●リプレイ本文
●はじめは大掃除
キエフから程近い小領地、シュマールハウゼン領。
その領主の新居である、すこしくたびれた古砦。
そこには改修のために、石組みを直したり、調度品を運び入れたりと大忙しであった。
そんな古砦の奥の一室。
部屋の隅には暖炉、一応窓もあり、おそらくは倉庫のように使われていたのだろう。
そこに通された冒険者たち‥‥彼らは絶句するのだった。
元は広かったのだろう。半地下室という感じで数十人は入れる大きな部屋なのだが。
その一角に置かれた机と棚の上に山のように積みあがられた資料の山。
羊皮紙の巻物もあれば、切れっ端。ただの書付から製本された高級品。
棚にこれでもかと詰め込まれていれば、床にはごろごろとキャビネットやチェストが。
その中にもぎっしりと資料や証拠品、見つかった調度品が山と詰め込まれていた。
そしてその真ん中で、ぼろい机に腰掛けて資料に目を通す男の姿が。
リボフ公国に招聘された魔術教師であり、現在はパヴェル老の下にやってきているウィザード。
アラン・スネイプル師であった。
彼は絶句して固まっている冒険者たちにちらりと目を向けると‥‥。
何も言わずに、作業を再開する。
ということで、冒険者たちもいやおう無しに大掃除から始まる資料整理に巻き込まれるのであった。
「あー、その荷物はこっちに運ぼう。これから調度を注文に行くので、それまではここに置いとこう」
手伝いのクラリス・ローゼンハイムや壬生天矢と協力しつつ、重いキャビネットを運ぶ緋野総兼(ea2965)。
総兼はここに来る前にキエフで知り合いの貴族、キリーロ・ガブリロフに職人を紹介してもらい手配を頼んできたよう。
そして彼は、調度や家具の調達に赴く前にどたばたとみんなで大掃除である。
「わ、すごい埃だね〜‥‥うわ、蜘蛛の巣が」
ごしごしと雑巾で棚を掃除してるのはイコロ(eb5685)。
彼女はパラの体格をいかして、棚の低いところをお掃除中である。
ちょこっと精霊関連の資料が出てくると気になるようだが、とりあえず今はお掃除だ。
「力仕事とかなら任せんさい!! ‥‥頭を使う仕事はさっぱりなんだけどにゃー」
こちらも力仕事、どうやら棚の移動やら古い棚の解体をしているのはルイーザ・ベルディーニ(ec0854)。
ということで、片付けも大忙しなのだが、資料整理組もその資料の量に忙殺されていた。
「うーん‥‥浪漫だ。古い遺跡か、興味深いね」
古びた資料をめくって、読める部分をためつすがめつ。
モンスターハンターのクルト・ベッケンバウアー(ec0886)は浪漫に思いをはせているようだ。
「しかし、精霊碑文が読めるとはいっても‥‥わからんのも多いね」
資料は、混ざりに混ざっている上に、誰が書いたのかもなぞであった。
聖職者が書いたならラテン語、古代魔法語の写しもあり、精霊碑文の写しもあり。
古い形でゲルマン語を使ってる場所もあれば、単に字が汚いとか言う曲者も。
「‥‥これはラテン語かな?」
とクルトが書付を差し出した相手はフェノセリア・ローアリノス(eb3338)だ。
手伝いのリノルディア・カインハーツと一緒に資料をあさっているようだが。
「そうですね。それじゃこちらで読んで見ますので」
おそらくは昔教会かなにかの聖職者からの報告書かなにかだろう。
華麗な彩色文字に扉絵や文頭飾りの入った写本を横に避けて、フェノセリアはその書付を眺め。
「もしかすると研究熱心な司祭さまがいたのかもしれませんね?」
「いつの時代も物好きな人がいるのかもしれませんね」
にこにこと答えたのはメアリ・テューダー(eb2205)。
こちらは過去に報告にあったモンスターの目撃情報なんかに目を通して。
「白い翼の‥‥うーん、なんだか証言が食い違ってるのを見ると、見間違いでしょうか?」
「そうですね‥‥こちらには、地面にもぐってなんて書いてありますから、もしかするとただの伝説とか」
モンスター関連の資料をあさっているメアリと一緒にローザ・ウラージェロ(eb5900)も。
この2人はモンスター関連の資料を中心に見ているようだが。
「‥‥その鱗は紅玉のように輝き燃え上がり‥‥ドラゴンでしょうかね?」
モンスターの資料は多く、その中にはかなり恐怖なモンスターもあるのだが。
「でも、もし強力なモンスターならば、宝物を集める類のモンスターもいるかもしれませんね」
と楽しそうなローザ。どうやらお宝が楽しみなようである。
そして、アラン先生と差し向かいで作業中なのはキラ・リスティス(ea8367)。
彼女は友人のエイリア・ガブリエーレとエマニュエル・ウォードに力仕事は任せてもっぱらの頭脳労働。
アラン先生、古い書付を順番に並べなおして全部まとめて木箱に納めて。
「はい先生。こちらで内容のリストを作っておきましたので」
手渡されるリストを何も言わずに受け取って箱の表にぺたりと貼り付けて。
続いてアラン先生が、次の資料に目を通していると。
「あ、こちらが今お読みの資料の関連資料だと思いますので」
と傍らにおいて。何も言わないアラン先生だが、阿吽の呼吸である。
とにかく、ゆっくりとだが確実に資料整理は進んでいくのだった。
●じっくり模様替え
「あ、旦那。ご注文のものお届けにあがりましたぜ〜」
資料整理も進んだある日の午後。
大荷物を持ってやってきた職人さんたちは、部屋の中央に大きな机を設置し始めた。
これは数日前、総兼が頼みに言ったものなのだが‥‥。
ここ数年、圧政で暗い空気に覆われていた領地、そこであれば職人といえども苦しかったはず。
そこにやってきたのは領主の客分。
彼はぽんと大金を預けて、これで良いものをと腕前を信用した上での依頼をしていったのだ。
これには職人連中一念発起したようで。
「旦那ぁ!! こちらに書見台置いときますぜ。こちらがご注文の大机で、こちらが執務机と椅子のセットで‥‥」
どやどやどやどや運び込まれる家具と棚、書見台やら新品のキャビネット。
前から置いてあった棚やチェストの整備までしっかりして行って、職人さんたちは去っていったのであった。
残されたのは、職人さんたちに旦那旦那と慕われていた総兼と、何事かときょとんとする冒険者たち。
大きな部屋の中央には巨大な机。その中央には領主が代々持っていた領地の地図の写しが。
そして部屋の端には新品の机やらいろいろと小物もそろい、ますます作業ははかどっていくのだったが。
しばらくして。
「おや、これはずいぶんと見違えたものじゃが‥‥」
不意にひょっこりと入り口から覗いた老人は、こざっぱりとした衣装のパヴェル老。
子供のようににこにこと、大机に近づくと、ここには綺麗な川があってのうなんてはしゃいだり。
「なんかおもしろい資料はあったかの? やはりこういう伝承なぞは浪漫じゃのう‥」
浪漫ですよねとクルトと語ったり、わしが若けりゃついていくのにと盛り上がるパヴェル老。
しかし、さすがにしばらくしてアラン先生が苦笑しつつ。
「‥‥パヴェル老、なにかありましたらまたご報告に上がりますので」
「む‥‥おお、これは邪魔したのう。あまり邪魔をしたら怒られてしまったわい」
とまったく悪びれずにパヴェル老。そして彼は、総兼に代金の足しにしてくれぃと指輪の入った皮袋を渡して去っていくのだった。
そんなこんなで、部屋は綺麗に片付き、資料の分類保管は大方終了したよう。
まだ詳細まではわからないが、一応の分類と整理は終わったようである。
「‥‥さて、今日はこれぐらいで休憩しましょうか?」
フェノセリアが紅茶のポットをもってくれば。
「そうですね。‥‥そういえば今日は焼き菓子をパヴェル様からいただきましたし」
どうやら焼きたてのお菓子も届いたようで、インクと皮の香りは一転、お茶とお菓子の香りに。
「もうしばらくしたら、領地で昔語りに詳しい方がいらっしゃるそうですし」
キラが予定表を確認しつつ。
「すこし休みましょうか」
ということで、お茶会が始まるのだった。
もちろんアラン先生もキラが勧めるお茶を静かに飲むのだった。
●遠方へ出向く者・話を聞く者
「‥‥それでは精霊信仰とは‥‥」
「今までに見た遺跡には精霊がガーディアンとして存在する場所もあった。もしかすると信仰対象だったのかもしれないな」
お茶会を気とばかりに質問をぶつけるクルト。精霊碑文に勉強熱心なようである。
「アラン先生とご一緒した依頼でも、巨大な精霊と戦ったことがありましたし‥‥」
「古代の秘宝とかは見つけたことはなかったんですか?」
「秘宝ですか‥‥精霊を祭るような場所でしたし、神殿のような感じですから、宝物は見ませんでしたね」
ローザとキラが過去の依頼の話なんかをしていたり。
「精霊信仰か〜。ボクたちの故郷と気候も似てるし、キエフでも精霊が信仰されてるのかもしれないね〜」
「ほほう、確か蝦夷の生まれだったかな? どんな信仰を?」
「ん〜、太陽の神様がチュプ・カムイって言ってね‥‥」
イコロは、見つかった精霊の絵なんかを眺めつつ総兼と話し込んだり。
「それじゃ、これはおそらく月の輝く‥‥」
「そこは闇じゃなくて夜、で取った方が意味が通じるかもしれませんね」
フェノセリアはキラと古代魔法語を学んでみたり。
さてお茶会に出席せず、別行動の人たちもいた。
ルイーザとメアリである。
彼女たちは近隣の遺跡の再調査に赴いていたのだが‥‥。
「とくに何もいないにゃー?」
「ええ、ここも外れみたいですね。もう全部運び出されてるみたいで‥‥」
都市部の近くにはろくな遺跡もなかったようで。
2人はそれなりに戦闘力があった。
なのでルイーザがゴブリンを蹴散らしたり、メアリがサイコキネシスが投げ飛ばしたりしつつ進んでいたのだが。
「ふむ、とりあえず自然洞窟を生かした遺跡がいくつかあるみたいですね」
メアリが見やる先には洞窟がぽっかりと。
入ってみたところ、すでに調査が終わって看板が立っている洞窟だったが、ゴブリンにとってはさぞすみやすいことだろう。
「こういうようなところには、後から住み着いたモンスターが障害になるんでしょうね」
「なるほどー。とすると、封じられてたり守護者として配備されてるものは資料を見ないとだめなんだねー」
「ええ、ではこれくらいで今日は戻りましょうか」
ということで、メアリとルイーザの2人は、お城へと帰るのだった。
そのころ、お城では領地の伝承に詳しい古老や、吟遊詩人なんかが呼ばれていろいろと話を聞いていた。
「‥‥とすると、この資料に乗ってる話は20年ほど前、と」
「うむ、そのころ空を舞う姿が話題になったものじゃよ‥‥」
キラがメモを取る中古老の話を大机の地図を見ながら、実際の場所を記してみたり。
「♪〜‥‥月の光に照らされし銀の槍は〜♪ ‥‥黒き獣を岩へと縫い付け〜♪」
吟遊詩人の歌声は、真実は定かではないが、似た話が無いかとみんなで資料を探したり。
「ふむ、いろいろと興味深いものよのう。わが領地といえども、知らぬことは多い‥‥」
いつの間にか同席してるパヴェル老もいろいろな話を聞きながら。
「この遺跡探索を通じて、いろいろとわかるといいのう。頼むぞ、スネイプル殿」
その言葉にアラン先生もうなずき返すのだった。
●残された遺跡、次なる目標
「んー‥‥残念ながら秘宝がありそうな遺跡は無いみたいですね」
候補に財宝がありそうな遺跡を上げていたローザだが。
どうやら信仰や祭祀の場に使われていた場所が多いようで、財宝の噂はあまり見つからなかったようだ。
しかし。
「でも、もしかすると古代の人は宝だと思ってないものが見つかるかもしれませんし」
「うむ、キラが言うように精霊信仰にまつわる魔法のアイテムは、我々魔法使いにとっては宝となる」
キラやアラン先生が言うように特殊なアイテムが見つかれば、それは宝に値するだろう。
そして、いろいろと資料を見比べていたフェノセリアは。
「この資料では、古代の祭祀場だと書かれてるんですけど‥‥おそらく独自で調べた聖職者がいたのかと」
ラテン語で描かれてるそのメモには、森の中にひっそりと建っていた遺跡の存在が描かれていたが。
「これって、先ほど見つかった報告書の資料と同じところじゃないですか?」
別の資料に述べられていた森の中の遺跡、そちらは狩人の人が偶然見つけたという報告が別の時期にされたもので。
「あ、もしかして正体不明の影がと‥‥」
地図上を見れば、新しい領主の居城である古砦から程近い森の中にその場所はあるらしい。
「正確な分類はわからないが、いくつかある目撃証言から、精霊じゃないかと思っているのだが」
モンスターについて調べていたクルトはメアリやローザと協力して資料に当たったようで。
こうして資料がある程度集まれば行動を起こすには十分ということで目標に定められる。
「ここからの地理的な近さもあるし、これだけ資料があれば必要な対策はとることが出来るだろう」
これからさらに資料を補強しなければいけないが、とアラン先生は付け加えつつ。
それぞれの冒険者たちは、新たなる未知の遺跡に向けて期待を膨らませるのであった。