one armed hunter――コボルトな少女
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■シリーズシナリオ
担当:切磋巧実
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月30日〜02月05日
リプレイ公開日:2008年02月14日
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●オープニング
●キャミアは先の一件を振り返る
――青年が目覚めたのは娘のたわわな谷間だった。
後ろ手に縛られた盗賊が慌てて半身を起こす。
「うわぁっ、ネコルニャみたいな気持ち悪いもので私の頬を‥なんて事をしてくれるゲスがっ!」
「き、気持ち悪い‥‥ゲス‥‥も、もっ‥‥」
ゲスと言われた娘は頬を染めて何気に嬉しそうだ。
「ネコルニャを知っているのですか?」
「ああ、知ってるとも‥‥まさかキミが女とは残念だったよ。‥‥? そこのキミはよく見ればキャミアじゃないか! 久し振りだなぁ、ボスに腕をき‥‥」
「う、煩いっ! 男の癖にこの状況でペラペラ喋らないでッ! あなたは捕まったのよ! 少年好きの倒錯した盗賊としてキャメロットで捌かれるの!」
青年は薄く微笑みを描く。
「ボスと同じ事をしたかったのさ。好きなものを手に入れる悦びを感じたかった‥‥私達を無用と追い出す程の悦びがあるならね」
「追い出す? 好きなものを手に入れる悦び?」
キャミアは気付いていない。関わった事件一つ一つは関連性が無いものの共通点はあった事を――――。
――何の事かしら? あの男に何があったというの?
防寒着の少女は今日もギルドの壁に背中を預けている。神妙な色を浮かべたまま、まるで壁際の置物の如く佇んでいた。
そんな中、一人の青年が姿を見せる。躊躇なく受付へ足を運ぶと、気付いた受付係が一瞬だけ明らかに厭そうな色を放ったが、取り敢えず引き攣る笑顔と共に口を開く。
「いらっしゃいませ★ どのようなご用件ですか? なんでしたら他の係を呼びますが‥‥」
「わざわざキミを見つけたから足を運んだのに、ツレない言葉だな。まあいい、それより変態を見つけたのだよ! そう、あれはフンドーシやエロスカリバーを買うべく稼ぐ為に、近隣の村を周っていた時の話だ‥‥」
冒険者に聞いた『変態』という総称を使ってパイセンは切り出した。
「‥‥冒険者に登録なされたのですか?」
「いや‥‥。兎に角だ、コボルトが村を襲っていたのだが、その中に妙なコボルトがいてな。実はコボルトの皮を被った小柄な少女だったのだよ」
――コボルトの皮を被った少女?
またしてもキャミアが反応を示す中、鋭い瞳に映った受付係が頬に汗を浮かべながら口を開く。
「村を襲っていた‥‥って、そのままにして来たのですか? お力が及ばないのなら仕方ありませんが‥‥。でも、まるごとおーがのコボルトタイプでしたらお客様ほど変態では‥‥」
「失礼だねキミは。僕のどこが変態なのだ? あの時の僕とは違うのだよ。厳しく躾けられたし、取り敢えずフンドーシとエロスカリバーを手に入れるまで封印だ」
「‥‥封印って‥‥はっ!? 思わず対応してしまいました。さっさと進めて下さいませんか?」
話を聞くと、どうやら本物のコボルトから中身を取り除いたようなものを少女が着ていた‥‥否、正確には細身を包んでいたらしい。1体葬り内臓と骨を排除すれば不可能ではないが‥‥。
「ああ、そりゃ生肉の残ったモンスターの皮を被っているのだから、匂いも凄いだろうな。それに少女は裸のままみたいだった。そりゃ変態だろう」
細身の子供ならコボルトを『着れる』かもしれないが、彼方此方から素肌が覗いていたらしい。コボルトの体臭で一寸変わった仲間と思われ、襲われなかったのかもしれない。所詮は猿の思考である。『わぁおぉーん☆ やっちゃえーっ♪』とか舌足らずな響きで少女は叫んでいたとの事だ。
「この依頼、私が‥‥っと、受けるわ! その変わった少女とコボルトを退治して欲しいって事でしょ? 知り合いかって? アナタには関係ないけど、帽子代わりにコボルトの頭を乗せて喜んでいた足りない娘なら知らなくはないわ。自分はコボルトとして生まれて来る筈だったとか、いつかコボルトの生肉に包まれてみたいとか言ってたから‥‥。どーせ、コボルトの仲間になったつもりでいるのよ。やっと見つけた‥‥あの娘なら知ってる事をペラペラと話してくれそうだわ!」
冒頭で転びそうになったものの、今日のキャミアはよく喋った。受付係が唖然とする中、パイセンが口を開く。
「確かに依頼は当たっているが、僕も同行させてもらう。何故だと? コボルトの棲家は僕が知っているんだよ。それに僕は稼がなくてはならない! 今日から僕は冒険者だ!」
コボルトの集団は近隣の村を襲っては使われなくなった山小屋を根城として戻っているらしい。
「今日から僕は冒険者って‥‥手続きが無事に通れば、ですが。取り敢えず、依頼として募集します」
キャミアが冷たい視線をパイセンに流す中、受付係は深い溜息を洩らした――――。
●リプレイ本文
●惜しいわ‥‥
「キャミアさんに皆さん、お久しぶりですわ☆」
「久し振りね♪」
サクラ・フリューゲル(eb8317)の朗らかな笑顔に微笑みを返す。見渡せば何時ものメンバー。私の‥‥あれ? ほんわかとした雰囲気の長い金髪の少女は初めてかしら?
「よろしゅうな☆ しかし、コボルト好きってどんなやろな。猫好きならわかるんやけど」
ユウヒ・シーナ(ea8024)が苦笑したの。サクラが通訳してくれたけど猫好きみたいね。‥‥ッ!
「キャミアちゃんキャミアちゃん、ちょっと違うけどエンデとお化けおそろいということで、まるごとすけるとん、あげるデスぅ☆ エンデはまるごとおばけデスぅ♪」
山岡忠信(ea9436)をキッと睨む中、視界に飛んで来たエンデール・ハディハディ(eb0207)がホルスへ促す。まるごとおばけって防寒着に包まれた少女が満面の笑みを浮かべた。
「なに? これを私に着れっていうの? い‥」
「あとコレ、本当に持ってくデスか? また福袋から出てきたデス。エチゴヤの親父め〜、なんでまたあたしにこんな重い物押し付けるデスぅ〜」
小さな拳を戦慄かせて唸るエンデ。あ、これって自称エンデ35人以上分のヒュージクレイモア! この際、おばけペアになっても構わないわ☆
「うっ‥うぅぅんッ」
重すぎる‥っていうか、明らかに私より大きい。互いに苦笑を浮かべて場を濁す。
「うん、気が向いたら戴くから、取っといてくれる?」
エンデが頭の上に乗る中、滞空しながら腕を組む周瑜公瑾(ec0279)の視線が何となく痛い。ジャンヌ・シェール(ec1858)は顎に手を当てて何か考え事してるみたい。杜狐冬(ec2497)は‥‥。
「コボルトの生皮を着るだなんて‥‥私はそんな物は着れません。着るのなら締め付けのきつく布地の少ない、いっそ縄で‥‥はっ! な、何も言ってません!」
この娘‥‥更にアブナイオーラが増した気がするわ――――。
――ユウヒの透き通るような歌声が旅路を彩る中、私達は村に辿り着いたの。
「もう襲われたり致しませんからご安心くださいませ☆」「お話し頂き有り難うございました」
村人のケアと情報収集をサクラと狐冬が担い、公瑾がペットの鷹と共に探索を努めてくれたお陰で住処は特定できたわ。作戦を前に忠信が注意を促す。
「いよいよ痕跡を辿って追跡でござるな。光る物を外し、音が出ないよう持ち物を縛って固定する等の処置を行うでござるよ」
頭は良さそうなんだけどねぇ。私が私でなくなってもちゃんと覚えているんだからっ。
●狐冬クンが保存食を置くと冒険者達はコボルトの住処を包囲した
作戦通り強攻突入はしない。茂みに潜んで様子を窺うのは、狐冬クン、ジャンヌくん、サクラくん、キャミアくんだ。
「ハグストーンも木に仕掛けましたし、同じ失敗はしないです。今度はちゃんと初めから持ち替えました☆」
バックパックから得物を取り出し持ち替えて満面の笑み。私もサクラくんに微笑んで貰いたいが、キャミアくんは複雑な微笑だ。それにしても、前衛を担う侍とユウヒくん、上空をヒラヒラと舞い様子を窺うエンデくんに、シフールの少年か。これだけ女性が多いのなら冒険者も悪くない。何気に若い女性の芳しい香りが漂い‥‥。
「騒ぐなら殴って寝ていて貰いますよ☆」
知らない間柄でもないのに厳しいよ狐冬クン。! 何かの気配を察知したのか、シフール達がピュンと高度をあげた。程なく扉が開き、コボルトが姿を見せる。
『コボッ? コボボォーッ♪』
獣の咆哮に歓喜の色を纏わせ、コボルトは仲間に振り返った。後からゾロゾロと現れるモンスター。保存食の罠に気付いていない。遅れて姿を覗かせたのは克明に語り難い『あの』娘だ。肩で息を弾ませ、以前より具合が悪そうに見える。生皮で寒さが凌げるとは考え難い故、体調を崩しているのか。
「‥‥食べ物だね♪ コボオォォッ☆」
コボルト達が回収に群がりハグストーンの結界範囲に入ると、冒険者は動き出した。
「参りますッ!」
凛とした色を放ち、弓を絞り矢を射ってゆくジャンヌくん。動揺したコボルトな少女が駆け出す中、行く手を阻むべくユウヒくんがスリープを奏でる。変態娘はあっさりと倒れ、寝息を洩らした。
「とりあえず眠っておいてや☆ あとで起こしてあげるさかい♪ さて、援護くらいならできるで♪」
標的を定めてムーンアローを放つ。同時に盾を構えたサクラくんと、まるごとスケルトンに身を包むキャミアくんがペアとなって肉迫する。
「キャミアさんが攻撃、私が防御。よろしいですか?」
「いいわ! いい連携が出来そうね♪」
切っ先を盾で受け弾ける衝撃音に次いで刀が唸る! しかし、数は互角、一点に集中されたら武が悪い。だが流石は冒険者。上空から周瑜クンがダーツの洗礼を放ち捲くり、撹乱と共にダメージを蓄積させる。
「行きますッ!」
包帯を開放しながら急降下で拳を叩き込むシフール少年。苦悶の色を浮かべるコボルトに、山岡クンが鮮血を散らしながら二刀流で大立ち回り‥‥って、コボルトの武器には毒があるとエンデくんに聞いた筈だが‥。侍が解毒剤を取り出した刹那、褐色のシフールが飛来する。
「待ってデスー! 倒したコボルトから無事な解毒剤を貰って使うデスぅ」
「おお、忝いでござる!」
解毒の間はエンデくんが刃の洗礼を鮮やかに躱してゆく。
「ひらりひらりデスぅ! おばけだぞ〜デスぅ!」
インビジブルでの撹乱にモンスターが戸惑う中、放たれる矢とダーツの遠距離攻撃に合わせ、刃の洗礼がモンスターに鮮血の華を咲かす。冒険者の素晴らしい連携でコボルトを退治したのだ。
ホーリーフィールドで防御を担った狐冬クンが、リカバーを施すべく山岡クンに駆け寄る。敵の攻撃を敢えて受け、動きを止めた所を狙う戦法だったらしい。
●目的と道標と
「はじめまして。サクラと申します。貴女のお名前は?」
コボルトだった少女の肢体をマントで包み、穏やかな色で訊ねた。娘は視線を逸らして呟く。
「こ、コボルト、こぼ‥」
「あらあら☆ 本当のお名前は?」
「この娘はステイシアよ。懐かしそうな顔で見ないで! あなたは訊きたい事に答えるだけでいいの」
割り込んだキャミアの高圧的な言動をサクラは咎めたが、ステイシアの反応は軽い。
「訊きたい事?」
「ねぇ、貴方のボスは何処にいるの? 何をしている人なの? 変態を囲うのか趣味みたいですが‥‥。あっ、わ、私は認められたいだなんて思ってませんっ」
狐冬が頬を染めながら気になっていた事を訊ねた。少女は小首を傾げながら口を開く。
「ん、ボトルストンにいるよ♪ んー、15日以上は掛かるんじゃない? 昔は一緒にトレジャーハンターやってたんだけど、おまえ達も本能のままに欲して生きろ、とかって急に追い出されたから今は何してるのかなぁ? あ、ほら、キャミアの腕を切った後だよ」
陽気な声で隻腕の少女に眼差しを向けた。普段なら声を荒げるキャミアだが、沈黙の後に不敵な笑みを浮かべるのみ。
「‥‥そう、居場所が分かれば良いわ」
もう用は無いとばかりに踵を返す中、公瑾が呼び止める。
「キャミアさん‥‥もし助けが必要なら、そう仰ってさえ頂ければ、いつでもお手伝いします。最低限の情報だけあれば友人を手助けするのに私には理由なんて要りませんから」
少年の瞳に映る少女は、いままで見せた事のない優しさに複雑な色を孕んだ眼差しで微笑んだ。
「有り難う☆ 嬉しいわよ‥‥でも、依頼できるような事じゃないの。これは私の個人的な復讐よ。隠していてゴメンね。知られたら、呆れられるかと思って‥‥友人になってくれて感謝しているわ」
「キャミア殿ッ!」
全ての警戒を解いたようなキャミアを、忠信が徐に抱き締めた。刹那、ビクンと弾けた少女の髪は舞い、赤い瞳が感情の昂ぶりと共に潤み、幼さを醸し出す。
「さわるなっていったでしょおっ! ばかぁっ! はなしてよぉ」
「大丈夫、お主は拙者が護る! お、お主に、惚れ‥」
「なにもしないのぉ?」
暴れていたキャミアが上目遣いで青年を見つめた。次いで陽気な声をステイシアが響かせる。
「キャミアの狂化久し振りだなぁ☆ 男に触られると頭が子供になっちゃうんだよねぇ♪ 連中はペット化とか弄んでたけど、おじさんもそのクチ?」
「‥‥なんだと!」
鋭い眼光を向ける侍に一瞬ビクッと臆したが、声を荒げて睨む。
「変な事するのは人間だけだよっ! 生きる事に純粋なモンスターの方が自然じゃない! 人間なんかより獣の方がいいっ! ボクの新しい家族だったのにぃっ! 返してよッ!」
涙を散らせた少女の過去は幸せとは程遠いものだったのかもしれない。育った環境に因るトラウマとは計り知れないものだ。コボルトに成りきる彼女に疑問を抱いていたサクラは、嗚咽を洩らすステイシアを無言で抱きしめた。
幸いコボルトと共にいたというだけで村を襲うよう仕向けた訳ではない。
キャメロットに移送されても極刑は免れるだろう――――。
「キャミアさんが好きなものって何ですか?」
ユウヒの歌声が紡がれる中、ジャンヌは忠信の太腕にベッタリと絡みついたキャミアに訊ねた。どうやら子供思考のキャミアには気に入られたらしい。
「すきなものぉ? えーとぉ、おっきなちからがほしいの☆ あまいものとかきれいなものもすきだよぉ♪」
「ボスが好きなものを手に入れる悦びを得た結果バラバラになった。キャミアさんはボスを追って情報を得る為に‥何ていうか‥‥個性的なメンバーが起こす事件を追っていた、って所でしょうか?」
ジャンヌは推理した事柄を確認するように問う。少女は顔色を曇らせ、ぎゅッと青年の腕に力を込めた。
「うん‥‥わたしのかえしてもらうのっ。だからおっきなちからがほしいのっ」
やがて落ち着けば凛とした少女に戻るだろう。
――復讐の旅路‥‥ボトムストン。
あまりにも遠い道標に冒険者は何を想うのか――――。