【魔影乱舞】Crossroads
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■シリーズシナリオ
担当:桜紫苑
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 14 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月03日〜05月10日
リプレイ公開日:2005年05月11日
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●オープニング
「迂闊だった」
切れる程唇をかみ締めていたかと思うと、彼は絞り出すような声で呻いた。
「あの女が危険だという事は分かっていたはずなのに‥‥」
頭を抱え込んでいる彼を、周囲に集った冒険者はただ見守る事しか出来ない。
どれほど時間が経ったのか。
やがて、彼はのろのろと顔を上げた。仲間達、1人1人の顔を見つめて、口を開く。
「クリス達は、もう助からない」
「そんな事、わからな‥‥」
「助からないんだ」
僅かでも希望を繋ごうとする冒険者の言葉を強い口調で遮って、彼は頭を振る。
「完全にスレイブとなった人間を元に戻す方法など、俺は知らない」
あの時のクリスの状態からして、既に発熱していると思われる。彼らがあの館に辿り着いた頃には、完全なスレイブとなっているだろう。
「ピュアリファイは?」
尋ねた冒険者に、アンドリューは苦しげに顔を歪める。
「さあ、どうなんだろうな。バンパイアに噛まれてからスレイブとなるまでの間は、人間とアンデットの狭間にいる状態だ。ピュアリファイでアンデットとなる要因を浄化してしまうから、人間に戻れるんじゃないのか。だが、完全にアンデットとなった者にピュアリファイをかけた場合‥‥」
冒険者達の間に沈黙が落ちた。
嗄れた声で、彼は続ける。
「そもそも、子供ならともかく、大の大人が死ぬ程のピュアリファイなんて、どうやって‥‥」
「でも、やってみなければ分からない」
「助かる見込みが無くてもか?」
冒険者達の間で始まった議論をしばらく何も言わずに眺めていたアンドリューは、卓の上に置かれていた羊皮紙に手を伸ばした。
ペン先をインク壷に漬けて、ゆっくりと文字を書き連ねていく。
「今回の依頼はクリスとあの少女を救う事、だ」
「それじゃあ!」
顔を輝かせてアンドリューを振り返った冒険者が、それ以上の言葉を紡げずに口を噤む。
いつも陽気な彼からは想像もつかない厳しい表情に気圧されたのだ。
笑みのない、疲れた顔の中で瞳だけがぎらぎらと光を放っている。
「救うんだ。彼らがモンスターとなって、人を襲う前に」
書きあがった依頼状を卓の上に投げ、感情を殺した声で淡々と告げる。
「スレイブとなったクリスと少女を討つ事。それが今回の依頼だ。だが、クリス達の元へ辿り着く為には、まずあの壕を越える手だてを考えねばなるまい」
闇の中ではさほど広くは見えなかった壕だが、もともと侵入者を防ぐ為のものだ。それなりに幅もあるに違いない。人が簡単に越えられるものではない。架かっていた橋も落とされている。改めて橋を渡すとなると、一体、どれほどの時間を要するのか。
「聞いてもいいか」
依頼状を読み返していた冒険者が、躊躇いを見せながらアンドリューを見上げた。
「クリス達を倒して、それからどうする気だ?」
「どうする‥‥とは?」
尋ね返す声は硬い。
「あの女の子の事だ。彼女とも戦うのか? そもそも、あの子は一体何者だ?」
本当は、皆、答えを知っていた。
彼女の正体と、そして、彼女と戦った場合にどうなるのかを。
だが、敢えて、答えをアンドリューに求める。
「‥‥恐らく、彼女はスレイブを発生させた者。スレイブとなった花嫁が「主」と呼び、少年達を集めていた者が「陛下」と呼んだ者」
「つまり、人がバンパイア化したスレイブとは別格のバンパイアって事?」
頷いたアンドリューの拳が僅かに震えていた事に、伏せた表情の中で、その瞳が怒りを湛えていた事に、何人の者が気付いたであろうか。
「我々には、あの娘と戦えるだけの力は無い」
きっぱりと言い切ったアンドリューに、冒険者達はそれぞれに黙り込んだ。
スレイブ達との戦いが、彼らの脳裏に蘇る。元々はただの人であり、普通に日々の生活を営んでいた子供から老人までもが、彼らを苦しめた。スレイブを遙かに越える存在が如何ほどの力を持つか分からないが、確かに、今の彼らが戦って勝てる相手ではなさそうだ。
「ともかく、今はクリス達を倒す事だけを考えよう」
アンドリューの言葉は重く、暗く、冒険者達の心にのし掛かった。
●リプレイ本文
●闇の中
屋敷の奥深く、帳の下ろされた部屋に遠慮がちに声が掛けられる。
「人間達が参ったか」
「はい。壕に橋を架けようと致しております。誰か向かわせましょうか」
「放っておくがよい。楽しき宴に水を差すな」
は、と畏まって頭を下げる。従順な青年の髪を一撫でして、彼女はねっとりとした笑みを浮かべた。
「お前もよう働いてくれた」
彼は、集められた者のうちで一番気が利く下僕であった。
「ほんに、よう働いてくれた‥‥」
●後悔の先
「ネティ」
膝に顔を埋めたネフティス・ネト・アメン(ea2834)の肩を抱いて、サリトリア・エリシオン(ea0479)は辛そうに眉を寄せた。ネティの気持ちは痛い程に分かる。だが、いつまでもこのままではいられない。
「ネティ」
今度は少し強く、諌める口調で呼びかける。
「だって‥‥だって、サリ。私、まだ覚えているのよ!? あの子の震える体も、クリスに助けられた時の温もりも。それなのに!」
抱えた肩が震えている。
寄り添うしか出来ない自分を歯がゆく思いながらも、サリはネティの肩を揺さぶり、彼女の顔を上げさせた。
「私とて悔しい。だが、ここで立ち止まったままではクリス達を救えない」
「昔」
縄梯子を繋ぐルクス・ウィンディード(ea0393)を手伝って、梯子の一端を手近な木に括り付けていたレジーナ・フォースター(ea2708)がぽつりと呟く。
「昔、父が言いました。『お前は例えようもない「どしようもなさ」に何時かぶち当たる。だから決めておけ』って」
「決める‥‥って何を?」
泣き濡れた顔を向けて、ネティが尋ねた。レジーナは微かに笑ったようだった。
「自分がどうあるべきか、どう足掻くか。その時の為の覚悟を」
静かに目を閉じて精神を集中させていた沖田光(ea0029)が、レジーナのその言葉に目を開く。
「‥‥レジーナさんのお父さんのおっしゃる通りですね。僕達は、覚悟しなければなりません。悔やんでも悔やみきれないけど、でも、これ以上、悲劇を繰り返さない為に」
「そう言う事だ」
2つの梯子を繋ぎ終えたウィンが、ロングスピアをその肩に担いで仲間達を振り返る。
「迷うな。迷いは油断を生む」
その傍らでは、彼を手伝っていたルクス・シュラウヴェル(ea5001)も厳しい表情のままで頷く。
「今は、彼らをあるべき姿に戻す為に、為すべき事をする時だ」
シュラウの言葉に、ウィンは皮肉げな笑みを口元に乗せる。
「深いな。‥‥どこまでも落ちて行ける深さだぜ」
「ウィンさん?」
仲間達に背を向け、壕の向こう側を睨みつけていたウィンの浮かべた表情に気付いたのは、彼から梯子の一端を受け取ったサーシャ・クライン(ea5021)だけであった。
「何でもない。さ、太陽があるうちに橋を架けちまうぜ」
ウィンの独白と表情を気にしつつも、サーシャは印を結び、小さく詠唱を始めた。
先に向こう側へ渡るのは危険だと分かっている。だが、恐れてなどいられない。淡い光に包まれたサーシャの体が、ふわりと宙に浮かんだ。
「教えて下さい。貴方のお知り合いがあの女の子に与えたピュアリファイの力、私にも使えるでしょうか」
サーシャとフライングブルームを持つ者達が壕の間に橋を架けていく様子を見守っていたカレン・ロスト(ea4358)は、ふと気付いたようにアンドリューを振り返った。
ここしばらく、口数が減り、陰気な表情を見せる事が多くなった男のもとへと歩み寄り、膝をつく。
「あの時は、ただの子供だったからな。だが、スレイブとなった今、そう簡単に浄化させて貰えるとは限らないぞ」
「承知している」
答えたのは、シュラウだ。
「それでも、彼らを救わねばならない。ただ倒すだけではなく」
彼女の中にも葛藤はあろう。だが、シュラウはそれを表には出さなかった。
「本当に、クリス達を救う方法はないの?」
掠れた声でネティが尋ねる。もう泣いてはいない。
「お前の太陽は何か教えてくれたか?」
逆に問い返したアンドリューに、ネティは力なく頭を振る。サンワードで尋ねてみても、太陽は何も教えてはくれなかったのだ。
「じゃあ、そういう事だろ。‥‥そんな方法があるんなら、俺は」
「うっしゃーっ!」
重い空気を一気に吹き飛ばしたのは、レジーナの突然の掛け声だった。ぱん、と頬を叩いて気合いを入れ、レジーナは高々と拳を突き上げた。
「悩んでいても仕方ないです! 行きましょう、元凶をぶっ飛ばしに」
●解放
「こっち! こっちからクリスさんの気配を感じます」
先に上げた闘志のお陰で、レジーナのオーラセンサーは常よりも研ぎ澄まされているかのようだった。スレイブと化していても、クリスはクリス。オーラシールドを掲げながら、レジーナは屋敷の中を迷う様子も見せずにひた走る。
その後を追うのは、決意を固めた仲間達。
屋敷の中は、奇妙なぐらいに静まり返っていた。彼らが壕に橋を架けた事も、侵入した事も、奴らは知っているはずだ。なのに、何の妨害もない。
やがて、彼らは足を止めた。
かつては屋敷の主達が晩餐を楽しんだであろう広間に、彼はいた。
「クリスさん‥‥」
手に持った銅鏡には、暗く閉ざされた広間が映っているだけだ。
予期していた事とは言え、心に感じる痛みが和らぐわけではない。ぎゅっと鏡を手の中に握り込んで、光は呻いた。
そんな光の様子に顔を歪め、シュラウは口の中で小さく呪を唱える。
彼らの背後に現れた少女が呪縛され、手を伸ばした姿のままで動きを止めた。
「クリス‥‥本当にバンパイアになっちゃったの? もう、私達の事も分からないの?」
ネティの問いかけにも応えない。ただ、荒い息遣いと血走った目でかつて親しく言葉を交わした者達を見ているだけだ。そこにあるのは、飢えと衝動、冒険者達も見慣れたモンスターの本能。
そんなクリスの姿を見るに耐えなかったのか、サーシャは激しく頭を振った。
「駄目! 駄目だよ、クリス‥‥。心までアンデットになっちゃったら駄目だよ‥‥。少しでも、人に戻ろうと思うなら心を失わないで!」
「無駄だ!」
咄嗟に、ウィンはサーシャの身を引き寄せると、後ろへと飛び退った。一瞬遅れて、彼らがいた場所を重力波が襲う。
「今のクリスに、俺達の言葉は届いちゃいない」
光から渡されたクリスタルソードを構えて、ウィンは真っ直ぐにクリスを見据えた。
「夜駆守護兵団が7位、勇敢なる死神、ルクス。‥‥その命、背負わせて貰う!」
名乗りと同時に、ウィンの剣が閃き、元はクリスであったスレイブの足を切り裂く。よろめき、体勢を崩しながらも、クリスは素早く腕を伸ばした。
その攻撃を阻んだのは、真空の刃。
今にも泣き出しさそうな顔で、サーシャがウインドスラッシュを放ったのだ。
迂闊に近づけない事を悟ったのか、クリスは周囲を見回す。不利な状況をどうやって脱するのかを探っているのだろうか。
「させません」
人間だった頃の面影を留めたクリスの姿に萎えかけた気力を、再度のオーラエリベイションで奮い立たせ、レジーナがルーンソードを突き出す。
「アンドリューさん、今です!」
ホーリーシンボルを握り込んだアンドリューの朗々たる詠唱が完了し、彼の体が光に包まれた。
「‥‥クリス」
倒れたクリスの体が、小刻みに震えている。アンドリューの脇を抜けて、ネティは彼の傍らに膝をついた。ぽろぽろと涙を流しながら、ネティはサリから貰ったシルバーナイフを青年の体に静かに突き立てた。
●炎の中に
一方、呪縛された少女の前で、シュラウはカレンと視線を交わしていた。
クリスの様子から見て、少女も完全にスレイブ化していると考えてもいいだろう。だが、もしかすると、まだ望みはあるかもしれない。
「助かる可能性が僅かでもあるなら‥‥。だが」
言い淀むシュラウの言葉を、光が補う。
「でも、逆にとどめを刺す事になるかもしれません」
バンパイア化の最中であればまだしも、少女は既に人間ではなくスレイブだ。彼女が人に戻れる可能性など無いに等しい。
「でも、このままでは‥‥」
睫を震わせて、カレンが吐息のような言葉を紡ぐ。
「このままでは、この子が可哀想です」
コアギュレイトの効力も、切れる頃だ。
カレンは少女に向かって右腕を差し伸べた。柔らかな子守唄の旋律を思わせる詠唱が流れる。浄化の力が注ぎ込まれ、少女の体が激しくのたうった。
「駄目か‥‥」
祈るように見つめていたシュラウの表情が揺らぐ。悲しみを堪え、感情を抑えた口調で、彼女は告げる。
「この子の魂は、既に魔の者との戦いに敗れ、一足先に旅立ったのだ。ここにあるのは抜け殻に過ぎぬ」
「抜け殻でも、苦しんでいるのは見ていられないよ」
涙声のサーシャの言葉に応え、苦しむ少女を止めたのはレジーナの剣であった。
「‥‥ゃすみ‥‥いまはおやすみ‥‥私の可愛い子‥‥」
細い首を飛ばされた少女の体を受け止めて、カレンは冷たい体を温めるかのように、優しく撫で擦り、子守唄を歌い続ける。
「満足ですか?」
鎮魂の歌を妨げぬよう、密やかな声でレジーナは呟いた。少女を解放した剣を持ち直すと、背後の闇と同化するように佇む娘へと鋭い視線を向ける。
「さて、どうかのぅ。もう少しそなた達を苦しめてくれれば、より楽しめたであろうが」
小首を傾げると長い黒髪が流れて落ちる。素性を知らぬ者ならば、その可憐さに見惚れていただろう。だが、そのまやかしの美しさに騙される者など、この場にはいない。
「汚らわしい」
緊迫を孕んだ空気の中、少女の亡骸を抱えていたカレンが吐き捨てる。
「あなたは、あなたが蔑む人間と‥‥欲に塗れた人間と同じです」
冷たい瞳で言い切ったカレンを、娘は一瞥しただけだった。苛立たしさがカレンの心に募る。
「カレンの言う通りだぜ。テメェ、何様のつもりだ? こいつらがテメェに何をした。ただ、平和に暮らしていただけだ」
言うなり、ウィンは地を蹴った。
娘までの距離を一気に詰め、鋭い一撃を叩きつける。
だが、それは優雅な扇の一振りで弾かれた。
荒々しい舌打ちと共に、ウィンは即座に飛び退る。
「無駄な事を。人間如きが妾を傷つけられるものか」
怒りも顕に、光はクリスタルソードの剣先を娘へと向けた。
「僕は、僕は絶対にお前を許さない。人の命は、人の心はお前の玩具じゃないんだ! 僕は‥‥」
否、と娘は笑い含みに光の言葉を遮る。
「人間は、我らが食物に過ぎぬ。家畜の分際で、我らと対等と思うてか」
「許せない! あなただけは!」
ウインドスラッシュを放ちながら、サーシャは叫んだ。
「精一杯生きている人達を‥‥なんだと思っているのよ!!」
躱す娘の動きに遅れた髪が一束、真空の刃に切り裂かれて舞う。娘の瞳が、意外そうに見開かれた。
「妾の髪‥‥」
「サーシャさん!」
すかさず、光がサーシャを庇って前へと出る。
「命知らずよの」
娘との間合いを測りながら、クリスタルソードを構えたウィンが腰を落とす。
「な‥‥何よ! あんたなんかに! あんたなんかに、こんな所で負けてたまるか!」
絶対に負けない、死なない。
気圧されかけた気持ちを奮い立たせて睨み付けたサーシャに、娘は目を細め、喉を鳴らして笑い出す。楽しくて仕方がないとでも言いたげに肩を揺らし、一頻り笑うと、娘はゆっくりと踵を返した。
「犬は、犬と戦わせるのが楽しいもの。妾がそなた達ごときを相手にするとでも思うたか?」
嘲笑と共に去って行く後ろ姿に、ネティは叫んだ。
「私は、あなたを絶対に許さない! 太陽神の名にかけて、いつかクリスの仇を討つんだから!」
その叫びも聞こえていないように、娘は闇の中へと姿を消した。
はっと我に返り、レジーナが後を追った。広間を走り抜け、奥の扉を勢いよく開く。途端に、渦巻く熱気と異臭混じりの煙が吹き付ける。
「な、に?」
目の前に広がった光景に、シュラウは呆然と立ち竦んだ。
「どうしまし‥‥た‥‥」
爆ぜる火の粉を払った光が、動きを止めたシュラウの様子に怪訝そうに尋ねて絶句する。
部屋の中に、燃える人影。
それも、1人や2人ではない。
「これは一体‥‥」
吹き付けた熱風に孕まれた、独特の臭気。
口元を抑え、喉を駆け上がってくる嘔吐感に堪えて、サーシャは首を振った。この部屋の惨状は、彼女の理解を越えていたのだ。
おぞましさを押し隠しつつ、サリは注意深く近くにある死体を爪先で転がした。焼け落ちた顔の中、鋭い犬歯が覗く。
「やはり、そうか」
死者への祈りの言葉を唱えて、サリは仲間達にその牙を示した。
「先の招待状で集められた者が、数人、確認されていない」
「って事は、つまり、こいつらもあの女の‥‥」
ぎり、と噛み締められた歯が鳴った。破れた唇から血が伝い落ちるのを拭いもせずに、ウィンは叫び声を上げた。
「畜生ッ! あの女ッ!!」
用なしと判断すれば、配下でさえも切り捨てる。しかも、いらなくなった物を火にくべるかのように、あっさりと。
「無力だ‥‥無力なんだよ! 今の俺達は‥‥」
憤りをぶつけるように、何度も壁に打ち付けられるウィンの拳を己の手で止めて、光は彼を促した。
「今は戻りましょう。いつか、あのバンパイアと決着をつける日の為に、僕達はこんな所で命を落とすなんて出来ない」
依頼を成し遂げた満足感はなかった。
闇に紛れた娘がどこに向かったのか、彼らには知る由もない。
けれど、人を家畜だと言い切ったあの娘は、またどこかで同じ事を繰り返すだろう。手がかりの全てが途絶えたわけではない。
いつか、必ず。
心に誓って、彼らは忌まわしい屋敷を後にした。