【悪魔の残兵】空にコウモリ地にデビル

■シリーズシナリオ


担当:瀬川潮

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 10 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月06日〜05月12日

リプレイ公開日:2009年05月16日

●オープニング

 ここに、ある浪人の無念を記しておく。

 その山間の集落に、コウモリの大群が現れ始めたのは数週間前だった。
 夕刻ともなればどこから集まってくるのか、平屋の屋根程度の高さを100匹前後がばさばさと飛び交う。これらは人を襲うことはなかったが、10匹前後いる大コウモリだけは別だ。好んで人を襲う。最初の被害者である娘は数日寝こんだが、これは恋の病と判明。住民は安心するも、やがて熱病で倒れる者が出始める。
 なぜコウモリが突然群れを成して村にやってくるようになったのかは、謎。
 さらに不幸は怒涛のように押し寄せた。
 住民が不安に思う中、治安が悪化したのだ。
 暴行を受け泣き寝入りする娘、横行する盗みの被害、生気を失ったかのように顔色を悪くする者、そして首をくくって自ら命を断つ者‥‥。
 この時、集落を旅の浪人が訪れた。住民は、とにかく凶兆の端緒たるコウモリを退治してくれと泣き付く。助けを頼んでも来なかったなど涙ながらの懇願に、ついに浪人は「微力ながら」と単独引き受けた。長く弱きを助けてきた元冒険者らしい。治安の悪化については、思うところもある。
 とにかく、まずはコウモリ。
「これだけ民家が離れてりゃ、大技一発でずいぶん落ちるんだろうがなぁ」
 夕刻。そうぼやきながらも、刀を手にずいぶん落した。「遠斬り」という技で、心得のある者が見ればソニックブームであると分かる。住民たちはいつものように外に出る事はなく、家の中から浪人の活躍を祈りながら見守った。
(こりゃあ、うまくいきそうじゃ)
 跳ね上げ戸から見守る住民の顔が、久し振りに晴れやかなものになった。
 が、しかし。
「ぐあっ!」
 突然、浪人の足元が爆発した。
 その後は、あっという間だった。
 幽かに光る矢がカーブを描きながら飛んで浪人に刺さり、横合いから出てきた大男が長駆詰めより背中からばっさり。続いて周囲の民家の影から漆黒の炎が飛んできて命中、さらにもう一人大男が出てきてこれも上段から袈裟の一撃。
 浪人、瞬殺。

 やがて日は落ち、コウモリは散った。一体どこへ帰ったのやら。
 住民たちは勇気をふりしぼり、浪人の遺体に近寄った。当然、手遅れ。
 と、懐から一通の手紙を見つける。
 文面は、人同士の争いを憂い平和を求め野辺の捨刀となる覚悟で前線に馳せ参じる、と。志し半ばで倒れるなら京の某寺住職に手紙を届けて欲しい、と。
 浪人はどうやら、東方を目指していた。
 果たして、彼が打ち捨てられし刀のように倒れる戦場は、ここだったのか。
 住民は早速京の某寺に使いを出した。住職、黙して背を向けるとただひたすらに経を上げたという。

 使いの行き先はもう一つ。
 冒険者ギルドに、夕刻毎に現れるコウモリの退治と村に潜伏する悪しき何者か――担当者の見立てによると、デビル――の排除を改めて依頼するのだった。

●今回の参加者

 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ec2108 春咲 花音(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec3984 九烏 飛鳥(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文


 深緑の森林に、紅の忍び鎧の姿。
「てっきり、洞窟でせっせと悪魔が飼ってたりしてるのかと思ってたです」
 ひとりごちるはルンルン・フレール(eb5885)。先行到着したが村には寄らず周囲の森などを単独で調べている。
 びたっと大樹の影に潜伏し偵察。見上げるは向こうの木々の枝。
 葉陰にコウモリの群れがぶら下がっていた。
 念のため、巻き物を広げ呼吸探知と振動探知を試す。
「魔法に感なし、です」
 深紅の姿が木々を縫って消える。ルンルン、無理せず引いた。
 その、後続部隊。
「‥‥もっとこう、具体例はねぇか?」
 民長の家で、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)がギルドに依頼した使いの男に詰め寄っていた。コウモリの大量出現後の異変、特に不審人物について聞いているのだ。
「見ない男が集落の中を堂々と歩いていたり、病気で寝込んでいた者が外出している姿を見たと思えば、やっぱり寝込んでいたり。‥‥そう。いない者がいて、いないはずの者がおるようです」
 この男に聞くのは、果たした役目柄住民の中で一番信用できるから。
「浪人を斬った大男。いないはずの者だと思うが、見かけた場所や隠れていそうな場所は分かるか?」
 伏し目がちに聞いていたカイ・ローン(ea3054)が、顔を上げ確認した。男はしどろもどろに返答するも、芳しい内容は返ってこなかった。
「昼間に外に出ようとしなくなった者は?」
 今度はクロウが確認する。
「多くの者がそうなっておる。皆生活に必要最低限の外出しかせず、表面的に言葉は交わせどよそよそしい。もう、誰を信用していいのやら」
 同席する民長が肩を落としながら説明した。
「バンパイアが紛れてる可能性もあるんだがな」
 クロウの呟きに、住民らは首をひねる。馴染みのない名前だ。
「コウモリはどこから来るのだ?」
 代わって、アンドリー・フィルス(ec0129)が聞く。
「山の方から。おそらく大きな鍾乳洞に棲んどった奴等じゃ。ここまで来ることは今までなかったのに‥‥」
「調べたのか? その鍾乳洞」
 民長からの新情報に、メグレズ・ファウンテン(eb5451)の目が輝いた。
 と、ここで黙して座していた備前響耶(eb3824)が動いた。すっと腕を横に伸ばし彼女を制する。
「今までご苦労されたことだろう。我々も京からでは中々、目が届かない。何とも苦しい」
「いや。わざわざ大勢で来ていただき、恐縮です」
 響耶と長が改めて、頭を下げ合う。
「鍾乳洞で何があったのか、調べに行く勇気のある者はおりません」
 そして使いの男が申し訳なさそうに言った。
「うむ。危ないからな。近付かない方がいい」
 メグレズが優しく肯いた。彼女の先の言葉が叱責ではないことを知り、村長たちはほっと肩の力を抜くのだった。


 翌日。
 カイが積極的に情報収集に動く。
「直接手をかけた姿を見られているから、まったく詮索しないのは逆に不審に思われる」
 特に、浪人に止めをさした大男について尋ねる。響耶とメグレズ、アンドリーの前衛組と一緒で非常に目立つ。わざとそうしているのだが。
 別の場所では、クロウ。
 集落の家を巡って不振な人影を見かけなかったか尋ねて回り、人の様子もチェックしている。
 と、ここで石の中の蝶がわずかに羽ばたいた。
(あれじゃねぇかな)
 一軒の民家にデビルが潜んでいると判断した。きょろと周囲を見回した後、近付いて行った。怪しんで変わった行動を取る訳にもいかない。とりあえず普通に尋ねておくつもりだ。
「なるほどな」
 クロウの姿を、遠くから見ていた者がいた。九烏飛鳥(ec3984)だ。響耶から借りていた龍晶球を確認すると、やはり向かった先にデビルがいる。
「‥‥コウモリ来る前にみんなでボコにしたろ」
 インビジブルの魔法を唱えると、飛鳥はクロウの後を追った。
 実は、潜伏組はほかにもいる。
「春咲さんは大丈夫っていってくれたけど、うまくいってるかな?」
 別の場所で汚した毛布を纏い民家の影に隠れているのは、セピア・オーレリィ(eb3797)。少しずつ移動しては不死者探知の魔法で索敵に専念する。慣れないことをしているせいか、ちょっとおどおどと気弱な表情。男が見たらさぞや惚れるだろう。
「あらまあ。こりゃ相当疑心暗鬼になってるわねー」
 さらに別の場所。隠れて住民らの井戸端会議に耳を傾けていた春咲花音(ec2108)が呆れていた。交わされる会話はどこかよそよそしい。
「これじゃデビルの思うつぼだわねー」
 石の中の蝶を確認。悪魔はいない。明るい彼女もさすがに陰気になる。
『花音さん』
 ここで、ルンルンからのテレパシーが届いた。
『北の方でデビルが五体いました。今からやっつけちゃいましょう』
 探すと、彼女は少し離れた場所に潜んでいた。ウインクして手を振っている。


 その、北の方。
 クロウの情報で駆けつけた前衛組四人が、すでに獅子奮迅の戦いを展開していた。
 奇襲は完全に成功。デビルの正体は青白く陰気な外見の縊鬼で、家屋になだれ込んでの近距離戦闘は敵魔法を完全に封じた。
「破刃、天昇!」
 メグレズが押し入りながらのソードボンバーで三体を戦闘不能に追いやる。残りは、続く響耶の名刀「獅子王」の斬撃と、若干遅れたアンドリーのスマッシュが瀕死に追い込み黙らせた。
「む、やはり」
 カイは、家に入っていない。もともと気に掛けていたのは大男だ。予感が的中したようで、大男――正体は、羅刹――はまさしく今、前衛組四人のいる家屋目掛けて殺到していた。カイ、即迎撃の構え。
 しかし、数が多い。
 一体に霊矛「カミヨ」で斬り付けたものの、合計十体はきつい。特に戦場が広く魔法の集中砲火を浴びる危険性がある。
「上等じゃんかよ」
「悪巧みはこれまでです。これ以上悪さはさせないんだから!」
 動いたのは、潜伏組。クロウとルンルンが姿を現し弓を構える。魔法を準備する羅刹を選別射撃。さらに業火の槍のセピア、聖なる杭の花音も現れて出鼻を挫く。
「一匹残さず討っとくでえ」
 それが集落への特効薬とばかりに飛鳥も最前線突入。今まで我慢を重ね隠れていた分、派手に暴れる。降魔刀の悪魔殺し効果は覿面だ。
 結局、屋外組は羅刹の黒炎魔法などを食らうも、屋内を片づけた三人が参入することで終始圧倒した。住民が数人襲い掛かってきたが、カイのコアギュレイトとセピアのレジストデビルで対処。どうやら縊鬼にとり憑かれていたようで、出てきたデビルを片付けた。花音が気絶させた錯乱気味の住民は、アンドリーがディスペルリングを使うと落ち着きを取り戻していた。
 結局、冒険者たちは羅刹十体と縊鬼六体を退治した。
「これだけ倒せばあとはコウモリだけかしら?」
「いいや、まだ分からんで」
 花音の疑問に、飛鳥の慎重論。
 結局、夕方の対コウモリ戦も予定通り悪魔の襲来があると想定。前衛・潜伏組の二段備えで対応することを確認した。


 そして、夕暮れ。
 前衛組四人は、浪人が殺された場所でコウモリを待った。
 やがて、空を覆うコウモリたち。
「日が暮れる。急ぐぞ!」
「飛刃、散華!」
 響耶とメグレズがソニックブームにスマッシュなどを乗せ次々撃墜する。空では、フライの魔法で飛ぶアンドリーが暴れまくり、メグレズの飼い鬼火「トリグリフ」が炎の壁を作り牽制する。
 やがて大コウモリが襲ってきた。カイが出番だとばかりに矛を振るう。
 と、その時だった。
 空を飛ぶコウモリの内、何匹かが変身、いや、元の羅刹の姿に戻ったのだ。
 羅刹たちは落下速度そのままに、前衛三人に斬り付ける。
 同時に、アンドリーが消えて瞬間移動。横から斬撃を食らわせ何とか一体を潰した。
 地上の三人は、完全に不意を突かれた。
 それでも響耶は左手の扇で受ける。カイはホーリーフィールドを展開するも押し潰された。メグレズは、もろにスマッシュを受ける。
 そして、潜伏・後衛組も慌てた。
 後方から大コウモリの選別射撃をしていたクロウは、騎乗の天馬「ワールウィンド」の偽装を解除し飛び立つ。
「まずい、周りからも来てるぜ」
「感ありっ。みんな、気を付けちゃってください」
 ルンルンも潜伏場所から立ち上がり弓を射る。が、黒炎魔法の反撃をくらい体勢を崩す。
 飛鳥、花音の隣接戦闘組は距離を詰めるべく急ぐ。
 後手に回ったかと潜伏組が焦りを感じたとき、戦の流れが変わった。
「青き守護者、カイ・ローン、参る」
 負傷したことでむしろ正義感に火がついたか、英国正統流ウーゼルの槍が力強く反撃に転じる。
「それだけか、デビル。もっと掛かってこい」
 片膝をついたのみで立ち上がるメグレズ。敵を煽っておいてから「妙刃、破軍!」。いわば見切りカウンターの広範囲攻撃で、一気に畳み掛ける。
 そして戦いは終わった。倒した羅刹は、九体。
「デビル、逃げようとしなかったね」
「いつもならよく逃げるのに」
 逃げるようなら業火の槍でド派手な火球を飛ばそうとしていたセピアと、同じく大ガマの術を用意していたルンルンが意外そうに首をひねる。
「最初は魂狙いやと思うてたけど‥‥ここに執着する理由、他にあんねんか?」
「京から離れた場所、か」
 飛鳥の問いに、響耶が唸る。
「あ。コウモリは森の木にたくさんぶら下がっちゃってました」
 事前調査の報告をするルンルン。
「鍾乳洞を調べるしかないな」
 そう、響耶はまとめた。

 滞在最終日。
「熱病者は快方に向かってますが」
 医療活動をしていたカイが瞳を陰らせた。
「デスハートンの影響で寝込んでいる人も多くいます」
「例の鍾乳洞。場所は分かったが、痕跡から中には相当デビルがいるぜ」
 続けてクロウが報告した。
 ひとまず、村に潜伏したデビルと大コウモリだけは退治した。しかし、いつまた状況が変わるか分からない。
「何とか、鍾乳洞に潜むデビルとやらも退治してもらえれば」
 民長が改めてすがってくる。
 が、装備や準備が整っていない。
 ひとまず、冒険者たちは集落を引き上げるのだった。