騎士の剣と老いたる誇り

■シリーズシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:01月10日〜01月16日

リプレイ公開日:2007年01月18日

●オープニング

 すこしむかしのおはなし。
 ちょっと田舎の小さな領地に、とっても立派な領主様がいました。
 その領主様は美しい奥方様と勇敢な若様と一緒でした。
 ところがある年、酷い流行り病が流行った時に奥方様は亡くなってしまったのです。
 領主様はとても悲しみました。しかし死んだ人は返ってきません。
 若様はこのとき7歳。哀しみを忘れるかのように仕事に励むお父様を見ながら彼も成長するのでした。

 奥方が亡くなって2年後、なんと新しい奥方様がやってくることになったのです。
 お父様は前の奥方様を忘れたことはありませんでした。
 でも立派な領主様だったお父様は周りの人のすすめを断れず、新しい奥方様が来ることになったのです。
 新しい奥方様はエルフでとっても綺麗な方で、これには領地の人々にも喜びました。
 ですが、若様だけは新しい奥方様となかなか打ち解けられません。
 小さい頃、自分を抱きしめてくれた本当のお母様の思い出が忘れられなかったのです。
 ですがその様子をお父様はすこし悲しそうに見ているだけ、その事を若様は知りませんでした。

 そして若様が12歳の時、弟が生まれました。
 人間である父上とエルフの間に生まれた弟はハーフエルフ。
 若様は弟に負けるまいと一生懸命勉強と剣に励んだそうです。
 そして10年が経ちました。
 勇敢な若様は22歳、修行を終え立派な騎士となった彼はお父上に宣言しました。
「私はこの家を出る。領主の継承権は弟にこそ相応しい」
 父親の領主様は、一回だけ頷いて少しだけ悲しそうに微笑んだそうです。

 若様は父親から渡された家宝の剣だけを手に、自由騎士となりました。
 諸国を巡る冒険の日々。その中で妻とめぐり合い、息子も生まれました。
 そして、彼が故郷を旅立ってから30年が経ちました。
 彼はリボフ公国に身を寄せ、一騎士として武勇を馳せた彼はそこを第二の故郷としたのです。
 妻は悲しいことに数年前に亡くなってしまいましたが、息子は立派な騎士として今もリボフで働いているそうです。
 52歳となった彼は、やっとゆっくりと時間を使うことができるようになりました。
 そこで彼は思いつきました。故郷を見に行ってみよう、と。
 もう、彼には自分が継承権を失ったことはどうでもいいことです。
 ただ懐かしい故郷の土を踏み、故郷の景色を見てみたかったのです。
 そして彼は旅に出ました。そして、辛い現実と直面するのです。

「儂が旅に出るとき5つだった弟、彼は変わってしまった‥‥」

 風に聞こえた故国の噂、それは本当のことでした。それは弟が凶悪な領主になっていること。
 しかも悪政をしく弟は30年の月日が経っても人で言う15歳しか年を重ねていません。
 老いた兄は52歳、剣技の冴えはいまだ衰えませんが、老いが着実にその体を鈍らせています。
 対する弟は20歳、まだまだ若い彼の領地は民たちの苦しみの声で満たされていました。
「何かが弟を変えてしまったのじゃ。‥‥しかし、領民たちの声を無視することは出来ん‥‥」
 体には年月が刻み込まれ、剣の腕は衰えてしまいました。しかし彼の誇りはまだ錆び付いていません。
 老騎士‥‥パヴェルは家宝の剣を手に、弟から継承権を取り返すため再び立ち上がったのでした。

「ふむ、小さいとは言っても領主は領主、真正面から喧嘩を売るが覚悟はいいかね?」
 にやりと人の悪い笑みを浮かべるパヴェル老人。好々爺はあくまで飄々としているがその視線は強い。
「まず叩くべきは、領地無いで悪事を働く領主と手を組む悪者どもじゃ‥‥まずはこいつじゃの」
 差し出した羊皮紙に描かれたのはでっぷりと太った聖職者。
「領主のマラト候と手を組み、献金の値を跳ね上げ私服を肥やす業腹坊主‥‥まずはこいつの退治から参ろうぞ」

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6447 香月 睦美(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9900 シャルロッテ・フリートハイム(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

トマス・ウェスト(ea8714)/ エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)/ ユキ・ヤツシロ(ea9342)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ エマニュエル・ウォード(eb7887)/ ネーストル・ゲルツェン(eb9824)/ ステラ・シンクレア(eb9928

●リプレイ本文

●調査
 シューマルハウゼン候の領地、それはさほど広いものでは無いが狭くも無い。
 領主の居所は小さいながらも堅牢な古城、その城下には小さいながら城下町が広がっている。
 農村もその領地にはいくつか点在し、それなりに豊かな場所なのだが。
「やはり人々の表情は暗かったな。よほどこの村の暮らしは苦しいのだろう‥‥」
「ふむ、わたくしもそう感じた。高い税をとる強欲坊主‥‥ああ、こちらでは司祭か。やはり醜いものだなぁ」
 その農村の一つ、そこは教会が管理を任されている村。その村を見渡す小高い丘に2人の人影があった。
 彼らは依頼主のパヴェル老の護衛をしているエイリア・ガブリエーレ(eb5616)と緋野総兼(ea2965)。
「さてもう暫くすれば情報収集に向かった一同も戻ってくるだろう、とりあえず戻ろう」
「うむ、たしかに少々寒く‥‥あったかいすーぷとやらでも作ろうかなぁ〜」
 彼ら護衛組はパヴェル老と共に、森中の猟師小屋に潜んでいる最中。
 寒空の下、ふと外に警戒に出た二人は再びパヴェル老がいる小屋へと戻っていくのだった。

「環境や育ちのせいにするのは単なる責任転嫁‥‥悪事の責任は行った者が負わねば」
 飄々と風が吹く村のはずれ、そこには古風な教会が建っている。
 そこが今回の目標である悪徳司祭ギョルグがいる場所で、香月睦美(eb6447)は静かにその教会を眺めていた。
「ましてや今回は悪事とわかっていながら悪事を働く者、何の道理があろうか‥‥」
 きつく寄せた衿とフードに隠れたその表情をうかがい知ることはできない。
 義憤を胸に、彼女は暫く建物やその周囲を観察すると静かに立ち去ったのだった。

 村に程近い街道沿いのとある酒場。
 そこの片隅で眼帯をした女騎士が静かにゴブレットを傾けながら村人の会話に耳を傾けていた。
 特に冒険者らしき姿は見えないが、ごろつき崩れのような姿は幾人か見受けられる。
 そしてそんなところで飲んでいれば起こる事件は一つ。
「よぅ、ねえちゃん。そんなところで一人でのんでないで、俺らの相手をしてくれないか?」
 そして数刻後、ごろつきたちを黙らせたシャルロッテ・フリートハイム(eb9900)は。
「‥‥ふん、あまり当てにならない情報しか手に入らなかったか‥‥」
 そう呟いて、仲間たちの待つ山小屋へと向かっていった。

●想念
 小屋にて。冒険者たちはパヴェルに対してそれぞれの思いをぶつけるものも。
「知り合いに調べていただいたのですが‥‥」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)はエルンスト・ヴェディゲンに調べてもらった情報をパヴェル老に伝えいろいろな懸念を伝えているようだ。
「ふむ、いろいろと心配してもらっておるようじゃが‥‥親族依存というわけじゃないだろうな」
 顎鬚を撫でながらパヴェル老は言う。
「風の噂ぐらいは聞こえていたのじゃが、悪政を敷き始めたのはここ最近のようじゃしの」
「では、輿入れした先代の奥方に関しても‥‥」
「うむ、病気で無くなったという話に嘘偽りはないじゃろう」
 もし兄が去ったことが影響を直接的な影響を与えていたのなら、30年の月日を経て豹変するのはおかしいというのがパヴェル老の言い分であった。
「ま、ともかく。何が原因かはやはり直接聞くに限る。ということでこうしてつながりのある悪人をつぶしてまわるのじゃよ」
 そうすれば直接会う機会も生まれるだろう、とからからと笑いながらパヴェルは言うのだった。
「ふむ、ではパヴェル老。いまどれほどの情報を知っておいでで?」
 尋ねたのはシャルロッテ。酒場から帰って来た彼女の疑問は、他の敵についてだ。
「今回は悪徳坊主のギョルグじゃが‥‥ちぃとコネに頼って聞き込んだところじゃとあと2人ほど悪い奴らがおるようじゃよ」
 パヴェル老が言うには、司祭のギョルグ以外に私腹を肥やす商人とマラト候の片腕と思しき騎士がいるとか。
「とまぁ、まだまだ相手にゃ不足せんようじゃが‥‥臆したかね?」
 にやりと笑むパヴェル老、それににやりと笑みを返してシャルロッテは。
「はん、今では海賊とはいっても腐っても騎士。真正面から喧嘩を売る覚悟無いようでは騎士など務まらんよ」
 さらに。
「お節介かもしれないが‥‥一つ聞いていいだろうか」
 レイア・アローネ(eb8106)が聞く。
「パヴェル老は弟君に対してどう思っているのだろうか? 本心を聞かせてもらえないだろうか」
 冒険者風情が口を挟む事ではないかもしれないが、と言いよどむレイアに対してパヴェルは。
「ふむ、本心とな。なかなか答えにくい事ををずばりと聞きなさる」
 ふっと笑みを浮かべてパヴェルは視線を彷徨わせ。
「そうさな‥‥本心では信じがたいのだ。だからこそ、何が起きているのか、それが知りたい‥‥といったところかのう」
 そしてパヴェルは冒険者たちを見やる。
「こうして手伝ってくれること、とても頼もしく思っておるのじゃ。よろしく頼む」

 そしていよいよ、あらかじめ決められていた作戦が行われる。
 ‥‥しかし、このときはまだ冒険者たちは目論みの甘さを思い知らされるとは思いもしなかったのだった。

●策謀
「はい、あなたこれを」
「ああ、忝い」
 カーシャ・ライヴェン(eb5662)がレドゥーク・ライヴェン(eb5617)に包みを渡す。
 中に入っているのは金。ギョルグが金に汚いと聞いて金を使ってうまく接近するためにこの夫婦は商人を演じていた。
 今日は面会の当日である。
 面会の約束を取り付ける時には、入ってすぐの場所から先には進めず、彼の屋敷には入ることはできなかった。
 その点に少々の心配を覚えつつも護衛のシャルロッテとレイアを連れて、ライヴェン夫妻はギョルグとの面会の時を迎えるのだった。
「ふぅむ、そちらがライヴェン殿と‥‥今日はなんぞ話があると?」
 老年に差し掛かったでっぷりと太った男、ギョルグはそういうと猜疑心に満ちた視線を彼らに向け、会談が始まった。
 もちろんその周囲には護衛、幾ら儲け話とは言えど、ライヴェンたちが護衛を連れている以上護衛を下がらせる道理は無い。
 また会談の場所は奥まった一室で、扉は奥とライヴェンたちの後方の二つだけ。窓はもちろんあろうはずが無い。
 金勘定が説教より得意なクレリックは、必要以上に用心深い男。
 元の作戦では、どうにかしてギョルグを確保して窓から外に抜ける作戦だったのだが、どうも上手く行きそうに無い。
 暫く会談も進み、最近の政治の動きなんかの他愛も無い話をしながら。
(ここは会談を切り上げて、もう一度仕切りなおしたほうがよろしいのではないでしょうか?)
(そうですね‥‥しょうがない、なんとか切り上げるとしましょう)
 そうこっそりと打ち合わせると、レドゥークは会談を切り上げようと。
「さて、話し込んでしまいましたが、ギョルグ様これをお納めください。‥‥どうか領主様にお心添えをお願いします」
 と金の入った皮袋を渡していったのだが、ギョルグはにまりと笑みを浮かべて。
「はて、どうしてお急ぎに? レドゥーク・ライヴェン‥‥冒険者にして領主サマ?」
 その言葉にぎくりとレドゥークは動きを止める。それを見てギョルグはぐふぐふと笑いながら。
「‥‥名も変えず、商人と語れども調べればそなたの名前ぐらい調べがつくものですぞ。はてさて、冒険者がこの土地になんの御用で?」
 いつの間にか扉にはギョルグの護衛が立ちはだかり、ギョルグの周りにも護衛が。
「‥‥まぁ、あとでじっくり聞くとしましょう」
 屋敷の中で、剣戟の響きが高らかに鳴り響いた!

●危機
「‥‥パヴェル老、どうやら最悪の事態になったようだ」
 愛用の槍をざっと手に取ると、エイリアはパヴェル老にそういった。
 パヴェルとエイリアをはじめ総兼、フィリッパ、睦美の4名はギョルグを捕えて急いで逃げるときのために屋敷の裏手の森に潜んでいた。
 教会とくっついて拡張された形のギョルグの屋敷、視力に優れたエイリアはその屋敷の中の動きが慌しくなったのを木々の間から透かし見て気付いたようだ。
「ふむふむ、では作戦は変更して突入というわけだな。うーむ、上手く行くといいのだが‥‥」
「総兼殿の心配が現実になってしまったようじゃな。ま、備えあれば憂いなし、というわけじゃ。では参ろうか」
 こうして、護衛組の4名はパヴェル老と共に屋敷の裏口へと殺到するのだった!

「む? 何者だ!!」
 突如森の中から現れたエイリアたちを見咎めた裏口の門衛2人はそういって槍を構えるのだが。
「お退きなさいっ!!」
「遅いっ!!」
 女王様化したフィリッパの鞭で足を絡め取られ、もう一人は睦美のパワーチャージになぎ倒され。
「これぐらいの扉ならわたくしが」
 そう言って総兼がディストロイを高速詠唱。扉の閂部分だけがはじけ飛び、その扉をエイリアが槍で突き倒して中に突入。
 もちろんそこでは騒ぎを聞きつけたギョルグの手下が待ち構えていてエイリアに切りかかるのだが。
「それしきの技では効かんな、罷り通る!!」
 跳ね上がった槍の石突が手下を強打、追って入ってきたフィリッパや睦美も次々に手下を打ち倒し。
「さて、パヴェル老。どちらに行けばライヴェン殿たちと合流できるだろうか?」
 睦美がそうパヴェルに聞くと。
「ふむ、騒ぎが大きいところに行けば会えるじゃろう」
「ふ、違いない。では参ろう!」
 エイリアもふと笑みを浮かべて護衛組一行はさらに進行を開始したのだった。

●決着
「弓があれば‥‥」
 ぎりと唇を噛み締めているのはカーシャ。流石に弓をもってくるわけにはいかなかったのだ。
 そして屋敷の一室で防戦一方に追い詰められているレドゥーク、レイア、シャルロッテ。
「く、このままでは‥‥」
 盾で凌ぐレイアだったが思わず弱音が口をついてでる、しかしそこでシャルロッテが。
「ああ、きりが無いな‥‥だがどうやら間に合ったようだ!」
 視線の先は廊下の先、そこには間に合った護衛組の面々が。
 それに気付いた手下の一部が向き直り、待ち構えるのだが。
「おっと、武器は抜かせないんだなぁ」
 ディストロイの高速詠唱は刀を抜こうとしていた手下の一人の剣帯を破壊、剣を抜こうとしたもののすでに剣は床に。
「おほほほ! 鞭の一撃を受けなさい!!」
 びしばし鞭を振るうフィリッパに。
「間に合ったか!」
 刀の峰打ちでレドゥークたちを包囲をなぎ倒すのは睦美。
 パヴェルは持って来た弓をカーシャに投げ渡して、なんとか一行は包囲から抜ける。
 そして同時に響いたのは。
「い、命だけはっ!!」
 がすっと岩壁に突き刺さる槍は、壁にギョルグの法衣を縫いとめていたのだった。
 手下の質の悪さとギョルグの詰めの甘さ。それによって冒険者たちの失敗はあったもののなんとかギョルグを捕まえられた。
 これは単に戦力があったために冒険者側が強引に勝てた、ということだろう。
「‥‥ではギョルグは正当な裁きの場に引き出すとしよう。ま、その前にいろいろと聞かせてもらうがな」
 そうパヴェルはキエフへの帰途に着きながら言った。
「次もまたそなたらに頼むことになるだろうが‥‥新しくいろいろと分かり次第、次の依頼を出すとしよう」
 辛うじて最初の作戦は成功で幕を降ろすのだった。