【悪魔の残兵】鍾乳洞の悪魔ども
|
■シリーズシナリオ
担当:瀬川潮
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月28日〜07月03日
リプレイ公開日:2009年07月07日
|
●オープニング
「正直、ちょっとしんどいですね」
「ああ。笹次郎め、戦に駆け参じるはずがえらいのに巻きこまれもんじゃ」
「しかしまあ、通り掛かりの民を見捨てられなかったってぇのが、あいつらしくていい」
「ええ」
コウモリの大群が飛来する依頼から悪魔の潜伏、果ては付近の鍾乳洞に悪魔がたむろしているという状況に見舞われた集落で、浪人のような風体の男三人と女一人が話し合っている。笹次郎とは、最初に集落の惨状に立ち向かい討ち死にした男の名前。知人の死に遅巻きながらやって来た。鍾乳洞で悪魔の罠に掛かり一時撤退した冒険者らと顔を合わせ、しばらく集落の警護と悪魔の見張りをする約束を交している。
「でも、ここが苦しんだままじゃ、死んだ兄は報われないわ」
「おお、美土里の言う通りじゃ」
四人のうち、一人の女性・美土里は笹次郎の妹のようであった。
「皆さん、お帰りなさい。鍾乳洞の方はどうですかの?」
どうやら偵察に出た帰りであるようで、民長が出迎えた。
「冒険者たちが帰ってから、いつもの通り。相変わらず枝を折ったり草を刈ったり。笹や竹など燃えそうなものを鍾乳洞に運び込んでいますね」
「新たに悪魔が集団でこっちにやって来るなんてぇのは、なさそうだ」
「どっちにしても、前に来た冒険者くらい名の通ったのがもう一度来んとどうしようもないのう」
「悪魔たちが先の罠に味を締めているからか状態は落ちついてますが、私達の人数と力量では正直、偵察すら荷が重いです」
美土里の言葉に恥ずかしさはない。本来、穏密に向くメンバーではなく、全面戦闘を避けるための神経戦に向くメンバーでもないからだ。精神的にかなり消耗している。
「悪魔の魔法に掛かっている者はまだ寝込んで弱っとる。梅雨になったことじゃし、新たな病気に掛からんか心配じゃ」
「おっしゃる通りです。もっとも、今年は雨が少ないのが幸いです。最近は適度に雨が降ってますから鍾乳洞内で炎の罠の威力は落ちるでしょう。‥‥あ。雨が降ったら中は洪水、ってことはないですよね」
「それはない。大雨が降ってもあの中の水量は知れたもの。若干増える程度じゃ」
「水の罠の心配はなくむしろ好都合、ってこったな。よっしゃ、後は援軍を待つだけだ」
とき来たり、とばかりに気合を入れる四人。やがて到着するであろう冒険者を待ち望み、京都方面の空を見遣る。
悪魔の目的は、いまだ判然としないが――。
●リプレイ本文
●
冒険者一行は件の鍾乳洞入り口付近に身を潜めていた。
ここまでデビルの潜伏はなく、アイテムによる探知によると入り口と広間までの通路に隠れている様子もない。
「前回は入り口にもデビルが出てきたようですが、今回はどうなさいます?」
クァイ・エーフォメンス(eb7692)が確認した。ちらと、美土里たち四人を見る。実は、彼女らはもともと入り口を守るつもりだったが、やって来た冒険者が後衛重視の編成だったので心配している様子があった。今も、口にはしないが四人を二手に分け、一隊を冒険者の支援にと言い出しそうに視線を交わし合っている。
「ウィザードの元馬祖(ec4154)と申します。よろしくお願いいたします。‥‥消火と煙対策が鍵になりそうですね。 なんとかお役にたてるようがんばります」
「そうね、私も悪魔との戦闘までは手が回らないでしょう。悪魔が外に出てこないということは、前回のようにそういう戦いになるでしょう」
馬祖が今更ながらの挨拶でそれとなく剣のみでの戦闘にならないことを示唆した。ステラ・デュナミス(eb2099)も肯く。
「入り口に戦力分散させんでええんは助かるわぁ。よろしゅうたのんまっせ」
雰囲気を汲んだ九烏飛鳥(ec3984)。「どうにも不味い時はこれで呼んでぇな」と呼子笛を渡し、話をまとめた。
「宜しく頼む。そこまで時間はかけないつもりだ」
立ち上がり、振り返りもせず背中越しに言う備前響耶(eb3824)。立つ前に手渡したのは悪魔探知の龍晶球だ。悪魔が化けている可能性もあると読んで石の中の蝶で調べたが、その可能性が消えて安心している。あえて振り向かなかったのは、背中を預けるという思いがある。
「任せとけって。笹次郎さんの仇は俺達が取ってくるぜ」
クロウ・ブラックフェザー(ea2562)もウインクをして立ち上がる。
「‥‥宜しく、お願いします」
美土里が頭を下げたことで、剣客組の入り口担当が決まった。
「じゃ、行きましょう」
「今度こそやっつけちゃいます!」
前衛支援のセピア・オーレリィ(eb3797)が準備良しとばかりに立ち上がり、ルンルン・フレール(eb5885)も続いて士気を上げた。
すでにステラの耐火魔法は皆に一個所に集まってもらい掛けたあと。ペットの天馬「エウルス」は剣客組につけた。
準備万端。いざ、突入開始だ。
●
「あらら。今回は通路で待ち伏せはないみたいですね」
最後尾に位置し戦闘あれば微塵隠れの術で回り込むつもりだった春咲花音(ec2108)が呟く。若干つまらなさそうだ。
広間に出ると、やはりマグナブローがそこかしこで炸裂していた。枝や竹などで組んであった、身を隠すことができる垣根が燃える。花音にとっては好都合である。後衛にネルガル、前衛に羅刹という敵の布陣を見て、早速、混乱に乗じて気配を消す。
「今回は前とは違うでぇ」
所変わって前方。カラコロと下駄を響かせているのは、飛鳥。不整地も下駄で難なく動くことができるのは常に愛用してきた証でもあるのだろう。前衛の羅刹とやり合う。先手を取り炎を纏った剣で切り下ろす。下駄との同時攻撃で注意をそらす得意の一撃だ。さらに横合いから響耶が重い一振り。決定力がある。敵はほぼ無力化した。
「二人、三人で畳み掛ければよし。入れ替わりが激しくなる分、立ち回りが重要になる」
涼しげに響耶が言う。前回と違って息苦しさはない。
後衛が奮戦しているからだ。
セピアのホーリーフィールドが作る安全地帯から、ステラと馬祖がプットアウトで火を消す。そして馬祖のクリエイトエアーが新鮮な空気を作る。特に空気が汚れていないのは大きい。馬祖は小まめに魔法を使うが、ネルガルどもも空気が綺麗になったところから再びマグナブローを掛ける。いたちごっこだ。
一方、後衛の別の組。
――パァン!
「えっ、何?」
突然の爆発音にマロース・フィリオネル(ec3138)が首を巡らせた。ホーリーフィールドを張ったり仲間に悪魔耐性の魔法を掛けたりと忙しくしている。ファイヤーボムの炸裂音とも違う。敵の新たな魔法であれば、自分が対処しなければならないという意気込みだ。
「燃えてる竹が爆ぜたみたいだな。しかしこりゃあ、ひどい戦いだぜ」
オーディンの眼帯で片目を隠し、ホーリーアローで後衛のネルガルに多大なダメージを与え、近くの羅刹に通常の矢で対応していたクロウが愚痴る。何せ、暗い鍾乳洞の中で炎の明かりが広がったり一瞬で消えたりしているのだ。
「シュメルツェンド!」
マロースとクロウがいる安全地帯に、クァイが戻ってきた。手負いの羅刹に捨て身のカウンターをスマッシュで決めて止めを刺したところだ。
「目がチカチカしますね。突然暗くなったり明るくなったりで、どうしても一瞬動きが止まります」
特に手傷を負っているわけではないが、辛そうにクァイが漏らす。
「でも、魔法は必ず途中で掛けられなくなるはず。もう少しの辛抱ですよ」
念のためにとソルフの実を食べながらマロースが励ます。「分かってます。皆も頑張ってますし」と再び戦いに出るクァイ。現在、最前線ではステラのウォーターボムが炸裂している。再々点火を少しでも防ごうと水による消化に切り替えたようだ。
ここで、時は若干溯る。
「ルンルン忍法断空の術‥‥冒険者に、2度同じ技は通用しないんだからっ!」
遊撃隊の一人、ルンルンが巻き物を取り出しバキュームフィールドで鎮火に当たる。壁際に動いているので後衛組の鎮火活動とは被らない。続けて二本射など駆使し遠近自在に狙い戦線のバランスを調整する。
こうなると、もう一人の遊撃隊・花音の頬が緩む。
指輪で姿を消し、短い聖なる杭を手に、壁際の大外を回り込みながら敵後衛のネルガルに忍び寄る。指輪の効果と鍾乳洞内の明滅が激しいため動きは鈍っているが、必勝の手応えがある。ネルガルは攻防ともに遠距離しか意識していない。
(あくまでかわいらしく!)
難なく超近接状態に持ち込むと、聖なる杭を突き立てる。内心の気合いはともかく、奇襲は見事に成功。気付かれない内に止めを刺す。クロウが先に一撃入れていた相手だったようで、手早くかたがついた。
(それにしても、誰も助けに来ないのかしら)
デビルに助け合う心があるかどうかは別にして、指揮系統の不備をいいことに暴れ回る花音であった。
「その技も見切っちゃいました。くらえ、シュリケーン!」
前線近くでは、ルンルンが攻め手をアイスチャクラに変えていた。前衛の羅刹はエボリューションを使っているようで、味方前衛も工夫して戦っていた。特にマロースのニュートラルマジックが大活躍。後ろのネルガルが使ってないのは、攻撃魔法に専念していたからか。いま、火の魔法はついに使われなくなっていた――。
●
「ちょっと、通路を塞ぐとまではいかなかったようね」
結局、一の間の戦闘を制した冒険者。制圧要員として残ったステラが中の間につながる通路の内、一方を魔法で作り出した水を操作し凍らせて塞ごうとしたがうまくいかなかった。
「何か仕掛けがあるかもと思わせるだけでも効果あり、よ」
セピアが重ねがけで高くする必要はないと説く。
「一応、隠れておきます」
同じく制圧維持組の馬祖が仲間と離れて隠密待機に入る。
「外は、大丈夫そやね」
制圧維持組最後の一人、飛鳥が外の様子を気にする。剣客組の心配をしているのだ。
と、そこへ先行組のクァイが戻ってきた。
「逃げた敵はあっけなかったです。奥の間の制圧も済んだようですよ」
二の間を単独制圧する予定で鳴子などを準備する予定だったが必要なくなったようで、少しもの足りなさそうだ。
「悪魔は、ここで何をしているわけでもなかったようだ」
制圧部隊が奥の間に到着すると、響耶が呆れたように言った。
「もう逃げたんですけど、奥の間には邪魅が一匹だけいたんです」
「大山鳴動して犬コロ一匹。ってこった」
ルンルンの説明に、クロウのため息。
詳しく聞くと、悪魔たちはもともと別の部隊同士だったらしい。戦闘の生き残りが集まったはいいが、絶対的なリーダーが不在で目的もない。都を攻める場合に潜伏する場所としては最良なので待機していたが、近隣にちょっかいを出す者が出て発覚したのだそうだ。一匹残っていた邪魅は、知っていること全てを話すとコウモリに変身して天井から逃げていった。
「この、地蔵様は?」
セピアが指差して聞く。奥の壁面に、祭壇と石地蔵が祭られている。
「悪魔も何か分からないそうで、まったく触らないことにしたとか」
「鑑定魔法でも、さっぱりだったぜ」
マロースとクロウが肩を竦める。まったく触らないことにしたくせに、デスハートンの白い玉をお供えしているかのように置いているところは、悪魔的冗談と言えるだろう。
「特徴的な所はないが、一応覚えておくか‥‥」
響耶はもう一度じっくり調べるが、特徴はない。
とりあえず、冒険者はデスハートンの玉を持って引き上げた。美土里たちは、特に襲撃も受けずに無事だったようだ。
●
「今のこの国と一緒ですね」
集落に戻る道中、美土里がしみじみと言った。絶対的なリーダーが不在で迷走した悪魔の話を聞いた感想だった。
「兄は、群雄割拠している今の国を心配していました。小さな戦は絶えず、民は疲弊するばかり。最近、東の方で大きな戦がありそうだと聞いて、全国を一つにして任せられる大将に早いところ勝ってもらいたい、及ばずながらそのための力添えをしたいと旅に出たのですが‥‥」
結果、民を見捨てられず志はここでついえた。
「敵を討ってもらい、皆さんには感謝しています」
美土里は皆に向き直り、ぺこりとお辞儀した。ただし、表情は晴れない。
「‥‥私も、東に行こうかと考えています」
ひょうと渡る風を見送るように、東の空を見遣るのだった。
村で苦しむ人は、冒険者の持ち帰った白い玉で見る見る快方に向かったという。