one armed hunter――小さな反抗に大男
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■シリーズシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月13日〜05月18日
リプレイ公開日:2007年05月20日
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●オープニング
●消えた幼女の捜索依頼
フードの付いたマントで小柄な身体を包み、壁に背を預けてジッと佇んでいた。右肩越しに長剣の柄が覗いており、身の丈ほどはありそうだ。フードから僅かに覗く風貌は少女のように愛らしい。
否‥‥事実、彼女は少女である。前回の依頼でも勝手に転び、マントに包まれた肢体を晒してしまい、「わぁお、セクシーデスぅ☆」なんて言われたとか言われなかったとか‥‥。
相変わらず円らな瞳を鋭利に研ぎ澄まし、身動ぎ一つせずに羊皮紙の貼られてゆく掲示板を睨んでいた。そんな時だ――――。
「娘を探して下さい!」「誘拐されちまったんだ!」
若い夫妻がギルドの受付に駆け込んで来た。人攫いは稀な事件ではない。隙あればモンスターだけでなく、人間すら牙を向けるものだ。まして非力な幼女とあれば手頃な獲物だろう。
「え? 身代金、ですか? そんな知らせはさっぱりありません」
受付係の問いに夫は訝しげな色で答えた。ならば誘拐では無いのかもしれない。
否、それよりも情報が少ないのではないか? 受付係は当時の状況をゆっくりと尋ねた。
「朝、起きたらいなくなっていたんだ。遊びに出たのなら帰って来るだろう?」
「もう3日は経ちます! 誘拐されたんですよ!」
相変わらず夫妻はヒステリックな雰囲気のままだ。無理もないだろう。親としては直ぐに依頼を出して欲しい所だ。
しかし、既にモンスターに襲われた可能性も否定できない。辛い思いを覚悟して口を開く。
「なぜ、誘拐だと決めつけるのですか?」
「周囲の村人が見たってんだ。大男と話をして連れて行かれる姿を」
「あなた‥‥連れて行かれるって‥‥」
――依頼主の言葉に、ピクンと肩を跳ね上げるマントの少女。
眼光をギラつかけて一気に床を蹴って駆け出すと――――――――派手に転んだ。
しかも今回は足を滑らせたのか仰向けに倒れている。当然マントは大きくはだけており、褐色の肢体を露に覗かせた。床に泳ぐパサつく長髪、布切れに包まれた豊満だが硬そうな二つの膨らみと、鍛え抜かれたような腹筋は健康的な色香すら漂わせるようだ。
キャミアは何が起きたのか分からないように円らな瞳をパチクリと瞬かせると、エルフのような耳をピクンと跳ねらせ、慌てて一気に半身を起こした。引き締まった腹筋は伊達じゃない。少女は上目遣いで睨みつつ頬を染める。
「お、お金取るわよ! ‥‥それよりアナタ! 大男が女の子を連れて行ったのね?」
魅力が皆無とは言わないが、流石に金を取られるのは堪ったものじゃない。一斉に頭上の視線をソッポを向いた後、依頼人の青年も視線を合わせずに答える。
「あ、ああ‥‥」
キャミアが眼光を研ぎ澄ます。
「女の子はいくつ? ううん、いくつに見えるの?」
「歳相応と思います。8才ですが‥‥立てますか?」
今度は妻が答えた後、少女に手を差し伸べた。半身を起こしたとはいえ、カモシカの如き引き締まった脚は大きく開いて腰巻を曝け出したままだ。同性として手助けしたくもなるものだろうし、身嗜みを咎めたくもなったが、キャミアの瞳はそんな雰囲気ではない。ギラギラした野獣のような鋭利さを放っている。しかも、彼女の左腕は‥‥。
「(魔の牙の次は‥‥アイアンハンド)あたし、この依頼を受けるわ! 目撃場所を教えて頂戴!」
「待って下さい! これはギルドの仕事です。依頼を出してから‥‥」
ギンッと射抜くような眼差しが受付係に突き刺さり、ビクンと肩を跳ね上げた。
「だったら早く進めなさいよ」
どうやら、大人しく聞いてもくれなそうだ。
受付係は記録係でもいれば1本記してしまいそうな状況に溜息を洩らしたという――――。
●リプレイ本文
●ふーん
シエラ・クラインって娘がぽけぽけっとしたお気楽そうな笑顔でキャメロットから今回は見送っていたの。今回はって次は何するのかしら? 水琴亭花音(ea8311)が彼女に振り返り静かに頷く。相変わらず寡黙な忍よね。そして、そのままセブンリーグブーツで先行して駆け抜けて行っちゃったわ。
「きっと探し出してみせます‥‥それにしても‥キャミアさんの服装‥とても変わっています。あれが異国の正装なのでしょうか」
杜狐冬(ec2497)が眼差しをあたしに向けると、口に手を運んで頭から爪先まで視線を何度も上下させた。
「う、煩いわねっ、あなたに関係ないでしょ! 好きでこんな恰好してる訳ないじゃないッ! 馬鹿じゃないの? 考えなさいよ! 栄養が胸ばかりにいってるんでしょ!」
不機嫌だったかもしれない。べ、別に3人しかいなかったとかじゃないわっ。あたしが捲くし立てると、杜って少女は瞳を潤ませ、熱い吐息を洩らし頬を紅潮させた‥‥え? 何この反応? なんかアブない娘?
「注目デスぅ〜」
エンデール・ハディハディ(eb0207)が声を響かせた。彼女の傍で上品そうなシフールの少年が挨拶するけど、言葉が分からないわ。エンデが通訳する。
「『依頼は初めてなんですよね。大会にばっかり出てたから‥‥イギリス語はわからないけど宜しくねっ♪』だそうデスー☆」
シフールの少年は周瑜公瑾(ec0279)。次いで褐色のシフールがあたしの目の前に飛来する。
「ねえねえ、エンデの踊り子の服デスぅ。セクシーデスか?」
露出の激しい衣服で軽く宙で一回り。確かにあの時と比較にならないけど。まさか、あたしに合わせているって‥事はないわね。
「仕事衣装なんでしょ? セ、セクシーじゃないの?」
何か不満そうな声を洩らしてたけど、そのまま背中を向けて旅の一歩を踏み出した。後から何事も無かったように頭の上に彼女が乗ったけど、悪い気は‥しない‥‥わね。
――出発して1日目が過ぎようとしていた頃、あたしは強敵に背中を向けていたの。
「じっとしてて下さいね〜、すぐに終わりますから。‥ほら、今の方がずっと凛々しく見えませんか?」
ジャンヌ・シェール(ec1858)があたしの髪を手入れしてくれた。余計な事しないでッて言おうと思ったんだけど、何か逆らい難いの。育ちのよさそうな風貌が微笑みを投げた。
「‥‥み、見えないから‥凛々しいなんて言われても分からないわ‥‥でも‥‥ありが、とう」
聞こえたか分からない小さな呟きを残して、あたしは彼女の許から駆け出したわ。すると――――。
「終わったデスかぁ?」「ひゃっ‥!?」
突然暗闇からエンデールが目の前に飛び出したから、転んじゃったじゃない。あたしがシフールを睨むと、エンデールは「大丈夫デスか〜?」って戸惑いの色を浮かべて羽をパタつかせていたの。
「(待っていた‥の?)き、急に飛び出して来ないでっ、斬ってたかもしれないじゃないっ」
彼女は『牙』との一件で知り合い、今回の旅でもあたしの頭を占拠しているシフールよ。あたしは視線を逸らして小声で呟く。
「‥‥のりたいなら‥好きにすれば?」
エンデは満面の笑みを浮かべると、手入れしてもらったばかりの頭に降りたわ。逆さの愛らしい顔が視界に割り込む。
「キャミアさんは今回のことも何か知ってるデスか?」
そういえば、山岡忠信(ea9436)も言ってたわ。
『もし犯人に心当たりがあるのなら、キャミア殿が話しても良いと思えた時で構わぬので教えて欲しいでござるよ』
水琴亭とエンデそして山岡は今回も同行してくれている。でも、牙の言葉が躊躇させた。左腕の付け根が痛い。
「‥‥あたしは冒険者よ‥依頼を受けちゃ駄目なの?」
「情報がないと太陽神さまも目が届かないデスぅ」
●これは見落としなのか?
「村の周囲に山小屋や洞窟などが無いでござるか?」
「大男はよく見掛けるのでしょうか? 食料品を買いに来る大男を見ませんでした? それから、農作物の盗難などが起きていないのでしょうか?」
「大男が女の子を連れて行ったらしいのですがご存知ありませんか? どこへ行ったのか心当たりがあれば教えてくださいませんか?」
森付近の村に到着すると、一斉に冒険者達は散らばった。忠信と狐冬は聞き込みに動き、公瑾も言葉が通じる者に訊ねつつ、ジャンヌとエンデがナターリアの両親から予め聞いた彼女の容姿を頼りに、空から森を調べてゆく。
褐色のシフールは金髪の少女から借りた金塊を媒体とし、サンワードで太陽神のお告げに試行錯誤を繰り返す。
「大男さんとナターリアちゃんの足跡が残ってるところはどこデスか?」
こうして互いの情報を整理する中、何時の間にか森の先行調査から帰還した花音の情報も得て、既に使われなくなった森の小屋に絞られた。忍者の娘が神妙な顔つきで呟く。
「誘拐後に向こうからの連絡が無いのなら、金品目的の線は消えそうじゃな。‥しかし、それなら何を基準に彼女を選んで連れ去ったのやら、さっぱりじゃのう」
――依頼が成された場所に冒険者がいたかは定かでない。
しかし、花音の着眼点は間違いではなかったと記録係は思う――――。
冒険者達が森へと入る中、キャミアの左側に佇むジャンヌが呼び止めた。満面の笑みに溜息を吐き、少女の言葉を待つ。
「森のような狭い所では大剣は戦い難いですよね? この剣よかったら使ってほしいです」
差し出されたのはダンサーズショートソードと呼ばれる短剣だ。
「いらないわ、あたしが好きで使っているんだから気にしないで‥‥うっ」
刹那、キャミアが困惑の色を浮かべる。ジャンヌは可愛らしく首を傾げると、迫力はないものの逆らい難い雰囲気を放ち、差し出した短剣を退こうとしない。
「し、仕方ないわね‥‥借りてあげる‥‥あ、軽い」
乱暴に受け取った少女の表情が変容する。ブンブンと振って確かめる姿は初めて剣を握った子供のようだ。満足そうにジャンヌが微笑む中、花音が滅多に言葉を紡がない口を開く。
「重りも兼ねた義手の作成くらいは考えたらどうぢゃ」
「重り? 冗談じゃないわ! 余計な重さをつけたくないから‥‥‥こんな恰好してるんじゃない」
褐色の頬を仄かに染めて視線を逸らす。どうやら露出趣味でも暑がりでもないらしい。そんな中、忠信が注意を促す。
「もし怪物等に遭遇した場合は、可能なら隠れて遣り過ごすでござるよ。無理ならば逃げるでござる。下手に戦って誘拐犯に見つかっては大変でござるからして」
「へえー、山岡って実は頭いいのね」
関心したような眼差しを向けるキャミア。侍の青年は首の後ろを掻いて苦笑した。複雑な心境らしい。
忠信の対策と冒険者達の知識により、モンスターと戦闘せずに小屋まで辿り着く事が出来た。
先ずはナターリアを確認する為に二人のシフールが潜入。ジャイアントを引き離すべく挑発を兼ねて抜群の回避テクニックで翻弄してゆく。回避術に自信のあるエンデから窺っても、公瑾のセンスは巧みだったろう。褐色の少女がダズリングアーマーで視界を奪う中、碧の髪を揺らして放つダーツが豪腕に突き刺さった。
「当たります! 小屋から出るのですか?」
小屋から巨漢が姿を見せると、狐冬が声を響かせる。
「人を攫うなんて酷い事をして良い道理なんて無いです。どうか悔い改めて自首をして下さい」
ジャンヌはキャミアと連携するように死角を制した。
「逃がしませんよ! 諦めなさい!」
「やっぱり‥あなたなのね‥見損なったわ」
「‥‥キャ、ミア? !! ナター、リア」
ジャイアントが慌てて小屋に戻ろうとする中、背後に回る忠信。
「力比べなら負けはせぬでござる!」
身長約240の筋骨逞しいジャイアントが迫る。闇雲な力比べなら忠信は不利だ。体術を駆使し、足止め狙いで得物を振るうと痛みに巨漢が吼える。刹那、幼い声が侍の動きと切っ先を向けて跳び込むジャンヌを止めた。
「あいあんにひどいことしないでっ!!」
疾走の術で花音に助け出されたナターリアだ。彼女から事情は聞いているであろう忍者の娘は相変わらず寡黙で、周囲が状況を把握するまで暫しの沈黙が流れたものである。
改めて記そう、花音の着眼点は間違いではなかったと。夫妻に不審な言動は無かっただろうか?
――朝、起きたらいなくなっていたんだ。
――もう3日は経ちます!
――村人が見たってんだ、大男と話をして連れて行かれる姿を。
――あなた‥‥連れて行かれるって‥‥。
「‥‥御両親が何も構ってくれないから‥家出したのですね」
「あいあんがいっしょにいてくれるっていってくれたの‥‥あいあんはわるいひとじゃないんだよ」
狐冬はナターリアを優しく抱き締め、髪を撫でた。いずれにせよ、依頼は成功といって良いだろう。強引な誘拐ではないものの、幼女を隔離していた事に変わりない。
ジャイアントにキャミアが視線を流す。
「‥相変わらず小さい娘が好きなのね‥‥キバと会ったわ。あなたも同じなの?」
「キ、バ‥きら、い。リ‥‥ー、かわ‥た‥キャ、ミアを」
「どこにいるの? なか‥奴等もバラバラに? そう‥‥‥‥ひゃんっ」
ジャイアントの動作から何かを把握した少女は、背中を向けて冒険者達の許へ歩いてゆく――最中に派手に転倒した。豪快に肢体を曝け出したキャミアを眺め、花音が溜息を吐く。
(「相も変わらず、よく転ける娘じゃのう‥‥。このまま、冒険者ギルドの新名物にならなければよいのじゃが」)
ナターリアの保存食もジャンヌは用意しており、狐冬の慈愛の篭った気配りで帰路は笑顔も浮かんだという。アイアンハンドと呼ばれるジャイアントの罪もナターリアの証言で軽減されるかもしれない。このメンバーなら両親を咎める事も忘れはしないだろう。キャミアの脳裏にアイアンハンドの声が過ぎる。
――あたら、しい‥なか、ま、か?
仲間と呼んでいいのか‥‥まだ、わからないわ――――。