騎士の剣と老いたる誇り 最終幕

■シリーズシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 51 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月03日〜06月10日

リプレイ公開日:2007年06月13日

●オープニング

 動乱のキエフ、いかなる思惑がその水面下で進んでいるか、その全貌を見破るのは至難である。
 ゆえにさまざまな動乱の火種からその全貌を見据えるしかない。
 最近、キエフ全体を巻き込んだ大規模な戦乱が発生した。
 首魁は国の重鎮ラスプーチン。しかしその反乱は冒険者たちの活躍もあり、瀬戸際で鎮圧された。
 だがしかし、別の火種はまだくすぶっていた。
 そして、ここシュマールハウゼン領にも火種が。いつその種がまかれたのか、それはわからない。
 しかし、冒険者たちの活躍によってその火種を煽った存在の影は明らかになっている。
 シュマールハウゼン領に三度集う冒険者たち。
 こうして、最後の冒険は幕を開けることになったのであった。

 事態の全権を委任され、一人孤独に故国の苦境を憂う老騎士パヴェル。
 彼は最後の仕事として今回、冒険者たちを集めた。
 その任務は、前回の依頼で判明した人にあらざる者たちの暗躍への対抗である。
 偶然冒険者たちの持っていたアイテムによって、デビルの関与が明らかになったのがその原因だ。
 キエフは地方領主の反乱などで今混乱の最中にある。
 そんな折、ついに最後の作戦がパヴェル老より冒険者たちに伝えられることになるのであった。

「どうやら、領地も混乱にあるよでのう。今回はその混乱に乗じて一気に中央を叩く予定じゃ」
 こともなげに言うパヴェル老。しかしその瞳は今回の行動の難しさを物語るかのように厳しい。
「残る敵は二人‥‥前回出てきた側近の男、そして領主本人じゃ」
 その領主本人は、パヴェル老の実の弟である。
「領主は別に腕が立つとかは無いだろうがのう。側近と護衛の部下たちが問題じゃ」
 話だけなら冒険者だけでは無理難題のような依頼、だがどうやら勝算もあるようで。
「じゃがのう‥‥幸いなことに領主の居館はわしが住んでたころと変って無くてのう」
 そういうと彼が自ら書いたと思しき図面を広げて。
「わしゃ小さいのころはやんちゃでのう。抜け道をいくつか知っとるのじゃよ」
 地図はどうやら屋敷の図面とそこに忍び込むためのもののようである。
「さぁて、正念場じゃよ? 気合入れていかねばのう」
 その目に深い悲しみを湛えたまま、パヴェル老はそう冒険者たちに語りかけるのであった。

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6447 香月 睦美(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9900 シャルロッテ・フリートハイム(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

キラ・リスティス(ea8367)/ 小 丹(eb2235)/ リチャード・ジョナサン(eb2237

●リプレイ本文

●それぞれの思惑
 シュマールハウゼン領の動乱。
 なぜ反乱を起こしたのか、未だその謎は解けておらず、ただただ戦いだけが繰り返された。
 しかしその争いも今回で終わるはずである。
 血を分けた兄弟が争うことになってしまった今回の動乱。
 果たしてその結末に冒険者たちはどのような思いで、この決着に挑むのであろう‥‥。

 すでに領地に潜入している一行。しかし領地には活気がまったくなかった。
 領主直属の戦力はほとんど冒険者たちによって各個撃破され、反乱自体の動きはすでにない。
 しかし反乱の意ありと断罪された領地からはすでに多くの住民が逃げ出しているよう。
 この領地では圧制が続いた上に、さらにキエフ自体が動乱を経たというそんな状況。
 やはり故国の苦境を見るパヴェル老の表情はさびしげであった。
「‥‥パヴェル殿、長き圧制で領民たちは今も苦しんでいるのであろう」
 活気の絶えた景色を見やりながら、そう言葉をかけたのはエイリア・ガブリエーレ(eb5616)。
「そうであろうな‥‥」
 つぶやくパヴェル老の言葉には忸怩たる想いがにじむ。だがエイリアはさらに続けた。
「だが、こういう状況だからこそ、これからパヴェル殿の力がきっと必要になるはずだ」
 騎士として決意に燃えたエイリアの言葉、その言葉にパヴェル老は静かにうなづくのであった。
 老人は決意を胸に、おそらくは弟と刃を交える覚悟をも抱いていることだろう。
 しかし、そんな老騎士の決意に冒険者たちはどうすることも出来ないのであった。

 さて、今回はいよいよ領主のもとへと直接赴くのが目的だ。
 しかし、冒険者たちの作戦はさまざまな紆余曲折を得ることになった。
 まずパヴェル老は囮を使った作戦には反対を唱えた。
 初回、教会に潜入したときの愚を繰り返すのはあまりにも下策。
 なぜならすでに領主は唯一の敵が冒険者と兄であると把握しているのだ。
 そんな状況で誰かが尋ねてくるような状況はありえないということである。
 ゆえに抜け道を使っての潜入が作戦として使われたのであった。
 屋敷内という狭い場所での戦闘であれば冒険者たちに利がある。
 人数で劣る冒険者たちは数で押し切られれば弱いだろう。
 しかし一対一の戦闘力なら一介の護衛騎士たちには引けを取らない。
 そういった作戦もあり、彼らはパヴェル老の記憶していた抜け道を使って潜入を開始するのであった。

 そしていよいよ潜入を前にして。
 いくつか在る抜け道の一つの地図をパヴェル老が記し、それを冒険者たちは確認していた。
「あら、これは私のような者が覚えていていいものではないですね」
 カーシャ・ライヴェン(eb5662)は隠し通路の存在を知ることに対して遠慮したようだが。
「なに、ことが終われば新たな屋敷を立てることにするしのう‥‥気にすることはない」
 さすがに弟と決戦をすることになる場所を使い続ける気はないのも道理。
 そういわれて、はっとカーシャは顔を伏せるのであった。

●突入
 いくつかある隠し通路の内の一つを冒険者たちは行く。
 どうやら領主であるパヴェル老の弟もすべてを把握してなかったのか見張りはいない。
 おかげて領地に人影が少ないこともあって潜入はこともなく進んだのであった。
 活気がないことは冒険者にとって幸運だった。
 なぜなら普段と同じであったら冒険者の連れてきたペットで大騒ぎになっていただろう。
 特に巨大なドラゴンをつれてきたレドゥーク・ライヴェン(eb5617)などは特に危険である。
 しかし幸いにも見つからなかったようで、一行は幸運に感謝しつつ潜入を開始するのだった。

 人が通らないためか湿った空気がよどむ通路を行く冒険者。
 通るのがやっとの狭い通路を進んでいくと、ようやく扉が。
 かすかにもれる光が扉の輪郭を浮き上がらせている。
 その扉をゆっくりと内側から押し開けると、そこは古びた衣装箪笥の中。
 場所は、屋敷一階の端の部屋だ。
 冒険者たちは速やかに進み出ると、急いで領主を探しに向かうのであった。

 重装備のレドゥークを先頭に、接近戦に長けた香月睦美(eb6447)やレイア・アローネ(eb8106)が先導。
 その後ろをフィリッパ・オーギュスト(eb1004)やカーシャが続く。
 さらにパヴェル老を守るようにエイリアや緋野総兼(ea2965)。
 殿はシャルロッテ・フリートハイム(eb9900)だ。
 屋敷の内部はがらんとしており、情報どおり手勢の数も少なくなっていることが目に見えてわかった。

「あまり効果はなかったようだな」
「ええ、ですが人気はないようですし、心配しすぎていたようですね」
 防音を考えていたレドゥークは妻のカーシャに言うように一行はかなり大きな音を立てて進んでいた。
 それもそのはず。鎧だけではなく、武器をしっかり装備した一行が歩むのである。
 靴の音だけでもかなりの音、しかし敵方も冒険者たちが来るのを見越しているはずなのである。
 ゆえに小細工は無用、あとは正面から突破するのみであった。
 そして一行はついに中央ホールに。
 そこには、20名ほどの護衛に守られた領主の姿があった。

●決戦
 領主は階段を背に、一人の巨漢と並んでいた。
 彼は前回の依頼でも登場した剣士。すでに冒険者たちは彼をデビルだと予想をつけている。
 そして冒険者たちを囲むようにして立ちふさがる護衛たち。
 パヴェル老と領主の視線が一瞬交錯する。
 パヴェル老は口をつぐんだまま瞳には覚悟の光。ゆっくりと彼の出自を証明する剣を構える。
 その姿に何を見たのか、血を分けた弟は静かに二階へと退きながら。
「‥‥生かして帰すな‥‥」
 それは完全な決別の言葉。その声に応じて、護衛たちがいっせいに突っ込んでくるのだった。

「そなたの兄上が心配しているぞ!」
 動揺を誘うのが目的か、睦美が領主に声をかけつつ、包囲を切り開き領主の下へと駆け寄る。
 狙うは生け捕り、デビルと思しき剣士も捨て置いて駆け寄ろうとするが。
「‥‥私を倒してからにしてもらおうか」
 その言葉には、なぜか逆らいがたい響きがあり、思わず睦美は足を止めてしまった。
「私の名はダバ‥‥貴公らの働きは見事であった」
 紳士的な物腰の凛々しい剣士は深々と一礼すると剣を取った。
「ゆえに‥‥私の相手を務めてもらおうか。貴公らの腕前、期待しているぞ!」
 ダバの瞳に宿るは悪意の光、彼の剣は激烈な威力をもって打ち込まれてくるのであった。

 同時に、ほかの冒険者たちは護衛たちを相手にしていた。
 しかし護衛たちの戦闘力は冒険者に比べると幾分頼りなく、冒険者有利で戦闘は進んでいた。
 総兼のディストロイやシャルロッテに武器を次々に破壊され。
 カーシャの矢やフィリッパのコアギュレイトで戦線から脱退していく護衛たち。
 あっというまに護衛の数も減っていったのだが。
「‥‥役立たずどもめ。ならばまとめて掛かってくるが良い、冒険者諸君よ!」
 ダバは護衛たちをじろりとにらみつけると、冒険者たちの方を向き。
「だがその前に、邪魔者は退場願おう!」
 大きく口を開くと、紅蓮の炎をまだ残った護衛たちと冒険者たちに向けて吐き出したのだった!
 炎に巻かれて逃げ惑う護衛たちとその炎の余波を食らう冒険者たち
「くっ! これでは札を使う隙が‥‥」
 なんとか耐えしのぐフィリッパ。デビル対策の札もこの炎の中では危うくて使えない。
 しかも、彼女にとっては策謀が脅威であると思っていたデビルにこれだけの戦闘力があったのも驚きであった。
 護衛たちはダバが炎を吐いたことで、すでに散り散りに逃げ出していた。
 だが、ダバはなんと一人でほぼ全員を相手取って戦っていた。

「攻め入る隙が‥‥」
 睦美は幾度となく切り込むも、刃先をはずされ時には受けられ、攻めあぐねていた。
 ダバの使う大剣は縦横無尽に動き、決定打を与えることが出来ないのだ。
「これほどまでに使うデビルがいるとは」
 レイアは剣の腕なら互角なのだが、かろうじて当たる攻撃が効かない。
 デビルとしての本性を表したダバは強靭さも驚異的であった。
「だが、これだけ防御を固めていればそうそうやられはしないでしょう」
 レドゥークはその重装備を生かして最善でその剣を受けていた。
 しかし、ダバの強さは冒険者たちの予想を上回っていた。
 ダバはその巨躯を生かして武器を死角に隠し、ブラインドアタックを一閃。
 まずレドゥークは兜を叩き割られ、怪我を負ってしまう。 
 あわてて駆け寄るカーシャ、だがカーシャもまた一撃を受けてしまう。
 そしてさらに同じ戦法で次々に睦美もレイアも怪我を負わされ、冒険者たちは一転して不利に。
 怪我で動きが鈍った彼らを突っ切り、ダバはパヴェル老の元へ向かう。
 その前に立ちはだかったのはエイリアとシャルロッテ、フィリッパと総兼。
「‥‥なるほど、そこの老人がよっぽど大事と見える。ではその御仁が領主閣下の兄君というわけか」
 剣を構えるとエイリア、シャルロッテ、フィリッパの三人と切り結ぶダバ。
 オフシフトでなんとか回避をしていたフィリッパがまず一撃されて倒れ。
「‥‥貴様、何の目的があって弟に近づいたのだ!」
「目的? ‥‥憎みあう兄弟‥‥泣かせる話ではないか」
 パヴェル老の叫びに、悪意に満ちた笑みを浮かべつつ答えるダバ。
「たかがそんなことのためにこの地を荒らしたというのか!」
 ダバの言葉に怒りを覚えたのかエイリアの苛烈な打ち込み。
 そして、シャルロッテは剣をダバに向け。
「‥‥切り札は最後までとっておくものだ。切り時さえ間違えなければな!」
 手にした悪魔殺しの剣で一撃。
 さらには、総兼が手にした釘を地面に突き刺し結界を完成させ。
「結界完成っと。これで近寄れないのではないかな?」
 そして他の冒険者たちもポーションや魔法によって気力を振り絞り立ち上がろうとしていた。
 それを見たダバは、自分の体を傷つけた悪魔殺しの剣や槍を見やり、結界をにらみつけると。
「‥‥小癪なものだ。やはり人間は群れるとやっかいなものだ」
 そして一足飛びに階段へと飛び退り、炎を吐いて牽制すると。
「では、最悪の幕引きをさせていただこう‥‥勇気ある冒険者たちよ、また会おうぞ」
 その顔の悪意の笑みを浮かべてダバは空気に溶けるように透明に。
 その瞬間、冒険者たちは悪い予感にはっとすると急いで二階へと駆け上る。
 そこで彼らが見たものは、無残にも胸を一突きされて息絶えた領主の姿であった。

●終幕
 すべてが終わって。
「諸君たちには世話になったの‥‥」
 一行に深々と頭を下げるパヴェル老、いや新シュマールハウゼン領主パヴェル。
 結果的にデビルを退散させ、領地を取り戻すことには成功したため、彼は予定通り新領主となるだろう。

 決戦の日から一日がたっていた。
 冒険者一行は、パヴェル老の弟の無残な死に様を見て声を失った。
 だが、そのとき一番衝撃を受けたのはパヴェル老だったのだろう。
 彼は弟の死に様を目にし、がっくりと肩を落としたのだが、その手はゆっくりと懐剣に伸びていた。
 しかしそれに気づいたのか総兼はパヴェル老の手を取って首を振り。
 パヴェル老はそこでやっと心配そうにパヴェル老を見やるほかの冒険者たちにも気づいたのだった。
 そしてやっとパヴェル老は弟の亡骸へと近寄ると、その目をそっと閉じた。
 こうして、事件は真相を明かされぬまま終焉を迎えることとなったのであった。

「やっぱり一番必要なのは正当な統治を行う高潔な領主だろうし? 自分で出来る範囲で手伝うから、投げ出さないで欲しいな」
 どこか明るく励ますように総兼が言えば。
「うむ、わしが投げ出してしまえば困るのは領民じゃからの。だれかがやらねばいかんのじゃよ」
 一日たって、まだ憔悴しているものの、パヴェル老はそう言葉を返すのだった。
 これにて当初の目的であった領地の奪回は無事完了した。
 デビルを取り逃してしまったが、さりとて一番の目的は達成されたのである。
 こうして、老騎士の物語は終わった。これからは老領主の奮闘が始まるのだ。
 そこにはおそらく再び冒険者がかかわってくることだろう。