one armed hunter――山賊を狩る乙女

■シリーズシナリオ


担当:切磋巧実

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月13日〜03月18日

リプレイ公開日:2007年03月21日

●オープニング

●冒険者ギルドで見掛けるようになったのは最近の事である。
 フードの付いたボロボロのマントに小柄な身体を包み、壁に背を預けてジッと佇んでいた。右肩越しに長剣の柄が覗いており、身の丈ほどはありそうだ。フードから僅かに覗く風貌は少女のように愛らしい。
 否‥‥事実、彼女は少女である。前に1度、マントに包まれた肢体を『結果的』に晒してしまった事があるのだ。
 円らな瞳を鋭利に研ぎ澄まし、身動ぎ一つせずに羊皮紙の貼られてゆく掲示板を睨んでいた。そんな時だ――――。
「村の周辺に不気味な山賊が現れて困っているんです!」
 1人の村人がギルドの受付に駆け込んで来た。山賊退治ですねと、受付は小首を傾げて先を促す。
「不気味というのは、何故ですか?」
「‥‥小柄な男がボスらしいのですが‥‥歯が獣みたいに尖っていて‥‥」
 ――依頼主の言葉に、ピクンと肩を跳ね上げたのはマントの少女。
 眼光をギラつかけて一気に床を蹴って駆け出すと――――――――派手に転んだ。
 同時に長い剣が横に流れ、マントが捲くり上がると共に腰布に包まれた丸みのある愛らしいヒップラインが曝け出された。先に続くはカモシカの如き引き締まった二本の脚だ。
 砂埃の舞う中、乱れたマントから褐色の肢体を覗かせながら半身を起こす。
 ボサボサに伸びたパサつく長髪の流れる先には、豊満だが硬そうな二つの膨らみが布切れに包まれており、鍛え抜かれたような腹筋は健康的な色香すら漂わせるようだ。同様に額を押さえて痛みを堪える顔を翳す右腕も、不釣合いなほど筋肉質で太い。
「つぅ〜〜‥‥ッ!?」
 ペタンと座り込んでいた少女は慌ててマントで筋肉質な肢体を包み隠し、見下ろす冒険者や依頼人、受付係を上目遣いで睨んで頬を染めた。
「な、なによぉ‥‥見世物じゃないんだからっ‥‥はッ、それよりアナタ!」
 スックと立ち上がり、受付に依頼の件を話していた男の傍に寄る。依頼人は言い掛かりでも吹っ掛けられるのかと戦慄きながら慌てて手を差し出すと、少女の舌足らずな声が威圧する。
「触らないでッ! ‥‥ねぇ、その山賊の歯は確かなの!?」
「あ、あぁ。まるでモンスターみたいでしたよ」
「あたし、この依頼を受けるわ! 1人でも行くんだから!」
 バンと勢い良く右手で机を叩き凄んでみせるが、ギルドの依頼は最低4人必要だ。受付係は苦笑しながらも何か違和感に気付く。
「あなた‥‥左‥‥」
「煩いわね! アナタには関係ないでしょ! いい? 依頼は受けるんだからッ! あ、そうだ、あたしも詳しい情報を聞かせて貰うわ。ううん、聞くッ! さあ話なさい」
 依頼主はうろたえつつ、受付が溜息を吐きながら首を縦に振る姿を確かめ、口を開いた――――。

●今回の参加者

 ea8311 水琴亭 花音(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9436 山岡 忠信(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb7705 レイディア・ノートルン(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9639 イスラフィル・レイナード(23歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

カメノフ・セーニン(eb3349)/ レア・クラウス(eb8226)/ アガルス・バロール(eb9482

●リプレイ本文

●はぁ?
 あたしは山岡忠信(ea9436)の提案に素っ頓狂な声をあげた。だってそうでしょ? 山賊のアジトに踏み込めばいいだけじゃない。
「念の為でござる。山賊に見つかった時、逃げられては適わぬでござるからな。武器が見た目に判らないよう、布を巻くなりして荷物のように見せるでござる。格好も旅人風にしておくでござるよ。特に格好は‥‥」
 チラリと視線を向けた刹那、侍の青年は直ぐに瞳を逸らして頬を掻く。
「できれば女子の肌は出さぬ方が良いと思うでござるが‥‥」
 あたしが反論しようとすると、レイディア・ノートルン(eb7705)が慌てて忠告めいた事を言う。
「そ、そうですよっキャミアさん! そ、そんな恰好では寒いというか、その‥‥隠すところは‥か、かく‥隠してますけど、もっと隠すところは多くというかっ!!」
 この娘、なに動揺しているの? それに見せたくてこんな恰好している訳じゃないんだから!
「余計なおせっかいよ! それに、布なんか巻いたら遅れるじゃない! 誰か解いてくれるの?」
「でしたら私が解いて差し上げます」
 微笑みながら傍に寄るのはサクラ・フリューゲル(eb8317)。育ちのよさそうな少女のたおやかな仕草に、思わず膨れっ面も自然と掻き消えたわ。もぉ、あたしはただ――――。
「い、いいわよ! それより先を急ぎましょ。山岡の情報だともう直ぐでしょ?」
「その前に、キャミア‥‥だったか。何故あんたは山賊退治を? 受付での様子を聞いた限りでは、義憤に駆られてというわけでもなさそうだが」
 上品そうな風貌のイスラフィル・レイナード(eb9639)をあたしは睨む。あれ? この男‥‥。
「あ、あなた見てたのっ!? べ、別に関係ないでしょ!」
「そうはいかない。あんたの、冒険者としての腕前はどれ程のものなんだ?」
 なに? 憂いを帯びた青い瞳はまるで『戦えないのに無茶されれば足手纏い』と言ってるみたい。
「う、腕試しがしたいのね? ちょっと、重いから退いて」
 長剣の柄を握りながら頭の上に声を掛けた。きっと寝そべって頬杖でも突いているに違いないわ。
『え〜? デスぅ〜』
 目の前に降りて来たエンデール・ハディハディ(eb0207)が頬を愛らしく膨らます。パサついた髪のどこがいいのか、あたしの頭に乗っかってたシフールの少女。しかも『まるごとクマさん』付き。
「ちぇ、ケチ〜、ブーブーデスぅ」
「戦闘では退いてって先に言ったじゃないっ! 負担になるのはイヤなの! さて、試してみる?」
 レイディアがオロオロする中、ロッド・エルメロイ(eb9943)の穏やかな声が静寂を打ち破る。
「まあ、よろしいじゃありませんか。紳士足る者、ご夫人の願いには応えねばなりません。ましてや相手は盗賊団。容赦無く打ち倒しましょう。おや? 首を傾げますか‥‥俺はあなたに協力する為に依頼に参加したのですよ」
 上品そうに微笑む青年。でも‥‥道中色々と気遣ってくれたけど、あたしは睨んでいたに違いないわ。
『個人の事情に口を挟むつもりは無いが‥‥』
 声に視線を向ける。ぼそっと口を開いたのは水琴亭花音(ea8311)。エンデやサクラとか挨拶してくれたけど、ジッと見ているだけだから喋れないかと思ったわ。寡黙そうな娘は続ける。
「山賊退治となると誰もが命懸けじゃ。腕の次には命を落とす事になるやも知れん覚悟はあるのかの?」
「なっ、関係ないでしょ! 覚悟ならあるわよ!」
 そっぽを向くと視界にイスラフィルを捉えた。彼は得物を抜く気はないみたい。安心したようにエンデが頭の上に戻ると、リスティア・バルテス(ec1713)が歩み寄る。
「なに? リスティア」
「あたしの事はティアでいいよ。よろしくね! 実はあたし今回依頼受けるのはじめてなんだよね〜。まぁ足を引っ張る事がないように頑張るね。負傷したらリカバーで援護はするからよろしくぅ!」
 ふーん‥‥戦えなくても参加しているのね。自分の担う事を分かっているんだ――――。

 ――あたし達は2列の隊列を組み、山道を進んだわ。
 レイディアが野草や木々を見て「あ、あの蕾あんなにふくらんでいます。そろそろ咲き頃ですね☆」なんて微笑んでお気楽振りを見せたり、隣のサクラは「山賊のボスは『歯が獣のように尖っている』とか‥‥一体何者なのでしょうね?」とか訊ねて来ると、『尖った歯の山賊のこと、何か知ってるデスか?』なんてエンデが上から顔を覗かせたけど‥‥黙って歩けないのかしら。‥‥黙ってるけど、花音の注ぐ視線は何か気になるし‥‥。
「水琴亭殿!」
 山岡の囁きと共に、イスラフィルが背後で「用心しろ!」と告げたの。頭の上でもエンデがピクンと跳ねた気がしたわ。
 刹那、山賊は狭い山道で逃げ道を塞ぐように現れたの――――。

●なによ! 男が吊るんで身包み強盗とは呆れたもんね!
 ビッと指差し威勢良く啖呵を切ったのはティアだ。仲間達も呆気に取られる中、尚も続く。
「あんたらいいのはガタイだけ? 情けないにも程があるんじゃないの? そんなの‥‥ジーザス様が‥お許しに‥ならない、よ? てへ♪」
 声が震えて途切れた後、ペロっと舌を出しておどけて見せたのは、山賊の頭である小柄な男を視界に収めたからだ。涎を滴らせて鋭利に尖った歯を剥き出す姿は、人間というよりグールに見紛う戦慄が疾る。しかし、怯えた声は連中に余裕の色を浮かばせた。下卑た笑みが若い娘達を舐め回す。
「へへッ、野郎2人に女5人か♪」「護衛にしちゃあ少ないんじゃねーのか?」
 ジリジリと何も知らず前から3人、後ろから5人の山賊が迫る。頭は鋭利な歯を剥き出しに成り行きを見守るようだ。刹那、背中の剣が布に包まれているのも忘れてキャミアが地を蹴る。
「きっさまあぁ‥‥ぁッ!」
 相変わらずマントを捲くり上げて地面に突っ伏す少女に誰もが唖然とする。否、褐色のシフールだけは宙を舞い、「わぁお、セクシーデスぅ☆」なんてハシャぐ中、賊も呆れたように口元を歪めて近付く。
「うす汚ねぇと思ったら、いいケツ晒してくれんじゃねーか?」「俺が起こしてやろうか?」
 賊の影が迫る中、今がその時とばかりにエンデが叫ぶ。
「ダズリングアーマーでビカビカ光るデスぅ!」
 仲間に合図は了承済み。シフールが眩いばかりに発光すると、前方の賊が呻いた。次の瞬間、豊かな胸元からクルスダガーを抜き、隙を突いたサクラが飛び出す。同時にクルスダガー『トロイツカヤ』と短刀を煌かせ、イスラフィルも駆ける。ロットはフレイムエリベイションを仲間に付与済みだ。
「ファイアーボムを山道で炸裂させるのは危険ですね‥‥全体の総合力を上げますか」

 ――冒険者と知る由もなく、少女がいきなり切っ先を振るった事に賊は驚愕した事だろう。
「大丈夫ですかッ」
「よ、余計なおせっかいよ‥あたしは‥‥」
 キャミアがサクラに助け起こされる中、イスラフィルの刃が賊に鮮血を散らせてゆく。エンデは変幻自在に宙を舞い、賊の視界を撹乱していた。
「攻撃はカレイに、トンボの羽だけどチョウのように回避するデスぅ♪」
「手応えのない奴等だ。この程度なら後衛も無事だな」
 刹那、賊に突き刺さる矢が鮮血を散らす。振り向けばオークボウを構えるレイディアが軽くウインク☆ 既に後方では矢に射抜かれた賊が苦悶の色を浮かべながら崩れており、忠信がダガーと日本刀と薙ぎ振るい、次々と沈黙させてゆく。若干負傷も刻んだが、そこは駆けつけるティアの出番だ。
「踏み込んで来るなら切るでござるッ! かたじけない。拙者は多少の傷なら大丈夫でござるよ」
「気にしないでよ、今のあたしは傷を癒す事しかできないんだからね☆」
 
 ――戦慄を浮かべたのは賊の頭である。
 女だらけの無防備な旅人を襲った筈が、守られているのは見たところ3名。
「チッ、使えねぇ連中だぜ」
 ――逃げられる!
 踵を返した刹那、パタリと頭は崩れた。姿を見せたのは忍者の娘だ。
「歯が獣のように尖っておる‥‥か。はったりの類かもしれぬが、人外の種族の特徴かもしれんのう‥聞き出せば分かることぢゃ」
 疾走の術と隠密技能を駆使し、隙を突いて春花の術を放ったのである。花音がいなければ逃げられていたやもしれない。靴音が響く中、振り向けばサクラに支えられたキャミアが映った。
(「意識する機会は少ないが、腕というのは結構重いからのう。よく転けておるのは、要するに片腕を失ったバランスが取れておらんからじゃろうな。背筋を伸ばし、真っ直ぐ歩く事からして辛い筈じゃが‥‥」)

 ――何人かの賊には恐れを為して逃げられたものの、忠信は追撃しなかった。
 取り敢えず捕えた連中を拘束して村に預けた後、アジトの小屋へ頭を連行。キャミアは二人だけにして欲しいと願ったが、さて‥‥。
「久し振りね、キバ。忘れた?」
「お、おまえは‥‥いッ!! ひいぃッ!!」
 ザックリと木の壁に巨刀が突き刺さり、元山賊の頭であるキバは情けない悲鳴をあげた。
「余計な事は喋らないで。単刀直入に聞くは‥‥‥‥‥‥? 何で賊なんかに成り下がったのよ!」
「知らねぇッ、おま‥‥ひいぃッ、俺は怖くなって‥‥‥‥‥。食うのに困ったら連中と知り合ってよ。俺が丹念に削って尖らせた歯を見せたらえらく待遇良くってさ‥‥なぁ、むか‥‥ひいっ、分かったから助けてくれよぉ」
「‥‥仲間が決めるわ。でも依頼だから諦めたら?」
「‥‥仲間だと? おまえま‥‥‥‥ひッ!」
「‥‥切るわよ」
 小屋の戸を開けて少女が姿を見せると、忠信がアジトで手に入れた物を愛馬に詰め込んでいた。
「戦利品ってやつ?」
「金目の物があったら村人達に渡すでござるよ。元々は彼らの物でござるからな」
「真面目なのね」

 サクラが頬に手を当て呟く。
「私、おせっかいでしょうか?」
「気にするな。照れ隠しと思えばいい」
 フッとイスラフィルが微笑んだ。
 依頼は達成された。指折り数える少女が意味する事は果たして――――。