真理のために‥‥ 第一話

■シリーズシナリオ


担当:雪端為成

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月09日〜11月14日

リプレイ公開日:2005年11月19日

●オープニング

「実は盗難事件にあってしまったので、盗まれたものの奪還を依頼したいのです」
 そういってギルドを訪れたのは、とある貴族に仕えていると言う男だった。
「盗難事件ですか‥‥何を盗まれたのですか?」
「ええ、説明すると少し長くなるのですが‥‥」

 話はこうだ。
 男が仕えているのはとある下級貴族で、貴族としての家柄は低いがなかなかに羽振りがいいそうだ。
 その貴族、名前はロックフォード子爵というそうだが、彼には3人の息子がいるのである。
 そのうち今回盗難にあったのは三男。名をカシアスというそうだ。
 年のころは三十歳に最近なったばかり、物静かで大人しい男だとか。
 三男なので家を継ぐこともなく、他の職業で身を立てようともせずに親からの援助で暮らしていたのだ。
 カシアスはディレッタント、つまりは好事家としてそれなりに有名だった。
 古今東西のいろいろなものを集めていたのが自慢で、彼のコレクションの話はそれなりに有名だったのだ。
 別段とても貴重なものを集めたわけではなく、ただ単に珍しいというもの、つまりは実際は余り価値のないものが多かった。
 だが本人は満足していたし、別段恨みを買うこともなかったそうだ。
 そして今回盗難にあったのは、そのコレクションの一部らしい。
 盗まれたのは一冊の本。奇怪な絵や妙な図が書き込まれた不思議な本だったそうだ。
 カシアス曰く錬金術の秘術を記した寓意書だということである。
 しかしその本は、忽然と盗まれてしまったのだ。
 カシアスの屋敷の者は誰一人として気付かず、ただ様々なコレクションが収められていた部屋の窓が壊されていた。
 他のものは一切盗まれておらず、被害にあった人間は誰もいなかったのだが‥‥
 
「ということで、その本を取り返してもらいたいのです。カシアス様はお父様に頼んだので、こうして依頼を出すことになったのですが」
「なるほど、それでは依頼を承りました。なにかご注文はありますか?」
「‥‥ロックフォード様から聞いたのですが、少し前に貴族たちが錬金術師の詐欺にあったという事件があったそうで」
「ああ、そういえばそんな依頼もありましたね。残念ながら錬金術師たちは逃がしたそうですが、被害は止まったそうで」
「ええ、私もそう聞きました。今回盗まれた本が錬金術関連とのことなので、なにか関係があるのかも‥‥と思いまして」
「そうですね、なにか関係があるかもしれませんね。依頼を請け負う冒険者にはその旨を伝えておきますね」
「ああ、よろしくお願いしますね」

 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0945 神城 降魔(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1519 キリク・アキリ(24歳・♂・神聖騎士・パラ・ロシア王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●カシアスからの情報
「今回はよろしく。僕がカシアスだけど‥‥聞きたいことがあるとか?」
「はい、いくつか知っておきたい情報がありますので」
 カシアスの自宅にて、一同はひとまず情報の整理を始める。
 カシアスに問いかけたのはアルカード・ガイスト(ea1135)。他の冒険者たちも耳を傾けている。
「まずは本の外見に関してできるかぎり詳しく教えてください」
「んー何の変哲もない古い写本だったな。くすんだ色の革表紙で何の装飾も無かった」
「それでは、本の内容については? 私は錬金術について多少の知識があるので、内容に関しても興味があるのですが」
 続いて質問したのはカシム・ヴォルフィード(ea0424)だ。するとカシアスはじろじろとカシムを見てから言う。
「僕は錬金術には詳しくないからね。あくまでも貴重な写本として買ったんだけど、おそらく錬金術関連の本だったと思うよ。以前見せてもらった錬金術の写本の内容と似ている図とかもあったからね」
 何かを思い出しているかのように遠くを見やってからカシムに視線をもどす。
「しかし、女性でも錬金術なんかに興味があるのかい?」
「‥‥男ですから。僕は」
 二重に失礼なカシアスの言葉に平然と返すカシム。話が逸れかけたところで再びアルカードから質問が。
「それでは、本を欲しがりそうな人物についてなにか心当たりは?」
「欲しがりそうな人物ねえ‥‥思い当たらないなぁ。泥棒なんて今まで入ったことなかったんだけどなぁ」
「それじゃ、本を手に入れたことを知っている人はいないのか?」
 続いて質問したのはライル・フォレスト(ea9027)だ。
「ああ、それなら本を買った古道具屋とか、本のことを自慢した好事家仲間とか‥‥」
 とそれを聞いて、数名が表情を曇らせる。本に関して知る人間が多すぎるのだ。
「それでは、その本を欲しがった人はいませんでしたか?」
 サーシャ・クライン(ea5021)が今度は問いかける。
「んー‥‥以前この屋敷に招いたときに、好事家仲間の1人が欲しいって言ってたかな」
「その人のお名前とか住所を教えてもらえないかな?」
「ああ、それぐらいなら問題ないかな。データス子爵といって僕なんかよりずっと立派なコレクションを持っているよ」
「本をどこで手に入れたのかは教えていただけますかしら?」
 ステラ・デュナミス(eb2099)が最後に問いかける。
「ああ、よく訪ねる古道具屋だよ。あとで場所を教えてあげよう」
 知ることの出来る情報はこれぐらいのようだ。そしてこの情報を手にそれぞれは動き始める。

●邸宅にて
「わ、わわ、キリク殿っ‥‥変装とは言え、こ、これは男子の付ける物なのですか‥‥!?」
「そうだよ〜♪ 変装しないと派手に動けないしね」
 ふわふわヘアバンドをキリク・アキリ(ea1519)に付けられているのは壬鞳維(ea9098)だ。
「聞き込みするにしろ、情報を集めるにしろ、変装はしておかないとね」
「そうですか‥‥うう、でもやっぱりちょっと‥‥」
 耳を隠すふわふわを指でつんつく突きながら鞳維が言う。確かに、耳を隠すためとはいえかなり奇抜な格好だ。
「使用人には本に関して詳しく知っていた人が居ないみたいだから、やっぱりカシアスさんのところから漏れたみたいだね」
 じゃれている2人を見ながら言ったのはライルだ。3人は、カシアスの邸宅の中での情報収集に励んでいた。
 使用人に話では、本の内容について知っていたものはいなかった。そしてコレクション部屋に入るのはカシアスのみ。
 あくまでも本の内容などはカシアスが好事家の仲間に告げたことのみによって外へ広がったらしい。
 そして、3人は盗まれた経路となったはずの窓のところへやってきていた。
「んー‥‥これはやっぱり無理やり外から開けたみたいだね。しかも魔法じゃない、盗賊の手口だ」
 ライルが窓枠を仔細に調べながら言うと、キリクも窓に近寄って覗き込む。
「鍵開け名人さんがいるのかな? でも、ウチの窓よりずっと丈夫そうなのになぁ‥‥」
「盗賊が実行犯だとしたら、どうして本だけ狙ったのでしょう? 本があることを知っているのは好事家仲間の貴族さんたちですよね?」
 ふと鞳維が呟く。
「どこかの盗賊さんに依頼した貴族さんがいるのかな?」
「それじゃ、次は他の好事家仲間の所に聞き込みに行こうか」
 キリクとライルもこたえ、次の方針が決まったようである。

●街での聞き込み
 そして、市内。データス子爵の訪問後の3人はしきりに首を捻っていた。
「うーん‥‥怪しいんだけど、調べる方法が無いんだよね」
 眉をしかめてキリクが言う。本について尋ねたものの、それ以上踏み込んで調べることはできなかったようだ。
「せめて実行犯との繋がりとかが分かれば何とかなるんですけどね」
 鞳維が答える。と、そのときの袖を軽く引いてライルが囁きかけた。
「‥‥なあ、だれかにつけられてる気がしないか?」
「‥‥はっきりとは分かりませんが、同じ歩調の足音がついてきている気がしますね」
 緊張が走り、3人は目配せをする。そして。とりあえず追っ手をまくために道を変えながら一同の下に戻ることにする。
「もしかすると、これは当たりかもね」
 小さく笑みを浮かべてキリクが言ったのだった。

 一方、商店を回って情報を集めているのは、カシムと神城降魔(ea0945)だった。
「カシム、本は貴重なものだと思う?」
「‥‥聞いた話の中では、それほど貴重なものだとは思わないけどね」
 いくつかその手の商品を取り扱いそうな商店を巡り、一つ分かったことがあった。
「一部で錬金術関連の写本や道具の値段が上がった‥‥」
「うん、最近沢山買い込んだ人がいたみたいだね。一時的なものだったみたいけど」
「ならあとは、手に入れた古道具屋に行こう。他の人もいるだろうし」
「そうだね、情報も集まってきてるかもしれないしね」
 そして2人は、カシアスが本を手に入れた古道具屋へと向かったのだった。

 そして、カシアスが本を入手した古道具屋にて。ステラやアルカード、サーシャにカシムと降魔が集まっていた。
「最近似たような本について尋ねた人がいる? ‥‥詳しく教えてもらえないかしら」
「ふむ、その本は偉く人気みたいじゃが‥‥まあ、ええじゃろ」
 店主の老人に詰め寄っているのはステラだ。本を探しているといってカシアスの本の特徴を述べたところ、老人は前にもきかれたと答えたのだった。
「前には、その本を売ったらどれくらいになるか‥‥なんてこと聞かれてのう。あんまり高くはならんぞ〜と答えたところ、吃驚してたぞい」
「‥‥それを聞きに来た人はどこにいるか分かる? もし持ってるようだったら譲ってもらいたいから、教えてもらえないかしら?」
「ふぅむ‥‥まあ、ええじゃろ。ただし本のことだけじゃぞ?」
 そういって、老人はとある酒場の名前をつげる。どうやらその男は店に物を売りに来る常連だったようだ。
 こうして街での探索も終り、情報を整理することになった。

「どうやら、古道具屋に本の値段を聞きに来た男は、故買品を扱っているようです。つまりは盗品ですね」
 ギルドを回ってさらに情報収集をした結果、男に関することで分かったことをアルカードが伝える。
「ということは、たまたまカシアスの家に盗みに入っただけかしら?」
「でも、値段を聞きに来た‥‥それで売りに来なかったってことは、他にも金に変える手段があったんじゃないかな?」
 首を傾げるサーシャに対して、鞳維が言う。
「‥‥ああ、なるほど。ということは、盗みを依頼されてたけど、転売しようとしたのかな?」
「値段を聞いて驚いていた‥‥ということは、依頼の報酬の方が高くて、転売をやめたのかも‥‥」
 カシムと降魔がいう。推測だがとりあえず実行犯には辿りついたようだ。
 結局、実行犯と思しき、盗賊を捕まえることにした一同。ついに接触のときがやって来た。

●盗賊と錬金術師
「ちょっといいかな、とある本を探しているんだけど、こころあたりは無いかな?」
「なっ、だれだお前ら!!」
 盗賊と思しき男は、手下を2名ほど引き連れて路地裏を歩いていた。そこを待ち伏せて包囲した冒険者たち。
 ライルの問いかけにたいして、懐の刃物に手を伸ばす盗賊たち。そこでステラが話しかけた。
「力ずくというのはお互いのためにならないでしょう? 本だけを返していただければ、内容を書き写すなりなにか対処できるかもしれませんよ?」
 交渉を持ちかけるステラ。しかし、盗賊たちは鼻で笑うようにしていった。
「そんなこと言われても、ほいほい頷けるわけないだろう‥‥そんな本のことはしらねぇな。とっとと失せてくれ」
 しかし警戒ぶりからは明らかに黒。それを見て冒険者たちは各々の武器を抜いた。
「仕方ないな‥‥無理にでも話を聞かせてもらうぞ!」
 ライルが木剣を構えると、対する盗賊たちもダガーを抜き、戦いが始まった。
「アグラベイション!」
 アルカードが魔法を唱えると、手下の1人が急に動きを鈍らせる。その隙に接近したのは鞳維。
「逃がさねぇよ!!」
 髪を逆立てて鞳維は詰め寄ると、左右の打撃から一転して苛烈な足払いをかける。
 足を払われて転倒した盗賊の1人は、そのまま鞳維によって取り押さえられる。
「ウインドスラッシュ! 無駄な抵抗はやめたほうがいいですよ」
 サーシャの魔法で足止めされた盗賊の1人。そこにキリクがメイスを向けて、ディザーム一閃、ダガーを落とさせる。
「ここまでだよ。大人しくしててね♪」
 そして主犯格の盗賊は、ライルと対峙していた。
「ウインドスラッシュ!」
 カシムの魔法が、盗賊に命中する。その瞬間にとびこんだライルは木剣を盗賊の鳩尾に叩き込む。
 スタンアタックが決まり、盗賊は無言で崩れ落ちたのだった。

「‥‥それじゃ、白状してもらおうか」
 降魔に詰め寄られているのは、ロープでぐるぐる巻きにされた盗賊の主犯格。縛られた後起されて尋問中である。
「‥‥俺たちは盗み出すのを頼まれただけだし、もう本は渡しちまったよ」
「それじゃあ、本を盗み出したのはやっぱり貴方たちなのね?」
 ステラが問うと、しぶしぶ頷く盗賊たち。そして、確信へと迫る問いを、キリクが問いかけた。
「それじゃ、誰に頼まれたのか教えてくれないかな?」
「それをいえば見逃してくれるか?」
「‥‥考えておくよ」
 しばし考えた末にライルが応えると、やっと盗賊は口を開いた。
「ああ、俺たちに本を盗んでくるように依頼したのは貴族の‥‥」
 その瞬間、遠くから飛来したアイスチャクラが盗賊の首筋を切り裂いた!
 はっと冒険者たちが気付いたときには、すでに他の2名の盗賊も同じくのどを切り裂かれ絶命していた。
 あわてて、当たりを見回すと、屋根の上に立っている巨漢と細身の男の姿があった。
 盗賊たちが絶命したのを見届けたとたん、霧がその周囲に広がり、あっというまに姿をくらます2人。
 結局決定的な手がかりを得ることは出来なかったのであった。

 そして再びカシアスのもとで。
「どうやら、話を聞いたところ、以前話題に上がった詐欺集団と関係があったみたいだね」
 冒険者に向けていうカシアス。
「そこで、依頼の内容を変えてもう一度頼みたいと思っている。次の依頼は、その詐欺集団を捕らえること」
 そういって、カシアスは冒険者たちに笑いかけた。
「実は以前詐欺にあった知り合いもいてね、僕が中心になってしっかりと決着をつけたいと思ってね。それに本もとりかえせるかもしれないからね」
 どうやら依頼はまだ終わらないようであった。