【希望の光】光よ集え
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■シリーズシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 38 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月28日〜01月06日
リプレイ公開日:2007年01月06日
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●オープニング
ポーツマス再興に関わってくれる人募集。長期。衣食住保証。
そんな内容の依頼状が貼り出されたのは、今にも雨が降りだしそうな寒い午後だった。
「ポーツマスで結成準備が進められている新しい自警組織、行政組織の中に入って、戦い方も知らなくて、経験もないポーツマスの人達をフォローするんだそうです!」
語る口調にも熱が篭っていた。
瞳は期待に輝き、頬も紅潮している。
「それって、僕達も色んな経験を積めると思うんですよねっ! だって、新しい組織ですよ!? バンパイアに支配されて、ボロボロになって、今も苦しんでいる街を1から作り直す仕事なんですよっ!」
へぇ、そう。
勢いに押されて、彼はそう相槌を打つしか出来なかった。
だが、そんな周囲の者の様子を気にする素振りも見せず、熱く語り続けている。
「組織作りの下準備にいった人達の話を聞くと、ポーツマスは今、凄く荒んだ状態らしいんです。諍いとか、暴力とか犯罪とか、そこかしこで起こっていて、止めに入るのも間に合わないぐらいだって言ってました」
だ・か・ら!
卓に拳を叩きつけて、彼はすくっと立ち上がった。
「皆が安心して暮らせる街にする為の組織が必要なんです! それを街の人達と一緒に作っていくんです! 凄いと思いませんかっ!? 僕が、新しい力の助けになれるんですっ」
感動に打ち震える彼は、とりあえず放置しておくとして、冒険者達は改めて依頼状を読み直してみた。
確かにアリアスの言う通り、新しい組織を作る手助けをして欲しいとある。先に入った者達が組織作りと指導を担当し、ポーツマスの民と新しい組織を引き上げる役目を担うというならば、この依頼はポーツマスの民の手を引き、共に歩いて行く者を募集していると受け取れる。
自警組織は、何の訓練も受けていない者が入ってすぐに活動出来る程甘いものではない。
指導側に回った者達は、そんな素人達が躓いても手を差し伸べる事は出来ない。慣れない訓練に脱落する者は後を絶たないだろう。だが、そこで全ての者に脱落されては困る。
「‥‥そこで必要となるのが、一緒に頑張る仲間‥‥か」
依頼人の意図はそんな所だろう。
「僕、頑張ってポーツマスの人達をフォローしますっ!」
「アリアス、ちゃんと最後まで依頼状を読んでね」
決意に燃える彼、駆け出し冒険者アリアス・リンドベルに、苦笑しながら女冒険者が依頼状に記載された内容を指さしてみせた。
「ただし、しばらくの間は冒険者と知られる事がないよう」
「‥‥え?」
経験も知識もある冒険者と一般人との間に歴とした隔たりがある。その隔たりはやがて格差を生む。
何よりも、共に頑張る仲間と見なされないだろう。
「一般募集の連中がそれなりに自信を付けるまでの間、冒険者とばれないようにする事、か。その状態で素人のフォローとなると大変だな」
フォローするにしても、陰からそっと、気付かれぬように行わねばならない。しかも、一般募集の者達と同じ行動を取りながら‥‥である。
「え? え?」
やる気満々でありながら、分かっていなかったアリアスが、真っ先にボロを出しそうである。
彼がばれないようにするフォローも必要となりそうだ。
「さて、その最初の課題は、と」
羊皮紙に記された、ポーツマスの新しい組織へ加入する為の課題。
それはーー
「ポーツマスの街や住民の為になる事をする」
課題をクリアした者が、能力を見極める選抜試験を受ける事が出来るらしい。課題は個人で行っても、課題に挑戦する者達同士で協力し合っても構わない。
「俺達は、その課題に挑戦しつつ、一般挑戦者の課題遂行を監視、不正を行う者のチェックだと」
どうやら選抜試験と監視役、2つ同時に行わねばならないようだ。
やれやれと、冒険者は肩を竦めた。
●リプレイ本文
●廃墟
「これは」
廃墟の中に立ち、ディディエ・ベルナール(eb8703)は呆然と呟いた。
ある程度の予備知識はあったし、多少の事には動じないつもりだったが、これはあまりにあまりな光景だ。
「えらいところに来てしまったのかも知れませんねぇ〜」
苦笑し、周囲を見回す仕草にも、僅かに動揺が現れている。
それもそのはず。
イギリスの民から敬愛され、拠り所とされている聖なる母の家が見るも無残に破壊し尽くされていたのだから。
「まぁ、バンパイアにとっては敵の巣窟だったわけですしねぇ〜」
つま先に触れた瓦礫に気付いて、ディディエは腰を屈めた。
それは、誰かの手によって刻まれ、丁寧に磨かれた何かの破片だった。おそらくは聖なる母の像の一部であろう。
「やれやれ。一体、何から手をつけてよいのやら‥‥」
祭壇の跡と思しき場所にその破片を置いて短く祈ると、ディディエは背後を振り返った。
教会を中心に、炊き出しや孤児、街の人々の支援を行うつもりだったが、このような瓦礫の山では何も出来やしない。
「まずは、最低限でも教会を機能させないといけませんね〜」
「あちこち直す所が多過ぎて、手が足りないわ」
独り言に答えが返ってきて、ディディエは声がする方へと顔を向けた。
沈みかけた太陽を背に立つ姿に手を翳し、目を細める。
「‥‥ああ、珠慧さん」
「廃墟が多いと、それだけで気が滅入ってしまうし。雨風が凌げる場所があれば街の人達が助かるに決まっているもの。少しでも修理して、片付けて、使える建物を増やそうと思ったんだけど‥‥」
姜珠慧(eb8491)はアリアスと顔を見合わせて肩を竦めた。
「崩れた所だらけで、本当、途方に暮れてしまいそう」
「でも、やらなくちゃいけないんですよねっ! 頑張りましょう! 珠慧さん!」
瞳を輝かせてアリアスは珠慧の手を取る。その言葉の端々からやる気が覗いてはいるのだが‥‥。
今にも飛び出して行きそうなアリアスの服の裾を掴んで、珠慧は溜息をついた。
「アリアスさん。分かっていると思うけど、わたくし達は冒険者である事を「隠して」ここにいるの。だから、アリアスさんも言動に気をつけないと」
「分かっています、珠慧さん! 大丈夫ですよ! 僕、いつも「到底、冒険者に見えない」って言われてますから!」
それもどうなの?
珠慧は額を押さえて、更に更に深く息を吐き出したのだった。
●救いの手
冒険者という商売柄、様々な場所を巡って来た。
裕福な街、貧しいが活気のある街、優しい人々が暮らす穏やかな村、そして、人の心も荒んだ街。
荒んだ街には、独特の空気がある。
刺々しく、冷たく、全てを拒絶するかのような雰囲気と、饐えた臭い。そこに住まう人々は、暗く怯えた顔をして他者を窺っている。
今のポーツマスが、まさにそれだ。
ガリガリに痩せ細った子供からパンの欠片らしき物を取り上げた中年の男に、ラディオス・カーター(eb8346)は眉を寄せた。荷物に手を伸ばしかけ、寸前の所で思いとどまる。
血の跡らしき染みと、不自然に破れた布地。体に合わない服は、どこからかーー恐らくは死人からーー盗んで来た物だろう。枯れ枝を思わせる手足、痩けた頬には殴られた跡が残る。およそ子供らしからぬ風情の子供を前に、ラディオスは悩んだ。
子供を救う手段は、自分の手の中にある。荷物の中から保存食を取り出し、分けてやればいいのだ。
しかし、それは本当の意味での救済にはならない。当座の餓えはしのげても、またすぐに腹が減る。生きている限り、人は食事をするのだから。あの子供の食糧を一生分、面倒見るつもりならば別だが、そうでないなら一時しのぎの施しなど、何の助けにもならない。助けどころか、子供に他人の哀れみに縋る生き方を教える事にもなりかねない。
何より、餓えているのはあの子供だけではない。ポーツマスの街全体が餓えているのだ。
だが、今、目の前にいる子供を見捨てていいのだろうか。
ラディオスは葛藤した。
「‥‥お気持ちは分かります。でも、今、あの子を救う手を、私達は持っているのですから」
静かに、けれど言葉に力を込めて呟いた柊静夜(eb8942)の手を、ラディオスは押さえる。
「ラディオスさん?」
苦しげな表情を見せて、ラディオスは首を振った。
「ポーツマスの復興‥‥俺達に課されているのは「街や住民の為になる」事だ。救うと言うのならば、あの子だけではなく、街の全てを救う」
とぼとぼと歩み去って行く子供の背を見送ると、ラディオスは踵を返した。
今は見捨てる形となるが、決してこのままにはしない。
子供が気になって仕方がない静夜の背を押し、彼は決意を口にした。
「必ず、この街を救って見せる。その為には「課題」をやり遂げなければならない」
「課題‥‥」
ラディオスの言葉を繰り返した静夜は、目の前が翳った事に気付いて顔を上げた。彼らの行く手を遮るように、1人の男が立っていた。餓えて痩せた者達が多い街の中、筋肉質の男の姿は、何かしら異質なものを感じさせる。
思わず身構えた静夜に、男は好色そうな笑みを浮かべて顔を近づけて来た。
「課題‥‥と言ったな、お姉ちゃん。課題ってぇのは、領主が募集しているって言うアレか?」
「‥‥ええ、そうですが」
静夜の全身を頭から爪先まで眺めると、男は鼻で笑う。
「やめとけ、やめとけ。お姉ちゃんみたいな別嬪にゃ似合わねぇよ。そういう事はダンカン様に任せておいて、お姉ちゃんは俺らに酌でも‥‥」
馴れ馴れしく静夜の肩に回された腕を乱暴に払い除けたのは、ラディオスだった。
「お前こそやめておけ。怪我をする前に」
ラディオスの忠告は、だがしかし男には届かなかったようだ。
激高して殴りかかって来るのを軽く体を捩る事で躱すと、男は勢いで自分から倒れ込んだ。
「てめぇ! よくもやりやがったなっ」
「自分で転んだんだろうが」
なおも襲い掛からんと起き上がりかけた顎の先に、ラディオスは鋭く拳を突きつけた。
「言っただろう? 怪我をする前にやめておけと」
生唾を飲み込んだ男の鼻先をぴんと弾いて、ラディオスは静夜を振り返る。手を出すまでもないと見まもっていた静夜は、ラディオスに対して小さく頭を下げる事で謝意を示したのだった。
●扇動
「派手にやってるなぁ」
ずるずると鎧を引き摺って歩いていたソフィア・ハートランド(eb2288)は足を止め、仲間の起こした騒動に対する率直な感想を口にした。
絡んで来た男を軽くあしらった青年達が領主の募集に応じてやって来た者である事も、この街を変えたいという志も、街の人々の知る所となった。彼らに触発されて、自分もと新しい組織に応募する者も出て来るかもしれない。
「私も負けていられないな」
むん、と気合いを入れて、ソフィアは再び鎧を引き摺って歩き出した。
目指すは木ぎれを燃やして暖を取っている一団だ。
立ち上る煙からは異臭がした。
「なんだ? このひどい臭いは」
目に痛いし、喉にも来る。何よりも、鼻で呼吸するのを躊躇われる程のきつい臭いに、ソフィアは顔を顰めた。近づくと服にも髪にも臭いが移りそうだ。
「ちょ、ちょっと、これ何を燃やしてるんだ?」
胡散臭そうに自分を見る住人の視線に、ソフィアは心底嫌そうに髪や服を払って見せる。
「よくこんな臭いの中で我慢出来るな。焚き火なら薪をくべればいいじゃないか。あー、でも、生乾きの薪は使っちゃ駄目だ。あれはあれでとんでもない事になるからな」
人々の間に割り込むように入り込んで、ソフィアは火に手を翳した。
「でも、火が暖かいのは何を燃やしても同じだな。あー、気持ちいい」
な、と隣の男に笑いかけると、男は困惑した表情を浮かべて体をずらす。
「別に避けなくてもいいじゃないか。私はソフィア。ほら、この街で人材を募集しているじゃないか。新しい組織ってヤツ。あれに入りたくて来たんだ」
驚いた顔をした者達をじろりと睨み付けて腕を組む。
「何か言いたそうだけど?」
「女性なのに、どうしてそんな危険の多いものに参加するのか‥‥って思っているのよ、皆ね」
火の傍らにしゃがみ込んでいた娘が早口で捲し立てて、大きな溜息をつく。
「あなただけじゃなく私も含めて、ね」
足下に広げていた道具を手早く片付けて、娘ーークァイ・エーフォメンス(eb7692)は立ち上がった。
「ポーツマスで店を開く記念に、無料で武器を手入れしようと思ったんだけど、駄目駄目。だって、手入れする武器が無いんだもの」
肩を竦め、片目を瞑ってみせたクァイに、ソフィアも苦笑する。
ポーツマスの物不足は深刻だ。
それは、街に足を踏み入れた時に分かった。身を守る武器はおろか、食べる物も着る物もない。分かってはいるが、ここは世間知らずなお嬢様で通す所だ。
「武器がないなら、エチゴヤで買えばいいじゃないか」
クァイも、それを受けて大仰な息を付く。
「買えないの。蓄えが無いんだもの。だから、皆‥‥」
クァイの言葉を遮って、ソフィアがぽんと手を叩く。
「なるほど。それがいい」
唐突な発言に、クァイの眉が寄った。ソフィアの真意を探るかのように、じぃと食い入るように見つめる。
「街の為になる事。皆にお金を配ればいいんじゃないか」
聞き耳を立てていた街の人々がどよめき、クァイは額を押さえた。
「あのね」
「ん? どうかしたか」
緩く首を振って、クァイはソフィアの手首を掴んだ。
「おい? 何をする? 私は‥‥」
「ご領主様の所に行くのよ。この街で、三食ついて暖かい寝床も保証してくれるのがどれほど破格の待遇なのか、どうしてそこまで環境を整えてくれるのか、よーく考えてみて? 何もかも足りない状態で、街の為になる事は何なのか、採用者はどこをどう見て判断するのかしらね?」
わざと声を張り上げる。
だが、手首を掴まれたソフィアは怪訝な顔で首を傾げるだけだ。
「何を見るのかって言われてもな。私は採用者じゃないんだし。でも、金や物じゃないなら、何だろう? 例えば、困ってる人を手伝うとか?」
「この街には困ってる人だらけよ。けど、だからこそ課題の解答は色んな所に落ちていると思うのよ」
ぐいとソフィアの手首を引っ張って、クァイはちらりと周囲に視線を走らせる。
火を囲んでいた人々の表情が変わっていた。ただ虚ろに炎を見つめていた人々に、少しずつだが生気が戻りつつある。
その様子を確認して、ソフィアとクァイは互いに目を見交わすと小さく笑い合った。
●無垢な瞳
教会跡地で炊き出しが行われると聞いた街の人々が動き始めた。
力なく、ゆらゆらと揺れながら歩いて行く様は、さながらアンデッドだと、マルティナ・フリートラント(eb9534)は思った。バンパイアに支配され、街は生気の全てを吸い取られたかのようだ。
「私が、皆さんのお力になる事が出来ればよいのですけれど」
握り締める手に力が篭もる。
自分の手は小さくて、この街の苦しむ人々を全て救う事など出来はしない。
それが歯がゆくてもどかしい。
手を握り締めたまま立ち尽くしていたマルティナは、背後からぶつかって来た何かに体勢を崩され、よろめいた。
「あっ、ごめんなさい!」
「何か」は、襤褸をまとった幼い少女だった。伸ばしっぱなしで手入れもされていない髪の毛を、擦り切れたリボンが飾る。抱きしめているのはハギレで作った人形のようだ。
「あなたは‥‥」
そっと手を伸ばしたマルティナに、殴られるのかと少女は首を竦めた。ぎゅっと目を閉じ、「ごめんなさい」と繰り返す少女に、マルティナの心に悲しさと切なさが押し寄せて来る。
怖がらせないように、静かに抱き寄せる。
ゆっくりと髪を撫でてやると、次第に少女の震えは収まってきた。
「大丈夫、大丈夫よ」
そう言って微笑みながらもぽろぽろと零れる涙。少女は不思議そうに見つめると細過ぎる指先をマルティナの頬へと伸ばす。
「お姉ちゃん、どこか痛いの?」
胸が詰まって言葉が出ない。
頭を振る事で、マルティナは少女に答えを返した。
「ダンカンのおじちゃん達にいじめられたの? なら、マリアがお兄ちゃんに言ってあげる」
「‥‥お兄ちゃん?」
ダンカンという名は、ここまでの間に何度も聞いた。
力で伸し上がり、街を影から支配する男の名だ。
「うん。お兄ちゃん。マリア達にパンをくれたり、ダンカンのおじちゃん達から守ってくれるんだよ!」
様々な利害と力関係とが覆い隠す街の情勢も、子供の目には真実がはっきりと映し出されているようだった。
●光よ集え
食事を求めて並ぶ人は増えていく一方だ。
一時しのぎになればと、領主に頼んで蔵を開いて貰ったものの、これでは到底足りやしない。
「はいはい、ちゃんと並んでくださいね〜。病気の人や小さい子、お年寄りが優先ですよ〜」
教会跡地の瓦礫を片付け、人が集まれるだけの場所を作ったディディエと珠慧が温かな湯気の立つスープを手際よく配っていく。ここは彼らに任せておけば間違いない。そう結論づけて、彼が踵を返したその時に。
「お前達! ダンカン様に無断で何をしてやがる!」
いつか来るとは思っていたが、予想以上に早かった。ダンカンという男は、それだけ新しい組織に対して警戒心を抱いているという事か。
人相の悪い男達が、近くに並ぶ人々を殴りつけながら、食事を配るディディエと珠慧へと向かう。身構える2人を視線で制して、彼は何食わぬ顔で男達の前に立ちはだかった。
「何だ!? お前は! 邪魔をするならお前も」
「はいはい、分かったから、ちゃんと並んで並んで」
男の肩に手を掛け、くるりとその体を反転させる。
あまりに鮮やかで素早いその動きに、怖々見ていた人々も、背を押されている当の本人も、状況を把握出来なかったに違いない。気がつけば、男は列の一番最後に並ばされていた。
「順番を守らないと、君の分のスープは別の人にあげちゃうよ」
やんわりにっこりと釘を刺し、彼は呆然としている男をそこに残して歩き出した。また暴れても仲間達が対応してくれるだろう。荒れた道を下っていく彼の傍らに、優男然とした青年が並ぶ。
「見張りにでも来たのか」
快活に、青年は笑って彼の言葉を否定する。
「では、何をしに来た。活動案は提出したはずだが」
「受け取ったよ。ついでに、教官役の人達に渡して来た」
そうか、と彼は呟いた。
今、この街に必要と思われるものを書き出した彼の案が、どこまで採用されるかは分からない。準備と金と時間が必要な事だから仕方がない。
「だが」
彼の表情が曇る。
「ダンカンという男、仕掛けて来るぞ」
それは冒険者として培われた勘だった。
真剣味を帯びたトレーゼ・クルス(eb9033)の呟きに、青年も深く頷いた。