【失われたモノを探して】異常気象を探せ!

■シリーズシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月13日〜06月25日

リプレイ公開日:2008年06月25日

●オープニング

 キエフの春。
 短い夏に向けて一気に春爛漫を迎えるこの北の大地では、その喜びもひときわ大きい。
 からりと晴れ上がる青空の下、動物たちは春を満喫し。
 いっせいに芽生えた自然はその緑を陽の光の下、精一杯の葉を伸ばすのである。

 だがある日、キエフ近郊のシュマールハウゼン領の領主の元に奇怪な報告が寄せられたのである。
 旅人が春の陽気に誘われて、ふと街道から離れてみることしばし。
 急に気温が冷え込んできたことに気付いたという。
 たとえ春でも天気が崩れれば、寒くなることもあるキエフ、だがその冷え込みは異常であった。
 山をすこし登っていけば、いつの間にか足元には雪が。
 そして身を切るほどの冷たさになっていく冷気は、なんと木々を立ったまま凍らせているようで。
 厳しいキエフの真冬に勝るとも劣らない冷気に、その山は包まれているのであった。

「ふぅむ‥‥この場所は、前にどこかで見た覚えがあるのう?」
 旅人の報告のあったその異常気象中の山の場所を眺めて、呟くのは領主パヴェル老。
 そこに顔を出したのは、現在シュマールハウゼン領の客員宮廷魔術師になっているアラン・スネイプルだ。
 彼は、無言でパヴェル老に示された地図を見て一言。
「‥‥これは、次に調査予定の遺跡の場所ですな。もしや何事かありましたか?」

 アラン先生とともに冒険者が調査を進めている一連の遺跡がこの領地にはあった。
 遺跡の目的はおそらく何らかの封印。
 水晶で作られた小剣が供えられた祭壇が今のところ2つ見つかっているのだが。
 うち一つ、二回目の探索の時に発見された遺跡では、その封印の要となる小剣が無残に砕けていたのだ。
 そして長い冬の間、探索行に出向けない時期を生かして遺跡の文章の解読が進んでいたのだが。

 地に刻みし三つの楔、大いなる白の災いを封じる。
 だがいずれ、時は刻まれし楔から力を奪うだろう。
 楔は楔のみならず、災いを討ち滅ぼす刃とならん。
 時はずれの白き災いが訪れし時、封印を解くべし。

 この四行詩が最重要な情報だと現時点で認識されている。
 そして、最後の封印の場所と目されていた山中の洞窟の位置が、今回の異常気象の現場であるという。
 こうして火急の依頼が冒険者たちに通達された。

 目的の一つは、異常気象の原因と現在の状況を探ること。
 そしてもう一つは、詩にある災いとの関連ともし災いが再び現れるとしたら対処法を探ること。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea2965 緋野 総兼(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8367 キラ・リスティス(25歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3338 フェノセリア・ローアリノス(30歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb5685 イコロ(26歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

西伊織 晴臣(eb1801)/ レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文

●書物を紐解いて
 キエフ近郊、リュマールハウゼン領の領主邸宅にて。
 現在アラン先生を初めとして冒険者たちがつめているその部屋は、散らかり放題であった。
「あの、アラン先生。こちらの資料を纏めたものは何処にあるのでしょうか?」
「えーと、これはすでに翻訳済みってことは、こっちの棚にあるのがまだ翻訳されて無い奴かな?」
「精霊に関する本を貸していただけませんか?」
 散らばり放題の羊皮紙に、寝食を忘れて調査を進める冒険者たち。
 時間との戦いであった。
 実地の調査に赴く前に、少しでも多くの情報を。
 しかし、必死で調査を進めている面々であったが、その調査は難航していた。
 4行詩の謎。誰がこの封印を行ったのか。
 剣の謎。剣の形を持つ楔たる封印の意味は。
 調べることは多く情報は少ない。だが冒険者たちはあきらめず調査を続けるのだった。

「‥‥先ほどの吟遊詩人さんから聞いたお話はこちらに纏めておきましたので」
「ふむ、では翻訳との比較を始めてもらおうか」
 自分の机で、羊皮紙に羽ペンを走らせていたアラン先生へと書類を届けたのはキラ・リスティス(ea8367)だ。
 まず冒険者たちは、資料の再調査と同時に、地域に伝わっている伝承の再調査に乗り出したのだった。
 対象となったのは吟遊詩人や古老、そしてその地に長らく住むエルフたちである。
 新しい領地であるため、なかなかエルフとの交流はなかったものの、数名の証言や過去の話。
 さらには複数伝わる伝承の再調査はなかなか貴重な情報が手に入ったようだ。
 しかし、伝承や伝聞による話は脚色や尾ひれがつくのが通例だ。
 さらには、それらの情報はどれも外部から見た話ばかりなのである。
 共通して分かったものは、過去この地に強烈な吹雪をもたらした怪異があったということ。
 それは、畏怖を持って語られるほどの存在であったのだが、何物かがそれを封じたというものがその話である。
 その者が何者なのかは謎とされている。
 だが、面白いのは封じたときのその活躍についてであった。
「剣を振るった活躍の伝承がいくつもありますね‥‥とするとやはり武器だったのでしょうか?」
 メアリ・テューダー(eb2205)が伝承に関して注釈をつけつつ、ふと皆に問いかける。
 彼女はエルフの集落を当たってみようと思ったものの、なかなか手がかりを得られなかったのだが、代わりにエルフから伝承をいくつか聞き出すことが出来たのでそれを纏めたようだ。
 自らもエルフであり、モンスターに関しては並外れた知識を有する彼女は、伝説に残るような精霊たちの事を思い出していた。
 そして、
「ですが、話に聞くほどの被害を与えていたとすれば‥‥かなり強力な精霊のようですね」
「そう考えると、倒すのではなく封印することになった原因を探らねばなりませんね」
 こちらも伝承を中心に調査をしていたフェノセリア・ローアリノス(eb3338)。
 そして実は、現在この3人だけが領主の館で調査をしていたのだった。
 そしてフェノセリアはふと作業の手を止めて。
「他の皆さんが戻ってくるまでに、なんとか作戦を立てませんとね」
 3名の魔術系の冒険者はこくんと頷くと、アラン先生とともにさらに頭を捻るのであった。

●春の強行軍
 さて、一方残りの冒険者たちは。
「こ、これなら馬術の勉強でもしておくべきだったかな?!」
「いやぁ、騎士さんたちには迷惑かけるけど、今回は仕方ないと思うよ〜」
 疾駆する馬たちと、その背に揺られつつ会話しているのは緋野総兼(ea2965)とクルト・ベッケンバウアー(ec0886)だ。
 3名の冒険者は、騎士が駆る馬の背に同乗し、以前調査した遺跡へと向かっていた。
 現在は二箇所目の遺跡へと移動中なのだが。
「ふーん、そういう事だったんだぁ‥‥」
 小休止を活用して、イコロ(eb5685)へと状況の整理をしていたり。
「うむ、とりあえず見つけた水晶の小剣を回収してみたのだが‥‥」
 と、総兼が取り出したのは、一つ目の遺跡で回収した無事な小剣。
 とりあえず遺跡に入り手にしたところ、何か問題が起きたような気配はしなかったので、無事回収できたのである。
「アラン先生もパヴェル侯も快諾してくれたから、こうして回収してるんだけどね」
 とクルトもイコロへと告げて。
 これから向かう先の小剣は砕けているものであるとか、遺跡は冷えた地下にあるので防寒対策が必要とか。
 そんな話をしながら冒険者たちは騎士たちとともに次なる遺跡へと向かうのだった。
 もちろん次なる遺跡でも、水晶の小剣の破片を無事回収して冒険者たちは急ぎの帰路に着けたのである。
 こちらの遺跡はより頑丈に入り口を封鎖していたのだが、やはり誰も入った形跡は無く。
 なんら妨害にあうことは無く、二つの小剣を回収したのだが。
「‥‥これだけなにも無いと逆にちょっと不気味だよね‥‥」
 ふるっと身をすくませたイコロに、総兼も。
「嵐の前の静けさって感じだなぁ。ともかく、急いで戻ろう」
 こうして3人は、急いで帰路に着くのだった。

●顔合わせ
 厳重な箱に二つの小剣、正確には小剣一つにその破片だが。
 それを大机の真ん中において、一同は話し合っていた。
 まずは集まった資料からの予測。
 肝心なのは、怪異への対処法だ。
 これから怪異へと向かうことになるが、現状分かっていることから、これへの対処が必要となるのは明白である。
 そのとき、手元にある資料とアイテムでどのようにすればその怪異を封じる、もしくは滅することが出来るのか。
 それが焦点となっているようである。
「ではやはり伝承によると、一度は退治を試みたが、というのが真実のようですか?」
「ええ、いくつか種類はありますけど、どれも最初の戦いでは負けてしまう、という筋書きですし‥‥」
 メアリとキラが話を纏め、それを似たもの同士いくつかのパターンにまとめていた。
 こうすれば、実際起きたことがどういう経緯を得て変化していったのかがわかるのだ。
「やはり相手は精霊の類だと思うが‥‥」
「ええ、吹雪を操るなどは、やはり精霊の力でなければ出来ないでしょうし」
 こちらは、総兼とフェノセリア。お茶を片手に語りつつ、そんなところに領主のパヴェル侯も姿を見せて。
「おう、皆そろっとるようじゃの。一応近場までの馬車は用意したぞ」
「これはこれはパヴェル侯。いつもご協力感謝いたします」
「なんのなんの。わが領地の問題を解決してもらえるためなら、これくらい容易いことじゃ」
 アラン先生がパヴェル侯を迎えて招き入れれば、パヴェル侯は椅子に腰を下ろして輪に加わり。
「アラン先生‥‥」
 ふと、キラが師であるアラン先生に尋ねる。
「一つ疑問なのですが‥‥たしか、今回異常気象が発生してる場所は、遺跡の場所なのですよね?」
「うむ、あまり調査報告は残っていないが、崖にうがたれた小さな洞窟内部が遺跡らしいが」
「では、その遺跡において異常が発生したということはそこに何者かが封じられていたということでしょうか?」
 その言葉に、ふとフェノセリアも首を傾げて。
「それはおかしいですね。そうすると他の二箇所と差があるということになりますし‥‥」
「うーん。今までの二箇所では何も出てこなかったんだよねぇ? それじゃあそこだけ違う遺跡だったのかな?」
「なんとなく結界とか封印だと、真ん中に封印されてる印象があるんだけどな?」
 イコロや総兼も疑問を口にするも、このことについては結局話がまとまらず。
「ともかく、一度現場を見てみないだめだろうね」
「ええ、異常気象とそれを起こしている原因が別の場所、ということもありえますしね」
 クルトの言葉に、メアリは白の災いと白き災いが別の物であることを示しているということかも、と付け加えて。
 こうして一行はいよいよ現場へと赴くのであった。

●白き山にて
「‥‥これは‥‥寒いですね」
「うーむ、まさしく冬のようだな」
 もこもこと着膨れして、一行は異常気象の起きている山へとやってきた。
 パヴェル侯が付けてくれた護衛の騎士たちを麓において、一行はゆっくりと山を登っていた。
 徐々に強くなる風雪と低くなる気温。
「アラン先生‥‥大丈夫ですか?」
「ふん、これしきの気温なら、たいしたことは無い」
 と、キラがアラン先生にぴったりくっついたりしつつも、やはり強くなる風雪は厳しいのだが。
「そろそろ小休止しましょうか‥‥ウィンドレス!」
 朝早くから山を登り始めて、そろそろ遺跡へとたどり着くという場所で、一行は小休止をとることにした。
 メアリによるウィンドレスの効果は抜群で、とたんに緩やかになる吹雪。
 そして、一行はそこでしばらく休息を取るのだった。
「おそらく遺跡には守護者がいるんでしょうね‥‥」
「ええ、今まではそれぞれいましたしね」
 フェノセリアがふと遠くに目を凝らしてそう呟くと、メアリも記憶を辿りながら答え。
「今までの守護者は、その場にはあまり居るはずの無いモンスターの類でしたから‥‥」
 と、そこまで言ったところで、突然イコロが声をあげた。
「‥‥あれ? あそこになにか転がってるんだけど、あれなんだろう?」
 ウィンドレスによって風が軽減されている領域の端、そこになにかが雪を被って積もっていた。
 それはぼろぼろに腐食した装備品を中に閉じ込めたなにかスライム系のモンスターの死骸で。
「‥‥これ、完全に凍ってるね。遺跡の守護者を凍らせるってのは‥‥それが白き災いなのかな?」
 先に立ちはだかるであろうその災い改めて気付き、一行は気を引き締めるのであった。

 そして一行はいよいよ遺跡の入り口へとたどり着いた。
 予想に反してその途中に何も抵抗は無く。
 完全に遺跡の周囲は凍り付いていたが、中には何とか入ることが出来たのだが‥‥。
「祭壇が、無い?」
 愕然としてキラが呟くとおり、その遺跡の奥にはぽっかりと穴が開いているだけで、祭壇も小剣も無かった。
 ただ、粘土板や壁画は残っており、一行は急ぎそれを移し荷物を手にするのだが。
 キラやクルトなどが何とか急いで読み解いていると。
「‥‥なんだか外の嵐が厳しくなってきたみたいだな。すこし時間を置いて収まるか見てみようか」
 入り口で様子を伺っていた総兼がそういったとき、ずしんと何かを揺るがす音がした。
「‥‥足音?」
 急ぎ入り口に集合する一行、すると激しくなった嵐の向こうに巨大な人影が。
 ずしんずしんとうろつきながら、ぐるぐると山の周りを回るように歩む白い巨人。
「‥‥精霊で巨人の姿をとるものにはいくつか聞いたことがありますが、雪系の巨人は聞いたことがありませんね」
 呟くメアリ、だが視力に優れる幾人かは気づいた。
「巨人の胸に‥‥刺さってるのは、封印の小剣でしょうか」
 フェノセリアが言うように、巨人の胸元には封印の小剣が刺さったままのようで。
「‥‥とりあえず、あの巨人はまだしばらく山を降りることは無いようだ。近くに騎士を駐屯させて置けるように手配して、われわれは一度戻ったほうがよさそうだな」
 告げたのはアラン先生。それもそのはず、この遺跡で半ば凍りづけにされた粘土板の数は優に今までに手に入った数を超えていた。
 どうやらここには多くの情報が残されていたようで。
 一行は白い巨人が去るのを確認してから、急いで山を下っていったのだった。

「とすると、次までに何とか対処方法を見つけるということじゃな?」
 領主の館で、知らせを受けたパヴェル老は冒険者たちに継げた。
「では、次に手伝いをたのむときは、いよいよ決戦というわけじゃな‥‥そのときはよろしく頼むぞ」
 またアラン先生は、それぞれに強化用のレミエラを渡して次に備えるようにつげた。
 こうして、緊張を孕んだまま冒険はひと時の休息を迎えるのだった。