●リプレイ本文
●拒絶
村人たちに詳しく話を聞くと、風切りが現れたのと妙な谷風が吹くようになったのは、あまり関係ないようだ。
いつも両方の事件が同時に起きているわけではないらしい。
風切りが谷から現れるという確証もない‥‥
「誰も入らない場所というのは、何かを隠すにはもってこいですからね。何かとんでもないモノが居るとか‥‥」
「谷に入るなんてとんでもねぇ」
瀬戸喪(ea0443)の言葉に一斉に反論が巻き起こる。
「しかし‥‥」
多くの、いや殆んどの村人に反対されては、いかな自分は巫女だからと説得しても大宗院鳴(ea1569)らが結界の中に押し通るのは難しかった。
「鎌鼬にしてもです。国津神ですよね。国津神は土地神様ですので、風の谷に何か異変が『起こって』、『怒って』いるのかもしれません。一緒に祀って差し上げても‥‥ あっ、さっきのは駄洒落じゃないですよ」
はぅと溜め息つく大宗院に一部の村人の目が、はぁと。
「谷に精霊力のバランスを崩す何かがあるのかもしれないね‥‥ 原因究明も急務だけど、まずは村人への直接の被害から解決しないか?」
「そうね。兎も角、風切りは何とかしないと。村としては風切りを倒してほしいんだよね?」
こういう念押しは重要だ。
ランティス・ニュートン(eb3272)やシスティーナ・ヴィント(ea7435)が再度確認に諾と返答された。
「倒すまでは、風通しが良いところは気をつけるように」
音無藤丸(ea7755)の言葉に素直な返事が返ってきた。
●谷風様
「サンワードでは何も得られなかったのじゃ。鎌鼬がわからないところで、何か大切なものを壊してしまったのでなければ良いのう」
「谷の中での出来事ならば、我々には手の出しようがないからな‥‥」
「この儀式の成果を待たなくてはなりませんが、色々と詳しく話してもらえませんか? 力になれるかもしれません」
「そうなのです。せめて谷風様とお話できれば何を怒っているのか、聞けますのに」
「そうだな‥‥」
風鎮の奉納舞を執り行った後、神主は村人のいないところで溜め息をついた。
レダ・シリウス(ea5930)や志乃守乱雪(ea5557)や大宗院などは、神主の助けになればと声をかけたのだが、話は意外な方向へ転がっていった‥‥
「古に、我らの祖先は人と人の戦いを避けるために、人のあまり踏み入らぬ、この地に住み着いたと伝えられておる。
森を切り開き、丘を削り、川を堰き止め、懸命に人の住める土地にしたのだそうだよ。
その間に飢えや寒さで多くの者が死んだそうだ‥‥
しかし、この地には神が住まっておったそうな。
風に乗り、嵐を呼び、雷を身に纏う、一つ目の巨神が二柱‥‥
谷を破壊されたことに風の神は怒り狂い、村人を喰らったと伝えられておる。
そこへ、我らの助けとなる稀人が現れたのだ。
その御方は剣を佩き、凛々しい顔つきの巫女様でな。青い髪の守護剣士様を連れておられたそうだ。
巫女様は、どうか鎮まるようにと申し入れたが、売り言葉に買い言葉、いつの間にか剣を交えていたそうな。
討ち合うが決着がつかず、激戦は十日にも及んだという。
そしてついに、巫女様と守護剣士様は二柱の巨神を打ち負かした。
しかしながら、二柱の巨神が討たれることはなかった。
仮にも、この地を守護してきた神々を討ってしまうことは、村人たちのためにならないとな。
降参した二柱の巨神は、谷へ良い風を吹かせること、結界を越えないこと、この2点を巫女様に制約させられたと聞く。
村人は村の外れに神殿を作り、注連縄を結界として門のような岩に張った。
それ以来、村は谷風に守られ、今日に至る‥‥」
これが神殿に伝わる伝説で、恨みや興味から結界を超える者がいないよう、禁忌とされて以来、文献も残されていないため、完全に全文を憶えているのは神主だけらしい。
「もしかすると神主様は、その巫女様の末裔か何かなのかの?」
「まさか‥‥」
レダの疑問に神主は首を振った。
「あの‥‥ 結界を越えてはならないのは、こちら側の者もなのですか?」
「そうだ。しかし、結界の中で異変が起きているのだとすれば、禁忌を破らなければならないのかもしれんな」
では‥‥という志乃守を神主は制した。
「何とかして入らせてもらえぬかのう?」
「禁忌は守られてこそ意味があるのだ。一度破ってしまえば、それは禁忌ではなくなる」
「しかし、禁を破って谷を探りたいと考えている村人は多い」
「それが問題だな。二柱の巨神の怒りを買っても、冒険者が倒せるかもしれん。
だが、谷風様とは長いこと巧くやってきたんだ‥‥」
「早めに打ち明けてくだされば良かったのに。私も、あんなことをせずに済みました」
志乃守の表情が曇るのを見て、神主は『まさか‥‥』と詰め寄る。
「申し訳ありません。結界を越えてしまいました」
神主は顔面蒼白で、途切れ途切れに聞き返した。
「どうなったのだ? 村人は、そのことを知っているのか?」
「入ったことは知らせていません」
多少は落ち着いたらしい神主にレダは御茶を勧め、志乃守は、そのときの様子を語り始めた。
刻は遡り、風鎮の儀式の最中のこと‥‥
志乃守は参道を迂回し、谷に入ってみた。
結界の内側は、平地の部分は少なく、巨石が多い。
一番深い部分は沢になっているようで、谷の結界となる巨岩の柱の直前で岩の下に落ち込み、村へ流れ込んでいるようだ。
木々のざわめきは優しく風を運んでくれる。風が心地よい。
険しい自然だが、志乃守の前を動物が横切り、深く、豊かな自然が残っていることを示していた。
そのとき‥‥
志乃守は、逆光の中、宙に浮かぶ人影を見た。
これが一つ目の神? その姿は何mあるだろうか‥‥
「古の盟約を守り、去れ。結界からこちらは我らが領域」
耳元で語るように声が聞える‥‥
巨神は見下ろして、静かに棍棒の如く巨大な石剣を突きつけた。
その頭に光る頭冠の意匠は、神主のものに似ている。
精悍な顔つきに長い髪、腕は太く、しなやかな筋肉が精悍な雰囲気を増し、獣の皮を着物のように合わせ、荒々しさの中に飄々とした風の雰囲気を漂わせていた。
「申し訳ありません」
愛犬は尻尾を丸めて志乃守に寄り添っており、素直に退くしかなかった‥‥
その話を聞き、神主は深く溜め息をついた‥‥
●風切りを斬る
戦いには準備が必要‥‥
冒険者たちは家を一軒借り、そこを罠とすることにした。
敵は疾風と評しても良い魔物。
「素早いモンスターをやっつけるにはやっぱ罠だよね。逃げられないように丈夫めな網とか仕掛けないと」
「これで止まりさえすれば、何とかなるでしょう」
「囮なら任せておけ」
慣れた手つきで網を用意する音無に、バーク・ダンロック(ea7871)は鎧の具合と戦場の広さを身体に覚えさせていく。
「現れたのじゃ」
サンワードで鎌鼬の接近を知ったレダが部屋の中に飛び込んでくる。
システィーナはダークを地面に突き立て、祈りを捧げた。
相手がトッドローリィのようなエレメントであるならば、15分は気を削ぐことができる。
「来たぞ」
瞬く間に眼前に迫る鎌鼬を視界に捉え、バーグが叫ぶ!
「間に合った‥‥」
間一髪、システィーナは剣とリュートベイルを構えた。
「よし! 出口を塞ぐぞ」
ランティスたちが戸板で出口が塞いでいく。
ところが、何が起こるのかわからないのが戦いだ。
オーラボディで防御力を高めてあるとは言え、鎧の隙間まではカバーできるものではない。
威嚇の声を上げる鎌鼬の長い爪が鎧の隙間から滑り込み、バークは肉を裂いて爪がめり込むのを感じた。
軽いスマッシュなど掠り傷にしてしまうような自慢の防御力を無効化して‥‥
「ば、馬鹿な‥‥ 俺の自慢の装甲を‥‥」
タラッと鎧の隙間から血が流れる。
咄嗟にデッドorライブで傷の位置をずらしていなければ、かなりの深手だったに違いない。
「バーグさん!」
「大丈夫、これしきでやられる俺じゃない。思い切りやれ! 少々の攻撃なら防いでみせる!!」
驚愕の瀬戸の叫びにバーグは笑みを浮かべている。
そうは言うものの、2度3度と切り裂かれ、膝をつきそうになった。
「今だ!」
バザッ‥‥
ここで逃げられては、次はないかもしれないと、音無はバーク諸共に網を被せた。
鎌鼬は爪を振るうが目の細かい2重の網は、そう簡単に抜け出せない。
縺れ合う網は柱にぶつかり、パラパラと土埃が部屋に舞う。
「耐えてくださいね」
瀬戸の霞刀の薙ぎは、網に威力を削がれ、鎌鼬とバーグが揉み合っているために、思うような威力を発揮できていない。
幸いにも、バーグは鎧とオーラの力でダメージを受けていない。
このままなら、バーグごと斬り刻めば鎌鼬は倒せるはず。
猛烈な抵抗を受け、網を破られてしまったが、戸板は閉じた。後は逃がさずに倒すだけ。
殺気から逃れるためか、鎌鼬は部屋の上部へ逃れようとする。
「生憎ですね」
梁の上の音無が正確な突きを繰り出すと、ギャンと悲鳴を上げて鎌鼬は床に落ち、レダたちを守るシスティーナと対した。
「やっぱり怖いのじゃ」
シュッと風を切り、繰り出された爪をシスティーナが盾で受け流す間に、レダのサンレーザーが鎌鼬を焼くが、戸板から漏れる陽光を偏向するだけでは十分な威力にならない。
「離れなさい」
大宗院の霞刀と月露の同時攻撃のフェイントとライトニングアーマーの効果に驚いた鎌鼬は距離を取ろうと飛び退いた。
「逃がさん。網ごと全力で逃げなかったのが、お前の敗因だ!」
両手に構えた日本刀を鋏のように同時に薙ぎ、鎌鼬の腕を斬り飛ばし、胴を大きく断ち切る!
ランティスは激しく短く息を吐くと、クルクルと刀を捌いて鞘に収めた。
「強敵だったな‥‥」
「無事で何よりです」
バークの意外な負傷に冷や冷やしながらも、何とか勝利。風切りを討ち取った。
志乃守やシスティーナのリカバーで傷を癒し、家を片付けると一行は村を後にした。