーオの警護を兼ね、ユステルは昼から開店する店の準備を手伝っていた。
パン作りの作業は大変だったが、ユステルは笑顔のまま黙々と作業を続けている。
「‥‥あの、ユステルさん。ビリーは‥‥」
「彼なら今朝早く出かけた。色々と忙しいのだろう」
もの問いたげなカミーオの言葉に、ユステルはパン生地をこねながら短く答えた。
どうやら彼女も依頼の事に薄々気づいている様だが、余り詳しく話して心配させる訳にはいかない。
「そう‥‥なら、急がないといけないわね」
カミーオの口から溜め息が漏れる。
その口調に、ユステルは違和感を感じた。
「‥‥急ぐ? 何を‥‥」
彼が振り返ろうとした瞬間、首筋に衝撃が走った。
いつの間にかカミーオが背後にいる。首筋に彼女の手刀を受けたのだ。
「な‥‥にを‥‥」
短い呻きを残して、ユステルの視界が暗転する。
意識を失う間際、カミーオの悲しそうな表情だけが眼に映った。
◆
「プラムさんは健気ですね。ご家族のために頑張って‥‥何て愛らしい」
「まっ、待て! 貴殿何をしている! 私でもまだそんな事はしていないぞ!」
「むぎゅ‥‥く、くるひいれふ‥‥」
優しい笑顔を浮かべ、プラムを抱き締めるジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)。
対抗意識を燃やし、反対側からプラムにしがみつくロイエンブラウ・メーベルナッハ(eb1903)。
二人のナイスバディな女性に挟まれ、プラムは小さな手足でじたばたもがいた。
「やれやれ‥‥相変わらずモテモテだなあの坊やは」
そんな様子を遠目に眺め、ビリーが苦笑する。
ここは、ラモンのアジトから数?離れた森の中。少し歩いた所に村もあるのだが、ラモンや部下達の眼を気にして野宿をしていた。
アジトへ突入する前の下調べは済んでいる。二、三人ずつに別れ、丸二日かけて村や近くの民家等から情報を集めた。
ここ数日、アジトから何人かの部下らしき男達が逃げ出しているという。どうやら部下達の忠誠心は薄い様だ。
それが本当ならば、旗色が悪くなればすぐに部下達は逃げて行くだろう。こちらにとっては都合が良い。
しかし、ビリーの頭にひっかかっている物があった。
「‥‥なぁ木香嬢ちゃん。カミーオのパン屋にいた時、チンピラ共が遠巻きに見てるだけで何もしてこなかった‥‥って言ったな」
ビリーは近くの芝生で寝転がっている橘木香(eb3173)に問いかけた。が‥‥
「すぴぃー‥‥」
木香は安らかな寝息を立てている。隣には、彼女のペットである鷹が行儀良く羽を休めていた。
ビリーは肩をすくめる。
「何を難しい顔しているの。無い知恵を絞った所で、何も出て来はしないわよ」
そんな彼に、トリスティア・リム・ライオネス(eb2200)が声をかけた。
整った眉はつり上がり、強気で愛らしい顔一杯に『不機嫌』の三文字を浮かべている。
「どうしたお嬢様、ずいぶんご機嫌斜めじゃないか」
「当たり前よ! いつまでのんびりしているつもり? 私は早く、あの年増似非クレリックを叩き潰したいのよ!」
怒気を孕んだ声でビリーに詰め寄る。以前出会ったラモンの態度が、余程気に入らなかったのだろう。
「珍しくお嬢に同意じゃん。頭使うより、とっとと突っ込んでぶっ飛ばすじゃん」
「シャー、焚き付けないで下さい。トリス様、ここは慎重に進みましょう」
そんなお嬢様に、護衛の騎士二人が対照的な意見を言った。
猪突猛進なシャー・クレー(eb2638)と、慎重派のロドニー・ロードレック(eb2681)である。
だがそれを聞き、お嬢様はギロリとロドニーを睨みつけた。
「あ、ん、た、は! 私の言う事を聞いてればいいの!」
ロドニーの両頬をつねり、ぐいぐいと引っ張る。責められ慣れていないロドニーは、ただあうあうと声を漏らすばかりだった。
「気をつけねばならんのは確かじゃろうな」
『お嬢様と愉快な下僕達』の騒ぎを横目に、オルロック・サンズヒート(eb2020)もビリーの隣へ歩み寄った。
いつもはとぼけた老人だが、今回は真剣な顔つきである。
「黒の神聖魔法は死者を操り、呪いも毒もある。殺さず苦しめるにはうってつけじゃ。その対象は‥‥若いの、お前さんじゃろう」
ビリーに視線を向け、オルロックは忠告する。
大きく溜め息をつき、ビリーは頷いた。
「ああ‥‥じいさんの言う通りだろうな。だが、わかってても行かない訳には‥‥」
「なに、真正面から行くことは無かろう。アジトに着いたら‥‥ほれ、このじじいが屋敷の扉を爆破してやる」
老ウィザードはニッと笑った。
「なるほど、討ち入り前に敵を混乱させるのですね」
「それでザコが散ってくれりゃあやりやすいじゃん。じいさん冴えてるじゃん」
不機嫌なお嬢様をなだめつつ、ロドニーとシャーがこの意見に賛成する。
「ぼくも行くのれす! ぼくだって、ちゃんと戦えるのれす!」
「プラム君の事は任せてくれ。私が必ず守ってみせる」
「傷を負われたなら、私が癒しましょう」
意気込むプラムを守る様に、ロイエンブラウが力強く言った。ジュヌヴィエーヴも優しく微笑んでいる。
「どう? あんたはこれでもまだ足踏みしているつもり?」
ビリーを睨みつけ、トリスティアが強い口調で急き立てる。
溜め息をつき、ビリーは全員を見渡した。
「‥‥了解だ。日没を待って‥‥行くとしますか」
その言葉を聞き、全員が『おーっ!』と声を上げる。
ただ一人‥‥
「‥‥うみ? もうごはんですかー?」
寝ぼけまなこの木香だけが、ズレた言葉で周囲を脱力させていた。
◆
「ロイおねーさん、どうれすか?」
「ふむ‥‥ここが裏口で間違い無さそうだ」
星明かりの下、足音を忍ばせプラムとロイエンブラウは茂みの中から様子をうかがった。
二人は既にアジトの裏側へと到着していた。二階建ての大きな屋敷で、中から明かりが漏れているが周囲にラモンの部下らしき人影は無い。
夜目のきくロイエンプラウが、裏口らしき屋敷のドアを確認した。
「ふぁ〜‥‥ねむねむ‥‥」
そんな二人の横で、相変わらず木香がねぼけている。
ロイエンブラウは眉根を寄せた。
「‥‥貴殿は何をやるのかわかっているか?」
それを聞き、木香は少し考える様な仕草を見せる。
「う〜ん、爆破するとか、討ち入りとか‥‥押し入り強盗?」
「‥‥そのまま寝ていてくれ」
ロイエンブラウは頭痛がしそうな頭を必死に押さえた。
ドオォォォォォンッ!
その瞬間、静寂を破って爆音が響き渡った。
◆
「ふふん、なかなかいい音させるじゃない」
騒がしくなり始めた屋敷を見て、トリスティアは満足そうに笑った。
オルロックの放ったファイヤーボムは、屋敷の正面入り口を吹き飛ばした。これで引火すれば言うことなしだが、ファイヤーボムは可燃性の高いものがない限り、引火することはない。
裏口に回った三人以外のメンバーは全員アジトの正面に集まっており、既に逃げ出して来た部下達を数名打ち倒していた。
「さてどうする? このままラモンが慌てふためいて出てくるのを待つかい?」
冒険者達を振り返り、ビリーが問いかけた。
「冗談でしょう? そんな逃げる時間を与える様な事、する訳無いじゃない」
ニヤリと笑い、トリスティアが言う。
「だったら‥‥さっさと突撃じゃん!」
同じく笑みを浮かべたシャーが言う。
全員頷き合い、武器を構えたまま壊れた正面入り口から屋敷内に突入した。
思ったより部下達の人数は少なく、すんなりと屋敷の奥へと侵入する事が出来た。
「ここ‥‥でしょうか」
足を止め、ジュヌヴィエーヴが息を呑んだ。
冒険者達の前には、一際大きく立派な扉がある。
この奥に‥‥ラモンがいるのだろうか。
「偉そうな扉ね‥‥ほんと、腹が立つわ!」
吐き捨てる様にそう言うと、トリスティアは扉を乱暴に蹴り開けた。
騎士四人が前衛、オルロックとジュヌヴィエーヴが後衛という隊形のまま、一行は室内に踏みこんだ。
「乱暴なお客様ですね‥‥もう少し紳士かと思っていたのですけど」
二階まで吹き抜けになっている広い部屋の奥‥‥小さな祭壇の前に、ラモンは立っていた。背筋が凍る様な笑顔で。
彼女の前には、混乱気味に武器を構えるチンピラが数人。そして隣には、純白の鎧を纏った騎士らしき白髪の青年が立っている。
「悪いが、紳士なのは淑女が相手の時だけでね」
ビリー達も武器を構え距離を詰める。
前衛の騎士四人は、敵最前列のチンピラ達に斬りかかった。
「でも丁度良かった。やっと貴方を歓迎する準備が整ったんですもの‥‥ビリー」
ラモンは相変わらずの笑みで言った。
ビリーが正面のチンピラを打ち倒すと、隣にいたもう一人をシャーのバルディッシュが吹き飛ばした。
ラモンへの道が空く。ビリーが地面を蹴ると、敵の白い騎士が一歩前へ出た。
その瞬間‥‥オルロックはラモンの背後にある祭壇へ眼を向けた。
そこには、絶命しているゴブリンの死体が横たわっているではないか。
「待て若いの! 戻るんじゃ!」
「貴方にとっておきの呪いを‥‥カース!」
ラモンの体が黒い光に包まれるのと、オルロックの声は同時だった。
「ぐぁっ!?」
その瞬間、ビリーは苦悶の叫びを上げた。白い騎士へ突進していたはずの体が、突然鉛の様に重くなったのだ。
鈍ったビリーの一撃を、白い騎士は難なく受け止める。相手の顔がよく見えない。体が重いだけではなく、意識まで朦朧としていた。
「何という事‥‥そのゴブリンを生け贄に、呪いの儀式を行ったのですか」
嫌悪の表情を浮かべ、ジュヌヴィエーヴが呟いた。
そう、今のビリーは全身を呪いに犯されている。ラモンが行った『カース』の効果である。
「ほんと‥‥胸くそ悪くなる奴ね。この年増似非クレリック」
ラモンを鋭く睨み付け、トリスティアは吐き捨てた。
怒りと嫌悪の感情が溢れてくる。
「ふふ‥‥素敵ですよ、ビリー。悔しいでしょう? もっと‥‥そんな顔を見せて下さい」
しかしラモンはお嬢様の言葉など耳に入っていない様だった。
恍惚とした表情で、苦しげに白い騎士と対峙するビリーに夢中である。
トリスティアのこめかみが引きつった。
「無視してんじゃないわよっ!」
怒りを吐き出し、ラモンへ突進する。
「トリス様!」
「ダメじゃんお嬢!」
呼び止める声も聞かず、ラモンに向かって剣を振るう。
しかし、その一撃はラモンに届かなかった。
「‥‥え?」
「ごめんなさい。彼女を死なせる訳にはいかないの」
一人の女性が、トリスティアの剣を刀で受け止めている。
冒険者達は全員言葉を失った。白い騎士と並ぶ様に‥‥ラモンを守っているのは、間違い無くカミーオであった。
「カミーオ、あんた‥‥」
トリスティアは驚愕の表情を浮かべた。
その一瞬の隙を突き、カミーオは彼女を羽交い締めにする。
「あぅっ!」
「トリス様!」
「お嬢!」
ロドニーとシャーが駆け寄ろうとするが、カミーオが牽制の視線を向ける。二人は足を止めた。
「貴女、なかなか素敵です。その気丈な顔が涙に濡れる所‥‥さぞ綺麗でしょうね」
動けぬトリスティアの頬を、ラモンは細い指でなぞる。吐き気がする程の嫌悪感だった。
バサッ‥‥ピュイィィ!
その瞬間、一羽の鷹がカミーオ目がけて突進した。木香のペット鷹丸である。
カミーオの意識が逸れた隙を狙い、シャーとロドニーが突進する。
「きゃぁっ!」
だが次の瞬間には、カミーオはトリスティアを突進して来る二人目がけて投げつけた。
慌てて受け止める護衛二人。
ガギン!
続いて、今度は白い騎士が重い一撃を受け止めた。
「どういう事かはわからないが‥‥貴殿は『そちら側』という事か、カミーオ殿」
白い騎士に剣を向けたのは、カミーオを護衛していたはずのユステルだった。
彼は白い騎士を牽制し、ビリーを抱えラモン達から距離をとる。
「鷹丸ー、戻っておいでー」
「皆! 大丈夫か!」
そして左側の扉から、裏口に待機していたメンバー達も姿を現した。
ラモンは残念そうに溜め息をつく。
「‥‥そろそろ潮時ですね」
そう言うが早いか、ラモンはカミーオ、白い騎士と供に部屋右奥の壁へと後退した。
ラモンが壁の一部を押すと‥‥そこに新たな出入り口が現れたのである。
「ビリー、この白髪の騎士‥‥見覚えがありませんか? よく考えてみて下さい。貴方の苦しみは‥‥まだまだこれからですよ」
ゾッとする笑みを残し、ラモンは隠し通路の奥へと消えて行った。白い騎士もそれに続く。
「ま、待ちなさいよ! 逃げる気!?」
「カミーオ‥‥おねーちゃん‥‥?」
トリスティアの怒号に、プラムの呆然とした声が重なった。
カミーオは一瞬プラムを振り返り‥‥無言のまま通路の奥へと消えて行った。
「カミーオおねーちゃん! どうしたのれすか! どこに行くのれすか!」
「だめだプラム君!」
駆け出そうといるプラムを、ロイエンブラウが必死に止める。
直後、天井の一部が隠し通路を塞ぐ様に崩れ落ちた。
「‥‥こちらも潮時じゃの」
オルロックが暗い口調で言う。
胸に空洞が出来た様な感覚に襲われながら、冒険者達は屋敷から撤退した。