【騎士育成物語】はじめの1歩

■シリーズシナリオ


担当:桜紫苑

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月18日

リプレイ公開日:2004年12月20日

●オープニング

 冬の太陽が急ぎ足で天空を駆け上っていく。
 今日はどんな依頼が出ているのだろう。胸躍る冒険に出会えればいいが。
 そんな事を考えながら、その扉を開いたのは1人の冒険者。
「おはよう、諸君! 何か良い依頼は出ているかね」
 だがしかし、陽気な彼に応える声はなかった。
「ん?」
 目を眇め、室内を見れば見慣れた顔が幾つかある。いつもは軽く冗談交じりの返事を返してくれる者達だ。そんな彼らが困惑を浮かべて入り口に立つ男を見ている。
「どうかしたのか?」
 1歩、彼は室内へと足を踏み入れた。
 その途端。
 しくしくしくしくしくしく‥‥。
 どこからともなく聞こえて来るか細い啜り泣き。
 さては、と彼は思った。
「どうやら姫君がお困りのご様子。心配めさるな、姫! このキャメロットのギルドには勇敢で心優しい冒険者達が‥‥」
 物言いたそうな顔で、仲間達は彼の前に道を開く。
 割れた人の輪の中心に、細く白い手で顔を覆って泣いている者がいた。
「おお、姫よ! お望みとあらば、貴女の騎士はいつでも馳せ参じましょうぞ!」
 些か大袈裟な身振りで彼は輪の中心で膝をつき、その貴人を見上げた。
 短く揃えられた薄い金色の髪、白く滑らかな肌、彼に向けられた大きな目は澄んだ湖の色をしていた。真っ白いマントと豪奢な装飾の施された甲冑姿が違和感を醸し出しているが、清楚な雰囲気は損なわれてはいない。
「あの‥‥」
 その形のよい唇から漏れた声には、戸惑いを滲んでいた。
「冒険者になって、自分を鍛えたいんですって」
 膝をついた男に、傍らにいた女冒険者が頭を振る。
「騎士として叙勲は受けたけど、まだまだ未熟だから修行して来いってお父さんに言われたらしいわ」
「それはそれは‥‥」
 騎士の家に生まれた娘が、親の跡を継ぐ為に騎士になるという話はそう珍しくもない。だが、それまで刺繍をしたり、花を摘んだりしていたであろう柔らかな手に剣を握ったところで、すぐに使いこなせるはずもなく。
「ですが、ご安心下さい。貴女が真の騎士となる日まで、我らは良き師となり、戦友となって貴女の隣でお守り致します故‥‥」
「‥‥その人、男ですから」
 残念。
 ぽん、と肩を叩かれて男は硬直した。
 恥ずかしそうに頬を染め、騎士は俯く。
「よく間違われるのですけれど、僕は男です」
 アリアス・リンドベルと名乗った騎士は、目元を拭いながら改めて事情を語った。
「僕、昔から体も気も弱くて、父によく叱られていたんです。それでも、何とか騎士になれたのですが、あまりに不甲斐ないからと冒険者となって自分を鍛えて来いと‥‥家を追い出されて‥‥」
 しくしくしくしく‥‥。
 再び、啜り泣きを始めたアリアスに、男はようやく仲間達が浮かべていた困惑の意味を理解した。
「立派な冒険者となり、騎士となるまで家に戻れないんですって」
「ついでに、嫁さんも自分で見つけて来いってさ」
 乾いた笑いを漏らした男の手を、アリアスはぎゅっと握り締めた。
「先ほど、良き師となり、戦友となるとおっしゃって下さいましたよね!? お願いです! 僕を1人前の冒険者にして下さい!」
 溺れた者が命綱を掴むがごとくの鬼気迫る迫力に、男は気圧されて微かに頷く。
「良かった! どうか‥‥どうかよろしくお願い致します」
 もはや後には退けない。
 仕方がないと観念して、男は壁に貼られた依頼を眺めた。
 その中から、これと思う依頼を1枚剥がしてアリアスの前に置く。
「んじゃ、まぁ‥‥とりあえず、この依頼を受けてみるか?」
「え?」
 え? じゃねぇよ。
 ずびし、と周囲から声に出さない突っ込みが入る。
「依頼を受けて経験を積まなきゃ1人前にはなれないだろうが‥‥。ともかく、内容を読んでみな」
 疲れが押し寄せるのを感じながら、男は机に肘をついた。
「あ‥‥、はい。えーと‥‥冬を越す為に蓄えた食料を盗みに来るモンスターを退治して欲しい‥‥って、ええっ!? いきなりモンスター退治ですか!?」
 1、2、3、4、5‥‥。
 数を数える事で、何とか怒鳴るのを抑えた冒険者達の中から、女が平静を装った震える声で彼に話しかける。
「大丈夫。1人で行け、なんて無茶は言わないから。いい? この依頼主の話によると、モンスターはオーク、数は4、5匹ね。食料を一気に奪っていないところから考えて、奴らの根城は村の近くの森だと推測されるわ。この村は老人が多いから、きっといつでも奪う事が出来るとタカを括っているのね」
「つまり、オークはまた盗みに来る。そこを待ち伏せるか」
「もしくは、根城を探し出して先制攻撃をかける」
 次々に示されて行く作戦案に、アリアスはただ頷くばかりだ。
「というわけで、コイツとこの依頼を受けてもいいと思う奴はいるか?」
 乗りかかった船だと仕方なく手を挙げた冒険者達は、モンスター退治よりも、頼りない騎士のお守りと指導の方が大変だと内心溜息をついた。

●今回の参加者

 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0705 ハイエラ・ジベルニル(34歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3041 ベアトリス・マッドロック(57歳・♀・クレリック・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3143 ヴォルフガング・リヒトホーフェン(37歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea5321 レオラパネラ・ティゲル(28歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●はじめの一歩
 荷物の中からクラブを取り出し、ヒックス・シアラー(ea5430)は新米冒険者へと放り投げた。剣を鞘から抜き放つのにも四苦八苦している彼の実力は、手合わせをせずとも察せられる。
 どうやら冒険者として鍛えるより先に、武器の扱い方、戦い方といった基本から仕込まなければならないようだ。
「君に剣はまだ早‥‥」
 言葉を紡ぐ前に、受け取ろうと伸ばした両手の間をすり抜けて地面に落ちるクラブ。
 頬の筋肉が痙攣するのを感じつつ、ヒックスは途切れた言葉を続けた。
「い。まずは、そのクラブを使うように」
 掠れてしまった声を取り繕うように咳払って、彼は右の手を広げた。
 クラブを拾おうと膝をついた青年が、怪訝な表情で見上げて来る。
「素振り1日500回」
「ええっ!? そんなの無理です!」
 クラブが再び地面に落ちるのを1度だけ見逃して、ヒックスは声に力を込めた。
「戦闘で死にたくなければ基本をしっかり身につけろ。それにはまず日頃の反復練習だ」
 有無を言わせぬ強さで言い切ったヒックスの言葉に、ベアトリス・マッドロック(ea3041)は苦笑してアリアスの細い肩に手を置く。
「よぉく聞きな、アリアスの坊主。あたし等に出来るのは手助けだけさ。どんな冒険者になりたいのか決めるのはあんただよ」
 クラブと自分とを見比べて瞳を揺らしたアリアスを、ベアトリスは豪快に笑ってみせた。彼の不安も根こそぎ吹き飛ばすように。
「ま、焦る事ァないさね。どんな時でもまず深呼吸して落ち着いてみな。剣だの魔法だのよりも心の持ち様が一番大事なんだからね。主のご加護はいつだってあんたと共にある。頑張るんだよ!」
「‥‥わかりました」
 表情を引き締めて素振りを始めた彼の姿に、ベアトリスは木に凭れかかるヴォルフガング・リヒトホーフェン(ea3143)へと茶目っけたっぷりに片目を瞑ってみせた。素知らぬ風を装いつつも、深く下ろした帽子の下からアリアスを見守っていた事に、彼女は気づいていたのであるる
 しかし。
「も‥‥もう駄目です」
 クラブを持つのも精一杯と肩で息をするアリアスに、ヒックスの目が見開かれる。
 振り返ると、アリアスの特訓を興味深く見守っていた仲間達がわざとらしく視線を逸らした。
「す! す‥‥」
「ああ、分かる。分かるさ、お前の言いたい事は」
 ヒックスの肩を叩いて、デュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)は疲れた笑みを頬に乗せる。
「まさか、素振り5回が限度だなんてな」
 心配そうにアリアスの周りを飛ぶカファール・ナイトレイド(ea0509)をちょいちょいと指先で呼ぶと、デュノンはその小さな体の前に手を差し出した。
「? なに?」
 とりあえず乗ってみる。
 手の上で首を傾げたカファに、デュノンは苦笑混じりに背後でバテているアリアスを示した。
「いや、おまえじゃなくて、武器。クラブが駄目だって言うんなら、シフールサイズの武器から始めるしかないだろ」
「デュノりん‥‥ダーツで素振りって出来るの?」
 2人の頭の中に過ぎるダーツ素振り500回の図。
「‥‥あんまり意味はなさそうだな」
 ぼそりと感想を漏らしたのは、手持ちの釣り道具でボーラを作っていたゼファー・ハノーヴァー(ea0664)だ。
「何を言う。ゲームで好きな物を当てるとか出来るようになるぞ」
「‥‥騎士、関係ないし」
 びしりと突っ込んだハイエラ・ジベルニル(ea0705)に、デュノンの「好きな物を当てる」発言にキラキラ瞳を輝かせていたカファが半泣きで詰め寄る。
「駄目? 駄目なの〜〜?」
 顔にへばりついたカファを引っ剥がして、ハイエラは燃え尽きているヒックスと荒い息を吐いているアリアスに一瞥を投げた。
「だが、確かに、アリアス君にはクラブもまだ早いようだ」
「アリアス殿はダガーを持っていたんじゃないか? それから始めたらどうだ? ‥‥と言っても、今日はもう無理だろうが」
 精魂尽き果てた様子のアリアスに、ゼファーはヒックスを伺い見る。
 ゼファーの言葉に、ヒックスは渋い顔をした。素振り5回で根をあげるなんてと叱りつけたい所だか、初日から萎縮されても困る。無理矢理に自分を納得させて、彼は渋々と頷いたのだった。
「大丈夫かい?」
 へたり込んだアリアスを心配そうに覗き込んで、レオラパネラ・ティゲル(ea5321)は途方に暮れた。こんな壊れ物注意な青年とどう接してよいか分からなかったのだ。
「‥‥あたいは鎧を着ないからよく分からないんだけど‥‥どこか痛くしてないかい?」
 力無く首を振った青年に、レオラはスープの椀を差し出した。
「欲しくありません」
 強引に椀を持たせると、レオラは口調を強める。
「駄目だ。あんた、旅にだって慣れてないんだろ? なら、ちゃんと体力つけとかないと、いざって言う時に動けなくなるよ」
 言葉を交わすと、戸惑いは薄れた。
「‥‥僕、冒険者になれるでしょうか」
「‥‥大丈夫。1人前の冒険者になれるまであたいがあんたを守るから」
 弟に接する姉の気分で、レオラはその柔らかい金の髪を撫でる。
「それを食べたら寝ておいた方がいい。村に着いたら、忙しくなる」
 自分の毛布を投げて寄越したゼファーと頭を撫でるレオラに、青年は微笑みを見せた。
 弱々しい笑みではあったが。

●待ち伏せ
 聞こえて来た音に、ハイエラは静かに顔を上げた。
 村で集めた情報から予測した通りである。
「来たな」
「凄い‥‥。どうして奴らの行動が分かったのですか?」
 驚きと賞賛の眼差しを向けるアリアスに、ハイエラはふ、と口元に薄く笑みを浮かべた。彼女にしてみれば当然の結果だが、彼にとっては予知の魔法にも等しく映っているらしい。
「前回の襲撃からの日数、奪った物の量‥‥そんな情報から推測しただけの事さ」
 冒険者としての積み重ねが、こういう時に物を言うのだ。
「いいか。冒険者の心得だ。心は熱く、だが頭は冷静さを失うな。熱くなり過ぎて先走れば、仲間にまで危険が及び兼ねない」
「はい」
 素直に返事を返したアリアスに、ハイエラはくくっと含み笑う。
「にしても、キミは本当に可愛いなぁ‥‥。食べてしまいたいくらいだ」
 頬に手を滑らせたハイエラに、アリアスは目を瞬かせただけだ。どうやら、この箱入り騎士はこのような状況にも慣れていないらしい。
「今はそういう場合じゃないだろッ」
 乱暴にハイエラをアリアスから引き剥がして、レオラは眉を吊り上げた。
「何か問題でもあるのか?」
 ハイエラの左の瞳が輝きを増したように見えるのはレオラの気のせいばかりではあるまい。
「大ありだね。あたいはアリアスを守ると誓ったんだ。何も知らないコイツにちょっかい出さないでくれないか」
 睨み合う女2人。
「アリアス‥‥」
 熱い火花が飛び散る2人の間に入る事が出来ず、オロオロしていたアリアスの袖を引っ張ると、ヴォルフは小声で彼を呼んだ。
「作戦に入る」
「え?」
 そろりと移動していくデュノンとヒックスの姿を視線で指し示して、ヴォルフはついて来いと促した。今、彼を連れて行くと、今度はヴォルフに火の粉が飛んで来る危険がある。だが、幸いにもハイエラとレオラには気づかれてはいない。
 木の枝を持ち、繁みに擬態していたのが効を奏したようだ。
「いいか。今からは何が起きるか分からない。絶対に、俺の後を離れるんじゃないぞ」
 緊張の面持ちで頷いた新米騎士に真実を告げぬままで、彼は走り出した。
 その背を追いかけるアリアス。
 繁みを掻き分け、大の男2人が駆け抜けていく騒々しい音にオーク達が気づかぬはずがない。
「お‥‥追いかけてきましたよ〜っ!」
「止まるな! 走れッ」
 モンスターに追われるなど、生まれて初めての経験のはずだ。気が動転しているであろう彼を落ち着ける為に、ヴォルフは言葉を掛け続ける。
 しかし、極限に追いつめられた全力疾走もそう長く続くはずもなく。
「ぼく、もう‥‥」
 足が縺れ、倒れたアリアスにオークが迫る。
「気を抜くな!」
 鋭く掛けられた声と同時に、彼に腕を伸ばしたオークの動きが止まった。モンスターの脇をすり抜けざま、ゼファーが手製のボーラを巻き付けて注意を逸らしたのだ。
「守りを疎かにするな! 依頼に出て、最も大切なのは自分が生き残る事だ。目的を達成出来たとしても、自分が戻れなければ何もならない!」
「は‥‥はい」
 叱咤する声に、アリアスは立ち上がった。
 戦える力がない以上、生き延びる為には逃げるしかない。
「ゼファーの言う通りだ」
 先に行ったはずのヴォルフがアリアスを背後へと突き飛ばし、オーク達に向けて威嚇の矢を放った。
「勝つよりも死なない事。これが戦いの一番基本だ。忘れるな」
 戦えない悔しさ、もどかしさを見抜いているようなヴォルフの言葉に、アリアスはきゅっと唇を噛んだ。自分を援護してくれる彼らの行為を無駄には出来ない。
 彼は、再び走り出した。

●騎士への道
「来た来た来たよ〜っ」
 カファの声に、デュノンは手綱を握る手に力を込めた。ハイエラが仕掛けた罠に引き込むだけなら容易い。しかし、不安要素のアリアスがどこまで持ち堪えるか。
 オークを倒すという依頼以外にも、彼らにはアリアスを鍛えるという目的がある。
「匙加減というものは、なかなかに難しいものだな」
 手綱を引き、飛び出して行ったデュノンに、ヒックスはくすりと笑んだ。
「言う割に、楽しそうな顔してるけど?」
 さて、と自分も剣を抜いたヒックスの目に、デュノンの馬と入れ違うように走り込んで来るアリアスの姿が映る。囮にするというヴォルフの策を聞いた時には無茶だと思ったが、なかなかどうして上手くやり遂げたではないか。
 後で誉めてやろう。
 そう思った瞬間、アリアスが勢いよく転んだ。
「アリり〜んっっっ!!」
 カファが悲鳴に近い声で叫んだ事から察するに、オークの足を止める為に仕掛けていたカファの罠にアリアスが引っ掛かったのだろう。
「‥‥バカ弟子が‥‥」
 鞘を握り締める手が小刻みに震えた。
 馬でオーク達に切り込んでいったデュノンも事態に気づき、動きを止めて額を押さえている。
「アリアス!」
 金色の頭目掛けて振り下ろされたオークの戦斧に、思わず目を瞑ったアリアスの体を引き倒された。次いで、金属の鈍い音が響く。
 追いついたハイエラとレオラだ。
「大丈夫かい? 怪我はないかい?」
「そんなのは後だ!」
 さすがにナイフでは斧を相手にするのは分が悪い。軽やかに飛び退ったハイエラに替わり、ヒックスが前に出る。追撃を防ぎながら、彼らは罠を仕掛けた場所を目指した。
 見れば、ゼファーやヴォルフ、デュノン達も残りのオークをうまく誘導している。
「坊主達! もう少しだよ、頑張んな!」
 手を挙げたベアトリスの元へと駆け込んだ彼らの背後で、地響きが起きた。
 追ってきたオーク達が落とし穴に落ちたのだ。
 怖々と穴を覗き込んだアリアスは、縁を掴んでいたオークと目が合って腰を抜かした。
「いいか、アリアス。敵を恐れるな。逃げ腰になっていたんじゃ、勝てるものも勝てない」
 厳しく言い放つハイエラを見上げたアリアスの頭を軽く叩いて、ヒックスは彼にクラブを差し出す。今ならば、アリアスにもオークに一撃を与える事が出来るだろう。
 後押しする仲間達の視線の中、アリアスは恐る恐るクラブを握り、えいと振り下ろした。
 直後、オークが底へと落ちる。
「やったな、アリアス!」
 初めてのモンスターへの攻撃に呆然となるアリアスを手荒い祝福が襲う。髪を掻き回され、肩や背を叩かれて、ようやく彼の顔に笑みが宿った。
 力強いベアトリスの抱擁に窒息寸前のアリアスに、「だが」とヒックスが厳めしい顔で口を開く。
 彼の硬い声に、騒いでいた仲間達もしんと静まり返った。
「まだまだ未熟。ダガーで素振り300本。200本はまけておくから、次の依頼まで欠かさないようにな」
 その一言で、情けない顔をして項垂れたアリアスに、仲間達は再び笑い出したのであった。