【谷の風様】血風
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月23日〜05月29日
リプレイ公開日:2006年05月31日
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●オープニング
●風が運ぶ異変
江戸から徒歩で2日ほどの谷間(たにあい)の麓にある小さな平野部。
優しく肌を包み込むような山風に育まれて、作物たちもそよそよと気持ちよさげに靡いている。
「今日も良い風が吹いておるな」
「へぇ、谷風様のおかげでさぁ。良い風を吹かせてくださいますからな」
村人たちも空気を胸いっぱいに吸い込んで、明るい顔で農作業に精を出している。
ところが‥‥
びゅぅううぉおうわ‥‥
突如として谷の方で渦巻きが巻き起こるのが見えた。
村へ吹く風も荒れ、暫時、木々の葉が右に左に揺れた。田畑の作物も当然のように、あっちに揺られ、こっちに揺られ‥‥
「近頃、谷の風様の様子がおかしいのぅ」
通りがかった村人が心配そうに谷の方を見て、ほぅと溜め息をついた。
「この村の実りは谷風様の恵みだからのぅ。収穫が心配じゃ‥‥」
「ほんに心配じゃ。神主様は何と言うておる?」
「鎮めの儀式をしてみようと、おしゃっておられましたな」
改めて、村人たちは谷を見つめた。
●血風
「また、風切りで怪我人が出た!」
庄屋の家に飛び込んできた男がわめいている。
「いよいよ、谷風様に鎮まっていただくための祭事が必要なようですな‥‥」
横長の白の楕円に黒抜きの丸の模様が刻まれた頭冠を巻いた神主は、神妙な面持ちで庄屋に話しかけた。
「冒険者ギルドというところには深い知識を持った者たちが多く集まると聞きますぞ。何か良い智慧が得られるかもしれませぬ。
武勇に優れた者も集う聞きますし、儀式の準備を整えてもらう間に我々を護ってもらえるかもしれませぬな」
「わかりました、庄屋殿。古今東西の知識を結集すれば、良い方策が見つかるかもしれんからな」
神主は庄屋と村人に一礼すると、その場をあとにした。
●リプレイ本文
●風の村へ
「谷の風様か‥‥ 精霊信仰の一種かな?」
「ジャパンの風は‥‥嫌いじゃないんだがな‥‥」
「谷風で怪我人が出ているようだから、トッドローリィか何かの仕業かとも思うんだけどね」
ランティス・ニュートン(eb3272)やアザート・イヲ・マズナ(eb2628)は、しっとりと肌を撫でる風を吸い込んでみる。
「強くもなく弱くもなく‥‥良い風が吹く地には良い作物が育つと言いますしね」
「狭いが過ごしやすそうな場所だ」
目を閉じて風を感じてみる志乃守乱雪(ea5557)を見て、アザートは風を詠んで首を巡らせた。
「谷の風様を祭ってる村かぁ。祭る対象に怪我を負わせられるって変なの。とにかく調べないと分からないかぁ」
「確かに結論は早計です。幾つかの班に分かれませんか? 拙者は谷風が荒れるようになった原因を探そうかと思いますが」
「そうね。それが良いと思う」
システィーナ・ヴィント(ea7435)と音無藤丸(ea7755)の遣り取りに、仲間たちは頷いた。
実際、ここに来るまでにいくらか予想は立ててある。
精霊信仰の神の怒り‥‥
人や魔物の仕業‥‥
兎も角も、村へと歩を進めた。
村へ着いた冒険者たちは、村長の家に招かれ、そこに寝泊りすることになった。
「では、人が起こしているということは考えにくいのですね?」
「そうですな。余所者がいれば、気づかぬわけがありませんからな」
早速と村長は志乃守たちを前に、経緯と村の近況を説明した。
村の者たちが知る限り、こんな奇妙な風が吹くのは記憶にないとのこと、暫くは護衛をしつつ気をつけて様子を見るしかない。
とりあえず、それが冒険者たちの総意である。
風切りにあった村人も呼ばれ、傷の様子を見せてもらったが、鋭利なもので切られたと思えること以外、詳しいことまではわからず仕舞いであった。
暫し、沈黙が流れる。
「その印、目のように見えるんだが、それも谷の風様と何か関係があるんですか?」
ランティスは、繁々と頭冠を見つめた。
「この地で暴れていた一つ目の神が鎮められ、この地を守るようになったときからの物だと聞いています」
「それが風の神様かの? 興味があるのじゃ」
レダ・シリウス(ea5930)が躍ってみせると、自然と目を惹く。
「風の神様でしたら、建御雷之男神様の親戚ですかねぇ〜」
「そのような話は伝わっておりませんね。風の国津神と言う者もいましたが、我らに由来などは関係ないのです」
大宗院鳴(ea1569)の疑問を一蹴する神主に、村人たちも同意するように頷いた。
●風の谷へ
谷に入ることは禁じられたものの、入り口まで行くのは問題ないと神主に言われ、村人の案内で志乃守とランティスは赴くことにした。
2つの巨大な岩に注連縄が掛けられており、それが閉ざされた門のように、谷が禁断の地だということを思わせた。
「立派なものですね」
「そうでしょう? 谷の風様の御蔭で暮らしてゆけるのですよ。ありがたいことです」
信仰が生きている場所だと志乃守は感心して言うと、案内の村人は自慢げに笑った。
「風様とは、風の音が信仰の対象になったのかもしれないと思ったんだが違うか? ただ、その場合は、村人の怪我の理由が付かないが」
「谷風様は穏やかな風を運んでくれます。そりゃ、嵐になれば強くはなりますが、村が潰れるほどの風なんか吹いたりしませんよ」
この饒舌さ。これが過ぎれば狂信となるのだろうなとランティスは僅かに眉を顰めた。
「谷で山崩れが起きたりは?」
「穏やかなものですよ」
いつの間にか谷の地形が変わったから起きた自然災害なのかとも思ったが、違うようだ。
「風切りなんて、なんで出るのか‥‥ 神主様の儀式で静まってくれるといいのだがね」
「暫くは君たちの護衛は任せてくれ」
ランティスは爽やかに笑った。
村人が力説する様子に異のところはない。
「ん? 誰かいるのですか?」
「何かいましたか? ま、鹿か何かでしょうが」
「いえ、何でもなかったようです」
見えぬ何者かへカマをかけた志乃守だったが、谷からの反応はなく、動物の足跡があるだけで、人の足跡や変な足跡もなかった‥‥
●神殿
谷と村を挟んだところに位置する小さな社殿。
大木は風の恵の象徴として注連縄が掛けられており、境内は綺麗に掃除がなされていた。
さて‥‥
谷を背にするような本殿を前に、風鎮の儀式のための祭壇が作られつつある。
「他に手伝えることはないか? できることがあれば言ってくれ」
手持ち無沙汰にて儀式の手伝いを申し出たアザートは、神殿の祭壇の用意を手伝うことになった。
「ありゃあ、きっと神様のお使いだ。きっと風様も収まってくださる」
自分を見つめる村人たちに、純朴だなとアザートは微笑んだ。
巫女姿の大宗院が隣にいるから余計にそう見えるのだろう。
「話はそれくらいに。少しも進んでおらぬではありませんか」
神主の声に、村人たちは再び手を動かし始めた。
「かえって邪魔をしたみたいだな」
「いえ、あなたたちが訪れたことで良い風が吹くと占いに出た。嬉しいのだよ」
それは兎も角‥‥
「これではいつまで経っても儀式ができませぬ」
大宗院たちに優しく微笑む神主に、皆、笑いながら作業を再開するのだった。
暫時‥‥
「建御雷之男神様は関係ないのかもしれませんね」
志那都比古との関係も調べてみたが、よくわからないと大宗院は首を捻った。
一つ目の神様というのが、そもそも珍しい。
「こちらの壇をお願いする」
「わかりました〜」
色々思うところがあったものの、儀式の用意だけは手を抜かない。
その時!
「出たぁ! 風切りだ!」
びゅお!
一陣の風が境内を駆け抜けた。
風鎮の儀式の神楽を教えてもらい、練習していたレダが、リヴィールエネミーを使うと程なくして、青白い光を纏った何かがもう一度通り過ぎた。それは敵意を持っている‥‥
「やはり、風の国津神と言うことでしょうか?」
「敵意を持っているのじゃ」
駆け寄って傷を押さえる村人の傷を診る大宗院に、レダは言った。
「システィーナさんのところへ連れて行って、治してもらいましょう」
ウィンドスラッシュによる傷か、それ以外の傷なのかまではわからないが、切れ味は鋭い。
その傷を見ても鎌鼬であろうことを裏付けていた。
「確かに、これでは放置するわけにもいかないということか」
アザートは、溜め息をつく神主を見て、呟いた。
仮に、あのように一瞬通り過ぎるものを討つとなれば、何かしら作戦を考えなければ‥‥
そう思い、アザートも静かに溜め息をついた。
●血風
幸い谷は村に面しており、神殿は谷の入り口のすぐ近くにある。そのために、仲間たちが何日も村を開けることはないが、残った瀬戸喪(ea0443)たち3人で村人たちの護衛に残ることにした。
「怪我は大丈夫ですか?」
「ありがとう。もういいんですよ。この通り。異国の尼様のお陰ですよ」
若い村男は鍬を使ってみせ、瀬戸が笑顔を向けると顔を赤らめている。
「良かったです。僕らが護りますから、安心して仕事をしてください」
「あなたみたない女(ひと)に護ってもらえるなんて」
女に間違われている‥‥と思いながらも、嗜好と実益を兼ねて放っておくことにした。
「いいのですよ。風切りのこととか、いろいろ聞かせてほしいですね」
村の男たち数名と仲良くなり、娘たちに嫉妬されながら、瀬戸は村の世間話を沢山聞くことができたのだった。
そんなことをしている間‥‥
田んぼのど真ん中‥‥ 風切り出現現場の1つに訪れたシスティーナと音無は困惑気味だ。
他の目撃場所はというと、小川沿いだったり、家の中だったり関連性はないように思える。
法則性があれば、その原因を排除することで事件は解決するだろうし、その場所に近付かないように指示しようと思ったのだが‥‥
「敢えて言えば風通しが良い場所ですか」
音無の予想が合っているかはわからない‥‥
「か‥‥だぁ‥‥」
「何か聞えました?」
システィーナは耳を澄ませたが、もう何も聞えない‥‥
「風切りだ。後から来てください。多分、怪我人がいます」
自慢の耳で遠くの叫び声を聞いた音無は、疾走の術を使って、巨体に似合わない凄い速度で畦道を駆け抜けていく。
小川を飛び越え、声がしたと思った方、神殿へ矢のように走る!
ひゅん‥‥
疾風が音無の横を通り過ぎ、振り向くと、旋風に巻かれるように消えていく。追いつくのは無理だろう。
「狐?」
一瞬だったが、長い爪を持った狐のように音無には見えた‥‥
●帰還
「色々歩き回ったのでお腹がすきました」
大宗院やレダたちによる神主や作業に来ていた村人への聞き込みや瀬戸の情報収集で、風切りの発生に天候の兆候がないことがハッキリしてきたのは収穫か。
音無の目撃情報とランティスの知識により風切りの正体が鎌鼬であることも間違いなさそうだ。
「風切りの正体は鎌鼬‥‥で」
「谷風が荒れるようになった原因は谷にあるということなのですかね」
ランティスと志乃守の調べで、風切りとは別に、谷で風の渦が発生したこともわかっている。
「村人に問題があるとも思えませんし」
「神主様もじゃ」
瀬戸やレダたちは村人たちに不信なところを見出せなかった。
風鎮の儀式の準備は程なく終わるだろう。
儀式さえ始まれば‥‥ そう信じている。村人たちの期待が、失望に変わらなければ良いが‥‥
何もないところでこけっ、苦笑いを誘う大宗院を他所にアザートは不安に駆られるのだった。