【酔いどれ騎士と朽ちた武士5】黎明

■シリーズシナリオ


担当:坂上誠史郎

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月09日〜12月14日

リプレイ公開日:2005年12月19日

●オープニング

「ごめんなさい‥‥ずっと、貴方達を騙していていて」
 騎士団にラモンが連れて行かれた後、カミーオは墓地に集まった冒険者達へ悲しげに語りかけた。
 彼女の背後には騎士達が無言で佇んでいる。カミーオもまた、取り調べのため連行されるのだ。
 しばし無言の時間が続き、騎士達がカミーオに着いて来る様促す。彼女は最後にビリーを振り返った。
「それから‥‥ありがとう、ビリー。私‥‥貴方が好きだったわ。静馬の次くらいに」
 美しい笑顔だった。重圧から解き放たれた様な、柔らかな微笑み。
 ビリーはただ苦笑する。
「俺も、お前さんが好きだったぜ‥‥静馬の次くらいにな」
 冗談交じりの口調で言った。
 カミーオは再び微笑み、何も言わず騎士達に連れられて行く。
 冒険者達も、そしてビリーも‥‥無言のまま彼女の背中を見送る。
 秋から冬に変わり始めた冷たい風が、ただ墓地を通り過ぎて行くばかりであった。

  ◆

「ラモン一味は、無事に収監されたそうですわ」
 冬の風に吹かれ、ビリーがキャメロット港で一人佇んでいると‥‥背後から声をかけられた。
 振り返らずともわかる。フィーネの声だ。
「まぁ‥‥さすがのラモンも、年貢の納め時だな」
 背を向けたまま、ビリーは独り言の様に呟いた。
 ラモン一味が騎士団に捕らえられ、もう一週間になる。あれ以来、ビリーの周囲は嘘の様に穏やかだった。
 フィーネはゆっくりと歩み寄り、ビリーの隣に並ぶ。
「ええ‥‥裁判はこれからですけれど、ラモンとライールには厳罰もやむなしとの声が大きいですわ。ただ‥‥」
 一旦言葉を切り、フィーネはビリーを見上げた。
 彼の横顔にいつもの笑みは無い。ただやり切れない様な色がうっすらと浮かんでいた。
「カミーオ様は、情状酌量の余地有りと思われている様です。冒険者の方々が減刑を嘆願して下さったのも大きいですわね。それでも、数年の懲役は免れないでしょうけれど」
「そうか‥‥」
 ビリーの口から安堵の溜め息が漏れた。
 そう、先日の依頼の後、冒険者達の中にはカミーオの減刑を騎士団へ願い出る者もいたのだ。
 ビリーは水面に向けていた視線をフィーネに向ける。
「すまなかったな、お前さんには随分と世話になった」
 苦笑し、小さく頭を下げるビリー。
 フィーネは首を横に振った。
「謝罪は必要ありません。お父様の事がありましたから、私も当事者の一人なのです。それに‥‥礼を述べるならば冒険者の方々にでしょう」
「‥‥確かにな」
 ビリーは顔を上げると大きく息を吐き出し、抜ける様な青空を見上げた。
「お前さんも随分世話になっただろう、プラム」
 ビリーが少し声のトーンを上げて言うと、背後の物陰からガタンと音がした。
 フィーネは驚いて振り返る。見ると、少し離れた倉庫の影から、小さな人影が顔を出しこちらを窺っていた。
「き‥‥きづいてたのれすか?」
「お前さんの気配は解りやすいからな」
 背後を振り返り、ビリーは優しい笑顔を浮かべた。
 プラムは気まずそうにしていたが、物陰から出てビリーとフィーネに歩み寄る。
「あの時‥‥カミーオと話さなくて良かったのか」
 ビリーの言葉を聞き、プラムはピクリと肩を震わせた。
 そう‥‥プラムは先日の依頼で、一切カミーオと言葉を交わさなかった。
 カミーオが騎士団に連行されて行く前に、いつの間にやら姿を消してしまっていたのだ。
「‥‥ぼくは、まだ子供なのれす」
 しばし言葉をつまらせた後、プラムはポツリと言葉を漏らした。
「ぼくはずっといっしょにいたのに、カミーオおねーちゃんの『ほんとう』が見えなかったのれす。まだ‥‥『ほんとう』を知るのがこわかったのれす」
 愛らしい顔を俯かせ、消え入る様な声で続けた。
 ビリーもフィーネも、ただ無言でその言葉を聞いている。
「でも‥‥いつかはちゃんと『ほんとう』のカミーオおねーちゃんと話さなきゃいけないと思うのれす。だから、待つのれす。何年かして、カミーオおねーちゃんが帰ってきたら‥‥ぼくも今よりすこし、大人になれてると思うのれす」
 顔を上げ、プラムは真っ直ぐにビリーを見上げた。
 まだ幼く愛らしい顔には、しっかりとした『決意』が浮かんでいる。
「なぁ、静馬の墓参りにでも行かないか」
 突然の提案に、プラムとフィーネは驚いた顔をする。
「しばらく誰もあいつの墓を手入れしてないだろ。墓の周りの掃除も兼ねて、久々に行ってやろう。あいつは賑やかなのが好きだったからな‥‥うまいメシと酒、あとは賑やかしのメンバーを集めてな」
 それだけ言うと、ビリーは満面の笑みを浮かべた。
 どうやら墓参りに行って、その場で宴会をしようという事らしい。
 普通に考えれば不謹慎なのだろうが‥‥ビリーとその親友の間ならば、そういった墓参りも似合いかもしれない。
「それは良い考えですわね。ならば、料理とお酒の用意は請け負いますわ。カイザード家の料理人に腕をふるわせましょう」
「あい。ぼくもパンを焼いていくのれすよ。カミーオおねーちゃんみたいには、うまくできないれすけど」
 フィーネとプラムも微笑み、大きく頷いた。
 ビリーは満足そうにニッと笑う。
「よーし‥‥一丁盛大に墓参ってやるか!」
「おーれすっ!」
 抜ける様な冬の青空に、ビリーとプラムのかけ声が響く。
 フィーネはクスッと微笑み、二人を残して冒険者ギルドへと向かって行った。

●今回の参加者

 eb2020 オルロック・サンズヒート(60歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2200 トリスティア・リム・ライオネス(23歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2638 シャー・クレー(40歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2681 ロドニー・ロードレック(34歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3173 橘 木香(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3878 紅谷 浅葱(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

桜葉 紫苑(eb2282)/ レオナルド・アランジ(eb2434

●リプレイ本文

「はて‥‥どなたさんでしたかのぅ?」
 エルフの老魔術師オルロック・サンズヒート(eb2020)が、ビリーにかけた最初の一言はこれだった。
 冬の昼下がり、キャメロット郊外の墓地を北風が通り過ぎて行く。
 ビリーは思わず指先でこめかみを押さえた。
「‥‥ちょっと待ってくれじいさん。まさか、また‥‥」
 恐る恐る尋ねてみるが、オルロックはぼんやりとした表情のままである。
 確かに、出会った頃の老人はこんな感じだった。
 しかし最近はその症状もなりを潜めており、つい先日までの戦いでは頭脳派ぶりを存分に発揮していたのである。
「頑張りすぎた反動ってヤツかな」
「メシィはぁ、まだかいのぅ〜婿殿」
「‥‥その勘違いは覚えてるのかじいさん」
 以前から、オルロックはビリーを『孫娘の婿』と勘違いしている。
 誰だか忘れているのに、その事は覚えているらしい。
 ビリーは頭痛がしそうだった。

  ◆

「えーんかーいえーんかーい、うーれしーいなー♪」
 のんびりと間延びした口調で、女浪人の橘木香(eb3173)は歌う様に呟いた。
 彼女の視線の先では、料理人達が見事な手並みで宴会用の料理を準備している。フィーネが連れて来た、カイザード家専属料理人達だ。
「超豪華三食昼寝付き‥‥」
 夢見る様な表情の木香。
 メンバー内では『少々頭がユルい』と目されているが、食べ物に関する嗅覚は鋭い様だ。
「‥‥おい木香、掃除はまだ終わってないぞ。少しは手伝ったらどうだ」
 そんな木香をたしなめるのは、長身の騎士クロック・ランベリー(eb3776)だった。
 筋肉質で力のある彼は、草木の伐採や荷物の上げ下ろしに大活躍中である。
 しかしその言葉を聞き、木香は芝生の上にころんと転がった。
「実は掃除をすると死んでしまう病気なのです」
「‥‥どこの僻地で流行ってる病気だそれは?」
 落ち着いた常識人のクロックは、こういった『サボリ魔』達に手を焼いていた。
「‥‥あ、クロックさん。水を汲んで来ましたから、お墓を拭いてしましましょう」
 その時、木香と同じく浪人の紅谷浅葱(eb3878)が桶を手に二人の所へ近づいて来た。
 整った愛らしい顔立ちとは対照的に、水で満たされた桶を苦も無く二つ持っている。
 クロックは感心した様に何度か頷いた。
「おい木香、浅葱を見ろ。同じ女性なのに頑張って働いてるだろ。お前も体を動かせ」
「あー‥‥持病の発作がぁー‥‥」
「あの‥‥」
 クロックの言葉に、わざとらしく苦しむフリをして見せる木香。
 浅葱が何か言おうとしたが、二人には届いていない様だった。
「そんな病気は体を動かせば治る」
「この病気は死亡例もあるのですよー」
「‥‥あのっ!」
 間抜けなやりとりを続ける二人に、浅葱は少し強い口調で言った。
 クロックと木香の視線がそちらへ向く。
「‥‥僕、男です」
 衝撃の事実を告げられ、クロックと木香は呆然とした。

  ◆

「はぁ‥‥こんな寒い中、よく働くわね」
 墓場のあちこちでせわしなく動き回る冒険者達を眺めながら、トリスティア・リム・ライオネス(eb2200)は溜め息混じりに呟いた。
 そんな彼女はと言えば、しっかりと防寒具を着込み、椅子に座って持参したハーブティーを飲んでいる。
 掃除は従者達に命令済みだ。
「本来貴方もあちら側なのですけれど‥‥チェックメイトですわ」
「ぶっ! ちょっともう!?」
 ハーブティーを少々吹き出しつつ、トリスティアは目の前に座るフィーネに詰め寄った。彼女も防寒対策は万全である。
 二人の間にはチェス盤がある。働く冒険者達を横目に、先刻からゲームに興じていたのだ。
「う〜‥‥ああもう! チェスなんて下らないわ!」
 しばらく盤上を睨み付けていたトリスティアだったが、すぐに駒をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
 素直に負けを認めないが‥‥ここまでの戦績はトリスティアの三戦全敗である。
「トリス、貴方は不用意に攻め込みすぎるのです。駒を自分の部下だと思い、もっと大切に扱いなさい」
 ハーブティーに口をつけ、フィーネが助言をする。
 トリスティアはナイトの駒に自分の従者達を重ね合わせ‥‥顔をしかめた。
「‥‥普段からよく突っ込ませてるから、変わらないわね」
「‥‥トリス、金銭に関係無く尽くしてくれる部下は宝です。もっと大切にすることですわ」
 溜め息をつき、フィーネは従者達に同情する様な口調で言った。
 トリスティアはふーんと気の内返事をする。
「あんたさ、そういう所やけにしっかりしてるわよね。当主の自覚ってヤツ?」
「自覚? そんな軽い物ではありません。強く、素晴らしい当主になるのだと『誓った』のですわ。お父様の亡骸に」
 フィーネの声は平静だった。十五歳で家を背負った重責を、当然の事と思っているかの様に。
 それを聞き、トリスティアはニッと笑みを浮かべた。
「なら‥‥私にも誓える? あんたのその『誇り』を忘れないって。私にも貴族としての『誇り』があるわ。誓い合うのに充分な『誇り』がね」
「‥‥誓い合う? 私と‥‥貴方が?」
「そうよ」
 突然の申し出に、不思議そうな顔をするフィーネ。
 トリスティアの口調は、まるで挑むかの様だった。
 フィーネはしばし目の前の少女を見つめ‥‥懐からナイフを取り出し、左掌を浅く切りつけた。
「ちょっ‥‥何やってんのよ!」
「これが我が家に伝わる『血盟』の儀式です。傷口を合わせ、互いの血を互いの体に取り込む事。トリス‥‥貴方は私と『誓い合う』覚悟がありますか?」
 驚くトリスティアに向かい、フィーネは血の滲む左手を差し出した。
 トリスティアはしばし呆然としていたが‥‥再びニッと笑い、フィーネのナイフを受け取ると左掌を切りつけた。
「そんなので、私が怯むとでも思う?」
 言うが早いか、トリスティアは血の滲む手でフィーネの左手を握る。
 体温‥‥そして血の温もりが、お互いの体に伝わった。
 フィーネは幾分驚いた様だった。
「本当に‥‥向こう見ずですわね、貴方は」
「守れない約束はしない主義よ」
 言って笑い合う二人。
 次代を担う若い淑女同士が、『血盟』を結んだ瞬間だった。

  ◆

「‥‥こいつは驚きじゃん」
 手を握り合う二人の少女を、筋骨隆々の騎士シャー・クレー(eb2638)は離れた場所から呆然と眺めていた。
 従者としてトリスティアに付き従っている彼だが‥‥まさかこんな展開になるとは思いもよらなかった。
「しかしあの嬢とフィーネ嬢ちゃんが仲良く‥‥世の中不思議な事だらけじゃん」
「これで少しは、シャーのおやっさんも苦労が減るといいんだがな」
 少なからず感動しているシャーに、ビリーが声をかけた。
 シャーは出っ張ったアゴをいじりつつ、再びトリスティアに視線を向けた。
 先刻まで握手をしていた二人が、もう何事か言い争いをしている。だがその様子は、どこか楽しげに見えた。
「‥‥そうもいかなそうじゃん。まったく‥‥このままじゃ嫁のもらい手も無いじゃん」
「ま、気長に待つしかないさ。女ってのは、何かの切っ掛けでガラッと変わるもんだし」
 肩を落とすシャーを、ビリーが苦笑混じりで元気づけた。
 シャーはビリーを振り返ると、興味深げに彼の顔を見つめる。
「女といえば‥‥前から気になってたんだが、ビリーの坊ちゃん結局誰が好きなんだぜ? ユーの周りには、いい女が沢山いるじゃん」
「‥‥何だよいきなり。いい歳した男同士が恋話も無いだろ」
「ちょっとした興味本位じゃん。別に宴会で酒の肴にしようなんて思ってないじゃん」
 興味本位と言いながら、シャーの口調はかなり強引であった。
 ビリーは溜め息をつき、困った様に頭をかいた。
「‥‥俺の師匠は、とんでもなく強いけど可愛い人だ。その義理の妹は、信じられないくらい美人で気立てもいい」
 独り言の様に、ビリーは呟いた。
「フィーネもいい女さ。あれだけ頭が回って、頼りになるヤツはそうそういるもんじゃない。それから‥‥」
 ビリーは雲一つ無い青空を見上げ、一人の少女を思い出していた。
 ケンブリッジで落ちぶれていた自分を元気づけ、立ち上がらせてくれた少女。
 そこまで考え、苦笑しつつ首を振った。
「‥‥いや、とにかく、まだ誰かを『たった一人の女性』とは思ってない。そんな風に思えるまでは、フラフラしてるさ」
「うちのお嬢なんてどうじゃん?」
 間髪入れず、シャーがとんでもない事を言い出した。
 ビリーは一瞬呆気に取られ‥‥次の瞬間吹き出した。
「‥‥恋人っていうより、下僕にされそうだなそりゃ」
「‥‥違いないじゃん」
「その通りです」
 笑い合う二人の背後から、丁寧な男の言葉が飛んできた。
 振り返るとそこには、シャーと同じくトリスティアの従者であるロドニー・ロードレック(eb2681)が立っている。
 端正な顔立ちと細身の体格は、シャーと正反対だった。
「良かったですねビリー君。キャメロットの悪を倒した今回の功績が、少しだけですが認められたようです。これからは貴方もトリス様の従者ですよ、光栄に思ってください」
 軽い拍手をしつつ、突然とんでも無い事を言い出した。
「おいおい勘弁してくれ。お嬢様は一人で手一杯だ。そっちは、お前さんとシャーのおやっさんがいれば充分だろう」
 ビリーは肩をすくめつつ、パタパタと手を振った。
 しかしロドニーは引き下がらない。
「光栄な申し出を断ると言うのですか‥‥いいでしょう。ならばビリー君、勝負です」
 そして再び唐突な提案をするロドニー。
 ビリーは怪訝そうな表情を浮かべた。
「勝負? 何だ、一騎打ちでもしようってのか?」
「剣で勝負をするのも良いですが、死者の手前、無粋な真似は止めておきましょう。チェスでの勝負はいかがです? 負けた方は、勝った方の言う事をなんでも聞くのです」
「‥‥剣じゃ勝てないからじゃん」
 ポツリと突っ込むシャーを一瞬睨み、ロドニーはフィーネから借りたであろう高級そうなチェスセットを取り出した。
「‥‥お前さんが勝ったら、お嬢様の従者になれって?」
「さすが察しがいいですね」
 ビリーの返答も聞かず、ロドニーは版と駒を用意している。
「‥‥俺が勝ったら覚悟しろよ」
 ニヤリと笑い、ビリーはロドニーの対面に腰を下ろした。

  ◆

「あちらに行かないんですか?」
 綺麗に掃除された墓の前に立つプラムを見て、浅葱はそっと近寄った。
 二人の背後では、既に冒険者達がどんちゃん騒ぎを始めている。
「あ、あさぎおねーさ‥‥」
「『お兄さん』です」
 振り返るプラムの言葉を遮り、即座に訂正する浅葱。
 プラムが何か言うよりも早く、浅葱は小さな花束を差し出した。
「これ、差し上げます」
 不思議そうな顔をして、プラムはその花束を受け取った。
 二種類の花が束ねられており、優しい香りが花をくすぐった。
「慰めと希望‥‥この花言葉が、すこしでもあなたをいやしてくれればと思って」
「‥‥ありがとうれす」
 短く感謝すると、プラムは微笑んだ。
 まだぎこちないが‥‥それでもかなり以前に近づいてきている。
 浅葱も微笑むと、プラムの小さな手を取った。
「さあ、皆さんの所へ行きましょう。おいしい料理もありますから」
「あい」
 再び微笑むプラム。
 その瞬間。
「こりゃぁぁぁ! 宴会中に何しかめっつらしとるかぁぁぁぁ!」
 響くオルロックの声。そして爆音、ファイヤーボム。
『どわぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 続いて吹っ飛んで行くビリーとロドニー。
 長丁場のチェス勝負は、こうしてうやむやの打ちに終了する事となった。
 その光景を見て、プラムの微笑みが大きな笑い声へと変わってゆく。
 辛い出来事が続いたが‥‥それを乗り越え、少年は再び笑顔を取り戻した。
 それは、まるで長い夜が明けた様な‥‥そんな笑顔であった。