【深緑】 おでかけ女神12(3−1)

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:06月12日〜06月19日

リプレイ公開日:2006年06月22日

●オープニング

 さわさわさわ‥‥
 湿気を含んだ空気が、葉に緑を増す。
 若葉は硬くなり、花は実をつけ、枝を伸ばし、葉を茂らせる。
 この時期の楽しみの一つといえば『梅の実』だろう。
 生の実であれば腹を壊しかねない実も、加工することで美味しく食べることができる、立派な自然の恵みである。
「フィー、お願いがあるんだがいいかい?」
「あ、若兄さま」
 山菜採りが一段落して、遊んでいた黄金の髪を持つエルフの少女は、落ち着いた雰囲気のエルフの青年に呼び止められた。
 ここは下野国那須藩某所、人里離れた山の中だと言う‥‥
 そこには山神と敬われ、噂されているエルフたちの隠れ里があるとか‥‥
「実はね、そろそろ梅狩りをするのだけど、それを喜連川の領主館に届けて欲しいんだ」
 梅の収穫祭をするらしく、そのために集められるのだと言う。
 ちなみに那須藩の薬草園計画の一環らしいが、それは置いといて‥‥
「皆が手伝ってくれるの?」
「皆で行ったら大騒ぎになってしまうだろうから、それはできないんだ。でも、冒険者に手伝ってもらって構わないよ」
「ホント?」
 若長が諭すと、首を傾げていたフィーは、パァッと明るい笑顔で飛びついてきた。
「いいよ。行っておいで」
「やったぁ♪」
 大喜びのフィーに、里のエルフたちも思わず微笑むのだった。

 ※  ※  ※

 さて‥
 那須喜連川にある江戸冒険者ギルド那須支局に1人の男が顔を出した。
 チラリと覗くフードの中の耳はエルフのものだ‥‥
「おや‥‥ また、おでかけの依頼ですか?」
「ははっ、気の早いことだが‥‥ まぁ、その通りだ。お願いする」
 事情知ったる番台の職員は、依頼の受付表を書き始めた。

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea2480 グラス・ライン(13歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)
 ea9507 クゥエヘリ・ライ(35歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb5092 イノンノ(39歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

アリエス・アリア(ea0210)/ 闇目 幻十郎(ea0548)/ ミリート・アーティア(ea6226)/ 雪切 刀也(ea6228

●リプレイ本文

●再会
 那須某所‥‥
「ジン、みんな〜、久しぶり」
 鷹見仁(ea0204)たちの姿を見て駆けてくる黄金の髪の少女。見紛うこともない、フィーだ。
「耳が赤いですよ」
「放っとけ」
 松浦誉(ea5908)が笑っている。
「フィーちゃん、おひさ〜♪」
「フィーさん、また一緒に遊べるんやな♪」
 鈴苺華(ea8896)が飛びつき、グラス・ライン(ea2480)が手を取って躍るようにくるくる、くるくる。
「お久しぶりですね、フィーさん! お元気そうで何よりです。セリユも元気ですよ♪」
 満面の笑みを浮かべて、しっかりと抱きしめる松浦に、鷹見は肩をポムと苦笑い。
「セリユ、久しぶりだね」
 名付け親のフィーを覚えているのか、くぅ‥‥と一鳴き。
「しふしふ〜の方たち、飛べるって羨ましいですわ。とっても涼しそうですもの」
 京が暑くなると聞いて江戸に逃げてきたのだが、やはり故郷とは違うとイノンノ(eb5092)は溜め息1つ。
 そのとき、ミュウ・クィール(eb3050)が、何もないところで蹴躓いた。
 ふわふわのほっぺを桃色に染め、絹糸のようなブロンドをサラリと風に靡かせ、ペロッと舌を出す。
「はじめまして★ あたし、パラのミュウ・クィールなの★
 この子が、おともだちの『ぽち』★ でね、お荷物を持ってくれてるのが『くろ』なの★ 仲良くしてね♪」
 鼻の泥を舐めてくれる柴犬を抱き、戦闘馬を指差す。
「初めまして。チュプオンカミクルのイノンノと申します。あなたが深緑のお姫様ですね。お話はお聞きしていますよ」
「フィーと言います。宜しくね♪」
 ミュウを助け起こしているイノンノは、手を貸してくれたフィーに礼を言った。
 『初対面の人には挨拶』と教えたことを守っているのを見て、松浦は感激のあまり前が見えない。
 自分と同じ保護者の雰囲気を感じ、クゥエヘリ・ライ(ea9507)は微笑んだ。
 とまぁ、保護者の世界に浸っている2人は置いといて‥‥ え? 俺を忘れんなって? わかってるってジンちゃん。
 さてさて‥‥
「久しぶりなのじゃ。フィーに会えて嬉しいのじゃ」
 緋月柚那(ea6601)は、騒ぎが一段落したところで、ぎゅ〜っ☆とフィーに抱きついてきた。
「小姫ちゃん‥‥」
「ん? どうしたのじゃ?」
「ううん、何でもない♪ 会えて嬉しい」
 暫く会わないうちに雰囲気が変わったのが成長によるものなのだと、フィーには漠然としかわからない。
「こんな依頼も、たまには良いものですね」
「だな。梅狩りか‥‥ まぁ、せっかくだし楽しんでやるとするか」
 そんな様子を見て、山本建一(ea3891)と鋼蒼牙(ea3167)は笑った‥‥

●梅もぎ
 そんなこんなで、フィーたち御一行は隠れ里で採った梅を担いで喜連川へ。
 途中の町や村で献上梅と那須の領民たちを加えながら、与一公の名代として待つ結城朝光殿の許を目指した。
 喜連川でも梅は収穫の真っ最中らしく、梅の収穫祭を目当てに近隣からも地元の梅の実を満載した荷車が到着しては、収穫を手伝っている。
「喜連川‥‥か。しばらくぶりだな‥‥」
 鋼たちが冒険者ギルド那須支局内の集荷場に荷を降ろし、荷の受領帳簿にフィーが名前を書き込んでいく。
「お、ちゃんと勉強してたな」
「少しは上手になったでしょ?」
「まあな」
 笑顔で見つめる2人。
 さて‥‥
 祭りに集まった殆んどは領民たちだが、いかにも修験者という者も混じっており、鷹見は知り合いの小坊主を見つけていた。
「志姫、翡翠、脅かしたら駄目なんよ。わかった?」
 那須の民たちからすれば、冒険者たちの連れているヒポグリフ、複数の獣が混ざったような生き物などの方が相当に珍しかろうが‥‥
「鬼もおるんや」
 フィーと一緒に百鬼夜行絵図を眺めていた緋月が、修験者姿の山鬼に驚きの声をあげた。
「釈迦ヶ岳の修験者様ですよ。与一様が梅干やら色々と贈られるそうで、祭りに来てもらったんだとか」
「平和だな‥‥」
 領民の言葉に耳を傾けながら、山本はホッと御茶を一服。
 江戸でも、こんな祭りをすれば良いのに‥‥と思わなくもない。
「私たちの村はコロボックルばかりだったので、子供が多いとなんだか少し安心します」
 喜連川の子供たちも梅もぎのお手伝いに来ており、故郷の蝦夷を思い出したのかイノンノは静かな溜め息をついた。
 子供たちに蓑のように抱きつかれた山鬼は怖い顔を綻ばせている。
「子供たちに会いたいですね。実は先日、長崎行きの仕事を受け損たのです。故郷の地を踏めるかと思いましたのに‥‥ 帰郷はまだ遠いようです‥‥」
「残念だったね。フィーも見て見たいなぁ。瀬戸の海」
 どうやら今回の松浦は涙腺が緩いらしい。涙を拭ってくれるフィーに泣き笑いだ。
「あのな、フィー。海の音がするんよ、この貝」
「ホントだぁ」
 波打ち際の貝殻を耳に当ててみせ、フィーに貸すと、微かに聞える波の音に松浦も耳を寄せる。
「さぁ、梅祭りの前に一働き、頼む」
 結城朝光殿の号令に、一同は応と掛け声を返した。
 
「おぉ‥‥ これが梅園か」
 目の前に広がる梅の林に鋼が驚きの声をあげる。
「なぁ、フィーさん。どういう梅を取ればいいんだ?」
「フィー、教えて♪」
「手でもげばいいんだよ」
 鷹見に肩車をしてもらい、慣れた手つきでフィーが梅の実をもいでいくと、鋼やグラスがふ〜んと頷いている。
「パリではね、栗拾いとか、ぶどう踏みとかしたことあるの★ 梅狩りも楽しいね★」
 ミュウも嬉しそうに手の届くところをもいでいる。
「それじゃあ、僕がこの小柄で梅を切り落とすから、フィーちゃんたちは下で籠を持って受け止めてね♪」
「フィー、競争なのじゃ」
「負けないもん」
 鈴が小柄でヘタを切って身を落としていくのを緋月たちが籠で受けていく。
「日が暮れてしまいますよ」
 松浦が棒で落とすのも、我らがお姫様たちが駆け回って拾っていく。
「こりゃ、俺の出番はないかな」
 風呂敷を広げた鋼は笑った。

 気がつくとグラスの姿が見えない。
「あれ、グラスさん、また迷子? 急いで探さないと」
 口笛で愛鷹・蒼穹を呼び探させ、クゥエヘリが籠を置いて駆け出す。
「はは‥‥、全く」
「本当、ふふ」
 山本やイノンノらも探しに入るが、どこか楽しそうだ。
「グラス〜」
「グラスちゃ〜ん」
 暫く探すと‥‥
「どうや? 勝ったやろ?」
 あちこちに葉っぱやら小枝やら付け、不敵に笑うグラス。
 そういえば忘れてた‥‥
 これはもう、梅の実集めは引き分けにするしかないようだ。
 探したんだからという笑い声に、
「そうなんや、ごめんな」
「本当に御免なさい」
 とグラスと一緒に謝るクゥエヘリが更に笑いを誘った。

「ん、良ければ持とうか?」
「大丈夫、持てるよ」
「これ重いんだよな。俺のと交換しよう」
 少し軽めの籠に交換して鋼がフィーに笑顔を向ける。
「ありがとう♪」
「いいって」
 収穫された梅がどっさりと集められた。これからが祭りの本番だ。
「殆んどは梅干にするんだよ。梅干は日持ちするし、梅酢だって採れるしね」
 エルフの隠れ里でも毎年作るらしい。
 塩を手に入れるのが大変らしく、殆んどは材料調達の容易さから蜂蜜漬けになってしまうらしいが‥‥
「梅干は、その日の難のがれ、とか、梅干しを食すと難が去る、なんて言うんだよ」
「物知りじゃな、フィーは」
 そうかな? と頬を染めるフィーに緋月は笑顔を返す。
 梅干は当分先だが、酒や蜂蜜に漬け込まれた分は、物によっては早ければ来月にも食べられるようになる。
 祭りでは窯の火入れしかしなかったが、七瀬計画の一環で煙で燻して乾かして烏梅を作ったりもするらしい。
 イノンノの自然の神への奉納の舞や緋月の神楽などで一盛り上がり、ミュウなどは豊作の踊りをすぐに覚えて、壷入れの儀式では皆で踊ったり、これがまた楽しい。
「疲れてませんか? 少し休みましょう」
 クゥエヘリは、フィーやグラスたちに水筒を渡していく。
「そういえば、あの馬鹿‥‥ いや、あの一角馬はどうしているかな?」
「アリオンさんに『白き乗り手』と呼ばれたのを思い出しますね」
「フィーさんの友達の一角馬さん、うちも会ってみたいわぁ、志姫、翡翠とお友達になってくれるやろか」
「アリオンは元気にしてるよ。よく山の中を乗せてってくれるの。志姫に会ったらビックリするかもね」
 クスリと笑うフィーとグラスを、クゥエヘリは優しく見つめる。
 鷹見は、アリオンの様子に胸を撫で下ろし、里に紹介した責任の重さから少しは開放された気がした。
 
「作り方は家(うち)の秘伝だから教えられないけどね。頑張ってくれたお礼に、これをあげるよ」
 梅の実の汁を加工したものらしい。
 ドロッとしたそれに、蜂蜜を加えて温めの白湯で割ると、これが‥‥美味い。
 じっと湯飲みを眺めて、ハッと‥‥
「そういえば潤さんはいないんでしたっけ」
 少し寂しさを感じつつも口に広がる酸味と甘味に、松浦は蕩けたような表情を浮かべている。
「ずる〜い♪」
「ほ〜ら、あんたらの分もあるから、喧嘩しないの」
 飛んでくる鈴を柄杓で阻止すると、おばさんは豪快に笑って湯飲みをコンコンと叩いた。
「で、これが頼まれてた奴だよ」
 洗ってヘタを取った梅の実に串で穴をあけ、何回も煮ては水に晒すことを繰り返し、蜂蜜で煮込んでいく‥‥
 まぁ、手間の掛かる作業をおばさんたちが人海戦術でやってくれたわけで‥‥
「本当なら、もう少し馴染ませたかったけどね」
 おばさんは梅甘露の壷をポンと叩いた。
「わぁ★ これって、美味しい★」
「ホントだね♪」
 ミュウは、初めての味に感動。フィーたち、他の者の表情を見れば、味は推して知るべし。
「甘味につけた梅の実は美味なのじゃ♪」
 父が嗜む梅酒の実を脇から頂いては叱られた想い出に、緋月につい笑顔がこぼれる。


 さて、暫日‥‥
「殿がいれば、どんなに喜んだことか」
 鷹見が残した、フィーや冒険者たちが那須領民たちと祭りを楽しむ様子が描かれた衝立を眺め、結城朝光殿は微笑んだ。