【深緑】 おでかけ女神13(3−2)
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月27日〜08月03日
リプレイ公開日:2006年08月04日
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●オープニング
下野国那須藩某所、人里離れた山の中だには、山神と敬われているエルフたちの隠れ里があるとか‥‥
さらさらさら‥‥
しとしとしと‥‥
雨音とも暫しでお別れ。
雨間の晴れは強烈で、夏の訪れはすぐそこまで来ている。
優しい笑顔のエルフの少女は、雨露の付いた黄金の髪を拭くと、木の下で、葉っぱの上に乗せた山菜の煮物や干し肉を梅干と一緒に食べている。
「梅干、美味しいね」
『私は苦手だよ』
「アリオン、好き嫌いすると大きくなれないんだよ」
冒険者たちとの、おでかけで『好き嫌いはいけません』と教えられたのを、お友達の白の一角馬にも適用しているらしいが‥‥
『フィー、私は、これ以上、大きくならないからいいんだよ』
「そうなの?」
草を食んでいたアリオンは、優しく頷く。
「やぁ、フィー」
「あ、若兄さま。身体が大きくなったら嫌いなものは食べなくていいの?」
落ち着いた雰囲気のエルフの青年がフィーの隣に座ると、彼女の優しく暖かい太陽のような笑顔が向けられた。
「好き嫌いしたり、食べ過ぎたり、食べなさ過ぎたりしたら、身体を壊してしまうかもしれないんだ。それに、ちゃんと食べないと元気が出ないぞ」
「じゃあ、アリオンもちゃんと食べないと」
苦笑いしたような微妙な表情でアリオンが若長を見つめると、若長の方も困ったような表情で微笑んでいる。
仕方ないという態度でアリオンは差し出された梅干を口に入れた。
「そうだった。フィー、『雪渓』って知ってるかい?」
「知らない」
「夏になっても溶けないで残っている雪のことを言うんだ。山の高いところには、そういう雪渓が残っているところもあるんだ。それを冒険者たちと見に行ってみるかい?」
「おでかけしていいの?」
「そうだよ」
『今回は私も同行しよう。山奥なら目立つまい?』
ぱぁっと明るい笑顔になったフィーは、アリオンの首に抱きついて、期待の眼差しで若長の方を見つめている。
「わかりました。フィーを頼みますね」
『任せておけ』
「やったぁ♪」
大喜びのフィーとアリオンに、若長は穏やかに微笑んだ。
※ ※ ※
さて‥
那須喜連川にある江戸冒険者ギルド那須支局に1人の男が顔を出した。
チラリと覗くフードの中の耳はエルフのものだ‥‥
「おや‥‥ また、おでかけの依頼ですか?」
「実は雪渓探訪に出かけることになってね。その護衛を冒険者に頼みたい」
「了解です」
こうこう、ここなんだが‥‥と説明すると、番台の職員も、その場所のことを話には聞いたことがあるようだ。
雪の精の力が強いから雪が残るのか、雪が残るから雪の精が出るのか‥‥
その辺の詳しい事情はわからないが、伝説の残る場所らしい。
曰く、心優しき者たちには危険が迫ったときに、そのことを教えてくれる‥‥とか。
「雪渓に崩落事故は付き物だからな。気をつけるように冒険者に徹底させておこう」
「頼むよ」
そんなこんなで、事情知ったる番台の職員は、依頼の受付表を書き始めた。
●リプレイ本文
●再会
冒険者ギルド那須支局に到着した冒険者たち。
黄金の髪の少女が手を振って駆けて来るのを見て、みんな足を速めている。
「やれやれ。傷は完全に塞がっていても大量に血を流した体調はすぐには回復せんか」
鷹見仁(ea0204)は疲れを感じ、無理はしないことにした。
どうせこれから数日、フィーとは一緒にいられるのだ。
「ありおんく〜ん♪ おひさしふ〜♪ フィーちゃんも元気だったかな?」
「フィーちゃんだぁー★ 久しぶりだねぇ★ 会いたかったぁ」
鈴苺華(ea8896)が真っ先にフィーたちに向かって飛び、ミュウ・クィール(eb3050)と、その愛犬・ぽちが、負けじと追う。
「お久しぶりです、深緑のお姫様」
「お姫さまなんて‥‥ 照れちゃうよ。イノンノさんの着物、可愛い」
「ありがとうございます。私も気に入っているのです」
先日以来、涼しいと、お気に入りになってしまったミニ丈浴衣でイノンノ(eb5092)が駆け寄り、笑顔で手を取り合っている。
「あ、僕も〜♪」
「あたしも★」
もみくちゃになりながら再会を喜び合っている。
「やぁ、フィー。元気そうで何よりだ」
「ジン、顔色良くないよ。大丈夫?」
「大丈夫だ。もしかしたら、昨日、御腹出して寝たからかな?」
「そうなの? 後でフィーが薬草持ってきてあげる」
そう言って、フィーは鷹見の御腹の辺りに手を当てた。
笑顔が眩しい‥‥
那須のために命を懸けるのはフィーの笑顔のためと公言して憚らない鷹見にとって、先の馬揃えでの負傷は、これで報われた気がする。
フィーに寄り添うように、硬皮で一角馬の角を象った面当てを付けた1頭の白馬が近寄ってきた。
フィーが緋月柚那(ea6601)たちと話し始めたのを見計らって鷹見が声をかける。
「よぉ、馬鹿馬、元気だったか?」
一角馬がそれに答えた。
『何だ、馬鹿侍。顔色が悪いぞ』
互いに鼻で笑い、顔を見合わせることなく、フィーの方を気にして、小さく優しい溜め息をつくと、一瞬、顔を見合わせた。
「今回は、歩くのがきつい場所ではフィーをお前の背に預ける。転んだりしたら承知しないぜ?」
『言われるまでもない。フィーを護るのは私の使命だ。あの笑顔を、ずっと見ていたい』
「同感だな」
自然に背に触れようとした鷹見に、一角馬アリオンは半歩離れた。
「そういうところは変わらんな」
「放っておけ」
優しい苦笑いが鷹見とアリオンに浮かんだ。
「あら、この仔‥‥ いえ、この方‥‥? が、噂の一角獣ですね。
時々、冒険者の方で連れている方もいらっしゃいますが、やっぱり、珍しいですね」
イノンノが自然と身体を触っているのを見て、鷹見は『こいつ』とか思いながら笑いをかみ殺している。
『宜しく、雪の乙女』
「そんな‥‥ イノンノと言います。宜しくお願いします」
イノンノは顔を赤くして慌てている。
「このすけこまし」
『何を言う。女性に優しくするのは当然のことだ』
楽しそうに笑う鷹見とアリオンを見て、イノンノは小さく笑いを漏らした。
さて、出発前に一準備。
「えっと、えっと、寒いかもなんだよね? あたし、まるごとわんこ持ってきたんだ。ぽちとお揃いなのーっ★」
ミュウは戦闘馬のくろちゃんに載せておいた着ぐるみを披露している。
「そうね。雪渓のある場所まで行くと、かなり冷えると思う。寒さ対策ができるようにしておいた方がいいわ」
「山の朝夕は冷えると言うしな。まして雪が残っているような場所ではなおさらだろう」
クゥエヘリ・ライ(ea9507)の言葉に鷹見も頷いている。
「これはフィーさんに。風邪をひいては里の人たちもグラスちゃんも悲しみますからね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
フィーの笑顔にクゥエヘリは思わず微笑み返した。
「ジンは持ってきた? これ以上、御腹冷やすと大変だよ」
「大丈夫、自分の分は用意してきたから」
「アリオン、あれを持ってきてくれる?」
『了解』
ぱかぱかとアリオンが何かを運んでくる。包みだ。
「皆に使ってもらおうと思って」
フィーが包みを解くと、そこには毛皮の肩掛けと、同じく毛皮の靴が入っていた。
「あったかそうなのじゃ」
「ホントだね★」
「僕はフィーちゃんにくっついてるから大丈夫だもん♪」
楽しそうに旅の装備を確認し始めた。
「雪渓探訪、いざゆかん♪」
緋月の掛け声に、応とみんなの声が返ってきた。にっこり笑いかける緋月にアリオンも思わず声を揃える。
さぁ、出発である!
●雪渓、絶景
喜連川で様々な用意を済ませたフィーたちは、登山を開始した。
高度が上がってくると流石に冷えてきたため、それぞれに防寒服を身に付けて進む。
「うちの祖国で、その様な場所があると聞いたこともあるような気がしますが、ジャパンにもあるのですね。
楽しみですが、グラスちゃんに見せて上げられないのが残念」
道中、クゥエヘリは、アリオンとグラスの話で盛り上がっているようだ。
「雪渓は〜♪ 真っ白い♪ 雪の精霊に会えるかな〜♪」
鈴やフィーたちは楽しそうにアリオンの背中で歌っている。
「あ♪ もしかして、あれかな〜?」
鈴が遠くを指差している。
山の緑と岩場の中に白くなっている場所がある。
「あれだよ、きっと★」
「ほら、気をつけろ」
駆け出そうとして転びそうになったミュウを鷹見が支えた。
足元などに気をつけて、その場所を目指すと、やがて、幅10mはありそうな雪の塊を見上げることができた。
緩やかに風の流れる谷間は、稜線の関係で直接、日が当たらないようだ。
柔らかい蒼と緑の光が差す中、せせらぎと残雪、そして周囲の木々が温度の上昇を防ぎ‥‥、この雪渓を残している。
「へー★ こぉんなに暑い夏でも、雪が残ってるんだぁ★ すごぉい!」
「何だか綺麗‥‥」
ミュウたちが慎重に近寄ると、雪渓は、青く、白く光を通している。
幻想的な風景に、思わず溜め息が出てしまう。
「故郷を思い出します」
イノンノは、そっと雪に触れた。
冷たさが懐かしく、心地よい。
「雪渓の下の空洞には、それ以上近付くなよ。溶けて崩れたりしたら大変だからな」
は〜いと元気な声が返ってくるが、フィーもミュウも鈴も緋月も夢中である。
イノンノも想い出に浸っているようだし‥‥
「私たちがしっかりしなくてはいけませんね」
「そうだな」
保護者2人組は顔を見合わせて微笑んだ。
『私も忘れるな』
アリオンはそう言うと、いつでも対応できそうな位置までフィーに近づきながら、周囲に気を配り始めた。
少し離れたところにあった岩棚で弁当を広げることにした。
日持ちのする物を選んで入れてもらったこともあるし、寒いところへ向けての旅行だったため、腐ってはいない。
梅酢の中に蜂蜜を入れ、烏梅を沢の水で戻し、刻んでこれに入れる。
干し肉を焼いて、醤油を少し垂らし、さっきのタレを上からかけてできあがり。
喜連川のおばちゃんが教えてくれた料理なのだが、これが美味しそうな匂いをさせて、鼻をくすぐる。
そして、緋月のクリエイトハンドで作り出した御粥に塩を一振り。これに梅干と香り付けの薬草を刻んで乗せる。
途中途中の休憩がてら作っていた御茶は、雪渓の中に水筒ごと差し込んでキンキンに冷えている。
即席ながら中々の弁当が完成した。
「美味しいね」
大自然の中で食べる料理というものは、絶品である。
さすがに、この美味しさを絵で表現するのは難しいなと鷹見は思った。
(「なんか、潤の料理が恋しくなるな‥‥ 酷い目にあったこともあったが」)
思い出し苦笑いをする鷹見をフィーが不思議そうな顔で見ている。
「フィー、ひとつ聞きたいのじゃが、若兄の名は何ていうのじゃ?」
「ふぎゅ? エリアルだよ」
口の中の物を飲み込んで、フィーは緋月の問いに答えた。
そのときである‥‥
柴犬ぽちが雪渓に向けて鳴きだし、一同は箸を止めた。
「もしかして雪の精かな? わくわくする♪ お友達になれたらいいな♪」
「柚那も友達になりたいのじゃ」
「フィーも」
盛り上がる鈴や緋月たちの目の前でキラキラと雪の結晶が光を反射した。
鷹見やクゥエヘリ、イノンノは、さり気なくフィーたちを護るように得物を抜けるようにしている。
それはやがて、雪の結晶を纏ったような男の子の姿をとった。
深刻そうな、しかし、静かな表情で男の子は近付いてくる。
「もしかして、柚那が雪渓の雪に蜂蜜をかけて食べようなどと言ったことに怒ったのかの?」
「そんなことはないと思いますよ」
イノンノは緋月の身体を支えるように、両腕に手を当てた。
「どうしたの? あなた、雪の精さん? 私、フィーって言うの」
「もう少し下がって‥‥」
近寄ろうとするフィーに男の子は首を振った。
そして更に男の子は歩を進めてくる。
「待て。フィーに任せてみよう」
アリオンが動こうとしたのを鷹見が小声で制する。
「わかった」
フィーが下がるのに合わせて、全員がその場から少し下がった。
そのときである‥‥
「あそこ!」
鈴の叫びと殆んど同時に雪渓の一部が崩落した。
どどどっ‥‥
雪崩のように流れる雪は、フィーたちの足元近くまでやってきた。
「助かったわね」
「あぁ‥‥」
クゥエヘリや鷹見は思わず息を呑んだ。
「ありがとう。雪の精さん♪」
「いや‥‥ 危なかったから‥‥」
思わず顔を伏せ、上目がちに男の子はフィーに答えた。
「照れてやがる」
『何にしろ、危険はなさそうだな』
鷹見やアリオンたち保護者は、ホッと一息。
「えっとね、えっとね、あたしの故郷では、雪の精霊さんには、こんな踊りを納めるの★ 雪の精霊さんも一緒に躍ろうよ」
「楽しそう♪」
「踊りなら負けぬのじゃ♪」
「チュプオンカミクルの舞いも忘れては困りますわ」
ミュウの手に引かれるように、フィーたちは笑顔で輪になっていく。
思わず転ぶミュウとイノンノに思わず笑いが起こった。
静かに葉を鳴らし、風が鳴る奥深い自然に、明るく暖かい笑い声が響いた‥‥