【果て無き陰謀】 裏切りの代償

■シリーズシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月29日〜04月05日

リプレイ公開日:2007年04月06日

●オープニング

「ふむ‥‥面倒なことになったもんだのう」
 口では面倒といいつつも、その表情は面白がっているようにしか見えないイーゴリ大公。
 その原因は、部下である一貴族の行動にあった。
 最近キエフでは、大公を含めた貴族同士の関係に陰りが見え始めていた。
 誰もが腹を探り合い、お互いの真意をはかろうと日々暗躍する。
 そんな中で、もちろんイーゴリ大公その人も、この苛烈な争乱の渦中にあった。
「‥‥予想通りに躍っているようだが、これ以上自由にさせておくのも少々気に食わないのう」
 そんなイーゴリ大公の言葉を静かに聞くのは彼の腹心の部下たち。
 彼が調べた結果を今、イーゴリ公が見聞し次なる指令を待っているのである。
 そしてイーゴリ公は目を細めると、口元に笑みを浮かべて言った。
「疑わしきは罰せず、とよく言うがそれはちと生ぬるいと思わんか?」
 その言葉を聞いて部下の一人はごくりと鍔を飲み込む。
「疑わしきを罰す。これこそ万事解決の良い手段だと思うがの‥‥やはり、芽は摘むべきだの」
「‥‥では、ドラガノフ子爵を討つということで‥‥」
「うむ、討つのは討つのじゃが‥‥今の状況で波風を立てるのは好かんのう」
 そしてイーゴリ大公はしばし考えて。
「そうじゃ、こういうときは適任の者たちに頼むこととしようかの」
「‥‥はっ、仰せのままに」
 そして部下たちが去った後、イーゴリ大公は一人呟く。
「ふむ‥‥裏で糸を引くやつがいるようじゃのう‥‥気に食わんわぃ」

 こうして依頼が出されることとなったのである。

 依頼の目的は、イーゴリ大公の“元”部下、ドラガノフ子爵。
 キエフ近郊に居館を持ち、現在はその屋敷に滞在中である。
 どうも影でこそこそしているのがイーゴリ大公のお気に召さなかったよう。
 どうやらイーゴリ大公を裏切り、誰か他の大公や大貴族の元へ逃げるつもりだったらしい。
 まだ誰と手を結んでいるかは固まっていないようだが、裏切りの兆候が見えたのは確実。
 ということで、彼はイーゴリ大公直々に命令で討たれることが決まった模様。
 冒険者たちはその戦力として召集されたらしい。

「‥‥少々手勢を貸すので自由に使うが良い。働きに期待しておるぞ」

 さて、どうする?

●今回の参加者

 eb3338 フェノセリア・ローアリノス(30歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb4859 イリスフィーナ・ファフニール(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5616 エイリア・ガブリエーレ(27歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb6993 サイーラ・イズ・ラハル(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7887 エマニュエル・ウォード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec0865 クレア・サーディル(28歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

緋野 総兼(ea2965)/ キラ・リスティス(ea8367

●リプレイ本文

●思惑
「‥‥閣下、いいのですか? あのような者たちに任せて‥‥」
「ふぅむ、あの者たちとてなかなかの働きを見せておるしの? そう心配には及ばんよ」
 場所はキエフ近郊のイーゴリ大公の別邸。部下たちを相手に大公がいろいろと指示を出しているようで。
「し、しかし、中には閣下に幻惑の魔法をかけようとした者もいるとか‥‥やはり信用ならないのでは?」
「そのとおりだが、いかなるものでも使い道はあるのじゃよ‥‥今は手が少しでもほしい所だからのう」
 その言葉と眼光には思わず部下も息を飲み。
「ものになりそうな者たちには、それぞれ褒美の指輪を渡す予定だしの‥‥今回の働きも楽しみなところじゃよ」
 口には酷薄な笑みが浮かぶが、その瞳の奥の真意は窺い知れず。
「ま、報告を楽しみにしておこうかのう‥‥」

●冒険者たち
「あーあーどうも政治的なことはドロドロしてて嫌いだにゃー」
 腕をぐんと伸ばしつつ、まだ寒いキエフの空を見上げてつぶやくルイーザ・ベルディーニ(ec0854)。
 明るく能天気にそんなことを言っているが、冒険者たちの居る場所はその言葉を許さぬ場所だ。
 裏切り者、ドラガノフ子爵の館に臨む林の中、彼ら冒険者は潜みつつ機をうかがう。
 飄々とした空気を纏ったまま、ルイーザは緊張も見せずに時を待つのだった。
「(‥‥ドラガノフ子爵は敵に回す相手を間違えたようですね)」
 ルイーザとは対照的に、心中を一切表さず淡々と任務に当たるのはクレア・サーディル(ec0865)。
 依頼を受けたからにはその依頼に私情を挟む余地は無しと考える彼女。
 信頼されたからには自らをただの駒と断じるその思想は騎士らしいものである。
 冒険者たちは総勢8名、さらにイーゴリ大公が使わした騎士たちが同数。
 しかし、今回は冒険者たちは騎士たちをあくまで周囲の封鎖と警戒に使うつもりのよう。
 そして冒険者たちは、イーゴリ大公から貰った屋敷の見取り図の確認しているようであった。
「‥‥こちらが最短のルートで‥‥」
 羊皮紙に描かれた見取り図に針を刺して示すのはフェノセリア・ローアリノス(eb3338)。
「するとこちらが迂回ルートになるな。‥‥ならば、二手に分かれる事態になれば我らはこちらに回るとしよう」
 エイリア・ガブリエーレ(eb5616)が言えばその友エマニュエル・ウォード(eb7887)も頷き。
「ではそろそろ、参りましょうか」
 盾を構えたアクエリア・ルティス(eb7789)の言葉に冒険者たちは同意し。
「今回も手早く片付けましょ」
 イリスフィーナ・ファフニール(eb4859)は全員を鼓舞するようににっこりと微笑んだ。

●突入
 貴族の屋敷といえども千差万別。
 古城に居を構えるイーゴリ大公のような人物も居るが、大体ドラガノフ子爵のような屋敷を構える。
 まだちらほらと雪が残る林に囲まれた静かな屋敷。
 多少古びてはいるものの、キエフの中心地から程近い立地条件。
 手がしっかりと行き届いていれば、さぞかし住みやすそうな場所である。
 その正面扉に向けて、一気呵成に突き進む一団があった。
 後ろに続いてきた騎士たちは屋敷の裏口に回りこみ、ばらばらと屋敷の周囲を囲む。
 そして冒険者たちは隊列を組み、一挙に正面扉へ。
 かんぬきが下りていると思しき正面扉へアクアのチャージングとエイリアのスマッシュEXが。
 その攻撃で、かんぬきが外れたのかゆっくりとその扉を開いた。
 屋敷の中には蝋燭が掲げられた燭台が掲げられ、明るく照らされている。
 そして冒険者を待ち構えていたかのように、完全武装の騎士たちがその目前に立ちはだかった。
 この襲撃が向こうにばれていた?
 冒険者たちは一瞬その可能性に戦慄した。
 奇襲はその突然性こそがその唯一にして絶対の優位である。
 もしも完全に待ち構えられていたのであれば、その優位は失われ戦力で劣る冒険者たちは窮地に陥るだろう。
 しかし、どうやらそうでもないようだ。
 待ち構えていた騎士たちの顔には戦慄の色。そして正面にたった三名は少なすぎる。
 これらが示すのは一つ。
 裏切りの露見により、彼らは自らが粛清されることは予測していた。
 しかし“いつ”“何者が”彼らを葬るためにやってくるかはわかっていなかったのだろう。
 逃げる時期はとうの昔に通り過ぎ、頼るべき味方も居ないのが裏切り者の運命。
 しかし、それゆえに彼らに後退すべき理由も矜持も存在はしない。
 ドラガノフ子爵の部下たちは、裂帛の気合とともに冒険者に剣を向けてきた。

 冒険者たちの正面を固めるのは前衛たち。彼らが掲げる刃が騎士たちの攻撃を受け止める。
 しかし相手は騎士たち。オーラの技に長けている者たちである。
 音を聞きつけた後続の騎士は精神を集中させ、放ったのはオーラショット。
 しかしその軌道に身をさらし、しかもその一撃を霧散させたのは黒き神聖騎士のエムだ。
 レジストマジックによる防護。オーラの技に対しては磐石の防御力を誇る彼は、果敢に盾としてその身をさらす。
「‥‥後ろには一撃たりとも通さん」
 オーラの一撃を阻まれてひるんだ騎士の一撃を篭手ではじき、返す一撃を放つエム。
 そしてそれに呼応するように、クレアとルイーザとアクアが一気に騎士たちを蹴散らす。
 最初に選定してあったルートは二つ、その一方にエムとエイリアとフェノセリアが進む。
 そして正面のルートは力押しでその他の5名が突き進む構図へと分かれていったのだった。

 正面の最短ルート組。こちらは短い分、騎士たちの集合も早く、敵の数が多いようだ。
 そしてその中では苦戦も。
「っ! イリュージョンが効かない‥‥そうか、オーラエリベイションが‥‥」
 歯噛みするのはサイーラ・イズ・ラハル(eb6993)だ。
 後衛として騎士に幻影を仕掛けようとしたのだが、なぜか一向に効果があったようには見えず。
 しかも声を封じる幻影を見せても、この戦闘の音でますます騎士たちは集合してくる。
 だが屋敷の通路は狭く2名並べば、騎士達が進めないため乱戦にはならないようだ。
「‥‥まっ、これも仕事だし。恨みっこなしよ、ってね」
 高い防御力と両手の剣を駆使して舞うように攻撃を重ねていくルイーザ。
「ここは通しません」
 クレアは両手で構えた剣にオーラの力をともし、さらに威力を増した一撃で突破し。
「甘く見ないで頂戴っ!」
 アクアは騎士が放ったナイフをシールドではじき、一気に間合いに踏み込み薔薇の幻影と共に一撃。
「手早く終わらせてもらうわね」
 アイスコフィンが発動し、氷の棺に閉じ込め戦力を削ぐイリスフィーナ。
 こうして徐々にこちらの一段は真っ向から首魁のドラガノフ子爵の下へと進んでいくのだった。

 一方、迂回ルートを進む一段は、烈風の如き勢いで騎士たちをなぎ倒していた。
「はっ‥‥はっ‥‥っ! そこに!!」
 前衛二人に守られて走りながら、とっさにフェノセリアが声を上げたのは物陰から騎士が一人飛び出したせい。
 しかしその一撃をがっきと受け止めたのはエイリア。
「て、手ごたえはあったのに、効いてないなんて」
「紙一重だ‥‥甘い!!」
 エイリアはオーラボディと装備の防備で一撃を受けきり、カウンター一閃。
 槍の一撃で騎士をなぎ倒すと、一瞬うごきを止めたため集まろうとしていたほかの騎士をエムが屠り。
「‥‥主の教えに反する行動ですが‥‥こなさねばなりません」
 小さく祈りを唱えつつ、コアギュレイトで進路にふさがる騎士を無防備にすれば、それを一撃でエイリアが倒す。
 こうして、こちらの組も一気に子爵の元へと進んでいくのだった。

 そしてとうとう東翼の書斎近く。
 すでに子爵は廊下に出て、軽装のままだったがその手にレイピアを構えていた。
 ちょうど廊下の両端から両組が挟み込むような形で子爵と対峙し。
 子爵を守るように控えていた騎士たちが冒険者たちに襲い掛かってきたものの、それは勢いのまま打ち倒し。
 ついには子爵は追い詰められるのだった。
「馬鹿ね、大公様を裏切るからこういう事になるのよ♪ 残念だけどチェックメイトかしら?」
「ふん、少しでも最後の悪あがきをしてみせる‥‥」
 構えて立つ子爵は見たところなかなかの腕のよう。
 前衛のエム、エイリア、ルイーザ。
 ルイーザが双剣で打ちかかれば、なんとそれを子爵はかわし反撃を。
 続いてエムが打ちかかれば、生み出したオーラの盾で迎撃され、攻防は拮抗。
 しかし両者の猛攻でわずかに体勢が揺らいだところに接近したのはエイリア。
 一撃をエイリアに放つ子爵であったが、エイリアはその一撃を我が身で受け、カウンターを一撃。
 その一撃で子爵は武器を取り落とし、戦いには決着がつくのであった。

●決着
 子爵はすでにすべての証拠を火にくべ、暖炉の炎がすべてを燃やし尽くした後だったよう。
 そして、子爵は自ら隠し持ったナイフで自害を図るもそれはクレアが防ぐ。
 しかし、投降するつもりが無いと見られた子爵に対し、無常な裁きか騎士の情けか。
「‥‥投降するつもりはないのだな?」
「もちろん。これ以上生き恥をさらすつもりは無いものでね‥‥裏切ったとは言え私も騎士の端くれだ」
 笑みを浮かべる子爵に対してクレアは一刀を振るうのであった。
 こうしてすべての騎士は討ち死にし、子爵も刃に倒れ無事依頼は完遂された。
 優しき祈り手のフェノセリアは祈る。
「刃を向けた私にその権利があるかどうかは分かりませんが‥‥‥主よ、この魂に安息を」


 そしてこれらすべての詳細な報告を、イーゴリ大公は派遣した騎士から聞いていた。
 派遣された騎士たちに一人混じっていた腹心の部下から、冒険者たちの行ったことをすべて。
 そしてイーゴリ大公は満足げに微笑むと‥‥。
「ふむ、まあ悪くない結果かの‥‥次も安心して使えそうじゃの」
 部下たちは静かにその言葉を聞くだけであった。