【悪魔の残兵】鍾乳洞の戦い
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■シリーズシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:9人
サポート参加人数:5人
冒険期間:06月02日〜06月07日
リプレイ公開日:2009年06月11日
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●オープニング
「冒険者のおかげですっかり大コウモリの姿は見なくなった」
「普通のコウモリもずいぶん少なくなった」
「寝こんでおった者も状態がいい。やっぱり諸国を渡り歩いておる人らは、違うなぁ」
先にコウモリの群れと隠れ潜むデビルを冒険者に退治してもらった集落で、住民たちが話し合う。民長の家で車座になって話し合う姿は、治安が悪かったころの疑心暗鬼にかられた陰湿な雰囲気とは違う。冒険者達の戦いぶりで感じるところもあったのだろう。
「ただやはり、あれを目の当たりにしてしまってはのぉ」
民長は腕を組み、溜息を漏らす。
あれとは、コウモリに化けていたデビルが空から落ちてきて冒険者を襲った場面だ。直接住民を襲っていた大コウモリはいなくなり、加えてやってくるコウモリの数が減ってもまだまだ安心はできないということだ。もっとも、あれから集落や住民に被害はない。
住民達は再出撃の依頼をすでにしている。
村から半日の距離に位置する、山中の鍾乳洞を攻めてもらうのだ。
中にいると目されるは、デビル。
総数は、不明。
冒険者が、コウモリが村に行っている間にできるだけ近寄って調べたところによると、まだ中にいることは間違いないことが判明している。中へ出入りするネルガル数体の確認情報は特に重要な意味を持つ。
「鍾乳洞の入口は一つ。これをつぶしてもらってもいいんじゃないか?」
「無理じゃろう。それに、まだ何人かはデスなんとかという魔法を掛けられて寝込んだまま。治すには中に入ってあるものを奪わないといけないらしい」
「難儀なことじゃ」
鍾乳洞の攻略と奪取は、必須となりそうだ。
内部は、二階建ての民家がすっぽり入るほどの大広間が三つある。出入り口から一の間、中の間、奥の間とすると、外からは一本の通路で一の間に繋がり、中の間には二本の通路で、奥の間も二本の通路で順に繋がっている。通路の大きさはいずれも、およそ一人が通常と言える程度の剣を握ってなんとか不自由なく戦える程度。グループであれば一列縦隊での通過となる。それぞれ差異はあるものの、若干右に左に曲がりながら、20メートルほど続く。
「先の戦いでは、悪魔は合計24匹いたそうじゃ。もしも同じ数が中にいたとしたら、一斉にかかって来られるかも‥‥」
「よ、よし。田を数枚売ろう。できる限り大人数で来てもらうんじゃ」
不安の声に、民長が決心する。
「‥‥最近、鍾乳洞の方から枝を折るような音が聞こえてくる事があるよのう」
「ああ。一体悪魔たちは何をたくらんでおるのやら」
ぞっとして、住民たちは耳をすます。
ばきぼきと枝を折る音はしなかったが、ひゅううと高くか細い音が聞こえた。
「コウモリは、悪魔たちがおるんで鍾乳洞から逃げたのだとすると‥‥」
「悪魔は、まだ相当おるんじゃなかろうか」
京都外れの片田舎に、決戦間近の風が吹く。
●リプレイ本文
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「悪魔の密偵がおる、ちゅうわけでもなさそうやね」
石の中の蝶を確認した後、念の為に周辺を見回して九烏飛鳥(ec3984)が一息ついた。
「そうだな。妙な陣やら印が残っているわけでもない」
続くは、備前響耶(eb3824)。意図的な痕跡にも注意している。が、特におかしな様子はなかった。
2人のように、一行は集落に到着するとまず付近を調べ上げた。
「任せておけ。何企んでるか知らねえが、今度もぶち砕いてやるさ」
民長宅では、情報収集をしていたクロウ・ブラックフェザー(ea2562)が笑顔で見栄を切っていた。
(‥‥鍾乳洞の奥にはいわくの分からねぇ地蔵様が一体、ね。案外ポイントじゃねーかな)
聞き込みの成果にクロウ、調子がいい。切符の良さに盛り上がる住民たち。
「やはり鍾乳洞か」
クロウから話を聞き、カノン・リュフトヒェン(ea9689)のクールな瞳に一瞬、感情が走った。
「前回で24匹。更に鍾乳洞にも。でも、それだけのものかしら?」
セピア・オーレリィ(eb3797)は、悪魔の数に対していわくのない地蔵は釣り合わないと話す。
「最近は森のほうから枝を折るような音が聞こえるんだって。単に枝を何者かが集めているのか、それとも花音が昔戦ったことがあるベヒモスみたいな大きいのが動いているのかもー」
春咲花音(ec2108)が、「枝を折るような音」に話題を変えた。
「うーん、何か罠でも仕掛けてるのかな?」
頬に人差し指を立て、ルンルン・フレール(eb5885)は首を傾げるのだった。罠だけろう、と一同。
翌日、冒険者たちは件の森へと向かった。
「前方、敵の気配はないです」
先行し時折振り返って指先で仲間に合図するのは、土地感に優れ広範囲索敵のできるマロース・フィリオネル(ec3138)だ。
「じゃ、調べてきちゃいますね! 入り口より前に罠を仕掛けられてるかも知れないもの」
続いていたルンルンがそう言うと調査に向かった。その他、クロウ、花音の隠密組が散る。
「特定の木を狙って折ってるとかあるのかな」
セピアは本隊待機場所で視線を巡らせる。飛鳥も変わったところがないか、近場を探りはじめた。
「燻し出し攻撃、二虎競食、水を集めた罠。これらが心配だ」
円巴(ea3738)の黒い瞳が思案に煙り、簡単にポイントを話した。悪魔が冒険者に対し待ちの構えで戦闘準備をしている以上、何かがあると見る。その何かが、どこに仕掛けられているか。長い黒髪をあき上げ、隠密組の情報を待つ。
「この辺りに足跡をつける類の動物はほとんどいねぇんじゃねぇか」
別の場所で、クロウ。草が踏まれてないことから判断する。少なくとも、大型動物が枝を折りながら移動している線は消えた。
では、罠があるのか?
調査の結果、罠は森ではなく、デビルもいなかった。
「鍾乳洞の方はもともとなーんや罠くさかったしな」
「何のために枝なんか手折っていたのかも分かるでしょう」
飛鳥とセピアの言葉通り、冒険者たちは腹を括った。
●
「通路に、いるな。見張りかも知れん」
入り口付近で龍晶球による広範囲索敵をした響耶が、振り返って皆を見た。クロウが聞き込みで制作していた内部地図を指差す。
「数まで分からんのがもどかしいが」
そう言って立ち上がり、名刀「獅子王」を抜く。一気に斬り込み急襲をかけるつもりだ。
「支援するわ」
次に立ち上がったのは、セピア。
「鬼が出るか蛇が出るか……って悪魔に決まってる、か」
ランタンを手に苦笑しながら続く。後は、残りのメンバーが続いた。――約2名を残して。
さて、洞窟通路。
「むっ!」
響耶、突然やって来たブラックフレイムに速度を落としたが、これは背後にいるセピアの高速詠唱ホーリーフィールドが見事に防いだ。やがて縊鬼が立ちふさがるが、シュライクで一撃瀕死を決める。
と、ここで背後から爆音。前方遠い位置に花音が現れる。微塵隠れの術で移動したのだ。
「こっち来ちゃった☆ この先のこと、話してくれる?」
通路の前方に控えていた縊鬼にスタッキングを仕掛け、響耶が対している縊鬼への魔法支援を防ぐ。
言葉の返事は殴打で返ってきた。
「いったいわね!」
花音はスタックPAで一撃瀕死を食らわせた。
「良い仕事だった」
「さっきは間に合わなかったですが、今レジストデビルかけておきましたから」
止めを刺す間に、急襲のみに集中する響耶が走り抜け、さらに飛鳥から借りた輝きの石を手にしたマロースが続き魔法支援した。さらにペルーンの神弓を手にしたルンルンが過ぎる。
振り返ると、響耶が一撃を食らわせた悪魔には、巴とランタン係のセピアが止めを刺していた。急襲と退路確保の連携はばっちりだ。
そして一向は、一の間に到着した。
「うわっ」
到着するなり、ファイヤーボムが飛んでくる。全員巻き込まれるが、響耶の魔杖「ガンバンテイン」による対魔法防御などを始め、皆防備に余念はない。固まっていてはまずいと散開。ちょうど、鍾乳石の間に木の枝などで身を隠すことができる程度の障害物がそこかしこにあった。それぞれ、これ幸いと身を隠す。
そして、気付く。
現れたネルガル10体がそれらに狙いをつけていることを――。
●
そのころ、鍾乳洞の入口。
「う〜ん、まだよぉわからんなぁ。その鍾乳洞で何かするんに魂が必要やったんやろか。‥‥どう思う?」
飛鳥が頭を悩ませている。悪魔どもの目的が判然としないからだ。
「村自体にはそれ程重要な標的になりそうなものは無いようだが‥‥。魂が絡むのなら中の地蔵は関係あるまい」
カノンも唸る。
実はこの2人。内部突入はせず入り口の確保に残っていた。入り口側からの挟撃を心配しているのだ。
「む?」
「何や?」
残留は、正解だった。上空に近寄ったコウモリが羅刹になって降ってきたのだ。2人とも殺気を感知し、何とか回避した。さらに2体が現れる。計4体。
すかさず呼子笛を吹く飛鳥。中まで聞こえたかどうかどころではない。すぐに応戦体勢に入る。
「壁役ぐらい、こなしてみせるさ」
レジストマジックを掛ける隙はない。カノンは絶対防衛の決意を口にしながら氷の剣を抜刀する。が、羅刹はすぐ迫ってきている。
(狙える)
交差気味に、カウンター。
カノンは攻撃を食らったが、固めた防具で何とか無難な傷で済んだ。反撃の剣は、見事な手応え。我が身を模したかのような氷の剣は敵に大きな被害をもたらした。
「喰らうかい!」
ぎゃり、と飛鳥の持つラムナックルが鳴った。羅刹の斬り込みを受け流したのだ。右手の降魔刀でばっさりと反撃する。流れるような連携だ。
しかし、敵は多勢。
「くそっ!」
2人とも離れた位置からの黒炎魔法をくらい身を竦めた。その隙に、先に手傷を負わせた羅刹が斬り込んでくる。カノンは防具に助けられるも、飛鳥は軽傷。
「やってくれるやんけ!」
反撃の刃はしかし、利いた風はない。
「エボリューションか」
ち、と小さく舌打ちしカノンは思案を巡らせた。
●
マグナブローの連続炸裂。
洞窟の中は騒然となっていた。
「くっ。これが罠か」
ソニックブームを放ちつつ、巴が吐き捨てた。
悪魔どもが森で集めていた枝などは隠れる場所になっていた。冒険者が身を隠せば、そこを狙ってマグナブローを放ち攻撃し、さらに障害物を燃やすことでダメージを狙っていた。
――ぱしゃん。
炎の心配がない水の上を行くものがいる。花音だ。首飾りのウイッチネッカーで耐火もばっちり。
(真っ向勝負は分が悪いからね)
隠密行動で密かに近付き、ネルガルにスタッキング。攻撃を受けるも得意の一撃で黙らせる。
水面に、もう一つ影がよぎった。
「ルンルン忍法、水走りの術ですっ。村人さん達の為にも、負ける訳にはいかないんだからっ!」
三本射で畳み掛ける。
後衛の戦いも忙しい。
「これでずいぶん楽に戦えるはずです」
味方へ魔法を掛けるなど連続詠唱をしているマロース。後方から戦況をうまくコントロールしている。その傍らのセピアが、手にした杖で彼女を軽く叩く。瞬間の魔力補充をしているのだ。
「牙痕を穿て、『青面獣』」
ネルガルにスタッキングを掛けられていた巴は、魔獣の短剣で渾身の迎撃。
そこへ、少撃多破を狙う響耶のチャージングが炸裂した。
足元の枝や葉が燃える中の移動はきついものがあるのだろう、「ごほっ」とむせた。
「しまった! そういうことか」
ここで、巴が大声を上げた。
「デビルに息苦しさはない。これは燻り出しの罠だ! 森ではなくここで仕掛けてきたか」
すぐに撤退しよう、でないと全滅するぞと黒髪を振り乱し響耶にまくしたてる。
あとは、大混乱だ。
2人は戦闘そっちのけで退却を仲間に伝えるべく奔走する。
「ここで我慢してたかいがあったってもんだ」
後方で通路を確保していたクロウがここぞとばかりに撤退戦のしんがりを務めるのだった。
「はっ!」
「これでどうや」
外では、カノンと飛鳥が戦闘を続けている。なぜか2人の持つ武器が入れ替わっていたりする。最後の羅刹2匹は、合流した仲間の力で息の根を止めた。
デビルたちは、洞窟の外まで追ってくることはなかった。
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そして、滞在最終日。
「強行偵察したと思えば、勝ったも同然じゃねーの?」
「そうだな。次にやれば同じ手は食わん」
民長宅で、クロウとカノンが手応えを話していた。
「悪魔たち、えらく連携が悪かったように見えたけど」
「そう言われれば、そうですね」
後方支援に徹していたセピアとカローンは、首をひねる。罠の手際は悪魔的に良かったのだが、結果的に数的有利を生かしきれず、そのおかげで冒険者たちは逃げ延びることができた。
「とにかく、対策を立てねばお手上げだ」
フォーメーションだけではどうにもならないと、巴。最終日に再び仕掛けることをしない理由だ。
こうして、冒険者たちはいったん集落も引き揚げるのだった。